(……食料はこんくらいでいいな)
あの廃屋みたいな所を出て、結構経っただろうか。
俺は、予定通りになんとか食料の確保に成功していた。
食料と言っても、菓子パンやらペットボトルの飲み物程度の物だが。
あまりにも平凡で、変わり映えのしないような物だが、今はありがたい。
もしかしたら、この内どれかが『最後の晩餐』になるかもしれないし。
(……ちょいと、腹ごしらえしとくか)
辺りを警戒しながら、物陰に身を隠す。
その後、適当にパンと飲み物を取り出して、早速ひと口。
……口に広がる甘さと、プチプチとした触感。どうやらあんパンだったようだ。
未だ交戦はしていないが、少々疲れて来た体に、この甘さは嬉しい。
続いて、ペットボトルの封を切りぐいっと煽る。
……緑茶か。この渋みも、今はありがたい。
(……あんま味わってる暇ねぇな)
手早くあんパンを緑茶で流し込んで、食事を終える。
……これが、『最後の晩餐』にならないように、よく祈っとかないとな。
再度辺りを警戒した後、通りに戻る。
……次は何処に行こうか。スマホを取り出し、地図を呼びだす。
近くにある施設は、めぼしいもので、病院と駅くらいか。
少し足を伸ばせば学校もあるが、今は置いておこう。
とりあえず、この選択肢で役に立つと思われるのは、病院だろう。
駅に、何か役に立つ物が置いてあるとも思えないし。
とりあえず、まず病院に行ってみよう。
その後、余裕があれば学校にも足を伸ばしてみるか。
とりあえずの予定はこんくらいでいいだろう。
特に変わった目標もない、平凡なもんだ。
……平凡か。ふと、小さく呟いていた。
(俺の名前も至って平凡だ。「篠原惇平」……探せば、俺以外に
2・3人いるかもな。
……何なんだろうなあ、平凡ってのは)
取り留めの無い事を考えていた時だった。
パッ、といきなり病院方面に明かりが灯った。
病院に誰かいるんだな……当然だ。誰もいないのに勝手に明かりが点く訳ない。
しかし、こんな状況で明かりを点けるなんて。不用心なのか、油断しているのか。
……馬鹿な奴もいたもんだ。こんな暗い中で明かりをつければ、凄く目立つだろうに。
だが、こうも考えられる。
――――わざと明かりを点けて、誰かの気を惹く作戦。
誰かをおびき寄せておいて、不意打ちで仕留める。そんなのも有り得るだろう。
「……まぁいいさ。どっちにしろ、病院には行くんだからな」
◇
(……これくらいあれば、まぁ十分でしょう)
暗い中、懐中電灯の光を頼りに、医療器具をバッグに仕舞う。
こんな事やっていると、まるで空き巣にでもなったかのような気分が……。
聖職者にあるまじき行為ではあるが、こんな状況である以上、仕方が無い。
(あまり多すぎても困りますからね。これくらいでいいでしょう)
探索終了を知らせる為に、扉を軽くノックする。
その音に反応するように、スルリと阿部さんが診察室に入って来る。
「どうだった?」
「まあまあですね。結構手に入りました」
「そりゃよかった。次はどうする?」
「そうですね……立ち話も何ですから、座りましょうか」
私はそこらの椅子に腰かけ、阿部さんは、明かりを点けてからベッドの上に座る。
……さっきまで、暗い中にいたせいか、光が妙に眩しい。
眩い光に目が慣れてきた頃、阿部さんが口を開いた。
「……どうだ?役に立つ物があったか?」
「ええ。包帯やガーゼ、消毒液等、役に立ちそうな物を。応急処置程度なら、これでいいでしょう。
ですが、あくまで応急処置です。過信は禁物でしょう」
「だろうな。俺も、Kさんも、そういう事にあまり詳しい訳じゃないしな」
「ですね……」
「さて。ここらで、ちょっと休憩しておかないか? 今後の事も考えて、な」
……そう言えば、あの船からここまで、歩き通しだった。
ここらで、少し体を休めてもいいかもしれない。
現に、私の神父服が、かいた汗のせいで体にくっついて来ている。
あまり、心地のいい物では無い。動きにくくもなるし。
「「…………」」
少しの間、2人の間を静寂が包む。
不思議な程に、静かだ。
この瞬間にも、誰かが、命を落としているかもしれないと言うのに。
……もしそうだとしても、私に何ができるだろうか?
