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上手くズルく生きて - (2007/02/24 (土) 22:39:31) の最新版との変更点
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*上手くズルく生きて ◆lbhhgwAtQE
「これは……どういうことだ?」
劉鳳は目の前に突如現れた女に声をぶつける。
……いや、正確には突如現れたわけではない。
ついさっきまで中年男性だった目の前の参加者が顔の皮膚を掴んだかと思うと、それを剥がして突如、妙齢の美女に化けたのだ。
そして、その女性は劉鳳が自分を睨んでいるのに気付いてか、慌てたように答える。
「ちょ、ちょっと待って! そんな睨まないで!」
「姿を偽り、俺を騙したことは事実だ。……騙すという事は相手を侮辱するも同然。ならばお前を断罪しなくてはならない……!!」
「い、今まで変装していたのは謝るから、まずは話を聞いて。そうしたら、きっと納得してくれるから。――ね!」
「今更弁解の余地など!!」
女は取り繕うに矢継ぎ早に言葉を紡ぐが、劉鳳の中で彼女は既に“自分に対して姿を欺いた女”と認定されている。
劉鳳は絶影を呼び出す構えで、女を見据える。
だが、そこで女は更に言葉を続けた。
「あなたの言う正義って言うのは、人の話を聞かないほど了見の狭いものなのかしら?」
「……なに!」
「だってそうでしょう? 何かあった時に問答無用で力を使おうとするなんて、気の短い小悪党のすることでしょ」
女に言われ、劉鳳は眉をぴくりと動かす。
確かに女のいう事はもっともかもしれない。
今まで自分はHOLYの隊員としてインナーやネイティブアルターの犯罪を取り締まることもしばしばあったが、彼らは大抵自分達の制止を聞こうとはせずにすぐに武力行使に出た。
自分もそれと同じことをしているのかもしれない。
そんなしばしの思考の後、劉鳳は絶影を呼び出すのを止め、構えを解く。
「……分かった、ならば聞かせろ。お前が何故、姿を偽っていたのかを」
「え、えぇ! 是非!」
女は安堵した表情を見せ、口を開き始めた。
――そしてこの時、女の口元が妖しく歪んだ事に劉鳳は気付かなかった。
峰不二子――そう名乗った女は、どうやら自分が力の無い存在であることを隠す為に男に変装していたらしい。
ちなみに変装道具は支給品として支給されたもののようだ。
「ここには観覧車やらビルやらを簡単に破壊する人達もいるみたいだし、そんな人からすれば私みたいな女なんて格好の餌食でしょ?」
「確かにな……」
劉鳳は俯き加減に答える。
観覧車を破壊したのはまさに自分であったが、そのようなことを正直に言える筈がなかった。
もし言ってしまえば、紅い人形のときよろしく、誤解され危険人物扱いされる可能性が高い。
更に言えば、彼女が変装していた事は自分の行為にも起因しているということになる。
そこまで考えると、彼は彼女の今回の行いに対して、一つの結論を導き出す。
「繰り返しになるが、お前はこのゲームに乗っていないんだな? そして、先程言っていた悪の話も……」
「それは間違いないわ。斧の女と紅いお人形のことも勿論真実よ」
「――事情は理解した。……今回の件は許そう。ただし、今後は俺がお前を守るからそのような小ざかしい真似は二度とするな」
「聡い判断をありがとう、劉鳳さん。助かるわ」
不二子は微笑みを劉鳳に投げかける。
その笑みからはシェリスのものとも水守のものとも違う雰囲気を感じるが、今の劉鳳にはそのような事は些末な事象。
目の前にいる女がゲームに乗っておらず、保護すべき対象である以上、自分の正義を貫くべく彼女を保護することが最優先であった。
すると、そんな決意をした劉鳳に不二子が声を掛ける。
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
「……どうした?」
「そういえば、さっきアルター能力がどうのって言っていたけど、それって何なのかしら?」
「……アルター能力とは周囲の物質を分解、再構成する能力の総称の事だ。巨大な銃やロボットといった兵器を生み出す者、オリジナルの車両を作り出す者、思い通りのシナリオを描く力を得る者……その能力は多岐に渡る」
「ふぅん。…………それで、あなたの能力はどのようなものなのかしら? 見せてくれない?」
不二子は期待するような目で劉鳳を見る。
