ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0915 TAKE IT EASY!
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ankoss
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注:例のごとく、ゆっくりの言語能力、思考能力を超過しています。後半部分が顕著です。
気がつけばそうなっていて、もうどうしたらいいか判りません……。
・過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 709 五体のおうち宣言
ふたば系ゆっくりいじめ 713 最後に聞く言葉
ふたば系ゆっくりいじめ 722 育て親への説教
nue052 にんげんをたおして
ふたば系ゆっくりいじめ 787 ふたりなら
作者:ハンダゴテあき
マリサはアメリカで生まれたゆっくりだった。
言葉をすべて英語で話し、
「ゆっくりしていってね!」
という、ゆっくりにとって御馴染の台詞を
「TAKE IT EASY!」
と、何の疑いもなく使っていた。
ある日、マリサは捨てられた。
仕事の都合で、アメリカから日本に滞在していた飼い主に、ある日突然捨てられた。
マリサは何故自分が捨てられたのか理解できなかった。
捨てられる直前、何故飼い主がひどく冷めた顔をしているのか判らなかった。
自分以外に何も入っていない段ボールのみで、これからどうやって生きていけばいいのか、
マリサには判らなかった。
マリサは段ボールから出て、近くにあった森へ入った。
周囲に目を配らし、食べ物を探した。
野良の経験がないマリサは、どれが美味しくて、どれが不味いのか判らなかった。
とにかく食べられそうなものをちぎり取り、帽子に詰めていった。
毒にあたってしまわないか不安になりながら、狩りを続けていると、一匹のゆっくりが眼に入った。
自分と同じように狩りをしているように見える成まりさだった。
「TAKE IT EASY!」
マリサは思わず声をかけていた。
先ほどまで抱いていた孤独が一気に吹き飛ぶのをマリサは感じていた。
花の蜜を吸っていた蝶を捕まえていた成まりさは声がした方を振り向いた。
マリサは堪らなく嬉しくなり、ぴょんぴょんと跳ねて近づいていった。
けれど距離は縮まらなかった。
「ゆっ! へんなことばをしゃべるゆっくりだぜ!
ゆっくりできないゆっくりなんだぜ!」
成まりさは怯えた表情しながら、マリサから逃げて行った。
マリサは何故自分から遠ざかっていくのか判らなかった。
成まりさが何と言ったのか、何故怯えているのか判らなかった。
遠ざかっていく成まりさを見つめながら、マリサはポツリと立ち尽くしていた。
その日、森の中で会うゆっくりにマリサは「TAKE IT EASY!」と声をかけて回った。
けれど誰も好意的に受け止めてくれるゆっくりはいなかった。
あるゆっくりは、初めに出会った成まりさと同じように逃げ出し、
あるゆっくりは、ゆっくりできないものとして暴力を振るい、
あるゆっくりは、マリサがいないものとして通り過ぎて行った。
痛みつけられた箇所を庇うように歩きながら、マリサは再び「なぜ」と思った。
自分はただ「TAKE IT EASY!」と声をかけているだけだった。
どうして誰も「TAKE IT EASY!」と返してくれないのだろうか。
そう返してくれなくても、どうして優しく接してくれないのか。
夜、マリサは段ボールの中で独り、口に合わない食料を噛み締めしめていた。
マリサはもう「TAKE IT EASY!」という言葉を使う気が失せていた。
アメリカ出身であることが敬遠される原因であることを、マリサは薄々ながら感じていた。
幸せになれない食事を終え、マリサはある決意を胸に眠りについた。
翌朝、マリサは段ボールを引き摺りながら、今いる森から離れていった。
