彼女らが恋した幻想殺し/彼の記憶 ◆1aw4LHSuEI
例えば
上条当麻にとって
月詠小萌はどういう存在だったのか。
例えば上条当麻にとって
御坂美琴はどういう存在だったのか。
今の上条当麻にはそれを判断しきることは出来ない。
それは彼が記憶喪失者であるからだ。
今まで彼女らと、どれだけのものを積み重ねてきたのか。
思い出せない。
思い出すことは無い。
正確に言えば。彼の記憶は破壊されているのだから。
きっとそれは悲しいことだった。
だから。
上条当麻は望んだ。
今までの思いを取り戻すことが出来ないのなら。
これから積み上げていけばいい。
代わりになんてならないけれど。
それでも積み重ねていくしかない。
きっといつか。
それまで以上のものを手に入れられると信じて。
悲しませないために。
誰にも言わずに。
一人で誓った。
だけどそれはもう果たせない。
月詠小萌は死んだ。
御坂美琴は死んだ。
未来なんて無かった。
幻想なんて混じりようの無い。
ただ、純粋な現実がそこにはあった。
□ □ □
厳かにしめやかに。
第一回放送は終了した。
名簿未掲載の人物。
禁止エリア。
死亡者。
露骨なヒント。
そのなかで、見知った名前が何度か呼ばれた。
安藤守。
つい数時間前に出会い、そして再会を誓って別れた相手。
正直、あいつに関しては何も知らないようなものだ。
だけどそれでも。あいつは本気でこんな狂った殺し合いを止めようとしていたことは分かる。
そんなあいつが、死んでいいはずはない。
死んでいいはず、なかったのに。
月詠小萌。
この放送まで、ここにいることすら知らなかった恩師。
知りえたときには死んでいた。
まるで小学生のように幼い外見と広い度量。
記憶を失ってからでも何度自分は彼女に救われただろうか。
だが。その恩はもう返せない。永遠に。
御坂美琴。
記憶が消える前に何があったんだか、俺によくつっかかてくる中学生。
ビリビリ。超電磁砲。学園都市最強のレベル5。女の子。
俺を殺せなかったあの子。
俺の前で泣いたあの子。
何があっても守ると誓ったあの子。
死んだ。
禁書目録は事務的にその死を告げた。
空気が冷たい。
握り締めた手が痛い。
認めたく、ない。
「……嘘、だろ」
「その可能性は限りなく低いでしょうね」
俺、上条当麻一人しかいなかった筈の事務室に他の声が混じった。
はっとして顔をあげる。
戦場ヶ原ひたぎが、腕を後ろに回して、談話室の扉を開けて、立っていた。
「―――どういう、意味だよ。戦場ヶ原」
「言ったとおりの意味よ、上条くん。嘘をつく意味がない。ついてもすぐにばれる。そんな嘘をつく理由はない。
……少し考えればあなた程度の頭脳でも分かるはずよ?」
にこりともせずに、戦場ヶ原は言い切った。
その瞳は温度が低く、値踏みされているような感覚を覚える。
「―――知り合いが死んだのね?」
俺が何も言い返せずにいると、戦場ヶ原は続けて聞いてきた。
「……だったらなんだよ」
言葉がきつくなる。気分が悪い。機嫌が、悪い。
俺にこんなことを確認して、こいつは一体なにを言いたい――
「率直に聞くわ。上条くん
あなた、ひょっとしたら乗るのかしら――?」
□ □ □
「な…………! お前、なに言って……?」
投げかけた言葉への反応は、予想していた通りの純粋な驚き。
やっぱりつまらない男ね。折角真似をして主語を切ってみたんだから、つっこみぐらいして欲しいものね。
そんなことを私、戦場ヶ原ひたぎは思う。
まあいいわ。それより今は訊いておきたいことがある。
「あなたこそ何を言っているのかしら、上条くん。知り合いが、死んだのでしょう?
それも大切な知り合いだったのでしょう? 一瞬でも、生き返らせたいとは、思わなかったのかしら?
主催者が信用できない? あいつらはそんなことしても喜ばない? 誰かを犠牲にして誰かを生かすなんて間違ってる――?
くだらないわね。それでも本当に大切なら、すがりたくなるものでしょう。恨まれたって、呪われたって、生きていて欲しいものでしょう。
世界全てを犠牲にしたっていいと思えるものでしょう――? そうじゃないっていうことは結局その程度にしか思ってなかったってことよね?