劉鳳はジュンの時と同じようなまどろっこしい状況にややいら立つが、自分を信用してもらう為にはそれしかないと判断する。
「分かった。…………絶影!」
劉鳳がそう呼びかけるのと同時に、周囲の舗装やガードレール、街路樹が霧散し、彼の前で人型に再構築されてゆく。
そうして姿を現したのが――――
◆
「これが俺のアルター、絶影だ」
劉鳳の目の前にいる人型のソレは、確かに突如現れた。
まるで霧散したアスファルト達が凝結して生まれたの如く――いや、実際そうなのだろう。
不二子はその一連の事象にあっけにとられつつも、彼の能力の見極めを続ける。
「そ、それでその絶影……というのは、強いのかしら?」
「絶影は俺の信念を貫くための存在。悪には絶対に負けるはずがない」
その自信ありげな口調、そして今までの彼の気配からして、それは本当なのだろう。
「それは頼もしいわね。あなたがいればこんな場所からもすぐに出られそうね、劉鳳」
「当然だ。俺は俺の中の正義に基づいて悪を断罪し、そして……ギガゾンビを討つのだからな!!!」
こちらが何か一言言えば勝手に熱くなってくれる性格。
強すぎる正義感。
そして何よりそのアルターの絶影とかいう強大な力。
――彼は……劉鳳は不二子が利用するに十分すぎる人材だった。
あとは、彼を上手くコントロールする話術があれば良いだけ。
不二子は心の中でほくそ笑む。
そして、彼を駒として使うことに決めた不二子は次のステップに入る。
「それじゃあ、せっかくだから私を守ってくれるお礼がしたいのだけど……」
「礼など必要ない。それよりも俺は早くここに存在する悪を――」
「そんな事言わないで! こんなに体がボロボロなのに……」
力む劉鳳の腕を掴むと、それを軽く握る。
それは彼の全身に走る打撲及び裂傷を刺激し、劉鳳は思わず顔をしかめる。
「ほら、やっぱり」
「この程度……問題な――」
「体調は常に万全にしていた方が良いわ。……私が手当てしてあげる」
「手当て……だと?」
不二子は頷く。
彼女はここに来る道中、商店街らしき商店が並ぶ通りにて、“薬”と大きく書かれた看板を掲げた店舗を発見していた。
そこに行けば、恐らく病院ほどとまでは行かないだろうが、手当てできる道具が揃うはずだ。
その旨を不二子は劉鳳に伝えると――
「……確かに体を治すのも大事だ。……ならば甘えさせてもらうか」
「そうこなくっちゃね」
彼はそんな不二子の誘いに乗った。
◆
破壊、そして殺戮の痕跡が残る商店街。
劉鳳達は、その光景を目の当たりにしていた。
「遅かったのか……くそっ!」
「悔いていても仕方ないわ。……今は出来る事をしましょう」
この惨劇を止められなかった事を悔いる劉鳳に不二子は優しく声を掛け、そして彼を薬局へと導く。
薬局内部は、静寂が保たれていた。
そして、その静寂の中で劉鳳は不二子から治療を受けていた。
「……まったく、こんなに傷だらけになって……一体どんなドンパチをやったの?」
そう問いながら、店内においてあった包帯を劉鳳の腕に不二子は巻いていく。
劉鳳はそんな手当てを受けながら、今までの事を振り返る。今までの出会いの記憶を――。
思えば、この地での彼の出会いのうちの殆どが戦いを意味していた。
宿敵であるカズマは勿論、紅いコートの男や長門有希、老人を殺した犯人、更に不二子が襲われたという斧を持った女や紅い人形……。
この地には断罪すべき存在があまりに多すぎる。
だが、己の正義を貫くためにはその全てを自分は打ち倒さねばならない。
その中には勿論、あの仮面の男も含まれているわけで――。
「――ねぇ、ねぇってば! 聞いてるの!?」
――と劉鳳が一人考えに耽っていると、いきなり不二子が声を掛けてきた。
いや、ずっと声を掛けていたのだが今まで聞こえなかったという方が正しいだろうか。
「あ、あぁ。すまない」
我に返った劉鳳が上半身裸になった自分の体を見てみると、そこかしこが湿布なり包帯なり塗り薬なりで手当てされていた。
「……終わったのか?」
「一応はね」
「そうか。……礼を言う」
手当ても終わったという事で劉鳳はHOLYの制服に改めて腕を通す。
すると、その背中に不二子が言葉をかける。
「ねぇ、さっきの質問にまだ答えてもらってないんだけど」
「質問……? 何のことだ?」
「――はぁ。やっぱり聞いてなかったのね。……いい? もう一度聞くわよ。あなたのその傷はどうしたの? 何か一悶着でも起こしたの?」
そのボロボロの体を、不二子は訝しげに見る。