「ゆゆー♪ おかあしゃんといっしょのおしゃんぽはたのしいんだじぇ♪」
とある森で赤まりさと親れいむが散歩をしていた。
二日ほど雨が続き、久しぶりとなる散歩を赤まりさは心ゆくままに満喫していた。
「おかあしゃん! まりしゃ、こっちのみちしゃんにすすみたいんだじぇ!」
「ゆふふ、おちびちゃんはこうきしんおうせいだね」
いつもと違う道をゆっくりの親子は進んでいった。
赤まりさはどんどん前へ進んでいき、親れいむは見失わない程度に追いかけていった。
「ゆっ! だれかいりゅよ。ゆっきゅりしちぇいってにぇ!」
背を向けたゆっくりまりさを見つけた赤まりさは、舌足らずに声をかけた。
けれど背を向けるゆっくりまりさは振り返らず、声を返そうともしなかった。
「ゆっ! にゃにむししちぇるの? まりしゃがゆっきゅりしちぇいってにぇっていっちぇるんだよ?」
無視されたことに苛立ち、赤まりさは体当たりをしてやろうと
背を向けたままのゆっくりまりさに近づいていった。
親れいむは赤まりさが体当たりをしようとしているゆっくりまりさが、
あのゆっくりであることに気付き、赤まりさを全速力で止めに入った。
「ゆっ! だめだよおちびちゃん!」
赤まりさの目の前に親れいむが立ち塞がる。
親れいむの理解出来ない横やりに赤まりさは苛立ちを覚えた。
「にゃんで! まりしゃのあいしゃつ、むししちゃんだよ!」
「むしはいけないことだよ、おちびちゃん。でもね……」
「やっぴゃり! まりしゃがただしいだじぇ!」
赤まりさは親れいむの横を抜け、未だ背を向けたままのゆっくりまりさに体当たりをした。
「まりしゃもむししちゃばつだじぇ! ないてあやみゃってもおそいんだじぇ!」
ゆっくりまりさの背中に、赤まりさは親れいむが捕まえるまで何度も体当たりをした。
それが赤まりさにとって功を奏したのか、小さく汚れただけの背中が、
こちらへ向かって動こうとしているのをゆっくりの親子は見ていた。
「ゆっ! さっきもいっちゃよ! ないてあやみゃってもおそい……んだ……じぇ……」
赤まりさは言葉を失う。
目の前に立つゆっくりの眼が、ひどく疲れ果てたように見えた。
「おかあしゃん! きょわいんだじぇ!」
赤まりさはゆっくりまりさの顔に怯え、親れいむの後ろへ隠れた。
ゆっくりまりさはそれを眺めながら、怒ろうともせず、一度だけ会釈をし、去っていった。
「おかあしゃん、しゃっきのなんにゃの?」
ゆっくりまりさが見えなくなった後で、赤まりさは親れいむに尋ねた。
親れいむは複雑そうな表情を浮かべながら、こう答えた。
「あのまりさはね、なにもきこえなくて、なにもしゃべれない、
かわいそうなゆっくりなんだよ」
喋らなければ異国からきたことがばれないとマリサは考えた。
何も聞こえないふりをすれば、言葉を理解していないことを誤魔化せるとマリサは信じた。
二つを満たせば、少しだけ変な顔をした、
この国出身のゆっくりだと思われるのではないかとマリサは思った。
移動した森の先でマリサは一つの群れと出会った。
マリサは考えていたことを実行した。
決して喋らず、聞こえないふりをし続けた。
群れの長はマリサが喋れないこと、何も聞こえないことを理解し、群れ全体に、
マリサを“放っておくこと”を指示した。
マリサはその指示を聞こえてはいたものの、どういう意味をもつのか理解していなかった。
マリサは独りで生き続けていた。
森の端で群れに迷惑をかけないよう、ひっそりと暮らした。
初めは分からなかった食糧の選別もある程度出来るようになっていた。
何が危険なのかも身をもって味わい、理解した。
新しい巣となった洞穴の中で、マリサは木の実を食べながら、
「TAKE IT EASY!」と駆け回っていた自分を思い出した。
二度とあの辛みは味わいたくなかった。
声をかけただけで、嫌な顔をされ、体当たりされ、無視されるのが嫌だった。
今いる森の群れは、どういうわけかマリサを放っておいてくれている。
