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anko2402 飛び魚のアーチをくぐって
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『飛び魚のアーチをくぐって』 30KB
虐待 妊娠 飼いゆ 希少種 現代 愛護人間 5作目
虐待 妊娠 飼いゆ 希少種 現代 愛護人間 5作目
エンジンの駆動音と共に車が過ぎ去って行くのを、木の陰から子らんは見つめていた。
山を切り開いて作られた住宅街には、原生林がバリカンで剃り残された痕のように点在していた。こういった林には野良化した犬や猫が住み着くものであるが、それはゆっくりとて変わらない。
らんは三世帯ばかりの小さな小さな群れとも家族ともつかない集まりで産まれ、暮らしていた。生まれてこの方林から一歩も出たことはないが、ほんの少し住処から足を伸ばせば人間の領域であるアスファルトで覆われた道路まで子ゆっくりの体力でも行き着くことができた。
平日の昼間に住宅街を通る人間や車は少ない。だからこそらんは、ゆっくりとした気持ちで人間の営みを垣間見ることができていた。
山を切り開いて作られた住宅街には、原生林がバリカンで剃り残された痕のように点在していた。こういった林には野良化した犬や猫が住み着くものであるが、それはゆっくりとて変わらない。
らんは三世帯ばかりの小さな小さな群れとも家族ともつかない集まりで産まれ、暮らしていた。生まれてこの方林から一歩も出たことはないが、ほんの少し住処から足を伸ばせば人間の領域であるアスファルトで覆われた道路まで子ゆっくりの体力でも行き着くことができた。
平日の昼間に住宅街を通る人間や車は少ない。だからこそらんは、ゆっくりとした気持ちで人間の営みを垣間見ることができていた。
「らんしゃま、またここにいたんだねー。わかるよー」
「こん? ちぇぇぇぇん!」
「こん? ちぇぇぇぇん!」
後ろから自分より一回りほど小さい子ちぇんに話しかけられて、らんは笑顔で挨拶した。
このらんとちぇんは一ヶ月ほど前に、別々の番の元でほぼ同時に産まれた個体だ。いわゆる取り替え子で産まれたらんとちぇんは大の仲良しであり、この月齢にして既に両親公認の仲となっている。
だが、最近そんならんの様子がおかしいことにちぇんは気づいていた。だから心配で、危険を推して様子を見に来たのである。
このらんとちぇんは一ヶ月ほど前に、別々の番の元でほぼ同時に産まれた個体だ。いわゆる取り替え子で産まれたらんとちぇんは大の仲良しであり、この月齢にして既に両親公認の仲となっている。
だが、最近そんならんの様子がおかしいことにちぇんは気づいていた。だから心配で、危険を推して様子を見に来たのである。
「らんしゃまー。おかーさんがいってんだよー。にんげんさんはこわいこわいなんだねー。にんげんさんにあうとゆっくりできなくさせられるちゃうんだよー」
「こんっ。らんもおかーさんからもおとーさんからもそういわれてるよ! でも……」
「こんっ。らんもおかーさんからもおとーさんからもそういわれてるよ! でも……」
らんは道路に再び視線をやった。
「ほんとうにそうなのかな?」
「にゃん? ちぇんにはらんしゃまのかんがえていることがわからないよー」
「ときどき、ゆっくりとおさんぽしているにんげんさんをみかけるんだ。らんのめには、そのにんげんさんもゆっくりも、とってもゆっくりしているようにみえる」
「わかるよー。それはかいゆっくりっていうんだねー。おかーさんがいってたんだよー」
「にゃん? ちぇんにはらんしゃまのかんがえていることがわからないよー」
「ときどき、ゆっくりとおさんぽしているにんげんさんをみかけるんだ。らんのめには、そのにんげんさんもゆっくりも、とってもゆっくりしているようにみえる」
「わかるよー。それはかいゆっくりっていうんだねー。おかーさんがいってたんだよー」
この林に住むゆっくりたちの先祖は、元を辿れば捨てられ野良化し、人間の領域である町で暮らすことを諦め自然に近い場所で暮らすことを決めた者たちである。時々同じ境遇で加入してくる個体もいるため、人間社会に対する情報はあまり風化することなく残され続けていた。
らんはちぇんの言葉にこっくり頷く。
らんはちぇんの言葉にこっくり頷く。
「かいゆっくりはとってもゆっくりできるんだ」
「わからないよー? らんしゃまはかいゆっくりになりたいの?」
「らんはいまでもとってもゆっくりしたきもちだよ。でも、ちぇんといつかおちびちゃんをそだてるときになったら、もっともっともっとゆっくりさせてあげたいんだ」
「そんなさきのことをかんがえているなんてやっぱりらんしゃまはすごいんだねー! わかるよー!」
「わからないよー? らんしゃまはかいゆっくりになりたいの?」
