曇天霹靂

05◆曇天霹靂




 青天の霹靂っていえばこの前、
 これって晴れてんのに雷が落ちてくることを表すんだぜって×××が言ってたなー、とか思い出す。
 なんでそんなこと思い出したかっていうとさっき、オレの目の前で「曇天の霹靂」が起きたから。
 あ? 曇天の霹靂って何かって? ……まあそれはちょっと後回しにしてだな、一つ思ったことがある。 
 この×××って、なんなんだよ。
 これ声に出して読むときどう読んだらいいかわかんねーじゃねーか。
 あ? 声に出す機会がない? いやオレはちゃんと声に出してるよ。これオレの心の声だもん。
 なんか思い出そうとするとさ頭ん中に、×××ってのが出てきてオレの思考を邪魔するんよ。
 で、なんだいきなりコイツって思いながらも読もうとするんだけど読み方がわかんねーの。
 やっぱあれかね? ピー音なのかね? 答えの出ない問いだとは思うけどさオレ、
 一回思ったことは割と口にしないと気が済まないタイプだからごめんな。
 謝るわ。
 いやーそれにしてもホントに友人の名前や姿、声が思い出せねーなこれ。
 ×××の読み方以前に、これがまずわけわからん。
 もうこれだけですごい気持ち悪い。
 だってさー、考えてみろよ。思い出そうとしたことが思い出せないんだぜ?
 テスト中にあっ! この化合物の名前が思い出せない! みたいなことってあるじゃん、
 あれすっごい胃の中がむかむかしてきてさ、ホントはそれ以外のところにも時間かけないといけないのに、
 そこばっかうんうん頭抱えて唸っちゃったりしてさ、点数が悲惨になったこととか、誰でも一回はあるだろ?
 あの感じ。
 しかも今回なんかあの司会サマ、絶対思い出せないようにしてあるよ♪
 なんて言って太鼓判を押してきてるわけじゃん、ホントひでぇよな。悪魔だ悪魔。
 テストでいえばせっかく覚えた答えをよ、記憶ごと消されてるようなもんじゃねーかこっちは。
 うん、今までの俺らの人生からこの殺し合いに都合のいい部分だけ切り取って、それ以外は黒で塗りつぶす?
 非人道的にもほどがあるやりかただろ。ゲームのキャラクターとか舞台の駒じゃねーんだぞこちとら。
 やっぱ学者サマは嫌いだわ、あーいうの見るとブログ炎上させたくなってしゃーない。
 で?
 あーそう、それで青天の霹靂ならぬ、曇天の霹靂な。
 どんてんのへきれき。今オレが勝手に作った造語だよ、テストには出ないから覚えなくていい。
 最初は青天の霹靂だこれって言おうとしたんだけどさあ、曇り空だったから。
 だから言ってみただけ。深い意味はねえよ。しかしこの曇り空、途中で雨でも降んのかね?
 傘とかこの施設に売ってんのかねー……え? お前話なげぇ? 何が起きたか早く言え?
 分かった、わーったよ、優柔不断な始まり方で悪うござんした。

 いや単刀直入に言うとさ、落ちてきたんだよね。
 日本刀が。
 仮想ショッピングセンター娯楽施設だっけ、そこの入口から出てきたオレの真ん前に落ちてきた。
 そんで刺さった、オレの靴の先っぽに。
 被害はけっこう気に入ってたスニーカーの風通りが良くなっちゃったのと、
 親指の爪の先が、コンマ数ミリばかり日本刀の先端についてた赤ーい汚れに触れて、汚れたくらい。
 つまりまあ、一歩間違えたら死んでたかもしれなかったわけでさ。
 冒頭あたり妙にパニクってたのは、それもちょっと加味して考えてくれると、嬉しいなって。

