永遠の炎 - (2007/02/21 (水) 02:46:06) の1つ前との変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*永遠の炎 ◆q/26xrKjWg
ヴィータが死んだ。
昔――もう思い出せないほど遙か昔から、常に共にあった仲間。
そして、道を違えた敵。
どのような形であろうとも、違えた道が交わることは、もう、ない。
ヴィータから奪ったデイパックに入っていた、濡れた彼女の服。はやてが自分達にと与えてくれたものだ。
騎士甲冑と同じように。あるいは、もっと大切な何かと同じように。
何の因果か、それが今は自分の手元にある。
(死力を尽くさねばならない敵が一人減った。ただそれだけのことだ)
そんな思いとは裏腹に、服を握りしめる拳に力が入る。
濡れた服から雫が垂れた。
ヴィータが死んだということは、レヴァンティンを振るうヴィータすらも屠った猛者がいるということでもある。
そんな相手と正面切って戦うことになれば、確実に勝てるとはとても言い切れない。
生き残るためには、自分の持ち手を慎重に使っていく必要がある。
近接戦闘で用いる斧が一本。
遠距離からの狙撃を可能にする弓矢。矢は残り二十本。
銃が二丁。引き金を引くだけの力で人を殺し得る兵器。扱いに長けていなくとも、いざとなれば弾を当てる術はいくらでもある。
奇襲にも撤退にも使えるスタングレネードが四個。
切り札たるペンダント。カートリッジ一発分の魔力を有する。
そして、全ての戦術の要となるクラールヴィント。
今まで自分達が何の気兼ねもなく戦うことに集中していられたのは、シャマルの支援があったからこそだ――それをこの戦いの中で改めて思い知った。
対象の位置を把握する。
姿を隠す。
通信を傍受、あるいは阻害する。
傷を治療する。
クラールヴィントは多くのことを賄える。とはいえ、自分が使えばシャマルほどの効果は期待できないが。空間制御に至っては扱うことすら難しい。旅の鏡のような高度な術式は望むべくもない。
それでもなお、極めて有用なものであることには違いない。これからも最大限に活用していかねばならない。
索敵の感度と範囲とを増して、周囲の様子を伺う。
やはり生命反応はない――が、代わりにそれとは異なる何かに気付いた。魔力の反応ではない。反応がないわけでもない。ただ一点、反応がないという結果すらもないのだ。
幸い、電車の出発までにはまだ時間の余裕がある。
備えを少しでも充実させられる可能性があるならば、調査しておくのもいいだろう。先程のペンダントのような思わぬ収穫があれば儲けものだ。
(少し早いが……出るか)
そして、シグナムは立ち上がった。
ヴィータの服をその場に残して。
ほど近い場所にあったビル――であったもの。
それを瓦礫の山に変えたのは何なのか、もう伺い知ることはできない。あまりに時が経ちすぎている。
奥にそびえる鉄柱が二本。
鉄柱の下には、人一人”分”の屍。
少なくとも、これは自分とは違う生き方を選んだ人物だ。
何者かが瓦礫を掘り返し、屍を見付けだし、埋葬し、墓碑代わりの鉄柱を立てた。ただの殺人者がこのように弔われることなどあるはずがない。
一方でその何者かも、ここまで瓦礫を掘り返しておきながら、屍を押しやってまで他の何かを探そうとはしなかった。
やはり自分とは違う。
今の自分は、必要とあらば何だってできる。人殺しだろうが、死体漁りだろうが、墓暴きだろうが。
埋められていたのはただの肉塊ではない。むしろ、肉と呼べるようなものはほとんどないと言っていい。赤い液体を滴らせる金属や繊維の塊を、何の感情も抱かずに脇へと避けていく。
屍のさらに下。
瓦礫をいくつか取り除いて、ようやっとそれらを見付けた。
奇怪な形の短刀と、デイパックが一つ。
(原因はこの短刀だな)
ビルの倒壊に巻き込まれて無事だったことを考えれば、相当頑丈な代物ではある。いくら頑丈だとはいえ、どう見ても斬り合いには向かない形状だが。