時折嫌な顔をされることはあるが、体当たりされることはなくなった。
声を出さない、聞こえないふりをしたことが功を奏したのだとマリサは思った。
自分の選択は間違っていない。
マリサはそう思いたかった。
「慢慢地做! (ゆっくりしていってね!)」
ある日、マリサは狩りをしていると、聞き慣れない声が聞こえてきた。
自然を装いながら声がした方を向くと、
一匹の見知らぬまりさが群れのれいむに声をかけているところだった。
マリサが草陰に隠れながら、その様子を窺った。
「慢慢地做!」
再度、見知らぬまりさが声をあげる。
マリサは何と言っているのか聞き取れなかったが、
語感から「ゆっくりしていってね!」と言っているのではないかと察した。
「ゆっ! なにいっているのかわからないよ! なんかこわいよ!」
群れのれいむは、ばつが悪そうな表情をし、その場を逃げ出して行った。
それを見届ける、見知らぬまりさの困惑した表情を見て、マリサは以前の自分を思い出した。
あのまりさも自分と同じ道を歩むのだろうか。
通りがかった群れのゆっくりに、再び声をかけるまりさを見ながら、マリサは考えていた。
それから二日が経った。
いつも通り、独りで目覚め、独りで朝食を摂り、独りで狩りに出かけて行った。
淡々と帽子に食糧を詰め込んでいると、一匹のまりさが眼に入った。
以前の聞き慣れない言葉を使うまりさだった。
「慢慢地做!」
まりさは二日前と変わらず、視界に入ったゆっくりに声をかけていた。
しかし誰もが嫌なそうな顔をし、去っていった。
その光景を見て、マリサはひどく心が痛んだ。
マリサは静かにこの場を去り、狩りを続けた。
いつもより多く食料を集め、巣に戻り、
いつもの食事の四分の一にも満たない量だけを口に入れた。
二週間の時が流れた。
マリサは二週間の間、巣に閉じ籠っていた。
あのまりさが見たくない一心の行動だった。
けれど細々と食い繋いでいた食料は尽き果ててしまい、
マリサはなるべく近くで食料を集めようと巣を出た。
しかし運悪く、巣の近くにあのまりさの姿があった。
「慢慢地做!」
あのまりさは通りがかった群れのれいむに相も変わらずその言葉を使っていた。
やめろ、とマリサは思った。
嫌な顔をされるだけだ、と言ってやりたかった。
何も言わなければ悲しい思いをしなくて済む。
どうしてそのことが理解できないのだと、マリサは心の中で嘆いた。
「慢慢地做!」
再度、聞き慣れない声が響き渡る。
もう見ていたくない。
マリサは狩りを諦め、巣に戻ろうとした。
「ゆっくりしていってね!」
えっ、と思い、マリサは振り返った。
そこには群れのれいむと、あのまりさが、笑い合っている光景があった。
まりさは、中国で生まれたゆっくりだった。
言葉をすべて中国語で話し、
「ゆっくりしていってね!」
という、ゆっくりにとって御馴染の台詞を
「慢慢地做!」
と、何の疑いもなく使っていた。
ある日、まりさは捨てられた。
仕事の都合で、中国から日本に滞在していた飼い主に捨てられた。
まりさは何故自分が捨てられたのか理解していた。
飼い主が泣きながら、お金がないことをまりさに伝えていた。
まりさは静かにそれを受け入れた。
少しだけ餌の入った段ボールの中、まりさはこれからどうやって生きていこうか考えていた。
まりさは段ボールから出て、近くにあった森へ入った。
周囲に目を配らし、食べ物を探した。
野良の経験がないまりさは、どれが美味しくて、どれが不味いのか判らなかった。
とにかく食べられそうなものをちぎり取り、帽子に詰めていった。
美味しいものが混じっていることを祈りながら、狩りを続けていると、一匹のゆっくりが眼に入った。
自分と同じように狩りをしているように見える成れいむだった。
「慢慢地做!」
まりさは思わず声をかけていた。
帽子に入った食料のことを尋ねようと思った。
もし食べられるものが入っていたら、一緒に食べてゆっくりしようと考えていた。
地面を這う芋虫を捕まえていた成れいむは声がした方を振り向いた。
