ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
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注:例のごとく、ゆっくりの言語能力、思考能力を超過しています。後半部分が顕著です。
・過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 709 五体のおうち宣言
ふたば系ゆっくりいじめ 713 最後に聞く言葉
ふたば系ゆっくりいじめ 722 育て親への説教
nue052 にんげんをたおして
作者:ハンダゴテあき
家を出たとき、三匹のゆっくりが目に入った。
薄汚れた子まりさと成れいむが清潔そうに見える子まりさを囲んでいた。
囲まれている子まりさの三角帽子に金色のバッチがついていることに気付いた。
「ゆふふ、いたいめにあいたくなかったらぼうしをさっさとよこしな!」
「にゃにしてるんだじぇ! はやくよこしゅんだじぇ!」
どうやらあの野良らしき親子は飼いゆっくりである子まりさから、
金バッチのついた帽子奪おうとしているようだった。
ゆっくりにとって、飾りは顔のようなものであると以前友人が言っていたことを思い出す。
飾りを失った親を子供は親と認識できず、これはれいむだ、これはまりさだ、などといった、
個体として判別し、またそれをゆっくりできないものとして扱うのだとも言っていた。
今、あの親子は飼いゆっくりとしての顔を奪おうとしている。
たぶん、あの野良の子まりさが金バッチの帽子を被り、成り代わろうとしているのだろう。
野良の子まりさと飼いゆっくりの子まりさを見比べる。
汚れ以外で、見分けは殆どつかなかった。
野良子まりさの汚れを落とし、金バッチの帽子を被ってしまえば、私は確実に気付かないだろう。
上手くいけば、あの子まりさは飼いゆっくりとしてのゆん生を送れるかもしれない。
野良で荒みきった性格を隠し通すことができるのであれば、本当に。
「あくまでわたさないつもりなのかい! とんでもないくずだね!
そんなげすはせいっさいしてやるよ!」
「みゃみゃはちゅよいんだよ! いみゃからないてあやみゃっちぇもおしょいんだじぇ!」
帽子を譲らない飼い子まりさに野良二匹が襲いかかろうとしたので、
私は素早く近づき、二匹の頭を握りしめて持ち上げた。
「ゆゆ、おそらとんでるみたい!」
「おしゃらとんでるみちゃい!」
暢気に鳥さん気分に浸っている野良ゆっくりを握りしめながら、
目の前で怯えている飼い子まりさに「行け」とだけ伝える。
「あ、ありがとう! おにいさん!」
飼い子まりさはペコリと頭を下げて、この場を去って行った。
去ると同時に両手から激しい振動が起こる。
「ゆっ! かいゆっくりがいっちゃうよ! じじい! さっさとはなしてね!
ぐずはきらいだよ! あとついでにあまあまよこしてね!」
「しゃっしゃとあのきゃいゆっくりからぼうしうびゃってくるんだじぇ!」
暴れる二匹を一旦地面に置き、私は子まりさから順に飾りを剥ぎ取った。
「な! なにするのぉぉぉぉぉぉ! かざりがないとゆっくりできないでしょぉぉぉぉぉ!」
「みゃみゃぁぁぁ! ゆっくちできないよぉぉぉぉぉ!
ゆ……? みゃみゃ? みゃみゃどこにゃの? しらにゃいゆっくりがいるよぉぉぉぉぉ!」
叫びあげる二匹の前で私は膝を折り曲げる。
「お前たちがさっきしようとしていたことをしたんだ。
自分が嫌がることを他のものにするなよ」
「はやくかえせじじいぃぃぃぃぃ!」
「みゃみゃぁぁぁぁぁ! ゆっくりできにゃいよぉぉぉぉぉ!」
「人の話聞いているのか?」
「いいからはやくかえせぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「みゃみゃぁぁぁぁぁぁ!」
さてどうしたものかと悩んでいると、視界の端から一人の青年が走ってくるのが見えた。
両腕で何かを抱えている。目を凝らしてみるとそれが子まりさであることに気付いた。
「ゆっ! あのおにいさんがあいつらからたすけてくれたんだよ!」
