因果往訪

11◆因果往訪




 えーどうもみなさんお久しぶりです、
 わたくし四字熟語うずまくバトルロワイアルな実験に放り込まれてしまいました哀れな一般人、優柔不断と申します。
 先の話ではスーツの人(スーツだし多分男だろうからどうでもいいや)から全力で逃げるという大失態をかましたわたくしでしたが、
 わたくしはめんどいからオレに戻そう、
 オレでしたが、そのあとどうなったかというとまあお察しの通り逃げ切ることが出来ました。
 というか逃げまくった結果C-2からA-1まで来てしまったんでございます。
 ……というか。というか。
 A-1で合ってるんだよな、ここ。
 たった9マス分しかないマップで迷子になるとか、子供ならまだしも、
 19歳フリーター人生継続中の肩書きを持つ男がやっちゃいけない気がするぜ……。

 重度の方向音痴って、たとえ女の子でも萌えキャラと残念キャラのどっちになるかギリギリってとこだよな。
 オレはいいと思うけどね。むしろかわいいとさえ思う。
 方向音痴かわいい! かわいいよ方向音痴! って連呼攻めしたい。
 それで恥ずかしがって涙目になってる女の子の周りをFate/zeroのアニメばりにぐるぐる回りながら鑑賞したい。
 少女の周りを回る会会長、優柔不断は少女には手を出さない。
 って書くとなんかそこら辺のラノベのタイトルみたいだよね。
 ここで話変わるけど、最近のラノベのタイトル。本当に頭沸いちまってるんじゃねーかと思うようなのがごろごろしてません?
 一番最近でヤベェと思ったのは「クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門」ってタイトルだな、
 もうそれ入門書じゃないですか!? 表紙にマロ眉の女の子がいなかったらラノベと一目で分かりません!
 ってツッコミ入れそうになったよね。
 まあオレは大人だから「クズがそれなりになってもモテないだろ!」って突っ込むけどね。
 世知辛い世の中、モテるのはラノベとエロゲとギャルゲーとイケメンリア充だけって相場が決まってるんです。
 クズはいつまでたってもクズなんで、クズなりの人生を生きるしか無いわけですよ。
 ああ、悲しきかなクズ人生。
 優柔不断なオレはクズもみるみるさらなるクズになるような人生を送ってきました。語りたくもねぇよ中学時代とか。

 うん、閑話休題(一回使ってみたかった)。
 話をもとに戻そう。

 いまオレがいるのはA-1でいいとして。
 このA-1エリア、多分禁止エリアにはならねーんじゃねーかなってオレ思ってるんですよね。
 禁止エリアってのはルールに書いてあったんだけど、
 4人死んじゃったあとにされる店内放送ってやつで、9マス中2マスが「入ったら死ぬよ」扱いになるルールでですね。
 そうやってだんだん範囲を狭めていって最終的に、殺し合うしかないぜ!
 って状態にオレらを追い込もう、ってルールみたいなんですけど。
 このA-1エリアに関しては立ち入り禁止にする意味が無いっていうか。
 マップの9マスの中で唯一、建物も駐車場も屋上駐車場に昇るためのスロープもない、
 ただ植木と外への道(当然外には出れないよう封鎖されとる)があるだけの簡素なエリアなんだよね。
 誰もこねぇよこんなとこ、っていう。
 だからオレもこうして心の中で饒舌に喋れてるわけだけど、
 こんなエリアを入るの禁止にしたところで殆どの奴は痛くもかゆくもないと思うんだよな。
 ……ごめん、でも待って。
 オレと同じこと考えてるやつがいた場合のこと忘れてた。
 もし、もしだぜ? 
 オレと同じ考えで「A-1に来るやつなんて居ない」って思ってるやつが、オレと同じくらいのヘタレだったら。
 このギリギリ人が隠れられるくらいの植え込みの中とかに隠れてるってことも、なくはない、かもな……。
 そうなると――――ん?
 今、

「いやいやいや、そんな事より支給品を確認しようぜ、オレ!」

 はい、思考停止します。
 実は今、植え込みの中で一瞬「ガサッ」って音が聞こえたんだけど、思考停止しました。
 よーし、ぼく支給品確認しちゃうぞー。まずは血のついた日本刀!