まりさはもう一度、「慢慢地做!」と叫んだ。
「ゆっ! なにいっているのかわからないよ! なんかこわいよ!」
けれど成れいむは怯えた表情し、まりさから逃げて行った。
まりさは何故自分から遠ざかっていくのか判らなかった。
成れいむが何と言ったのか、何故怯えているのか判らなかった。
遠ざかっていく成れいむを見つめながら、まりさはポツリと立ち尽くしていた。
その日、森の中で会うゆっくりにまりさは、
「慢慢地做!」と声をかけて回った。
けれど誰も好意的に受け止めてくれるゆっくりはいなかった。
あるゆっくりは、初めに出会った成れいむと同じように逃げ出し、
あるゆっくりは、ゆっくりできないものとして暴力を振るい、
あるゆっくりは、まりさがいないものとして通り過ぎて行った。
痛みつけられた箇所を庇うように歩きながら、まりさは再び「なぜ」と思った。
自分はただ「慢慢地做!」と声をかけているだけだった。
どうして誰も「慢慢地做!」と返してくれないのだろうか。
そう返してくれなくても、どうして優しく接してくれないのか。
夜、まりさは段ボールの中で独り、口に合わない食料を噛み締めしめていた。
まりさは明日も「慢慢地做!」と
言ってまわろうと考えていた。
自分は間違ったことはしていない。
いつか誰かは優しく接してくれる。
まりさはそう信じた。
十日ほどひたすら挨拶に回っていたまりさを群れは徐々に受け入れ始めていた。
「慢慢地做!」という言葉に、
あるゆっくりが「ゆっくりしていってね!」と返したことが皮切りとなって、
群れのゆっくりは皆、まりさに挨拶をされればそう返すようになった。
自ら声をかけるゆっくりも現れるようになった。
まりさは群れに打ち解けていった。
ある日、まりさが毒キノコを咥えようとしていたとき、それを止めてくれるゆっくりがいた。
そのゆっくりはまりさの帽子に入っていた食料の、
どれが美味しくて、どれが不味いかを身振りで教えた。
まりさは真剣にそれを聞き、お礼として、美味しく食べられるものを多く渡した。
次の日もまりさが狩りをしていると昨日のゆっくりが現れ、
今度は森の中を回りながら、どれが美味しくて、それが不味いかを身振りで教えてくれた。
まりさは再びお礼を渡そうとしたが、そのゆっくりは受け取らず、
一緒に食べようというモーションをとった。
それから先、まりさはそのゆっくりといつも一緒だった。
狩りを共にし、食事を共にし、遊び合った。
まりさは言葉が通じなくても幸せを感じていた。
外が怖くて仕方なかった。
あのまりさを見るのが怖かった。
群れのゆっくりと笑い合うまりさを見てから一週間、マリサは巣に閉じ籠っていた。
絶食の日々だった。
襲いかかる空腹に耐えきれず、マリサはあんよを引き摺りながら巣を出た。
近くに生えた雑草を懸命に集めた。
しかし、量が少なく、マリサは少しだけ遠くに出ることにした。
けれどそれがいけなかった。
視界にあのまりさが入っていた。
群れのまりさと楽しそうに遊んでいた。
咥えていた雑草をマリサはポトリと落とし、マリサは全速力で巣に戻った。
巣の中で蹲りながら、マリサは「なぜ…」と思った。
疑問に思ったわけではない、自分はなぜこの道を選んでしまったのだと思っていた。
あのまりさはずっと声をかけ続けたのだろう。
自分が一日で諦めてしまったことを何日も繰り返したのだろう。
早く苦しみから逃れようとせず、立ち向かったのだろう。
なぜ自分はそうしなかったのだろう。
目先にとらわれてしまったのだろう。
あのゆっくりのようになりたい。
あのゆっくりのように仲間と笑いあいたい。
マリサは両目から大粒の涙を零した。
けれどそれはもう叶わない。
自分は嘘をついてしまった。
何も喋れなく、何も聞こえないという嘘をついた。
本当のことを話しても誰も受け入れてくれないだろう。
巣を仄かに照らしていた光が消える。
マリサは瞳を閉じ、時間が経つのを待った。
朽ち果てていくのをひたすら待ち続けていた。