この短刀が、魔法による探知そのものを完全に無効化している。故に結果すらない。
所謂ロストロギアのような、不可知の道具なのだろう。それも、AMF――アンチマギリンクフィールドと同質の何かを局所的に発生させる機能を有した。
この特殊な効果には何かしらの使い道がある。
とりあえず自分のデイパックに放り込んでおく。
続けて、血を吸って変色したデイパックに手を突っ込む。
まず出てきたのは、二つの真っ新なデイパック。
どちらも中身は大して役に立ちそうにもないがらくたばかりだ。それらは脇に捨て置いて、さらに中を漁る。
(これは――)
上等な拵えの柄に、すらりと伸びる鞘が現れた。またも日本刀である。
さすがに呑気に真贋を確かめているほどの時間はない。
持っていく価値がありそうなのはこのデイパックだけだ。それがよりにもよってどす黒く血に染まったデイパックだというのは、何とも自分にはお似合いの話ではある。
シャワーで洗い流したばかりの両手も、すっかり血で汚れてしまった。
大したことではない。
既に己が両手は業にまみれている。血の汚れなど、気にすることはない。
車内は閑散としていた。無論、乗客が自分一人だけだからというのが一番の理由だが、それだけが理由だというわけでもなかった。
妙に真新しい内装からは、人々の生活というものが全く感じられない。
スピーカーからは耳障りな放送がだだ漏れている。
聞かずに済むなら済ませたいものだが、そういうわけにもいかない。さりげなく重要な情報を流している。
『本列車は侵入禁止区域を通過する事があるギガガ~本車両内に限り皆様の安全を約束するギガ~』
参加者の自爆死ではなく殺し合いをこそ望むギガゾンビにとって、こんなことで嘘を吐いて首輪の爆破を誘発させても何ら面白くはあるまい。信用して問題ないだろう。
第二回放送を聞き逃している以上、この先にあるかもしれない禁止エリアの存在を無視できるのは有り難い。
そのままシグナムは腰を落とした。
座席ではなく、床の隅に。
座席に座って外から丸見えというのは、あまりに間の抜けた話だ。電車に乗っていることを誰かに気取られでもしたら、無駄に危険を抱え込むことになる。
そして、わずか数分の電車の旅が始まった。
鈍行をも下回る速度で、電車はのんびりと進んでいるようだ。周囲が田園風景ならばともかくとして、このような殺伐とした場所にはあまりに不似合いではある。
目を閉じ、周囲の気配を探りながら、そんなことを考えていた。
唐突に悪寒が走る。
シグナムは目を見開いた。
何者かの殺気、あるいは魔力を感じたわけではない。わざわざ傍受するまでもなく、クラールヴィントを通して流れ込んでくる情報の嵐。
その内容を即座に理解することはできない。が、意図を察することぐらいはできる。
(禁止エリアか!)
首輪に警告を与え、そして警告の後に爆破させるための通信。
にも関わらず、首輪が警告を発する気配はない。車内放送で言っていた通り、電車の中は安全なようだ。
出発してからの時間から察するに、今はちょうどE-4のあたりだろう。
もしクラールヴィントがなければ、自分が禁止エリアに突入したと気付くことすらできなかった――
(……何故だ?)
電車の外壁が通信を遮断しているわけではない。クラールヴィントに伝わっているのと同様に、この首輪にも伝わっているはずだ。
なのに首輪は警告を発しない。突然爆発することもない。
首輪の爆弾や禁止エリア自体がブラフだったのか。
この殺し合いが始まるその時に、二人の人間が爆死させられたのをこの目で見た。たまたまギガゾンビに楯突いた二人の首輪にだけ、たまたま本当に爆弾が付けられていた――それではあまりに都合が良すぎる。
禁止エリアに留まって爆死した者が出たと、先の放送にもあった。実際に何かしら仕掛けてきている以上、禁止エリアは有効だと見るべきだ。
それらを勘案すれば、ブラフの可能性は捨てざるを得ない。
では、どうして電車の中にいれば安全なのか?
