ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0803 ウィンター・ブルース
最終更新:
ankoss
-
view
「ウィンター・ブルース」
・羽付きシリーズの人間とは別人です
・善良なゆっくりがひどい目にあいます
・いくつかの設定は独自の補完を入れております
・登場するゆっくりの中で不明な部分は通常のゆっくりと同一と言う事にしております
・また口調もあまり統一されていなかったので通常のゆっくりと同一と言う事にしております
・駄文注意
・人間視点です
街と言う物はゆっくりにとってゆっくりできるものなのだろうか?
…答えはYESでもありNOでもある。
捨てゆっくりが今の体たらくを嘆いて「ゆっくりできない」と虚空に声を上げ
汚い野良ゆっくりが萎びた野菜くずをほんの少し口に運んで「ゆっくりできる」と喜ぶ。
ぶっちゃけた話、ケースバイケースだろう。
さて、今回私が見たのは「ゆっくりできない」側のゆっくりである。
季節は冬。ゆっくり達はこぞって越冬に入っておりまともな街ゆっくりはめったに姿を現さなくなっていた。
しかしゆっくりと言うのは街に関して言えば一年中眺める事が出来る。それは何故か?
冬ごもりにあぶれたゆっくりもいるだろうし、自動販売機の裏やゴミ捨て場の端を「おうち」にしているゆっくりもいる
つまりは目につきやすい場所にいるゆっくりは見かける事が出来るというわけだ。
そして次に多いのは…体が冷えてきた。暖かい物でも飲もうか。
財布を手に持ち近くの自動販売機に近づいていく。
前に立って眺めていると不意に裏側から小汚い1匹のゆっくりが飛び出してきた。
「おでがいじばず!らんのぢぇんどおぢびぢゃんをがいゆっぐりにじであげでぐだざい!どっでもゆっぐりできるゆっぐりなんでず!」
「…らん種?」
前に言えなかったことを補足しておこう。「次に多いのは捨てゆっくりである」と
人が近づくとこの様にして手に垢が付いたようなセリフ回しを延々と繰り返すのだ。
まぁこれも似たようなものだが一番驚いたのは滅多に見かけない「らん種」だと言う事だ。
らん種と言うのはかなり飼いやすいゆっくりと言われている。基本的な気性は大人しい饅頭だし、人に対して増長したりもしない。
また、抱き合わせでちぇん種と番いにすれば問題のあるちぇん種でも抑え込める事が可能であるともされており、ゆっくりショップの中でも人気の饅頭だ。
同じ抱き合わせの番いであるれいむ種とまりさ種、希少種であるゆっくりさくやと捕食種と呼ばれるれみりゃ等は必ず希少種以外のどちらか片方が増長して片方だけ捨てゆっくりになると言った事がよくある。
これから考えれば普通はちぇん種が捨てられるはずだが。私の目の前にいるのはらん種だ。
詮索はここまでにして目の前のらんを眺める。
二股の帽子は片方が千切れて穴が開いていた。砂糖細工の髪はボサボサでゴミやそのキレを巻き込んで非常に汚い。
その大きな特徴である九つの尻尾によく似た稲荷ズシはガチガチにススが付いたガムが何個もこびりついており、無理やりそれをむしったのだろうか?砂糖細工の毛が禿げて所々まだらになっている。
当然のごとく底部はガチガチでひびが入っており、泥が付いた小麦粉の皮は触るのも躊躇するほどの汚さだ。
そんな風貌のらんが穴と言う穴から甘酢の涙と涎を垂らして口をあんぐりあけながらこちらを眺めている光景はハッキリいって飼いたいなんて思いを一気に吹っ飛ばしてしまうほどのインパクトがあった。
私が無言で立ち止まっていると、そのらんはそれをYESと言う意思表示と見たのか帽子を舌で取り去って頭の上に乗っているミカン大の一匹の子らんを私に見せつけた。
小奇麗にはしているが汚い事に変わりはない。何よりも小麦粉の皮が皺がれて、寒天の目だけがギョロギョロと動いている。明らかに食料をとれていない事がわかった。
「らんのおぢびぢゃんでず!にんげんざんをゆっぐりざぜであげられるゆっくりなんです!いばはげんぎがないげどぢぇんどらんがゆっぐりじだゆっぐりにぞだででみまず!」
いつの間にか自分も飼いゆっくりになる算段をさらっと口にしていた。必死なため隠す事も出来なかったのだろうか?それとも自分たちがセットでいることが当然と思っているのだろうか?腑に落ちない所である。
「…全然動いてないけど、大丈夫なのかい?」
私がそう言うとらんは顔をゆがめて一方的に叫び始める。