中国語の翻訳はgoo翻訳を使っています。
実際は違うかもしれません。
・あとがき
毎回SSを書いていて自分でも中途半端な印象を受ける。
過程を上手く書ける人は本当に凄いと思います。
最後まで読んでくださった方ありがとうございました。
気がつけばそうなっていて、もうどうしたらいいか判りません……。
・過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 709 五体のおうち宣言
ふたば系ゆっくりいじめ 713 最後に聞く言葉
ふたば系ゆっくりいじめ 722 育て親への説教
nue052 にんげんをたおして
ふたば系ゆっくりいじめ 787 ふたりなら
作者:ハンダゴテあき
マリサはアメリカで生まれたゆっくりだった。
言葉をすべて英語で話し、
「ゆっくりしていってね!」
という、ゆっくりにとって御馴染の台詞を
「TAKE IT EASY!」
と、何の疑いもなく使っていた。
ある日、マリサは捨てられた。
仕事の都合で、アメリカから日本に滞在していた飼い主に、ある日突然捨てられた。
マリサは何故自分が捨てられたのか理解できなかった。
捨てられる直前、何故飼い主がひどく冷めた顔をしているのか判らなかった。
自分以外に何も入っていない段ボールのみで、これからどうやって生きていけばいいのか、
マリサには判らなかった。
マリサは段ボールから出て、近くにあった森へ入った。
周囲に目を配らし、食べ物を探した。
野良の経験がないマリサは、どれが美味しくて、どれが不味いのか判らなかった。
とにかく食べられそうなものをちぎり取り、帽子に詰めていった。
毒にあたってしまわないか不安になりながら、狩りを続けていると、一匹のゆっくりが眼に入った。
自分と同じように狩りをしているように見える成まりさだった。
「TAKE IT EASY!」
マリサは思わず声をかけていた。
先ほどまで抱いていた孤独が一気に吹き飛ぶのをマリサは感じていた。
花の蜜を吸っていた蝶を捕まえていた成まりさは声がした方を振り向いた。
マリサは堪らなく嬉しくなり、ぴょんぴょんと跳ねて近づいていった。
けれど距離は縮まらなかった。
「ゆっ! へんなことばをしゃべるゆっくりだぜ!
ゆっくりできないゆっくりなんだぜ!」
成まりさは怯えた表情しながら、マリサから逃げて行った。
マリサは何故自分から遠ざかっていくのか判らなかった。
成まりさが何と言ったのか、何故怯えているのか判らなかった。
遠ざかっていく成まりさを見つめながら、マリサはポツリと立ち尽くしていた。
その日、森の中で会うゆっくりにマリサは「TAKE IT EASY!」と声をかけて回った。
けれど誰も好意的に受け止めてくれるゆっくりはいなかった。
あるゆっくりは、初めに出会った成まりさと同じように逃げ出し、
あるゆっくりは、ゆっくりできないものとして暴力を振るい、
あるゆっくりは、マリサがいないものとして通り過ぎて行った。
痛みつけられた箇所を庇うように歩きながら、マリサは再び「なぜ」と思った。
自分はただ「TAKE IT EASY!」と声をかけているだけだった。
どうして誰も「TAKE IT EASY!」と返してくれないのだろうか。
そう返してくれなくても、どうして優しく接してくれないのか。
夜、マリサは段ボールの中で独り、口に合わない食料を噛み締めしめていた。
マリサはもう「TAKE IT EASY!」という言葉を使う気が失せていた。
アメリカ出身であることが敬遠される原因であることを、マリサは薄々ながら感じていた。
幸せになれない食事を終え、マリサはある決意を胸に眠りについた。
翌朝、マリサは段ボールを引き摺りながら、今いる森から離れていった。
「ゆゆー♪ おかあしゃんといっしょのおしゃんぽはたのしいんだじぇ♪」
とある森で赤まりさと親れいむが散歩をしていた。
二日ほど雨が続き、久しぶりとなる散歩を赤まりさは心ゆくままに満喫していた。
