ひとりにひとつ ◆zsYinY96dc
煙を吐かない煙突とがらんどうの倉庫と灯を消した工場を電線が縦横無尽に結ぶ工業地帯
そこに太陽に向かって大音量を響かせながら爆走する一台のトレーラーがあった
早朝にかけて走らせていたが
曲がりくねり交互に入り組む工業地帯独特の複雑怪奇な道は
トレーラーの巨体もあって万能の天才である総帥すらも大いに悩ませたが
ようやくと大通りに出たため今は気ままな爆走状態である
そして天才はいかなるときもリラックスする術を失わない
過度の緊張は人を疲労させ正しい判断を失わせる事を知っているからだ
リラックスする方法は状況により異なる
最善はもちろん睡眠をとること
次に入浴、音楽・映画、人によってはプラモデルを組み立てたり
よりアグレッシヴに柔軟体操、T字バランスを取るものも居よう
そしてトレーラーなどの大型車両を走らせる際は大音量で音楽を聴く
コレが一番のリラックス法だ
このトレーラーの持ち主もそれは心得ていたようで
ダッシュボードの中は演歌の音楽データで満ち満ちていた
これだけのデータがあれば長距離を移動するには全く不自由はない
しかも全てが珠玉の傑作選
ことにフェニックスといわれた女性の唄はどれも心を打つものばかりであった
兵たちのリラックス法として各MS内にこのデータを入れてもいいかもしれない
ソウルフルな演歌はマーチにぴったりであろう
第一回放送が始まったのはそんな時だった
そして数分後、トレーズはハンドルを人差し指で神経質に叩いたのちに
やや硬めにハンドルを握りまたトレーラーを走らせた
◇
福路は線路の上を歩いていた
暖かな日の光が背中を射してほこほこする
夜の霜によってすっかり冷え切った身体を暖めながら振り返って駅を見る
胸に抱かれた六本の刀
コレを政宗に届けるとの決意を確認するために
コレを託した小十郎を思い返すために
何も出来ない自分をこの絶望的な状況の中守ってくれた人に感謝するために
そして守ってくれた人は既に居ないという現実を受け止めるために
駅に向きかえって頭を下げる
そしてまた振り返り風越の泣き虫キャプテンは歩き始める
第一回放送が始まったのはそんな時だった
名簿外の12人の中に自分の見知った名前は無かった
不謹慎ではあるが福路は豊かな胸を手で抑え、ほぅとひと息をついた
「―――今回の放送帯での死亡者を発表させて頂きます。 」
栗色の髪の少女は白い指を組みながらうつむいて一心不乱に祈る
「華菜だけは…上埜さんだけは…どうか…お願い…!」
我ながら身勝手な願いだと思う
しかし、だからこそ、その願いは真摯であった
だが
全身の力が抜けたように膝から落ちる
組んでいた指もほどけダラリと肩からぶらんと腕が下がる
全身の血が引いたかのようにただでさえ白い顔が死人かのようにさらに真っ白になる
そしてそんな彼女をあざ笑うかのようにあどけない少女の声は続ける
瞬間、線路の砂利の上に膝を打ちつけ、額をグリグリと押し付ける
ガンッガンッと枕木に無差別に頭を打ちつける音が響き渡り
黒子がやる気を放棄した人形のようにでたらめに腕足首髪をぶん回す
「あはははははははははははははははははははははははは!!!!!!!
よかった『 上 埜 さ ん 』じゃない!やったわよ華菜アアアアアア!
だって上埜さんのはずが無いじゃない!
だって上埜さんのこと私はずっと!!!ずっとよ?!
ずっとだってずっとずっと三年!三年の間ずっと!
華菜聞いて!上埜さんは無事!だって死んじゃったのは『 竹 井 さ ん 』だもの!
やったあああああぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!!
華菜ぁ!華菜ァ!聞いてぇ!聞いてよ華菜ァ!!!何で返事をしないの華菜!
あ、そっかぁ!華菜も死んじゃったんだっけ!!!!!!!!!
はははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」
線路の上で血まみれになりながらダラリと腕を下ろし
背中をのけぞらせながら中天に向かって奇声を発す、
人間であったものがそこに跪いていた
精神的な疲労の果てにぐったりとした福路はなおも続く放送を聞き流していた
そして
死亡者リストの中に小十郎の名前があがっていることを確認すると
砂利と土と擦り傷と血でぐちゃぐちゃになった顔に大粒の涙が流れた
一番大事にしていた人も
一番大切にしていた人も
自分を身をもって守ってくれると言ってくれた人も
もう、この世にはいない
空気を読まず天と地を燦燦と照らす太陽の下
右目を閉ざした少女は枕木に額を押し付けて嗚咽に喉を枯らす
心の虚は巨大化して胸のブラックホールに自身の四肢が飲み込まれていく
嘆く言葉すら思いつかない
ただ声にならないうめき声を上げながら身を右に左によじる
「…どうして…どうして私の大切な人ばかりがどうしてどうして死んでしまうの…」
ようやく口をついたのは今まででは思いもつかないただの愚痴
しかしそれが思考の口火となった
―――死ぬ…いや『殺された』のだ
このくだらないゲームに殺されたのだ
福路の中で殺意が芽生えた
それはふつふつと湧き上がる怒りの中であっという間に生長し
福路の腕を首を腰を柔らかな胸を豊かな太ももを縛り付ける
『 殺 す 』
少女の目に生気が戻る
殺す
今まで考えたことも口に出したことも無い言葉
殺す
ここに送り込まれて以降封印してきた恐ろしい、忌避してきた言葉
殺す
しかしなんと甘露な甘美な響きであろうか
「殺す!」
福路の顔に笑顔が戻る
下級生たちに絶えず見せてきた満点の暖かい笑顔
目標を見つけたからにはぐずぐずしていられない
足元に散乱した刀を拾い集めると線路から駆け下り倉庫に向かって走り出した
大通りに差し掛かったところで福路は強力な光を浴びた
爆音とともに巨大な小山が猛烈な勢いですぐ目の前まで近づいてくる
唐突に圧倒的な質量を持って迫り来る死を前に風越のキャプテンは
やっぱりスローモーションのように映るものなのね
と妙に感心し六本の刀を胸に、立ち尽くしていた
運転席の人、仮面をかぶってる
きっと前方不注意ね。
殺意をもっての暴走じゃなくてただの事故なのでしょうか
逆光だから反応が遅れたのかも
コレはトラック?いえ、やたらと頑丈でそして今まで見たどんなものより大きい
こんな大きいのは無理
ピカピカに整備されてるからきっとこの車の持ち主は車が大好きなのね
それにしてもビームが上を向いてるのはなんででしょうか
あぁそうか線路を乗り越えるつもりだったのね
それにしても眩しい…
世界全てが真っ白に塗りつぶされていく中
福路美穂子は取り留めのない思考をめぐらせるのをやめた
コレでもう狂う必要もなくなる
「華菜…上埜さん…待たせてしまってごめんなさい…今行きます…」
殺到してくる”死”に片目の少女はその身を委ねた
◇
トレーラーを運転するトレーズはいつに無く無口であった
思考も纏まらず堂々巡り
これでは壊れたレコード盤、終わらないワルツを踊る間抜けな舞踏会だ
なにをそんなに混乱する必要があるのか
目の前に小高い丘が見えた。位置からしてこれが地図を横断する線路であろう
ふとステレオをミュートにしたままだったのを思い出し演歌をまた流しだす
前方の注意を逸らしたのはほんの刹那であった
普段の彼なら決して犯さないであろうミス
だがその刹那に唐突に目の前に黒い影が飛び込んできた
とっさにハンドルを切り横転しかねないほどにブレーキを踏む
けたたましい音を立て道路に黒い軌跡を残しつつトレーラーは止まった
■
ふと気がつくと福路は麻雀卓の前に居た
周囲を見渡すと間違いなくここは風越の麻雀部部室
十卓以上が立ち並ぶ部室の中は騒然としていて卓の中の声しか聞こえない
周りに流されること無く麻雀に集中できるすばらしい場所
そして日々の戦績がそのままランキングに直結する激しいせめぎ合いの場
福路の対家に座るのは…
「上埜さん?!」
思わず立ち上がり叫んでしまう
目の前にいるのは紛れも無くおさげを結った竹井久
しかしその身に包むのは清澄高校の制服ではなく…風越の制服
「どうしたの、美穂子。さぁもう半荘いくわよ」
竹井にそう薦められると片目の少女は腰を落ち着かせ頬を赤らめると胸に手を置いた
心臓の音が手を伝わなくても体中に響く
「この半荘は焼き鳥だったから…でも今度こそ和了るわよ~」
闘志をむき出しにして、それでも微笑を浮かべて竹井が宣言する
「一度も和了れないなんて竹井さんらしくもない」
福路もまた微笑み返す
卓の中央に牌を入れ洗牌する。同時に卓上に牌山がせりあがる
―――楽しい
素直にこの空間がいとおしく思った
「そうねぇ…でも」
牌を四つ取りながら竹井が切り出す
「不死鳥はその身を焼き滅ぼして、その炎から新しく生まれ変わり飛び立つのよ」
福路もまた牌をちょんちょんと取りながら答える
「そう簡単には行きませんよ?私も負けませんから」
理牌して手元を見る
(あら?)
牌が読めない。白牌ばかりという意味ではない。読めないのだ
困惑する福路を見て竹井が神妙な顔で言う
「知ってる?夢の中では新聞って…読めないのよね」
瞬間全てが崩れ去りあたりは上も下も分からない真っ暗な空間が広がるだけになる
ここに居るのは体中に血がこびりつき、髪も振り乱して六本の刀を腕に抱いた福路と
清澄の制服を身につけたいつもの竹井のみ
「お互い、本当にもう交わることさえ出来ない所まで…来てしまったのですね」
血塗られた腕を交差して胸に押し付ける。直前までの幸せも先刻までの狂気ももうそこにはない
「そうね…自棄(やけ)になって危険牌を振り込むような人とは一緒に卓を囲みたくも無いわ」
―――やはり私のことを怒っている
―――ゲームに乗ろうとした私を許せないんだ
第一放送を聴いたときとはまた違った、そしてそれ以上の絶望感が福路の足元をぐらぐらと揺らす
そんな福路を見やりながら竹井は微笑みながら人差し指を傾ける
「でもまだ終わりじゃない。あなたにはまだ点棒が残ってる
あなたの所の池田って子は持ち点が0になってから頑張ったじゃない
それに比べたらまだリーチが出来るだけ希望はあるわよ」
無茶苦茶な慰め方だが福路にとっては竹井がまだ自分を見捨ててないという事実が重要だった
「ここからまた飛びたてるのでしょうか?」
嬉しさと悲しさが交差して何が何やら分からない。自然と涙が零れてきた
竹井は福路の涙を指で掬うと、右手を取る
「出来るわ。だってあなた名門風越のキャプテンじゃない」
そこで景色が光に包まれていった。竹井の姿も光の中に消え去っていく
「待って上埜さん!わたしは―――!」
福路は光に向かって叫ぶ
「もう一局だけでもいいから、あなたと打ちたかった…っ」
あとはもう光しか見えなかった
■
「"ゼロ"であるならばあのまま轢殺するべきだったのかもしれないな」
剣をしっかりと抱きしめながらベッドの上で気絶している少女を肩越しに見つつ仮面を脱ぐ
しかしそれはエレガントではない
トレーズにとって理由はそれだけで十分だった
トレーラーの巨体を縦横無尽に暴れさせたため周囲に甚大な被害を及ぼしたが
彼の矜持を守ることにはどうやら成功したらしい
少女の身体は血まみれではあるが、その多くは額からの出血であり
おでこにバッテン印を作るだけで怪我の処置は済んだ
むしろ予想以上に血を失っているらしく輸血作業に時間をとった
適応する保存期間内の血液があった事は僥倖という他ない
「上埜さん…」
何度となく少女が呟く
参加者リストに名前がないことからおそらくは少女の恋人であろう
なんにせよ、彼女が意識を取り戻さないことにはどうしようもない
全てはこのスリーピングビューティの本質を見極めてからだ
ふと少女の瞳に涙が浮かんだ為それをスッと指で掬う
「う…ん…」
どうやら気がついたようだ
まるでおとぎ話そのものだな
微笑しゼロの仮面とマントをカーテンの内に隠す
◇
―――シャワーを浴びるのはいつくらいぶりだろう
そう考えてつい先日合宿所で露天風呂に入ったばかりだということに気づいた
もはやものすごく遠くのことのような気がして愕然とする
多くのことが片目の少女の周りで起き続けていた
カッターナイフとホッチキスの少女・小十郎との出会い…別れ
眼帯の女性・そして池田と竹井の死
たった六時間。麻雀にして6半荘。一日の学校生活にも満たない時間
急激な変化はしかし受け入れるしかない現実として福路に突きつけられ続けている
一旦精神の平衡を崩してしまった片目の少女は、だが今では冷静さを取り戻していた
―――あんな夢を見るということはやっぱり私は殺し合いを望んでいないってことだわ
夢が天からの差し出し物だというロマンチシズムを横に置くと
所詮夢は自分の中の考えを投影したものでしかない
判断材料を集め最良の選択をし続ける
それが麻雀でいう推し引きであり
風越のキャプテンはその選択において、おそらくは世界でも最高峰のセンスを持っていた
そこに対してある程度の自負はある
だからこそ竹井に夢の中であんな台詞―名門風越のキャプテン―を言わせたのだ、と
―――でも風越の制服を着た上埜さん、可愛かったな
微笑を浮かべながら身体についた泡をくまなく洗い流しシャワーの栓を締める
自分の中の考えは決まった
何のことは無い。今まで通りだ
殺し合いには乗らない
政宗に刀を返す
全員が帰ることの出来る手段を探す
あとは自分を保護してくれたトレーズというあの青年についてだ
目に付いた人間全てを殺すという人には見えなかった
殺そうとすればいつでも殺せるはずだった自分を保護した点から言ってもコレは間違いない
身のこなしから言って小十郎と同じく軍人、それも物腰から言ってかなり偉い人だろう
身の起こし方の不自然さから過去に大怪我を、それも命に関わる重傷を負っている
隙なく自分を観察していたあの瞳から見て元々は慎重な人物なのだろう
動作の端々から動揺が見られたから、もしかしたら既に見知った人を失っているのかも
とにかくも彼に対して自分の出来ることなどたかが知れている
だが問答無用で殺されることは、無い
なら彼の質問には全て真摯に、自分の知っていることを全部伝えるべきだろう
脱衣所には黒を基調とした服と白い布地が置いてあった
やたらとボディラインを強調した服だがそれは問題ない
福路にとって不思議だったのは白い布地だ
「なにかしら?穴が三つ開いてるけど…髪留め?」
かなり伸縮性のある布らしく、見た目小さいその布地は片腕一本分には伸びた
しげしげと眺めた挙句布地はとりあえず無視することにする
ブラジャーが無いことには大変なことになるので
やや残念ではあるが今まで着けていたものを使うことにした
―――それにしても
手のひらの小さな布地を見つめて思う
「かなり風習の違う世界の人なのでしょうか?」
■
ソファーに腰掛け談笑する一組の男女
年の差は見受けられるものの傍から見れば恋人同士に見えるかもしれない
「なるほど、君の世界では日本麻雀が世界的な競技になっているのか」
「閣下の世界では取るに足らない遊戯なんですね、私にはそのほうが驚きです」
紅茶と基本支給品の中にあった軽く温めたマフィンを肴に
互いの認識を埋めあう姿もまた恋人同士に見えるかもしれない
「竹井君や、池田君、片倉君には気の毒なことをした」
トレーズが爆弾に手をかけた
「閣下も大切な方を亡くされたようで…」
目を伏せて福路はジョーカーを切った
片目の少女の洞察力については今までの会話で理解している
いきなり自分を閣下と呼び、世間話から切り出すソツの無さは驚嘆に値する
だが自分の動揺までも把握されていたとは意外だった
「リリーナ・ピースクラフト、か」
天井の照明設備に視線を逸らし考えをめぐらす振りをする
その死が自分にこれほどの動揺を与えていた事自体が驚きだった
だが他にこの動揺を表しうる事象は無い
―――あと敢えて言えば目の前の少女だが
彼女の説く完全平和主義が絵空事ではなく胸中で共感を得ていたのか
確かに彼女亡き後の世界を考えると如何様にしても纏まるものも纏まらない
―――自分はいつしか彼女の存在を機軸にして構想を練っていたのだな
対主催の流れを画策する彼にとって死者の蘇生は既に計画の外のこととなっている
五飛たちのいずれかが生還したのちの地球圏について
彼らになんらかのアドヴァイスを送るべきだろう
「大切、というほどのものでもない。ただ、あとの始末が面倒だというだけだ」
視線を戻し、あらかじめ用意していた台詞を出す
◇
「嘘、ですね」
重要な局面での手牌からの即切りは下家にプレッシャーを与える手段として
初級~中級者には有効ではある
ただし上級者相手ではただ単に自分の思考時間を縮める悪手でしかない
しかし対話においては畳み掛けに際して有効
今まで獲得したトレーズの癖から手の動きを見抜き右手を両手で包む
「打算だけではないのでしょう?」
◇
完全に機先を制された形になったが慌てる必要はない
片目を閉ざした少女に対する自分の優位はゆるぎない
分からないのは何故相手の神経を逆なでしかねない行動をするか、ということだ
人の所作を凝視し、次々と相手の先を読み人の出方を伺う優等生
同級生からはさぞ疎まれたことであろう
哀れには思うがまだ選定は済んでいない
なればこちらも続けて爆弾を投下するのみ
「…麻雀部員といったね?実は君に出会う少し前、私はネット麻雀に興じた
対戦相手は誰といったかな…もしかしたら君の知り合いかもしれない」
対面の手を包み込んだまま片目の少女はやや興奮をもって答えた
「誰でしょう?東横さん?それとも天江さんでしょうか」
―――案の定いまだ生存しているであろう知人の名前を出したか
「いや、アレは確か…竹井だったかな…」
目の前の少女は傍目にも哀れなほどに動揺していた
「もう察しがついてもいいんじゃないかな?
この地では全ての行為が、無論遊戯も殺し合いにつながっている
竹井君を、彼を殺したのは私だよ
明確な殺意をもって、ね」
黒いミニスカートを穿いた少女は力なく膝から落ちた
◇
今この人はなんといったのだろう
『竹井君を殺したのは私』
確かにそう言った
―――なら目の前のこの人は上埜さんの仇?!
福路の左目に殺意の炎が起こった
が
『自棄(やけ)になって危険牌を振り込むような人とは一緒に卓を囲みたくも無いわ』
竹井の蔑んだ顔が思い浮かぶ
―――さっき決めたばかりじゃない
かぶりを振って邪念を払う
目の前の青年の顔をまじまじと見つめる。自然と右目が開いていく
上埜さんの名前を出したときに奥歯を軽く噛んでいた
今まで見せたことの無い癖…誠実な今までとは全く違う
少なくとも上埜さんの存在、名前は私と出会うまで知らなかったはず
なのにわざわざ上埜さんの名前を出したのは私を揺さぶらせたいためで間違いない
揺さぶらせる意図は…こちらの出方を見るため?
意に反した行動に出たときは私を殺すため
この人は選別をしているんだ…!
◇
―――さて、どう出るか
絶望と怒りに縁取られた片目の少女…福路といったか
このまま向かってくるようならば見るべきところはない
復讐を諦め恭順を求めてくるようならば兵士として扱おう
妄執を捨て"巨悪"に立ち向かう…
突然目の前の少女が自分の顔を見つめる
いつの間にか閉ざしていた右目が開いている
―――しまった
自分の右腕は少女によって自由を奪われている
少女とはいえ六本の日本刀―重量にして10キロはあろう―を軽々と持ち歩く力だ
とっさには拘束を外せない
もし彼女の右目に特別な超常能力があった場合致命的なことになりかねない
内心冷や汗をかいたトレーズだったが、しかして何も起こらなかった
少女の青い右目は変わらずに自分を見つめている
全てを見透かすかのように
反して自分は何の考えも纏まらない
―――リズムを狂わされたか
つっと青い瞳の少女は立ち上がる
そのまま隣に移動し…トレーズの顔に自らの胸を押し付けて言う
「なんでも自分で背負い込もうとしないで下さい…
なにもかもうまくやろうとしたら、大変なんですから…
私が出来ることならなんでも相談してください…」
暖かな慈雨が降り注ぐ
少女の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちていた
◇
―――この人は自ら悪役に成り下がろうとしている
自分からしてみたら悲しすぎる決意。到底真似出来る事ではない
選別を仕掛けて自ら悪役になり、そして道しるべとして果てるつもりだろう
―――たった一人で
自分を身を挺して護り、そして死んでしまった小十郎の姿がダブる
手段こそ違えどトレーズのやろうとしていることは小十郎と同じである
―――小十郎さんは死のうとしたことは一度もないって言ってたけど
抱きしめる手に力がこもる
―――この人は自ら死地を望んでいる
福路ははらはらと涙を流すことしか出来なかった
そして口をついてでたのはかつて池田華菜に対して自分が言った言葉
『先輩ってホント…おせっかいだし…』
そのとき池田が返した言葉を思い出す
―――でもね、華菜。アレはおせっかいじゃないの
いよいよ本格的にえづいてしまい呼吸が苦しい
―――あれは私自身に対する愚痴みたいなものだから
そう考えが至って改めて認識する
池田華菜という存在に自分を重ねていたことに
鏡映しになったもう一人の自分
それが福路美穂子の中の池田華菜だったのだ
そして自らの分身はもうこの世にいない
(華菜…華菜…)あとはもう言葉にならない
自らの分身を失った空白を埋めるかのように抱きしめる腕に力を入れる
今度こそ、失ってしまわないように。
トレーズはゆたかな胸に顔を埋めながら今度は本当に思いをめぐらせていた
「貴女はレディアンには、なれない…」
忠実なそして時に冷酷で時に慈愛に満ちた部下の名前を出してしまったのは何故なのか
トレーズ自身、分からなかった
■
トレーラーは再び動き出す。朝日に向かって
「ここから北東に行ったところに薬局がある。そこまでは送ろう」
手負いの人間が駆け込むであろう場所にトレーズは案内する
マローダー(殺戮者)とゲームに抗うもの―――わが心に刻まれしもの(エングレイヴド)
二者がぶつかり合う殺戮の宴の場と化しているかもしれない
だからこそ福路を向かわせる価値があった
「貴方はどうなさるんです?」
福路は再び右目を封印しシーツ一枚を身にまとい身を起こした
下腹部が幸福でズキズキする
「私は反対側に引き返し西側の市街地を周る」
ふと自らの”最大の理解者”を思い出す
「もし
張五飛という男に出会ったのならば、よろしく伝えてくれ」
―――素晴らしい闘志を見せてくれるだろう
「…貴女ともう一度出会ったその時、もし私が道を踏み”正し”ていたのなら
そして、その時に至っても私についてきてくれるというのなら
そのときこそ貴女をこう呼ぼう。―――レディミホコ、と」
レディミホコ…よくワケが分からないが、その名に含んだ思いが福路には嬉しかった
「はい」
片目の少女は幸せそうな笑顔で受け入れた
「あぁそれと―――」
福路はディバックに入れておいた”それ”を引っ張り出した
「せっかくですけどわたし髪留めをするほど髪が長くないのでお返ししますね」
トレーズは"それ"を後ろ手に受け取り確認した
純白のパンツを
―――やはりこの女性は苦手だ
「文化が違う!」
【E-4/一日目/午前】
【トレーズ・クシュリナーダ@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康
[服装]:軍服
[装備]:サブマシンガン、
片倉小十郎の日本刀 ゼロの仮面 マント
[道具]:基本支給品一式×2、薔薇の入浴剤@現実 一億ペリカの引換券@オリジナル×2 黒の騎士団のトレーラー 、純白のパンツ@現実
[思考]
基本:全ての参加者から忌み嫌われ、恐れられる殺戮者となり、敗者となる。
1:この争いに参加する。生き残るのに相応しい参加者を選定し、それ以外は排除。
2:ゼロの存在を利用する。
3:福路美穂子と再会し殺戮者として殺される
[備考]
※参戦時期はサンクキングダム崩壊以降です。
【E-4/薬局前/一日目/午前】
【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:健康
[服装]:黒の騎士団の服@コードギアス、穿いてない
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品(0~1)(確認済み)、六爪@戦国BASARA
[思考]
基本: 殺し合いには乗らない。対主催の仲間を集める
1:薬局に向かい政庁→公園→学校→ホール→展示場→タワーと周り同志を募る
2.:みんなが無事に帰れる方法は無いか考える
3.トレーズと再会したら、その部下となる
4.:
伊達政宗を探し出して六爪を渡し、小十郎の死を伝える
5.:
阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら?
6.張五飛と会ったらトレーズからの挨拶を伝える
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
※
ライダーの名前は知りません。
※トレーズがゼロの仮面を被っている事は知っていますが
ゼロの存在とその放送については知りません
【黒の騎士団の服@コードギアス】
黒の騎士団発足時に井上が着ていたコスチューム
超ミニスカ
【純白のパンツ@現実】
福路美穂子がかぶったパンツ。
例えそれを髪留めとしか認識できなかったとしても驚いたり引いてはいけない
我々とは文化が違う
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最終更新:2009年12月07日 22:55