「ゆ”!おぢびぢゃんはおびょうぎざんになっだぢぇんのがわりにらんどいっじょにいっじょうげんめいがりをじだんでず!でもわれだがらずのうえをばねぢゃっでうごげなぐなっだんでずっ!らんがべーろべーろじだげど…じだげどぉぉ…!」
何度も詰まりながらそんな事を言って頭の上にいる子らんにも語りかける
「おぢびぢゃん!おうだざんでもおどりざんでもいいがらうごいでね!」
そう言うと子らんは底部をモソモソと動かして這いずる様にして動き始めた。
なるほど相当深く底部を傷つけたようだ。食料不足もあいまってこれが今の精一杯といった所か…
「ゆひゅー…ゆひゅー…ゅ”…!ゅ”…ぐ・・・り…じでい・・・っで…ね」と弱弱しく呟いているのを見ているとそれほど悪いゆっくりではないようだ。
「おどりだっででぎるんでず!おうだだっでうだえるんでずっ!でももうぶゆだがらどごにもごばんざんがなぐで…!おどいれだっでおなじどころにでぎばずっ!ごばんざんだっでちらがじながらだべだりじばぜんっ!だがら!だがら!おでがいじばず!ぢぇんどおぢびぢゃんをがいゆっぐりにじでぐだざい!」
必死に訴えかけているらんを見ていてふと気になった。そういえば「ちぇん」はどこにいるんだ?
「"ちぇん"がと言ってたけどちぇんはどこにいるんだい?」
それを聞いてハッと目を見開いたらんはあわてて帽子をかぶりなおし舌で合図をしながら「ゆっぐりごっぢでず!」と言った。
自動販売機の裏にボロボロのダンボール箱が置かれていた。中に入っているのはなるほど確かにちぇん種…の様な帽子がのっかっている丸っこい何かだ。
「ぢぇん!ぢぇん!ゆっぐりおぎでねっ!にんげんざんだよっ!またあのごろみだいにふかふかさんやあまあまざんがいっばいあるどごろにもどれるんだよっ!」
勝手な事を言いながら必死にちぇんらしき「物」に語りかけている。その言葉を聞くにこのつがいは以前愛玩用の飼いゆっくりだったのだろうか?
…そもそも野良ゆっくりでらん種と言うのは滅多に見かけない。そう考えれば当然と言えば当然か。
「ぢぇん!ぢぇええええええん!!まっででぐだざい!ぢぇんはぢょっどづがれでずーやずーやじでるだげなんでずっ!おぎでね!ぢぇん!おぎでねえええええ!ぼら!ずーりずーりだよっ!ぢぇんがずぎだっだらんのずーりずーりだよ!?ずーりずーり!ずーりずーりいいいいいい!!」
甘酢の涙を垂れ流し、甘酢の涎を撒き散らしてらんが叫ぶ。だがそのちぇんらしき物は一向に動かない。あにゃるを上向きにしたまま顔面を地面につけて突っ伏している。
らんの言う「おびょうきさん」…その正体はいかなるものだったかは分からないが、小麦粉の皮がひび割れてパサパサになったその姿はゆっくりとしての機能を完全に消失していた。
いや、もしかしたらついさっきまでゆっくりだったのかもしれない。しかし私の目の前にあるそれは「ちぇんと言うゆっくり」ではなく「ちぇんだったゆっくり」だ。
「らんとちぇんは飼いゆっくりだったのかい?じゃあ、何で捨てられたか分かるよね?」
「…ゆ”!ぞ、ぞれはずっぎりじでおぢびぢゃんがうばれだがら…」
「そうだね。それを知っていて、なんで子ゆっくりと自分達を飼いゆっくりにしろって言うんだい?捨てられた理由が分かってるなら子ゆっくりも飼いゆっくりにしてくださいなんて言えないハズだよね」
「…らんはっ!らんはぢぇんどにんげんざんどおぢびぢゃんをゆっぐりざぜであげようどじだだげなのにいいいい!どぼじでっ!どぼじでなんにもわるいごどじでないらんだぢがゆっぐりでぎないの!?」
…なるほど。らん種でここまで賢いなら銀バッジ以上のゆっくりだったのだろうが、だが致命的な考え違いをしている様だ。
「…らんたちがゆっくりできる事でも人間からすればゆっくりできない事があるんだよ。それを知っているのに何でそれをしたんだい?勝手にすっきりしたのは自分たちにとってゆっくりできるって我儘を通すなら、その人がゆっくりできないから、らん達を捨てても文句は言えないよね」
私の言葉を聞いた途端にらんが目を見開いて数瞬止まった。そして時が動き出したかのように泣き叫び始める。
「どぼじでっ!どぼじでぞんなごどいうのおおおおおおお!?らんだぢだっでゆっぐりじだいよ!どぼじでにんげんざんやぼがのゆっぐりはらんだぢをいじべるのおおおおおお!?いっじょうげんめいゆっぐりじだのにっ!いっじょうげんめいゆっぐりじだのにぃっ!!ごんなのっでないよおおおおお!!」
…らんの行き場のない怒りが表面に出たのだろうか?それまで静かだったらんが私に向かって。いや、聞いてもいない虚空に向けて叫び続ける。