青年から御礼の言葉を貰い、私はこの場を彼に預けることにした。
私は実害を受けたわけではないので、二匹の罰は彼に任せてもいいだろう。
青年に野良二匹の飾りを手渡し、私はこの場を去った。
背後から断続的に高い声が聞こえてきた。青年が然るべき罰を与えているのだろう。
飾りを奪おうとした罰。
私は考えていた。
ゆっくりにとって飾りは顔であるという言葉を信じるなら、野良二匹の態度は頷けるかもしれない。
私の顔がお面のように痛みもなく剥がされていく感覚を想像する。
想像ならゾッとする程度で収まるが、現実として起きたのなら正気でいられるか判らない。
私は間違った叱り方をしていたのかもしれない。
先ほどの野良二匹は困惑したまま、死んでいったことを思うと居た堪れない気持ちになった。
そこで私はあることを思い出した。
あの二匹はどうだったのだろう。
先ほどの野良二匹ではない。一か月ほど前、山登りへ行ったときに見たゆっくりのことだ。
その二匹も飾りを持たないゆっくりだった。片方は脇から餡子を垂れ流してもいた。
あの二匹は折れ曲がった落盤注意の標識がある山道から、下へ傾斜する地面から生える木々の前で立ち尽くしていた。
飾りが無くても私にはゆっくりしているように見えた。
あの二匹はいったい何だったのだろう。
山があった方へ視線を向ける。
一度だけ見ただけの二匹のことを私はぼんやりと想像する。
「おちびちゃん、どこいっちゃたの……」
洞穴の奥で親れいむは身も心も疲れ果てていた。
遊びに行ってから、二日経っても帰ってこず、探し回っても見つからない子まりさ。
今頃の時間帯は共に集めた食糧で幸せを感じているはずだった。
親れいむの家族は子まりさだけだった。
子まりさが生まれてすぐに、番であったまりさはれみりゃとの戦いで死んでしまった。
子まりさは親れいむにとっての最後の家族だった。
「ゆう、おちびちゃん、どこにいるの……」
親れいむの頭に子まりさが寂しくて泣き叫んでいる姿が思い浮かぶ。
早く探し出してゆっくりさせてあげたい。
子まりさの好きな木の実さんを食べさせてあげたい。
親れいむは食事も摂らずに、ずっと洞穴の入り口を見つめていた。
「お、おかあしゃん?!」
洞穴中に響き渡った大声で親れいむは目を覚ました。
夜通し子の帰りを待ち続けていたせいか、親れいむはすぐに目を開けることができなかった。
「ゆう、ねてしまったよ……」
霞がかった意識の中、親れいむは大きく欠伸をし、眠気を覚まそうとした。
「ゆうぅぅぅ! きょうはおちびちゃんみつかるかな…………ゆ……?」
親れいむの視界が徐々にクリアになっていき、ようやく目の前にいるゆっくりの存在に気がついた。
「おちびちゃん?」
その言葉に親れいむの前に立つ子れいむは「ゆう?」と首を傾げた。
親れいむは先ほどまで眠っていたのが嘘のように跳ねあがった。
「ゆぅぅぅぅぅ! おちびちゃんぶじだったんだね! よかったよ!
よかったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
親れいむは子まりさに飛びつき、泣きながら頬を何度摺り寄せた。
「や、やめちぇ、くすぎゅっちゃいよぉ」
子まりさが距離をとろうとするも、親れいむはすぐに擦り寄り、すーりすーりを続けた。
「よかったよ! ほんとうによかったよぉぉぉ!」
親れいむは何度も何度も近づいて頬を摺り寄せた。
やがて子まりさも逃げようとはせず、それを受け入れた。
子まりさの身体からグウウと音がなったのを境に親れいむはようやくすーりすーりを終わらせた。
「おちびちゃん、おなかすいてるんだね! ごめんね、いまよういするからね!」
「ごはん!」
『ごはん』と聞いて子まりさは飛び上がった。
親れいむは喜ぶ子まりさの姿が嬉しくて堪らなく、滅多に食べさせることのない、
大好物の木の実を三つ持っていくことにした。
「ゆうぅぅぅ♪」
葉の上には数種類の山菜と木の実が載せられていた。
子まりさはそれを見て、涎を惜し気もなく垂れ流した。
「ゆゆっ! おちびちゃんぎょうぎわるいよ。でもきょうはとくべつだよ!
