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夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 上- ◆ANI3oprwOY



これから語られるのは、物語の裏で密やかに進んでいた挿話。

舞台は、『死に接触して快楽する存在不適合者』と呼ばれた少女が惨劇を起こした地。

始まりは、大地が崩落し、紅蓮が上がる。
征天魔王が暴威を振るい、根源を目指す魔術師が因縁の悲願を砕かれ砂に散っていく、その最中―――



   ◇  ◇  ◆  ◇  ◇



三階の教室で、彼は独り、左腕を失くした身体を教室の後ろの壁に預け、窓の外を眺めていた。
人影は無い。敵のものも、味方のものも。

視線を壁に掛けられた時計へと移す。
時計の針は、ちょうど五時をさしていた。

五回目の放送まであと一時間。グラハム達が姿を見せる気配は未だ無い。
合流できなかった時のことを、彼は冷静に考える。

ルルーシュに敵意を持つ暦を放置するわけにはいかず、衣を見捨てることを暦が認めないことは容易に想像できる。
となれば、一人で暦と衣というお荷物を連れてルルーシュとの合流を目指さなければならないだろう。
そのためには、何が必要か―――

彼は時計から視線を外し、そばにある机を足で乱雑にどかしてスペースを作ると
肩にかけていたデイパックを床へ落とした。
そばにいた三匹の猫たちが音に驚いて教室の隅へと逃げたことを気に留めることもなく、彼はデイパックの口を開ける。

そして僅かに。
たとえここに誰かがいたとしても気づかれないくらい、本当に僅かに。
彼の表情が歪む。
だがそれは刹那のこと。
次の瞬間にはその歪みを――表情そのものを消し去って。
彼はデイパックの中から毛布に包まれた物を引き摺り出した。
毛布を捲って現れるのは、二度と目を開かない桃色の髪の少女。

「…………」

そっと、少女の頬に触れる。
生きている人間の温もりは無い。
死体の感触があるだけだ。
何の感慨も湧かない。湧くはずがないのだ、と彼は思う。決めつける。

現時点で、自分の義手の購入に必要なペリカは手元に無い。
それ以外にもこの先、販売機から道具を入手することが必要になる場面があるかもしれない。
販売機から道具を入手するためにはペリカが必要になり、ペリカを手に入れる方法は首輪を換金することだけ。
首輪を手に入れるには死体の首を切り落とさねばならず、
死体の首を切断するだけの時間の余裕はいつでも確保できるわけではない。

だから今ここでユーフェミアの首を斬り、彼女の首輪を入手しておく。

これが、彼の出した結論だった。
右手をデイパックに突っ込んで鉈を取り出し、刃を彼女の首筋に当てる。

「―――っ」

血が滲み出る。
皮膚が薄く裂けただけだ。首の切断には程遠い。

「……ぁ……っ…………」

教室に、彼の呼吸する音だけが響く。
明らかに乱れ、時として止まる音。

息の仕方が、わからなかった。
上手く呼吸ができず、だが彼は、それを苦痛とは感じない。

首を切断することにだけ意識を向ける。
しかし彼の右手は、彼女の皮膚を僅かに傷つけたきり、動かない。

迷いなど、無いはずなのに。

「…は、……っ……っ…………」

もう、要らなかった。
躊躇っているという事実が、要らなかった。

「……はっ、ははっ…………」

彼は嗤う。
死体の首を斬ることさえできない自分を。

そして思う。

"枢木スザク"が殺せなかった真田幸村は死んだ。
"枢木スザク"が生きろと命じたレイ・ラングレンは死んだ。
"枢木スザク"が会いたいと願ったユーフェミア・リ・ブリタニアは死んだ。

だからもう、"枢木スザク"も死んでよかった。

いや、違う。

死んでもいいんじゃない。
死ななければならない。
遅いくらいだ。
ルルーシュを殺し、ゼロになる時じゃない。
ナイトオブゼロになることを決めた時点で、"枢木スザク"は消えるべきだった。

彼女の笑顔の記憶も、彼女の温もりの記憶も、もう要らない。
「生きて」と願われた。
それだけを覚えていれば、十分だ。

「…………」

乱れていた呼吸が、一気に落ち着く。

彼女への想いは、"枢木スザク"と一緒に、ここに置いて行く。
この身体は、ゼロレクイエムを遂行し、ゼロとなるためだけにあればいい。

全身が冷えていくような感覚を味わいながら、彼は"枢木スザク"を殺す。



――――鉈を握る手に、力を込めた。



                  ◇
               ◇
            ◇
         ◇
      ◇

          夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 上-

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                                ◇
                             ◇
                          ◇