「らんはいまでもとってもゆっくりしたきもちだよ。でも、ちぇんといつかおちびちゃんをそだてるときになったら、もっともっともっとゆっくりさせてあげたいんだ」
「そんなさきのことをかんがえているなんてやっぱりらんしゃまはすごいんだねー! わかるよー!」
二本の尻尾の先っぽをちょんとくっつけてハートマークを作ったちぇんは、らんに擦り寄った。
らんもそんなちぇんと頬をすり合わせて、にこにこと微笑む。
初夏の日差しはきつく、アスファルトは熱を吸収し真夏日を作り出していた。しかし木陰に守られた林はほどよく快適に涼しく、木漏れ日の下で笑いあうらんとちぇんは、とてもゆっくりしていた。
らんもそんなちぇんと頬をすり合わせて、にこにこと微笑む。
初夏の日差しはきつく、アスファルトは熱を吸収し真夏日を作り出していた。しかし木陰に守られた林はほどよく快適に涼しく、木漏れ日の下で笑いあうらんとちぇんは、とてもゆっくりしていた。
飛び魚のアーチをくぐって
「お兄さん、お兄さん! らんの番号は!?」
「待てって! ほら、お前も協力して探せ!」
「待てって! ほら、お前も協力して探せ!」
俺はひしめく人ゴミの中で、押し潰されないように抱え込んでいたらんを頭上に持ち上げた。
電光掲示板には無数の番号が整然と表示され、あちこちから人間の落胆の声やゆっくりの泣き声、あるいは喜びに満ちた声が溢れている。
YPK(ゆっくりペット協会)発行のバッジ認定試験会場のエントランスは、今や厳然たる合格発表の結果に右往左往する者たちの坩堝と化していた。
そんな中、尻尾を垂らして掲示板を見つめていたらんの皮に気合が漲るのが、俺の手に伝わった。
電光掲示板には無数の番号が整然と表示され、あちこちから人間の落胆の声やゆっくりの泣き声、あるいは喜びに満ちた声が溢れている。
YPK(ゆっくりペット協会)発行のバッジ認定試験会場のエントランスは、今や厳然たる合格発表の結果に右往左往する者たちの坩堝と化していた。
そんな中、尻尾を垂らして掲示板を見つめていたらんの皮に気合が漲るのが、俺の手に伝わった。
「お兄さん! あったよ! らんの番号があった!」
「何!? お、マジだ。やったならん!」
「何!? お、マジだ。やったならん!」
俺は手の中ではしゃぐらんを放り上げて、高い高いしてやりたい気分になったが、ぐっと堪えた。人の多い場所でそんなことをやるのは危険だし、迷惑だし、何より金バッジゆっくりの飼い主として軽率な行動だと思えたからだ。
そのかわり、興奮と愛情を伝えるためらんの頭を帽子ごしの撫でてやる。
そのかわり、興奮と愛情を伝えるためらんの頭を帽子ごしの撫でてやる。
「良かったならん! これも全部お前の努力の成果だぞ」
「いえ、全部らんを拾ってくれたお兄さんのおかげです! ありがとう、お兄さん!」
「いえ、全部らんを拾ってくれたお兄さんのおかげです! ありがとう、お兄さん!」
俺たちは、互いを称え合いながらバッジを受け取り、家路についた。
戦勝祝いにフライドチキンのデリバリーを取り、俺はビール、らんには甘酒とメープルシロップをたっぷりかけたビスケットを用意してやり、乾杯する。
戦勝祝いにフライドチキンのデリバリーを取り、俺はビール、らんには甘酒とメープルシロップをたっぷりかけたビスケットを用意してやり、乾杯する。
「それにしても、本当によくやったならん。その金バッジ、中々似合うぜ」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
頭を下げるらんの帽子の三角部分には、燦然と輝く金バッジが付けられていた。
金バッジゆっくりといえばペットショップでも希少種並みにお目にかかることは難しい代物だ。俺の大学時代の友人にはゆっくりブリーダーをしている男がいるが、あまりの金バッジ試験のハードルの高さに奴は商品に金バッジを取得させることを最初から投げているほどである。
何せ金バッジ試験は単純な知能面だけでなく、人間に対してどこまで忠実でありまた良き友として接することができるかという面接試験も行われるし、体力面に毛質や飾りの美しさなども評価の対象に含まれる。
金バッジゆっくりといえばペットショップでも希少種並みにお目にかかることは難しい代物だ。俺の大学時代の友人にはゆっくりブリーダーをしている男がいるが、あまりの金バッジ試験のハードルの高さに奴は商品に金バッジを取得させることを最初から投げているほどである。
何せ金バッジ試験は単純な知能面だけでなく、人間に対してどこまで忠実でありまた良き友として接することができるかという面接試験も行われるし、体力面に毛質や飾りの美しさなども評価の対象に含まれる。
「正直、お前を拾った時はこんな薄汚い奴が何言ってんだと思ったんだが、謝る。悪かったならん。お前は本当にすごい奴だった」
「いえ、らんのわがままを聞いて拾ってくれたお兄さんには感謝してもしきれません。本当にありがとうございます」
「しゃちほこばってそう何度も礼を言うな、こっ恥ずかしい」
