伽藍の世界 ◆mist32RAEs



物心ついた時から死体ばっかり見てきた。
神様なんかいやしねえ。奇跡なんか見たこともないからな。
ああ、殺したよ。
数なんか数えきれないくらいに、殺した。
殺した罪か……考えなくもなかったけどよ。
殺したくて殺したわけでもないさ。
じゃあ、俺たちの大事なものを奪い取った罪は一体誰が償ってくれるんだい。
有史以来、人類が嫌ってほどの先例を重ねて証明してるだろ?
どこの国でも殺人に対する処罰の法律がないところなんかない。
どこの国の歴史でも戦争がなかったところなんてない。
つまり人殺しが起こらない国なんざどこにもありゃしないんだ。
人ってのはな、誰だって人を殺せるんだ……!
特別なことじゃない、当たり前のことなんだ。
ま、もっとも俺は死神だからな、そいつが仕事だ。
恨みを買うのもその内さ、仕事に罪も何もないだろうよ。
だから戦うのは俺ひとりで十分だ。
こんな思いをするのは俺ひとりで十分だと思って戦ってきたんだ。
……そうさ。
人を殺すのも殺されるのも、当たり前のことなんだ。
こんな辛いことが世界の過去でも、未来でも、今でも、地上でも、宇宙でも、どこでだって行われているんだ。
なあ……あんたらならどうする?
イヤでイヤでたまらない事が当たり前のように繰り返される世界ってのをさ。
そこで生きるしかないっていうなら、一体どうすればいいんだ。
一生、そこから背を向けて誤魔化し続けろってのか。
それともいっそすっぱり自分だけ世界からオサラバしちまえばいいのか。
俺たち馬鹿なんだぜ、きっと。
それくらい馬鹿じゃなけりゃ兵士なんてやれやしねえよな。
俺たちは殺し続けるために生きる。
生きるために殺し続ける。
いつ殺されたっておかしくない。
だったらせめて自分の生きる道を精一杯やるしかないだろ。
例え馬鹿だと言われようがいいさ。
事実だとしても、じゃあそれすらできない世界なんて満足か?
俺は……嫌だね。




【殺人考察】――デュオ・マックスウェル


   ◇   ◇   ◇


私たちはサイドカーに乗り込み、西に向かって夜の街並みを駆けていく。
街灯の人工的な明かりの下、闇の中にぼんやり浮かぶ道路を辿って、目的地であるショッピングセンターを目指す。
私は側車に座って、ただぼんやりと前を見ていた。
やや冷えた風が頬に触れて通り抜けていく。
地面から伝わる振動と唸りをあげるエンジンの音がちょっと耳障りだった。
ふと私はこのサイドカーを運転する同行者を見やる。
栗色の髪を長く伸ばしており、それを三つ編みにするという特徴的な髪型で、腰まで届く長さのしっぽが風に吹かれて時折揺れる。
顔立ちは幼いし、背だって私より低いくらいだ。
なのに、どう見ても子供のくせに、一切慌てることなくこの車を乗りこなしている。
運転だけじゃなく銃の扱い方、やたら戦い馴れしてることもそうだ。あまりに外見と釣り合いが取れていない。

「なあデュオ」
「あー?」

エンジンの音がやかましいので、それに負けないように少し強い声で呼びかけた。
向こうも同じようにして、半ば怒鳴るように大きな声で応える。

「お前、いつのまにかルルーシュってヤツとだいぶ仲良くなったみたいじゃないか」
「ああ、それか……そういや道中で説明するっていったよな」
「そうだ。説明しろ」

違う。
私が聞きたいのはそういうことじゃないんだ。
いや、そうではあるのだけれど――なんだか混乱する。
私はこいつといるのは嫌いじゃない。
けど、こいつは多分、人殺しだ。私と同類。
人を撃つと決めたら躊躇いがないんだ。信長のときも、バーサーカーとかいう怪物のときも。

「別にたいしたことじゃないさ。敬語を使われるのもこそばゆいから止めようぜってな。まあ、明らかにあっちが年上だしよ。
 確かになんか腹に一物ありそうだけど、そんなに悪いヤツでもないと思うぜ、俺は」

