ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2154 夏のゆっくり山守さん(後編)
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ankoss
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・夏のゆっくり山守さん(前編)の続きです。
・駄文長文詰め込みすぎ注意。
・愛で&希少種優遇&独自設定だらけ。
・希少種は胴付きでかつ能力がチートです。厨二です。あたま悪いです。
・そしてガチのHENTAIです。
・後編では人間が肉体的に痛い目をみます。
・それでも構わないという方はゆっくりどうぞ。
***
「れいぱーありすの駆除?」
リビングに戻った俺は、えーりん姉さんの淹れてくれたコーヒーを啜り、改めてかなこさんに尋ねた。
「そうだ。ここのところ、主殿が管理しているお山のゆっくりが、れいぱーありすに襲われるという被害が相次いでいる」
氷の浮いたオレンジジュースを口に運びながら、かなこ様が頷く。
「それも、どうやら奴らはそれなりの数がいるようでな。私が管理している群れのひとつが半壊させられてしまった」
「それは、かなこの管理不足……と言いたいところだけど、れいぱーはどうしようもないわねえ」
オレンジフロートのアイスをストローで突きつつ、ゆかりん姉ちゃんが唸った。
れいぱーありす。
ゆっくりありす種が異常発情することで生まれる変異種であり、第三種危険ゆっくりに指定されている。
その特徴は捕食種とすら対等に渡り合える身体能力と、自分の中身を全て出し尽くすまで止まらない異常な性欲。
一度れいぱー化したありすは近くにいるゆっくりを見境なくレイプし続け、すっきり死させてしまう。
そして最終的には自分自身の中身も全て吐き出し尽くし、命を落とすのだ。
大量のすっきり死したゆっくりと、そこから生き延びて生まれ落ちた、れいぱー因子を強く受け継ぐ赤ありすを残して。
「かなこさんが管理していた群れのありすがれいぱー化したのですか?」
ゆゆ先生特製の赤ゆ饅頭をかじり、ひじり姉が尋ねた。
「いや。群れにありす種はいたが、れいぱーへの恐怖で強制れいぱー化した個体が出ていた程度だ」
「こぼね……という事は……」
「ああ。れいぱー共は、山の外からやって来たヨソ者の可能性が高い」
「それはまた……厄介ね……」
かなこさんの答えに、ゆゆ先生とえーりん姉さんが表情を曇らせる。
どんな種類のゆっくりからも一定の割合でゲスが含まれるように、ありす種には一定の割合でれいぱー化する個体が含まれている。
ただし、全てのありす種は強精発情させることで無理矢理れいぱー化させる事が可能だ。
だが、そういう強制れいぱーは餡子(カスタード)の消耗が激しく、寿命は保ってせいぜい一日。
場合によっては最初のゆっくりに全精子餡を注ぎ込み死亡する事すらあるので、自然界ではさほどの脅威にはならない。
繁殖用の精子餡を採取する時や、虐待用に使うには便利な生態だという程度だ。
それに対し、自然にれいぱー化した個体は遙かに厄介な存在だった。
何しろ、れいぱーとして活動しながらも自分の生命活動の維持が行え、過剰なカスタードの消費を抑えられるのだから。
自然発生したれいぱーは、すっきり死したゆっくりや、生まれることなく永遠にゆっくりした実ゆを捕食する。
そうしてカスタードを補充しつつ、少しでも多くのゆっくりに『とかいはなあい』を与えるべく活動し続けるのだ。
こういうれいぱーが発生した場合、最悪たった一匹のゆっくりに群れが全滅させられる事もある。
自然発生したれいぱーの集団は、群生相を生じた蝗なみに面倒な存在なのだ。
そして、なにより。
「なるほどね。自然発生したれいぱーが相手じゃ、ゆかりん姉ちゃんはともかく、ひじり姉達には応援を求められないし……」
「御祖母様の処に居る山守ゆっくりを動員する訳にもいかないわね。最悪、触れられただけで妊娠しちゃうもの」
俺の言葉に、ゆかりん姉ちゃんが頷いた。
そう、自然発生れいぱーの最も恐ろしい点……それは通常では考えられないほどに強力な繁殖能力にある。
元々すっきりーすれば妊娠率100%というデタラメナマモノであるゆっくりだが、自然発生れいぱーは更に質が悪い。
なんせ、自然発生のれいぱーは分泌する体液が全て精子餡に等し生殖能力を持つのだ。
れいぷは勿論、すっきりーでないすりすりや、最悪飛び散った体液や吐いた餡子を浴びただけで、並のゆっくりなら妊娠してしまう。
妊娠率が極端に低いはずの胴付きでさえ、自然発生れいぱーの精子餡をまともに浴びると5割近い確率で妊娠してしまうのだ。
その特性を生かし、加工場などでは胴付きゆっくりを生産する為に自然発生れいぱーの精子餡を使っていたりするのだが。
「なるほどね。俺が指名された訳が判ったよ。ま、自然発生れいぱーなら加工所に依頼してもいいと思うんだけど……」
「主殿曰く、これも弟殿と私が受けるべき愛の試練だそうだ。力を合わせ、山に侵入したれいぱーを排除せよ、と仰せでな」
「ばあちゃん……」
愛の試練ってなんだよ、愛って。
そりゃまあ、かなこさんは俺の恩人ならぬ恩ゆっくりだし、姉ちゃん達やゆゆ先生同様、大切な相手だけどさ。
「愛の試練、ね……」
「御祖母様はかなこさんがお気に入りですから、仕方ないですね」
「かなこ様を弟様に譲る気満々ですものね~」
「ま、愛とかは置いておいて」
「置くのかよ」
俺の突っ込みをスルーし、ゆかりん姉ちゃんはアイスクリームをスプーンで掬うと、ぱくりと咥えた。
「んぐ……御祖母様は他人の手を借りようとしない方だから、かなこと弟ちゃんにまず任せようとするのは当然ね……ちゅ」
ちろりと唇を舐め、微笑む。
「ま、そう言う事なら私も協力してあげるわ。かなこのオンバシラ同様、私のスキマはれいぱーに触れることなく駆除できるから」
「やってくれるか、ゆかり?」
「当然よ。弟ちゃんが前に出るのなら、せめて後ろから援護するのが姉としての務でしょ?」
「そうか……すまん、助かる。正直ゆかりの助力は欲しかったのでな」
かなこさんが神妙に頭を下げる。
「いいのよ、このくらい。それで、いつから始めるの?」
「ああ……群れの行動範囲は大体把握できているから、出来るならばすぐにでもやりたいのだが……弟殿はどうだ?」
「山の装備に着替えるだけだし、俺は構わないよ?」
ばあちゃんの山なら勝手は判っているし、携帯も大抵の場所で通じるしな。
「南無三っ! 私もお手伝いしますよっ」
「私も及ばずながら~。中枢餡さえ破壊できればれいぱーを操る事も出来ますので~」
「……弟君に対ゆっくり用薬剤を持たせなければね」
ひじり姉にゆゆ先生、えーりん姉さんも力強く頷く。
「皆……すまん、恩に着る」
「ええ、たっぷり恩を着せてあげるから覚悟しなさい?」
「……弟殿は譲らんぞ?」
「この程度の恩で譲らせるつもりもないから安心しなさい」
神妙なかなこさんと、それをからかうように笑うゆかりん姉ちゃん。
なんだかんだ言って、このふたりは仲がいい。
妙に張り合うところはあるけれど……それはふたりが同い年で、ライバルみたいな関係だからなんだろう。
「それでかなこさん、俺達はどう動けばいいんだ?」
「うむ。それはこの地図にだな……」
スカートの中から、かなこさんが1枚の地図を取り出して、拡げる。
「奴らが襲ったゆっくりの群れはここ。他のゆっくり巣で襲撃を受けていたのがこことここ……つまり、奴らの移動経路は……」
ばあちゃんの山を示した地図の上を、かなこさんの白く長い指が滑る。
顔をつきあわせてそれを覗き込み、俺達は作戦を煮詰めていった。
***
風が頬を撫でていく。
足元がふわふわする。
見下ろせば、青々とした木々の梢。
「どうだ弟殿? 久しぶりの空中散歩は?」
「相変わらず股間がきゅーっとするよ……かなこさんは大丈夫?」
「問題ない。弟殿と一緒ならば何時間でも飛べるぞ!」
「頼もしいなあ……でも、絶対に無理はしないでね?」
力強く答えるかなこさんに、俺は引きつった笑みで答えた。
ここはばあちゃんの会社が所有する山の上空。
かなこさんに抱えられ、俺は目的地目指して飛んでいた。
「大丈夫だ、私の注連縄セイルは絶好調だからな! 今ならばジェット気流でも捉えてみせるぞ!」
「それかなこさんはともかく俺死ぬからね?」
かなこさんが第一種危険ゆっくりに指定されている理由。
そのひとつが、この注連縄セイリングジャンプ……注連縄の持つ不思議な力で風を捉え、空を飛ぶ能力だった。
高い知能を持つ胴付きで、空を飛ぶ事が出来る。
害獣となった場合、これだけでもかなりの脅威だ。
そのうえ、かなこ種はオンバシラという武器を持っている。
胴なしですら木刀並のサイズと威力を持つオンバシラだが、胴付きであるかなこさんのそれは丸太に近い。
直径約15センチ、長さは約90センチ。重量にして15キロを越えるオンバシラ。
これをかなこさんは意志の力で4本同時に自在に動かし、ある時は舵として、あるときは武器として使っているのだ。
……どう見てもサイコキネシスです、本当にありがとうございました。
動かせるのはオンバシラ限定とはいえ、これだけの質量がある物質を自由に振り回せれば、それは十分な殺傷力を持つ。
実際、かなこさんは狩猟期間には山を飛び回って猟を行っているし、オンバシラで100キロ級のイノシシを仕留めた事さえあるのだ。
人間並の知能があり、空を飛べ、オンバシラで人を殺傷せしめるだけの攻撃力をも有している。
そんなかなこさんが第一種危険ゆっくりに指定されるのは、人間側の理屈で言えば当然の事だった。
俺にとってそれは、命を救ってくれた素敵な能力なのだけど。
「ときに弟殿っ」
背中から俺をしっかりと抱きしめて、かなこさんが耳元で囁いた。
「なに、かなこさん?」
「そのっ……街の学校に通うようになって、生活は何か変わったか?」
「何かって、なにが?」
「……そのっ……懸想する相手が出来た、とかっ……!」
「あー……! 無理無理、だって俺の学校男子校だもん! 女っ気なんて先生含めても皆無だよー!」
「そ、そうか……そうか! それは良かっ……いや、残念だったな!」
俺を慰めながらも、かなこさんは何故か嬉しそうだ。
姉ちゃん達もそうだけど、なんか俺に彼女が出来たかってことを気にするんだよなー。
やっぱりアレか、弟に彼女というのは娘が彼を連れてきた的なショックがあるんだろうか。
俺的には心配される事自体がちょっと心外なんだが。
まったく。
「もうちょっと、弟を信じてほしいよな……」
「ん? 弟殿、何か言ったか?」
「いや、なにもー! それよりかなこさん、そろそろ降下ポイントだよー!」
「了解だ! では頼むぞ、弟殿!」
「任せて! かなこさんこそ気をつけてよ!」
「案ずるな! 私はれいぱーありすなどに穢されたりはせん! 弟殿との約束があるからな!」
力強く答えるかなこさんに頷く。
目の前には木々が迫り、梢を抜けると薄暗い森のなか。
ほとんど人の手の入っていない自然林の斜面に、俺達は着地した。
「よし……ちょっと待っててね、かなこさん」
「判った」
俺を下ろしたあとで注連縄セイルを調整し、かなこさんが再び空に舞う。
その姿を見上げ、俺は携帯を取りだした。
短縮ダイヤルをコールし、三回。
『……弟君?』
「えーりん姉さん? ポイントに着いたよ。ゆかりん姉ちゃん達を待機させといて」
『判ったわ……気をつけてね』
「大丈夫だよ。かなこさんもいるし……」
通話を続けながら腹に抱えていたリュックを下ろし、中からウォーターガンを取り出す。
「えーりん姉さんが持たせてくれた甘辛ウォーターガンもあるからね」
これは2000円ほどで買った玩具を改造したものだが、ポンプアクション式で最大射程20メートルというなかなか強力な奴だ。
そして、1リットルという大容量タンクに詰まっているのは、えーりん姉さん特製の対ゆっくり用超甘味&辛味ブレンド液。
砂糖の3000倍という甘味成分はゆっくりを一瞬で虜にして動きを封じ、20万スコヴィルの辛味成分は成体ゆっくりさえ一瞬で非ゆっくち状態に陥れる。
最高のしあわせーと最悪のふしあわせーを同時に叩き込まれた中枢餡は処理能力の限界を超え、機能停止へと追い込まれる。
その威力はこの夏の畑番で証明済みだ。
『ええ。それを使えば、れいぱーに触れることなく中枢餡だけを機能停止させられるはずよ……ただ』
「ただ?」
『れいぱーは大量に大量の体液を分泌しているから、少量だと流されてしまうかも……しっかり狙って、無駄撃ちは控えてね』
「判った。じゃあ、れいぱーを見つけたらメール入れるよ」
『了解……待っているわ』
携帯を切る。
顔をあげると、空に浮かぶかなこさんと目が合った。
「それがえーりんの用意した銃か? かなり強力なものだと聞いているが」
「うん。畑番で何度か使ったけど凄いよ。一発で動かなくなって、潰れないし餡も吐かないから後片付けも簡単だしね」
「それは重畳。れいぱーを潰すと地面に残った餡でゆっくりが孕む事もあるからな」
「れいぱーってパないよね」
「だからこそ、野生の群れが崩壊する原因のひとつにれいぱーの襲撃があるのだ……さあ行こう、弟殿」
「了解」
かなこさんに先導され、歩きだす。
山の中は日の光が遮られて薄暗く、蒸し暑い。
蝉の声が煩いくらいに響いていて、いつもなら頻繁に聞こえてくるゆっくりの間延びした声もかき消されていた。
「暑いな……」
「今年は特にな。弟殿、こちらだ」
「あいあい」
山の斜面を登り、わずかに踏み分けられた山道を進む。
ぉぉぉ……。
「ん?」
そうして進んでいると、蝉の声に混じって微かにゆっくりの声が聞こえてきた。
ほおおぉぉ……!