部屋の中は静寂でいっぱいになっている。
保健室には僕、阿良々木暦と、チーズくんというキャラクターのぬいぐるみを抱いて眠る天江の二人だけ。
この学校という施設にはもう一人、枢木が居るが、校舎内を見回ってくると言って出ていったきり、まだ戻らない。
息を吐き、僕は壁に掛かった時計を見上げた。

「……五時ちょっと、か」

放送はいずれ必ず聞こえるし、グラハムさんは、ここに彼女がいる限り必ず帰ってくる。
式と白井をつれて帰ってくるはずだ。
たとえその帰還が、どのような形になろうとも。

「……っ」

嫌な想像を振り払うようにかぶりをふる。
ここで待つことしかできない僕が考えたって、どうしようもないことなのだ。
言い聞かせるようにして、ベッドの上で眠る少女の寝顔を見つめた。
天江の顔色は酷く悪い。失血と頭のケガ、蓄積された疲労のせいだろう。

「ったく、頑張りすぎなんだよ」

呆れも半分に、見下ろす寝顔に言った。
そして僕は、傍に置いていたデイパックを引き寄せる。
道具の確認をするためだ。

今の僕の役割は、天江の看病。そして、いざという時に、天江を守ること。
優先すべきは戦闘での勝利ではなく、僕たちの生存。
となれば、必要なのは武器よりも、逃走のための道具だ。

何か無いかと、デイパックの中を漁る。
いくらでも物が入るのをいいことに、よく考えもせず何もかもを詰め込んだ僕のデイパックの中はぐちゃぐちゃだ。
とりあえず、すぐに使えるようにとマウンテンバイクを取り出す。
枢木から聞いたサーシェスって人ならともかく、人間かどうかも疑わしい、というかおそらく人間じゃない
一方通行や織田信長から自転車で逃げられるとは思えないけど、まあ、一応。

他に何か……そう思いながら荷物を掻き分けていた手が、ギターに触れた。
たしか、ぎー太とかいう名前だったと思う。
とある少女の面影が浮かび、僕はギターを引っぱり出した。

――平沢憂。

僕を殺すと言った少女。
蟹に行き当たった、重い(思い)のない少女。

彼女もまだ、生きている。

彼女は少なくとも、二人の人間の命を奪った。
そしてそれは、間違いなく僕も責任を負わなければならないことなのだ。

グラハムさん達と合流できれば、次に僕等が目指すのはルルーシュだ。
そこにはきっと、平沢もいる。

僕に会ったら、平沢はどうするのだろうか。

平沢に会ったら、僕はどうするのだろうか。

僕は何故、未だにこのギターを持ち続けているのだろうか―――


ぬいぐるみを抱えて眠る少女の傍らで、答えの出ない自問自答を繰り返す男子高校生がそこにはいた。
ていうか、僕だった。



   ◇  ◇  ◆  ◇  ◇



  意識は此処に在り、身体は無い。
  これは泡沫の夢か。黄泉路へ逝く者が見つめる景況か。
  真っ赤に染まった水面の上に、衣は今、立っている。

  どれほど大切に思っていても、どれほど側にいて欲しいと願っても、 人は容易く黄壌に去っていく。

  ……そのようなこと、衣は此の冥府へと堕とされる前より知悉していた。
  父君も母君もそうだったように。
  衣を置いて、皆寂滅するのではないかと、そう恐れていた。
  ――智見していた、つもりだったのだ。

  いつからだろう。
  衣は甘受していた筈の重荷を捨てていた。
  あまりにも日々が幸福だったから。
  与えられた幸せが、甘美で有り過ぎて。
  遺却してしまったのだ……そのような、章々たることを。
  衣が清福を得ようなど、成就することのない冀望だったというのに。


  衣のせいで、色々な人に煩労をさせた。
  恩義には深く感謝しているが、何一つ返すことが出来なかった。
  返すことのないままに、天津国へと下ってしまった。
  ……済まない。
  深い後悔と――諦念。
  きっと、そう遠くもないうちに衣もそちらへと参るだろう。
  ……そのときは、思う存分に怨嗟を聞かせて欲しい。
  同じところに行くことが、衣に許されるというのなら。

  …………。
  そんな悟ったような気持ちは。
  咬み殺すような横暴は。
  避け得ぬ現実の前にはあまりにも、無力だった。
  心安らかに、諦めて、運命を享受しようなど、なんと思い上がった考えだったのだろう。
  燃え上がる言葉はただひとつ。