Tさんの様に、戦うのは得意ではないし。
(もし……どなたかの遺体に遭遇しても、私にできるのは、冥福を祈るだけ。それでは……)
「……Kさん、どうした、考え事か?」
「あ、いえ……何でもありません」
「そうか、ならいいんだが。……ところで、随分と汗をかいてるみたいだな」
「ええ。普段は、あまり激しい運動はしないもので」
「濡れたままじゃ体に良くないぞ。着替えた方が良いぜ?」
確かに、一理ある。汗で濡れたままにしておくのは、確実に悪影響だ。
でも、着替えなんて持っていない。
病院内を探せば、入院患者用の服ぐらいなら、あるかもしれないが……。
「それじゃあ、服を探しましょう」
「いや、探す必要はないぜ。確か、Kさんの支給品に、俺のツナギがあっただろう?
そいつを使えばいい。ツナギの方が、その服より動きやすそうだからな」
「ええっ!?」
「俺のはイヤかい?……イヤなら、他の服を探すが」
「べ、別にイヤと言う訳ではないのですが……」
「男は度胸!何でも着てみるもんだ」
その後、2、3分ほどやり取りが続いたが、結局、阿部さんのツナギを着る事に。
……少々サイズが合わないが、まあ問題ないだろう。
だが……これを着てからと言うものの、何だか阿部さんがこちらを見つめている様な気が。
多分、気のせいだと思うけれど。
「どうも、ありがとうございました」
「いいさ、これくらい。Kさんの役に立てて、俺も嬉しいしな。さて、そろそろ次を調べに行こうぜ」
「ええ、そうですね」
一応、辺りに人影が無いのを確認して、診察室を出る。
……先程と何ら変わらない静けさが、辺りを包んでいる。
やはり、これほどの静けさは、気味が悪い。その上、明かりが不十分と来ている。
懐中電灯を使っているお陰で、少しは明るくなってはいるが、やはり暗い。
何しろ、他の明かりは非常灯と、窓から差し込む月明かりだけだ。
予想以上に、月明かりと言う物は明るいけれど、心細い明るさだ。
「どうした、Kさん。エレベーター、乗らないのか?」
「あっと、申し訳ありません」
「考え事かい?」
「まあ、そんな所です」
……小さな機械音と共に、エレベーターの扉が開く。
エレベーター内部の光が、一気に廊下に漏れ出して、辺りを照らしている。
「さて……最上階だから、4階だな」
阿部さんがスイッチを押すと、扉が閉まってエレベーターが動き出す。
少し、重力を感じたかと思ったら、すぐに4階に到着していた。
扉を抜け、辺りを見た時にまず目に付いた所は……ナースステーションだった。
誰かいるんだろうか?と思って、懐中電灯で照らしてみたが、誰もいない。
一応、覗き込んで見ても、やはり誰もいない。
その後、少し辺りを見ていると、阿部さんが声を上げた。
「おっと、スイッチ見つけたぜ」
そう言い終わるか終わらないか、そんなタイミングで一斉に明かりが灯る。
……この分だと、懐中電灯は暫く要らないだろう。
スイッチを切って、ツナギのポケットに仕舞う。
「明かりも点いた事だし、4階の探索と行こうぜ。今度は範囲が広いからな……。
二手に分かれないか?そっちの方が、効率もいいだろ」
「いいですね。それじゃあ、さっそく」
「その前に。Kさん、これを」
「これは……阿部さんの拳銃じゃないですか。これを私が使ったら、阿部さんが……」
「いいんだよ。肉体には自信があるんでね。もしもの時は、素手でやりあうさ」
「あ、ちょっと……」
呼び止める間もなく、阿部さんは行ってしまった。
……拳銃を、返し損ねてしまった。
だが、今から追いかけて、阿部さんの厚意を無下にしてしまうのも……。
仕方無い。後で返そう。念の為に、拳銃を握りしめて、探索に向かった。
◆
(こんな時に不用心な奴もいたもんだな。まあ、そのお陰で、人がいるのを知ることができた訳だが)