確かに、ここまで傷つくような戦闘をしていたのだとしたら、自分もまた好戦的な人物と見なされてしまうかもしれない。
だが、これは自分の信念を貫いた結果として傷ついたものだ。
そのこところを誤解の無いようにしてもらわなくてはならない。
劉鳳は、当時の事を思い出しながら、あの住宅街での戦いのことを説明し始めた。
「二回目の放送が終わってすぐだろうか、俺は――」
◆
不気味に笑う格闘術に長けた怪力の男。
アルター能力のようなものを持ち、市街地を爆発させた女子高生。
そして、右腕をアルター化して暴力を振るう彼の宿敵とも言える男……。
劉鳳の口から漏れ出たのは、そんな者達との戦いの話であった。
「俺は……奴らをいずれ断罪せねばならない」
そう言うと、劉鳳はいきり立ち、握り拳に力を入れる。
不二子はそのような様子を見て、彼の沸点の低さを再確認する。
そして、この場所にやはり自分の力だけでは対処しきれないとんでもない化け物が複数いるという事も。
それを踏まえて考えると、不二子は自分が劉鳳という力のある参加者と出会えた事が幸運であったのだと、改めて感じる。
劉鳳さえ上手く扱えれば、そのような化け物に十分対処可能であるし、最悪の場合でも自分が逃げるために時間稼ぎになる。
そう、上手く扱えすれば……。
「劉鳳、頼りにしているわ」
「……あぁ、任せておけ」
彼の傷の手当をしたのも、全ては彼に万全の態勢でいてもらいたいから。
いざという時、傷が元で全力を出せないなんて事は勘弁してもらいたい。
しかも、手当てをすることで信頼関係を深めることが出来る。
そもそも女であることをカミングアウトしたことも、彼の保護欲を高められるだろうという目論見に基づいている。
……全ては計算ずく。
劉鳳を完全に自分の手駒とするための作戦。
(劉鳳、私はあなたを信用しているわよ。私を守ってくれるって……。だから死んでも恨まないで頂戴ね)
不二子は劉鳳に見えない場所で妖しい笑みを浮かべた。
――正義を貫こうとがむしゃらに不器用に動く男。
――その心を自分の為に利用しようとする女。
そんな二人が薬局でひと時の休息を取る中、陽は沈み、また闇がこの地を支配しようとしていた。
【F-3/商店街・薬局内部 1日目/夕方(放送間近)】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:健康
[装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発)、銭形変装セット
[道具]:デイバック、支給品一式(パン×1、水1/10消費)、ダイヤの指輪
[思考・状況]:
1:青年のアルター能力が有用なら口八丁で騙し利用する。
2:F-1の瓦礫に埋もれたデイバッグを後で回収。
3:ルパンが本当に死んでいるか確認したい。
基本:ゲームからの脱出。
[備考]
※E-2の戦闘について、少年少女達(ドラ、ヴィータ、太一)は全滅、
女(シグナム)か人形(真紅)のどちらかが勝ち残ったと判断しています。
※E-4の爆発について、劉鳳の主観を元にした説明を聞きました。
【劉鳳@スクライド】
[状態]:中程度の疲労、全身に中程度の負傷(手当て済)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式、斬鉄剣@ルパン三世、SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱
真紅似のビスクドール(目撃証言調達のため、遊園地内のファンシーショップで入手)
[思考・状況]
1:不二子を守る。
2:カズマと決着をつける。
3:主催者、マーダーなどといった『悪』をこの手で断罪する。
※現在のところの断罪対象: 赤いコートの男(アーカード)、長門有希(朝倉涼子)、ポニーテールの女(シグナム)
老人(ウォルター)を殺した犯人
4:ゲームに乗っていない人たちを保護し、この殺し合いから脱出させる。
5:そのためになるべく彼らと信頼を築く。
6:真紅を何とかする。やむを得なければ断罪も。
7:余裕が出来次第ホテルに向かう。
基本:必ず自分の正義を貫く。
[備考]
※朝倉涼子のことを『長門有希』と認識しています。
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。
*時系列順で読む
Back:[[へんじがない。ただのしかばねのようだ。]] Next:[[「何人たりとも俺は止められない!」/「まぁ、速い」]]