  「死にたくない」

  なぜ。
  涙が。涙が。涙が。
  止まらない。
  死ぬのだ。
  避けられないのだ。
  もはやそれは、どうすることも、できない。
  未来は、覆ることはない。
  なぜ。
  叫びだしたくなる心を抑える。
  震える身体を抱きしめる。
  あんまりだ。
  首に手をやる。
  硬くて冷たい拘束具に、触れる。
  確かな手触りが、衣の生命を雁字搦めにしていた。
  息が止まりそうなほどに、胸が苦しい。

  ――なぜ、なぜ、衣が死ななければならないのだろう。
  衣はそれほどに悪い子だっただろうか。
  誰かに泣きつくことすら許されはしない。
  衣は何も、何一つ分かっていなかった。
  死ぬのはこんなにも怖い。
  目の前に迫るまで分かっていなかった。
  死ぬということがどういう事なのか。

  それは何よりも、怖い。

  目の前で人が死んだ時よりも。
  命がけで戦った時よりも。
  大切な人を失った時よりも。
  ――そんなものは、比ではないほどの恐怖。
  心臓を鷲掴みにされているような――そんな比喩ですらまだ軽い。
  どうして――こんな目に、衣が。
  否定できるのならば全てを否定してしまいたい。


  ……全てを?


  嗚呼。
  衣にはそれもできない。
  この地で衣には友ができた。
  衣はたしかに、笑っていたのだ。


  死はこれほどまでに恐ろしいのに、衣には死よりもなお恐ろしいものがある。
  己の命よりも失えない物が、衣にはあるのだ。

  だから。

  衣は、何かを返したい。

  今までの衣は、享受するばかりだった。
  ずっとずっと。
  どこだって、いつだって、誰からも。
  だから。

  受け取ったものと同じだけは無理でもせめて、何かを返したい。
  共に戦いたい。


  衣は死するその瞬間まで、友と、大切な人と、一緒に――――いきたい。



   ◇  ◇  ◆  ◇  ◇



「お、起きたか天江」

いつの間にか目を開けていた天江に気づいて、僕は慌ててギターをデイパックに仕舞い込む。

「……ありゃりゃぎ……?」

天江は僕を認識すると、ゆっくりと起き上がり、立ち上がる。
顔色はいいとは言えないけれど、さっきまでに比べれば幾分ましになっている。意識もはっきりしてるみたいだ。

「ここは大丈夫だからさ、もう少し寝ててもいいぞ?」
「いや、それには及ばない。……衣はみんなに迷惑をかけてしまったのだな」
「気にするなよ、友達ってのは助けあってのものだろう」

僕が何気なく言った言葉に、天江が僅かに笑みを浮かべる。
だけどその笑顔は、すぐに消えてしまった。

「阿良々々木……今、何時だ?」
「六時、もうすぐ放送だけど……らが一個多いぞ」

今度は僕の言葉にうなだれる天江に、僕はどうすればいいのかわからない。
もしも、グラハムさんだったら………

その時、窓の外で音がした。
走りだそうとした天江がふらついて倒れそうになったところを支え、ここで待っていようと声をかける。
素直に頷いた天江は、ドアが開かれた瞬間、僕の腕から離れていた。

「グラハム………ッ!」

「……ただいま帰還したぞ、天江衣」

天江がグラハムさんの胸に飛び込み、グラハムさんは天江をしっかりと受け止める。
天江の頭を撫でる、それだけの仕草にも、グラハムさんの優しさが込められている。

両儀と白井はどうしたのか。
信長はどうなったのか。
聞きたいことはあったけれど、グラハムさんの様子を見る限り、早急にここを離れなければならないという状況ではないらしいと
判断した僕は、トイレに行ってきますとだけ言って保健室の外に出た。

僕は、二人の邪魔をするほど野暮ではない。
グラハムさんと天江じゃ、あんなことやこんなことをする展開にはならないだろうから、五分くらい席を外せば十分だろう。

部屋を出る言い訳だったけれど、本当にトイレに行こう。
……場所はわからないけれど。
けどまあ、学校のトイレというのはだいたい、その階の真ん中か端っこかのどちらかだろう。
少なくとも、この階を端から端まで歩けばみつかるはずだ。
そんないい加減な当たりをつけて、廊下を歩き、角を曲がり、もう一度角を曲がる。
そこで僕は、酷く現実感に乏しい光景を目の当たりにした。


「……き」

言葉につまる。
目の前に在るものが危険か、いや現実かそうでないかを断じられない。

「ふむ」

だけど僕の立場、いや僕達の立場から見れば、目前のものはあまりに剣呑だったのだ。

「最初に出会ったのは貴方ですか」

その、妙に重厚な声。
目前に立つ二人の男女。
慇懃に話しかけてきた、首輪の無い、初対面の男は勿論のこと。

「お前……!?」

その男の隣で、無機質な視線を向けてくるあいつは忘れもしない。
インデックスと名乗った。あの少女。
主催者が、目の前にいる。
正直言って、一介の男子高校生にすぎない僕の頭では処理仕切れないくらい、唐突過ぎる展開だった。