「おかあしゃん! まりしゃ、こっちのみちしゃんにすすみたいんだじぇ!」
「ゆふふ、おちびちゃんはこうきしんおうせいだね」
いつもと違う道をゆっくりの親子は進んでいった。
赤まりさはどんどん前へ進んでいき、親れいむは見失わない程度に追いかけていった。
「ゆっ! だれかいりゅよ。ゆっきゅりしちぇいってにぇ!」
背を向けたゆっくりまりさを見つけた赤まりさは、舌足らずに声をかけた。
けれど背を向けるゆっくりまりさは振り返らず、声を返そうともしなかった。
「ゆっ! にゃにむししちぇるの? まりしゃがゆっきゅりしちぇいってにぇっていっちぇるんだよ?」
無視されたことに苛立ち、赤まりさは体当たりをしてやろうと
背を向けたままのゆっくりまりさに近づいていった。
親れいむは赤まりさが体当たりをしようとしているゆっくりまりさが、
あのゆっくりであることに気付き、赤まりさを全速力で止めに入った。
「ゆっ! だめだよおちびちゃん!」
赤まりさの目の前に親れいむが立ち塞がる。
親れいむの理解出来ない横やりに赤まりさは苛立ちを覚えた。
「にゃんで! まりしゃのあいしゃつ、むししちゃんだよ!」
「むしはいけないことだよ、おちびちゃん。でもね……」
「やっぴゃり! まりしゃがただしいだじぇ!」
赤まりさは親れいむの横を抜け、未だ背を向けたままのゆっくりまりさに体当たりをした。
「まりしゃもむししちゃばつだじぇ! ないてあやみゃってもおそいんだじぇ!」
ゆっくりまりさの背中に、赤まりさは親れいむが捕まえるまで何度も体当たりをした。
それが赤まりさにとって功を奏したのか、小さく汚れただけの背中が、
こちらへ向かって動こうとしているのをゆっくりの親子は見ていた。
「ゆっ! さっきもいっちゃよ! ないてあやみゃってもおそい……んだ……じぇ……」
赤まりさは言葉を失う。
目の前に立つゆっくりの眼が、ひどく疲れ果てたように見えた。
「おかあしゃん! きょわいんだじぇ!」
赤まりさはゆっくりまりさの顔に怯え、親れいむの後ろへ隠れた。
ゆっくりまりさはそれを眺めながら、怒ろうともせず、一度だけ会釈をし、去っていった。
「おかあしゃん、しゃっきのなんにゃの?」
ゆっくりまりさが見えなくなった後で、赤まりさは親れいむに尋ねた。
親れいむは複雑そうな表情を浮かべながら、こう答えた。
「あのまりさはね、なにもきこえなくて、なにもしゃべれない、
かわいそうなゆっくりなんだよ」
喋らなければ異国からきたことがばれないとマリサは考えた。
何も聞こえないふりをすれば、言葉を理解していないことを誤魔化せるとマリサは信じた。
二つを満たせば、少しだけ変な顔をした、
この国出身のゆっくりだと思われるのではないかとマリサは思った。
移動した森の先でマリサは一つの群れと出会った。
マリサは考えていたことを実行した。
決して喋らず、聞こえないふりをし続けた。
群れの長はマリサが喋れないこと、何も聞こえないことを理解し、群れ全体に、
マリサを“放っておくこと”を指示した。
マリサはその指示を聞こえてはいたものの、どういう意味をもつのか理解していなかった。
マリサは独りで生き続けていた。
森の端で群れに迷惑をかけないよう、ひっそりと暮らした。
初めは分からなかった食糧の選別もある程度出来るようになっていた。
何が危険なのかも身をもって味わい、理解した。
新しい巣となった洞穴の中で、マリサは木の実を食べながら、
「TAKE IT EASY!」と駆け回っていた自分を思い出した。
二度とあの辛みは味わいたくなかった。
声をかけただけで、嫌な顔をされ、体当たりされ、無視されるのが嫌だった。
今いる森の群れは、どういうわけかマリサを放っておいてくれている。
時折嫌な顔をされることはあるが、体当たりされることはなくなった。
声を出さない、聞こえないふりをしたことが功を奏したのだとマリサは思った。
自分の選択は間違っていない。
マリサはそう思いたかった。
「慢慢地做! (ゆっくりしていってね!)」