「うん……これホント怖いんだけど。とりあえず地面に置いとくか」

 次!
 こっちがオレの本来の支給品だった、激辛よもぎ団子三つ!

「うん、カロリー抑えめ、中身はあんこの代わりにタバスコを振りかけた黒胡椒クリームとなっています!
 って待てえええええ!? これ明らかにハズレだろ! せめて毒入りとかにしろよ!!」

 いくらなんでもムカついたのでよもぎ団子のうちの一個(個別に包装されていた)を茂みの方に投げてやった。
 ひゅーんと放物線を描いてこの娯楽施設を囲む茂みの外に飛んでいくよもぎ団子は、
 突然空中で見えない壁に当たったかのように止まり、ちょっと跳ね返って茂みの中に落ちた。
 ……そういう仕組みなのかこの空間。
 まさかの発見に、オレは自分を褒めてやりたい気持ちになる。
 なんか落ちた茂みのほうから「痛っ!」って女の子の声が聞こえたような気がする、けど気にしない。
 はっはー、女の子の声くらいで俺がすぐ理性を失って飛び込むと思った? 残念!
 オレはあんなハスキーボイスよりはもっと素朴な声の子が好きなんで!

 他にもなにか無いかデイパックをがさがさとする、
 でもあとは基本支給品の地図や名簿、ルールのおさらい用紙しかないようだった。
 そういえば食糧とか水とかは、ホントに現地調達しかないんだよな。
 今はまだいいけど後で娯楽施設の中に入ってなんか取りに行かなきゃなあ……、
 まさかよもぎ団子(しかも激辛)一個で生き延びるわけにも……いや、
 でも中に入ってさっきのスーツの人みたいな危なそうな奴に会ってもなあ……。

「いっそこのまま何にも決めないで、ここでのんびり過ごしてたらいつの間にか優勝してました、
 みたいなことになったらいいんだけど~……なんて」

 どう考えても無理な願望を呟きながらオレがくるっとその場でターンした、そのときだった。
 誰もいなかったA-1エリアに――背の低いおかっぱ頭の男(なんか怒ってる)がいつのまにか入ってきていたのを、
 無駄に視力が2.0のまんまのオレの瞳は捉えてしまった。

 あ、おはようございます。
 ってそんな雰囲気じゃないよねー。あっははは……。


◆◆◆◆


 おかっぱ頭にモノクロ服の男、心機一転は憤慨していた。
 道すがら出会ったおっさんをだまくらかして、手に入れたと思った閃光弾を眺めようとしたら煙のように消えてしまった。
 となれば、鏡花水月と名乗ったおっさんに一杯喰わされたことに気付いて憤慨するのは当たり前だった。

「おいそこのお前。雰囲気イケメン気取ってるお前だよ。お前、ルール能力は何だ?」

 こちらの方を向いて、ようやく自分の存在に気付いたかのように驚いている男にイラつきながらも質問する。
 武器の強奪を狙っていた心機一転に対し、《幻影の閃光弾》を自分から渡すことで軽くいなした舞台役者。
 鏡花水月に対する心機一転の怒り方を一言で表すなら、安い怒りだった。

 他人に悪口を言う人が、いざ自分が悪口を言われる番になると怒り狂うように。
 これまで友人たちや恩師を騙し、お金を悠々と手に入れていた心機一転は、
 自分が騙されることに対しては非常にナーバスだったのだ。

「えーオレのルール能力っすか? いや、分かんないんですよねー。あの、そちらはどんなルール能力を?」
「私のルール能力は人を殺せる能力だ。お前だってすぐに殺せる。死にたくなければ、私にその武器をよこせ」
「ええー……いやあの、殺せるんならオレを殺してから奪えばいいんじゃ」
「うるさい! おとなしく従えば命までは取らないって言ってんだ! だからさっさと、私に従えー!」

 怒りは人を単純にする。
 だから心機一転は優柔不断に向かって、ろくな話術も使えずに墓穴を掘ることになってしまっていた。
 殺せるのに武器を欲しがる矛盾――考えるより先に言葉が流れ出ていく心機一転のよく陥るミスだった。

(くそっ……くそっ! あの少女と言い、役者のおっさんといい、私をコケにしやがって!
 あの日本刀を手に入れさえすればあいつらだって殺せる! そうだ、最初に誓ったじゃないか……。
 私は殺し合いに乗るって決めたはずだ! だから殺してやるんだ! 文句なんて言わせないぞ!)