「かなこさん」
「ああ、居たな」
んほおおおおおおおぉぉ!
やめちぇええええぇぇ!!
だんだんと、声がはっきり聞こえるようになってくる。
どうやら複数のれいぱーありすに、野生ゆっくりが襲われているらしい。
悲鳴の方はそれほど聞こえないから、群れじゃなく家族単位で住んでいる連中だろうか。
慎重に声のする方に歩を進め、木の影に隠れながら覗き込むを。
……そこは、れいぱーの饗宴の真っ最中だった。
「んほおおおおおおおおぉぉ!! おちびちゃんまりさのまむまむはすっごくしまるわああぁ! とってもとかいはねええぇぇ!!」
「やめちぇええええぇ!! まりちゃのばーじんしゃんぎゃああああぁ!! おかーしゃん、おにぇーしゃん、たしゅけてえぇ!!」
「んほおおおぉ! そんなこといって、まむまむはありすのとかいはなあいをうけいれてるわよおおぉ!! つんでれさんねえぇぇ!!」
「やめるのぜぇ……みんなのあいどるすえっこまりちゃをはなすのぜええぇ……ゆぐっ、ゆがああああぁ!!」
「やっぱりおとなのまりさはいいわぁ! とってもとかいはよぉ!」
「まむまむもいいけどあにゃるもいいわあぁ! んほおおおおぉ!」
「やめてね! れいむのまむまむれいっぷっぷしないでね! あかちゃんできちゃうよ! すっきりしちゃうよ!」
「れいむのまむまむもいいわああぁ!! なかなかとかいはよおおぉ!!」
「ゆ……ぎゅ……まりしゃもっちょ、ゆっきゅり……しちゃかった……」
「んほおおおおおぉ!! とかいはなあいをうけとめられないなんて、まりしゃはいなかものねえぇ! いなかものはむーしゃむーしゃするわよおぉ!!」
「やめてね! れいむのおちびちゃんたべないでね! ゆっ、ゆゆっ、ゆんやー! す、すっきりー!!」
「んほおおおおおぉぉ! すっきりいいいいぃぃ!!」
数十匹のれいぱーありすが、まりさとれいむの家族に群がっている。
見たところ、親れいむと親まりさ、子れいむと子まりさが2匹ずつ、赤ゆがれいむとまりさ各3匹というそれなりの大所帯なようだ。
そのせいで一匹あたりに取り付いているれいぱーの数が減り、結果的にれいぷの苦しみを長く味わう事になっているみたいだが。
「これはひどい」
思わず呟く。
最大限に控えめな表現で、精神的ブラクラ。
それでいて一部HENTAIな方々には垂涎の光景がそこに繰り広げられていた。
「……かなこさん、こいつらで全部かな?」
「判らん。いずれにせよれいぱーは潰すだけだ」
「まりさとれいむは?」
「奴らもこの山のゆっくり、助けられるものなら助けてやりたいが……」
「了解。それなら何とかしましょ」
「弟殿……出来るのか?」
「俺ひとりだけじゃ無理だけどね。でも……」
ポケットを探り、携帯からメールを送る。
そして、待つこと十数秒。
「弟ちゃん、やっほー」
「こぼね~」
俺の側にスキマが開き、ゆかりん姉ちゃんとゆゆ先生が顔を出した。
「四人寄れば文殊も越える、ってね……ゆゆ先生、俺がれいぱー何匹か壊すから、そいつら操って他のれいぱーをれいむとまりさから出来るだけ離して」
「わかったわ~」
「ゆかりん姉ちゃんはそうやって引き離したれいぱーをスキマ送りに」
「任せなさい。お姉ちゃんがゆっかり加工場に送ってあげる」
「……加工場?」
なんでそんなところに。
いやまあ、ゆかりん姉ちゃんのスキマは見知った場所や馴染み深い相手の側なら見えてなくても開けるの知ってるけどさ。
だからこうして、俺の側に来てもらえているんだし。
「自然発生のれいぱーって加工場としては欲しい素材ゆっくりだから、出来れば何匹か捕まえてって母さんがメール寄越したのよ」
「カーチャン……」
息子と娘がそれなりに危険冒して頑張ってるのにひどいや。
「……まあいいか。で、スキマから逃れた連中にはかなこさんのオンバシラをお願い」
「任せろ弟殿、れいぱー共は過たず潰してやる」
近くの枝に腰を下ろし、かなこさんが頷く。
さて、それじゃ行きますか。
ウォーターガンのポンプを動かし、空気圧を高める。
「じゃあ、いくよ……照準」
十分に空気圧が高まったところで構え、狙う。
まあ、所詮玩具のウォーターガン、そこまで正確な照準は望めないけど気は心。
出来るだけまりさとれいむ一家を避けるように狙いを定め、俺は引き金を引いた。
「発射……!」
噴射口から勢いよく甘辛液が噴き出す。
「ぼ、ぼうやべでねええぇ! ばりざずっぎりじだぐないよおおおぉ……!!」
「んほっ、んほおおおおおおぉ!! まりさはほんとうにつんでれさんねえ! からだはいやがっててもくちはしょうじきだわああぁ!!」
「それ普通に嫌がってんじゃん」
噴射を続けながら思わず突っ込む。
その間も甘辛液は迸り、途中で飛沫となりながらも、一番外側にいたれいぱー達数匹のの饅頭皮に降り注いだ。
「んほ!? あめさんかしら?」
「んほおおおおぉ! あめさんのなかのすっきりー! もとかいはねええぇ……ゆぴっ!? ゆび、ゆびいいいいいいいっ!?」
「んほっ!? ど、どうしたのありす!? そんなこえはとかいはじゃない……ゆびいいいぃ!!」
「んほっ、んほおおおぉ! あ、あんまああああぁぁがらああああああああああぁ!! ゆびびっ!!」
奇声をあげ、れいぱー達が動きを止める。
それでもペにペにはでかくなったままなのがキモイ。
「よし、と……それじゃゆゆ先生、お願いします」
「こっぼね~。任せて~」
くるくる指を回しながら、ゆゆ先生が動きを止めたれいぱー達を見つめる。
「んほおおおぉ! なにやってるのおおぉ!? ありすのとかいはなあいのじゃまをするならどいてねえええぇ!!」
「んほおおおおおおおお!!」
「んほっ!? なんでありすのじゃまするのおおおおおぉ!?」
やがて、中枢餡が壊れたありす達が、れいむとまりさ一家かられいぱー達を引き剥がすように動きはじめた。
「んほー」
「んほほー」
間延びした声をあげながら、あるありすはれいぱーに体当たりし、別のありすはペにペにをれいぱーに突き刺していく。
それも、ありすがぺにぺにですっきりー! しようとするタイミングを見計らい、すっきりを邪魔するように。
「んほおおおおおぉ、やべてねええええぇ!? ありすのまむまむですっきりー! するなんてとかいはじゃないわああぁ!!」
「んほー」
「んほおおおおおおおおお! なにをするのぉ!! ありすのとかいはなあいをじゃまするなんてとんだいなかものねええぇ!!」
「んほほー」
「ありすのとかいはなあいをじゃまするゲスはしねええええぇ!!」
「んっほほー」
れいぷを邪魔されて怒ったのか、れいぱー達は中枢餡破壊ありす達に攻撃を始めた。
「んほおおおおおぉ!! ありすのとかいはなあいをありすにもわけてあげるわああ!」
「んほー」
「とかいはなあいをうけとってしぬのよおおおおぉ! んほおおぉ!!」
「んっほー」
「んほおおおおおおおおぉ!! もうこのさいありすのまむまむでもいいわあああぁ!!」
「んーほー」
中枢餡を破壊されて感覚もなにもないありす達は、れいぱーの攻撃を受けながらも適度に反撃し、れいむとまりさ一家から離していく。
「そろそろね。行くわよ、かなこ」
「承知! いけっ、オンバシラ!」
ゆかりん姉ちゃんの声に合わせ、かなこさんの背に浮いていたオンバシラがれいぱー達に向かって飛んでいく。
そのれいぱー達は、自分達の『とかいはなあい』を邪魔するありす達への制裁に夢中だ。
れいぱーって身体能力は捕食種並みになるって話だけど、そのぶん頭は悪くなってるんだろうか?