「いえ、らんのわがままを聞いて拾ってくれたお兄さんには感謝してもしきれません。本当にありがとうございます」
「しゃちほこばってそう何度も礼を言うな、こっ恥ずかしい」
チキンの味を噛み締めながら、俺はらんと出会った時のことを思い出した。
夏がもうすぐ始まろうとする頃だっただろうか。健康のために徒歩で買い物をしていた俺に、まだ子供だったらんが道路の脇の林から飛び出し『飼いゆっくりにしてくれ。らんは金バッジになりたい』と話しかけてきたのである。
もちろん聞く気もなく通り過ぎようとしたのだが、らんは諦めなかった。そこでふとこんな姿のゆっくりはテレビで見たことはあっても、実物は見たことがない気がして、先ほどの大学時代の友人に写メを送って詳細を聞いてみたのである。
奴はぼそぼそと根暗っぽい喋りで解説してくれた。
夏がもうすぐ始まろうとする頃だっただろうか。健康のために徒歩で買い物をしていた俺に、まだ子供だったらんが道路の脇の林から飛び出し『飼いゆっくりにしてくれ。らんは金バッジになりたい』と話しかけてきたのである。
もちろん聞く気もなく通り過ぎようとしたのだが、らんは諦めなかった。そこでふとこんな姿のゆっくりはテレビで見たことはあっても、実物は見たことがない気がして、先ほどの大学時代の友人に写メを送って詳細を聞いてみたのである。
奴はぼそぼそと根暗っぽい喋りで解説してくれた。
『らん種。市場では相当数出回っているし、野生でもたびたび見かけることは多いが、どちらかというと希少種だな。希少種ってのはその名の通り数が少ないが、らん種はその中じゃ割りと多い方だから準希少種って分類する奴もいる。
特徴としては規律をよく覚え、忠実に守る。数字に強くアラビア数字さえ覚えさせれば算数くらいのレベルなら十分学習可能だ。理屈っぽいところはあるが逆に言えば理屈さえ納得させれば敵意を持つ相手の言うことも聞く。身体能力面も高く、酢飯という中身の特徴からか健康面に関しても頑丈。九本の尻尾は米粒を BB弾みたいにして射出できることが可能で、並みのゆっくり相手なら殺傷可能。基本的に温和な性格だから滅多なことじゃ撃たないがな。
ああ、でもな。ちぇん種って知ってるか? あれが関わったら今言った特徴全部吹き飛ぶ。あん? どういうこったって? 言うな、思い出すだけで胸糞悪い。一言で言うと、らん種とちぇん種は異常な両思いだ。ちょっと吐き気催すくらいの愛情が本能レベルで刻まれている。なんか嫌なことあったのかって? そうだよあいつのせいで百万以上の投資パァになったんだ。これで話おしまいな。
ともかく、拾って邪魔だというのなら俺にくれ。売れた金額の三割はお前にやるよ。飼いたいっていうのならアドバイスくらいはしてやるし、必要なものがあったら入金確認後送ってやる」
特徴としては規律をよく覚え、忠実に守る。数字に強くアラビア数字さえ覚えさせれば算数くらいのレベルなら十分学習可能だ。理屈っぽいところはあるが逆に言えば理屈さえ納得させれば敵意を持つ相手の言うことも聞く。身体能力面も高く、酢飯という中身の特徴からか健康面に関しても頑丈。九本の尻尾は米粒を BB弾みたいにして射出できることが可能で、並みのゆっくり相手なら殺傷可能。基本的に温和な性格だから滅多なことじゃ撃たないがな。
ああ、でもな。ちぇん種って知ってるか? あれが関わったら今言った特徴全部吹き飛ぶ。あん? どういうこったって? 言うな、思い出すだけで胸糞悪い。一言で言うと、らん種とちぇん種は異常な両思いだ。ちょっと吐き気催すくらいの愛情が本能レベルで刻まれている。なんか嫌なことあったのかって? そうだよあいつのせいで百万以上の投資パァになったんだ。これで話おしまいな。
ともかく、拾って邪魔だというのなら俺にくれ。売れた金額の三割はお前にやるよ。飼いたいっていうのならアドバイスくらいはしてやるし、必要なものがあったら入金確認後送ってやる」
不安そうに俺を見上げるらんと向かいあいながら、俺は友人の解説を聞き終えた。
奴はらん種の相場価格を教えてくれなかったが、とにかくペットショップで買うと高くつくゆっくりだということだけはわかった。
ボッたくられることを警戒して、俺はらんを飼うことに決めた。一人暮らしで寂しかったというのもあるし、どうせ飼うなら飼いやすいゆっくりが良かった。その点、友人の説明した特徴はかなり飼いゆ向きだと思ったのである。
家に持って帰ってらんをシャワーで洗い、友人にゆっくりを飼う基本を教えてもらった。ゆん医に連れて行って予防接種を打ち、YPKに申請して銅バッジを貰う。そうやって基本的な手続きを済ませて人心地ついてから、ふとバッジが気になったのだ。
奴はらん種の相場価格を教えてくれなかったが、とにかくペットショップで買うと高くつくゆっくりだということだけはわかった。
