32話「驕った姫の落日」
森屋英太と志村晃は、朽ち果てた展望台で遭遇した後、軽く情報交換をし、
そしてそのまま展望台の最上階に留まっていた。
英太は元警備室の部屋の中を漁っている。かなり大昔にこの展望台は使われなくなったようで、
机や椅子、画面が割れて中の機械部分が剥き出しになったテレビモニター、いずれも厚く埃を被り、
壁に貼られた水着姿のグラマーな豹族の女性のポスターは色褪せ、傷みきっていた。
一方、晃はと言うと、展望台の窓から下界を見下ろしていた。
周囲を山や森に囲まれた閉鎖的な寒村で生まれ育ち、村から外へ出た事などほとんど無かった晃にとって、
遠くに見える海や街の明かりは非常に新鮮なものだった。
「どうしたんすか志村さん」
晃の様子を英太が見に来た。
「ん……いや、な。ワシは住んでいる村からほとんど外に出た事が無くてな。
こういう、景色を眺めるなんて事も無かったもんでな……」
「はあ……」
一体どんな村で育ったのだろう、と英太は思ったが、そこを聞く気は特に無かった。
人狼の
ヴォルフ、女子高生の
平池千穂は目的地の展望台まであともう少しという所まで来ていた。
満月をバックに影が映える、廃墟の展望台が木々の葉の間から見えていた。
「もうすぐだな」
「うん……え? ヴォルフ、ちょっと待って!」
ヴォルフの後ろを歩いていた千穂が突然ヴォルフを呼び止める。
何事かとヴォルフが千穂に近付いてみると、千穂の持っているPSP型簡易レーダーに反応があった。
どうやら前方の展望台に、自分達二人以外に向かっている者がいるらしい。
レーダーの画面には「リリア・ミスティーズ」と表示されている。
「!! 千穂、伏せろ!」
「えっ!?」
ヴォルフが千穂の背中を押さえ、自分と一緒に地面に伏せさせる。
千穂がヴォルフの方を見ると、空に顔を向けていた。
見れば、満月輝く夜空を、翼を生やした人間が飛んでいくではないか。
レーダーを確認すると、どうやらあの人物が「リリア・ミスティーズ」と見て間違い無いようだ。
「……後をつけてみるか」
「そうだね」
二人は夜空を飛ぶ謎の人物を追跡してみる事にした。
「ん?」
「どうした森屋」
英太が満月の輝く夜空に、何かが飛んでいるのを目撃した。
最初は鳥か何かかと思ったが、こんな夜中に鳥が飛ぶというのもおかしい。
なら、あれは何なのだろう?
「何かが、飛んでくるような……」
「何……?」
英太の言葉を受け、晃が夜空に目を凝らす。
確かに、何かがかなりのスピードでこちらに向かって――。
「……森屋! 部屋に戻れっ!!」
「え!? 何!?」
何かを察知したのか、晃が突然血相を変えて英太に警備室跡に戻るよう急かした。
「どうしたんだよ志村さん!?」
「いいから早く!!」
そして英太が警備室内に入り、展望ルームの窓から見えない位置に移動した、
その直後だった。
ダダダダダダダダダダッ
「ぐぉっ、がっ、ぐ、あ」
機関銃の射撃音と共に、警備室の入口付近に立っていた晃の身体中を弾丸の掃射が襲った。
連続発射された計10発の弾頭が、晃の胴体を容赦無く抉り、貫通した部分から赤い血液が噴き出し、
埃に塗れた床に飛び散り黒っぽい斑点模様を作る。
そして晃の口からごぼっ、と、血液が噴き出し、そのままうつ伏せに倒れ込んだ。
英太は奇跡的に無傷だったが、このままでは殺されるのは時間の問題だった。
(くそっ、相手は銃を持っている、しかもマシンガンか何か……どうする? どうすればいい、俺!?)
志村さんは辛うじて息があるようだ。駆け寄りたいが、丁度部屋の入口付近で倒れてしまっているため、
下手に飛び出すと自分も銃撃される可能性が高い。
入口から顔だけ出して、様子を窺うと、展望ルームの外に翼を生やした女性と思しき人間が飛んでいた。
手には何やら銃のような物を持っているのが見える。
しかも拳銃とかそういう類の物では無い、あれは恐らく――機関銃とかそういう物だ。
どうやらあれで自分と志村さんを銃撃したようだ。
あの翼の生えた女はもうすぐ自分と志村さんの息の根を止めるためにこの部屋に入ってくるだろう。
英太は今丸腰の状態だった。自分のデイパックは現在、有翼女から視認出来る位置にあるテーブルの上に置いてある。
取りに行くのは自殺行為だし、もし取りに行けたとしても中身は折り畳み式のナイフと謎の動物のぬいぐるみなのだが。
――基本支給品については恐らく全参加者共通なのだろうから、面倒なので省く。
一方の晃の所持品は有翼女からは見えない位置にある別のテーブルの上に置かれている。
中身は確か、鎌とチキンラーメン。とても連射可能な機関銃に対抗出来る道具とは思えない。
この部屋には一つしか出入口は無い。まさに万事休す。
しかし、志村晃の支給品である鎌の事を思い出した英太の頭にある考えが浮かんだ。
(一か八か……!)