まあ、基本「んほおおおぉ!」しか喋らないんだからアレなのは確かだけど。
「ゆっかり加工場にいってらっしゃい!」
れいぱー達の足元にスキマが開く。
中枢餡破壊ありすや、れいむまりさ一家を避けるように開いているせいか、普段と比べてスキマ送りにされる数は少ない。
「んほおおおおおおおおぉぉぉ!? おそらをとんでるみたいいいいいいぃ!!」
「おちるっ、おちちゃうのねえええぇ!? おそらとんでるのおおおぉ! んほおおおおおおぉ!!」
「とかいはなあいをこのスキマにあげるわあああぁ!! んほっ、おそらにだしてるみたいいいぃ!!」
それでも何匹ものれいぱーがスキマに送られていく。
あるれいぱーはんほおおぉと叫び。
あるれいぱーはおそらをとんでるみたい! と笑顔を浮かべ。
あるれいぱーは落ちながらすっきりー! する。
「って私のスキマをなんだと思ってるのよあのれいぱー!?」
「私が潰してやろうか?」
「お願いするわ」
「判った。オンバシラ!」
そして、それ以外のれいぱー達はかなこさんのオンバシラによって容赦なく潰されていった。
「んぼおおおぉっ!?」
「どぎゃいばっ!!」
「おそらにすっきりいいぃぶべぢゃ!!」
「んほおおおおぉ! ありすはもっととかいはなあいをつたえべべっ!!」
スキマに落ちながらすっきりー! していたれいぱーを空中で貫き潰す。
中枢餡破壊ありすにのしかかっていたれいぱーを叩き潰す。
スキマから逃れたれいぱーを押し潰す。
潰す、潰す、とにかく潰していく。
ゆっくりにとって圧倒的な質量を持つオンバシラは、れいぱーを永遠にゆっくりさせる死神となって周囲を蹂躙していった。
「んっ、んほおおおおおぉ!! なんでありすのとかいはなあいがつうじないのおおおぉ……ぶべぎゃ!!」
最後のれいぱーがオンバシラに潰され、カスタードの花を咲かせる。
それを確かめ、俺は立ち上がった。
「かなこさん達はそこで待機してて」
「判ったわ~」
「いってらっしゃい、弟ちゃん」
「うーん……出来るだけカスタードが飛び散らないよう潰したら、オンバシラがドロドロになってしまったか」
「あとで私の操るありすちゃん達に綺麗にさせましょうか~?」
「すまん、助かる」
背中でかなこさん達の声を聞きながら、れいむとまりさ一家に駆け寄る。
「ゆ、ゆぐぐ……ゆべええ……」
「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ……」
「もっちょ…ゆっきゅり……ちちゃかっちゃ……」
「さすがに酷いもんだな」
れいむとまりさは親子赤問わず、強制すっきりーにより疲弊していた。
赤ゆや子ゆにはれいぱーにのしかかられて潰れているのもいるし、茎も複数生えている。
実ゆに餡子を吸われて死ぬのも時間の問題だろう。
親まりさと親れいむ、それに子ゆっくりと赤ゆっくりの何匹かは植物妊娠だけですんでいるのが不幸中の幸いか。
こいつらは、今すぐ茎を千切ってオレンジジュースをかけてやれば助かる見込みもあるだろう。
そう思い、手近にいた親まりさの茎を掴むと、親まりさはうっすらと目を開けた。
「ゆぐうぅ……に、にんげんさん……おねがいなのぜ……まりさよりも……れいむを、おちびちゃんをたすけてほしいのぜ……」
「ああ、出来るだけのことはしてやる。とりあえず茎は抜くぞ? でなきゃ死ぬからな」
「……わかったのぜ……ごめんなのぜ、おちびちゃん……」
再び目を閉じ、まりさは俺に身を委ねる。
流石というか……かなこさんが管理している山だけあって、ゆっくりの質はなかなかだな。
自分もすっきりーされてるのに、番や子供を優先するとは。
ま、それなら本当に出来るだけのことはしてやろう。
「よ、っと」
「ゆぎっ……」
親まりさの額から茎を引き千切る。
実ゆが小さく声をあげ……餡子供給が絶たれて、みるみる黒ずんでいく。
それをその辺に放り投げ、俺はリュックからペットボトルを取りだした。
中身はえーりん姉さん特製の加糖調整オレンジジュース。
「ほら、元気になれよ」
親まりさにオレンジジュースをふりかけ、同じように親れいむ、子れいむ、子まりさ、赤ゆ達と処置をしていく。
……一応、胎生妊娠してるやつも茎抜いてオレンジジュースかけるくらいはしてやるか。
万が一助かる可能性はあるんだし。
「ゆ、ゆゆぅ……」
オレンジジュースのお陰か、次第に安らかな顔になっていくまりさ一家。
赤ゆも、胎生妊娠していなかった一匹は黒ずみかけていた皮が元の色を取り戻してきている。
それを確かめ、俺は親まりさ達の身体をペーパータオルで簡単に拭き取って、まだ息のある一家を抱え上げた。
「ここにいると、最悪移動しようと跳ねただけで妊娠しかねんからな……」
潰れたれいぱーのカスタードが四散している現場から、親まりさ達を連れ出す。
「ゆっ、ゆぢっ……ゆっゆっゆっ……」
微かな呻きが聞こえたので見下ろすと、そこには千切った茎についていた実ゆ達が、額から細い茎を生やして黒ずんでいる。
よく見ると、茎を放り投げた地面にはカスタードが飛び散っていた。
それが実ゆに触れて、強制妊娠させているらしい。
カスタード溜まりに浮かび、にょきにょきと細い茎を生やしては苦悶の表情で黒ずんでいく実ゆ達は、控えめに言ってキモかった。
「実ゆまで孕ませるのかよ……もう何でもありだな、れいぱー」
呟いて、慎重に現場から抜け出す。
俺は精子餡をどれだけ浴びても平気だが、うっかり精子餡身体に付けて、うっかり姉ちゃん達に触れでもしたら大変だ。
胴付きだからそうそう妊娠はしないと判ってはいるけれど、万が一にでも俺の姉ちゃんや先生やかなこさんをれいぱーなんぞの精子餡で妊娠させる訳にはいかない。
それどんな寝取られだよって感じだし。
「連れてきたよ、かなこさん。流石に全部助けるのは無理だったけど……」
慎重に戻り、抱えてきたまりさ達を地面に並べる。
親まりさ、親れいむ、子れいむ、子まりさ、赤まりさの総勢五匹。
……つまり、この一家はおちびちゃんの半分以上が永遠にゆっくりしたことになる。
「いや、十分だ……ありがとう、弟殿」
それでも俺に頭を下げ、かなこさんはまりさ達の前に降り立った。
「まりさ、私が判るか?」
「ゆゆぅ……わかるのぜ、『やまもり』のかなこさまなのぜ……。まりさたちを、たすけてくれたのかぜ……?」
「ああ。残念ながら、おちびちゃんは全部助けられなかったがな……」
「ゆぅ……しかたないよ……れいぱーにおそわれて、おちびちゃんがぜんっめつ、しなかっただけでもしあわせー、だよ……」
かなこさんの言葉に、れいむがうつむきながらも殊勝なことを言った。
うーん、この山のゆっくりって出来てるなあ。
それに引き替え……うちの裏山に住みつくゆっくりは、なんでああもゲス率が高いんだろ……。
「『やまもり』のかなこさま……まりさたちをたすけてくれて、ありがとうなんだぜ……」
「れいむからもおれいをいうよ……『やまもり』さまがきてくれなかったら……れいむたちみんな、えいえんにゆっくりしちゃってたよ……」
「ゆぅ……まりしゃのいもうちょが……ゆぐっ……」
「れいみゅのおねーしゃんが……」
「ゆっくち……まりちゃ、れいぴゃーきょわいきょわいぢゃよ……」
丁寧に、かなこさんに向かってお礼の言葉とともにお辞儀する親れいむと親まりさ。
さすがに子供達はお礼を言う余裕はないみたいだが、変な言いがかりを付けて助けた俺達を罵倒するようなゲスではないようだ。
……かなこさんの山は教育できてるなあ。
本当、なんで毎回駆除して新しい群れが入ってるはずなのに、うちの裏山はデフォでゲスの巣窟になるんだろう……。
「なに、私は『山守』としてお前達の危機を見過ごせなかっただけだ……ところで、ひとつ聞きたいことがあるのだが」
「ゆ? なんなのかぜ? まりさがしってることなら、なんでもはなすのぜ」
「れいむもだよ……なんでもきいていいよ、かなこさま……」
「まりしゃもなのぜ……」「れいみゅも……」「ゆっ、まりちゃも……」
殊勝な態度のまりさ達に、かなこさんが優しく微笑む。
「なに、難しいことではない……お前達が見たれいぱーは、ここにいたので全部か?」
「ゆっ……ゆーん……」
まりさが記憶を辿るように考え込む。
といっても、思い出すのは難しいだろう。
ゆっくりは記憶を保存する為に餡子を使っている。
しかし、まりさ達はれいぱーの強制すっきりーによる妊娠で餡子を消耗している。
今まりさの体内にあるのは俺が与えたオレンジジュースによって再生した新しい餡子だ。
数時間前とはいえ、記憶を呼び起こすのは難しいというかほぼ不可能だろう。
そう思っていると。
「……ぜんぶじゃないよ……なんにんかのれいぱーが、れいむたちをむしして……もりさんのおくにいっちゃったよ……」
れいむが記憶を辿るように、ぼそぼそと答えた。
記憶力いいなこいつ。
「そうか。どちらの方向だ?」
「あっちだよ……ゆっくりできないれいぱーもいっしょだったよ……」
「……ゆっくりできないれいぱー?」
「ゆゆっ……そうだよ。ペにペにがたくさんっはえてて……ゆっくりできなかったよ……」
れいむの答えに、俺と姉ちゃん達は顔を見合わせた。
「……それって」
「たぶん、テンタクルありすね」
「れいぱーだから~……テンタクルれいぱーありす?」
「寿限無かよ」
テンタクルありす。
ゆっくりありすの変異種で、あんよから触手状のペにペにが複数生えているのが特徴だ。
普通はゆっくり出来ないゆっくりとして排斥されるのだが、れいぱーの場合のみリーダー的な存在として祭り上げられることがある。
れいぱーには、ぺにぺにが複数生えているのが『とってもとかいは』と認識されるらしい。
実際、れいぱー化したテンタクルありすは一匹で同時に何匹ものゆっくりを強制すっきりーする厄介なゆっくりになる。
それが、れいぱーから見れば『ゆっくり出来る』ってことになるんだろう。
「まずいな。テンタクルありすがいるとなると、被害はそちらの方が上かも知れん」
腕を組み、かなこさんが険しい表情を浮かべる。
「かなこさん、そいつが向かった先には……?」
「群れと言うほどではないが、家族の巣が数世帯集まった集落がある……急ぐ必要があるな」
「だね」
頷いて、俺は立ち上がった。
「行こう、かなこさん。ゆかりん姉ちゃんとゆゆ先生は俺が連絡するまで家で待機してて」
「そうするわ。山を歩くのは疲れるし」
「こぼね~……弟様、気をつけてね~」
ゆかりん姉ちゃんとゆゆ先生がスキマに消える。
「ああ。急ごう、弟殿」
かなこさんがふわりと宙に浮く。
その瞬間。
どごおおおおおおおおおおおぉぉん!!
んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
地面が揺れ、木々の倒れる音と……野太い叫びが山に響いた。
「っ! なんだぁ!?」
慌てて声のした方に駆ける。
獣道を走り、かなこさんの手を借りて斜面を登る。
……すると、すぐに『それ』は見えてきた。
木々の切れ間に出来た、小さな広場。
周りには樹齢の高い樹が並び、大きなうろやゆっくりの巣穴らしきものがそこかしこに見えている。
恐らくここが、かなこさんの言っていた集落なのだろう。
だが、そこに動いているゆっくりはいなかった。
あるのは無数の餡子とカスタードの染みと、額から茎を生やして黒ずんだ、元はゆっくりだったもの。
そして。
広場の中央に陣取り、周囲に触手を伸ばして暴れている……体高3メートルはある巨大なテンタクルありすの姿だった。
「んほおおおおおおぉぉ!! ありすはクィーンになったのねええええぇぇ!! とってもとかいはだわあああああぁぁ!!!!」
「自己申告かよ!?」
思わず突っ込む。
いやそんな場合じゃないのは判ってるんだが!
「クィーンに進化したか……ますます厄介だな」
「いやもうこれ厄介とかそう言う問題じゃないよかなこさん」
とりあえずメールを送る。
これはもう電話で説明するより、ゆかりん姉ちゃん達に来て貰った方が早い。
「どうしたの弟ちゃん……うわぁ……」
すぐにスキマが開き、顔を出したゆかりん姉ちゃんがクィーンを見て顔をしかめた。
「クィーンテンタクルれいぱーありす……よりによってこのタイミングで進化するとはねぇ」
「こぼね……本格的に寿限無ですね~」
「南無三っ!? 寿限無というより怪獣ですよあれはっ」
「……これはまた、厄介なことになってるわね」
ゆゆ先生達も顔を覗かせ、息を呑む。
「まあ……自分の仲間も含めて全員すっきり死させてるみたいだから、余計な気を遣わなくていいのがせめてもだな」
とりあえず動きを止めよう。
そう思ってウォーターガンを構える俺を、えーりん姉さんが制した。
「駄目よ弟君。クィーンの体液量は普通のれいぱーとは比べものにならないから、その銃じゃ体液に流されて皮まで届かないわ」
「こちらの存在を教えるだけよ~?」
「通常サイズでさえ、テンタクルありすの触手は1メートル近く伸びる……クィーンとなればその十倍はいくぞ」
「精子餡に濡れたオンバシラ級の触手ですか……喰らえば、私達でもただじゃ済みませんね……南無三っ」
「肉体的にも、すっきり的にもね……お姉ちゃん寝取られちゃうわよ?」
「姉ちゃんそれ用法間違ってるから……しかし、それじゃどうするんだよ?」
ウォーターガンを下ろし、ぼやく。
「私のオンバシラを直撃させられれば、致命傷を与えることも出来るだろうが……」
「その為には触手が邪魔ね」
「だな。力比べでは分が悪い。オンバシラを捕まえられてはそれこそ手も足も……」
「南無三っ、クィーンが動きだしましたよっ?」
ひじり姉の声に、全員の視線が集中する。
「んほおおおおぉぉ!! クィーンになったありすには、もっともっととかいはなあいをあたえる『しめい』があるのよおおおぉ!!」
周りを探るように、クィーンの触手がうねうね動く。
やがて、それはぴたりとこちらを向いて、止まった。
「んほおおおおおぉ!! そこにゆっくりがいるわねええぇ!!」
「気付かれたか……! みんな、逃げて!!」
ウォーターガンを構え、立ち上がる。
「判ったわ……って、弟ちゃんはどうするのよっ!?」
「なんとか逃げるよ!」
「何とかって、相手はクィーンですよっ!?」
「あの触手を喰らったら、弟様でもただでは済まないわよ~!?」
「それでも妊娠しないだけマシだろっ! 俺が囮になるから、みんなはスキマで逃げて! そして加工場に連絡を!」
ゆかりん姉ちゃんのスキマは無生物とゆっくりだけを通し、一瞬で移動できる。
相手がクィーンだから準備は必要だろうが、加工場に連絡すれば今日明日には山狩りが行われるだろう。
あとは俺が何とか逃げ切れれば、それで万事問題なしだ。
「無茶言わないで下さい! クィーンと追いかけっこなんて、弟さんの体力が保つ筈ないでしょうっ!?」
「それでも! 姉ちゃん達が囮になるよりはマシだろ!」
「んほおおおおおおぉ!! どうつきなんてゆっくりしてないわねええぇ!! でもあんしんしてねええぇ!!」
「来るわよっ……!!」
触手を蠢かせ、地響きを立てながらクィーンがこちらに進んでくる。
体表を流れる粘液のせいか、這い進んでいる割にクィーンの動きはスムーズで、しかも速い。
というか、俺が走るのとほとんど変わらない……!?