見えはしないが帽子の中の子らんは怖がって震えているだろう。
「じゃあ、はっきり言うね。こっちはたまたま通りかかっただけで、らん達を飼う気はサラサラないし、それにそこのちぇんはとっくの昔にゆっくりできなくなってるよ。帽子の中の子ゆっくりだって下手をすれば今日中にゆっくりできなくなるし、らんだって何時かは知らないけど近いうちにゆっくりできなくなると思うよ。」
「ぢがうぢがうぢがうぢがうぢがうよおおおおおおおおおおお!ぢぇんはゆっぐりでぎなぐなっでなんがいないよおおおおおおおおお!!ぢぇん!おぎでね!らんだよ!ぢぇんのずぎならんだよ!」
私の言葉を聞いてらんが既に動かなくなったちぇんに必死に小麦粉の皮を上下に擦りつけてすーりすーりをしていた。だがカラカラに乾いた「それ」はただコロンと転がるばかりである。
激しいすーりすーりのせいだろうか?帽子が外れ中の子らんが力なく地面にぽとりと落ちる。既に動かなくなったちぇんを必死にすーりすーりするらんの方へ向いて、モソモソと小麦粉の体を動かして近付こうとする。目には甘酢の涙が浮かんでいた。
「ずーりずーりっ!ずーりずーりいいいいいいいいいい!ぢぇん!おぎでっ!いつもみだいにわがるよーっでいっでよおおおおおお!ゆっぐりおうだざんをうだっでよおおおおおお!ずーりずーりじでよおおおおおおお!ぺーろぺーろじでよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!おぢびぢゃんどらんどいっじょにゆっぐりじようよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
私はそのままその場を後にした。どの道あれでは助からない。らん種が珍しいのはあくまで野良の話であって今では加工所で簡単に量産されているしそれほど珍しいものですらなくなっているのだ。
らん種が捨てゆっくりになると言うのは通常ありえない事だが、中途半端にゆっくりの意味を履き違えたバッジ付きゆっくりといった感じのあの態度を見ていればなんとなく捨てられた理由もうなずける。
…それに拾った所で助かるのはせいぜいあのらんだけだろう。子らんの方はすでにオレンジジュースでは回復不可能なぐらい弱り切っているし、ちぇんにいたってはただのカピカピの饅頭だ。
ましてや「ゆっくりする」の意味を履き違えたゆっくりはいつか必ず同じ事をする。それはゆっくりに対するノウハウを少しひも解けば経験則からも分かる事である。
金バッジや銀バッジと言ってもその中には質の高い物と低い物が混在している。それを量る方法の一つが「ゆっくり」と言う言葉の意味だ。
飼いゆっくりが良いゆっくりか悪いゆっくりかに分かれる決定的な考え
それは「人にとってゆっくりできるものでなければならない」と言う事だ。飼いゆっくりは人が認めた範囲の中での「ゆっくりとした行為」をしなければならないし、それが全て…とは言わなくとも迷惑をかけない程度のことを心がけなければならない。
少なくとも金バッジや銀の中でも上位の飼いゆっくりはそれを分かった上で人間と接している。これは断言できる事だ。
…だがあれこれ考えたところでどうしようもないだろう。あのらんは自らドツボにハマっていった。ただそれだけの話である。
結局はあのらんは人を舐めていたのだろう。だから未だに自分の命運を変えた「間違った考えのゆっくりする」と言う事にこだわり続けていたのだ。
既に見えないところまで離れているが、あのらんの叫びはここまでも聞こえていた…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日、私はたまたまであるが再びあの自動販売機の近くまで足を向けていた。
そこで私が目にした物はあのらん達ではなく。どこにでもいそうな小汚い一体の「ゆっくりまりさ」であった。
何をしているかと言うと一心に回りから集めてきたであろう空き缶を自動販売機の邪魔にならないスペースに集めていた。
私の様子に気が付いたのかじっとこちらを見つめたままズリズリと後ろに下がっている。
「なぁ、ここにいたらんを知らないかい?」
私がそう言うとキョトンとした表情でこちらを見上げた。やがて私が危害を加えるつもりはない事を悟ったのか自動販売機のすぐ横の片隅に跳ねて、舌で何かを示し始めた。
そこにはあのらんの帽子と子らんの帽子、そしてちぇんの帽子が風に飛ばされないように小石をオモリにして横並びにポツンと置いてあった。一体どういう事だろうか?