加えて、先の短刀を思い出す。クラールヴィントによる探知を一切合切無効化していた短刀。
そのようなものを支給品として参加者に配るぐらいだ。普通に考えれば、禁止エリアでの探知を同じように無効化しない手はない。この通信に対して逆探知をされて、出元を暴かれるような危険性を残す理由がない。
探知しても無駄だとタカを括っているのだろうか。
それとも、わざと探知させているのだろうか。
あるいは――
――そこで、情報の嵐が途切れた。
E-4を抜けたのだろう。
ふと沸いた疑問に少しだけ熱くなっていた好奇心が、急激に醒めていくのを感じる。
E-4が第二回放送で聞き逃した禁止エリアのうちの一つである。
電車の中にさえいれば禁止エリアの影響は受けない。
重要なのは、たった二つの事実だけ。それ以外のことについてどれだけ考えようとも、今の自分にとってはもう無意味なことだ。
故に、シグナムは考えるのを止めた。
電車は予定通りにE-6の駅へと到着した。
ホームには薬莢が散らばっているが、それはもう過ぎ去った台風の跡だ。駅の構内およびその周辺にかけて、誰もいないことを既に確認している。
予想していたように、F-1の駅とほぼ同じ構造になっている。待ち伏せに使うのも悪くないだろう。
急いて事をし損じてはならない。
十分に状況を吟味して、それから駅を出るか待ち伏せるかを決めればいい。
ビルの倒壊現場で入手した刀を、今度はデイパックから完全に取り出した。
その抜き身を空気に晒し、じっくりと眺める。
幾分小振りの刀で、本来の使い手の体格と太刀筋に合わせてあるようだ。自分にとっては少々物足りないが、それでも実戦で使い込まれてきた風格は確かなものであろう。真贋で言えば、間違いなく真に当たる。
――と。
足下に一枚の紙が舞い降りた。
刀をデイパックから引き抜いた際に、一緒に出てきたもののようだ。ひとまず刀は鞘に収め、その紙を拾う。
――獅堂光の剣:獅堂光以外の”人”が触れたら対象を燃やす――
そう書かれている。
刀ではなく、剣と。
デイパックの中を覗き込むと、確かにもう一本、剣の柄らしきものが見える。
刀の存在だけを確認してこのデイパックを選んだが、これは嬉しい誤算だ。その特殊な仕様から鑑みるに、魔法に類する品である可能性が高い。
幸か不幸か、シグナムは”人”ではない。
死ねば何も残らない。
この地に数多く晒されているような屍すら。あるいは誰の記憶にさえも。
(高町なのは、それにテスタロッサは――)
たとえ二人がまだ生きていたとしても、二人が自分のことを記憶に残すはずがない。
死ぬ人間は記憶を残せないのだから。
二人とも死ぬのだ。殺されて。それが誰かの手によるものか、我が手によるものか。その程度の違いでしかない。
互いに好敵手と認め合ったフェイトとの決着も、もう果たされることはないだろう。偶然相見えることがあったとしても、真っ当な決闘とはいくまい。
殺せるならば確実に殺す。
己の身に危険が及ぶ前に逃げる。
自分に許されているのは、そんな戦い方だけだ。
ともあれ、死を超えて存在し続ける心などというものは有り得ない。
もしそれが実在するのであれば――
(……私の前に、ヴィータが立ち塞がったはずだ。何度でも)
――はやての心が、死を超えてなおここにあると証明するために。
もはや恐れるものなど何もない。何人たりとも己の信念を覆すことはできない。
唯一人、それを為し得たかもしれなかったヴィータは、もういないのだから。
はやての心が死によって失われたように、ヴィータの心もまた死によって失われた。死ねば何も残らない。意志は継がれず、ただ消えてゆく。皮肉なことに、ヴィータ自身の死によってそれは確かなこととなった。
なれば、あとは己の信念を貫き通すのみ。
必ず生き残る。最後の一人として。
「……剣よ。私は”人”か? それとも”人”あらざるものか?」
全ての想いを振り払って――振り払った気になって、抱え込んで――剣の柄を掴む。
そして一気に引き抜いた。
真っ赤な柄に、複雑な形状の鍔。長大な両刃の刀身。
燃やされることはない――いや、燃えるような何かだけは、確かに伝わってくる。
アームドデバイスではない。デバイスのような魔法補助装置ですらない。
匠の技で鍛え上げられ、実戦を潜り抜けてきた業物とも違う。
では何なのか。
これは、純然たる炎の意志だ。
炎の魔剣レヴァンティンに勝るとも劣らない一振り。己が炎の魔力を全て受け止められるだけの器だと確信する。
「そう、私は”人”あらざるものだ。ならば私は、一体何だ?」
剣は答えない。