「ありすはクィーンだからああぁぁ! ゆっくりしてないどうつきにも、とかいはなあいをあげるわあああぁぁ!! んほおおおおおおおおおおお!!」
「くそっ! 来るんじゃねえよこのれいぱー!!」
ウォーターガンを発射する。
「んほおおおぉ!? なんだかゆっくりできないわねえええ?」
だけどそれをあっさり触手で防ぎ、クィーンはどんどん迫ってきた。
「姉ちゃん、先生! 逃げて、はやく!!」
「わっ、判ったわっ……気をつけて、弟ちゃん!」
甘辛液をものともせず、クィーンれいぱーの触手が伸びる。
ゆかりん姉ちゃんがスキマを閉じる。
ウォーターガンを発射しながら、俺は後ろに下がり――。
「っ!?」
木の根に足を取られ、体勢を崩した。
「んほおおおおおおぉ!! にんげんはゆっくりできないわあああぁ!!」
触手が、酷くゆっくりとした動きで目前に迫る。
その太さはまるで、かなこさんのオンバシラのよう。
あー……これ直撃したら打撲どころか粉砕骨折コースだなぁ。
囮になるとか逃げるとか言ってたのに、初手からつまずくとか俺めっちゃ格好悪いよなあ……。
ごめんよ、姉ちゃん……。
「つかまれ、弟殿っ!!」
不意に。
目の前に、腕が伸びてきた。
「くうっ……!」
反射的にそれを掴む。
足が地面から浮き、自重に掴んだ腕が悲鳴をあげる。
それでも腕にしがみつき、身を委ねる。
「んほおおおおおおぉぉ!!」
一瞬後、俺のいた地面をクィーンの触手がえぐった。
地面が震え、木々が揺れる。
その擦れ合う枝の間をすり抜け――俺は空を飛んでいた。
「大丈夫か弟殿、怪我はないか!?」
俺の身体に腕を回され……背中から、かなこさんの声が聞こえてくる。
「大丈夫、ありがとうかなこさん――でもなんで逃げてないんだよっ!?」
その腕に手を重ね、俺は思わず叫んでいた。
クィーン、それもれいぱーでテンタクルなんて第一種危険ゆっくりの中でもトップクラスの『害獣』だ。
ゆっくりを蹂躙し、人間にすら危害を加え、環境を破壊する天災。
そんなゆっくりと対峙して、かなこさんを危険な目に遭わせたくなかったのに……。
「弟殿に駆除を頼んだ私が、先に逃げるなど出来るものか」
かなこさんの腕に力がこもり、俺をぎゅっと抱きしめる。
「それに私は『山守』だ。この山を守り慈しむのが、主殿より与えられた私の使命で――」
背中に感じる柔らかなぬくもり。
かなこさんの身体は熱をもち、燃えているように熱い。
その熱い吐息が、耳をくすぐり……。
「――弟殿と交わした、『約束』だからな」
かなこさんの囁きに、俺の心臓が、跳ねた。
「かなこさん……」
「とはいえ、このままでは埒があかん。一度引いて応援を待とう。えーりん達が加工場に連絡しているだろうから、じきに――」
「それじゃ駄目だ」
「……弟殿?」
「それじゃ駄目だよ、かなこさん……ほら、クィーンの奴は木々を薙ぎ倒して進んでる」
足元を見下ろし、告げる。
「んほおおおおおぉ! じゃまなきさんはたべてあげるわあぁ!! ぼりっ! ぼりっ!! むーしゃ! むーしゃ!!」
「これじゃゆっくりだけじゃなく、他の生き物……山そのものが荒れる。一秒でも早く、あいつを倒さないと」
「……だが、どうする? 樫の木をもへし折る触手相手では、私のオンバシラも牽制にしか使えんぞ」
「それはそうなんだけどさ……」
精子餡を飛ばしながら、山を蹂躙していくクィーンテンタクルれいぱーありす。
その触手はあんよのように蠢いて、進行上の木々をへし折り、なぎ払い、自分の口へと運んでいる。
「……まてよ?」
あんよのように動いている触手。
長さで言えば触手も十分届きはするだろうが、それでも頭上は死角の筈。
かなこさんの能力と、俺の装備があれば……。
「どうした、弟殿?」
「……かなこさん」
訝しげに尋ねるかなこさんに、俺は唇を吊り上げて答えた。
「俺、クィーン倒す方法思いついちゃった」
眼下を這い進むクィーンを見下ろしながら、かなこさんに作戦を説明する。
「それは……弟殿が危険すぎはしないか?」
俺の話を聞いて、かなこさんは不安げに声をあげる。
まあ、それは仕方ないよな。作戦の内容が内容だし。
「でも、これならクィーンも倒せるだろ?」
「確かに倒せるだろうが……しかし、弟殿にもしもの事があったら、私は……」
「大丈夫……とは断言できないけど、何とかするさ! だから……」
俺を抱きしめる腕を優しく撫で、強く握る。
「俺を信じてよ、かなこ姉様」
「っ!? 弟殿……っ!」
かなこ……姉様が、俺をぎゅっと抱きしめてくる。
「判った! 私も覚悟を決めよう……弟殿、仕損じるなよ!」
「大丈夫、まーかせて!」
俺の軽口に、背中でかなこ姉様が笑う。
笑いながら旋回し、クィーンの背後につけ……そのまま上昇する。
クィーンの姿がだんだん小さくなり、頬を撫でる風が微かに冷たくなる。
「行くぞ、弟殿!」
「行って、かなこ姉様!」
一瞬、お互いの手を重ね。
俺達は一気に降下した。
地面が近づき、クィーンの姿が大きくなっていく。
その背中に向かって、俺は怒鳴りつけた。
「クィーンありすううううううぅっっ!!!!」
「んほっ!?」
ありすが動きを止め、振り返ろうとする。
その瞬間。
「ゆっくりっ……!!」
俺はかなこ姉様の手を離れ、クィーンめがけて落下した。
「していってねええええええええええぇぇっっ!!」
「んほおっ!? ゆ、ゆっくりしていってねええええええぇぇっ!?」
俺の挨拶に応えながら、それでも触手は俺を敵と認識したのか、迎撃すべく伸びてくる。
「いけっ、オンバシラっ!!」
それを、かなこ姉様のオンバシラが迎え撃った。
触手とオンバシラがぶつかり、互いに弾かれる。
「必殺っ……!」
そして生じた空間を俺は落下し――。
「弟キイイイイイイイイイィィィック!!!!」
「んほおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!?」
クィーンの頭頂に、トレッキングシューズの底を叩きつけた。
落下の勢いと俺の体重に頭皮が裂け、両脚が生暖かいカスタードに包まれる。
「あがああああああぁぁ!! いだい、いだいわああああぁ!! ごんなのどがいばじゃないいいいいいいいぃ!!!!」
「あーんど……」
苦痛にクィーンの身体が震え、俺を振り払おうと触手が伸びる。
だが、それより早く。
俺はウォーターガンから取り外しておいたボトルをクィーンのカスタードの中に突っ込み……握り潰した。
「ブレイクウウウウウゥ!!」
「んぎょおおおおおおおおおおおぉぉっ!!!!」
えーりん姉さん特製の甘辛液がカスタードの中で炸裂する。
「あばっ、あばあああああああああぁぁ!! がらっ、がらああああああぁぁ!? あばがらあああああああああぁぁ……ゆびびびっ!!!!」
カスタードで直接味わう超絶な甘味と辛味に、クィーンの身体がビクビクと震え……。
ひときわ大きな叫びをあげると、クィーンは動きを止めた。
「うわっ!?」
断末魔の叫びにカスタードが収縮し、俺の身体を吐き出す。
そのまま受け身をとる間もなく、俺は地面まで滑り落ちた。
「ぶべっ!」
顔からイッて地面にキスをする。
うぅ……クィーンの通った痕で粘液なかったら鼻イッてたかも……。
一瞬だけクィーンに感謝しつつ、仰向けに転がる。
「ゆびっ、ゆび、ゆびびび……」
クィーンはまだ呻いていた。
しかし、触手がだらりと下がり、瞳は焦点を失って、ぽかんと開かれた唇からは舌と涎が垂れている。
「なんとか……なった、かな?」
クィーンを見上げ、呟く。
あとはゆゆ先生に来てもらって、こいつを安全に処理できるところまでもっていけばいいだろう。
「まったく……お前も運がなかったな。他の山なら、もう少しくらいは長く生きていられたかも知れないが……」
身体のあちこちが痛い。
特に足と肩はズキズキと脈打っている。
カスタードがクッションになったとはいえ、十数メートル上空からのダイビングを敢行したんだから当然だ。
最悪、ヒビくらいは入っているかも知れない。
「生憎、ここはかなこ姉様が……俺の命の恩人である『山守』が守護しているんだ。お前達れいぱーが好きに出来る場所じゃないんだよ」
それでも、俺はいい気分だった。
かなこ姉様と一緒に、クィーンを駆除できたから。
この山を守る事が出来たから。
思わず、厨二病満載のセリフを呟いてしまうくらいに……良い気分だった。
「弟殿~~っ!!」
空からかなこ姉様が降りてくる。
起きたら姉さん達に連絡を取らなきゃな。
ああそうだ、その時にはかなこさんを『姉様』と呼ばないよう気をつけなくちゃ。
俺はまだ、約束を果たしていないんだから。
「大丈夫か、傷はないかっ!? よくやったぞ、弟殿っ!!」
かなこさんが笑顔で降りてくる。
俺に抱きつかんばかりの勢いで。
そんな、ここの山守ゆっくりである姉様を見上げ――。
「かなこさん抱きついちゃ駄目~っ! いま俺れいぱーのカスタードまみれだから! 妊娠しちゃうからっ!!」
俺は全力で、かなこさんを避けたのだった。
・おまけ
「はぁ……弟君、なんでそう無茶をするの?」
「まったく、弟ちゃんは仕方ないわよね~」
「本当ですっ。弟さんだけの身体ではないのですよっ!?」
「こぼね~……本当よ、弟様。先生すごく心配したんだから」
「うぅ、ごめんなさい……」
「まあまあ、弟殿も反省しているのだから許してやってくれ。それに今は、治療の方が先だろう?」
「……そうね。では弟君、患部に薬を塗るからじっとしてて」
「はい……でもえーりん姉さん、なんでみんな裸なの? そしてなんで俺、かなこさんに抱きしめられてるの?」
「動かないようによ……じゃあ、いくわよ……ん、ぺろっ」
「ちょ、ちょちょちょっと待ってえーりん姉さんっ!? なんで舐めるの!? ぺーろぺーろなの!?」
「んっ……私が『薬物を分泌できる程度の能力』をもつ第二種危険ゆっくりだって事は知ってるでしょ?」
「いや知ってるけど! 問題はそこじゃないでしょおおおおぉ!?」
「私達はゆっくりなんだから、同じ分泌塗布するにしても、こうした方が高い効果を出せるのよ……ん、てろぉ」
「待って姉さん! それゆっくり相手の話だよね? 人間の俺には関係ないよねっ!? あっ駄目、そこはマジで駄目っ!」
「ほらほら暴れるな弟殿、大人しくしていないとえーりんが薬を塗れないだろう?」
「画的には全然薬塗ってるように見えないでしょおおおおおおおぉ!?」
「ん……ほら、暴れないの。もう終わるから……ちゅぷ……」
「ううぅ……お、終わったの……?」
「ええ弟ちゃん、薬を塗るのは終わったよ~。あとはぁ……」
「私達が馬肉ならぬゆっくり湿布になって、ぎゅーっとしてあげますねっ、南無三っ」
「患部にゆっくりを当てるゆっくり湿布は、ちゃんと医学的にも効果があるって証明されているのよ~?」
「さあ弟殿、私達で包んでやるぞっ」
「みんな裸だったのはその為かあああああああああぁぁぁ!!!!」
ああ、いや。
これは治療だからね?
何もなかったからね?