ボッたくられることを警戒して、俺はらんを飼うことに決めた。一人暮らしで寂しかったというのもあるし、どうせ飼うなら飼いやすいゆっくりが良かった。その点、友人の説明した特徴はかなり飼いゆ向きだと思ったのである。
家に持って帰ってらんをシャワーで洗い、友人にゆっくりを飼う基本を教えてもらった。ゆん医に連れて行って予防接種を打ち、YPKに申請して銅バッジを貰う。そうやって基本的な手続きを済ませて人心地ついてから、ふとバッジが気になったのだ。
『らん、確かお前金バッジになりたいって言ってたな。なんでだ?』
『ちぇんをゆっくりさせるためだよ!」
『ちぇんをゆっくりさせるためだよ!」
いわく、らんはあの林に許婚のちぇんにもっといい暮らしをさせるといって、飛び出てきたらしい。人間の保護の下で暮らせば一生喰う寝る所住む所に困らないゆっくりした生活を送れる、と。
話を聞いた当初は条件を飲む気などさらさらなかった。しかし一緒に暮らしていくうちに情も湧いてきたし、友人の言った通りらん種の頭の良さに感心させられる部分も多かった。だから試しに一度銀バッジ試験を受けさせたところ、全く受験勉強をしていないにも関わらず一発合格してしまったのである。
それから俺はらんの本気を見てみたくなった。ネットで見たちぇん種も可愛く思えたし、一緒に飼うのも悪くないと考えた。
そして、この秋の金バッジ認定試験に、見事らんは合格したのである。
話を聞いた当初は条件を飲む気などさらさらなかった。しかし一緒に暮らしていくうちに情も湧いてきたし、友人の言った通りらん種の頭の良さに感心させられる部分も多かった。だから試しに一度銀バッジ試験を受けさせたところ、全く受験勉強をしていないにも関わらず一発合格してしまったのである。
それから俺はらんの本気を見てみたくなった。ネットで見たちぇん種も可愛く思えたし、一緒に飼うのも悪くないと考えた。
そして、この秋の金バッジ認定試験に、見事らんは合格したのである。
「今日はもう遅いが、明日は日曜だ。冬も近いし明日里帰りして、ちぇんを迎えに行くか?」
「そうですね」
「立派になったお前を見て、ちぇんびっくりするだろうなぁ。あんまりびっくりしてチョコ吐いちまうかもよ」
「そ、そ、そ、そんなこと!? も、もしそうだとしたら、らんはどうしたら……」
「バカ、真面目に悩むな。オレンジジュースくらい持参してやるよ」
「そうですね」
「立派になったお前を見て、ちぇんびっくりするだろうなぁ。あんまりびっくりしてチョコ吐いちまうかもよ」
「そ、そ、そ、そんなこと!? も、もしそうだとしたら、らんはどうしたら……」
「バカ、真面目に悩むな。オレンジジュースくらい持参してやるよ」
らんをからかったり、今までの苦労を語り合ったりしながら夜は更けていった。
そして翌日、約束通り俺はらんを故郷である林まで連れて行ってやった。
人間である俺を見るとちぇんたちは怯えて逃げてしまうかもしれないので、俺は車の中で待機することになった。
林の中に消えていったらんの背中を見送り、手持ち無沙汰になった俺は多頭飼いの心得を学ぶべく携帯電話を手にとることにした。
ブリーダーをしている友人はぶっきらぼうな声で電話に出た。
人間である俺を見るとちぇんたちは怯えて逃げてしまうかもしれないので、俺は車の中で待機することになった。
林の中に消えていったらんの背中を見送り、手持ち無沙汰になった俺は多頭飼いの心得を学ぶべく携帯電話を手にとることにした。
ブリーダーをしている友人はぶっきらぼうな声で電話に出た。
『もしもし』
「おう、久しぶり。らん、金取ったよ」
『そうか、良かったな』
「いや、お前のアドバイスとか教えてくれたサイトとか本とか、本当色々役に立ったよ。ありがとうな」
『らんの影響か? お前、妙に礼儀正しくなっている気がするんだが』
「お前は本当に無礼な奴だよな」
『無礼講だよ。で、だ。お礼代わりと言っちゃなんだがそのらんの精子餡、ちょいと分けてもらいたいんだが。ウチにも種ゆ用のらんがいるんだが、母胎としてもまだ使えるからな。上手くするとらん種を量産できるかもしれん』
「やっぱお前がタダで協力するとは思ってなかったよ」
『タダより高いものは世の中には無いんだぜ? とは言っても本ゆんの自由意志くらいは尊重するがな。ちょいとらんと替わってくれ。らん自身と話がしたい』
「あ、悪い。今あいつ出かけている」
『金バッジらんを放し飼いにでもしてんのか? 俺みたいな悪どいブリーダーに捕まって種ゆか母胎ゆかに使われても知らんぞ』
「……そんなことする奴いるのか?」
『いる。俺だって身元のわからないらんを見つけたら即捕獲する。誰だってそーする』
「いや、でもらんはGPS発信機埋め込んでいるんだが」
『だから、それも引っこ抜いて持ってくんだよ』
「……わかった。気をつける。ただ、まあ今回は大丈夫だと思うよ。生まれ故郷の林に一次帰省しただけだから」