*投下順で読む
Back:[[へんじがない。ただのしかばねのようだ。]] Next:[[「何人たりとも俺は止められない!」/「まぁ、速い」]]
|184:[[ヒステリックサイン]]|峰不二子|212:[[正義×正義]]|
|184:[[ヒステリックサイン]]|劉鳳|212:[[正義×正義]]|
*上手くズルく生きて ◆lbhhgwAtQE
「これは……どういうことだ?」
劉鳳は目の前に突如現れた女に声をぶつける。
……いや、正確には突如現れたわけではない。
ついさっきまで中年男性だった目の前の参加者が顔の皮膚を掴んだかと思うと、それを剥がして突如、妙齢の美女に化けたのだ。
そして、その女性は劉鳳が自分を睨んでいるのに気付いてか、慌てたように答える。
「ちょ、ちょっと待って! そんな睨まないで!」
「姿を偽り、俺を騙したことは事実だ。……騙すという事は相手を侮辱するも同然。ならばお前を断罪しなくてはならない……!!」
「い、今まで変装していたのは謝るから、まずは話を聞いて。そうしたら、きっと納得してくれるから。――ね!」
「今更弁解の余地など!!」
女は取り繕うように矢継ぎ早に言葉を紡ぐが、劉鳳の中で彼女は既に“自分に対して姿を欺いた女”と認定されている。
劉鳳は絶影を呼び出す構えで、女を見据える。
だが、そこで女は更に言葉を続けた。
「あなたの言う正義っていうのは、人の話を聞かないほど了見の狭いものなのかしら?」
「……なに!」
「だってそうでしょう? 何かあった時に問答無用で力を使おうとするなんて、気の短い小悪党のすることでしょ」
女に言われ、劉鳳は眉をぴくりと動かす。
確かに女のいう事はもっともかもしれない。
今まで自分はHOLYの隊員としてインナーやネイティブアルターの犯罪を取り締まることもしばしばあったが、彼らは大抵自分達の制止を聞こうとはせずにすぐに武力行使に出た。
自分もそれと同じことをしているのかもしれない。
そんなしばしの思考の後、劉鳳は絶影を呼び出すのを止め、構えを解く。
「……分かった、ならば聞かせろ。お前が何故、姿を偽っていたのかを」
「え、えぇ! 是非!」
女は安堵した表情を見せ、口を開き始めた。
――そしてこの時、女の口元が妖しく歪んだ事に劉鳳は気付かなかった。
峰不二子――そう名乗った女は、どうやら自分が力の無い存在であることを隠す為に男に変装していたらしい。
ちなみに変装道具は支給品として支給されたもののようだ。
「ここには観覧車やらビルやらを簡単に破壊する人達もいるみたいだし、そんな人からすれば私みたいな女なんて格好の餌食でしょ?」
「確かにな……」
劉鳳は俯き加減に答える。
観覧車を破壊したのはまさに自分であったが、そのようなことを正直に言える筈がなかった。
もし言ってしまえば、紅い人形のときよろしく、誤解され危険人物扱いされる可能性が高い。
更に言えば、彼女が変装していた事は自分の行為にも起因しているということになる。
そこまで考えると、彼は彼女の今回の行いに対して、一つの結論を導き出す。
「繰り返しになるが、お前はこのゲームに乗っていないんだな? そして、先程言っていた悪の話も……」
「それは間違いないわ。斧の女と紅いお人形のことも勿論真実よ」
「――事情は理解した。……今回の件は許そう。ただし、今後は俺がお前を守るからそのような小ざかしい真似は二度とするな」
「聡い判断をありがとう、劉鳳さん。助かるわ」
不二子は微笑みを劉鳳に投げかける。
その笑みからはシェリスのものとも水守のものとも違う雰囲気を感じるが、今の劉鳳にはそのような事は些末な事象。
目の前にいる女がゲームに乗っておらず、保護すべき対象である以上、自分の正義を貫くべく彼女を保護することが最優先であった。
すると、そんな決意をした劉鳳に不二子が声を掛ける。
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
「……どうした?」
「そういえば、さっきアルター能力がどうのって言っていたけど、それって何なのかしら?」
「……アルター能力とは周囲の物質を分解、再構成する能力の総称の事だ。巨大な銃やロボットといった兵器を生み出す者、オリジナルの車両を作り出す者、思い通りのシナリオを描く力を得る者……その能力は多岐に渡る」
「ふぅん。…………それで、あなたの能力はどのようなものなのかしら? 見せてくれない?」
不二子は期待するような目で劉鳳を見る。