なんかもう最後の一線越えてるんじゃねとか、そんなことないから。
最後の一線は越えてないから。
……それ以外全部越えてるだろとか言うな。
過去作品
anko2043 夏のゆっくりお姉さん
anko2057 夏のゆっくり先生
anko2151 夏のゆっくり山守さん(前編)
感想、挿絵ありがとうございます。感謝です。
・駄文長文詰め込みすぎ注意。
・愛で&希少種優遇&独自設定だらけ。
・希少種は胴付きでかつ能力がチートです。厨二です。あたま悪いです。
・そしてガチのHENTAIです。
・後編では人間が肉体的に痛い目をみます。
・それでも構わないという方はゆっくりどうぞ。
***
「れいぱーありすの駆除?」
リビングに戻った俺は、えーりん姉さんの淹れてくれたコーヒーを啜り、改めてかなこさんに尋ねた。
「そうだ。ここのところ、主殿が管理しているお山のゆっくりが、れいぱーありすに襲われるという被害が相次いでいる」
氷の浮いたオレンジジュースを口に運びながら、かなこ様が頷く。
「それも、どうやら奴らはそれなりの数がいるようでな。私が管理している群れのひとつが半壊させられてしまった」
「それは、かなこの管理不足……と言いたいところだけど、れいぱーはどうしようもないわねえ」
オレンジフロートのアイスをストローで突きつつ、ゆかりん姉ちゃんが唸った。
れいぱーありす。
ゆっくりありす種が異常発情することで生まれる変異種であり、第三種危険ゆっくりに指定されている。
その特徴は捕食種とすら対等に渡り合える身体能力と、自分の中身を全て出し尽くすまで止まらない異常な性欲。
一度れいぱー化したありすは近くにいるゆっくりを見境なくレイプし続け、すっきり死させてしまう。
そして最終的には自分自身の中身も全て吐き出し尽くし、命を落とすのだ。
大量のすっきり死したゆっくりと、そこから生き延びて生まれ落ちた、れいぱー因子を強く受け継ぐ赤ありすを残して。
「かなこさんが管理していた群れのありすがれいぱー化したのですか?」
ゆゆ先生特製の赤ゆ饅頭をかじり、ひじり姉が尋ねた。
「いや。群れにありす種はいたが、れいぱーへの恐怖で強制れいぱー化した個体が出ていた程度だ」
「こぼね……という事は……」
「ああ。れいぱー共は、山の外からやって来たヨソ者の可能性が高い」
「それはまた……厄介ね……」
かなこさんの答えに、ゆゆ先生とえーりん姉さんが表情を曇らせる。
どんな種類のゆっくりからも一定の割合でゲスが含まれるように、ありす種には一定の割合でれいぱー化する個体が含まれている。
ただし、全てのありす種は強精発情させることで無理矢理れいぱー化させる事が可能だ。
だが、そういう強制れいぱーは餡子(カスタード)の消耗が激しく、寿命は保ってせいぜい一日。
場合によっては最初のゆっくりに全精子餡を注ぎ込み死亡する事すらあるので、自然界ではさほどの脅威にはならない。
繁殖用の精子餡を採取する時や、虐待用に使うには便利な生態だという程度だ。
それに対し、自然にれいぱー化した個体は遙かに厄介な存在だった。
何しろ、れいぱーとして活動しながらも自分の生命活動の維持が行え、過剰なカスタードの消費を抑えられるのだから。
自然発生したれいぱーは、すっきり死したゆっくりや、生まれることなく永遠にゆっくりした実ゆを捕食する。
そうしてカスタードを補充しつつ、少しでも多くのゆっくりに『とかいはなあい』を与えるべく活動し続けるのだ。
こういうれいぱーが発生した場合、最悪たった一匹のゆっくりに群れが全滅させられる事もある。
自然発生したれいぱーの集団は、群生相を生じた蝗なみに面倒な存在なのだ。
そして、なにより。
「なるほどね。自然発生したれいぱーが相手じゃ、ゆかりん姉ちゃんはともかく、ひじり姉達には応援を求められないし……」
「御祖母様の処に居る山守ゆっくりを動員する訳にもいかないわね。最悪、触れられただけで妊娠しちゃうもの」
俺の言葉に、ゆかりん姉ちゃんが頷いた。
そう、自然発生れいぱーの最も恐ろしい点……それは通常では考えられないほどに強力な繁殖能力にある。
元々すっきりーすれば妊娠率100%というデタラメナマモノであるゆっくりだが、自然発生れいぱーは更に質が悪い。
なんせ、自然発生のれいぱーは分泌する体液が全て精子餡に等し生殖能力を持つのだ。
れいぷは勿論、すっきりーでないすりすりや、最悪飛び散った体液や吐いた餡子を浴びただけで、並のゆっくりなら妊娠してしまう。
妊娠率が極端に低いはずの胴付きでさえ、自然発生れいぱーの精子餡をまともに浴びると5割近い確率で妊娠してしまうのだ。
その特性を生かし、加工場などでは胴付きゆっくりを生産する為に自然発生れいぱーの精子餡を使っていたりするのだが。
「なるほどね。俺が指名された訳が判ったよ。ま、自然発生れいぱーなら加工所に依頼してもいいと思うんだけど……」
「主殿曰く、これも弟殿と私が受けるべき愛の試練だそうだ。力を合わせ、山に侵入したれいぱーを排除せよ、と仰せでな」
「ばあちゃん……」
愛の試練ってなんだよ、愛って。
そりゃまあ、かなこさんは俺の恩人ならぬ恩ゆっくりだし、姉ちゃん達やゆゆ先生同様、大切な相手だけどさ。
「愛の試練、ね……」
「御祖母様はかなこさんがお気に入りですから、仕方ないですね」
「かなこ様を弟様に譲る気満々ですものね~」
「ま、愛とかは置いておいて」
「置くのかよ」
俺の突っ込みをスルーし、ゆかりん姉ちゃんはアイスクリームをスプーンで掬うと、ぱくりと咥えた。
「んぐ……御祖母様は他人の手を借りようとしない方だから、かなこと弟ちゃんにまず任せようとするのは当然ね……ちゅ」
ちろりと唇を舐め、微笑む。
「ま、そう言う事なら私も協力してあげるわ。かなこのオンバシラ同様、私のスキマはれいぱーに触れることなく駆除できるから」
「やってくれるか、ゆかり?」
「当然よ。弟ちゃんが前に出るのなら、せめて後ろから援護するのが姉としての務でしょ?」
「そうか……すまん、助かる。正直ゆかりの助力は欲しかったのでな」
かなこさんが神妙に頭を下げる。
「いいのよ、このくらい。それで、いつから始めるの?」
「ああ……群れの行動範囲は大体把握できているから、出来るならばすぐにでもやりたいのだが……弟殿はどうだ?」
「山の装備に着替えるだけだし、俺は構わないよ?」
ばあちゃんの山なら勝手は判っているし、携帯も大抵の場所で通じるしな。
「南無三っ! 私もお手伝いしますよっ」
「私も及ばずながら~。中枢餡さえ破壊できればれいぱーを操る事も出来ますので~」
「……弟君に対ゆっくり用薬剤を持たせなければね」
ひじり姉にゆゆ先生、えーりん姉さんも力強く頷く。
「皆……すまん、恩に着る」
「ええ、たっぷり恩を着せてあげるから覚悟しなさい?」
「……弟殿は譲らんぞ?」
「この程度の恩で譲らせるつもりもないから安心しなさい」
神妙なかなこさんと、それをからかうように笑うゆかりん姉ちゃん。
なんだかんだ言って、このふたりは仲がいい。
妙に張り合うところはあるけれど……それはふたりが同い年で、ライバルみたいな関係だからなんだろう。
「それでかなこさん、俺達はどう動けばいいんだ?」
「うむ。それはこの地図にだな……」
スカートの中から、かなこさんが1枚の地図を取り出して、拡げる。
「奴らが襲ったゆっくりの群れはここ。他のゆっくり巣で襲撃を受けていたのがこことここ……つまり、奴らの移動経路は……」
ばあちゃんの山を示した地図の上を、かなこさんの白く長い指が滑る。
顔をつきあわせてそれを覗き込み、俺達は作戦を煮詰めていった。
***
風が頬を撫でていく。
足元がふわふわする。
見下ろせば、青々とした木々の梢。
「どうだ弟殿? 久しぶりの空中散歩は?」
「相変わらず股間がきゅーっとするよ……かなこさんは大丈夫?」
「問題ない。弟殿と一緒ならば何時間でも飛べるぞ!」
「頼もしいなあ……でも、絶対に無理はしないでね?」
力強く答えるかなこさんに、俺は引きつった笑みで答えた。
ここはばあちゃんの会社が所有する山の上空。
かなこさんに抱えられ、俺は目的地目指して飛んでいた。
「大丈夫だ、私の注連縄セイルは絶好調だからな! 今ならばジェット気流でも捉えてみせるぞ!」
「それかなこさんはともかく俺死ぬからね?」
かなこさんが第一種危険ゆっくりに指定されている理由。
そのひとつが、この注連縄セイリングジャンプ……注連縄の持つ不思議な力で風を捉え、空を飛ぶ能力だった。
高い知能を持つ胴付きで、空を飛ぶ事が出来る。
害獣となった場合、これだけでもかなりの脅威だ。
そのうえ、かなこ種はオンバシラという武器を持っている。
胴なしですら木刀並のサイズと威力を持つオンバシラだが、胴付きであるかなこさんのそれは丸太に近い。
直径約15センチ、長さは約90センチ。重量にして15キロを越えるオンバシラ。
これをかなこさんは意志の力で4本同時に自在に動かし、ある時は舵として、あるときは武器として使っているのだ。
……どう見てもサイコキネシスです、本当にありがとうございました。
動かせるのはオンバシラ限定とはいえ、これだけの質量がある物質を自由に振り回せれば、それは十分な殺傷力を持つ。
実際、かなこさんは狩猟期間には山を飛び回って猟を行っているし、オンバシラで100キロ級のイノシシを仕留めた事さえあるのだ。
人間並の知能があり、空を飛べ、オンバシラで人を殺傷せしめるだけの攻撃力をも有している。
そんなかなこさんが第一種危険ゆっくりに指定されるのは、人間側の理屈で言えば当然の事だった。
俺にとってそれは、命を救ってくれた素敵な能力なのだけど。
「ときに弟殿っ」
背中から俺をしっかりと抱きしめて、かなこさんが耳元で囁いた。
「なに、かなこさん?」
「そのっ……街の学校に通うようになって、生活は何か変わったか?」
「何かって、なにが?」
「……そのっ……懸想する相手が出来た、とかっ……!」
「あー……! 無理無理、だって俺の学校男子校だもん! 女っ気なんて先生含めても皆無だよー!」
「そ、そうか……そうか! それは良かっ……いや、残念だったな!」
俺を慰めながらも、かなこさんは何故か嬉しそうだ。
姉ちゃん達もそうだけど、なんか俺に彼女が出来たかってことを気にするんだよなー。
やっぱりアレか、弟に彼女というのは娘が彼を連れてきた的なショックがあるんだろうか。
俺的には心配される事自体がちょっと心外なんだが。
まったく。
「もうちょっと、弟を信じてほしいよな……」
「ん? 弟殿、何か言ったか?」
「いや、なにもー! それよりかなこさん、そろそろ降下ポイントだよー!」
「了解だ! では頼むぞ、弟殿!」
「任せて! かなこさんこそ気をつけてよ!」
「案ずるな! 私はれいぱーありすなどに穢されたりはせん! 弟殿との約束があるからな!」
力強く答えるかなこさんに頷く。
目の前には木々が迫り、梢を抜けると薄暗い森のなか。
ほとんど人の手の入っていない自然林の斜面に、俺達は着地した。
「よし……ちょっと待っててね、かなこさん」
「判った」
俺を下ろしたあとで注連縄セイルを調整し、かなこさんが再び空に舞う。
その姿を見上げ、俺は携帯を取りだした。
短縮ダイヤルをコールし、三回。
『……弟君?』
「えーりん姉さん? ポイントに着いたよ。ゆかりん姉ちゃん達を待機させといて」
『判ったわ……気をつけてね』
「大丈夫だよ。かなこさんもいるし……」
通話を続けながら腹に抱えていたリュックを下ろし、中からウォーターガンを取り出す。
「えーりん姉さんが持たせてくれた甘辛ウォーターガンもあるからね」
これは2000円ほどで買った玩具を改造したものだが、ポンプアクション式で最大射程20メートルというなかなか強力な奴だ。
そして、1リットルという大容量タンクに詰まっているのは、えーりん姉さん特製の対ゆっくり用超甘味&辛味ブレンド液。
砂糖の3000倍という甘味成分はゆっくりを一瞬で虜にして動きを封じ、20万スコヴィルの辛味成分は成体ゆっくりさえ一瞬で非ゆっくち状態に陥れる。
最高のしあわせーと最悪のふしあわせーを同時に叩き込まれた中枢餡は処理能力の限界を超え、機能停止へと追い込まれる。
その威力はこの夏の畑番で証明済みだ。
『ええ。それを使えば、れいぱーに触れることなく中枢餡だけを機能停止させられるはずよ……ただ』
「ただ?」
『れいぱーは大量に大量の体液を分泌しているから、少量だと流されてしまうかも……しっかり狙って、無駄撃ちは控えてね』
「判った。じゃあ、れいぱーを見つけたらメール入れるよ」
『了解……待っているわ』
携帯を切る。
顔をあげると、空に浮かぶかなこさんと目が合った。
「それがえーりんの用意した銃か? かなり強力なものだと聞いているが」
「うん。畑番で何度か使ったけど凄いよ。一発で動かなくなって、潰れないし餡も吐かないから後片付けも簡単だしね」
「それは重畳。れいぱーを潰すと地面に残った餡でゆっくりが孕む事もあるからな」
「れいぱーってパないよね」
「だからこそ、野生の群れが崩壊する原因のひとつにれいぱーの襲撃があるのだ……さあ行こう、弟殿」
「了解」
かなこさんに先導され、歩きだす。
山の中は日の光が遮られて薄暗く、蒸し暑い。
蝉の声が煩いくらいに響いていて、いつもなら頻繁に聞こえてくるゆっくりの間延びした声もかき消されていた。
「暑いな……」
「今年は特にな。弟殿、こちらだ」
「あいあい」
山の斜面を登り、わずかに踏み分けられた山道を進む。
ぉぉぉ……。
「ん?」
そうして進んでいると、蝉の声に混じって微かにゆっくりの声が聞こえてきた。
ほおおぉぉ……!