「……いやマジ、で、危なかったな」

 冷や汗ひとすじたらったらと流しながら、オレはようやく口から言葉を紡ぎだす。
 今オレは、ショッピングセンター娯楽施設の外を、外壁に手を触れながら歩いていた。
 気づいたらそうなってたとも言う。
 なにせ空から降ってきた日本刀を引っこ抜いてデイパックにとりあえずぶちこみ、靴の状態を見て、
 くつしたに血の跡っぽいのがこびりついてるのを見つけ、
 えっもしかして、この日本刀って、誰かを斬ったやつが上から落ちてきたのか?
 って考えに至ってから――それからの記憶が空っぽ。
 そっからたぶん、いてもたっても居られなくなってテキトーに逃げてきたんだと思われる。
 壁に沿って逃げてなかったらここがどこなのかも分からなくなってたかもしれない。
 うん、オレGJ。
 出来ればもうちょっと冷静さのパラメータを上げたいけどオレにそこまでは期待しないわ。
 ……ホント、呼吸とかぜんぜん整わないぞ。心臓は今もフルスロットルで躍動してる。
 震えるぜハート燃え尽きたあしたのジョーとまではいかないけど、髪が真っ白になってもおかしくはない感じ。
 ドキドキで壊れそう千パーセント恐怖、もう震えるしかないさ状態ってやつ。
 もし、十九歳フリーター優柔不断くん!
 とオレの自己紹介に書いてあったらそこに、めっちゃチキンですごめんなさい! の一文を書き加えたいくらい、
 まあなんというかはい、オレはびびりまくっているのであった。

「だってお前……始まってまだ一時間そこらってとこだろ?
 二十四時間テレビならようやく各地のテレビ局にカメラが飛んであいさつしてる頃じゃん、超序盤じゃねーかよ。
 なのにもう? もう始まってるのかよ――殺し合う、なんてのが」

 オレに至っては、誰とも出会ってないし何にもしてないのにだ。
 この娯楽施設の、二階か屋上だったかはしらねーけど……どっか近くでは、もう。
 早くも殺し合いが行われて。
 誰かが血を流した、ってこと。シリアスからもっとも遠いと自負するお調子者のオレでも分かっちまう。
 まさに曇天の霹靂だった。もっと、こう、オレの知らないところでいろいろ起きていつの間にか終ってる、
 こういうのって、そういうもんだと思ってた。
 今までオレが適当に施設を散策しても、誰にも会ってなかったから、そういうもんだと、思えてた。
 ……だが現実だ。
 日本刀に突き付けられた現実が、ずいぶん若本っぽいボスキャラ声でオレの脳内に語りかけてくる。
 止まってた時間が動き始めたとか。オレの物語が、始められてしまったとか、そんな感覚
 勘弁してくれよ、と思っても止まってくれない、無限ループみたいな寒気を伴う、気持ち悪い感覚。
 スポットライトに捕捉されて、二度と逃げることなんて、許されない。

 …………。
 まあ。でも。それでもオレは、優柔不断だ。

「だよな、オレ?」

 動悸息切れ、めまいに喉まで乾いてきたが、そろそろオレも平静を取り戻してきた、
 きたってことにしといて欲しい。あとでオプーナ買う権利やるから頼む。
 オレは、優柔不断。
 ぐだぐだぐだぐだと文句をつけて、いつまでも結論を先延ばしにする、優柔不断の称号を持つ男だ。
 現実を突き付けられて、心が一気に衰弱しようと……そのくらいですべてを結論づけるなんざ、
 この名前をくれやがったあの白衣の女にも失礼ってもんだと思うわけだ。

 優柔不断に、文句を言おう。
 むりやりな「解釈」で、さっきの事態を空想にしてしまえ。

 日本刀は。そう、誰かがわざと落としたもんだとオレはそう思考する。
 ついてた赤いのは。ああ、きっと絵の具か何かだと、オレはそう思考する。
 なんで誰かさんはそんなことしたって? 決まってんだろ、オレをびびらせるためにさ。
 誰かさんはオレを見張っててだな、
 オレをビビらせて自殺に追い込もうとしたわけ。ぜんぶ仕組まれたことだったんだ、あれは。
 そうだそうに違いない、じゃなきゃ狸が化かしてるんだ……だからまだ判断するには早すぎる。
 まだ、これが現実なんだとかそんなバカげたこと。
 決めつけるには、早すぎる。