身を焦がすほどの烈火を内に秘め、その刃に鈍い輝きを湛えるだけである。
【E-6/駅/夜】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:ほぼ全快/騎士甲冑装備
[装備]:獅堂光の剣@魔法騎士レイアース
クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA's
鳳凰寺風の弓@魔法騎士レイアース(矢20本)
コルトガバメント(残弾7/7)
凛のペンダント(残り魔力カートリッジ一発分)@Fate/stay night
[道具]:支給品一式×3(食料一食分消費)、スタングレネード×4
ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night
トウカの日本刀@うたわれるもの
ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾6/15)
[思考・状況]
1 :様子を見て、駅を出るか待ち伏せるかを決める。
2 :無理をせず、殺せる時に殺せる者を確実に殺す。
基本:自分の安全=生き残ることを最優先。
最終:優勝して願いを叶える。
[備考]
※放送で告げられた通り八神はやては死亡している、と判断しています。
ただし「ギガゾンビが騎士と主との繋がりを断ち、騎士を独立させている」
という説はあくまでシグナムの推測です。真相は不明。
※第二回放送を聞き逃しました(禁止エリアE-4については把握)。
※シグナムは『”人”ではない』ので、獅堂光の剣を持っても燃えません。
【F-1/ビル倒壊現場】アイテム状況
※以下については、シグナムに回収されました。
素子のデイパック(支給品一式、トウカの日本刀@うたわれるもの、獅堂光の剣@魔法騎士レイアース )
ルールブレイカー@Fate/stay night
※以下については、役に立たないと判断されてその場に残されています。
ルイズのデイパック(支給品一式、水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん、バニーガールスーツ@涼宮ハルヒの憂鬱)
士郎のデイパック(支給品一式、瞬間乾燥ドライヤー@ドラえもん)
※以下については、シグナムには発見されませんでした。
ジュンのデイパック(支給品一式)
ベレッタ90-Two、物干し竿 ベレッタM92F型モデルガン、
弓矢(矢10本)@うたわれるもの、オボロの刀(1本)@うたわれるもの
*永遠の炎 ◆q/26xrKjWg
ヴィータが死んだ。
昔――もう思い出せないほど遙か昔から、常に共にあった仲間。
そして、道を違えた敵。
どのような形であろうとも、違えた道が交わることは、もう、ない。
ヴィータから奪ったデイパックに入っていた、濡れた彼女の服。はやてが自分達にと与えてくれたものだ。
騎士甲冑と同じように。あるいは、もっと大切な何かと同じように。
何の因果か、それが今は自分の手元にある。
(死力を尽くさねばならない敵が一人減った。ただそれだけのことだ)
そんな思いとは裏腹に、服を握りしめる拳に力が入る。
濡れた服から雫が垂れた。
ヴィータが死んだということは、レヴァンティンを振るうヴィータすらも屠った猛者がいるということでもある。
そんな相手と正面切って戦うことになれば、確実に勝てるとはとても言い切れない。
生き残るためには、自分の持ち手を慎重に使っていく必要がある。
近接戦闘で用いる斧が一本。
遠距離からの狙撃を可能にする弓矢。矢は残り二十本。
銃が二丁。引き金を引くだけの力で人を殺し得る兵器。扱いに長けていなくとも、いざとなれば弾を当てる術はいくらでもある。
奇襲にも撤退にも使えるスタングレネードが四個。
切り札たるペンダント。カートリッジ一発分の魔力を有する。
そして、全ての戦術の要となるクラールヴィント。
今まで自分達が何の気兼ねもなく戦うことに集中していられたのは、シャマルの支援があったからこそだ――それをこの戦いの中で改めて思い知った。
対象の位置を把握する。
姿を隠す。
通信を傍受、あるいは阻害する。
傷を治療する。
クラールヴィントは多くのことを賄える。とはいえ、自分が使えばシャマルほどの効果は期待できないが。空間制御に至っては扱うことすら難しい。旅の鏡のような高度な術式は望むべくもない。
それでもなお、極めて有用なものであることには違いない。これからも最大限に活用していかねばならない。
索敵の感度と範囲とを増して、周囲の様子を伺う。