たくさんたべて、いっぱいゆっくりしていってね!」
親れいむの言葉を聞き終わると子まりさは美味しそうな色をした山菜に齧り付いた。
「むーしゃむーしゃ。ち、ちちちちあわせぇぇぇぇぇ!」
食べかすを散らかしながら、子まりさは至福の声を漏らす。
親れいむは幸せを満喫する子まりさを眺めながら、自分もまた幸せを感じていた。
葉の上に載っていた食べ物をすべて食べ尽くした子まりさは洞穴の壁に寄りかかり、
「ゆうう♪ もうたべりゃりぇにゃいよ♪」
と幸せそうに漏らした。
「そんなにおなかすいてたんだね。いったいどこにいたの?」
親れいむは葉と散らばった食べかすを片づけながら尋ねた。
「ゆっ、じつはくぼみにおちちゃったんだじぇ。ずっちょぬけだせにゃかったのじぇ」
腹いっぱいに食べたせいか、子まりさは気だるそうにそう答えた。
「くぼみってどこの? おかあさんいっぱいさがしたのにみつからなかったんだよ?」
「ゆう、あのおれみゃぎゃったぎんいりょのぼうが……」
「おれまがったぎんいろのぼう……?」
「ゆゆっ! じゃにゃくちぇ、きだっちゃじぇ! おれみゃぎゃったきがあるちきゃくだじぇ!」
「ゆゆー。それじゃよくわからないよ」
親れいむは呆れたふりをしながら、先ほどの子まりさが言った、
折れ曲がった銀色の棒というフレーズについて考えていた。
親れいむはあの周辺を探していなかった。
それからはしばらく平穏な日々が続いた。
毎日共に狩りをし、共に食事をし、共に寝床へついた。
初め、子まりさが狩りを嫌がったが、優しい指導のもとで抵抗が無くなっていった。
汚れが目立てば、共に舐め合ったりもした。
子まりさが体調を崩せば、親れいむは熱心に看病し、
親れいむが倒れれば、子まりさもまた傍に居続けた。
そうして流れる月日の中、子まりさはすくすくと育っていき、
巣立ちの日が刻一刻近づいてきていた。
「おちびちゃん、そろそろいえをでて、つがいをみつけにいったほうがいいよ」
夕食が終わった後、親れいむは子まりさにそう告げた。
「ゆ…、そしたらおかあさんがひとりになっちゃうんだぜ」
「おかあさんはだいじょうぶだよ。ひとりでもゆっくりできるよ」
「まりさは…、まりさはおかあさんといっしょにいたいんだぜ……」
親れいむはじっと子まりさの目を見つめた。
暫く沈黙が続いたが、親れいむの溜息によってかき消された。
「しょうがないこだよ。いつまでもあまえんぼうさんだね」
親れいむは子まりさの傍により、
「さっ、もうねるよ」
と瞳を閉じた。
子まりさも親れいむの温かみを感じながら瞼を下へ降ろした。
雀の鳴き声で子まりさは目を覚ました。
「ゆうーん……ゆ?」
子まりさは大きく欠伸をしながら、一緒に寝ていた親れいむがいないことに気がついた。
寝ぼけ眼で洞穴を見渡すが、親れいむの姿はなかった。
狩りにでも出かけたのだろうかと思い、子まりさは洞穴から顔を出して、辺りに視線を配った。
曇天の山の風景に親れいむの姿はなかった。
子まりさは一匹で狩りをしながら、親れいむの帰りを待った。
けれど太陽が落ちても、親れいむは帰ってこなかった。
太陽が昇っても、また同じだった。
もう一度太陽が沈んだとき、子まりさは近くの山へ移動することを決意した。
早朝、子まりさは帽子に食糧を貯め込み、出発の準備をした。
準備が終わり、子まりさは洞穴を見渡した。
洞穴の端には、狩りで集めた食糧を載せる葉が二枚置かれていた。
その隣には柔らかい葉が敷き詰められた二つの寝床があった。
子まりさは洞穴の出口の方を見つめた。
しばらくの間見つめていた。
けれど、親れいむは現れることはなかった。
子まりさはゆっくりと洞穴の出口を目指した。
さいごまでいえなかった。
子まりさは思った。そのことが子まりさの心を強く打っていた。
洞穴を出ようとすると、子まりさの目に眩い光が射し込んだ。
空は雲ひとつない青空だった。程よい熱が身体をポカポカと温まらせる。
子まりさは振り返り、今まで住んでいた洞穴に向けて、
今はいない“ふたり”に「ありがとう、ごめんなさい」と告げた。
ある日、折れ曲がった落盤注意のある標識のところで一匹のゆっくりが傾斜面に落下し重傷を負った。
その光景を一匹のゆっくりが目撃していた。
そのゆっくりは飾りを持っていなかった。