ある日、マリサは狩りをしていると、聞き慣れない声が聞こえてきた。
自然を装いながら声がした方を向くと、
一匹の見知らぬまりさが群れのれいむに声をかけているところだった。
マリサが草陰に隠れながら、その様子を窺った。
「慢慢地做!」
再度、見知らぬまりさが声をあげる。
マリサは何と言っているのか聞き取れなかったが、
語感から「ゆっくりしていってね!」と言っているのではないかと察した。
「ゆっ! なにいっているのかわからないよ! なんかこわいよ!」
群れのれいむは、ばつが悪そうな表情をし、その場を逃げ出して行った。
それを見届ける、見知らぬまりさの困惑した表情を見て、マリサは以前の自分を思い出した。
あのまりさも自分と同じ道を歩むのだろうか。
通りがかった群れのゆっくりに、再び声をかけるまりさを見ながら、マリサは考えていた。
それから二日が経った。
いつも通り、独りで目覚め、独りで朝食を摂り、独りで狩りに出かけて行った。
淡々と帽子に食糧を詰め込んでいると、一匹のまりさが眼に入った。
以前の聞き慣れない言葉を使うまりさだった。
「慢慢地做!」
まりさは二日前と変わらず、視界に入ったゆっくりに声をかけていた。
しかし誰もが嫌なそうな顔をし、去っていった。
その光景を見て、マリサはひどく心が痛んだ。
マリサは静かにこの場を去り、狩りを続けた。
いつもより多く食料を集め、巣に戻り、
いつもの食事の四分の一にも満たない量だけを口に入れた。
二週間の時が流れた。
マリサは二週間の間、巣に閉じ籠っていた。
あのまりさが見たくない一心の行動だった。
けれど細々と食い繋いでいた食料は尽き果ててしまい、
マリサはなるべく近くで食料を集めようと巣を出た。
しかし運悪く、巣の近くにあのまりさの姿があった。
「慢慢地做!」
あのまりさは通りがかった群れのれいむに相も変わらずその言葉を使っていた。
やめろ、とマリサは思った。
嫌な顔をされるだけだ、と言ってやりたかった。
何も言わなければ悲しい思いをしなくて済む。
どうしてそのことが理解できないのだと、マリサは心の中で嘆いた。
「慢慢地做!」
再度、聞き慣れない声が響き渡る。
もう見ていたくない。
マリサは狩りを諦め、巣に戻ろうとした。
「ゆっくりしていってね!」
えっ、と思い、マリサは振り返った。
そこには群れのれいむと、あのまりさが、笑い合っている光景があった。
まりさは、中国で生まれたゆっくりだった。
言葉をすべて中国語で話し、
「ゆっくりしていってね!」
という、ゆっくりにとって御馴染の台詞を
「慢慢地做!」
と、何の疑いもなく使っていた。
ある日、まりさは捨てられた。
仕事の都合で、中国から日本に滞在していた飼い主に捨てられた。
まりさは何故自分が捨てられたのか理解していた。
飼い主が泣きながら、お金がないことをまりさに伝えていた。
まりさは静かにそれを受け入れた。
少しだけ餌の入った段ボールの中、まりさはこれからどうやって生きていこうか考えていた。
まりさは段ボールから出て、近くにあった森へ入った。
周囲に目を配らし、食べ物を探した。
野良の経験がないまりさは、どれが美味しくて、どれが不味いのか判らなかった。
とにかく食べられそうなものをちぎり取り、帽子に詰めていった。
美味しいものが混じっていることを祈りながら、狩りを続けていると、一匹のゆっくりが眼に入った。
自分と同じように狩りをしているように見える成れいむだった。
「慢慢地做!」
まりさは思わず声をかけていた。
帽子に入った食料のことを尋ねようと思った。
もし食べられるものが入っていたら、一緒に食べてゆっくりしようと考えていた。
地面を這う芋虫を捕まえていた成れいむは声がした方を振り向いた。
まりさはもう一度、「慢慢地做!」と叫んだ。
「ゆっ! なにいっているのかわからないよ! なんかこわいよ!」
けれど成れいむは怯えた表情し、まりさから逃げて行った。
まりさは何故自分から遠ざかっていくのか判らなかった。