「これはまりさがつくったのか?」
私がそう聞くとそのまりさはコクコクと頷いて呟くようにこう語った。
曰く、このまりさは捨てられている空き缶を集めて人間から「あまあま」を貰って生計を立てているという。
十個で板のチョコレートが半分ほどの相場らしい。
少し遠出をしてこの自動販売機の近くを昨日通りかかったら、人間に蹴られ、踏まれているらんを遠目に見たという。
様子をうかがっているとどうやらその人間が飼いゆっくりと一緒に散歩している所をいきなり飼いゆっくりに体当たりをくらわせてきたそうだ。
大したダメージではなかったが、人間がそれに激怒し、らんを何度も蹴り、そして踏みつけた。
暫くピクピクと動いていたそうだが近づけず、人間と飼いゆっくりが去った後に近づくと既に事切れていた…と言う話だ。
多分、自動販売機の前で待ち伏せをしていたゲスゆっくりか何かだろうが、裏側にあるダンボールの中にある家族らしきゆっくりがいたのでそこらに打ち捨てるのも後味が悪い。なので「ゆっくり回収箱」の前に置いておいた後に、帽子だけをここに残して弔っておいたと言っていた。
「ずっと"そんなぐずよりらんのほうがゆっくりできる"っていってたよ…けられてもふまれてもすーりすーりをずっとつづけててね、それでね」
その時の状況を淡々と語っているまりさ。ゆっくりが飼いゆっくりに手を出すのは実は結構よくあることなので別段珍しいとも何とも思っていないようだ。
「よだれさんとなみださんをながしながらずっとすーりすーりをつづけてたよ、なんであんなことをしたのかまりさはぜんぜんわからないよ」
そう続けざまにまりさが語って。
それを聞くと私はそのまりさにこう話しかける。
「まりさは今ゆっくりできているかい?」
私の問いに対して、そのまりさは実に…実にいい笑顔でこう言った。
「ゆっくりできてるよ。にんげんさんのてつだいをすればあまあまさんだってもらえるし、つつさんをかってにほうってるのはにんげんさんにとってはゆっくりできないことだってきいたからまりさもゆっくりできてにんげんさんもゆっくりできるのはすごいゆっくりしたことだよ」
その言葉を聞いて理由は分からないが何か報われた気持ちが私の胸の奥をぐるぐるとまわり始めた。このまりさは立派な「街ゆっくり」だ。そう考えついたのはそのすぐである。
私はまりさにお礼を言うとそのまま踵を返してその場から立ち去っていく。
途中、振り返ればどこから持ってきたのかビニール袋に空き缶を詰めているまりさの姿がそこにあった。
重そうに口で取っ手を引っ張るとそのまま道の端を進んでいく。
あのらんとまりさ、どちらが賢いといえば私は間違いなく「まりさ」を選ぶだろう。
ゆっくりの意味を履き違えたゆっくりなど、いくらバッジをつけるほどの能力があったとしても根本的にゲスゆっくりと変わらない。そう感じ得なかった。
…冬の風だけはただ平等にゆっくりや私たちにも降り注ぐ。それを悲観的に考えるか、楽観的に考えるかは自分次第だろう。
厳しい街の環境にも適応しているあのまりさの様な街ゆっくりこそ真に「ゆっくりできるゆっくり」なのかも知れない。
過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 504 かりすま☆ふぁいたー
ふたば系ゆっくりいじめ 516 サバイバル・ウィンター
ふたば系ゆっくりいじめ 527 シティ・リベンジャーズ
ふたば系ゆっくりいじめ 582 ビルディング・フォレスト
ふたば系ゆっくりいじめ 587 バトル・プレイス
ふたば系ゆっくりいじめ 592 コールド・ソング
ふたば系ゆっくりいじめ 604 ロンリー・ラック
ふたば系ゆっくりいじめ 625 ループ・プレイス
ふたば系ゆっくりいじめ 632 フェザー・メモリー(前編)
ふたば系ゆっくりいじめ 643 フェザー・メモリー(後編)
・羽付きシリーズの人間とは別人です
・善良なゆっくりがひどい目にあいます
・いくつかの設定は独自の補完を入れております
・登場するゆっくりの中で不明な部分は通常のゆっくりと同一と言う事にしております
・また口調もあまり統一されていなかったので通常のゆっくりと同一と言う事にしております
・駄文注意
・人間視点です
街と言う物はゆっくりにとってゆっくりできるものなのだろうか?
