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【背中で泣いてる 男の美学】 - (2007/02/20 (火) 05:53:12) のソース
*【背中で泣いてる 男の美学】 ◆S8pgx99zVs 赤色に覆われた空から、その殺戮の舞台へと下卑た声が轟き落ちる。 その声の下、人気の無い道路の上を次元大介はただ一人、黙々と南へ向かい歩いていた。 東に向かって長く伸びた影を共に、次元大介は思考を巡らせる。 今回発表された死者は九人―― ギガゾンビは変わらぬペースでと、言い表したが次元大介の印象はその逆だ。 次元大介は知っている。その内の約半分が自分の目の前で死んだことを。 「前原圭一」「竜宮レナ」「蒼星石」「ソロモン・ゴールドスミス」 惨劇は避けられなかった。 元々、蒼星石とソロモンに関しては後に殺しあうことも織り込んだ上での利害の一致による 協力関係だったが、圭一とレナに関しては違う。 彼らのこと、むざむざと死なせてしまったことを思うと次元大介の心に苦いものが走る。 だが感傷はともかくとして、今回死亡した内の四人の死を知っているわけだ。 これらは一組の結果であり、他の死者がすべて別の組で行われていたとしても計六組。 前回までの死者がどういう経緯で死んだのまでは解り様がないが、やはり順当に参加者同士の 遭遇は減っているように印象を受ける。加えてこのゲームが始まってからの時間。真っ当な人間、 それも圭一やレナのような戦闘の経験がない人間ならば疲労は相当蓄積しているはず。 そしてさらに先程出会った集団のことを思い返す。彼らもそうだが、彼らが襲われたという連中も 徒党を組んでいたらしい。これも当然の流れだろう。 道なりに進み東へと進路を変えた次元大介はその先の藍色の空を見ながら思う。 今、このゲームはギガゾンビの言葉とは裏腹に膠着状態に近づいている。 生存者はいくつかのグループに別れ、そしてそれらはこれから休憩に入るだろう。 残りの生存者はおよそ半数。 今から0時までの六時間。おそらくその間に今まで以上の大きな動きはないはずだ。 ならば、今こそが最初で最後の大多数の反ギガゾンビ集団を結成するチャンスなのかも知れない。 次元大介は背負ったデイバッグの中にある拡声器のことを思い出す。 これを使用すれば人を集めるのは容易い――が、ただそれを使うのは馬鹿のやることだ。 先に聞いた話にある通り、好戦的な集団も存在するのである。 ならば、まず確保しなければならないのは自身の安全。それからそれと併せて呼び掛けが しやすい場所の確保。 頭の中に叩き込んだ地図の内容を思い浮かべ検討する。 ここから道なりに東、舞台の中央に位置するレジャービル。 とりあえず考えられるのはそこか。ある程度の高さがあり、位置も申し分ない。 内部に隠れる場所は多いだろうし、真ん中当たりの階から呼びかければ声だけではどの階に いるかは判別できないだろう。逆にこちらからは近づいてくる相手を認識しやすい。 次元大介は柄にも無いと思う。ここまでお節介なのはアイツの役目だろうと。 長い付き合いのうちにこちらにもそれが移ったのか、それとも圭一とレナの死の感傷のせいか。 コツリコツリと刻まれていたアスファルトを踏む音がふと止んだ。 赤い夕日を背中に受けて足元から伸びた長い影。 その先にアイツが――ルパン三世が横たわっていた。 「女を庇ったんだって?」 次元大介は軽く、いつものようにルパンへと歩み寄りながら話しかける。 「しかも、それで女にやられちまったそうだな」 ルパンは言葉を返さない。 「普段から忠告してるだろう? 女には気をつけろって」 次元大介はルパンの傍らにまで到着すると、彼の顔を見ずに話しかける。 「……立てよ。ここにいるのは俺だけだ。死んだふりはもういいぜ」 ルパンの目は閉じたままピクリともしない。 「あの嬢ちゃん。お前が死んだと思って泣いてたぜ。なぐさめに行ってやれよ」 それでもルパンは起き上がらない。 「そーか、そうやって最後まで死んだふりで通すつもりなのかてめえは」 次元大介はしゃがみこみ、ルパンの顔を覗きこむ。 「てめえが死んだなんて、俺がそう易々と信じると思ってるのか? ルパン」 答えを返さないルパンに次元大介は一つ溜息をつくと、背負ったバッグから一本のスコップを 取り出す。ここに来る途中、園芸屋の店先から拝借してきたものだ。 「死んだふりを続けるってなら、そこの土手の下に埋めちまうぞ」 それでもやはりルパンは起き上がらない。 