 しかしそのミスすらもカバーしようという気にならないほどに、
 心機一転の両目は地面に置いてある血の付いた日本刀に釘付けになっていた。
 あれさえあれば人を殺すことが出来る――その欲望への魅惑、誘惑が心機一転を突き動かす。

 目の前の男はどうやら、自分のルール能力にまだ気づけていないらしい。
 主催者は実験の性質的に多種多様なルール能力を与えているだろうから、
 この男は鏡花水月と同じことはできないはず……つまり、日本刀は確かに本物のはず。
 そう心機一転は思考していた。

 故に自分のルール能力《スタンス180度反転》を「人を殺せる力」と偽って、
 (実際人格を殺すわけだから間違いでもないが)目の前の男を脅し、日本刀を手に入れようとしていたのだが……。
 もうなりふり構ってもいられないほどに、心機一転はムカついていた。

「えーい、とにかく! そいつは頂くぞ!」
「あっおい」

 ダッシュする。
 転がり込むようにして地面の日本刀を掴むと、そのまんま転がって優柔不断から離れようとする。
 しかし、心機一転はそこまで運動が得意なわけじゃないし、
 優柔不断も知らないやつにただで日本刀を握らせるほど馬鹿じゃない。
 転がろうとした体を、肩に手を置かれる形で止められて。次いで掴んでいた日本刀の柄を、優柔不断の手に掴まれる。

 二人の腕力はほぼ同じ。
 危険な刃物を持ったまま――取っ組み合いの形になる。

「くっ……おいお前! 手を離せよぉ!」
「いや、あのすいませんね、ちょっとオレの許可なしにオレの武器取るのはどうかなって思ったもんで。
 つーかあんたはまず落ち着こうぜ、な。怒っても人生良いことねーって。いやーオレも中学んときはさー、
 いろいろやんちゃして警察沙汰にもなったよ二回くらい? あんときゃ死ぬかと思ったよ。
 でもホント、衝動的な行動ってホント人生悪い方向になってくだけだから。だから、さ、落ち着けって」
「うるさいうるさい! 良い人生も悪い人生もない、その人生が今台無しになろうとしてるんだろーが!
 殺し合いなんざに呼ばれた時点で、もう人生は狂わされたも同然なんだよ!
 でもそこで、黙って私の人生が崩れていくのを見つめてろっていうのか!? これが落ち着いていられるか!
 私は自分の人生を取り戻すんだ……そして、私をコケにしたやつらを、見返して、踏みにじってやるんだ!」

 ぐぐ……と、歯を食いしばった心機一転が、鼻息を荒げながら優柔不断を押した。
 鬼の形相にも匹敵するあまりの気迫に、優柔不断は一歩下がる。
 しかし、その判断は失策だった。
 優柔不断のデイパックにはまだ、よもぎ団子が二つあった。
 しかもそのうちの一つは、デイパックから落ちて地面にころころと転がっていたのだ。

「ん、あっ?」
「わあ!?」

 団子を思い切りよく踏んだ優柔不断は、後ろ向きに転倒してしまう。
 当然、取っ組み合いをしていた心機一転も、優柔不断に覆いかぶさる形で倒れる。
 このとき日本刀は、その切っ先を、地面へと向けていた。
 心機一転の片手は、もともと掴んでた優柔不断の腕から離れて、自由になってしまっていた。
 だから。

 《日本刀は優柔不断の心臓付近に突き刺さって》――《心機一転の手のひらは、優柔不断の胸部に置かれた》。

 心機一転にとって、これが今までで最大最悪の、いちばんやってはいけないことだった。
 しかしもう、時計の針は止まらない。ルール能力は覆されない。
 だからこうして、人が死ぬ。


◆◆◆◆


「ぐはっ!?」

 刺さった。
 そんな感触が確かにオレの胸を貫いて――同時に、歯車がカチッと回ってしまうような、不思議な感覚がオレを襲った。
 だから確かに同時に、オレは気付いた。

 オレの名前は優柔不断。
 ――《ぐだぐだぐだぐだと結論を先延ばしにするなんて、決してあってはならない四字熟語》。
 ――《だからオレは、自分のスタンスを開始時点ですでに決めていた》。
 そして、そんなオレのルール能力は。
 《不断の名の通り、どんな刃物であっても斬られることはない》ってんだっていう――二つのことに、同時に気付いた。