「お前ら、なんだ? 主催者連中が……いったい何の用だ?」

じり、と。
一歩を引きながら険悪を隠さず言い放つ。
実際にこの目で見ているのだからこれは現実だろうし、そして経験上、こいつらが出張ってきた時にはロクなことにならない。

そもそもこいつら、いったいいつ、どうやって入ってきたんだ。
というか、枢木は何をやってるんだ。
枢木一人でこの学校全体をカバーできないことくらいわかっているけれど、それでも思わずにいられない。
この状況、僕一人でなんとかしろって、それは無理だろ……

「申し遅れました。私の名はディートハルト・リート。
 こちらの少女は……今さら説明の必要はありませんね」

やはり慇懃に名乗る男を見ても、僕の警戒心は緩まない。
むしろ強まるばかりだった。
男だけが一歩、こちらに進み出てくる。

「阿良々木暦」

僕も同時に一歩引きかけて、踏みとどまった。
自覚しろ。
いま僕は、対応を迫られている。
きっと、間違えてはならない選択肢が目の前に在るのだ。

「く、そっ」

何を考えてるかは知らないが、「何か」をさせるわけにはいかない。
こうなったら先手必勝か、と。
攻勢を即断し。
決めた僕が引きそうになった足を戻し一歩、前に出た。

「単刀直入に言う」

その時、だった。
男の行為と言葉によって、僕は出鼻を挫かれることになる。

「ここに我々は――」
「へ?」

なぜならそれは、深く低く、瞬く間もない速度の、

「君たちへの亡命を申し込む……!」

土下座だった。

この僕をして、見惚れてしまいそうなくらい、見事な土下座だった。
ビジネスとか、キャリアとか、ハードな世界を生き抜いてきた貫禄を放つ。
King of DOGEZAを名乗るに相応しい土下座だった。
とか、そんな事は心の底からどうでもよくて。

「は、はぁ!?」

すっとんきょうな声を上げてしまった僕に、ディートハルトと名乗った男は畳み掛けてくる。

「我々の立場を思えば、君たちにこんなことを言うのはあまりに恥知らず……!
 承知している。だが君たちしか頼める者はいないのだ!
 どうか我々を助けてほしい。代わりに我々は、君たちを全力で支援しよう!」
「い、いや、ちょ、ちょっと待てよ、おい!」

突然の申し出に、僕は怒っていいのか、喜べばいいのかも分からずに、ただ困惑した。
事のベクトルは変わったが、なんにせよ僕一人で対応しにくいのは変わらない。
こいつはいったいなんなんだ?

「頼む……頼む!!」
「いや、だから、ああもう!」

何の答えも結論も見出せないまま、ただただ困惑する男子高校生がそこにはいた。
ていうか、それも僕だった。



   ◇  ◇  ◆  ◇  ◇



黒いスーツを着た男、
ディートハルト・リートは突き刺さる視線を受けとめながら、重たい声で本題を切り出した。


「交渉材料は二つ」


この場に立つ三者の視線、それぞれ微妙に異なる険悪がある。


「まず、我々が所持する物資。全て無償で譲渡します」


憤怒、
不快、
不信、
三様の刺がディートハルトに突き刺さる。


「次に情報。私の知る限りのすべてを話しましょう」


阿良々木暦、枢木スザク、そして激戦から帰ったばかりのグラハム・エーカー。
未だ枷に囚われし者達の憤怒を込めた、眼光。


「後は、あなた方の心情面。我々を受け容れられるか、それ一つだ」


それに焼かれることを、恐れぬように。


「――さあ、答えを聞かせて頂きたい」


神の域から逃れ降りた男は、地で留まる者達へと、選択を委ねていた。



   ◇  ◇  ◆  ◇  ◇



「さて、どうするか。いや、どうするかなど、考える事も無いのだろうな……」
「……ええ確かに。彼の語った情報と、物資、そして条件すらも、破格の物です。
 この状況では、一見して迷う余地の無い根拠を持っている」

ディートハルトとインデックス、そして阿良々木暦の姿が消えた教室の中で、
二人残ったスザクとグラハムは決断を下そうとしていた。

「僕は彼を知っている。ディートハルト・リートは確かに、ルルーシュの部下だった男だ。
 ルルーシュから聞いた彼の経緯と、そして彼自身が語った事柄の推移を合わせれば、
 少なくとも彼はルルーシュが危険に晒される真似はしない。
 彼と自身の生還を求めるならば、ディートハルトにとって僕等への協力は、十分に考えられる選択肢だ」