だとしたらそれはそれで悲しい話だと思わない? 特にあいつはそんなことを望みはしない、なんて。
死んだ人間は何も思ったりはしないわ。だったら、それは生きてる人間の問題よ。死人のせいにするなんて問題外。
生きてる人間が、自分の責任と自覚を持って、見捨てるか助けるか、選ぶべきじゃないかしら。
そうよ。生き返らせる手段があるのに、それを選ばないだなんて見捨てることとなんら変わりないわ。
それだけじゃない。そうね、復讐なんてものを考えたりは、しないのかしら。
誰かが死んだと言うことは、誰かが殺したと言うことで、間違いないでしょう。まさか、事故死なんてことはないわよね。
当然、上条くんの知り合いを殺した人間も存在する。その人のことが、憎くはないかしら?
腹いせにそいつを殺したいと、思ったりはしないのかしら。いいえ、自分の大切な人を殺した奴なんて死んで当然だとは思わない?
上条くん、聞かせてもらいたいの。ねえ、聞きたいのよ、あなたの言葉を。正義感たっぷりの甘い言の葉を。
それは、あなたの大切な人が死んだ後でも、自己満足だと分かった後でも、十全に吐けるものなのかしら――?」
上条くんは暫し呆然と私を見ていた。
……嫌だわ。ひょっとして私の言ったこと、難しすぎたのかしら。
それとも、今更見惚れているとか。
困るわね。阿良々木くん以外の男の子からの好意なんていらないのだけれど。
はあ……。そんなことを考えているといつの間に立ち直ったのか目の前の愚鈍な彼がため息をついていた。
「……お前さ、俺に殺し合いに乗って欲しいのか?」
「聞いているのは私よ。疑問文に疑問文で答えろとあなたは学校で教わったのかしら?」
呆れたような顔をしている上条くん。
ふうん。これはちょっと意外かもしれない。
彼はもうちょっと熱血に―――
「―――じゃあ、答えてやるよ」
ほらきた。
「戦場ヶ原、お前は言ったよな。大切な人なんじゃないのかって。ああ、そうだよ。
俺にとって、小萌先生は、掛け替えのない恩人だし、御坂は俺が絶対に守らなくちゃいけなかった奴だ」
朝の光が差し込む駅長室に彼の声が響く。
眼は私を見ている。真剣な瞳。
うん、阿良々木くんには似ていないわね。
そんな私を余所に彼は言葉を続ける。
「―――だけど、それでも! そのために誰かを犠牲にしていい理由になんてならねぇだろうが!
俺にとって大切な誰かがいるように、他の奴らにだって大切な奴がいるんだ!
放送で名前を呼ばれた14人、開会式で殺されたあの子にだってそういう存在がいたはずだ!
お前も阿良々木くんが大切なんだろ!? じゃあ分かるはずだ!
死んでいい奴なんていねぇんだよ! 殺されても仕方ないなんてことはねぇんだ!
大切な人を殺されたからって――その復讐をしていい道理なんてないんだよ……!
なあ、戦場ヶ原――お前だって分かってんだろ!? 誰も犠牲にしない道が一番いいってことぐらい!
だったら、だったらそれを目指すだけだろ……?
悲しいからって、考えることをやめて、楽なほうに逃げるなんて、そんなこと選べるかよ……!
そうだ。もしも。このゲームが誰かを犠牲にしなけりゃ生きていけないって言うんなら――」
――――俺が、そのふざけた幻想をぶち殺す。
上条くんは熱く言い切る。
迷いの色はない。
不思議。
どうしてこんなことを自分の知り合いが死んだ後でも、平然と言えるのかしらね。
本当に、大した「偽善使い」だ。
□ □ □
「上条くん。あなたのこと、少しだけ阿良々木くんに似てるかと思ってたけど、やっぱり間違いだったわ」
そして俺の言葉を聴いた戦場ヶ原の反応はこんなだった。
「阿良々木くんはね、誰にでも優しいの。でも、あなたは違うわね。――上条くん。あなたは誰にでも厳しいのよ」
……どういう、意味だろう。体中で高まっていた熱が引いていく。
というか、落ち着いて考えてみたら、こいつは結局俺に何を言いたかったんだ……?