『そんな都会で一山当てたあんちゃんが田舎に帰っておかんとおとんをびっくりさせておきながら老後の面倒見ないと断言して空気最悪みたいな真似させてどうするんだ』
「……言われてみればその通りなんだが、らんには許婚のちぇんがいるそうだ。そいつを迎えに行くんだとよ。そのためにあいつはわざわざ飼いゆになったし、金バッジも目指したんだ」
『フムン? それなら別に銅バッジでもいいじゃねぇか。おそらくそのらん、金バッジについて穿った認識をしているな』
「お前のバッジに対する見方の方が穿っていると思うんだが」
『そうか? あんなもん、飼う時の指針にしかならねぇじゃん。俺は正直バッジの段階制度なんかいらんと思ってるよ』
「初心者にはありがたいシステムだよ」
『そうだろうな。それより……お前がらんを拾ったのはいつだったっけ?』
「えーと、七月くらいだったっけな」
『今十月過ぎだから……うーん。ま、いいか。またわからんことあったらメールでも寄越せ。いきなり電話は、ウチのゆっくりどもをビビらせることがあるから控えてほしい』
「ああ、そうだった。悪い悪い。じゃ、またな」
「おう、久しぶり。らん、金取ったよ」
『そうか、良かったな』
「いや、お前のアドバイスとか教えてくれたサイトとか本とか、本当色々役に立ったよ。ありがとうな」
『らんの影響か? お前、妙に礼儀正しくなっている気がするんだが』
「お前は本当に無礼な奴だよな」
『無礼講だよ。で、だ。お礼代わりと言っちゃなんだがそのらんの精子餡、ちょいと分けてもらいたいんだが。ウチにも種ゆ用のらんがいるんだが、母胎としてもまだ使えるからな。上手くするとらん種を量産できるかもしれん』
「やっぱお前がタダで協力するとは思ってなかったよ」
『タダより高いものは世の中には無いんだぜ? とは言っても本ゆんの自由意志くらいは尊重するがな。ちょいとらんと替わってくれ。らん自身と話がしたい』
「あ、悪い。今あいつ出かけている」
『金バッジらんを放し飼いにでもしてんのか? 俺みたいな悪どいブリーダーに捕まって種ゆか母胎ゆかに使われても知らんぞ』
「……そんなことする奴いるのか?」
『いる。俺だって身元のわからないらんを見つけたら即捕獲する。誰だってそーする』
「いや、でもらんはGPS発信機埋め込んでいるんだが」
『だから、それも引っこ抜いて持ってくんだよ』
「……わかった。気をつける。ただ、まあ今回は大丈夫だと思うよ。生まれ故郷の林に一次帰省しただけだから」
『そんな都会で一山当てたあんちゃんが田舎に帰っておかんとおとんをびっくりさせておきながら老後の面倒見ないと断言して空気最悪みたいな真似させてどうするんだ』
「……言われてみればその通りなんだが、らんには許婚のちぇんがいるそうだ。そいつを迎えに行くんだとよ。そのためにあいつはわざわざ飼いゆになったし、金バッジも目指したんだ」
『フムン? それなら別に銅バッジでもいいじゃねぇか。おそらくそのらん、金バッジについて穿った認識をしているな』
「お前のバッジに対する見方の方が穿っていると思うんだが」
『そうか? あんなもん、飼う時の指針にしかならねぇじゃん。俺は正直バッジの段階制度なんかいらんと思ってるよ』
「初心者にはありがたいシステムだよ」
『そうだろうな。それより……お前がらんを拾ったのはいつだったっけ?』
「えーと、七月くらいだったっけな」
『今十月過ぎだから……うーん。ま、いいか。またわからんことあったらメールでも寄越せ。いきなり電話は、ウチのゆっくりどもをビビらせることがあるから控えてほしい』
「ああ、そうだった。悪い悪い。じゃ、またな」
電話を切った。
あいつが最後に言葉を濁した話の内容が気になるが、ゆっくりに関しては俺よりはるかにプロのあいつが検討すべきことではないと判断したことだ。深く考える必要は無いだろう。
そこで、俺はふと気づいた。
多頭飼いの心得は飯粒ひとかけらほども教えてもらっていない。
……なんのために電話かけたんだ。
あいつが最後に言葉を濁した話の内容が気になるが、ゆっくりに関しては俺よりはるかにプロのあいつが検討すべきことではないと判断したことだ。深く考える必要は無いだろう。
そこで、俺はふと気づいた。
多頭飼いの心得は飯粒ひとかけらほども教えてもらっていない。
……なんのために電話かけたんだ。
「お兄さん!」
メールをめるめる打っていると、車の外かららんの切羽詰まった声が聞こえた。
俺は嫌な予感を覚えて顔を上げる。すると、チョコレートで帽子を汚し涙を目尻にいっぱい溜めたらんが林から飛び出してきたところだった。
携帯を放り出し、俺は車から飛び出す。
俺は嫌な予感を覚えて顔を上げる。すると、チョコレートで帽子を汚し涙を目尻にいっぱい溜めたらんが林から飛び出してきたところだった。
携帯を放り出し、俺は車から飛び出す。
「どうしたらん!」
「ちぇんが……ちぇんがああああ!」
「まさか、死……」
「生きてます! ちぇんは生きてますうううううう! お兄さん、だから、だからだから!」