目撃していたゆっくりは落下していったゆっくりを眺めた。
未だ死んでいないことを確認し、慎重に傾斜面を降りて、負傷するゆっくりに近づいた。
息が絶え絶えでもう助からないようにそのゆっくりには見えた。
小さく謝罪の言葉を呟き、
飾りを奪って、
殺した。
まりさは脇から餡子が漏れないよう気を配りながら、山道を進んでいた。
まりさが以前住んでいた洞穴のある山にまであと少しで差し掛かろうとしていた。
「あとすこしなんだぜ……」
まりさはずりずりとあんよを引き摺りながら、目的地までの距離を縮めていった。
あの後、洞穴から出たまりさは近くの山へ移動し、そこで出会った群れに属すことにした。
しばらくは平和な日々が続いたが、ある日を境に人間がゆっくりを襲うようになった。
先ほどまでの光景をまりさは思い出したくなかった。
午前三時の暗闇の中をまりさは街路灯頼りにひたすら前へと進んだ。
時折地面に落ちる餡子ともに意識が遠のいていく感覚をまりさは味わっていた。
朦朧としている意識の中、まりさは親れいむに出会うまでのことを思い出していた。
ある日、突然いなくなったお母さん。彷徨っている自分から飾りを奪っていった鴉。
折れ曲がった銀色の棒の近くにある傾斜面で怪我をしていたゆっくりから飾りを奪ったこと。
それを身につけ、母親の居所を聞き回ったこと。
そして……。
「みえたんだぜ……」
暗闇の中、街路灯に照らされ、薄らと奇怪に折れ曲がった銀色の棒がまりさの視界に入っていた。
「あれは……だれなんだぜ?」
折れ曲がった銀色の棒の他に、まりさの視界には一匹のゆっくりが収まっていた。
まりさは訝しみながら近づいていくと、口に何かを咥えていることに気付いた。
「なにしようとしているんだぜ……」
まりさは歩を休めず進んでいき、ゆっくりの正体を確かめようとした。
「ゆ?」
まりさは自分の頭がおかしくなってしまったのではないかと思った。
怪我が原因で夢を見ているだとも思った。
目の前には飾りのないゆっくりれいむが立っていた。
口にはまりさにとって懐かしい親れいむのリボンがあった。
またある日、折れ曲がった落盤注意のある標識のところで一匹の子まりさが傾斜面に落下し重傷を負った。
その光景を一匹の子まりさが目撃していた。
その子まりさは飾りを持っていなかった。
子まりさは落下していったゆっくりを眺めた。
未だ死んでいないことを確認し、慎重に傾斜面を降りて、負傷する子まりさに近づいた。
息が絶え絶えでもう助からないようにその子まりさには見えた。
謝罪の言葉を呟きもせず、
飾りを奪って、
放っておいた。
「おちびちゃん……どうしてここに……」
「おかあさんこそなにやってるんだぜ…」
親れいむの口からリボンが地面にポトリと落ちた。
「……かえしにきたのよ」
風で飛ばされぬようリボンを踏みつけながら親れいむがポツリと呟いた。
「かえしに?」
「れいむはわるいゆっくりなんだよ。おちびちゃんにえらそうにきょういくしていたくせにね」
親れいむは視線を下へ向ける。
「このりぼん、うばったものなんだよ。ここでおちたゆっくりから」
「まりさもそうだよ」
親れいむははっと顔を上げた。
「……このぼうし、おかあさんとおなじで、ここでおちたゆっくりからうばったんだぜ。
……ぞれで、ぞれがおがあざんのごどものぼうじで……
おがあざんのうばっだ、りぼんはぼんどうのおがあざんので……」
まりさは泣きじゃくりながら独白していく。
親れいむは静かにそれを聞いていた。
「おかあさん、もうすぐゆっくりできなくなるんだ……」
独白を終え、泣き腫らしているまりさに親れいむはそう伝える。
「ゆっくりできなくなる?」
「おかあさん、ながくいきてきたからね……」
その言葉でまりさは親れいむの寿命が近いことに気付いた。
「おちびちゃんも、そのきずだと……」
「ゆっ、わかってるんだぜ……」
自分の限界が近づいていることをまりさは悟っていた。
「ぜんぶなしにしようか?」
親れいむの突然の提案にまりさは俯きがけていた顔を上げる。
「ずるいかな……」
まりさは首を振った。
それが叶えばどんなにいいだろうと思っていた。
「けど、えんまさまはゆるしてくれないだろうね」
親れいむはふっと空を見上げる。
