上條恭介は焦っていた。先ほど確かに聞いた、よくドキュメンタリーで見るような精神に問題を抱えた笑い声と、目の前の嗚咽する少女。
一般人である上條に正当な判断は不可能だった。
ただ、その右手には黄金の剣ーーーカリバーンが握られていた。
「ッはァ!」
自己紹介すらしてはいないのに、さっきの異常な声によく似た声がすぐ近くからした。本能が告げていた。
今すぐに逃げなければ、間違いなく殺される。しかし、目の前の少女は逃げられるような精神状態ではないだろう。それに、きっと上條は死ぬ運命だとどこか悟っていた。
確かに退院こそしたが、長らくベッドの上にいた肉体が思い通りには動かない、少なくとも追ってくる狂人などから逃げきれるほどの足の速さは期待できない。
ーーーどうせ殺されるのなら、戦おう。どこかにいる幼なじみの為にも。
その幼なじみはすでに破滅の権化に成り果てていたことも知らずに、上條は言った。
「君は早く逃げるんだ!あまり長くは保たせられないだろうから…」
少女はそれでも動かなかった。いや、動けなかった。
しかし、現実は甘くなどない。最悪の狂犬、白純里緒が、ドスを持って上條の背後に現れる。言葉などは交わさない
ドスの刃が上條の頬を薄く裂く。上條は闇雲にカリバーンを振るうが、当然と言えば当然、あくまで闇雲に振るっている程度にしか扱えなかった。
当たれば一撃で白純に致命傷を与えるクラスの魔術的な力を秘めていながらも、本来魔術に心得のある者が扱う剣のため、上條には最大の力は引き出せなかったこともある。
刹那に勝負は決着した。
白純のドスが上條の腹を刺し貫き、二撃目で頸動脈を切り裂いた。
鮮血が飛翔し、カリバーンを持ったまま倒れてしまう。血を失う速度は思っていたよりずっと早い。視界が霞み、目の前もロクに見えなくなってくる。
結果、上條恭介は
ヒーローになれる器ではなかった。
白純が涎を垂らしながら、血走った目で近付いてくる。上條は知らないだろうが、白純里緒の本質は『食べる』ことだ。つまり、白純は殺した上條を補食するために近寄ってきたのだ。
「……、ひゃはははは」
白純の声さえも途切れ途切れにしか聞こえない。
が、上條の最期に取った行動はあまりに意外なものであった。
「(僕は、ーーーーー)」
考えすら満足に浮かばなかったが、上條は致死量の血液を失いながらも、最後の力を振り絞り、白純の心臓をカリバーンで一突きにした。
カリバーンは絶大な威力を秘めた剣だ。
投影されたものとはいえ、魔術的な防護結界でも張っていなければ、一般人の肉体を貫通することなどたやすいことである。
断末魔の声もなく、カリバーンが刺さったまま白純は後ろに倒れていった。
また、上條もすでに息絶えていた。
◆
終わってしまった。エルシィは歯をがちがち鳴らしながら、再び嗚咽していた。
自分も戦っていれば。あの少年は死ななかったかもしれないのに。
「………もう嫌だよ…神様ぁ…」
「よぉし、じゃあ一瞬で楽にしてやるからな」
弾丸の雨がエルシィの全身をくまなく撃ち抜いていた。
倒れたまま、エリュシア・デ・ルート・イーマもまた絶命し、二度と起きあがらなかった。背後の襲撃者ーーーー木原数多は、邪悪な笑みを讃えていた。
最初は、白純と上條をまともて撃ち殺してしまおうと思った。
そうしなかったのは、『面白そう』であったというだけ。木原数多は根本的な『悪党』である。彼を殺害した一方通行とは明らかな違いがある。正義の心など欠片も抱いていない、人の命など雑草程度にしか見ていない『悪人』であるという点だ。
木原は無造作にカリバーンを拾い上げる。
非力そうな少年が、殺人鬼の胸を軽く一突きにした剣。
学園都市製ではありえないと確信できるほどの切れ味。魔術サイドには一切の関心がない木原でさえ、これを用いれば一方通行のベクトル変換を破ることも容易かもな、なんて有り得ないとは分かっていながらも呟き、デイバッグに押し込む。
木原数多は殺した死体と転がっている死体を見ることもなく、歩きだした。
【白純里緒@空の境界】
【上條恭介@魔法少女まどか☆マギカ】
【エリュシア・デ・ルート・イーマ@神のみぞ知るセカイ】 死亡
【残り28/40人】
【深夜/d-6】
【木原数多@とある魔術の禁書目録】
[思考・行動]
基本:適当に殺して適当に優勝する。
1:一方通行を探して復讐する。
最終更新:2011年07月10日 23:26