ウーフェイ再び ◆10fcvoEbko
放送を聞くために身を潜めたのは何の変哲もない市街地の一角である。足となるバイクは一時停めた。
一見すると隠れる場所など無さそうに思えるが、路地の隙間に潜り込めばそう簡単に見つかることはない。
オペレーション・メテオの実働部隊として徹底した訓練を受けた五飛は、人間の死角となる場所をよく知っている。
日の出を迎えた黄色い空に、放送は染み渡るように広く届いた。
「リリーナ・ピースクラフト・・・・・・死んだか」
誰にともなく、五飛は一人呟いた。
視線は空に向けられているが、そこには誰の顔も浮かんでいない。最初の説明と同じく一組の男女が行った放送は、方や機械のように事務的で、もう一方はやたら感情的だった。
ここに至り、五飛は初めて与えられた荷物の中から名簿を確認する。誰がいようと関係ないと打ち捨てていたが、曲がりなりにも知人の死を聞いたことが契機となった。
リリーナの唱える完全平和主義は、戦争を無くすために武力を放棄しろと主張する。
人類が戦争を手放せない生き物であることを見ようとしない。戦いに生きることしか知らない兵士は無惨に切り捨てられる。
その事実に我慢できず、五飛はマリーメイヤ軍に身を投じた。
連中は連中でリリーナを担ぎ上げる算段のようだが、これで大幅に修正せざるを得まい。別姓ではあったが、名簿には確かにリリーナの名前があった。
平和の象徴が死んだことで、世界はまた戦争への道を歩み始めるだろう。過去を忘れたがる連中にとって、とてつもない刺激に違いない。
遠藤とか言う男が漏らした『祝儀』の意味も自ずと知れる。死者の大半が名簿外の人物ということは、連中は最初から死ぬために用意されたということだ。
首輪の力を見せつけるために敢えて殺された金髪の女と同じく、そうした連中はわざと危険の多い場所に配されたのだろう。
この島がいかに危険であるか知らしめるために。
「気に入らん連中だ」
覚悟のない者を無理やり戦いに巻き込むなどと。
名簿外でこそないが、リリーナの死が早々に伝えられたのも似たような意図があるのかも知れない。戦いに身を置かない者にとって、彼女の死は確かに大きいだろう。
五飛自ら『脅威』として歩く意味ももう薄いかも知れない。この期に及んで自分から戦おうとしない下衆がいるとしても、構う義理はない。
五飛にはそれ以上に気にかかることが生まれていた。
トレーズ・クシュリナーダ。
一年前の大戦で戦死したはずの人物が、名簿に平然と載せられている。止めを刺したのは五飛自身だ。あのときの屈辱は忘れようにも忘れられるものではない。
ミリアルド・ピースクラフトのように極秘裏に生存が確認されたわけでもない。少なくとも五飛はそのような情報を掴んだことはなかった。
トレーズは意に沿わぬ延命を受け入れる男ではない。こんなところでむざむざ生き恥を曝していることがより奇妙に思えた。
「なぜオレはこれを見ようとしなかった・・・・・・?」
更に五飛を訝かしめたのは、これ程の情報を6時間あまりも放置していた、軽率なまで己の迂闊さだった。
見知った名前こそありはしても、五飛にとって重要な名はもうない。強いて言えばヒイロぐらいだ。その意味で、名簿を重視しなかったことを誤りとは思わない。
だが、そこに記されたトレーズの名が疑念を生んだ。揺っては返すそれが、さざ波のように五飛を浸食していた。
まるで無意識が忌避したようだ。五飛に見せるのを何者かが拒んだとさえ思える。
おかしいと言えば、ホールの仕掛けはいかにも大がかり過ぎるのではないか。娯楽施設のアトラクションのような趣向には、もっと考えるべき意味があったのではないか。
ひたすら前へと傾いた五飛の思考は、本当に五飛自身のもだったのか。
「何者だッ!」
背中越しに感じた視線に、五飛は躊躇わず持っていたナイフを投げつけた。
回転する大型の刃物が弧を描き、観察するようにこちらを見定めていた気配の主に襲いかかる。
研ぎすまされた五飛の狙いに狂いはない。にも関わらず、返ってきたのは金属が金属を叩くがぃん、という軽い音だった。
「・・・・・・」
五飛は静かに歩み寄ると、赤錆びたドラム管に空しい傷を付けたナイフを回収した。
刃に己を映す。上物のナイフは刃こぼれ一つ付かない。代わりに、傷つける何者をも見つけられずにいた。
気配は霧のように消えていた。
人間はおろか動物の影さえないが、気のせいではない。両肩に、暗い深淵から伸びる触手のような強い執着がわだかまっている。
間違いなく、何者かの意志が五飛を見ていた。
「・・・・・・少し慎重に動く必要があるようだな」
◇
末法と終末が纏めて訪れたような仏頂面をした男がいた。
「知人の死に、冷静さを取り戻したか・・・・・・
張五飛」
魔術師、
荒耶宗蓮である。
荒耶は何かを確認するように己が額を撫でさすった。そこは丁度、たった今五飛の投げた宝具に差し抜かれた箇所だ。
だと言うのに、一滴の血潮さえ流れていなかった。石膏に掘られた溝のように深い深い眉間には、かすり傷一つない。
荒耶もそれを不思議とは思わなかった。英霊の刃をその身に受けたのは荒耶の肉体ではなく、思念に過ぎない。
再度確認したところ、五飛は既に出立した後らしい。会場の狂化を促進させる力からも一応は脱したようだ。荒耶はもう、彼の男への興味をほとんど失っていた。
海を境に、埠頭から対岸を走るバイクを発見したとき、荒耶はともすれば五飛を抹殺する覚悟でいた。
これ以上要らぬ混乱を招くならばという心算だったが、己が目的のために動き出した以上無理な介入をする必要はない。
然るべき流れの後に出会えば、然るべき相手としてまみえよう。
この上、参加者の枠を越えてまですべきことは何もなかった。誰もが耳を澄ませた放送さえ荒耶にとっては時間の浪費に過ぎない。
荒耶はたった一つの息さえ吐かず、方針を錬るよう偽装していた地図を畳むと陰鬱を塗り固めた体で歩き始めた。
【F-6/市街地/一日目/朝】
【張五飛@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康
[服装]:マリーメイア軍の軍服
[装備]:ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(4/6)@ガン×ソード、干将・莫耶@Fate/stay night、防弾チョッキ@現実
[道具]:デイパック、基本支給品、
ファサリナの三節棍@ガン×ソード、ゼロの仮面とマント@コードギアス、刹那のバイク@機動戦士ガンダム00、USBメモリー@現実
[思考]
1:トレーズの存在と『魔法』に対する疑念
2:戦おうとしない者と弱い者への怒り
3:MSの可能性がある施設を探す
4:扉を開く条件を満たしたらまたホールに戻りたい
5:人間の本質は……
※参戦時期はEndless Waltz三巻、衛星軌道上でヒイロを待ち構えている所です。
【F-6/宇宙開発局/一日目/朝】
【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:健康
[服装]:黒服
[装備]:ククリナイフ@現実
[道具]:デイパック、基本支給品、S&W M10 “ミリタリー&ポリス”(6/6)、.38spl弾x53、鉈@現実、荒耶の不明支給品(0~1)、梓の不明支給品(0~1) 、久の不明支給品(0~2)、
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。
1:式を追って北部へ赴く。
2:必要最小限の範囲で障害を排除する。
3:利用できそうなものは利用する。
※首輪はダミーです。時間の経過と共に制限が緩んでいきます。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2009年12月25日 21:54