「じごくはゆっくりできないだろうけど」
親れいむがまりさの隣に立つ。
「ふたりなら、きっと―――」
山道の途中で二匹のゆっくりを見つけた。
飾りのない二匹のゆっくりだった。
飾りがなければ、ゆっくりはゆっくり出来ないと以前友人が言っていたことを思い出す。
けれどあの二匹は、とてもゆっくりしているように見え、
仲睦まじい家族のように見えた。
・あとがき
おまえゆっくりじゃねえだろ、と突っ込みながら書いていました。
プロットの時点ではこんな風になるつもりじゃなかったのに…
最後まで読んでくださった方本当にありがとうございます。
・過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 709 五体のおうち宣言
ふたば系ゆっくりいじめ 713 最後に聞く言葉
ふたば系ゆっくりいじめ 722 育て親への説教
nue052 にんげんをたおして
作者:ハンダゴテあき
家を出たとき、三匹のゆっくりが目に入った。
薄汚れた子まりさと成れいむが清潔そうに見える子まりさを囲んでいた。
囲まれている子まりさの三角帽子に金色のバッチがついていることに気付いた。
「ゆふふ、いたいめにあいたくなかったらぼうしをさっさとよこしな!」
「にゃにしてるんだじぇ! はやくよこしゅんだじぇ!」
どうやらあの野良らしき親子は飼いゆっくりである子まりさから、
金バッチのついた帽子奪おうとしているようだった。
ゆっくりにとって、飾りは顔のようなものであると以前友人が言っていたことを思い出す。
飾りを失った親を子供は親と認識できず、これはれいむだ、これはまりさだ、などといった、
個体として判別し、またそれをゆっくりできないものとして扱うのだとも言っていた。
今、あの親子は飼いゆっくりとしての顔を奪おうとしている。
たぶん、あの野良の子まりさが金バッチの帽子を被り、成り代わろうとしているのだろう。
野良の子まりさと飼いゆっくりの子まりさを見比べる。
汚れ以外で、見分けは殆どつかなかった。
野良子まりさの汚れを落とし、金バッチの帽子を被ってしまえば、私は確実に気付かないだろう。
上手くいけば、あの子まりさは飼いゆっくりとしてのゆん生を送れるかもしれない。
野良で荒みきった性格を隠し通すことができるのであれば、本当に。
「あくまでわたさないつもりなのかい! とんでもないくずだね!
そんなげすはせいっさいしてやるよ!」
「みゃみゃはちゅよいんだよ! いみゃからないてあやみゃっちぇもおしょいんだじぇ!」
帽子を譲らない飼い子まりさに野良二匹が襲いかかろうとしたので、
私は素早く近づき、二匹の頭を握りしめて持ち上げた。
「ゆゆ、おそらとんでるみたい!」
「おしゃらとんでるみちゃい!」
暢気に鳥さん気分に浸っている野良ゆっくりを握りしめながら、
目の前で怯えている飼い子まりさに「行け」とだけ伝える。
「あ、ありがとう! おにいさん!」
飼い子まりさはペコリと頭を下げて、この場を去って行った。
去ると同時に両手から激しい振動が起こる。
「ゆっ! かいゆっくりがいっちゃうよ! じじい! さっさとはなしてね!
ぐずはきらいだよ! あとついでにあまあまよこしてね!」
「しゃっしゃとあのきゃいゆっくりからぼうしうびゃってくるんだじぇ!」
暴れる二匹を一旦地面に置き、私は子まりさから順に飾りを剥ぎ取った。
「な! なにするのぉぉぉぉぉぉ! かざりがないとゆっくりできないでしょぉぉぉぉぉ!」
「みゃみゃぁぁぁ! ゆっくちできないよぉぉぉぉぉ!
ゆ……? みゃみゃ? みゃみゃどこにゃの? しらにゃいゆっくりがいるよぉぉぉぉぉ!」
叫びあげる二匹の前で私は膝を折り曲げる。
「お前たちがさっきしようとしていたことをしたんだ。
自分が嫌がることを他のものにするなよ」
「はやくかえせじじいぃぃぃぃぃ!」
「みゃみゃぁぁぁぁぁ! ゆっくりできにゃいよぉぉぉぉぉ!」
「人の話聞いているのか?」
「いいからはやくかえせぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「みゃみゃぁぁぁぁぁぁ!」
さてどうしたものかと悩んでいると、視界の端から一人の青年が走ってくるのが見えた。