「お、おい! お前……!」
「大丈夫っすよ。オレは、こういう能力なんで」

 オレは、オレの上から慌てて飛びのいたおかっぱの男に向かって、微笑みかけながら起き上がる。
 立ち上がって、くい、っと下を見ると、あの日本刀は見事にオレの胸を貫いて、深々とオレの胸板に埋まってしまっている。
 無言で引き抜く。
 何の抵抗もなく、本来オレを殺すはずの日本刀は引き抜けてしまい、胸に傷一つ残さない。

「う、わああ……ば、ばけもの」
「いやだから能力なんですってこれが」

 さあて形勢逆転だ。おかっぱの男はオレのルール能力にびびって、腰を抜かしてしまったらしい。
 《ちょうどいいから、この日本刀の切れ味を試そうじゃないか》。
 オレがオレにそう語りかけてくるから、オレはオレに「そうだな」って返して、
 日本刀を、振り上げた。

「――な、一つ質問。
 なんでかさ、ずっと目を背けてた気がするんだよな。オレ。ここが殺し合いの場だってことにさ。
 さっきあんたともみ合いになったあたりから、妙に頭が冴えたというか……《決意してたはずなのに、決意しなおした》っていうかさ。
 今やっと、《あ、コロシアイしなきゃな》って気分になれたの、あんたのおかげな気がするんだよね」

 思ったことはすぐ垂れ流すオレの口が、すらすらと今の気持ちを読み上げる。
 きっといい笑顔してるんだろーなオレ。だって地面のおかっぱ頭、すっげーこの世の終わりを見てるような顔してるもん。
 まああれだ、
 ここでオレに殺されちゃうってことはさ。
 あんたきっと、ここに来るまでになんか重大な失敗でも犯しちゃったんだろうぜ。

「違う……私のせいじゃない……! 私は……私はっ……!」
「あんたの能力はそういう奴なのかな? 煮え切らなかったオレに、ようやく決意をさせてくれたのかな?
 だとしたら、ありがとな。……お礼になるべく苦しまないように一撃で殺してやるから、天国にでも行ってくれ」
「うあぁ……ひぃ! や、やめ――」
「やめない」

 振りおろして。
 心臓を、一突きにした。
 そんで抜いたら、びゅーって血が出た。
 返り血でオレの一張羅はびしょ濡れ。これが人を殺すことなんだって、思う。

 白目を剥いたおかっぱ頭の男は、二、三秒痙攣したあとに真っ青になって、そっからはもう動かなくなった。
 オレ素人だから、苦しまずに死ぬやり方なんて知らないんだよなあ、ぶっちゃけ。
 これで苦しんで死んでたら、ちょっと悪いことをしたかもしんないな。

「さーて、食糧でも調達しに行くか」

 感傷に浸る暇はない。
 《ここは殺し合いの場なんだから、さっさと最善の行動を取って生き残るべきだ》。
 オレは食糧を調達するために、娯楽施設の中に向かう。
 さっきまではその選択肢にずいぶん躊躇していたような気がするけれど――《きっとそれは、気のせいなんだろう》。


【心機一転:死亡――あと十三名】


【A-1/娯楽施設入口前】

【優柔不断/フリーター】
【状態】達観
【装備】日本刀
【持ち物】激辛よもぎ団子×1
【ルール能力】どんな刃物でも断たれない身体を持つ
【スタンス】殺し合いから目を背ける(反転)



手を繋ぐ 前のお話
次のお話 遺棄消沈

前のお話 四字熟語 次のお話
幻影水鏡 心機一転 実験終了
曇天霹靂 優柔不断 珈琲牛乳

用語解説

【心機一転】
ある動機をきっかけとして、気持ちがよい方向に変わることを表す四字熟語。
あくまでよい方向に、であるが、四字熟語ロワの心機一転はなぜかスタンスを反転させてしまう能力を持っていた。
これは本人の心機一転ぶりがあまりにもおかしな方向だったのと、
四字熟語ではなく「心機(心の在り方)」を「一転(がらりと変える)」という風に解釈されたからだと思われる。
優柔不断を殺してしまったと思ったら殺されてしまったのも、また一転らしい死に方である。

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最終更新:2012年02月04日 15:55
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