やはり生命反応はない――が、代わりにそれとは異なる何かに気付いた。魔力の反応ではない。反応がないわけでもない。ただ一点、反応がないという結果すらもないのだ。
幸い、電車の出発までにはまだ時間の余裕がある。
備えを少しでも充実させられる可能性があるならば、調査しておくのもいいだろう。先程のペンダントのような思わぬ収穫があれば儲けものだ。
(少し早いが……出るか)
そして、シグナムは立ち上がった。
ヴィータの服をその場に残して。
ほど近い場所にあったビル――であったもの。
それを瓦礫の山に変えたのは何なのか、もう伺い知ることはできない。あまりに時が経ちすぎている。
奥にそびえる鉄柱が二本。
鉄柱の下には、人一人”分”の屍。
少なくとも、これは自分とは違う生き方を選んだ人物だ。
何者かが瓦礫を掘り返し、屍を見付けだし、埋葬し、墓碑代わりの鉄柱を立てた。ただの殺人者がこのように弔われることなどあるはずがない。
一方でその何者かも、ここまで瓦礫を掘り返しておきながら、屍を押しやってまで他の何かを探そうとはしなかった。
やはり自分とは違う。
今の自分は、必要とあらば何だってできる。人殺しだろうが、死体漁りだろうが、墓暴きだろうが。
埋められていたのはただの肉塊ではない。むしろ、肉と呼べるようなものはほとんどないと言っていい。赤い液体を滴らせる金属や繊維の塊を、何の感情も抱かずに脇へと避けていく。
屍のさらに下。
瓦礫をいくつか取り除いて、ようやっとそれらを見付けた。
奇怪な形の短刀と、デイパックが一つ。
(原因はこの短刀だな)
ビルの倒壊に巻き込まれて無事だったことを考えれば、相当頑丈な代物ではある。いくら頑丈だとはいえ、どう見ても斬り合いには向かない形状だが。
この短刀が、魔法による探知そのものを完全に無効化している。故に結果すらない。
所謂ロストロギアのような、不可知の道具なのだろう。それも、AMF――アンチマギリンクフィールドと同質の何かを局所的に発生させる機能を有した。
この特殊な効果には何かしらの使い道がある。
とりあえず自分のデイパックに放り込んでおく。
続けて、血を吸って変色したデイパックに手を突っ込む。
まず出てきたのは、二つの真っ新なデイパック。
どちらも中身は大して役に立ちそうにもないがらくたばかりだ。それらは脇に捨て置いて、さらに中を漁る。
(これは――)
上等な拵えの柄に、すらりと伸びる鞘が現れた。またも日本刀である。
さすがに呑気に真贋を確かめているほどの時間はない。
持っていく価値がありそうなのはこのデイパックだけだ。それがよりにもよってどす黒く血に染まったデイパックだというのは、何とも自分にはお似合いの話ではある。
シャワーで洗い流したばかりの両手も、すっかり血で汚れてしまった。
大したことではない。
既に己が両手は業にまみれている。血の汚れなど、気にすることはない。
車内は閑散としていた。無論、乗客が自分一人だけだからというのが一番の理由だが、それだけが理由だというわけでもなかった。
妙に真新しい内装からは、人々の生活というものが全く感じられない。
スピーカーからは耳障りな放送がだだ漏れている。
聞かずに済むなら済ませたいものだが、そういうわけにもいかない。さりげなく重要な情報を流している。
『本列車は侵入禁止区域を通過する事があるギガガ~本車両内に限り皆様の安全を約束するギガ~』
参加者の自爆死ではなく殺し合いをこそ望むギガゾンビにとって、こんなことで嘘を吐いて首輪の爆破を誘発させても何ら面白くはあるまい。信用して問題ないだろう。
第二回放送を聞き逃している以上、この先にあるかもしれない禁止エリアの存在を無視できるのは有り難い。
そのままシグナムは腰を落とした。
座席ではなく、床の隅に。
座席に座って外から丸見えというのは、あまりに間の抜けた話だ。電車に乗っていることを誰かに気取られでもしたら、無駄に危険を抱え込むことになる。
そして、わずか数分の電車の旅が始まった。
鈍行をも下回る速度で、電車はのんびりと進んでいるようだ。周囲が田園風景ならばともかくとして、このような殺伐とした場所にはあまりに不似合いではある。
目を閉じ、周囲の気配を探りながら、そんなことを考えていた。
唐突に悪寒が走る。
シグナムは目を見開いた。
何者かの殺気、あるいは魔力を感じたわけではない。わざわざ傍受するまでもなく、クラールヴィントを通して流れ込んでくる情報の嵐。
その内容を即座に理解することはできない。が、意図を察することぐらいはできる。
(禁止エリアか!)