「かなこさん」
「ああ、居たな」
んほおおおおおおおぉぉ!
やめちぇええええぇぇ!!
だんだんと、声がはっきり聞こえるようになってくる。
どうやら複数のれいぱーありすに、野生ゆっくりが襲われているらしい。
悲鳴の方はそれほど聞こえないから、群れじゃなく家族単位で住んでいる連中だろうか。
慎重に声のする方に歩を進め、木の影に隠れながら覗き込むを。
……そこは、れいぱーの饗宴の真っ最中だった。
「んほおおおおおおおおぉぉ!! おちびちゃんまりさのまむまむはすっごくしまるわああぁ! とってもとかいはねええぇぇ!!」
「やめちぇええええぇ!! まりちゃのばーじんしゃんぎゃああああぁ!! おかーしゃん、おにぇーしゃん、たしゅけてえぇ!!」
「んほおおおぉ! そんなこといって、まむまむはありすのとかいはなあいをうけいれてるわよおおぉ!! つんでれさんねえぇぇ!!」
「やめるのぜぇ……みんなのあいどるすえっこまりちゃをはなすのぜええぇ……ゆぐっ、ゆがああああぁ!!」
「やっぱりおとなのまりさはいいわぁ! とってもとかいはよぉ!」
「まむまむもいいけどあにゃるもいいわあぁ! んほおおおおぉ!」
「やめてね! れいむのまむまむれいっぷっぷしないでね! あかちゃんできちゃうよ! すっきりしちゃうよ!」
「れいむのまむまむもいいわああぁ!! なかなかとかいはよおおぉ!!」
「ゆ……ぎゅ……まりしゃもっちょ、ゆっきゅり……しちゃかった……」
「んほおおおおおぉ!! とかいはなあいをうけとめられないなんて、まりしゃはいなかものねえぇ! いなかものはむーしゃむーしゃするわよおぉ!!」
「やめてね! れいむのおちびちゃんたべないでね! ゆっ、ゆゆっ、ゆんやー! す、すっきりー!!」
「んほおおおおおぉぉ! すっきりいいいいぃぃ!!」
数十匹のれいぱーありすが、まりさとれいむの家族に群がっている。
見たところ、親れいむと親まりさ、子れいむと子まりさが2匹ずつ、赤ゆがれいむとまりさ各3匹というそれなりの大所帯なようだ。
そのせいで一匹あたりに取り付いているれいぱーの数が減り、結果的にれいぷの苦しみを長く味わう事になっているみたいだが。
「これはひどい」
思わず呟く。
最大限に控えめな表現で、精神的ブラクラ。
それでいて一部HENTAIな方々には垂涎の光景がそこに繰り広げられていた。
「……かなこさん、こいつらで全部かな?」
「判らん。いずれにせよれいぱーは潰すだけだ」
「まりさとれいむは?」
「奴らもこの山のゆっくり、助けられるものなら助けてやりたいが……」
「了解。それなら何とかしましょ」
「弟殿……出来るのか?」
「俺ひとりだけじゃ無理だけどね。でも……」
ポケットを探り、携帯からメールを送る。
そして、待つこと十数秒。
「弟ちゃん、やっほー」
「こぼね~」
俺の側にスキマが開き、ゆかりん姉ちゃんとゆゆ先生が顔を出した。
「四人寄れば文殊も越える、ってね……ゆゆ先生、俺がれいぱー何匹か壊すから、そいつら操って他のれいぱーをれいむとまりさから出来るだけ離して」
「わかったわ~」
「ゆかりん姉ちゃんはそうやって引き離したれいぱーをスキマ送りに」
「任せなさい。お姉ちゃんがゆっかり加工場に送ってあげる」
「……加工場?」
なんでそんなところに。
いやまあ、ゆかりん姉ちゃんのスキマは見知った場所や馴染み深い相手の側なら見えてなくても開けるの知ってるけどさ。
だからこうして、俺の側に来てもらえているんだし。
「自然発生のれいぱーって加工場としては欲しい素材ゆっくりだから、出来れば何匹か捕まえてって母さんがメール寄越したのよ」
「カーチャン……」
息子と娘がそれなりに危険冒して頑張ってるのにひどいや。
「……まあいいか。で、スキマから逃れた連中にはかなこさんのオンバシラをお願い」
「任せろ弟殿、れいぱー共は過たず潰してやる」
近くの枝に腰を下ろし、かなこさんが頷く。
さて、それじゃ行きますか。
ウォーターガンのポンプを動かし、空気圧を高める。
「じゃあ、いくよ……照準」
十分に空気圧が高まったところで構え、狙う。
まあ、所詮玩具のウォーターガン、そこまで正確な照準は望めないけど気は心。
出来るだけまりさとれいむ一家を避けるように狙いを定め、俺は引き金を引いた。
「発射……!」
噴射口から勢いよく甘辛液が噴き出す。
「ぼ、ぼうやべでねええぇ! ばりざずっぎりじだぐないよおおおぉ……!!」
「んほっ、んほおおおおおおぉ!! まりさはほんとうにつんでれさんねえ! からだはいやがっててもくちはしょうじきだわああぁ!!」
「それ普通に嫌がってんじゃん」
噴射を続けながら思わず突っ込む。
その間も甘辛液は迸り、途中で飛沫となりながらも、一番外側にいたれいぱー達数匹のの饅頭皮に降り注いだ。
「んほ!? あめさんかしら?」
「んほおおおおぉ! あめさんのなかのすっきりー! もとかいはねええぇ……ゆぴっ!? ゆび、ゆびいいいいいいいっ!?」
「んほっ!? ど、どうしたのありす!? そんなこえはとかいはじゃない……ゆびいいいぃ!!」
「んほっ、んほおおおぉ! あ、あんまああああぁぁがらああああああああああぁ!! ゆびびっ!!」
奇声をあげ、れいぱー達が動きを止める。
それでもペにペにはでかくなったままなのがキモイ。
「よし、と……それじゃゆゆ先生、お願いします」
「こっぼね~。任せて~」
くるくる指を回しながら、ゆゆ先生が動きを止めたれいぱー達を見つめる。
「んほおおおぉ! なにやってるのおおぉ!? ありすのとかいはなあいのじゃまをするならどいてねえええぇ!!」
「んほおおおおおおおお!!」
「んほっ!? なんでありすのじゃまするのおおおおおぉ!?」
やがて、中枢餡が壊れたありす達が、れいむとまりさ一家かられいぱー達を引き剥がすように動きはじめた。
「んほー」
「んほほー」
間延びした声をあげながら、あるありすはれいぱーに体当たりし、別のありすはペにペにをれいぱーに突き刺していく。
それも、ありすがぺにぺにですっきりー! しようとするタイミングを見計らい、すっきりを邪魔するように。
「んほおおおおおぉ、やべてねええええぇ!? ありすのまむまむですっきりー! するなんてとかいはじゃないわああぁ!!」
「んほー」
「んほおおおおおおおおお! なにをするのぉ!! ありすのとかいはなあいをじゃまするなんてとんだいなかものねええぇ!!」
「んほほー」
「ありすのとかいはなあいをじゃまするゲスはしねええええぇ!!」
「んっほほー」
れいぷを邪魔されて怒ったのか、れいぱー達は中枢餡破壊ありす達に攻撃を始めた。
「んほおおおおおぉ!! ありすのとかいはなあいをありすにもわけてあげるわああ!」
「んほー」
「とかいはなあいをうけとってしぬのよおおおおぉ! んほおおぉ!!」
「んっほー」
「んほおおおおおおおおぉ!! もうこのさいありすのまむまむでもいいわあああぁ!!」
「んーほー」
中枢餡を破壊されて感覚もなにもないありす達は、れいぱーの攻撃を受けながらも適度に反撃し、れいむとまりさ一家から離していく。
「そろそろね。行くわよ、かなこ」
「承知! いけっ、オンバシラ!」
ゆかりん姉ちゃんの声に合わせ、かなこさんの背に浮いていたオンバシラがれいぱー達に向かって飛んでいく。
そのれいぱー達は、自分達の『とかいはなあい』を邪魔するありす達への制裁に夢中だ。
れいぱーって身体能力は捕食種並みになるって話だけど、そのぶん頭は悪くなってるんだろうか?