非常口の扉越しに、中の様子を窺う。
……人の姿はない。だが、油断してはならない。
ゆっくりと、ノブを回して扉を引く。……鍵は掛かっていなかったようだ。
音を立てないように、そのまま中へ侵入して、また、ゆっくりと扉を閉める。
(やはり人影は無い。どっかの病室にいるのか?……下手に病室に入れば、真正面から出会う事になるな。
それは出来れば避けたいが……)
少しの間、ここで待ってみようか。そう思いかけた時だった。
病室の扉が開き、誰かが出てくる。
「ここも、大した物はありませんでしたね……他のところも、こんな調子なんでしょうか」
出て来たのは、ツナギを着た普通の男。
どうやら、一人だけのようだ。そう思って飛び出そうとした瞬間。
とあることに気が付いて、思いっきり身を翻す。
……あいつも、銃を持っているじゃないか。
銃と言う物は、使い手の腕に左右されない攻撃力がある。
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」とも言うように、ビビって乱射でもされたら……。
迂闊に飛び出さなくって良かった、のかもしれない。
(……少し、後をつけてみるか)
「……もう、ここらで終わりにしておきますか」
どうやら、これで病室の探索を終えるようだ。
こいつに仲間がいるかは分からないが、もしいたとしたら……。
2人纏めて、始末するのもアリかもしれない。
(とにかく、こいつの後をつければ分かることだ)
柱の影や、曲がり角。観葉植物の後ろ。
隠れられる所に身を潜めつつ、後を追う。
「…………」
男は、一言も発せずに歩いて行く。
俺も、無言で後をつける。
……何故だろうか?何故、俺はただ後をつけているんだろうか?
あいつは、現時点ではまずこちらに気づいていないだろう。
この状況なら、間違い無く俺が勝てる。
だってのに、何で俺は。
(…………おっと)
「あ、阿部さん。もう戻ってたんですね。何か、見つかりましたか」
「ああ……大した物は無かったな。あったとすれば、このバナナくらいだ」
「バナナですか。お見舞いの品でしょうかね?」
「人っ子一人いない病院に、お見舞いがあるのもおかしい話だがな……」
……仲間がいたのか。
さっきの、俺の躊躇いは、もしかしてこれのせいか?
無意識に仲間がいることを感じ取っていた、とでも言うのか?
それとも、こいつが俗に言う「虫の知らせ」とか言う奴か。
……俺は、そんなオカルトじみた話を信じるような性格じゃないが。
(ふん……まあ、今回はそう言う事にしておくか。それに、2対1は少々分が悪い)
今の所、武器はこの小銃だけだ。
1対1なら、これ以上に心強い武器はないだろうが……2対1じゃな。
あのガタイのいい男。あいつ、かなり腕っ節が立ちそうだ。
組み伏せられでもしたら、そこで終わりだ。
(……まだだ。まだ勝負を急がずともいい。時間は、まだ残されてるんだからな……)
仕方無く、気づかれないように非常口に戻る。
……さて。早速、予定を立てないとな。
【一日目・深夜/E-3:病院:4階非常口付近】
【篠原惇平@
オリジナル】
[状態]:健康
[装備]:64式小銃(狙撃仕様)(20/20)@SIREN2
[所持品]:支給品一式、自前の煙草、マガジン×3
[思考・行動]
基本:
殺し合いに乗る
1:この場は引いておくか。まだ、時間はある
2:予定を考えないとな
◆
「……美味しいバナナですね」
「あ、ああ、そうだな……」
マズい。
ここに来てから、せっかく我慢していたと言うのに。
Kさんに服を貸してから、どうにも気になってならない。
今だってそうだ。
バナナを食べるあの口の動きだって。
(……何考えてるんだ、俺は? 今は、そんなコト考えてる場合じゃないだろ?)