スザクは目の前に集められた物、ペリカと呼ばれる紙幣の束と、グラハムが式から預かったペリカードを見つめながら言った。

「彼が持ってきた三千万と、僕らが元々所持していた約八千万を合わせて、全部で約一億一千ペリカ。
 両儀式の情報通りなら、これだけあれば僕は『腕』を手に入れることが可能です」

その口調は、しかし安堵を込めたものではなく、グラハムはスザクの態度に僅かな違和感を覚えた。

「……きっと僕達に奮戦を望むと、主催者であるリボンズ・アルマークの破滅を願うという彼の言葉は、嘘ではない。
 嘘であったところで、僕たちに選択権は無い」

先程、あの男が語ったことの意味。
頭の低い姿勢であったディートハルトであったが、結局のところイニシアチブは終始一貫してあちらにあった。
情報を持っているか、持っていないかの差。
欲しいものを持っているか、持っていないかの差。
信用できなくとも、要求を呑まざるをえない、状況。

つまりはそういうことなのだ。
今この時、この圧倒的劣勢たる状況で、グラハム達はディートハルトの協力を拒否する手など、打てない。
いくら機械の兵器を手にしようと、純然たる戦力差は覆らない。
参加者同士の戦いであってすら未だに優位に立てない現状で、どうやって主催を滅ぼすのか。
戦う手段を得たところで、勝ちは拾えない。
抵抗は抵抗に過ぎないのだ。

故に、気に食わないからと、胡散臭いからと、差し伸べられた手を払うことはできないのだ。
僅かに見える希望の光があるならば、いかに不穏な糸でも手繰るに決まっている。
しかも今回は、相手はスザクの既知の人物。
その上、実際に無償の支援は行われている。これは今までの主催の悪辣な罠とは一線を画していた。

「ですが……やはり、どこか解せない」
「そうだな」

声の苦い響きは、グラハムの口調にも共通した事柄だった。

「奴には裏がある。……いや、裏とは少し違うな。奴は確かに嘘を言ってはいないだろう。
 だが全てを語ってはいない。と、私は見ている。
 何故なら、我々を支援する意志が本当であろうと、主催を滅する意志が本物であろうと、
 奴はまだ……奴自身の狙いを正確に語っていない」

提出された品々を見、彼らは共通の思いを抱いていた。
破格、だが同時に、キナ臭い話だ、と。

ディートハルトが語ったことは主催の枠組みの解説であり、正体の見えない敵を型にはめることを意味する。

あちら側と、こちら側。階層に分かれた組織体系。
シスターズという端末。
数ある並行世界の召集。
そしてなによりも、『リボンズ・アルマーク』という、名前。

この情報が齎した効果は絶大だった。
この時、この瞬間より、敵は『主催』などと言った漠然なものでなく、『リボンズ・アルマーク』という確固たる存在に定められたのだ。
倒すべき敵。
破壊するべき目標。
これを型にはめた今、途方も無い存在という絶望は、限りなく薄まる。

そして同時に、ディートハルトにもまた主催ではなく、ディートハルトという個人の解釈が行われる。
総合的に論理的に、事は進められるのだ。

だから今や『主催者』という漠然かつ強大な存在ではなく、あくまでディートハルトという存在を図る上で、
やはり信用は出来ないと、二人は断じた。
これはおそらく、反対も賛成も論じずにディートハルトの見張りを買って出た阿良々木暦も感じていた違和であろう。

「ええ、彼は、きっと純粋な味方などではありえない。
 たとえ主催者を倒すことが共通の認識だろうと、僕達がどうなるのかまでは、範疇じゃない。
 彼は命を狙われたから、死にたくないから逃げてきたと言う。
 だけど彼はきっとそれだけじゃない。そんな俗なタイプじゃないと、僕は聞いている」
「奴には奴なりの目的があると?」
「おそらく、ルルーシュが絡んでいる可能性が高いですが……僕達は利用されているだけかもしれません」
「そうだな」

グラハムは諦めたように言って、立ち上がった。

「とはいえ結局は、進むしかない」

スザクも立ち上がる。

「ええ。僕には守らなければならない約束がある。ここで立ち止まるわけにはいきません」

彼等はその手に、前進の為の糧を一つ、掴んでいた。
正体の見えない希望、それでも進むために。

「我々の最終目標が違うことは前に話した通りだ。
 私は私が守ると決めたものを守る。他の者達も、それぞれに戦う理由を持っている。
 君はあくまで、君が守るべき者を守る為に戦えばいい。
 君に、我々のために死ねなど言わない。私も、君のために死ぬつもりはない」
「僕は僕の戦いを。貴方は貴方の戦いを」
「そういうことだ。君は君の守るべきものを守る為に戦い、生きればいい」