まあ、基本「んほおおおぉ!」しか喋らないんだからアレなのは確かだけど。
「ゆっかり加工場にいってらっしゃい!」
れいぱー達の足元にスキマが開く。
中枢餡破壊ありすや、れいむまりさ一家を避けるように開いているせいか、普段と比べてスキマ送りにされる数は少ない。
「んほおおおおおおおおぉぉぉ!? おそらをとんでるみたいいいいいいぃ!!」
「おちるっ、おちちゃうのねえええぇ!? おそらとんでるのおおおぉ! んほおおおおおおぉ!!」
「とかいはなあいをこのスキマにあげるわあああぁ!! んほっ、おそらにだしてるみたいいいぃ!!」
それでも何匹ものれいぱーがスキマに送られていく。
あるれいぱーはんほおおぉと叫び。
あるれいぱーはおそらをとんでるみたい! と笑顔を浮かべ。
あるれいぱーは落ちながらすっきりー! する。
「って私のスキマをなんだと思ってるのよあのれいぱー!?」
「私が潰してやろうか?」
「お願いするわ」
「判った。オンバシラ!」
そして、それ以外のれいぱー達はかなこさんのオンバシラによって容赦なく潰されていった。
「んぼおおおぉっ!?」
「どぎゃいばっ!!」
「おそらにすっきりいいぃぶべぢゃ!!」
「んほおおおおぉ! ありすはもっととかいはなあいをつたえべべっ!!」
スキマに落ちながらすっきりー! していたれいぱーを空中で貫き潰す。
中枢餡破壊ありすにのしかかっていたれいぱーを叩き潰す。
スキマから逃れたれいぱーを押し潰す。
潰す、潰す、とにかく潰していく。
ゆっくりにとって圧倒的な質量を持つオンバシラは、れいぱーを永遠にゆっくりさせる死神となって周囲を蹂躙していった。
「んっ、んほおおおおおぉ!! なんでありすのとかいはなあいがつうじないのおおおぉ……ぶべぎゃ!!」
最後のれいぱーがオンバシラに潰され、カスタードの花を咲かせる。
それを確かめ、俺は立ち上がった。
「かなこさん達はそこで待機してて」
「判ったわ~」
「いってらっしゃい、弟ちゃん」
「うーん……出来るだけカスタードが飛び散らないよう潰したら、オンバシラがドロドロになってしまったか」
「あとで私の操るありすちゃん達に綺麗にさせましょうか~?」
「すまん、助かる」
背中でかなこさん達の声を聞きながら、れいむとまりさ一家に駆け寄る。
「ゆ、ゆぐぐ……ゆべええ……」
「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ……」
「もっちょ…ゆっきゅり……ちちゃかっちゃ……」
「さすがに酷いもんだな」
れいむとまりさは親子赤問わず、強制すっきりーにより疲弊していた。
赤ゆや子ゆにはれいぱーにのしかかられて潰れているのもいるし、茎も複数生えている。
実ゆに餡子を吸われて死ぬのも時間の問題だろう。
親まりさと親れいむ、それに子ゆっくりと赤ゆっくりの何匹かは植物妊娠だけですんでいるのが不幸中の幸いか。
こいつらは、今すぐ茎を千切ってオレンジジュースをかけてやれば助かる見込みもあるだろう。
そう思い、手近にいた親まりさの茎を掴むと、親まりさはうっすらと目を開けた。
「ゆぐうぅ……に、にんげんさん……おねがいなのぜ……まりさよりも……れいむを、おちびちゃんをたすけてほしいのぜ……」
「ああ、出来るだけのことはしてやる。とりあえず茎は抜くぞ? でなきゃ死ぬからな」
「……わかったのぜ……ごめんなのぜ、おちびちゃん……」
再び目を閉じ、まりさは俺に身を委ねる。
流石というか……かなこさんが管理している山だけあって、ゆっくりの質はなかなかだな。
自分もすっきりーされてるのに、番や子供を優先するとは。
ま、それなら本当に出来るだけのことはしてやろう。
「よ、っと」
「ゆぎっ……」
親まりさの額から茎を引き千切る。
実ゆが小さく声をあげ……餡子供給が絶たれて、みるみる黒ずんでいく。
それをその辺に放り投げ、俺はリュックからペットボトルを取りだした。
中身はえーりん姉さん特製の加糖調整オレンジジュース。
「ほら、元気になれよ」
親まりさにオレンジジュースをふりかけ、同じように親れいむ、子れいむ、子まりさ、赤ゆ達と処置をしていく。
……一応、胎生妊娠してるやつも茎抜いてオレンジジュースかけるくらいはしてやるか。
万が一助かる可能性はあるんだし。
「ゆ、ゆゆぅ……」
オレンジジュースのお陰か、次第に安らかな顔になっていくまりさ一家。
赤ゆも、胎生妊娠していなかった一匹は黒ずみかけていた皮が元の色を取り戻してきている。
それを確かめ、俺は親まりさ達の身体をペーパータオルで簡単に拭き取って、まだ息のある一家を抱え上げた。
「ここにいると、最悪移動しようと跳ねただけで妊娠しかねんからな……」
潰れたれいぱーのカスタードが四散している現場から、親まりさ達を連れ出す。
「ゆっ、ゆぢっ……ゆっゆっゆっ……」
微かな呻きが聞こえたので見下ろすと、そこには千切った茎についていた実ゆ達が、額から細い茎を生やして黒ずんでいる。
よく見ると、茎を放り投げた地面にはカスタードが飛び散っていた。
それが実ゆに触れて、強制妊娠させているらしい。
カスタード溜まりに浮かび、にょきにょきと細い茎を生やしては苦悶の表情で黒ずんでいく実ゆ達は、控えめに言ってキモかった。
「実ゆまで孕ませるのかよ……もう何でもありだな、れいぱー」
呟いて、慎重に現場から抜け出す。
俺は精子餡をどれだけ浴びても平気だが、うっかり精子餡身体に付けて、うっかり姉ちゃん達に触れでもしたら大変だ。
胴付きだからそうそう妊娠はしないと判ってはいるけれど、万が一にでも俺の姉ちゃんや先生やかなこさんをれいぱーなんぞの精子餡で妊娠させる訳にはいかない。
それどんな寝取られだよって感じだし。
「連れてきたよ、かなこさん。流石に全部助けるのは無理だったけど……」
慎重に戻り、抱えてきたまりさ達を地面に並べる。
親まりさ、親れいむ、子れいむ、子まりさ、赤まりさの総勢五匹。
……つまり、この一家はおちびちゃんの半分以上が永遠にゆっくりしたことになる。
「いや、十分だ……ありがとう、弟殿」
それでも俺に頭を下げ、かなこさんはまりさ達の前に降り立った。
「まりさ、私が判るか?」
「ゆゆぅ……わかるのぜ、『やまもり』のかなこさまなのぜ……。まりさたちを、たすけてくれたのかぜ……?」
「ああ。残念ながら、おちびちゃんは全部助けられなかったがな……」
「ゆぅ……しかたないよ……れいぱーにおそわれて、おちびちゃんがぜんっめつ、しなかっただけでもしあわせー、だよ……」
かなこさんの言葉に、れいむがうつむきながらも殊勝なことを言った。
うーん、この山のゆっくりって出来てるなあ。
それに引き替え……うちの裏山に住みつくゆっくりは、なんでああもゲス率が高いんだろ……。
「『やまもり』のかなこさま……まりさたちをたすけてくれて、ありがとうなんだぜ……」
「れいむからもおれいをいうよ……『やまもり』さまがきてくれなかったら……れいむたちみんな、えいえんにゆっくりしちゃってたよ……」
「ゆぅ……まりしゃのいもうちょが……ゆぐっ……」
「れいみゅのおねーしゃんが……」
「ゆっくち……まりちゃ、れいぴゃーきょわいきょわいぢゃよ……」
丁寧に、かなこさんに向かってお礼の言葉とともにお辞儀する親れいむと親まりさ。
さすがに子供達はお礼を言う余裕はないみたいだが、変な言いがかりを付けて助けた俺達を罵倒するようなゲスではないようだ。
……かなこさんの山は教育できてるなあ。
本当、なんで毎回駆除して新しい群れが入ってるはずなのに、うちの裏山はデフォでゲスの巣窟になるんだろう……。
「なに、私は『山守』としてお前達の危機を見過ごせなかっただけだ……ところで、ひとつ聞きたいことがあるのだが」
「ゆ? なんなのかぜ? まりさがしってることなら、なんでもはなすのぜ」
「れいむもだよ……なんでもきいていいよ、かなこさま……」
「まりしゃもなのぜ……」「れいみゅも……」「ゆっ、まりちゃも……」
殊勝な態度のまりさ達に、かなこさんが優しく微笑む。
「なに、難しいことではない……お前達が見たれいぱーは、ここにいたので全部か?」
「ゆっ……ゆーん……」
まりさが記憶を辿るように考え込む。
といっても、思い出すのは難しいだろう。
ゆっくりは記憶を保存する為に餡子を使っている。
しかし、まりさ達はれいぱーの強制すっきりーによる妊娠で餡子を消耗している。
今まりさの体内にあるのは俺が与えたオレンジジュースによって再生した新しい餡子だ。
数時間前とはいえ、記憶を呼び起こすのは難しいというかほぼ不可能だろう。
そう思っていると。
「……ぜんぶじゃないよ……なんにんかのれいぱーが、れいむたちをむしして……もりさんのおくにいっちゃったよ……」
れいむが記憶を辿るように、ぼそぼそと答えた。
記憶力いいなこいつ。
「そうか。どちらの方向だ?」
「あっちだよ……ゆっくりできないれいぱーもいっしょだったよ……」
「……ゆっくりできないれいぱー?」
「ゆゆっ……そうだよ。ペにペにがたくさんっはえてて……ゆっくりできなかったよ……」
れいむの答えに、俺と姉ちゃん達は顔を見合わせた。
「……それって」
「たぶん、テンタクルありすね」
「れいぱーだから~……テンタクルれいぱーありす?」
「寿限無かよ」
テンタクルありす。
ゆっくりありすの変異種で、あんよから触手状のペにペにが複数生えているのが特徴だ。
普通はゆっくり出来ないゆっくりとして排斥されるのだが、れいぱーの場合のみリーダー的な存在として祭り上げられることがある。
れいぱーには、ぺにぺにが複数生えているのが『とってもとかいは』と認識されるらしい。
実際、れいぱー化したテンタクルありすは一匹で同時に何匹ものゆっくりを強制すっきりーする厄介なゆっくりになる。
それが、れいぱーから見れば『ゆっくり出来る』ってことになるんだろう。
「まずいな。テンタクルありすがいるとなると、被害はそちらの方が上かも知れん」
腕を組み、かなこさんが険しい表情を浮かべる。
「かなこさん、そいつが向かった先には……?」
「群れと言うほどではないが、家族の巣が数世帯集まった集落がある……急ぐ必要があるな」
「だね」
頷いて、俺は立ち上がった。
「行こう、かなこさん。ゆかりん姉ちゃんとゆゆ先生は俺が連絡するまで家で待機してて」
「そうするわ。山を歩くのは疲れるし」
「こぼね~……弟様、気をつけてね~」
ゆかりん姉ちゃんとゆゆ先生がスキマに消える。
「ああ。急ごう、弟殿」
かなこさんがふわりと宙に浮く。
その瞬間。
どごおおおおおおおおおおおぉぉん!!
んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
地面が揺れ、木々の倒れる音と……野太い叫びが山に響いた。
「っ! なんだぁ!?」
慌てて声のした方に駆ける。
獣道を走り、かなこさんの手を借りて斜面を登る。
……すると、すぐに『それ』は見えてきた。
木々の切れ間に出来た、小さな広場。
周りには樹齢の高い樹が並び、大きなうろやゆっくりの巣穴らしきものがそこかしこに見えている。
恐らくここが、かなこさんの言っていた集落なのだろう。
だが、そこに動いているゆっくりはいなかった。
あるのは無数の餡子とカスタードの染みと、額から茎を生やして黒ずんだ、元はゆっくりだったもの。
そして。
広場の中央に陣取り、周囲に触手を伸ばして暴れている……体高3メートルはある巨大なテンタクルありすの姿だった。
「んほおおおおおおぉぉ!! ありすはクィーンになったのねええええぇぇ!! とってもとかいはだわあああああぁぁ!!!!」
「自己申告かよ!?」
思わず突っ込む。
いやそんな場合じゃないのは判ってるんだが!
「クィーンに進化したか……ますます厄介だな」
「いやもうこれ厄介とかそう言う問題じゃないよかなこさん」
とりあえずメールを送る。
これはもう電話で説明するより、ゆかりん姉ちゃん達に来て貰った方が早い。
「どうしたの弟ちゃん……うわぁ……」
すぐにスキマが開き、顔を出したゆかりん姉ちゃんがクィーンを見て顔をしかめた。
「クィーンテンタクルれいぱーありす……よりによってこのタイミングで進化するとはねぇ」
「こぼね……本格的に寿限無ですね~」
「南無三っ!? 寿限無というより怪獣ですよあれはっ」
「……これはまた、厄介なことになってるわね」
ゆゆ先生達も顔を覗かせ、息を呑む。
「まあ……自分の仲間も含めて全員すっきり死させてるみたいだから、余計な気を遣わなくていいのがせめてもだな」
とりあえず動きを止めよう。
そう思ってウォーターガンを構える俺を、えーりん姉さんが制した。
「駄目よ弟君。クィーンの体液量は普通のれいぱーとは比べものにならないから、その銃じゃ体液に流されて皮まで届かないわ」
「こちらの存在を教えるだけよ~?」
「通常サイズでさえ、テンタクルありすの触手は1メートル近く伸びる……クィーンとなればその十倍はいくぞ」
「精子餡に濡れたオンバシラ級の触手ですか……喰らえば、私達でもただじゃ済みませんね……南無三っ」
「肉体的にも、すっきり的にもね……お姉ちゃん寝取られちゃうわよ?」
「姉ちゃんそれ用法間違ってるから……しかし、それじゃどうするんだよ?」
ウォーターガンを下ろし、ぼやく。
「私のオンバシラを直撃させられれば、致命傷を与えることも出来るだろうが……」
「その為には触手が邪魔ね」
「だな。力比べでは分が悪い。オンバシラを捕まえられてはそれこそ手も足も……」
「南無三っ、クィーンが動きだしましたよっ?」
ひじり姉の声に、全員の視線が集中する。
「んほおおおおぉぉ!! クィーンになったありすには、もっともっととかいはなあいをあたえる『しめい』があるのよおおおぉ!!」
周りを探るように、クィーンの触手がうねうね動く。
やがて、それはぴたりとこちらを向いて、止まった。
「んほおおおおおぉ!! そこにゆっくりがいるわねええぇ!!」
「気付かれたか……! みんな、逃げて!!」
ウォーターガンを構え、立ち上がる。
「判ったわ……って、弟ちゃんはどうするのよっ!?」
「なんとか逃げるよ!」
「何とかって、相手はクィーンですよっ!?」
「あの触手を喰らったら、弟様でもただでは済まないわよ~!?」
「それでも妊娠しないだけマシだろっ! 俺が囮になるから、みんなはスキマで逃げて! そして加工場に連絡を!」
ゆかりん姉ちゃんのスキマは無生物とゆっくりだけを通し、一瞬で移動できる。
相手がクィーンだから準備は必要だろうが、加工場に連絡すれば今日明日には山狩りが行われるだろう。
あとは俺が何とか逃げ切れれば、それで万事問題なしだ。
「無茶言わないで下さい! クィーンと追いかけっこなんて、弟さんの体力が保つ筈ないでしょうっ!?」
「それでも! 姉ちゃん達が囮になるよりはマシだろ!」
「んほおおおおおおぉ!! どうつきなんてゆっくりしてないわねええぇ!! でもあんしんしてねええぇ!!」
「来るわよっ……!!」
触手を蠢かせ、地響きを立てながらクィーンがこちらに進んでくる。
体表を流れる粘液のせいか、這い進んでいる割にクィーンの動きはスムーズで、しかも速い。
というか、俺が走るのとほとんど変わらない……!?