…答えはYESでもありNOでもある。
捨てゆっくりが今の体たらくを嘆いて「ゆっくりできない」と虚空に声を上げ
汚い野良ゆっくりが萎びた野菜くずをほんの少し口に運んで「ゆっくりできる」と喜ぶ。
ぶっちゃけた話、ケースバイケースだろう。
さて、今回私が見たのは「ゆっくりできない」側のゆっくりである。
季節は冬。ゆっくり達はこぞって越冬に入っておりまともな街ゆっくりはめったに姿を現さなくなっていた。
しかしゆっくりと言うのは街に関して言えば一年中眺める事が出来る。それは何故か?
冬ごもりにあぶれたゆっくりもいるだろうし、自動販売機の裏やゴミ捨て場の端を「おうち」にしているゆっくりもいる
つまりは目につきやすい場所にいるゆっくりは見かける事が出来るというわけだ。
そして次に多いのは…体が冷えてきた。暖かい物でも飲もうか。
財布を手に持ち近くの自動販売機に近づいていく。
前に立って眺めていると不意に裏側から小汚い1匹のゆっくりが飛び出してきた。
「おでがいじばず!らんのぢぇんどおぢびぢゃんをがいゆっぐりにじであげでぐだざい!どっでもゆっぐりできるゆっぐりなんでず!」
「…らん種?」
前に言えなかったことを補足しておこう。「次に多いのは捨てゆっくりである」と
人が近づくとこの様にして手に垢が付いたようなセリフ回しを延々と繰り返すのだ。
まぁこれも似たようなものだが一番驚いたのは滅多に見かけない「らん種」だと言う事だ。
らん種と言うのはかなり飼いやすいゆっくりと言われている。基本的な気性は大人しい饅頭だし、人に対して増長したりもしない。
また、抱き合わせでちぇん種と番いにすれば問題のあるちぇん種でも抑え込める事が可能であるともされており、ゆっくりショップの中でも人気の饅頭だ。
同じ抱き合わせの番いであるれいむ種とまりさ種、希少種であるゆっくりさくやと捕食種と呼ばれるれみりゃ等は必ず希少種以外のどちらか片方が増長して片方だけ捨てゆっくりになると言った事がよくある。
これから考えれば普通はちぇん種が捨てられるはずだが。私の目の前にいるのはらん種だ。
詮索はここまでにして目の前のらんを眺める。
二股の帽子は片方が千切れて穴が開いていた。砂糖細工の髪はボサボサでゴミやそのキレを巻き込んで非常に汚い。
その大きな特徴である九つの尻尾によく似た稲荷ズシはガチガチにススが付いたガムが何個もこびりついており、無理やりそれをむしったのだろうか?砂糖細工の毛が禿げて所々まだらになっている。
当然のごとく底部はガチガチでひびが入っており、泥が付いた小麦粉の皮は触るのも躊躇するほどの汚さだ。
そんな風貌のらんが穴と言う穴から甘酢の涙と涎を垂らして口をあんぐりあけながらこちらを眺めている光景はハッキリいって飼いたいなんて思いを一気に吹っ飛ばしてしまうほどのインパクトがあった。
私が無言で立ち止まっていると、そのらんはそれをYESと言う意思表示と見たのか帽子を舌で取り去って頭の上に乗っているミカン大の一匹の子らんを私に見せつけた。
小奇麗にはしているが汚い事に変わりはない。何よりも小麦粉の皮が皺がれて、寒天の目だけがギョロギョロと動いている。明らかに食料をとれていない事がわかった。
「らんのおぢびぢゃんでず!にんげんざんをゆっぐりざぜであげられるゆっくりなんです!いばはげんぎがないげどぢぇんどらんがゆっぐりじだゆっぐりにぞだででみまず!」
いつの間にか自分も飼いゆっくりになる算段をさらっと口にしていた。必死なため隠す事も出来なかったのだろうか?それとも自分たちがセットでいることが当然と思っているのだろうか?腑に落ちない所である。
「…全然動いてないけど、大丈夫なのかい?」
私がそう言うとらんは顔をゆがめて一方的に叫び始める。
「ゆ”!おぢびぢゃんはおびょうぎざんになっだぢぇんのがわりにらんどいっじょにいっじょうげんめいがりをじだんでず!でもわれだがらずのうえをばねぢゃっでうごげなぐなっだんでずっ!らんがべーろべーろじだげど…じだげどぉぉ…!」
何度も詰まりながらそんな事を言って頭の上にいる子らんにも語りかける
「おぢびぢゃん!おうだざんでもおどりざんでもいいがらうごいでね!」
そう言うと子らんは底部をモソモソと動かして這いずる様にして動き始めた。