劉鳳はジュンの時と同じようなまどろっこしい状況にややいら立つが、自分を信用してもらう為にはそれしかないと判断する。
「分かった。…………絶影!」
劉鳳がそう呼びかけるのと同時に、周囲の舗装やガードレール、街路樹が霧散し、彼の前で人型に再構築されてゆく。
そうして姿を現したのが――――
◆
「これが俺のアルター、絶影だ」
劉鳳の目の前にいる人型のソレは、確かに突如現れた。
まるで霧散したアスファルト達が凝結して生まれたの如く――いや、実際そうなのだろう。
不二子はその一連の事象にあっけにとられつつも、彼の能力の見極めを続ける。
「そ、それでその絶影……というのは、強いのかしら?」
「絶影は俺の信念を貫くための存在。悪には絶対に負けるはずがない」
その自信ありげな口調、そして今までの彼の気配からして、それは本当なのだろう。
「それは頼もしいわね。あなたがいればこんな場所からもすぐに出られそうね、劉鳳」
「当然だ。俺は俺の中の正義に基づいて悪を断罪し、そして……ギガゾンビを討つのだからな!!!」
こちらが何か一言言えば勝手に熱くなってくれる性格。
強すぎる正義感。
そして何よりそのアルターの絶影とかいう強大な力。
――彼は……劉鳳は不二子が利用するに十分すぎる人材だった。
あとは、彼を上手くコントロールする話術があれば良いだけ。
不二子は心の中でほくそ笑む。
そして、彼を駒として使うことに決めた不二子は次のステップに入る。
「それじゃあ、せっかくだから私を守ってくれるお礼がしたいのだけど……」
「礼など必要ない。それよりも俺は早くここに存在する悪を――」
「そんな事言わないで! こんなに体がボロボロなのに……」
力む劉鳳の腕を掴むと、それを軽く握る。
それは彼の全身に走る打撲及び裂傷を刺激し、劉鳳は思わず顔をしかめる。
「ほら、やっぱり」
「この程度……問題な――」
「体調は常に万全にしていた方が良いわ。……私が手当てしてあげる」
「手当て……だと?」
不二子は頷く。
彼女はここに来る道中、商店街らしき商店が並ぶ通りにて、“薬”と大きく書かれた看板を掲げた店舗を発見していた。
そこに行けば、恐らく病院ほどとまでは行かないだろうが、手当てできる道具が揃うはずだ。
その旨を不二子は劉鳳に伝えると――
「……確かに体を治すのも大事だ。……ならば甘えさせてもらうか」
「そうこなくっちゃね」
彼はそんな不二子の誘いに乗った。
◆
破壊、そして殺戮の痕跡が残る商店街。
劉鳳達は、その光景を目の当たりにしていた。
「遅かったのか……くそっ!」
「悔いていても仕方ないわ。……今は出来る事をしましょう」
この惨劇を止められなかった事を悔いる劉鳳に不二子は優しく声を掛け、そして彼を薬局へと導く。
薬局内部は、静寂が保たれていた。
そして、その静寂の中で劉鳳は不二子から治療を受けていた。
「……まったく、こんなに傷だらけになって……一体どんなドンパチをやったの?」
そう問いながら、店内においてあった包帯を劉鳳の腕に不二子は巻いていく。
劉鳳はそんな手当てを受けながら、今までの事を振り返る。今までの出会いの記憶を――。
思えば、この地での彼の出会いのうちの殆どが戦いを意味していた。
宿敵であるカズマは勿論、紅いコートの男や長門有希、老人を殺した犯人、更に不二子が襲われたという斧を持った女や紅い人形……。
この地には断罪すべき存在があまりに多すぎる。
だが、己の正義を貫くためにはその全てを自分は打ち倒さねばならない。
その中には勿論、あの仮面の男も含まれているわけで――。
「――ねぇ、ねぇってば! 聞いてるの!?」
――と劉鳳が一人考えに耽っていると、いきなり不二子が声を掛けてきた。
いや、ずっと声を掛けていたのだが今まで聞こえなかったという方が正しいだろうか。
「あ、あぁ。すまない」
我に返った劉鳳が上半身裸になった自分の体を見てみると、そこかしこが湿布なり包帯なり塗り薬なりで手当てされていた。
「……終わったのか?」
「一応はね」
「そうか。……礼を言う」
手当ても終わったという事で劉鳳はHOLYの制服に改めて腕を通す。
すると、その背中に不二子が言葉をかける。
「ねぇ、さっきの質問にまだ答えてもらってないんだけど」
「質問……? 何のことだ?」
「――はぁ。やっぱり聞いてなかったのね。……いい? もう一度聞くわよ。あなたのその傷はどうしたの? 何か一悶着でも起こしたの?」
そのボロボロの体を、不二子は訝しげに見る。