両腕で何かを抱えている。目を凝らしてみるとそれが子まりさであることに気付いた。
「ゆっ! あのおにいさんがあいつらからたすけてくれたんだよ!」
青年から御礼の言葉を貰い、私はこの場を彼に預けることにした。
私は実害を受けたわけではないので、二匹の罰は彼に任せてもいいだろう。
青年に野良二匹の飾りを手渡し、私はこの場を去った。
背後から断続的に高い声が聞こえてきた。青年が然るべき罰を与えているのだろう。
飾りを奪おうとした罰。
私は考えていた。
ゆっくりにとって飾りは顔であるという言葉を信じるなら、野良二匹の態度は頷けるかもしれない。
私の顔がお面のように痛みもなく剥がされていく感覚を想像する。
想像ならゾッとする程度で収まるが、現実として起きたのなら正気でいられるか判らない。
私は間違った叱り方をしていたのかもしれない。
先ほどの野良二匹は困惑したまま、死んでいったことを思うと居た堪れない気持ちになった。
そこで私はあることを思い出した。
あの二匹はどうだったのだろう。
先ほどの野良二匹ではない。一か月ほど前、山登りへ行ったときに見たゆっくりのことだ。
その二匹も飾りを持たないゆっくりだった。片方は脇から餡子を垂れ流してもいた。
あの二匹は折れ曲がった落盤注意の標識がある山道から、下へ傾斜する地面から生える木々の前で立ち尽くしていた。
飾りが無くても私にはゆっくりしているように見えた。
あの二匹はいったい何だったのだろう。
山があった方へ視線を向ける。
一度だけ見ただけの二匹のことを私はぼんやりと想像する。
「おちびちゃん、どこいっちゃたの……」
洞穴の奥で親れいむは身も心も疲れ果てていた。
遊びに行ってから、二日経っても帰ってこず、探し回っても見つからない子まりさ。
今頃の時間帯は共に集めた食糧で幸せを感じているはずだった。
親れいむの家族は子まりさだけだった。
子まりさが生まれてすぐに、番であったまりさはれみりゃとの戦いで死んでしまった。
子まりさは親れいむにとっての最後の家族だった。
「ゆう、おちびちゃん、どこにいるの……」
親れいむの頭に子まりさが寂しくて泣き叫んでいる姿が思い浮かぶ。
早く探し出してゆっくりさせてあげたい。
子まりさの好きな木の実さんを食べさせてあげたい。
親れいむは食事も摂らずに、ずっと洞穴の入り口を見つめていた。
「お、おかあしゃん?!」
洞穴中に響き渡った大声で親れいむは目を覚ました。
夜通し子の帰りを待ち続けていたせいか、親れいむはすぐに目を開けることができなかった。
「ゆう、ねてしまったよ……」
霞がかった意識の中、親れいむは大きく欠伸をし、眠気を覚まそうとした。
「ゆうぅぅぅ! きょうはおちびちゃんみつかるかな…………ゆ……?」
親れいむの視界が徐々にクリアになっていき、ようやく目の前にいるゆっくりの存在に気がついた。
「おちびちゃん?」
その言葉に親れいむの前に立つ子れいむは「ゆう?」と首を傾げた。
親れいむは先ほどまで眠っていたのが嘘のように跳ねあがった。
「ゆぅぅぅぅぅ! おちびちゃんぶじだったんだね! よかったよ!
よかったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
親れいむは子まりさに飛びつき、泣きながら頬を何度摺り寄せた。
「や、やめちぇ、くすぎゅっちゃいよぉ」
子まりさが距離をとろうとするも、親れいむはすぐに擦り寄り、すーりすーりを続けた。
「よかったよ! ほんとうによかったよぉぉぉ!」
親れいむは何度も何度も近づいて頬を摺り寄せた。
やがて子まりさも逃げようとはせず、それを受け入れた。
子まりさの身体からグウウと音がなったのを境に親れいむはようやくすーりすーりを終わらせた。
「おちびちゃん、おなかすいてるんだね! ごめんね、いまよういするからね!」
「ごはん!」
『ごはん』と聞いて子まりさは飛び上がった。
親れいむは喜ぶ子まりさの姿が嬉しくて堪らなく、滅多に食べさせることのない、
大好物の木の実を三つ持っていくことにした。
「ゆうぅぅぅ♪」
葉の上には数種類の山菜と木の実が載せられていた。
子まりさはそれを見て、涎を惜し気もなく垂れ流した。
「ゆゆっ! おちびちゃんぎょうぎわるいよ。でもきょうはとくべつだよ!