 この推理がたしかなら――今だって誰かが、このオレを見張っているはずだ。
 仮想ショッピングセンター、娯楽施設の一階部分の壁は、
 中のテナントや商品が見えるようにかなんだかしらねーが、ところどころ大きなガラスが張ってある。
 誰かさんはきっとそこを利用してオレを見張って、今だってオレを見て笑ってるんだ。
 ほら……たとえば、そことかに。

「なーんて、な……」

 そこ、とかに。

「あ」

 足。
 が。
 ちょうど目の前の、ジャンクフード屋っぽいところのすりガラスの下、
 スーツみたいな黒いズボンを履いた、足が、今、動いた。
 誰か、いる。
 嘘、じゃ、ない……!!!

「あ、う。わあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 かすれた声で叫んだオレは、それはもう韋駄天もびっくりの速度でそこから走りだした。
 機関車トーマスが感情的に急加速したときみたいに、頭から白いケムリが出てたかもしれない。
 まさにこれこそ、無我夢中。
 ……そういやオレこと優柔不断、可愛い子にはむがむちゅーでちゅーしたいと思っていた時代もありました。
 でも今だにオレったら、かわいい子と手を握ったことすらありません。
 神様、願うなら。
 空から落ちてくるのは、日本刀じゃなくて女の子が良かったです。

◆◆◆◆

 だだだ、と。
 背後で猛烈な地面を蹴る音が聞こえて、思わず振り返った。
 窓の外で、チェックの上着を着たジーパンの青年の後ろ姿だけが見えた。
 どうやらこちらの姿に気付き、逃げて行ったらしい。
 ……殺せたな。スーツ姿にスキンヘッドの男、破顔一笑はそう思う。
 娯楽施設内に入った彼はとりあえず腹ごしらえということで、
 ジャンクフード屋の厨房に侵入し、ハンバーガーを適当に作って食べていたのだった。
 好みの照り焼き鳥を二枚挟んだハンバーガーは思った通り美味しかったが、
 少し周りの様子を見ることを忘れてしまっていた。
 気をつけなければ。大きな窓ガラスの先の空を見つめながら、もぐもぐと破顔一笑は猛省した。

 それにしても本当にこのハンバーガーは美味しいらしい。
 窓ガラスに映った自分の口元が、ありえないほど微笑んでいるのをうっすら確認して――
 なんだか気分が悪くなったので、そこでガラスを見るのはやめた。
 これが、自分で自分の顔を爆発させる寸前だったのだと彼が気づくのは……もう少し先のことである。


【C-2/娯楽施設一階・ジャンクフード店】

【破顔一笑/ボディーガード】
【状態】健康、笑顔、満腹
【装備】不明武器1
【持ち物】特製照り焼きハンバーガー
【ルール能力】にやけ顔を見せると相手の顔がびりびりと破れる
【スタンス】マーダー

【C-1/娯楽施設の外壁】

【優柔不断/フリーター】
【状態】びびり
【装備】なし
【持ち物】不明武器1、日本刀
【ルール能力】不明
【スタンス】まだ決めていない


急曲直下 前のお話
次のお話 張子の車

前のお話 四字熟語 次のお話
顔面隠し 破顔一笑 手を繋ぐ
     優柔不断 因果往訪

用語解説

【優柔不断】
なにごともぐだぐだとして最後まで決めないことを表す四字熟語。
四字熟語ロワでは19歳にしてフリーター、雰囲気イケメンだけが取り柄のチキンな男。
おそらくキャラはともかく、有り方としては最も筆者に近いだろう。
好きなバーガーはソルト&レモン。ジュースはコーラしか頼まないらしい。

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最終更新:2011年11月21日 05:35
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