「ありすはクィーンだからああぁぁ! ゆっくりしてないどうつきにも、とかいはなあいをあげるわあああぁぁ!! んほおおおおおおおおおおお!!」
「くそっ! 来るんじゃねえよこのれいぱー!!」
ウォーターガンを発射する。
「んほおおおぉ!? なんだかゆっくりできないわねえええ?」
だけどそれをあっさり触手で防ぎ、クィーンはどんどん迫ってきた。
「姉ちゃん、先生! 逃げて、はやく!!」
「わっ、判ったわっ……気をつけて、弟ちゃん!」
甘辛液をものともせず、クィーンれいぱーの触手が伸びる。
ゆかりん姉ちゃんがスキマを閉じる。
ウォーターガンを発射しながら、俺は後ろに下がり――。
「っ!?」
木の根に足を取られ、体勢を崩した。
「んほおおおおおおぉ!! にんげんはゆっくりできないわあああぁ!!」
触手が、酷くゆっくりとした動きで目前に迫る。
その太さはまるで、かなこさんのオンバシラのよう。
あー……これ直撃したら打撲どころか粉砕骨折コースだなぁ。
囮になるとか逃げるとか言ってたのに、初手からつまずくとか俺めっちゃ格好悪いよなあ……。
ごめんよ、姉ちゃん……。
「つかまれ、弟殿っ!!」
不意に。
目の前に、腕が伸びてきた。
「くうっ……!」
反射的にそれを掴む。
足が地面から浮き、自重に掴んだ腕が悲鳴をあげる。
それでも腕にしがみつき、身を委ねる。
「んほおおおおおおぉぉ!!」
一瞬後、俺のいた地面をクィーンの触手がえぐった。
地面が震え、木々が揺れる。
その擦れ合う枝の間をすり抜け――俺は空を飛んでいた。
「大丈夫か弟殿、怪我はないか!?」
俺の身体に腕を回され……背中から、かなこさんの声が聞こえてくる。
「大丈夫、ありがとうかなこさん――でもなんで逃げてないんだよっ!?」
その腕に手を重ね、俺は思わず叫んでいた。
クィーン、それもれいぱーでテンタクルなんて第一種危険ゆっくりの中でもトップクラスの『害獣』だ。
ゆっくりを蹂躙し、人間にすら危害を加え、環境を破壊する天災。
そんなゆっくりと対峙して、かなこさんを危険な目に遭わせたくなかったのに……。
「弟殿に駆除を頼んだ私が、先に逃げるなど出来るものか」
かなこさんの腕に力がこもり、俺をぎゅっと抱きしめる。
「それに私は『山守』だ。この山を守り慈しむのが、主殿より与えられた私の使命で――」
背中に感じる柔らかなぬくもり。
かなこさんの身体は熱をもち、燃えているように熱い。
その熱い吐息が、耳をくすぐり……。
「――弟殿と交わした、『約束』だからな」
かなこさんの囁きに、俺の心臓が、跳ねた。
「かなこさん……」
「とはいえ、このままでは埒があかん。一度引いて応援を待とう。えーりん達が加工場に連絡しているだろうから、じきに――」
「それじゃ駄目だ」
「……弟殿?」
「それじゃ駄目だよ、かなこさん……ほら、クィーンの奴は木々を薙ぎ倒して進んでる」
足元を見下ろし、告げる。
「んほおおおおおぉ! じゃまなきさんはたべてあげるわあぁ!! ぼりっ! ぼりっ!! むーしゃ! むーしゃ!!」
「これじゃゆっくりだけじゃなく、他の生き物……山そのものが荒れる。一秒でも早く、あいつを倒さないと」
「……だが、どうする? 樫の木をもへし折る触手相手では、私のオンバシラも牽制にしか使えんぞ」
「それはそうなんだけどさ……」
精子餡を飛ばしながら、山を蹂躙していくクィーンテンタクルれいぱーありす。
その触手はあんよのように蠢いて、進行上の木々をへし折り、なぎ払い、自分の口へと運んでいる。
「……まてよ?」
あんよのように動いている触手。
長さで言えば触手も十分届きはするだろうが、それでも頭上は死角の筈。
かなこさんの能力と、俺の装備があれば……。
「どうした、弟殿?」
「……かなこさん」
訝しげに尋ねるかなこさんに、俺は唇を吊り上げて答えた。
「俺、クィーン倒す方法思いついちゃった」
眼下を這い進むクィーンを見下ろしながら、かなこさんに作戦を説明する。
「それは……弟殿が危険すぎはしないか?」
俺の話を聞いて、かなこさんは不安げに声をあげる。
まあ、それは仕方ないよな。作戦の内容が内容だし。
「でも、これならクィーンも倒せるだろ?」
「確かに倒せるだろうが……しかし、弟殿にもしもの事があったら、私は……」
「大丈夫……とは断言できないけど、何とかするさ! だから……」
俺を抱きしめる腕を優しく撫で、強く握る。
「俺を信じてよ、かなこ姉様」
「っ!? 弟殿……っ!」
かなこ……姉様が、俺をぎゅっと抱きしめてくる。
「判った! 私も覚悟を決めよう……弟殿、仕損じるなよ!」
「大丈夫、まーかせて!」
俺の軽口に、背中でかなこ姉様が笑う。
笑いながら旋回し、クィーンの背後につけ……そのまま上昇する。
クィーンの姿がだんだん小さくなり、頬を撫でる風が微かに冷たくなる。
「行くぞ、弟殿!」
「行って、かなこ姉様!」
一瞬、お互いの手を重ね。
俺達は一気に降下した。
地面が近づき、クィーンの姿が大きくなっていく。
その背中に向かって、俺は怒鳴りつけた。
「クィーンありすううううううぅっっ!!!!」
「んほっ!?」
ありすが動きを止め、振り返ろうとする。
その瞬間。
「ゆっくりっ……!!」
俺はかなこ姉様の手を離れ、クィーンめがけて落下した。
「していってねええええええええええぇぇっっ!!」
「んほおっ!? ゆ、ゆっくりしていってねええええええぇぇっ!?」
俺の挨拶に応えながら、それでも触手は俺を敵と認識したのか、迎撃すべく伸びてくる。
「いけっ、オンバシラっ!!」
それを、かなこ姉様のオンバシラが迎え撃った。
触手とオンバシラがぶつかり、互いに弾かれる。
「必殺っ……!」
そして生じた空間を俺は落下し――。
「弟キイイイイイイイイイィィィック!!!!」
「んほおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!?」
クィーンの頭頂に、トレッキングシューズの底を叩きつけた。
落下の勢いと俺の体重に頭皮が裂け、両脚が生暖かいカスタードに包まれる。
「あがああああああぁぁ!! いだい、いだいわああああぁ!! ごんなのどがいばじゃないいいいいいいいぃ!!!!」
「あーんど……」
苦痛にクィーンの身体が震え、俺を振り払おうと触手が伸びる。
だが、それより早く。
俺はウォーターガンから取り外しておいたボトルをクィーンのカスタードの中に突っ込み……握り潰した。
「ブレイクウウウウウゥ!!」
「んぎょおおおおおおおおおおおぉぉっ!!!!」
えーりん姉さん特製の甘辛液がカスタードの中で炸裂する。
「あばっ、あばあああああああああぁぁ!! がらっ、がらああああああぁぁ!? あばがらあああああああああぁぁ……ゆびびびっ!!!!」
カスタードで直接味わう超絶な甘味と辛味に、クィーンの身体がビクビクと震え……。
ひときわ大きな叫びをあげると、クィーンは動きを止めた。
「うわっ!?」
断末魔の叫びにカスタードが収縮し、俺の身体を吐き出す。
そのまま受け身をとる間もなく、俺は地面まで滑り落ちた。
「ぶべっ!」
顔からイッて地面にキスをする。
うぅ……クィーンの通った痕で粘液なかったら鼻イッてたかも……。
一瞬だけクィーンに感謝しつつ、仰向けに転がる。
「ゆびっ、ゆび、ゆびびび……」
クィーンはまだ呻いていた。
しかし、触手がだらりと下がり、瞳は焦点を失って、ぽかんと開かれた唇からは舌と涎が垂れている。
「なんとか……なった、かな?」
クィーンを見上げ、呟く。
あとはゆゆ先生に来てもらって、こいつを安全に処理できるところまでもっていけばいいだろう。
「まったく……お前も運がなかったな。他の山なら、もう少しくらいは長く生きていられたかも知れないが……」
身体のあちこちが痛い。
特に足と肩はズキズキと脈打っている。
カスタードがクッションになったとはいえ、十数メートル上空からのダイビングを敢行したんだから当然だ。
最悪、ヒビくらいは入っているかも知れない。
「生憎、ここはかなこ姉様が……俺の命の恩人である『山守』が守護しているんだ。お前達れいぱーが好きに出来る場所じゃないんだよ」
それでも、俺はいい気分だった。
かなこ姉様と一緒に、クィーンを駆除できたから。
この山を守る事が出来たから。
思わず、厨二病満載のセリフを呟いてしまうくらいに……良い気分だった。
「弟殿~~っ!!」
空からかなこ姉様が降りてくる。
起きたら姉さん達に連絡を取らなきゃな。
ああそうだ、その時にはかなこさんを『姉様』と呼ばないよう気をつけなくちゃ。
俺はまだ、約束を果たしていないんだから。
「大丈夫か、傷はないかっ!? よくやったぞ、弟殿っ!!」
かなこさんが笑顔で降りてくる。
俺に抱きつかんばかりの勢いで。
そんな、ここの山守ゆっくりである姉様を見上げ――。
「かなこさん抱きついちゃ駄目~っ! いま俺れいぱーのカスタードまみれだから! 妊娠しちゃうからっ!!」
俺は全力で、かなこさんを避けたのだった。
・おまけ
「はぁ……弟君、なんでそう無茶をするの?」
「まったく、弟ちゃんは仕方ないわよね~」
「本当ですっ。弟さんだけの身体ではないのですよっ!?」
「こぼね~……本当よ、弟様。先生すごく心配したんだから」
「うぅ、ごめんなさい……」
「まあまあ、弟殿も反省しているのだから許してやってくれ。それに今は、治療の方が先だろう?」
「……そうね。では弟君、患部に薬を塗るからじっとしてて」
「はい……でもえーりん姉さん、なんでみんな裸なの? そしてなんで俺、かなこさんに抱きしめられてるの?」
「動かないようによ……じゃあ、いくわよ……ん、ぺろっ」
「ちょ、ちょちょちょっと待ってえーりん姉さんっ!? なんで舐めるの!? ぺーろぺーろなの!?」
「んっ……私が『薬物を分泌できる程度の能力』をもつ第二種危険ゆっくりだって事は知ってるでしょ?」
「いや知ってるけど! 問題はそこじゃないでしょおおおおぉ!?」
「私達はゆっくりなんだから、同じ分泌塗布するにしても、こうした方が高い効果を出せるのよ……ん、てろぉ」
「待って姉さん! それゆっくり相手の話だよね? 人間の俺には関係ないよねっ!? あっ駄目、そこはマジで駄目っ!」
「ほらほら暴れるな弟殿、大人しくしていないとえーりんが薬を塗れないだろう?」
「画的には全然薬塗ってるように見えないでしょおおおおおおおぉ!?」
「ん……ほら、暴れないの。もう終わるから……ちゅぷ……」
「ううぅ……お、終わったの……?」
「ええ弟ちゃん、薬を塗るのは終わったよ~。あとはぁ……」
「私達が馬肉ならぬゆっくり湿布になって、ぎゅーっとしてあげますねっ、南無三っ」
「患部にゆっくりを当てるゆっくり湿布は、ちゃんと医学的にも効果があるって証明されているのよ~?」
「さあ弟殿、私達で包んでやるぞっ」
「みんな裸だったのはその為かあああああああああぁぁぁ!!!!」
ああ、いや。
これは治療だからね?
何もなかったからね?
なんかもう最後の一線越えてるんじゃねとか、そんなことないから。
最後の一線は越えてないから。
……それ以外全部越えてるだろとか言うな。
過去作品
anko2043 夏のゆっくりお姉さん
anko2057 夏のゆっくり先生
anko2151 夏のゆっくり山守さん(前編)
感想、挿絵ありがとうございます。感謝です。