たくさんたべて、いっぱいゆっくりしていってね!」
親れいむの言葉を聞き終わると子まりさは美味しそうな色をした山菜に齧り付いた。
「むーしゃむーしゃ。ち、ちちちちあわせぇぇぇぇぇ!」
食べかすを散らかしながら、子まりさは至福の声を漏らす。
親れいむは幸せを満喫する子まりさを眺めながら、自分もまた幸せを感じていた。
葉の上に載っていた食べ物をすべて食べ尽くした子まりさは洞穴の壁に寄りかかり、
「ゆうう♪ もうたべりゃりぇにゃいよ♪」
と幸せそうに漏らした。
「そんなにおなかすいてたんだね。いったいどこにいたの?」
親れいむは葉と散らばった食べかすを片づけながら尋ねた。
「ゆっ、じつはくぼみにおちちゃったんだじぇ。ずっちょぬけだせにゃかったのじぇ」
腹いっぱいに食べたせいか、子まりさは気だるそうにそう答えた。
「くぼみってどこの? おかあさんいっぱいさがしたのにみつからなかったんだよ?」
「ゆう、あのおれみゃぎゃったぎんいりょのぼうが……」
「おれまがったぎんいろのぼう……?」
「ゆゆっ! じゃにゃくちぇ、きだっちゃじぇ! おれみゃぎゃったきがあるちきゃくだじぇ!」
「ゆゆー。それじゃよくわからないよ」
親れいむは呆れたふりをしながら、先ほどの子まりさが言った、
折れ曲がった銀色の棒というフレーズについて考えていた。
親れいむはあの周辺を探していなかった。
それからはしばらく平穏な日々が続いた。
毎日共に狩りをし、共に食事をし、共に寝床へついた。
初め、子まりさが狩りを嫌がったが、優しい指導のもとで抵抗が無くなっていった。
汚れが目立てば、共に舐め合ったりもした。
子まりさが体調を崩せば、親れいむは熱心に看病し、
親れいむが倒れれば、子まりさもまた傍に居続けた。
そうして流れる月日の中、子まりさはすくすくと育っていき、
巣立ちの日が刻一刻近づいてきていた。
「おちびちゃん、そろそろいえをでて、つがいをみつけにいったほうがいいよ」
夕食が終わった後、親れいむは子まりさにそう告げた。
「ゆ…、そしたらおかあさんがひとりになっちゃうんだぜ」
「おかあさんはだいじょうぶだよ。ひとりでもゆっくりできるよ」
「まりさは…、まりさはおかあさんといっしょにいたいんだぜ……」
親れいむはじっと子まりさの目を見つめた。
暫く沈黙が続いたが、親れいむの溜息によってかき消された。
「しょうがないこだよ。いつまでもあまえんぼうさんだね」
親れいむは子まりさの傍により、
「さっ、もうねるよ」
と瞳を閉じた。
子まりさも親れいむの温かみを感じながら瞼を下へ降ろした。
雀の鳴き声で子まりさは目を覚ました。
「ゆうーん……ゆ?」
子まりさは大きく欠伸をしながら、一緒に寝ていた親れいむがいないことに気がついた。
寝ぼけ眼で洞穴を見渡すが、親れいむの姿はなかった。
狩りにでも出かけたのだろうかと思い、子まりさは洞穴から顔を出して、辺りに視線を配った。
曇天の山の風景に親れいむの姿はなかった。
子まりさは一匹で狩りをしながら、親れいむの帰りを待った。
けれど太陽が落ちても、親れいむは帰ってこなかった。
太陽が昇っても、また同じだった。
もう一度太陽が沈んだとき、子まりさは近くの山へ移動することを決意した。
早朝、子まりさは帽子に食糧を貯め込み、出発の準備をした。
準備が終わり、子まりさは洞穴を見渡した。
洞穴の端には、狩りで集めた食糧を載せる葉が二枚置かれていた。
その隣には柔らかい葉が敷き詰められた二つの寝床があった。
子まりさは洞穴の出口の方を見つめた。
しばらくの間見つめていた。
けれど、親れいむは現れることはなかった。
子まりさはゆっくりと洞穴の出口を目指した。
さいごまでいえなかった。
子まりさは思った。そのことが子まりさの心を強く打っていた。
洞穴を出ようとすると、子まりさの目に眩い光が射し込んだ。
空は雲ひとつない青空だった。程よい熱が身体をポカポカと温まらせる。
子まりさは振り返り、今まで住んでいた洞穴に向けて、
今はいない“ふたり”に「ありがとう、ごめんなさい」と告げた。
ある日、折れ曲がった落盤注意のある標識のところで一匹のゆっくりが傾斜面に落下し重傷を負った。
その光景を一匹のゆっくりが目撃していた。
そのゆっくりは飾りを持っていなかった。
目撃していたゆっくりは落下していったゆっくりを眺めた。
未だ死んでいないことを確認し、慎重に傾斜面を降りて、負傷するゆっくりに近づいた。
息が絶え絶えでもう助からないようにそのゆっくりには見えた。
小さく謝罪の言葉を呟き、
飾りを奪って、
殺した。