なるほど相当深く底部を傷つけたようだ。食料不足もあいまってこれが今の精一杯といった所か…
「ゆひゅー…ゆひゅー…ゅ”…!ゅ”…ぐ・・・り…じでい・・・っで…ね」と弱弱しく呟いているのを見ているとそれほど悪いゆっくりではないようだ。
「おどりだっででぎるんでず!おうだだっでうだえるんでずっ!でももうぶゆだがらどごにもごばんざんがなぐで…!おどいれだっでおなじどころにでぎばずっ!ごばんざんだっでちらがじながらだべだりじばぜんっ!だがら!だがら!おでがいじばず!ぢぇんどおぢびぢゃんをがいゆっぐりにじでぐだざい!」
必死に訴えかけているらんを見ていてふと気になった。そういえば「ちぇん」はどこにいるんだ?
「"ちぇん"がと言ってたけどちぇんはどこにいるんだい?」
それを聞いてハッと目を見開いたらんはあわてて帽子をかぶりなおし舌で合図をしながら「ゆっぐりごっぢでず!」と言った。
自動販売機の裏にボロボロのダンボール箱が置かれていた。中に入っているのはなるほど確かにちぇん種…の様な帽子がのっかっている丸っこい何かだ。
「ぢぇん!ぢぇん!ゆっぐりおぎでねっ!にんげんざんだよっ!またあのごろみだいにふかふかさんやあまあまざんがいっばいあるどごろにもどれるんだよっ!」
勝手な事を言いながら必死にちぇんらしき「物」に語りかけている。その言葉を聞くにこのつがいは以前愛玩用の飼いゆっくりだったのだろうか?
…そもそも野良ゆっくりでらん種と言うのは滅多に見かけない。そう考えれば当然と言えば当然か。
「ぢぇん!ぢぇええええええん!!まっででぐだざい!ぢぇんはぢょっどづがれでずーやずーやじでるだげなんでずっ!おぎでね!ぢぇん!おぎでねえええええ!ぼら!ずーりずーりだよっ!ぢぇんがずぎだっだらんのずーりずーりだよ!?ずーりずーり!ずーりずーりいいいいいい!!」
甘酢の涙を垂れ流し、甘酢の涎を撒き散らしてらんが叫ぶ。だがそのちぇんらしき物は一向に動かない。あにゃるを上向きにしたまま顔面を地面につけて突っ伏している。
らんの言う「おびょうきさん」…その正体はいかなるものだったかは分からないが、小麦粉の皮がひび割れてパサパサになったその姿はゆっくりとしての機能を完全に消失していた。
いや、もしかしたらついさっきまでゆっくりだったのかもしれない。しかし私の目の前にあるそれは「ちぇんと言うゆっくり」ではなく「ちぇんだったゆっくり」だ。
「らんとちぇんは飼いゆっくりだったのかい?じゃあ、何で捨てられたか分かるよね?」
「…ゆ”!ぞ、ぞれはずっぎりじでおぢびぢゃんがうばれだがら…」
「そうだね。それを知っていて、なんで子ゆっくりと自分達を飼いゆっくりにしろって言うんだい?捨てられた理由が分かってるなら子ゆっくりも飼いゆっくりにしてくださいなんて言えないハズだよね」
「…らんはっ!らんはぢぇんどにんげんざんどおぢびぢゃんをゆっぐりざぜであげようどじだだげなのにいいいい!どぼじでっ!どぼじでなんにもわるいごどじでないらんだぢがゆっぐりでぎないの!?」
…なるほど。らん種でここまで賢いなら銀バッジ以上のゆっくりだったのだろうが、だが致命的な考え違いをしている様だ。
「…らんたちがゆっくりできる事でも人間からすればゆっくりできない事があるんだよ。それを知っているのに何でそれをしたんだい?勝手にすっきりしたのは自分たちにとってゆっくりできるって我儘を通すなら、その人がゆっくりできないから、らん達を捨てても文句は言えないよね」
私の言葉を聞いた途端にらんが目を見開いて数瞬止まった。そして時が動き出したかのように泣き叫び始める。
「どぼじでっ!どぼじでぞんなごどいうのおおおおおおお!?らんだぢだっでゆっぐりじだいよ!どぼじでにんげんざんやぼがのゆっぐりはらんだぢをいじべるのおおおおおお!?いっじょうげんめいゆっぐりじだのにっ!いっじょうげんめいゆっぐりじだのにぃっ!!ごんなのっでないよおおおおお!!」
…らんの行き場のない怒りが表面に出たのだろうか?それまで静かだったらんが私に向かって。いや、聞いてもいない虚空に向けて叫び続ける。
見えはしないが帽子の中の子らんは怖がって震えているだろう。