確かに、ここまで傷つくような戦闘をしていたのだとしたら、自分もまた好戦的な人物と見なされてしまうかもしれない。
だが、これは自分の信念を貫いた結果として傷ついたものだ。
そこのところを誤解の無いようにしてもらわなくてはならない。
劉鳳は、当時の事を思い出しながら、あの住宅街での戦いのことを説明し始めた。
「二回目の放送が終わってすぐだろうか、俺は――」
◆
不気味に笑う格闘術に長けた怪力の男。
アルター能力のようなものを持ち、市街地を爆発させた女子高生。
そして、右腕をアルター化して暴力を振るう彼の宿敵とも言える男……。
劉鳳の口から漏れ出たのは、そんな者達との戦いの話であった。
「俺は……奴らをいずれ断罪せねばならない」
そう言うと、劉鳳はいきり立ち、握り拳に力を入れる。
不二子はそのような様子を見て、彼の沸点の低さを再確認する。
そして、この場所にやはり自分の力だけでは対処しきれないとんでもない化け物が複数いるという事も。
それを踏まえて考えると、不二子は自分が劉鳳という力のある参加者と出会えた事が幸運であったのだと、改めて感じる。
劉鳳さえ上手く扱えれば、そのような化け物に十分対処可能であるし、最悪の場合でも自分が逃げるために時間稼ぎになる。
そう、上手く扱えすれば……。
「劉鳳、頼りにしているわ」
「……あぁ、任せておけ」
彼の傷の手当をしたのも、全ては彼に万全の態勢でいてもらいたいから。
いざという時、傷が元で全力を出せないなんて事は勘弁してもらいたい。
しかも、手当てをすることで信頼関係を深めることが出来る。
そもそも女であることをカミングアウトしたことも、彼の保護欲を高められるだろうという目論見に基づいている。
……全ては計算ずく。
劉鳳を完全に自分の手駒とするための作戦。
(劉鳳、私はあなたを信用しているわよ。私を守ってくれるって……。だから死んでも恨まないで頂戴ね)
不二子は劉鳳に見えない場所で妖しい笑みを浮かべた。
――正義を貫こうとがむしゃらに不器用に動く男。
――その心を自分の為に利用しようとする女。
そんな二人が薬局でひと時の休息を取る中、陽は沈み、また闇がこの地を支配しようとしていた。
【F-3/商店街・薬局内部 1日目/夕方(放送間近)】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:健康
[装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発)、銭形変装セット@ルパン三世
[道具]:支給品一式(パン×1、水1/10消費)、ダイヤの指輪
[思考・状況]:
1:青年のアルター能力が有用なら口八丁で騙し利用する。
2:F-1の瓦礫に埋もれたデイバッグを後で回収。
3:ルパンが本当に死んでいるか確認したい。
基本:ゲームからの脱出。
[備考]
※E-2の戦闘について、少年少女達(ドラ、ヴィータ、太一)は全滅、
女(シグナム)か人形(真紅)のどちらかが勝ち残ったと判断しています。
※E-4の爆発について、劉鳳の主観を元にした説明を聞きました。
【劉鳳@スクライド】
[状態]:中程度の疲労、全身に中程度の負傷(手当て済)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、斬鉄剣@ルパン三世、SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱
真紅似のビスクドール(目撃証言調達のため、遊園地内のファンシーショップで入手)
[思考・状況]
1:不二子を守る。
2:カズマと決着をつける。
3:主催者、マーダーなどといった『悪』をこの手で断罪する。
※現在のところの断罪対象:赤いコートの男(アーカード)、長門有希(朝倉涼子)、ポニーテールの女(シグナム)
老人(ウォルター)を殺した犯人
4:ゲームに乗っていない人たちを保護し、この殺し合いから脱出させる。
5:そのためになるべく彼らと信頼を築く。
6:真紅を何とかする。やむを得なければ断罪も。
7:余裕が出来次第ホテルに向かう。
基本:必ず自分の正義を貫く。
[備考]
※朝倉涼子のことを『長門有希』と認識しています。
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。
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