まりさは脇から餡子が漏れないよう気を配りながら、山道を進んでいた。
まりさが以前住んでいた洞穴のある山にまであと少しで差し掛かろうとしていた。
「あとすこしなんだぜ……」
まりさはずりずりとあんよを引き摺りながら、目的地までの距離を縮めていった。
あの後、洞穴から出たまりさは近くの山へ移動し、そこで出会った群れに属すことにした。
しばらくは平和な日々が続いたが、ある日を境に人間がゆっくりを襲うようになった。
先ほどまでの光景をまりさは思い出したくなかった。
午前三時の暗闇の中をまりさは街路灯頼りにひたすら前へと進んだ。
時折地面に落ちる餡子ともに意識が遠のいていく感覚をまりさは味わっていた。
朦朧としている意識の中、まりさは親れいむに出会うまでのことを思い出していた。
ある日、突然いなくなったお母さん。彷徨っている自分から飾りを奪っていった鴉。
折れ曲がった銀色の棒の近くにある傾斜面で怪我をしていたゆっくりから飾りを奪ったこと。
それを身につけ、母親の居所を聞き回ったこと。
そして……。
「みえたんだぜ……」
暗闇の中、街路灯に照らされ、薄らと奇怪に折れ曲がった銀色の棒がまりさの視界に入っていた。
「あれは……だれなんだぜ?」
折れ曲がった銀色の棒の他に、まりさの視界には一匹のゆっくりが収まっていた。
まりさは訝しみながら近づいていくと、口に何かを咥えていることに気付いた。
「なにしようとしているんだぜ……」
まりさは歩を休めず進んでいき、ゆっくりの正体を確かめようとした。
「ゆ?」
まりさは自分の頭がおかしくなってしまったのではないかと思った。
怪我が原因で夢を見ているだとも思った。
目の前には飾りのないゆっくりれいむが立っていた。
口にはまりさにとって懐かしい親れいむのリボンがあった。
またある日、折れ曲がった落盤注意のある標識のところで一匹の子まりさが傾斜面に落下し重傷を負った。
その光景を一匹の子まりさが目撃していた。
その子まりさは飾りを持っていなかった。
子まりさは落下していったゆっくりを眺めた。
未だ死んでいないことを確認し、慎重に傾斜面を降りて、負傷する子まりさに近づいた。
息が絶え絶えでもう助からないようにその子まりさには見えた。
謝罪の言葉を呟きもせず、
飾りを奪って、
放っておいた。
「おちびちゃん……どうしてここに……」
「おかあさんこそなにやってるんだぜ…」
親れいむの口からリボンが地面にポトリと落ちた。
「……かえしにきたのよ」
風で飛ばされぬようリボンを踏みつけながら親れいむがポツリと呟いた。
「かえしに?」
「れいむはわるいゆっくりなんだよ。おちびちゃんにえらそうにきょういくしていたくせにね」
親れいむは視線を下へ向ける。
「このりぼん、うばったものなんだよ。ここでおちたゆっくりから」
「まりさもそうだよ」
親れいむははっと顔を上げた。
「……このぼうし、おかあさんとおなじで、ここでおちたゆっくりからうばったんだぜ。
……ぞれで、ぞれがおがあざんのごどものぼうじで……
おがあざんのうばっだ、りぼんはぼんどうのおがあざんので……」
まりさは泣きじゃくりながら独白していく。
親れいむは静かにそれを聞いていた。
「おかあさん、もうすぐゆっくりできなくなるんだ……」
独白を終え、泣き腫らしているまりさに親れいむはそう伝える。
「ゆっくりできなくなる?」
「おかあさん、ながくいきてきたからね……」
その言葉でまりさは親れいむの寿命が近いことに気付いた。
「おちびちゃんも、そのきずだと……」
「ゆっ、わかってるんだぜ……」
自分の限界が近づいていることをまりさは悟っていた。
「ぜんぶなしにしようか?」
親れいむの突然の提案にまりさは俯きがけていた顔を上げる。
「ずるいかな……」
まりさは首を振った。
それが叶えばどんなにいいだろうと思っていた。
「けど、えんまさまはゆるしてくれないだろうね」
親れいむはふっと空を見上げる。
「じごくはゆっくりできないだろうけど」
親れいむがまりさの隣に立つ。
「ふたりなら、きっと―――」
山道の途中で二匹のゆっくりを見つけた。
飾りのない二匹のゆっくりだった。
飾りがなければ、ゆっくりはゆっくり出来ないと以前友人が言っていたことを思い出す。
けれどあの二匹は、とてもゆっくりしているように見え、
仲睦まじい家族のように見えた。
・あとがき
おまえゆっくりじゃねえだろ、と突っ込みながら書いていました。
プロットの時点ではこんな風になるつもりじゃなかったのに…
最後まで読んでくださった方本当にありがとうございます。