首輪に警告を与え、そして警告の後に爆破させるための通信。
にも関わらず、首輪が警告を発する気配はない。車内放送で言っていた通り、電車の中は安全なようだ。
出発してからの時間から察するに、今はちょうどE-4のあたりだろう。
もしクラールヴィントがなければ、自分が禁止エリアに突入したと気付くことすらできなかった――
(……何故だ?)
電車の外壁が通信を遮断しているわけではない。クラールヴィントに伝わっているのと同様に、この首輪にも伝わっているはずだ。
なのに首輪は警告を発しない。突然爆発することもない。
首輪の爆弾や禁止エリア自体がブラフだったのか。
この殺し合いが始まるその時に、二人の人間が爆死させられたのをこの目で見た。たまたまギガゾンビに楯突いた二人の首輪にだけ、たまたま本当に爆弾が付けられていた――それではあまりに都合が良すぎる。
禁止エリアに留まって爆死した者が出たと、先の放送にもあった。実際に何かしら仕掛けてきている以上、禁止エリアは有効だと見るべきだ。
それらを勘案すれば、ブラフの可能性は捨てざるを得ない。
では、どうして電車の中にいれば安全なのか?
加えて、先の短刀を思い出す。クラールヴィントによる探知を一切合切無効化していた短刀。
そのようなものを支給品として参加者に配るぐらいだ。普通に考えれば、禁止エリアでの探知を同じように無効化しない手はない。この通信に対して逆探知をされて、出元を暴かれるような危険性を残す理由がない。
探知しても無駄だとタカを括っているのだろうか。
それとも、わざと探知させているのだろうか。
あるいは――
――そこで、情報の嵐が途切れた。
E-4を抜けたのだろう。
ふと沸いた疑問に少しだけ熱くなっていた好奇心が、急激に醒めていくのを感じる。
E-4が第二回放送で聞き逃した禁止エリアのうちの一つである。
電車の中にさえいれば禁止エリアの影響は受けない。
重要なのは、たった二つの事実だけ。それ以外のことについてどれだけ考えようとも、今の自分にとってはもう無意味なことだ。
故に、シグナムは考えるのを止めた。
電車は予定通りにE-6の駅へと到着した。
ホームには薬莢が散らばっているが、それはもう過ぎ去った台風の跡だ。駅の構内およびその周辺にかけて、誰もいないことを既に確認している。
予想していたように、F-1の駅とほぼ同じ構造になっている。待ち伏せに使うのも悪くないだろう。
急いて事をし損じてはならない。
十分に状況を吟味して、それから駅を出るか待ち伏せるかを決めればいい。
ビルの倒壊現場で入手した刀を、今度はデイパックから完全に取り出した。
その抜き身を空気に晒し、じっくりと眺める。
幾分小振りの刀で、本来の使い手の体格と太刀筋に合わせてあるようだ。自分にとっては少々物足りないが、それでも実戦で使い込まれてきた風格は確かなものであろう。真贋で言えば、間違いなく真に当たる。
――と。
足下に一枚の紙が舞い降りた。
刀をデイパックから引き抜いた際に、一緒に出てきたもののようだ。ひとまず刀は鞘に収め、その紙を拾う。
――獅堂光の剣:獅堂光以外の”人”が触れたら対象を燃やす――
そう書かれている。
刀ではなく、剣と。
デイパックの中を覗き込むと、確かにもう一本、剣の柄らしきものが見える。
刀の存在だけを確認してこのデイパックを選んだが、これは嬉しい誤算だ。その特殊な仕様から鑑みるに、魔法に類する品である可能性が高い。
幸か不幸か、シグナムは”人”ではない。
死ねば何も残らない。
この地に数多く晒されているような屍すら。あるいは誰の記憶にさえも。
(高町なのは、それにテスタロッサは――)
たとえ二人がまだ生きていたとしても、二人が自分のことを記憶に残すはずがない。
死ぬ人間は記憶を残せないのだから。
二人とも死ぬのだ。殺されて。それが誰かの手によるものか、我が手によるものか。その程度の違いでしかない。
互いに好敵手と認め合ったフェイトとの決着も、もう果たされることはないだろう。偶然相見えることがあったとしても、真っ当な決闘とはいくまい。
殺せるならば確実に殺す。
己の身に危険が及ぶ前に逃げる。
自分に許されているのは、そんな戦い方だけだ。
ともあれ、死を超えて存在し続ける心などというものは有り得ない。
もしそれが実在するのであれば――