リリア・ミスティーズは展望台の展望ルームのすぐ外を飛んでいた。
たまたま目についたこの廃墟の展望台だが、運良く参加者がいた。しかも二名。
一名はたった今の銃撃で仕留めたようだが、もう一人は奥にある部屋に隠れてしまった。
だが、別に問題では無い。中に入って始末すれば良いだけの事だ。
「隠れたって無駄ですよ。今行きますから……」
邪悪な笑みを浮かべながらリリアが展望台の中へと入っていく。
そして装備した短機関銃、USSR PPSh41の空になったドラムマガジンを交換し、
ゆっくりと部屋の入口に近付いていった。
この時、リリアはすっかり油断してしまっていたのだろうか。
入口から部屋の中に入った時、すぐ脇に隠れている森屋英太に気が付かなかった。
「うおおおおおおおおおっ!!」
「なっ!?」
英太が雄叫びを上げながら、右手に持った鎌を大きく振り被ってリリアに突進した。
リリアは咄嗟にPPSh41を英太に向け掃射――する暇も無かった。
ドスッ!
リリアの首に鎌の曲がった刃が深々と突き刺さる。
衝撃で思わずリリアは持っていたPPSh41を床に落としてしまった。
鎌が刺さった場所から、大量の血液が噴き出し、リリアの首元、ドレス、そして床を光の加減でドス黒い液体に見える血が汚す。
リリアは首から鎌を引き抜こうとしたが、出来なかった。
(こ、ここまで、だと言うの……?)
身体中から力が抜け、リリアは遂に膝をつく。
意識が徐々に遠退いていく。予想もしていなかった呆気無い自分の幕切れに、リリア自身、心の中で苦笑していた。
(油断、していた……何て無様…………お笑い…だ……わ………)
バタン、とリリアの身体が倒れ、動かなくなる。
そしてあっと言う間に大きな血溜まりが出来、首から噴き出す血液も段々と少なくなり、やがて……何も出なくなった。
リリアの両目は開いていたけども、もう光を宿していなかった。
森屋英太は、たった今自分が殺した翼の生えた紺色のドレス姿の女性の死体の前で立ち尽くしていた。
よく見れば両手が小刻みに震えているのが分かる。
前回の
殺し合いの時でさえ一人も手に掛けなかったが、ついに今回の殺し合いで初めて殺人を犯した。
数秒ぐらいその場に立ち尽くしていたが、晃の事を思い出し急いで駆け寄る。
幸いまだ息はあったが、身体中に穴が空きそこから血が噴き出して床に流れている。
明らかに致命傷だった。
「森屋……さっきの奴はどうした……」
「……死にました。俺が殺しました」
「……! そう、か……ぐうっ、ゲホッ、ゲホッ!」
「志村さん!」
吐血する晃を英太は心配するが、どうする事も出来ない事は彼自身がよく分かっていた。
英太の頭の中に、以前の殺し合いでクラスメイトの死に際を見た時の記憶が蘇る。
特に、一緒に行動を共にしていたとある女子の事が。
――えいたくん……なみだでしょっぱいよ……。
――……で…も…………これで…さびしくない…よ…………こ…わく……ないよ…………。
「……くそっ…くそっ……」
慣れる慣れないの問題では無い。いつ見ても人が死ぬ場面は嫌なのだ。
流石に「あの時」のような悲しみは無く、涙も出なかったが。
そして晃は薄れゆく意識の中、最期の言葉を英太に伝える。
「英太…いいか…………絶対に……生きて…帰れ………!」
そう言い終えるのと同時に、晃の両目は閉じられ、静かに息が絶える。
英太は沈痛な面持ちで、それを見届けた。
展望台の階段を駆け上がり、ヴォルフと平池千穂は最上階の展望ルームに辿り着いた。
数分前、二人は空を飛ぶ「リリア・ミスティーズ」と思われる人物を見付からないように追跡していた。
するとリリア・ミスティーズは廃展望台の展望ルームに持っていた武器らしき物を向け、直後に機関銃の射撃音が響いた。
もうしばらく様子を見てみると、リリア・ミスティーズは、
そのまま展望ルームのガラスが割れている所から展望台の中に入っていってしまった。
そしてしばらく様子を見ていたが、それっきりで銃声も何もしない、何も分からなくなってしまった。
仕方無いので警戒しつつ、展望台を上ってみる事にしたのだ。
「どうなったのかな……」
「しっ! まだいるかもしれん。大きな声を出すな」
小声でやり取りする二人。ヴォルフはその手に二十二年式村田銃を握り、
警戒しながら先程リリア・ミスティーズが展望台内部に侵入した位置を目指す。
そしてその位置に辿り着き、そこで二人が見たもの。
「!!」
「こ、これは……!」