「じゃあ、はっきり言うね。こっちはたまたま通りかかっただけで、らん達を飼う気はサラサラないし、それにそこのちぇんはとっくの昔にゆっくりできなくなってるよ。帽子の中の子ゆっくりだって下手をすれば今日中にゆっくりできなくなるし、らんだって何時かは知らないけど近いうちにゆっくりできなくなると思うよ。」
「ぢがうぢがうぢがうぢがうぢがうよおおおおおおおおおおお!ぢぇんはゆっぐりでぎなぐなっでなんがいないよおおおおおおおおお!!ぢぇん!おぎでね!らんだよ!ぢぇんのずぎならんだよ!」
私の言葉を聞いてらんが既に動かなくなったちぇんに必死に小麦粉の皮を上下に擦りつけてすーりすーりをしていた。だがカラカラに乾いた「それ」はただコロンと転がるばかりである。
激しいすーりすーりのせいだろうか?帽子が外れ中の子らんが力なく地面にぽとりと落ちる。既に動かなくなったちぇんを必死にすーりすーりするらんの方へ向いて、モソモソと小麦粉の体を動かして近付こうとする。目には甘酢の涙が浮かんでいた。
「ずーりずーりっ!ずーりずーりいいいいいいいいいい!ぢぇん!おぎでっ!いつもみだいにわがるよーっでいっでよおおおおおお!ゆっぐりおうだざんをうだっでよおおおおおお!ずーりずーりじでよおおおおおおお!ぺーろぺーろじでよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!おぢびぢゃんどらんどいっじょにゆっぐりじようよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
私はそのままその場を後にした。どの道あれでは助からない。らん種が珍しいのはあくまで野良の話であって今では加工所で簡単に量産されているしそれほど珍しいものですらなくなっているのだ。
らん種が捨てゆっくりになると言うのは通常ありえない事だが、中途半端にゆっくりの意味を履き違えたバッジ付きゆっくりといった感じのあの態度を見ていればなんとなく捨てられた理由もうなずける。
…それに拾った所で助かるのはせいぜいあのらんだけだろう。子らんの方はすでにオレンジジュースでは回復不可能なぐらい弱り切っているし、ちぇんにいたってはただのカピカピの饅頭だ。
ましてや「ゆっくりする」の意味を履き違えたゆっくりはいつか必ず同じ事をする。それはゆっくりに対するノウハウを少しひも解けば経験則からも分かる事である。
金バッジや銀バッジと言ってもその中には質の高い物と低い物が混在している。それを量る方法の一つが「ゆっくり」と言う言葉の意味だ。
飼いゆっくりが良いゆっくりか悪いゆっくりかに分かれる決定的な考え
それは「人にとってゆっくりできるものでなければならない」と言う事だ。飼いゆっくりは人が認めた範囲の中での「ゆっくりとした行為」をしなければならないし、それが全て…とは言わなくとも迷惑をかけない程度のことを心がけなければならない。
少なくとも金バッジや銀の中でも上位の飼いゆっくりはそれを分かった上で人間と接している。これは断言できる事だ。
…だがあれこれ考えたところでどうしようもないだろう。あのらんは自らドツボにハマっていった。ただそれだけの話である。
結局はあのらんは人を舐めていたのだろう。だから未だに自分の命運を変えた「間違った考えのゆっくりする」と言う事にこだわり続けていたのだ。
既に見えないところまで離れているが、あのらんの叫びはここまでも聞こえていた…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日、私はたまたまであるが再びあの自動販売機の近くまで足を向けていた。
そこで私が目にした物はあのらん達ではなく。どこにでもいそうな小汚い一体の「ゆっくりまりさ」であった。
何をしているかと言うと一心に回りから集めてきたであろう空き缶を自動販売機の邪魔にならないスペースに集めていた。
私の様子に気が付いたのかじっとこちらを見つめたままズリズリと後ろに下がっている。
「なぁ、ここにいたらんを知らないかい?」
私がそう言うとキョトンとした表情でこちらを見上げた。やがて私が危害を加えるつもりはない事を悟ったのか自動販売機のすぐ横の片隅に跳ねて、舌で何かを示し始めた。
そこにはあのらんの帽子と子らんの帽子、そしてちぇんの帽子が風に飛ばされないように小石をオモリにして横並びにポツンと置いてあった。一体どういう事だろうか?