「わかってる。案内しろらん!」
「ちぇんが……ちぇんがああああ!」
「まさか、死……」
「生きてます! ちぇんは生きてますうううううう! お兄さん、だから、だからだから!」
「わかってる。案内しろらん!」
林に分け入るような格好をしてきたわけではないのだが、この際そんなことも言ってられない。俺はらんに案内されて、腐葉土の上で横たわるちぇんを見つけた。
酷い姿だった。底部はずたずたに裂かれ、チョコレートがどんどん漏れ出している。口の下には枝が何本も突き刺さっており、声も出せないのか白目を剥いて身悶えするばかりの有様には心が痛んだ。
俺は着ていたジャケットを脱いでちぇんをそれに乗せ、抱え込んだ。
酷い姿だった。底部はずたずたに裂かれ、チョコレートがどんどん漏れ出している。口の下には枝が何本も突き刺さっており、声も出せないのか白目を剥いて身悶えするばかりの有様には心が痛んだ。
俺は着ていたジャケットを脱いでちぇんをそれに乗せ、抱え込んだ。
ちぇんは一命を取り留めた。治療したゆん医に言わせると、そもそも致命傷になるような傷は受けていないとのことであった。
ただ、枝を突き刺された場所はゆっくりの発声器官に当たる場所だったらしい。そのためちぇんは、もしかすると一生声が出せない体になったのかもしれないのだという。
包帯を巻かれ、今は安静剤で安らかな寝顔を浮かべている後部座席のちぇんを見ながら、俺は肩を落とした。
ただ、枝を突き刺された場所はゆっくりの発声器官に当たる場所だったらしい。そのためちぇんは、もしかすると一生声が出せない体になったのかもしれないのだという。
包帯を巻かれ、今は安静剤で安らかな寝顔を浮かべている後部座席のちぇんを見ながら、俺は肩を落とした。
「ちぇんの『わかるよー』っていう鳴き声を生で聞くの、結構楽しみにしてたんだけどな……」
「ごめ゛ん゛な゛さ゛い゛、お゛に゛い゛さ゛ん゛……」
「お前が謝るこたぁない。でも、何があったのか教えてくれ」
「ごめ゛ん゛な゛さ゛い゛、お゛に゛い゛さ゛ん゛……」
「お前が謝るこたぁない。でも、何があったのか教えてくれ」
助手席に座ったらんは訥々といきさつを話してくれた。
らんが故郷に着くと、そこはゲスみょんに暴力で支配されていたらしい。親も家族もそのみょんによって殺され、ちぇんはなんとそのみょんの手篭めにされていたという。
怒り狂ったらんはみょんと戦い、倒したが、その戦闘の最中、みょんがちぇんを人質に取ったのだ。ちぇんの傷はその時のものらしい。
耳と尻尾を垂らしたらんになんと話しかけたらいいのかわからず、俺は言葉に詰まった。
らんが故郷に着くと、そこはゲスみょんに暴力で支配されていたらしい。親も家族もそのみょんによって殺され、ちぇんはなんとそのみょんの手篭めにされていたという。
怒り狂ったらんはみょんと戦い、倒したが、その戦闘の最中、みょんがちぇんを人質に取ったのだ。ちぇんの傷はその時のものらしい。
耳と尻尾を垂らしたらんになんと話しかけたらいいのかわからず、俺は言葉に詰まった。
「ち゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ん゛……」
「……その、さ。でも、ちぇんは生きているだろ? 声だって、リハビリが上手く行くと戻るってお医者さんも言ってたし。らん……お前はよくやったよ」
「ゆ゛っ゛、ゆ゛っ゛……」
「それに、お前がいなきゃちぇんは救い出されることもなかったわけだし……」
「げどぉ゛、げどぉ゛…………ち゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ん゛!!」
「……その、さ。でも、ちぇんは生きているだろ? 声だって、リハビリが上手く行くと戻るってお医者さんも言ってたし。らん……お前はよくやったよ」
「ゆ゛っ゛、ゆ゛っ゛……」
「それに、お前がいなきゃちぇんは救い出されることもなかったわけだし……」
「げどぉ゛、げどぉ゛…………ち゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ん゛!!」
ぼろぼろと涙を零すらんに、俺はそんな言葉しかかけられなかった。
一週間もすると、ちぇんは自力で移動することができるようになるまで回復した。
らんはちぇんを甲斐甲斐しく世話した。おかげで俺はいつも通りに出勤できるわけだが、やはり心配は絶えない。
なぜなら、ちぇんはらんに対してなぜかひどく怯えるのだ。
らんはちぇんを甲斐甲斐しく世話した。おかげで俺はいつも通りに出勤できるわけだが、やはり心配は絶えない。
なぜなら、ちぇんはらんに対してなぜかひどく怯えるのだ。
「ちぇん、ほら、ごはんさんだよ。らんが食べさせてあげるね」
「……ッ!!」
「……ッ!!」
ちぇんは身体を左右に振って拒否し、ぴょんぴょんと跳ねて部屋の隅まで行くと、らんに対して正面向かい、猫のように尻尾の毛を逆立てて威嚇した。声さえ出るならフゥゥゥーッ!! と言っていることだろう。