俺の意思に反して、頭の中では危ない妄想が、頭を擡げて来ている。
……駄目だ、今はそんな場合じゃない。冷静になれ、俺(と、俺の体)!
(どうする?ここは一つ……いや、それは……だが、このままじゃ……)
2つの選択肢の中で、揺れ動く俺の心。
一体、俺はどうすりゃいいんだ……?
どっちが正しいんだ?一体、どっちが正解なんだ。
本能に従うべきか、理性に従うべきか……。
「……阿部さん……阿部さん!?」
「うおおっ!?」
「うわあっ!! ……だ、大丈夫ですか? 凄く、苦しそうな表情していたものですから」
「い、いや……何でもない。大丈夫さ」
……危ない所だった。色んな意味で。
あのまま行ってたら、間違い無く本能のままに暴走していただろうな。
Kさんが丁度良く、俺を心配して話しかけてくれたお陰で、現実に戻って来れた。
「本当に大丈夫ですか……?」
「ああ、大丈夫だ。心配させて悪いな」
「私のバナナも、食べていいですよ? これで、元気になって下さいね」
「な…………!?」
マズい。
何とか鎮静化したと思ったのに。
Kさんの何気無い一言によって、また燃え上がって来た。
――――私のバナナも、食べていいですよ?
――――これで、元気になって下さいね。
(――――――危ねぇ!! 一瞬、頭が真っ白になったぞ)
これ以上考えると、本当に暴走してしまいそうだ。
他の事を考えよう。他の事を……。例えば、これからどうするか、とか。
そうだ……考えなきゃいけない。
「……Kさん、あんたこれからどうしたいか考えてるか?」
「そうですね……もうそろそろ、病院を出て、次の施設を調べに行ってもいい頃だと思っていますね」
「そうか……」
未だ体が荒ぶってはいるものの、何とか落ち付けた。
さっきまで暴走していたせいなのかは良く分からないが、スウッと頭が冴えて来る。
まるで、賢者にでもなったかのように――――。
「……確か、ここから一番近いのは、駅だったよな?」
「確か、そのはずです」
「なら、そこに行ってみないか? そこで電車に乗って、東の方に行ってみてもいいかもな」
「東ですか……東ですと、駅の傍にショッピングモールがあるようですね……確かに、いいアイデアです。
ショッピングモール……おそらく、規模としては結構な物でしょう。人も、集まるはずです」
「だろ? 早速、行かないか」
「その前に…………はい、阿部さん」
「……さっき渡した拳銃か。別に、返してもらわなくとも良かったんだが」
「いいえ、これは元々阿部さんのモノですから。それに、私は人を殺すつもりはありません。
持っていても、意味の無い物です」
……やはり、Kさんはいい男だ。
最近の軟弱なノンケにはない、一本ピシッと筋の通っている男だ。
Kさんが、こちら側の人間なのかは分からないが……。
「……そうか。なら、受け取っておくさ。さあ、行こう」
俺の言葉に、やわらかな笑顔で答えるKさん。
……生きて、帰らないとな。
何気無く、そう思った。
【一日目・深夜/E-3:病院:4階・ナースステーション】
【教会育ちのKさん@オカルト・ネタ】
[状態]:健康
[装備]:阿部さんのツナギ@ヤマジュン
[所持品]:支給品一式、即席ラーメン@MGS3、
[思考・行動]
基本:殺し合いなどせず、このゲームから脱出する
1:駅に向かいましょう。電車に乗って、東へ。
2:阿部さん、なんだか調子が良くないみたいですね……
【阿部高和@ヤマジュン】
[状態]:健康、興奮(小)
[装備]:H&K USP(15/15)
[所持品]:支給品一式、予備マガジン×3、阿部倉司の煙草@SIREN2
阿部倉司のライター@SIREN2、バナナ
[思考・行動]
基本:殺し合いなんてする気は無い。いい男といい事したい。
1:駅に向かう。その後電車で東に。
2:……やはり、Kさんはいい男だ
※病院の4階に、明かりが灯った影響で、病院が目立っています
最終更新:2012年08月26日 21:35