成れいむが何と言ったのか、何故怯えているのか判らなかった。
遠ざかっていく成れいむを見つめながら、まりさはポツリと立ち尽くしていた。
その日、森の中で会うゆっくりにまりさは、
「慢慢地做!」と声をかけて回った。
けれど誰も好意的に受け止めてくれるゆっくりはいなかった。
あるゆっくりは、初めに出会った成れいむと同じように逃げ出し、
あるゆっくりは、ゆっくりできないものとして暴力を振るい、
あるゆっくりは、まりさがいないものとして通り過ぎて行った。
痛みつけられた箇所を庇うように歩きながら、まりさは再び「なぜ」と思った。
自分はただ「慢慢地做!」と声をかけているだけだった。
どうして誰も「慢慢地做!」と返してくれないのだろうか。
そう返してくれなくても、どうして優しく接してくれないのか。
夜、まりさは段ボールの中で独り、口に合わない食料を噛み締めしめていた。
まりさは明日も「慢慢地做!」と
言ってまわろうと考えていた。
自分は間違ったことはしていない。
いつか誰かは優しく接してくれる。
まりさはそう信じた。
十日ほどひたすら挨拶に回っていたまりさを群れは徐々に受け入れ始めていた。
「慢慢地做!」という言葉に、
あるゆっくりが「ゆっくりしていってね!」と返したことが皮切りとなって、
群れのゆっくりは皆、まりさに挨拶をされればそう返すようになった。
自ら声をかけるゆっくりも現れるようになった。
まりさは群れに打ち解けていった。
ある日、まりさが毒キノコを咥えようとしていたとき、それを止めてくれるゆっくりがいた。
そのゆっくりはまりさの帽子に入っていた食料の、
どれが美味しくて、どれが不味いかを身振りで教えた。
まりさは真剣にそれを聞き、お礼として、美味しく食べられるものを多く渡した。
次の日もまりさが狩りをしていると昨日のゆっくりが現れ、
今度は森の中を回りながら、どれが美味しくて、それが不味いかを身振りで教えてくれた。
まりさは再びお礼を渡そうとしたが、そのゆっくりは受け取らず、
一緒に食べようというモーションをとった。
それから先、まりさはそのゆっくりといつも一緒だった。
狩りを共にし、食事を共にし、遊び合った。
まりさは言葉が通じなくても幸せを感じていた。
外が怖くて仕方なかった。
あのまりさを見るのが怖かった。
群れのゆっくりと笑い合うまりさを見てから一週間、マリサは巣に閉じ籠っていた。
絶食の日々だった。
襲いかかる空腹に耐えきれず、マリサはあんよを引き摺りながら巣を出た。
近くに生えた雑草を懸命に集めた。
しかし、量が少なく、マリサは少しだけ遠くに出ることにした。
けれどそれがいけなかった。
視界にあのまりさが入っていた。
群れのまりさと楽しそうに遊んでいた。
咥えていた雑草をマリサはポトリと落とし、マリサは全速力で巣に戻った。
巣の中で蹲りながら、マリサは「なぜ…」と思った。
疑問に思ったわけではない、自分はなぜこの道を選んでしまったのだと思っていた。
あのまりさはずっと声をかけ続けたのだろう。
自分が一日で諦めてしまったことを何日も繰り返したのだろう。
早く苦しみから逃れようとせず、立ち向かったのだろう。
なぜ自分はそうしなかったのだろう。
目先にとらわれてしまったのだろう。
あのゆっくりのようになりたい。
あのゆっくりのように仲間と笑いあいたい。
マリサは両目から大粒の涙を零した。
けれどそれはもう叶わない。
自分は嘘をついてしまった。
何も喋れなく、何も聞こえないという嘘をついた。
本当のことを話しても誰も受け入れてくれないだろう。
巣を仄かに照らしていた光が消える。
マリサは瞳を閉じ、時間が経つのを待った。
朽ち果てていくのをひたすら待ち続けていた。
中国語の翻訳はgoo翻訳を使っています。
実際は違うかもしれません。
・あとがき
毎回SSを書いていて自分でも中途半端な印象を受ける。
過程を上手く書ける人は本当に凄いと思います。
最後まで読んでくださった方ありがとうございました。