らんはそんなちぇんに困惑した表情を浮かべ、口にくわえたスプーンと一緒に尻尾や耳をだらりと垂れ下げた。
俺はそんな様子を動画に撮り、メールとしてブリーダーの友人に送った。
らんはそんなちぇんに困惑した表情を浮かべ、口にくわえたスプーンと一緒に尻尾や耳をだらりと垂れ下げた。
俺はそんな様子を動画に撮り、メールとしてブリーダーの友人に送った。
『珍しいな。ここまでちぇん種がらん種に敵意を剥き出しにするなんて。話に聞くだけじゃ嘘だろと思っていたんだが』
「だから動画にして送ったんだろーが。なぁ、お前ゆっくりに詳しいだろ? なんとかならないか?」
『俺はどうしようもないゆっくりは潰して捕食種に食わせて対処しているんだぜ。ゆっくりの神様じゃない。……でも、まぁ、な。確か、俺は話聞いた時に最初「ちぇんは事件の後遺症で怯えてなんでもかんでも敵に見えているんじゃないか」って推測したよな』
「おう」
『でも、お前に対して割とちぇんはフレンドリーなんだよな』
「そうだ。おいらん、悪いけどお前はあっち行ってろ。心配するのはわかるがちぇんはもう一人でメシくらい食える」
「わかりました……」
「だから動画にして送ったんだろーが。なぁ、お前ゆっくりに詳しいだろ? なんとかならないか?」
『俺はどうしようもないゆっくりは潰して捕食種に食わせて対処しているんだぜ。ゆっくりの神様じゃない。……でも、まぁ、な。確か、俺は話聞いた時に最初「ちぇんは事件の後遺症で怯えてなんでもかんでも敵に見えているんじゃないか」って推測したよな』
「おう」
『でも、お前に対して割とちぇんはフレンドリーなんだよな』
「そうだ。おいらん、悪いけどお前はあっち行ってろ。心配するのはわかるがちぇんはもう一人でメシくらい食える」
「わかりました……」
らんはすごすごと引き下がり、ベッドで丸くなった。そんならんを睨みつけているちぇんとの間に俺は割って入り、フードボウルをちぇんの前に持って行ってやる。
するとちぇんは俺とらんの顔色を伺うようにしながら、少しずつフードを食べ始めた。
するとちぇんは俺とらんの顔色を伺うようにしながら、少しずつフードを食べ始めた。
『俺の推測としては、おそらくちぇんは怒り狂ってみょんと戦うらんの様子がトラウマの記憶と結びついていて、ゆっくりできない気持ちになるんだろうと考えている。マジ切れした時のらん種の顔って怖いからな』
「じゃあどうすればいいんだ?」
『らんと離して飼うべきだな』
「ちょ、おまっ」
『わかってる。らんはそのちぇんと許婚で、そいつのために色んな努力をしたんだろう? でも、ちぇんの幸せはもうらんと共に無いんだ。らんのことだけ考えるんじゃない。……一度、らんとゆっくりこの件について、話しておけ。俺も色々調べておくから』
「わかった。恩に着る」
『そりゃ売っているからな。そうか。恩って服だったのか』
「じゃあどうすればいいんだ?」
『らんと離して飼うべきだな』
「ちょ、おまっ」
『わかってる。らんはそのちぇんと許婚で、そいつのために色んな努力をしたんだろう? でも、ちぇんの幸せはもうらんと共に無いんだ。らんのことだけ考えるんじゃない。……一度、らんとゆっくりこの件について、話しておけ。俺も色々調べておくから』
「わかった。恩に着る」
『そりゃ売っているからな。そうか。恩って服だったのか』
数日後、会社から帰ってくると、ちぇんの頭から茎が生えていた。
「お兄さん、お仕事お疲れ様です! お帰りなさい!」
床に鞄を落とした俺をらんが労った。いつもなら頭を撫でて挨拶し返す所だが、俺は即座にらんの頬を両手で掴み額と額をくっつけて叫んだ。
「何勝手に子作りしてんだお前は!!」
「ご、ごめんなさいいぃぃぃっ!」
「大体、ちぇんはお前に怯えているってのに、どうやって……ああ、ちぇん、そんなにビビるな。大丈夫だから」
「ご、ごめんなさいいぃぃぃっ!」
「大体、ちぇんはお前に怯えているってのに、どうやって……ああ、ちぇん、そんなにビビるな。大丈夫だから」
らんを床に置き、俺はちぇんに近寄ろうとしたが頭の実ゆを守ろうとしているのかぷくーっ! をして威嚇してくる始末である。
とりあえず、何からどうすればいいのか。混乱する頭をなだめすかし、とりあえず部屋着に着替えた俺はたびたび申し訳ない気持ちを抱きながら例の友人に電話をかけた。
とりあえず、何からどうすればいいのか。混乱する頭をなだめすかし、とりあえず部屋着に着替えた俺はたびたび申し訳ない気持ちを抱きながら例の友人に電話をかけた。
『あん? 勝手に子供作ったァ? 早く理由を問いただせ。でないと餡子脳だからすぐ忘れるぞ』
「了解。おいらん、バッジ試験でもさんざん聞かれたはずだぞ。飼い主の許可無く子供を作っちゃいけないって。なんでそれを破った」