こいつはそう言って笑い、また前を向いて運転に戻る。
それは何の変哲もない普通の表情だった。
昔の私は人間が嫌いで、今も苦手ではあるのだけれど、とにかくそんなどこでも見る普通の笑い顔だ。
そう――こいつは普通の人間なんだ。

「――お前、人を殺したことあるか?」

私は少し強い口調で聞いてみた。
バイクのエンジン音が相変わらずやかましい。

「……なんだよ、いきなりよ」
「私は殺人鬼だ。私は教えたぞ。だからお前も教えろ」
「どういう理屈だよ、そりゃあよ……」

デュオは前を向いたままで呆れたように呟く。
でもそれから、その横顔に張り詰めたものを漂わせた表情で、短くはっきりと言い切った。

「――俺は死神だからな」

私は、そうか――とだけ返した。
殺人鬼と死神。
なんとも似合っているのかそうでないのかよくわからない組み合わせだ。
それに、私にはこうして見る限り、こいつが人殺しだなんて思えない。
あまりに普通で、あまりにお節介で、事あるごとに泣き言ばかりで弱く見えるくせに。
でも私だってそうだ。
殺人鬼のくせにこんなに弱い。

――あいつがいないと、わたしは生きてさえいられないんだ――。


   ◇   ◇   ◇


しばらくサイドカーを走らせてたどり着いた先、ショッピングセンターの入り口は無残にも破壊されていた。
付近にバイクを止めてやってきたデュオは、呆然としたように呟く。

「……なんだよ、こりゃ」
「見りゃ分かるだろ。ここが戦場になったか、誰かが意味もなく破壊したのか、とにかくそんなとこだろ」

そっけなく言って両儀式は堂々と中へ歩みを進める。
内部は明かりがついていて、奥へと続く道に連なる華やかな店並びをくっきりと映し出している。
おいおい、無用心だろうが――と内心で呆れながらも、デュオは何も言わず彼女の後に続いた。
両儀式は、もし誰かがいたとしても並の相手に不覚をとるような女ではないのだ。
そうと知っていても、ついついお節介を焼いてしまうのは、どことなく危なっかしいところがあるからだろうか。
ガンダムによる破壊工作任務のために地球に降りた時、そこで出会った無鉄砲で無愛想な少年――ヒイロを思いだす。

「あいつも元気にやってんのかねえ……無茶さえしなきゃなぁ」

小さく呟いて、式の一歩後ろの位置につき、さらに歩みを進める。
警備用のロボットか何かだろうか。ドラム缶のような形状の機械が無残に破壊されて転がっていた。

「式、ちょっと見てくれ。こいつをどう思う?」
「さぁ……知らないな。俺がやったわけじゃないし」
「……はいはい、そうでしたね。お前に意見を聞いた俺が悪かったよ」

嫌味を込めた愚痴を言いながらチラリと彼女の顔色を伺ってみるが、全くもって平然としていた。
どうやら鉄面皮なところまでアイツに似ているらしい。
ともかく転がったままの残骸をざっと調べてみるが、これといって怪しい箇所は見当たらない。
分解するには工具が足りないし、日頃からガンダムの整備で機械いじりをこなすデュオがざっと見ても、普通のロボット以上には思えなかった。

「ま、いいか。とにかく魔法陣だっけ? そいつがあったら探して破壊するのがまず第一だな」
「ああ……そういえばさっきの処には見なかったな。地図に黄色い丸で書いてあるところにはあるはずなんじゃなかったか?」
「んー……そのはずなんだけどなぁ。俺たちが見落としてるのか?」
「遺跡は俺もざっと見ただけだからな……それはともかく象の像は俺も見たけど、見落とすようなところあったかな」

うーん、と唸って考え込んでしまう。
式が言うには、敵のアジトにはあまりにわかりやすく設置してあったが、神様に祈る場所ではそうではなかったらしい。
前者は式へのメッセージでもあったのだろう。基本的には後者――見つかりにくく設置されて然るべきということだ。
とすればこの場所の捜索にもそれなりに時間と手間が必要となる。

「ま、いいか。俺はちょっと着物の替えがないか探してくるから」
「え、ちょっと、おい、式!?」

いきなり式がそんなことを言い出してキョロキョロと店を物色しながら歩き出した。
突如、置いてきぼりにされたデュオは慌てて後を追う。

「おいおい、ちょっと待てって! 俺だけじゃ魔術がどうとかいうの見破れないだろ!」
「なんだよ……こんな広いとこ探すのに、いちいち俺の眼を使えってのか? 悪いけどすぐバテちまうよ。
 だったらルルーシュたちを呼び出して、ロボットとかいうのでここを丸ごとぶっ壊した方が早いぜ」
「む……」

そういうのもありか――と思わず感心してしまった。
確かに、せっかく回復した式をまた無駄に疲労させることは避けたい。
ないとは思うが、万が一バーサーカーのような相手と遭遇すれば、MSがない現状では彼女が頼りなのだ。

と、そうこう考えているうちに、向こうはスタスタと呉服売り場とかいうところに入っていってしまった。
どうやら式が着ている変わった服を専門で売っている店らしい。
といっても店員は当然いないので、彼女は好き勝手に色々な商品を物色している。
それを売り場の入り口から覗き見て、デュオはやれやれとため息をついた。

「さっき、変なこと聞きやがるからちょっと心配だったけど、まあ大丈夫っぽいかねぇ……」

式と出会ってからずっと行動を共にしてきたが、一番ひどい時には生きる気力をほとんど失ったような状態だった。
それから数々の修羅場を経て今はだいぶマシになっているようだが、大切な誰かが死んだというショックから簡単に立ち直れるわけがない。
その大切な人間の亡骸があったであろう場所を去った直後、デュオは柄にも無く説教じみたことを言い放った。
両儀式という女の、あんなひどいザマを見ていられなかったからだ。
それ以来、式はそいつ――コクトーというヤツについて何も話さない。
というか、あいつは自分から何かを話すということがほとんどないのだと、短い付き合いでそれなりに理解したと思っていた。
そして向こうに話す気がないなら無理強いは必要ないとも。
だが、あちらの方からデュオの事を聞いてきたのは初めてだったような気がする。
しかも極めて物騒な内容である。

「一応、仲間と認めてくれたってことでいいのか……? ……って! 式! 着替えるなら試着室行け!」

デュオは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
お眼鏡にかなった服を見つけたのか、商品棚から一着取り出した式は、あろうことかそれまで着ていた服をその場で脱ぎだしたのだ。
そして、だったらそっちが向こうに行ってればいいだろ――などとぶつくさ呟きながら、なんだかんだでこっちの言う事を聞き、試着室へ入っていった。

「………………ほんとに、何なんだろうねアイツは」

危なっかしいというか何というか。
どうして自分はこういう奴らにばかり縁があるのだろうか。
デュオは天井を仰ぎながら頭をバリバリと掻きむしった。


   ◇   ◇   ◇


どうやらそれはキモノというらしかった。
式が新しく着替えた着物は、真っ白い色をしている。
帯にうっすらと落ち葉のような模様が描かれていて、よく見れば裾の方にも落葉模様が散っていた。

「……へえ」
「……なんだよ」

思わず感心した。馬子にも衣装というのか。
いや、元から顔の造形は凄まじいほど整っている。
セイバープリシラ、ルルーシュの取り巻き連中もそうだったが、このゲームの主催者は女の趣味だけは文句のつけようがない。
そんな彼女らに殺し合いをさせようという時点で、トータルの評価は底値を割ってマントルまで掘り進む勢いだが。

「で、どうするんだこれから。何か目処はあるのか?」
「ああ……とりあえずな。このゲームには信長とかバーサーカーとかとんでもない奴らばっかりいるわけだろ」

――お前も結構なトンデモだけどな、とは思うだけで口にしない。
ふん、と素っ気なく応える式にさらに説明を続ける。

「例えばMSとか、こいつらの戦いでここが戦場になった場合、こんな建物は簡単にぶっ壊れちまう。
 そんなとこに魔法陣だっけ? それを設置して壊されたら目も当てられないだろ」
「この建物の中にはないってことか?」
「ああ……多分な。壊されて困るものなら、もっと安全なところ……例えば」

そこで言葉を切り、指で地面を指す仕草。
それを見て式は軽く眼を見開く。

気付いたか。そう――地下だ。可能性が高いのはそこ。
それで駄目なら式の提案どおりルルーシュたちにも手伝ってもらい、ここを丸ごと破壊するしかない。

「んじゃ行こうぜ。まだ何かあるか?」
「いや……行こう」

まずは地下への入口を探す。
二人は揃って歩き出す。
カツカツと床を叩く二つの足音、その他に音は無し。
カツカツ。
カツカツ、カツカツ――。

「なあ」

ショッピングセンターは地下二階までエレベーターが設置されていた。
まずはそこへ降りてから、さらに先があるか確かめるつもりだ。
そのためにエレベーターへ乗り込み、行き先階へのボタンを押した時に式が話しかけてきた。

「――ルルーシュのこと、どう思う」
「んー……なんだかんだで根は割とイイヤツなんじゃねえかな。俺はそう思うぜ、さっきも言ったけど」
「……信用してるのか?」
「んにゃ、それとこれとは別さ。まあ貴族様ってやつらしいけど……なんつーか、頭が切れすぎる。
 有能すぎるんだ。そういうファクターと、あの一見いい人みたいな人柄が一致しない」

この殺し合いの舞台において、少なくとも良い人というだけで、あれだけの武装と罠などの仕掛け、そして女子高生ばかりとはいえ一団のリーダー的存在にはなれない。
デュオはそう考えている。おそらくまだこちらに隠したままの一面を、あのルルーシュは持っているのだろう。
政庁で五飛に問い詰められたときに、僅かに見せた鋭い表情――おそらくあれが本性だ。
そのことを式に説明すると、へえ――と感心するように軽く笑って見せた。
心からの笑いではない。少なくともデュオにはそう見えない、むしろ皮肉げな笑み。
だが、それでも式がめったに見せない笑いの表情だった。

「安心したよ。これでお前ともうしばらく組んでいられそうだ」
「なんだよ、お前そこまでアイツが気にくわないのか?」
「別に。ただ、なんか企んでそうだなって思うだけさ」
「それが気にくわないってんだろ……」

ぽーん、と音が鳴ってエレベーターが地下二階を示すランプに明かりをつける。
唸るような重い音を立ててドアが開いた。
その向こうに続く景色は、打ちっぱなしのコンクリートでできた壁に囲まれた真っ直ぐな通路だ。
客を迎えるための華やかな飾りはなく、スタッフが行き来する機能だけを備えた無機質な地下道。
蛍光灯の人工的な明かりが照らす道の様子はどこか不気味で、デュオに最初の一歩を進めることを躊躇わせた。

「――行くか」

そう言って式が一歩を踏み出す。
デュオはいつの間にか口内に溜まっていた唾をゴクリと飲み込んで、式の後に続いた。


   ◇   ◇   ◇


目の前に妖しい輝きを放つ魔法陣がある。

「……どうする、デュオ」
「うーん……どうするったってなあ」

ここまでくれば、やることは決まっている――のだが。
デュオと式の二人組はそのすぐ前に立ち尽くし、次の行動を決めかねていた。
結果として魔法陣を見つけることには成功した。
地下二階にいくつかあるスタッフ用の倉庫の隅に、隠れるようにして配置されたドアがあり、そこからさらに下へ続く螺旋階段が見つかったのだ。
延々と下って、どれほど降りたかは分からない。
そこは不吉な雰囲気に包まれた薄暗い空間で、ひたすらぐるぐると螺旋状の階段を降りては距離感を失うのも仕方ないだろう。
そしてその行き止まりに、目当てのものをついに見つけたというわけだ。

「なんつーか……確かに隠されてはいるんだけど、絶対に見つけて欲しくないって隠し方でもないよな」

デュオはこの魔法陣の隠し方に疑問を抱かざるを得なかった。
これがこの殺し合いの舞台について何らかの重要な役割を果たしているというなら、主催側にとっては絶対に見つからないように隠すべきものであるはずだ。
それこそ魔法陣を設置した空間の入り口をコンクリートで塗り固めて、誰も入れないようにするくらいはしてもおかしくない。
だがこれはどちらかというと「隠してあるから見つけてみろ」といった風情だ。
敵のアジトではあからさまだったし、神様に祈る場所でも式がすぐに見つけて破壊した。
さらに疑問に思ったことはもう一つ。
デュオたちが今まで破壊してきた魔法陣はここを含めればこれで三つとなる。
地図上に施設として記された印の数は全部で24であり、そのうちの八分の一にあたる数だ。
いくらなんでもそろそろ主催側から警告なり妨害なりが入るのではないか。
それとも――、

「ルルーシュが言ってたんだけどよ……首輪を外すのもゲームのうちじゃないかってな。
 もしそうだとすると、こいつをどうにかするのもやっぱりこの殺し合いゲームの内に含まれてるんじゃねーかなぁ」
「ふーん……だとしたら、これを壊しても奴らの邪魔は入らないってことだろ」
「……かもなぁ」
「俺はどっちでもいい。お前が決めろ」

そう言われると悩む。
命令を受けて死地に飛び込む兵士の役割は慣れっこだが、こういった決断を迫られる立場は困る。
ましてやデュオ自身だけでなく、式の命も背負い込むことになるかもしれないのだ。
だが、いつまでもここに突っ立っているだけで状況が好転するわけはない。
二つ壊して何も起こらないのだから三つでも同じだろう、と半ば自棄気味に腹を決めた。

「ああ……しゃーねぇ。式、やってくれ」
「わかった」

そうと決まれば式に迷いは無かった。
歩を進めて魔法陣の眼前に立ち、躊躇いなど一切無く魔術殺しの短剣――ルールブレイカーを突き立てた。
カツン、と硬い音が薄暗い空間に響き渡る。
床の上でうっすらと輝いていた紋様は、音もなく消え去った。
しばらくこのまま待ってみる。

「……」
「……」

薄気味悪い空間に沈黙が満ちた。
さらに待ってみる。

「……」
「……」
「……」
「……何も起こらないな」

面白くもなさそうに呟いた式の声が暗闇に吸い込まれていく。
それを受けてデュオは軽く嘆息した。

「ま……とりあえず戻ろうぜ。ついでにここの自販機と吊り橋も調べておきたいしな」
「……ああ」


   ◇   ◇   ◇


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ミネラルウォーター:120ペリカ
拳銃 (エンフィールドNo.2):1000万ペリカ
散弾銃(モスバーグ M590):2000万ペリカ
バイク(V- MAX):3000万ペリカ
タコス移動販売車(片岡優希仕様):4000万ペリカ
ヘリコプター(燃料極小) :1億ペリカ
蒼崎橙子作の義手(右):一億ペリカ
蒼崎橙子作の義手(左):一億ペリカ
蒼崎橙子作の義足(右):二億ペリカ
蒼崎橙子作の義足(左):二億ペリカ
蒼崎橙子作の内臓:一億五千ペリカ

※時間経過で商品は増えていきます。
※各地の販売機によって、商品は多少変更されます。
※機動兵器各種に武装はついておりません。別売りでお求めください。
※当施設には独自のサービスがあります。
 お買い上げ頂いた義肢などの取り付けを無料で行わせていただくサービスです。御気軽にご利用ください。
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「……なんだこりゃ」

ショッピングセンターに備え付けられた自販機の品揃えをチェックしてみたデュオの第一声がこれであった。
ウインドウに表示された商品の説明を読んでも、はっきり行ってワケがわからない。
が、式にとってはそうでもないようだった。

「へえ……こんなのまで揃えてるのか」

感心したように呟く式。
デュオはそれを聞いて反射的に浮かんだ疑問を口にする。

「知ってるのかよ、式」
「知ってるも何も、俺の左手はこの義手だよ」

式は言いながら、一見して生身としか思えない左手をひらひらと振ってみせる。
さらにじっくり見ても、やはり義手には見えない。
こいつが言うには、トウコというのは式の知り合い。腕利きの人形師で、本物そっくりの義肢を作れる魔術師だということだ。
まあ、つまり帝愛曰く「金で魔法を買った」、その一例だということだ。

「デュオ。お前、セイバーの首輪を換金してたよな」
「あ、ああ」

象の像で二手に分かれて出発する前に、換金率二倍の自販機でセイバーの首輪をすでにペリカへ変えてある。
思えばセイバーとは短い付き合いだったが、それなりに色々あったりもした。
そんな彼女の遺品とも言える代物を金に変えるのに、多少の抵抗がなかったといえば嘘になる。

だがルルーシュによる説得もあり、デュオは渋々ではあるが換金に納得したのだ。
主催側である荒耶宗蓮の首輪を換金してしまうのは、なんらかの貴重な手がかりを分析するチャンスを潰してしまうかもしれない。
主催側ならではの独自のギミックが隠されているかもしれないからだ。
そして換金率二倍のボーナスを最大限に活かすには、換金する首輪の価値が高値であればあるほどよい。
セイバー程のものなら、うまくいけばバーサーカーのそれに匹敵するペリカを得られるかもしれず、引いては高性能な機動兵器を購入してさらなる戦力の充実が図れる。
――以上がルルーシュの言い分である。
デュオもそれは一々もっともであると認めざるを得なかった。
結果として得られたペリカは莫大であった。
二億五千万が二倍で、なんと合計五億。現在、それをデュオが所持している。

「ルルーシュの奴、確か片手が折れてたよな。義手にしてやれば喜ぶんじゃないか?」
「嫌がらせだろ、それ……」

冗談か本気かわからない式の一言。
骨折しただけで、いきなり自分の腕を得体の知れないモノに交換されてはたまらない。
とはいえ、この殺し合いで骨折以上のダメージを受ければ、回復の見込みはほとんど絶望的だ。
それを覆す方法がこの義肢を移植すること――式の言を信じれば、本物の腕以上の性能ということらしい――ならば、確かに有用ではあるだろう。

「しっかし、移植ってどうやるんだよ。そのトウコとかいう奴がひょっこり出てきてやってくれるってのか?」
「嫌なやつだけど、こういった殺し合いに協力する奴じゃない……いや、わからないな……」
「おいおい……」

トウコというのは一体どんな奴だ。
心のなかで突っ込んでおいて、ひとまず思考を次に向かって切り替える。

「ま、いいや。ラインナップは確認できたし、そろそろ行こうぜ」
「わかった」

やるべきことは未だに山積している。
このゲームの疑問点はそれこそ数え上げればキリがない。
だからこそ、こういう時は実際に動くしかないのだ。
足で稼いだ事実の収集こそが、未だ五里霧中のその先にある真実へ辿り着く手段と信じて。


   ◇   ◇   ◇


夜空に大きな銀色の月が浮かんでいる。
デュオの住んでいた宇宙コロニーからではまず見られない光景だった。
冴え冴えとした月光が海を照らし、さざ波に合わせて海面が煌めく様を、式と二人で眺めていた。
ここはショッピングセンターを出たところから北の方角にやや離れた海岸。
施設の魔法陣を破壊し、式とデュオの二人はそこから出て吊り橋もついでに調べようとしたところで時間となった。
この殺戮遊戯開始からちょうど24時間が過ぎるまであと少し。そろそろ四回目の放送だ。
吊り橋が見える海岸線にサイドカーを止め、放送が終わるまで小休止することにした。
ルルーシュへの連絡はそれが終わってからでいいだろう、とデュオは判断し、式もそれについて特に意見はなかった。
あちらからも連絡がないということは、今のところ特に緊急を要する事態にはなっていないのだろう。
支給品の飲料水に口をつけながら、デュオは再び月を見上げた。
煌々と輝く銀の真円が深いブルーの夜闇に浮かび、まるで白金の宝珠のようだ。
海から響いてくる波の音は穏やかで、不思議と心が静まっていく感覚があった。

「……なあ、デュオ」
「ん?」

横から呼びかける声に応えてそちらを向くと、先程ショッピングセンターから持ち出してきたらしいアイスを食べる式の姿があった。
今までが今までなだけに、向こうから話しかけてくるというのは珍しい。

「お前、ずっと月を見てるな。好きなのか?」
「ああ……俺はコロニーっていう――宇宙に住んでたからな。地上から見上げる月ってのは、こんな時でもなかなか珍しくてさ」
「へえ……」
「お前こそ珍しいよな、そういう他愛もないことで話しかけてくるのって」

デュオは何の気なしに思ったことを口に出しただけだった。
だが式にとっては、その指摘は意外であったらしい。
びっくりしたような顔で、それからあらぬ方向にそっぽを向きながら、ぼそぼそと何事か呟いた。
そうかな――とか、うん――とか、言葉にならない単語を二つ三つ口にして、それから完全に黙ってしまう。
なんとなく居心地が悪い沈黙の時間が続いた。