戦場ヶ原はこの話はこれでおしまい、とでも言うように息を吐いた後、違う言葉を言う。
「……もう、大丈夫なのかしら?」
その台詞に気遣いの色を感じられて、俺はこいつの心理を理解できたような気がした。
「……戦場ヶ原、お前まさか、俺をさっさと立ち直らせるためにあんなこと――」
ゴトン。
俺の台詞の途中で、なにか重いものを落としたような音が響いた。
音源に向かって目をやると、それは戦場ヶ原ひたぎの足元。
そこに、なにやら『バールのようなもの』が落ちていた。
「…………」
「…………」
「あら嫌だ。気が緩んで落としてしまったわ」
「……あの、戦場ヶ原さん? その物騒な獲物で上条さんに、何をするつもりだったんでせうか……?」
俺の質問に戦場ヶ原はさらりと答えた。
「勿論、上条くんがゲームに乗る気だったときに、先手必勝といくために決まっているじゃないの」
「危険な女だーーーっ?!」
ずっと後ろに手を回していたのはこのためだったらしい。
……ていうかこいつ全然俺のこと信用してないし慰める気もねーですよ!?
「文房具って使い勝手はいいのだけれど、直接殺傷力に欠けてしまうのよね」
「思いっきり俺を殺す気だったな、お前!」
「そんなことよりも上条くん」
「俺の命の問題はそんなことなのか?!」
「そろそろ出発しましょう。ここに留まる意味もあまりないことだし」
俺の言葉は完全にスルーですかそうですか。
戦場ヶ原はデイパックより猫三匹を取り出して、変わりに『バールのようなもの』を入れた。
ああ、一回アーサーに邪魔されたからな……。先に入れてたのか……。準備万端なことですね……。
……ん? いや、ちょっと待て。
「……出発するってお前、もう大丈夫なのか? さっき倒れてたじゃないか」
「今しがたまでそれを忘れていた人に心配されても嬉しくはないのだけれど、大丈夫よ。
一時間ほど寝させてもらったわ。それに放送で告げられた電車の復旧は6時間後。
そんなにじっとしていられないわ」
「……大丈夫ならいいけどな。無理はするなよ?」
強がってるし、思想も行動も危険だけどこいつも女の子だし……
……って、何でこの女、上条さんを親の仇を見るような目で睨んでるんですか!?
「……誰にでもフラグが立つと思ったら大間違いよ」
「……えっと。ギャンブル船に行くんだよな。電車使わないってことは……どっち周りで行くんだ?」
なにやら呟いていらっしゃる台詞は無視して、気になったことを聞いておく。
今居るこの駅からギャンブル船の間には川があり直線で進むことは出来ない。
そのため橋のある右か左に進むことになるのだが……どちらの方がいいんだ?
「何を言っているのかしら、上条くんは。ギャンブル船には行かないわよ」
「……は? な、なんでだよ」
突然の戦場ヶ原の言葉。
どうやってギャンブル船に行くかばかりを考えていた俺は、少々面食らわさせられた。
「上条くん、あなたって本当に頭が悪いわね」
「お前は本当に性格が悪いよな!?」
隙あらば罵られてる気がするぞ!
しかしそんな俺のつっこみを、またしてもスルーして、戦場ヶ原はさらに問う。
「そもそも私たちがギャンブル船を目指した理由って何だったかしら?」
「それは……安藤に、ギャンブル船に集合って言われたから……あ」
「そうね、安藤って男は死んだわよね。そしてあの話をするのは私たちが初めてのようだった。
私たちと会った後でどれだけの人間と会えたのかしらね? まあ、少なくとも一人は確定しているけれど」
それは誰だ。なんてことは、流石に俺でも訊きはしない。
「そう、安藤を殺した人間。……今、私たちに持てる情報ではギャンブル船に多くの参加者が居るとは考えにくい。
だけれども、殺人者が待ち構えていてもおかしくない。そんな場所なのよ」
……なるほどな。確かにそう考えればメリットは薄い。
だけど、いいのか?
「……その集まってる数少ない参加者に愛しの阿良々木くんがいるかもしれないぞ?」
「――それは、どこへ向かっても同じことよ。それに、とりあえずギャンブル船を第一目標にするのをやめましょう、っていうだけなのだし。
別にギャンブル船に、今後一切何があっても絶対に近づかない、なんてつもりはないわ」
「お前がいいならそれでいいけどな……。で、どこにいくんだ?」
「そうね……。当面の目標としては、近いということもあるし薬局でも目指しましょうか」
と、まあ。
では出発しよう、という空気になったときに。
なー。にゃー。にゃああ。
ちょっと待ったとばかりに猫三匹がまとわりついてくる。
……ああ。そうだな。うん、俺もわかるぞ。お前らの気持ち。
「……戦場ヶ原。とりあえず飯食ってからにしないか?」
□ □ □
もぐもぐ。
はむはむ。
がりがり。
なあなあ。
なんとなく落ち着いたら気まずくなったのか。互いの会話は特にない。
八畳ほどの部屋に響くのは咀嚼音、猫の鳴き声。
基本支給品に付いていた、缶詰に乾パンの食事。
……あまり美味しくはないわね。
「なあ、戦場ヶ原」
なにかしら。
彼の声に目線だけで応える。
口に食べ物を含んだままで話すような、はしたない女ではないのだから。
「……殺すなよ」
あらあら、唐突に上条くんは何を言いたいのかしらね?
「阿良々木くんも、お前も、絶対に俺が守って見せるから。――だから、誰も殺そうとするなよ」
私は答えない。
彼は一方的に告げただけで満足したのか、ペットボトルの水を口に含んで、それ以上の会話を止めた。
私も気にしない。
阿良々木くんに会わせてくれるなら何も問題はないのだし。
ねえ、阿良々木くん。会いたいわ。
あなたは今どこで何をしているのかしら。
私のことを考えていてくれているかしら。
まさか、他の女の子のことを思っていたりはしないわよね?
そんなことを一人で考えていても、当然返事はなくて。
やっぱり、それが少しだけ寂しいと思った。
【F-5/駅構内談話室/一日目/朝】
【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
[状態]:疲労(中)、食事中
[服装]:直江津高校女子制服
[装備]:文房具一式を隠し持っている、スフィンクス@とある魔術の禁書目録、
アーサー@コードギアス 反逆のルルーシュR2、あずにゃん2号@けいおん!
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3、確認済) 、バールのようなもの@現地調達
[思考]
基本:
阿良々木暦と合流。二人で無事に生還する。主催者の甘言は信用しない。
1:上条当麻に協力。会場内を散策しつつ阿良々木暦を探す。
2:神原は見つけた場合一緒に行動。ただし優先度は阿良々木暦と比べ低い。
3:ギャンブル船にはとりあえず行かない。未確認の近くにある施設から回ることにする。
[備考]
※登場時期はアニメ12話の後。
※安藤から帝愛の情報を聞き、完全に主催者の事を信用しない事にしました。
※安藤の死亡によりギャンブル船に参加者が集められているかは怪しいと考えています。
※猫三匹も食事中です
【バールのようなもの@現地調達】
何故か駅構内談話室にあった『バールのようなもの』
人を殴ったり、物を破壊するのに適した形をしている。
□ □ □
小萌先生。
御坂。
ごめん。二人とも。
俺は……何も出来なかった。
何も、してやれなかった。
インデックスは言った。14人が死んだと。
戦場ヶ原は言った。死んだ人間は何も思わないと。
だけど、俺は信じたい。
死んだ人間にも、消えてしまった思いにも意味はあると。
信じてる。
ごめん。
俺は二人を生き返らせない。
それは……戦場ヶ原の言うとおり、見捨てる、ということなのかもしれない。
それでも、死んでいい人間なんていない。
俺は二人のために他の人間を犠牲にしたりは、出来ない。
だから、俺は二人を救えない。
本当に。ごめん。
そして、
……待ってろ、インデックス。
必ずお前にそんな役目を押し付ける奴らから救ってみせるから。
もう二度とお前を泣かせたりしないから。
だって、それは。
きっと、消えてしまった『上条当麻』の望みでもあるんだから。
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、疲労(小)、食事中
[服装]:学校の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:インデックスを助け出す。殺し合いには乗らない。
1:戦場ヶ原ひたぎに同行。阿良々木暦を探す。戦場ヶ原ひたぎと3匹の猫の安全を確保する
2:インデックスの所へ行く方法を考える。会場内を散策し、情報収集。
3:壇上の子の『家族』を助けたい 。
4:そういえば……海原って、どっちだ……?
[備考]
※参戦時期は、アニメ本編終了後。正体不明編終了後です。
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最終更新:2010年10月11日 18:41