教室を出る、スザクとグラハムは共に決めていた。
希望の形がこちらを利用しようとするならば、こちらも利用するまでだ。
決して、食い物にはされない。
今はただ前に進むこと、それを憶えていればいい。

「ただ、そのために生き延びる。
 生きて倒すべき敵を倒すこと。我々に共通する一点だ」
「だから、『そのときが来るまでは』、僕達は協力できる。――異論はありません」

いつか、近い将来において、互いの優先順位の違いが現れる事もあるだろう。
その時は後腐れなく、互いの第一目標を優先しよう、と。
既にその協定は結ばれている。

故に、二人の言葉に淀みは既にない。
行くと決めた以上、立ち上がった瞬間から迷いはない。

「それでは、僕は校内の見回りを。式をみつけたら声をかけておきます。貴方は?」
「放送後すぐに出発できるよう、エピオンの整備に向かう」

各々、次の一歩に向けて動き出す。
しかし彼らには一つだけ、知りえていない事実があった。

グラハム・エーカーの言葉は概ね正しい。
彼がどれほどの意識をもって発言したのかは定かではないが。
グラハムの読みの通り、ディートハルトがあえて言わなかった幾つかの事柄の中で最も重大な一点がある。
それは時間が無い、ということだ。
しかしここで言う残り時間とは、如何なる意味での猶予なのか。

戦いを続ける上で、もうじき戻れないところに差し掛かっているという意味か。
天江衣の命が、残り僅かしかないという意味か。
それとも、真なる脅威の到来が、参加者の誰にとっても間近に迫っていると。


いずれにせよ今の彼らに、答えを出すことは叶わない。



   ◇  ◇  ◆  ◇  ◇



グラハムさんと枢木が話し合いをしている間、僕はディートハルトとインデックスの見張りをしつつ
天江から、あの場で起こった出来事の顛末を聞いていた。
二人の再会の邪魔にならないようにと気を利かせたつもりが、天江一人にグラハムさんから辛い話を聞き、
それを僕に話すという役割を担わせることになっているのだから、裏目もいいところだ。
しかも天江は、涙ひとつ僕には見せない。
白井が死んだという話の内容もだけれどそれ以上に、僕は自分の不甲斐なさに泣きたくなった。

「それで、式は?」
「校舎内のどこかにいるそうだ。あんなデカい物が動けばわかるから出発の時に合流すると言っていた、とグラハムが言っていた」

僕等が話している間にグラハムさん達の話し合いも終わる。
二人の出した結論は、インデックスとディートハルト・リートの提案を飲み、彼等を同行させるというものだった。
僕はひとことの異論も挟まず、その決断を受け入れた。

そして、今。

僕は、天江とインデックス、それから枢木から離れてくっついてきた猫二匹と一緒に校舎の三階にいた。
放送まで校舎内の見回りをしながら式を探すと言う枢木に、天江が自分も見回りをすると言いだしたからだ。
勿論、僕もグラハムさんも出発まで休んでいろと止めたのだけれど、天江は聞かなかった。

「衣にも、それくらいはできるぞ!」

そう言った天江は、何故か追い詰められたような顔をしていて、結局僕等は天江を止め切れずに今に至る。
三階が天江の担当として振り分けられたのは、校舎内では比較的危険が少ない部類だと枢木が判断したからだ。
職員室の中には入らないように、と枢木に言われた時点で、
天江が、ここが既に枢木が点検済みだと気づいたかどうかはわからないが、気づいていたとしても触れるつもりはないらしかった。

それにしたって、この組み合わせはなんなんだろう。
校舎の見回りをする天江と、その横を歩くインデックス。
天江が強引にインデックスを引っ張っているように見えなくもない。というか、強引に引っ張っていた。
その少し後ろを歩く僕がしていることと言えば、見回りというよりも、天江の保護者兼インデックスの監視役だ。
ちなみに、枢木はディートハルトと一緒に別の場所を見回り中、グラハムさんはエピオンの整備にあたっている。

「ここも誰もいないようだな」
「そのようですね」
「……何も無いな」
「そのようです」

インデックスと、成立しているのかどうかよくわからない会話をしながら歩いていた天江の足が不意に止まる。
彼女の見つめる先には一枚の扉。その上に取り付けられた『職員室』のプレート。
そこは駄目だって枢木が言ってただろ―――僕がそう言うよりも先に、天江は扉を開けていた。