「……てめえも意地っ張りだな」 次元大介は自身が血濡れになるのにもかまわずルパンを背負い上げると、歩き始めた。 ゆっくりと、ルパンを背負い次元は橋を渡る。 「………………重ぇな」 長い時間をかけて橋を渡りきると次元大介は土手の下へと降り、ルパンを土の上へと横たえた。 その隣に墓となる穴を掘り始める。 「起き上がるっつーなら今の内だぞ、ルパン? 埋められてから謝ったって許さねえからな」 ルパンはただ川の方から吹く風にさらされているだけだ。 十数分ほどしてルパンがすっぽりと入る穴ができた。そこに次元大介はルパンを丁寧に下ろす。 「……埋めるぞ」 カチカチ、カチカチと震えるスコップの先と地面の小石がぶつかる音が鳴る。 次元大介は歯を食いしばり、一心不乱にルパンへと土を被せる。 すぐに、ルパンはその顔の部分を残して土の中へと埋まった。 土をすくったスコップをルパンの顔の上へと移す。 「……ルパン。いいんだな?」 サラサラと少しずつスコップから土がこぼれルパンの顔を覆い、……そして覆いきった。 さらに土を被せ、緩やかな土の盛を作り簡素な墓に仕立てる。 次元大介はスコップ片手にただ立ち尽くす。 諦めるでも、諦めきれないでもないその中途半端な気持ちで。 真っ赤だった空は藍色へと変わり、夜の帳が落ちるのも間近い。 川岸は少しの風に揺れる草の音だけでとても静かだった。 「この大馬鹿野郎ッ!! てめえ勝手に逝きやがってッ!!」 怒声と共に手にしたスコップを墓に突き立てると踵を返し土手を上る。 と、その中程で足を止めてもう一度ルパンの墓を振り返った。 「先に逝ったんなら、むこうでの酒代はてめえ持ちだからな。 俺が行くまでに上等のバーボンを用意しておけよ!」 行こうとしてもう一度振り返る。 「煙草もだ!」 今度こそ、次元大介は土手を上りその場を離れた。 「……糞ッ」 毒づきながら雑居ビルの隙間を縫うように次元大介は歩く。自身の影を追うように東へ東へと。 目指すのは先程の案にあったレジャービルだ。 拡声器を使うかどうかはともかく、隠れて身体を隠すには丁度よい、そう判断した。 それからどうするかはそこに着いてから考えればいい。 ただ……、 (ルパン。てめえの仇だけは取ってやる。今回だけは義理でロハだ) ルパンの死によって最早、次元大介はルパン一味の次元大介ではなくなった。 今ここにいるのは、傭兵であり、殺し屋であり、ただのガンマンである次元大介だ。 帽子の鍔の影から射抜くような目を覗かせ、次元大介は闇の中を一人歩く。 【D-4/市街地/1日目-夜】 【次元大介@ルパン三世】 [状態]:疲労/脇腹に怪我(手当て済み、ただし傷口は閉じていない) [装備]:朝倉涼子のコンバットナイフ/454カスール カスタムオート(残弾:7/7発) [道具] :デイバッグ(+3)/支給品一式(×4)(-2食)/13mm爆裂鉄鋼弾(34発)/ :レイピア/ハリセン/ボロボロの拡声器(使用可)/望遠鏡/双眼鏡 :蒼星石の亡骸(首輪つき)/リボン/ナイフを背負う紐/蒼星石のローザミスティカ :トグサの考察メモ/トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ [思考] 基本:1.女子供は相手にしないが、それ以外には容赦しない。 基本:2.できるだけ多くの人間が脱出できるよう考えてみるか…… 1.レジャービルで傷の手当てをしなおし、休息する。 2.その後、拡声器を使ってみるか検討する。 3.ハルヒ、長門、アルルゥ、トグサ、ヤマトの知り合いに会えたら伝言を伝える。 4.ルパンの仇>ピンクの髪の女(シグナム)を殺す。 5.殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す。 6.圭一と蒼星石の知り合いを探す。(※蒼星石の遺体は丁重に扱う) 7.ギガゾンビの野郎を殺し、くそったれゲームを終わらせる。 [備考] トグサとの情報交換により、 『ピンク髪に甲冑の弓使い(シグナム)』『赤いコスプレ東洋人少女(カレイドルビー)』 『羽根の生えた黒い人形(水銀燈)』『金髪青服の剣士(セイバー)』 を危険人物と認識しました。 *時系列順で読む Back:[[強者の資格たる欠損]] Next:[[]] *投下順で読む Back:[[強者の資格たる欠損]] Next:[[]] |197:[[孤独な笑みを夕陽にさらして]]|次元大介||