(……私の前に、ヴィータが立ち塞がったはずだ。何度でも)
――はやての心が、死を超えてなおここにあると証明するために。
もはや恐れるものなど何もない。何人たりとも己の信念を覆すことはできない。
唯一人、それを為し得たかもしれなかったヴィータは、もういないのだから。
はやての心が死によって失われたように、ヴィータの心もまた死によって失われた。死ねば何も残らない。意志は継がれず、ただ消えてゆく。皮肉なことに、ヴィータ自身の死によってそれは確かなこととなった。
なれば、あとは己の信念を貫き通すのみ。
必ず生き残る。最後の一人として。
「……剣よ。私は”人”か? それとも”人”あらざるものか?」
全ての想いを振り払って――振り払った気になって、抱え込んで――剣の柄を掴む。
そして一気に引き抜いた。
真っ赤な柄に、複雑な形状の鍔。長大な両刃の刀身。
燃やされることはない――いや、燃えるような何かだけは、確かに伝わってくる。
アームドデバイスではない。デバイスのような魔法補助装置ですらない。
匠の技で鍛え上げられ、実戦を潜り抜けてきた業物とも違う。
では何なのか。
これは、純然たる炎の意志だ。
炎の魔剣レヴァンティンに勝るとも劣らない一振り。己が炎の魔力を全て受け止められるだけの器だと確信する。
「そう、私は”人”あらざるものだ。ならば私は、一体何だ?」
剣は答えない。
身を焦がすほどの烈火を内に秘め、その刃に鈍い輝きを湛えるだけである。
【E-6/駅/夜】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:ほぼ全快/騎士甲冑装備
[装備]:獅堂光の剣@魔法騎士レイアース
クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA's
鳳凰寺風の弓@魔法騎士レイアース(矢20本)
コルトガバメント(残弾7/7)
凛のペンダント(残り魔力カートリッジ一発分)@Fate/stay night
[道具]:支給品一式×3(食料一食分消費)、スタングレネード×4
ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night
トウカの日本刀@うたわれるもの
ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾6/15)
[思考・状況]
1 :様子を見て、駅を出るか待ち伏せるかを決める。
2 :無理をせず、殺せる時に殺せる者を確実に殺す。
基本:自分の安全=生き残ることを最優先。
最終:優勝して願いを叶える。
[備考]
※放送で告げられた通り八神はやては死亡している、と判断しています。
ただし「ギガゾンビが騎士と主との繋がりを断ち、騎士を独立させている」
という説はあくまでシグナムの推測です。真相は不明。
※第二回放送を聞き逃しました(禁止エリアE-4については把握)。
※シグナムは『”人”ではない』ので、獅堂光の剣を持っても燃えません。
【F-1/ビル倒壊現場】アイテム状況
※以下については、シグナムに回収されました。
素子のデイパック(支給品一式、トウカの日本刀@うたわれるもの、獅堂光の剣@魔法騎士レイアース )
ルールブレイカー@Fate/stay night
※以下については、役に立たないと判断されてその場に残されています。
ルイズのデイパック(支給品一式、水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん、バニーガールスーツ@涼宮ハルヒの憂鬱)
士郎のデイパック(支給品一式、瞬間乾燥ドライヤー@ドラえもん)
※以下については、シグナムには発見されませんでした。
ジュンのデイパック(支給品一式)
ベレッタ90-Two、物干し竿 ベレッタM92F型モデルガン、
弓矢(矢10本)@うたわれるもの、オボロの刀(1本)@うたわれるもの
*時系列順で読む
Back:[[苦労人]] Next:[[]]
*投下順で読む
Back:[[苦労人]] Next:[[]]
|199:[[時は戻せなくても]]|シグナム||
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: