狂気の拠り所 ◆lDZfmmdTWM
風を切り、音を立てて疾走する一騎のバイク。
その速度を示すメーターは、既に最大限の値まで届いている。
デュオ・マックスウェルと
両儀式の二人は、目的地を目指して一直線に突き進んでいた。
当初と同じ目的地―――北へと。
「……良かったのか?」
プリシラの亡骸を見届け、走り出してからしばらく程経った頃。
ふと、式がデュオに一言だけ尋ねる。
考えた末に出した、北上するという結論に対しての初めての問い。
目的地をどうするかは確かに一任こそしたが、一応は聞いてみるべきだろう。
そう考えてかの発言だった。
「ああ……どうせ、どっちを選んだとしても悩むのは同じだしな」
デュオにとっても、デパートか敵のアジトかの二択は、悩んだ末のものだった。
どちらを選んでも確かにメリットとデメリットはある。
全ては、その両者の度合いを考慮した結果として導き出された。
まず、敵のアジトへ向かうという選択肢を選んだ場合。
それは文字通り施設の意味を確かめる事であり、その『場所』を調べる事。
その一方、デパートへ向かうという選択肢を選んだ場合。
その目的はゼクスに出会う事であり、『人物』と接触する事。
『場所』と『人物』。
この両者の大きな違いは、どちらが確実かという点である。
そう……後者には移動する可能性が会ったが故に、向かう事を戸惑ったのだ。
―――動いてなけりゃD-6のデパートにゼクスって奴がいる。聞きたいならソイツにでも訊きやがれ。
一方通行が残した言葉は、ゼクスが移動していなければという仮定での言葉だ。
逆に言えばそれは、ゼクスがデパートから離れている可能性が十分にあるという意味でもある。
更に、思い返せば一方通行は何時頃にゼクスと接触し、分かれたかを一言も口にしていない。
故にデュオは、デパートへ向けては動けなかったのだ。
ゼクスと接触できなかった場合、得られるものは当然ながら何も無い。
ただですら時間を消費している現状、そんな賭けに出るわけにはいかない。
「まあでも、デパートと駅の位置はかなり近いんだ。
案外、ゼクスと
セイバー達が接触してるって事もありえるわけだし、どうにかなるだろ」
「その場合、あの一方通行とかいう奴には不本意だろうがな」
「ハハッ、違いねぇぜ」
希望的観測を言うならば、デパートから最も近い施設は、他でもない合流地点の駅という事。
ゼクスが駅に残った者達や戻ってきたスザクと接触する可能性も、そう低くは無い。
ならば、合流したその時に改めて話を聞けるだろう。
ただし問題があるとするならば、ゼクスがもしも殺し合いに乗っていたらという事だが……
(いや……一方通行の言葉からしても、あいつは殺し合いを壊そうとしている側だ。
リリーナが死んだ事で、取り乱してるかもしれねぇが……敵とは言え、ここは信じるしかないな)
断定こそ出来ないものの、彼は殺し合いに乗っていないと判断しても十分だろう。
一応はゲームを壊そうと考えている一方通行と接触し、情報交換を行なったというのであれば、彼も同じ立場だろうと判断は出来る。
無論、これがデュオの全く知らない第三者ならばそうはいかないが、相手はゼクス=マーキスだ。
彼の性格からして、殺し合いを良しと思わぬ事は間違いない。
ゲームを壊す側を演じる殺人者になっているというパターンは、流石に無いだろう。
ならば、何故断定できないか……それはやはり、リリーナの死だ。
まさか、ゼクスが彼女の為に優勝を目指そうなんて事は流石にありえないと思うが……
そう言える以外、全く行動の予想がつかない。
「……大丈夫だろ」
「ん?」
そんなデュオの悩みを見抜いてか、式は彼に呟いた。
「阿良々木は兎も角、真田とセイバーの二人がやられるなんて事はそうそうないだろ」
「……成る程ね」
言われてみれば納得する。
幸村はその体つきや身の振る舞い等を見る限りでは、かなりの手馴れと判断できる。
セイバーに至っては、直にその実力を見ているから説明不要だ。
一般人の阿良々木は別として、仮にゼクスがあの二人と同時に戦ったとして、勝ち目があるか?
答えは、もはや言うまでも無いだろう。
(……改めて考えると、さっきの戦闘といい、洒落にならなさすぎる奴が多すぎるぜ)
◇◆◇
「さて……そろそろだな。
一体、何が出てくる事やら……」
それからしばらくした後。
二人は予想していたよりかはやや早く、目的地の近くまでやってきていた。
どうやら、時間のロスを無くすべく最短のルートを最速で走った事が、功を奏したようだ。
敵のアジトという如何にもな名前の施設。
幸村程ではないにしても、気にならないといえば嘘になる。
やはり、アジトの名に相応しい特殊な施設か。
それとも、難攻不落の名が似合う巨大な要塞か。
果たしてどんなものが待ち受けているか、デュオは息を呑んで進み……
「……ハァ?」
そして、素っ頓狂な声を上げた。
それも当然、目の前の施設を見れば誰だってそう思うはずだ。
敵のアジトなんて大層な名前をつけられた施設が……
「これ……マンションか?」
マンションだったなんて、誰が予想していただろうか。
しかし敢えて言うならば、どこにでもある様なマンションとは見た目がやや異なる。
見る限り、一階と二回は普通の建物。
しかしそこから上は、半円形をした10階建ての二つの住居棟が隣り合う様に建ち、
その中心部を円柱―――恐らくはエレベーターがある部分―――が繋いでいる。
言うならば……そう。
『太極図』を模したかのような形だ。
「……ったく、拍子抜けしちまったぜ。
どんなやばいのが出てくるかと思ったら、ちょっと見た目の変わったマンションなんてよ。
なあ、式?」
流石にこれには、デュオも溜息をつかざるを得ない。
横にいる式も勿論同じだろうと、彼は同意を求める……が。
「……敵のアジト、か。
確かに、こいつはその通りだな……」
逆に、式の表情はかなり真剣なものになっていた。
目の前の建物を、しっかりと見つめている……睨んでいると言ってもいいだろう。
その様子を見て、デュオはまさかと感じた。
普通、このマンションを見てここまで真剣になれる奴なんているわけがない。
しかし……
「……式、まさかお前、こいつを知ってるのか?」
建物の意味を知っているならば、話はまた別になる。
「ああ……小川マンション。
こいつは、俺にちょっと縁がある場所さ」
『敵』のアジト……その敵とは、式にとっての全ての黒幕。
すなわち、魔術士荒耶宋蓮の事。
そして目の前にあるマンションの名は、小川マンション。
荒耶の工房にして、根源へと辿り着くべく生と死が人工的に繰り返されている実験場。
式の脳裏に深く焼きついている、忘れられない場所のひとつだ。
「入るぞ、デュオ。
少し気になる事がある」
「え……あ、ああ」
駅で会って以来、はじめて式の方から行動の意志が告げられた。
デュオはそれに戸惑いつつも、内部の様子を確かめるべく、バイクを入り口につけて降りる。
そして中に入ろうとする、その寸前で。
「ああ、言い忘れてたけど、このマンションには人の精神に異常をきたしやすい仕掛けがしてある。
しっかりと意識を保っておけばどうにかなるとは思うが、気をつけろよ」
「な……!?」
さらりと、かなりとんでもない言葉を告げられた。
どういうことだと抗議をしようとするも、それよりも早くに式は内部へと入っていた。
デュオは当然の事ながら、今告げられた式の言葉が心に引っかかり、入る事を躊躇する。
しかし、このまま置いていかれるわけにもいかず……少しした後、意を決して足を踏み込んだ
◇◆◇
「うへぇ……これは確かに、気が狂いそうになるぜ」
マンションの内部に入り、デュオは式の言葉の意味を理解した。
床はところどころに微量の傾斜を着けることで、平衡感覚を狂わせ。
その概観は、塗装と照明の使い方で目に負担をかけてくる。
作為的に、マンション全体が人の精神を狂わせる構造にしてあるのだ。
ただし、これはデュオが先に式からその事実を告げられていたからこそ認識できているのであり、
何も知らぬ者がここに来れば、この様な仕掛けがしてある事なんてまるで気付けないだろうレベルだ。
もっとも、この仕掛けさえも予備的なものであり、荒耶による建物全体に施された
魔術的な措置での精神異常を狙うものこそが本命ではあるのだが、デュオにはそれを知る由など当然ない。
「敵のアジトなんて怪しい名前にしておいて、何も知らない奴がここを重点的に調べようとすれば、
やがては気が付かないうちに精神に異常をきたしていく……とんでもない罠だな」
名前からして怪しく、何かしらの罠に違いないという可能性は考えていた。
しかし……まさかここまで酷いとは、完全に予想外だった。
この仕掛けは、自分達の様に対主催派の人間ですらも、殺し合いに乗せる可能性がある悪辣な代物。
式の言葉が無ければ、デュオとて調べているうちにどうなっていたか分からない。
「後は、そんな風になってる先客がいない事を祈るだけなんだが……」
不安を感じ、周囲を警戒しつつデュオは先に行く式の後を追いかける。
すると、階段を上がって東側の住居棟へと足を踏み入れた、その矢先。
「……いたぞ、先客なら」
「何だって!?」
式から告げられるやいなや、すかさずデュオは銃を抜いた。
最悪の予想が当たってしまったと、彼は舌打ちをして内心毒づく……が。
少しして、式が溜息と共に口を開いた。
「落ち着け。
先客は確かにいたが、こいつはもう生きてねぇよ」
そう、先客は『いる』のではなく、『いた』のだ。
既に物言わぬ屍と化した、哀れな男が。
「……マジかよ」
「こんなところでギャンブルなんて、自殺行為もいいところだぜ」
式が見つめるその先にあるのは、本来のこのマンションには存在しなかった一室。
『ギャンブルルーム』という説明書きがなされた、巨大なモニターの設置された部屋である。
その中で、骸―――
兵藤和尊は、驚愕の表情のまま椅子に座っていた。
死因は分かっている。
椅子の隣に設置された、病院でよく見る採血器の様な道具だ。
この男は、文字通り命を賭けたギャンブルに挑んだのだ。
「デュオ、分かるか?」
「ん~と、ちょっと待ってくれよ」
式に言われ、デュオはギャンブルルームに備え付けられていた端末を操作してみる。
まさか、何のメリットも無しにこの男がギャンブルに臨み死んだとは思えない。
ならば、このギャンブルには……
「やっぱりな……予想通りだ」
モニターに、このギャンブルルームについての説明書きが表示される。
分かった事は、大きく分けて四つ。
まず一つ目が、この会場中に同様のギャンブル設備が備えられているという事。
二つ目が、このギャンブルは100点につき10万ペリカ、もしくは10ccの血液で支払われる麻雀である事。
三つ目が、勝利すればペリカを得られる。
更に相手が死亡した場合はその所有物も得られる―――どんな仕組みかは分からないが―――という事。
そして四つ目は、ギャンブルに参加したら逃げ出す事は出来ず、無理に何かをすれば首輪が爆破されるという事だ。
「こいつを利用すれば、腕っ節の弱い奴でも十分に誰かを殺せる上、ペリカまでもらえる。
ってことは、この爺さん……殺し合いに乗りやがったな」
「そして、返り討ちにあって死んだ、か」
この説明を見れば、目の前の老人が殺し合いに乗って死んだことは明らかだ。
驚愕の表情を見る限り、ギャンブルには自信があったに違いない。
まさか、己が敗北するなどとは思ってなかったのだろう。
事実、兵藤和尊の博才は会場内でもトップクラスだ。
「……運が無かったな」
だが……結局の所、彼は不幸だったのだろう。
機械越しの勝負であるが故に、その観察眼も働かず。
ギャンブルで己が命を晒した経験も無い為に、場馴れをしておらず。
そして……この小川マンションで勝負に臨んでしまった事もまた、少なからずその敗因だったに違いない。
人の精神を狂わせるこのマンション内で、精神力を使う麻雀というギャンブルに挑む事は、その時点で大きなハンデだ。
もしも兵藤がその事実に気付き、別の施設に移動した上で勝負を挑んでいたならばどうだろうか。
兵藤は、トレーズに殺されずにすんだのか?
逆に、兵藤がトレーズを殺していたかもしれなかったか?
それは確かに、ありえない話ではなかっただろう……だが、もはや今となっては完全なIFの話だ。
「それで式、このギャンブルルームがお前の言う、気になっていたって事か?」
「いや……確かにこいつは予想外だったが、それは違うぜ」
式は軽い溜息をついて答えた。
確かにこんな部屋が設置されていた事は予想外だったものの、彼女が気になっていた点は別にある。
それは、このマンションの住人……荒耶によって、延々と生と死を繰り返される者達がいるかどうかであった。
式はかつてこのマンションに乗り込んだ際、荒耶が操るその生きた死体達を相手に戦った。
もしかすれば、また同じことになるのではと予想していたが……どうやら、この予想は外れたらしい。
このマンションには、住民がいる様子は一切無い。
「このマンションはどうやら、中身がところどころ本物と代わってるみたいなんだ。
多分、殺し合いの為にいじられたんだろう」
「成る程な……それでどうする?
もう少しここを調べてみるか、それとも……」
問題は、これからどうするかであった。
もうしばらくこのマンションを調べてみるか、それとも立ち去るか。
アジトの正体そのものは分かったから撤退も確かに一つの手だが、
このギャンブルルームの様な殺し合いに関係した部屋が、もしかしたら他にもあるかもしれない。
調べるだけの価値はあるが……
「……いや、ここは引き上げるぜ。
丁度良い手土産もあるし、長居は無用だ」
式は死体を、正確には死体の『首』を指差しながら答えた。
彼女としてもこのマンションは確かに気になるが、時間的な事を考えるとここは引き上げた方がいい。
それに……目の前には丁度、自分達を縛り付けている厄介なものがある。
先程プリシラの遺体を目にした時は、デュオの機嫌を損ねるのが面倒で言わなかったが、今は別だ。
駅で待つ三人にこれを見せれば、何か解除の手がかりを得られるかもしれない。
「手土産か……確かにその通りだけど、あいつ等でこれをどうにかできると思うか?」
「さあな、人は見かけによらないっていうだろ?」
式はルールブレイカーを遺体の首元に当て……一閃。
死の線に沿っての斬撃で、見事に首を切り落とす。
そして残された胴体から、首輪を難なく取り出した。
「さて、それじゃあ行くか」
「出来る事なら、こんな危ない場所はぶっ壊しておきたいけど……やっぱ無理だよな?」
「流石に、マンション一個解体するのは俺でも無理だな」
この危険地帯をこのまま放置していく事に関してだけは、流石に不安はある。
しかし、これだけの建物を破壊する手段も無い以上、やむを得なかった。
ありったけの爆薬か、それかいっそモビルスーツでもあれば楽なのだが……そう思いつつ、デュオは溜息をつく。
考えたところで、無い物は無いのだから仕方が無い。
◇◆◇
(……『敵』のアジトか……)
階段をくだりつつ、式は施設の意味を考える。
何故、この小川マンションが『敵のアジト』なんていう名前で地図に書かれていたのか。
もっとも自然なのはやはり、先程デュオが口にした通り、訪れた者の精神異常を狙うのが目的の罠という可能性だ。
しかし……本当にそれだけなのだろうか?
(……いや。
首輪の事も考えると、そうとは言い切れないな)
この敵=荒耶宋蓮という事が分かるのは、会場にいる参加者ではたった二人。
両儀式と
黒桐幹也のみだ。
そして、首輪の死が見えにくくされていたあの仕掛け……明らかに、式の事を意識している。
(まさか……?)
自分の事をここまで徹底して意識する相手に、式は一応の心当たりがあった。
あの男が裏で仕組んでいるのならば、全ての説明はつく。
一つ気がかりがあるとすれば、『参加者』としてあの魔術士がこの場にいる事だが……
ありえない話ではないだろう。
他ならぬ、式にとっての敵……荒耶宋蓮が、この殺し合いの根底に関わっているのかもしれないという事が。
【A-5/敵のアジト内/一日目/午前】
【デュオ・マックスウェル@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康
[服装]:牧師のような黒ずくめの服
[装備]:フェイファー・ツェリザカ(弾数5/5)@現実、15.24mm専用予備弾×93@現実、
BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[道具]:基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、メイド服@けいおん!
[思考]
基本:なるべく殺したくはない。が、死にたくもない。
1:D-6の駅に正午までに戻り、セイバー達と合流する。
2:
明智光秀、
平沢憂には用心する。
3:デスサイズはどこかにないものか。
[備考]
※参戦時期は一応17話以降で設定。ゼクスのことはOZの将校だと認識している。
正確にどの時期かは後の書き手さんにお任せします。
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました。
【両儀式@空の境界】
[状態]:健康、荒耶に対する僅かな疑念。
[服装]:私服の紬
[装備]:ルールブレイカー@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式、首輪、ランダム支給品0~1
[思考]
1:荒耶がこの殺し合いに関わっているかもしれないと考え中。
2:とりあえずはデュオと共に駅に戻るつもりだが、それからどうするかは不明。
3:黒桐は見つけておいた方がいいと思う。
4:光秀と荒耶に出会ったら、その時は殺す。
5:首輪は出来るなら外したい。
[補足]
※首輪には、首輪自体の死が視え難くなる細工がしてあるか、もしくは己の魔眼を弱める細工がしてあるかのどちらかと考えています。
※荒耶が生きていることに関しては、それ程気に留めてはいません。
しかし、彼が殺し合いに何かしらの形で関わっているのではないかと、疑念を抱いています。
※藤乃は殺し合いには乗っていないと思っています。
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました
【小川マンション】
荒耶宋蓮が、根源に近づく為の実験場として用いていたマンション。
半円形をした10階建ての生活棟が隣り合い、その中心を円柱が繋いでいるという奇妙な形をしている。
荒耶による魔術的な措置や、建物自体の構造から、中にいる者の精神に異常をきたしやすいという特徴がある。
これは、原作にて燈子が黒桐に「気をつけろ」と発言した事から、
この事を自覚するか、もしくは強い精神力の持ち主ならば、耐えられると思われる。
このロワでは、本来いた筈の住人達は誰一人として存在いない。
また、3階にはギャンブルルームが一室設置されているなど、本物とは若干違う点も見られる。
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最終更新:2009年12月21日 22:10