「おい、天江……!?」

考えてみれば、わかることだったろう。
冷えきった空気から気づきにくいが、ここには過去に起きた戦闘の跡が各所に見られる。
戦闘があったのなら、その結果として残るものがあるはずだ。
そして、地面にこびりついたような―――厭な臭い。
その部屋に何があるかなど、一考で瞭然だというのに。

散乱した室内。
破壊された教室。
ばらばらの手足。
ばらばらの胴体。
ばらばらの内臓。
ばらばらの頭。
もう人間とはいえない、けれど間違いなく人間だったもの。
硬く固まったボロ雑巾を無理やり絞った結果、捩じ切れてしまった残骸。

浅上藤乃という少女の、罪のカタチがそこにはあった。


「……鶴賀の大将だ。名を加治木ゆみという」

呟いた天江を、僕は見る。
悲鳴をあげるでもなく、天江はまっすぐに加治木の死体を見つめていた。
天江はたぶん、ここに何があるのか予想していたのだろう。そんな気がした。

「知ってるのか?」
「共に卓を囲み、麻雀をした」
「そうか」
「阿良々木は東横に会ったことがあるのだろう?」
「ああ、あるよ」
「彼女は東横の先輩にあたる人物だ」
「うん」
「……阿良々木」
「なんだ?」

天江が僕を見る。
それは僕が今まで見たことのない、天江衣だった。


「東横は、ここに来たのだろうか?」


天江の問いに、僕は答えられなかった。
おそらく、東横はルルーシュ達と一緒にこの学校に来たんだろう。
もしかしたら、加治木の死が告げられた最初の放送よりも前にここを訪れ、この死体を見たかもしれない。
人を殺してもいいと思えるほどの存在の死を、しかもこんな残虐で不自然な死を目の当たりにして、東横は何を思ったのか。
それを考えると、言葉は出てこなかった。

「……阿良々木に訊いてわかることではないな。忘れてほしい」

それだけ言って一人で歩きだした天江を、僕はあわてて呼び止める。

「衣はグラハムの所へ行く。……一人でも、大丈夫だ」

僕の方を振り返ることさえせずに言うだけ言って、天江は走りだした。猫達が後を追う。

知人の惨殺死体を目にした、それは、予め覚悟をしていたことだとしてもショッキングに違いない。
この場から逃げ出したところで咎められるいわれもない。
だがこの感じはなんだ?
何かが腑に落ちない。僕の中で構築されていた天江衣というキャラクターにズレが生じている。
いや、今はそんなことよりも、早く天江を追いかけないと。

「待ってください」

一歩踏み出した僕の背後から声がかかる。
振り返るとインデックスが僕を見ていた。
そういや、こいつが自分から誰かに話しかけるのって、これが初めてじゃないか?

「なんだよ、今は天江を追わないと」
「―――今しか機会はないので、あなたに伝えておきます」
「え?」

唐突だった。
亡命宣言から終始無言だったインデックスが唐突に話しかけてきた。
このタイミングでしかない会話とはいったいなにか。
校舎の廊下。
二人きり。
男と女。
澄み切った空気。
静寂が包み込む。
息を呑む。
楽器のように声は上がる。


「今から約一時間半後に、天江衣の首輪は爆破されます」


刹那の沈黙の後、五回目の放送が始まる。
原村和の声が響く中、呆然と立ち尽くすことしかできない愚かで無力な男子高校生がそこにはいた。
ていうか、それが僕だった。


                                     【天江衣の借金返済期限まで――残り 01:31:28】





【E-2/学校/二日目/朝】


【阿良々木暦@化物語】
[状態]:疲労(小) 、手足に火傷のようなダメージ(治療中)
[服装]:直江津高校男子制服(破損:大)
[装備]:ベレッタM1934(5/8)
[道具]:基本支給品一式、毛利元就の輪刀@戦国BASARA、マウンテンバイク@現実、拡声器@現実
    ギー太@けいおん!、ピザ@現実×10、RPG-7(グレネード弾×2、煙幕玉×2付属)、衛宮邸土蔵で集めた品多数
    軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録、沢村智紀のノートパソコン@咲-Saki、レイのレシーバー@ガン×ソード
[思考]
基本:個人の意思としてこのゲームから生きて脱出。
1:天江の首輪が爆発する……?
2:ルルーシュ達との確執は最大限妥協。憂の事は……。