「なあ、なんかあったのか?」

思い切ってデュオから式に聞いてみた。
だがそれに対する返事は何とも煮え切らないものだった。

「別に……いや……やっぱりいい」
「なんだよそれ」

気にはなる。
だが向こうが言いたくないのならば無理強いする必要もないと、ひとまずこれ以上は追求しないでおくことにする。

「んー、まあ言いたくなったら言えばいいけどよ。俺もいつまで生きてられるかわかんないから、できれば早めにな」
「お前……」
「このまま脱出できなきゃ最後の独りになるまで殺し合いだ。五飛だって目の前で死んじまった……俺だけ無い、とは言えないさ。
 あー…………ほんとに地上から見る月は綺麗だな」

見あげれば、変わらず月は銀色の光を静かに降り注ぎ続けている。
陽光よりも遥かに弱々しいそれといえども、闇を切り裂くには充分すぎた。
空を、土を、海を、風を、夜を、そして二人を、月光は静かに照らし続ける。

「コロニーじゃ月がはっきり見えすぎて、まるで墓場みたいだった……」

そんなことを懐かしむように呟いた少年の声は、やがて静かな暗闇へと溶けていく。
傍らの少女はただ黙って、少年が見る月を、同じように見上げた。




「――俺たちはいつまでこの月を見てられるかな」




   ◇   ◇   ◇


『人は、一生に必ず一度は人を殺す』

――そう、なの?

『そうだよ。自分自身を最後に死なせるために、私たちには一度だけ、その権利があるんだ』

――じぶんの、ため?

『そうとも。人はね、一人分しか人生の価値を受け持てないんだ。
 だからみんな、最後まで辿り着けなかった人生を許してあげられるように、死を尊ぶんだ。
 命はみんな等価値だからね。自分の命だからって自分の物ではないんだよ』

――じゃあ、おじいちゃんは?

『おじいちゃんはだめかな。もう何人も殺してしまった。殺してしまった彼らの死を受け持っているから、自分の死は受け持てない。
 おじいちゃんの死は、誰にも受け持ってもらえないまま、空っぽのところに行く。それはとても淋しいことだ』

――いちどしか、だめなの?

『ああ。人を殺せるのは一度だけだ。そこから先はもう意味のない事になる。たった一度きりの死は大切なものなんだ。
 誰かを殺してそれを使い切った者は、永遠に、自分を殺してあげることが出来ない。人間として死ねないんだ』

……おじいちゃん、苦しそうだよ?

『うん、これでおわかれだ。さよならシキ。せめてキミが穏やかな死を迎えられればいいんだが』

……おじい、ちゃん?
ねえ、おじいちゃん、どうしたの? どうしてそんなに、淋しそうな顔をして死んでるの? ねえ、おじいちゃんってば――。


もしここで私が誰かを殺したとしたら――私には穏やかな死ってやつは、もう無理なのだろうか。
私の死も、もう誰にも受け持ってもらえないまま、いつか空っぽのところへ行くのだろうか。
秋山澪ってやつと約束した――殺そうとしてくる奴を殺す。
けど、それは、ここでは殺戮者に限った話じゃない。
ここでは誰もが殺人を強制されている。
そんな中でどうしようもなくなって殺してしまった――秋山自身のような奴だって他にいるだろう。
そういう奴を殺せということは、自分自身と同じ奴を殺せということだと気付いているだろうか。
秋山の大切な何かはもうなくなって、空っぽになってしまった何かに縋っている。
この殺し合いに勝ち残って、そして何かの奇跡が起こって、その何かを取り戻せたとしても、ソレは秋山の望む形をしているのだろうか。
例えソレが全く同じ形で戻ってきたとしても、殺したことで変わってしまった秋山は、そこに元通りに居られるのだろうか。
秋山――お前はそれに気付いているか?
……そこまで考えて、でも自分も言えた義理ではないと気付く。
私も、もうとっくに空っぽなんだから。
あいつは――私の心のがらんどうを埋めてくれた黒桐幹也は、もういなくなってしまった。
埋まったと思った隙間は、またぽっかりと空いたまま。
それでも私は死ねないんだな。
もう私は自分を殺してやることなんかできない。
きっとあいつもそれを許さない。
私は空っぽ――がらんどうの魂。
なのにあいつの言葉だけが、私をまるで呪いみたいに縛り付ける。
だから私は心が支えられないくらいに虚ろで、だけど何処にも行けやしない。
それでも耐えられるように、私はずっと独りでいたのに。
なのに――私は知ってしまった。
耐えられないんだ。
なあ、デュオ。
お前が私と同じ人殺しだとしたら、誰かの温もりを知っても誰かを殺せるっていうなら、お前はこんな淋しさを抱えてどうやって生きているっていうんだ。