それは、血塗れで仰向けに寝かされた老人の死体。
身体中に穴が空いているので、先程機関銃らしき物を掃射していたリリア・ミスティーズに殺されたのだろう。
そして老人の死体を見下ろし、呆然と立ち尽くす学生服姿の少年。
少年の方はどうやらほとんど無傷のようだ。
ヴォルフは死体を見るのには慣れていたが、千穂は初めて死体を目にするため、思わず目を背けていた。
そんな千穂の事を心配しつつも、ヴォルフは当事者と思われる少年に話し掛ける。
「……なあ、ちょっといいか?」
「あ……アンタら、いつの間にそこに」
「俺達は殺し合いには乗っていない。とりあえずそれは本当だ……この人は……さっきの奴に?」
「さっきの奴って言うのは、そいつか?」
「何……ッ!!?」
少年が指差した方向には、
翼を生やした、紺色のドレスを身に纏った黒い長髪の美しい女性――の死体が転がっていた。
細い首に鎌が突き刺さり、床には血溜まりが出来ている。
「……間違い無いよヴォルフ。レーダーに名前が出ている」
「本当か……」
千穂の持っているPSP型簡易レーダーを覗き込むと、
白い文字色で「ヴォルフ」「平池千穂」「森屋英太」、赤い文字色で「志村晃」「リリア・ミスティーズ」と表示されていた。
「森屋英太」は恐らくこの少年、「志村晃」は恐らくこの死んでいる老人だろう。
ヴォルフと英太の二人はリリアの死体に近寄る。千穂はやや離れた位置からそれを見ていた。
「……そうだ。こいつに殺されたのか、この人は」
「ああ……」
「……こいつを殺したのは、お前か?」
ヴォルフが英太に尋ねる。
それに対し英太は少し辛そうな表情で、だがしっかりと答えた。
「ああ……俺が殺した……俺が……」
ヴォルフと千穂は黙ってその告白を聞いた。
風が吹き抜ける音が、展望台最上階に響いていた。
【リリア・ミスティーズ@ムーンライトラビリンス改造版 死亡】
【志村晃@SIREN 死亡】
【残り 38人】
【一日目/黎明/F-7展望台最上階警備室】
【森屋英太@自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康、返り血(中)、悲しみ、少し呆然
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、バタフライナイフ、
マーフィー君@増田こうすけ劇場ギャグマンガ日和
[思考・行動]:
0:生き残る。
1:志村さん……。
2:ついに人を殺しちまった……。
3:狼男(ヴォルフ)と可愛い女の子(平池千穂)、話してみるか。
4:太田に今度会ったら……どうする?
5:太田以外のクラスメイトと合流したい(但し太田の仲間らしい吉良は微妙)。
6:シルヴィアの事が少し心配。
[備考]:
※本編死亡後からの参戦です。
※「宮田司郎」のおおよその外見的特徴を把握しました。
【ヴォルフ@オリキャラ】
[状態]:健康
[装備]:二十二年式村田銃@SIREN(8/8)
[所持品]:基本支給品一式、8㎜×53R弾(30)、ナッチの写真集@永井先生
[思考・行動]:
0:
リーヴァイを探す。殺し合いをする気は無い。首輪を何とかしたい。
1:この少年(森屋英太)と話す。
2:平池千穂と行動を共にする。
3:襲われたら戦う。
4:あーそういえば尻尾の件はどうするか。
[備考]:
※
伊賀榛名、
中村アヤのおおよその特徴を把握しました。
【平池千穂@オリキャラ】
[状態]:健康、死体を見て少し気分が悪くなっている
[装備]:金属バット
[所持品]:基本支給品一式、PSP型簡易レーダー@
オリジナル
[思考・行動]:
0:殺し合いはしない。生き残る。
1:少年(森屋英太)と話す。
2:クラスメイトの二人(伊賀榛名、中村アヤ)を探す。
3:ヴォルフと行動を共にする。
4:尻尾まだ触ってないな……いや尻尾だけじゃなくてもっと他の……。
[備考]:
※リーヴァイのおおよその特徴を把握しました。
※F-7一帯に銃声が響きました。
※F-7展望台最上階警備室に志村晃、首に鎌が刺さったリリア・ミスティーズの死体と所持品が放置されています。
志村晃の所持品=デイパック(基本支給品一式、チキンラーメン(5))
リリア・ミスティーズの所持品=USSR PPSh41(71/71)、
デイパック(基本支給品一式、PPSh41の予備ドラムマガジン(4))
最終更新:2010年01月25日 00:37