「これはまりさがつくったのか?」
私がそう聞くとそのまりさはコクコクと頷いて呟くようにこう語った。
曰く、このまりさは捨てられている空き缶を集めて人間から「あまあま」を貰って生計を立てているという。
十個で板のチョコレートが半分ほどの相場らしい。
少し遠出をしてこの自動販売機の近くを昨日通りかかったら、人間に蹴られ、踏まれているらんを遠目に見たという。
様子をうかがっているとどうやらその人間が飼いゆっくりと一緒に散歩している所をいきなり飼いゆっくりに体当たりをくらわせてきたそうだ。
大したダメージではなかったが、人間がそれに激怒し、らんを何度も蹴り、そして踏みつけた。
暫くピクピクと動いていたそうだが近づけず、人間と飼いゆっくりが去った後に近づくと既に事切れていた…と言う話だ。
多分、自動販売機の前で待ち伏せをしていたゲスゆっくりか何かだろうが、裏側にあるダンボールの中にある家族らしきゆっくりがいたのでそこらに打ち捨てるのも後味が悪い。なので「ゆっくり回収箱」の前に置いておいた後に、帽子だけをここに残して弔っておいたと言っていた。
「ずっと"そんなぐずよりらんのほうがゆっくりできる"っていってたよ…けられてもふまれてもすーりすーりをずっとつづけててね、それでね」
その時の状況を淡々と語っているまりさ。ゆっくりが飼いゆっくりに手を出すのは実は結構よくあることなので別段珍しいとも何とも思っていないようだ。
「よだれさんとなみださんをながしながらずっとすーりすーりをつづけてたよ、なんであんなことをしたのかまりさはぜんぜんわからないよ」
そう続けざまにまりさが語って。
それを聞くと私はそのまりさにこう話しかける。
「まりさは今ゆっくりできているかい?」
私の問いに対して、そのまりさは実に…実にいい笑顔でこう言った。
「ゆっくりできてるよ。にんげんさんのてつだいをすればあまあまさんだってもらえるし、つつさんをかってにほうってるのはにんげんさんにとってはゆっくりできないことだってきいたからまりさもゆっくりできてにんげんさんもゆっくりできるのはすごいゆっくりしたことだよ」
その言葉を聞いて理由は分からないが何か報われた気持ちが私の胸の奥をぐるぐるとまわり始めた。このまりさは立派な「街ゆっくり」だ。そう考えついたのはそのすぐである。
私はまりさにお礼を言うとそのまま踵を返してその場から立ち去っていく。
途中、振り返ればどこから持ってきたのかビニール袋に空き缶を詰めているまりさの姿がそこにあった。
重そうに口で取っ手を引っ張るとそのまま道の端を進んでいく。
あのらんとまりさ、どちらが賢いといえば私は間違いなく「まりさ」を選ぶだろう。
ゆっくりの意味を履き違えたゆっくりなど、いくらバッジをつけるほどの能力があったとしても根本的にゲスゆっくりと変わらない。そう感じ得なかった。
…冬の風だけはただ平等にゆっくりや私たちにも降り注ぐ。それを悲観的に考えるか、楽観的に考えるかは自分次第だろう。
厳しい街の環境にも適応しているあのまりさの様な街ゆっくりこそ真に「ゆっくりできるゆっくり」なのかも知れない。
過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 504 かりすま☆ふぁいたー
ふたば系ゆっくりいじめ 516 サバイバル・ウィンター
ふたば系ゆっくりいじめ 527 シティ・リベンジャーズ
ふたば系ゆっくりいじめ 582 ビルディング・フォレスト
ふたば系ゆっくりいじめ 587 バトル・プレイス
ふたば系ゆっくりいじめ 592 コールド・ソング
ふたば系ゆっくりいじめ 604 ロンリー・ラック
ふたば系ゆっくりいじめ 625 ループ・プレイス
ふたば系ゆっくりいじめ 632 フェザー・メモリー(前編)
ふたば系ゆっくりいじめ 643 フェザー・メモリー(後編)