ああ。


なんて、淋しい。


なんて、無様。


……ほんと、莫迦みたいだ。




【伽藍の洞】――両儀式




【E-1/海辺/一日目/真夜中(放送直前)】

【デュオ・マックスウェル@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康
[服装]:牧師のような黒ずくめの服
[装備]:フェイファー・ツェリザカ(弾数5/5)@現実、15.24mm専用予備弾×60@現実
    COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(1/1/)発/予備40・9発)@現実
    BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[道具]:基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、五億ペリカ
    首輪×4(荒耶宗蓮・兵藤和尊・田井中律竹井久)、手榴弾@現実×10
    桜舞@戦国BASARA(一本のみ)、
    ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(4/6)@ガン×ソード、莫耶@Fate/stay night、干将@Fate/stay night
    ヒートショーテル@新機動戦記ガンダムW、特上寿司×3人前@現実、ジャンケンカード×3(グーチョキパー各1)
[機動兵器]:OZ-06MS リーオー
      ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
[思考]
基本:五飛の分も込めて、ガンダムパイロットとして主催を潰す。
0:放送後にルルーシュへ連絡、そのあと式と吊り橋を調査する。終わったらルルーシュと再合流。
1:遺跡や象の像に魔法陣はないのか?
2:リーオーを乗りこなす。憂と澪への機動兵器での訓練を行う。
3:ルルーシュはあまり信用できない。『消える女(桃子)』にも警戒。
4:デスサイズはどこかにないものか。いやこんなリアル鎌じゃなくて、モビルスーツの方な
  そういえばあの女(桃子)ビームサイズ持ってたな……。
5:首輪を外すのも魔法陣破壊もゲームの内か……首輪の解析について、色々実験してみる。荒耶の首輪はじっくり慎重に調べる。
6:五飛の死に対する小さな疑問。
[備考]
※参戦時期は月面基地脱出以降。ゼクスのことはOZの将校だと認識している。正確にどの時期かは後の書き手さんにお任せします。
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました。
※以下の情報を式から聞きました。
 ・荒耶が殺し合いの根幹に関わっている可能性が高い。
 ・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用があるかもしれない。
 ・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてあるかもしれない。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
※リーオーはホバーベース格納庫に置いてあります。


【両儀式@空の境界】
[状態]:ダメージ(小)
[服装]:白い和服(原作第五章・荒耶との戦いで着たもの)
[装備]:九字兼定@空の境界
[道具]:基本支給品一式(水1本消費)、首輪、ランダム支給品0~1 、ルールブレイカー@Fate/stay night 、武田軍の馬@戦国BASARA
    陸奥守吉行@現実、鬼神丸国重@現実
[思考]
基本:私は死ねない。
1:当面はこのグループと行動。でもルルーシュは気にくわない。
2:澪との約束は守る。殺そうとしてくるヤツを……殺す?
3:刀を誰かに渡すんだっけ?もったいないな……。
4:浅上藤乃……殺し合いに乗ったのか。
5:荒耶がこの殺し合いに関わっているかもしれないとほぼ確信。荒耶が施したと思われる会場の結界を壊す。
6:荒耶が死んだことに疑問。
7:首輪は出来るなら外したい。
[補足]
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました
※以下の仮説を立てています。
 ・荒耶が殺し合いの根幹に関わっていて、会場にあらゆる魔術を施している。
 ・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用がある。
 ・上の二つがあまりに自分に気付かせんとされていたこと自体に対しても疑念を抱いている。
 ・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてある。または魔眼の効果を弱める細工がある。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
平沢唯から聞いた信頼できる人間に刀を渡すというプランを憶えています(引き継ぐかは不明)


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256:“腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅(後編) デュオ・マックスウェル 277:仮面
256:“腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅(後編) 両儀式 277:仮面


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最終更新:2010年08月12日 21:56