【天江衣@咲-saki-】
[状態]:首輪爆発まであと1時間31分(現在の負債:4億ペリカ)、頭部に負傷(応急手当済)、血液300ccマイナス
[服装]:いつもの私服
[装備]:チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス、スフィンクス@とある魔術の禁書目録、あずにゃん2号@けいおん!
[道具]:麻雀牌セット、エトペン@咲-Saki-、水着セット@現実、サンドイッチ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
    ペリカード、血液300cc
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る。
1:みんなに何かを返したい
2:インデックスと友達になりたい
3:東横を止めたい
[備考]
※7時32分までに借金を返済出来ない場合、首輪が爆破されます。



【両儀式@空の境界】
[状態]:疲労(小)、切り傷多数(処置済み)
[服装]:白い和服(損傷:中)
[装備]:ペーパーナイフ×3、鬼神丸国重@現実
[道具]:基本支給品一式×7(水1本消費)、首輪、ランダム支給品0~1 、ルールブレイカー@Fate/stay night
    陸奥守吉行@現実、鬼神丸国重@現実、USBメモリ@現実、ティーセット@けいおん!
    ルイスの薬剤@ガンダムOO、特上寿司×37@現実、空のワインボトル×2@現実
    ピザ×8@現実、シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×25@現実、麻酔注射器、痛み止め、
    落下杖(故障)、伊達政宗の眼帯、基本支給品外の薬数種類@現地調達
[思考]
基本:識の夢を守りたい。
1:いまはこの集団についていく。
2:澪との約束は……。
3:首輪は出来るなら外したい。



【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:疲労(小)、全身にガラスによる刺し傷(処置済み)
[服装]:ユニオンの制服(破損:小)
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、予備弾×30 、 レイのレシーバー@ガン×ソード
[道具]:基本支給品一式、サザーランドのキー、SIG SG552(30/30)@現実(予備弾30×3)、軍用ジープ@現実、
    ゼクスの手紙、RPG-7(グレネード弾×3、煙幕玉×2付属)、双眼鏡、手術用の針、手術用の糸、消毒用エタノール、
    ヴァンのテンガロンハット、水着セット@現実、ミネラルウォーター@現実×15
    ギャンブル船商品カタログ(機動兵器一覧)第3回放送分@オリジナル、包帯(20m)×3、
    『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~戦場の絆~』解説冊子、治療に使えそうなもの(1万ペリカ分)
[機動兵器] OZ-13MS ガンダムエピオン
[思考]
基本:断固として殺し合いには乗らない。主催の思惑を潰す。
1:放送後、ルルーシュの集団へ向かう。
2:ルルーシュ(とスザク)には最大限の譲歩を。
3:天江衣をゲームから脱出させる。



【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(小)、左腕切断(処置済)
[服装]:ナイトオブゼロの服(マント無し)
[装備]:GN拳銃(E残量:小)、アゾット剣@Fate/stay night 、アーサー@コードギアスR2
[道具]:基本支給品一式×2、鉈@現実、イングラムM10(9mmパラベラム弾32/32)イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×4
   シグザウアーP226の予備弾倉×3@現実、M67破片手榴弾×2@現実、シャベル@現実
   軽音部のラジカセ@けいおん、お宝ディスク、Blu-ray Discドライブ搭載ノートパソコン、水着セット@現実
   サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20)、5757万ペリカ、ペリカード(残金5100万ペリカ)
[機動兵器]Z-01Zランスロット・アルビオン
[思考]
基本:ナイトオブゼロとして、ゼロレクイエムを完遂する
1:ルルーシュとの合流を急ぐ。
2:対立が決定的ならルルーシュに付く。
3:ショッピングセンターで義手をとりつけたい。
4:ディートハルトの動向と思惑に注意。
5:ユフィの願いは忘れない。



【ディートハルト・リート@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:健康
[服装]:スーツ
[装備]:FN P90
[道具]:ノートPC
[思考]
基本:ゼロを勝者とする。
1:この集団を利用してルルーシュを援護する。
[備考]
※所有していた三千万ペリカを譲渡しました。



【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:ペンデックス?
[服装]:歩く教会
[思考]
基本:???
1:???



時系列順で読む


投下順で読む


291:BRAVE SAGA『希望』 阿良々木暦 :夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編)
291:BRAVE SAGA『希望』 天江衣 :夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編)
291:BRAVE SAGA『希望』 両儀式 :夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編)
291:BRAVE SAGA『希望』 グラハム・エーカー :夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編)
291:BRAVE SAGA『希望』 枢木スザク :夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編)
294:プロローグ/モノローグ ディートハルト・リート :夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編)
294:プロローグ/モノローグ インデックス :夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編)


最終更新:2011年10月08日 01:16