「ごめんなさいお兄さん! ちぇんはいつまでたってもらんの気持ちをわかってくれないけど、らんとの間のおちびちゃんができればきっと機嫌を直すだろうと思って……」
『殴れ』
「了解。おいらん、バッジ試験でもさんざん聞かれたはずだぞ。飼い主の許可無く子供を作っちゃいけないって。なんでそれを破った」
「ごめんなさいお兄さん! ちぇんはいつまでたってもらんの気持ちをわかってくれないけど、らんとの間のおちびちゃんができればきっと機嫌を直すだろうと思って……」
『殴れ』
携帯越しにでもらんの声は聞こえたらしく、友人は容赦なく俺に命令した。
しかし、涙を滝のように流しながら謝罪するらんを見ると、どうしても手を上げる気など起きない。結局俺は、行き場のない拳を握ったまま会話を続けることにした。
しかし、涙を滝のように流しながら謝罪するらんを見ると、どうしても手を上げる気など起きない。結局俺は、行き場のない拳を握ったまま会話を続けることにした。
「……で、どうすりゃいいんだ?」
『ちぇんの食餌をカロリーの高いものに切り替えろ。辛くなきゃお前の飯分けてやってもいい。共食いみたいだが、チョコレートは特に良い。栄養状態が良けりゃ一週間以内に産まれるはずだ。母体の世話自体は、本来なららんに任せておけばいいんだがな……たぶんちぇんが拒むだろう。産まれた赤ゆは全部俺が引き取ってやる』
「助かる……が、らんの言うことにも一理はあると思うんだ。一匹くらいは残してやれる余裕はある。……こいつらだけで子育てできるなら、の話だが」
「大丈夫です! らんはちぇんの面倒もおちびちゃんの面倒も見れます!」
『お前らがそう言うなら俺に止める権利はない。しかし……』
「どうした?」
『らんに聞かれたら困る話だ。お前、ちょっとトイレにでも引きこもれ』
『ちぇんの食餌をカロリーの高いものに切り替えろ。辛くなきゃお前の飯分けてやってもいい。共食いみたいだが、チョコレートは特に良い。栄養状態が良けりゃ一週間以内に産まれるはずだ。母体の世話自体は、本来なららんに任せておけばいいんだがな……たぶんちぇんが拒むだろう。産まれた赤ゆは全部俺が引き取ってやる』
「助かる……が、らんの言うことにも一理はあると思うんだ。一匹くらいは残してやれる余裕はある。……こいつらだけで子育てできるなら、の話だが」
「大丈夫です! らんはちぇんの面倒もおちびちゃんの面倒も見れます!」
『お前らがそう言うなら俺に止める権利はない。しかし……』
「どうした?」
『らんに聞かれたら困る話だ。お前、ちょっとトイレにでも引きこもれ』
奴の言う通りトイレにこもるのは癪だったので、風呂場に引きこもる。
部屋からはらんがちぇんと子供に話しかける優しげな声が聞こえてきた。
部屋からはらんがちぇんと子供に話しかける優しげな声が聞こえてきた。
『実はな。喉が潰れたゆっくりの言葉を聞ける機械があるんだ』
「マジか」
『ただ、まあ高くてな。知り合いのゆん医のものを借りる形になる。持ち運びができるようなもんでもないから、ちぇんをそのゆん医の所にまで連れてゆくことになるが、どうだ?』
「それ、どのあたりなんだ?」
「マジか」
『ただ、まあ高くてな。知り合いのゆん医のものを借りる形になる。持ち運びができるようなもんでもないから、ちぇんをそのゆん医の所にまで連れてゆくことになるが、どうだ?』
「それ、どのあたりなんだ?」
奴が言った住所は、近いとは言えないが日帰りで行けない場所ではなかった。
妊娠中のちぇんに長距離移動を強いるのは酷だろう。赤ゆが生まれて、引き取ってもらう時、ついでという形にするのはどうかと提案すると、奴はよしと言った。
妊娠中のちぇんに長距離移動を強いるのは酷だろう。赤ゆが生まれて、引き取ってもらう時、ついでという形にするのはどうかと提案すると、奴はよしと言った。
『どうもきな臭くてな。ちぇんの口から事件のあらましを聞きたかったんだ』
「きな臭い? 何がだ」
『ちぇん自身の口から話聞くまでは俺からは何も言えんよ。とりあえず、部屋はずっと暖かくしといてやれ。毛布敷いたベッドも忘れずにな。非常用に食糧も常に用意しといてやれ。らんがいれば無駄に食ったりさせないだろうし』
「ああ……」
「きな臭い? 何がだ」
『ちぇん自身の口から話聞くまでは俺からは何も言えんよ。とりあえず、部屋はずっと暖かくしといてやれ。毛布敷いたベッドも忘れずにな。非常用に食糧も常に用意しといてやれ。らんがいれば無駄に食ったりさせないだろうし』
「ああ……」
俺は少し茫洋とした気分で答え、電話を切った。
風呂場から出てきた俺はちぇんと頬を擦り合わせようとして、尻尾で追い払われるらんに話しかけた。
風呂場から出てきた俺はちぇんと頬を擦り合わせようとして、尻尾で追い払われるらんに話しかけた。
「なあらん。あいかわらずちぇんとは素っ気無いようだが、そんなんでよく交尾できたな」
「こーび?」
「ええと、人間でいうとセックス」
「人間さんの言葉はちゃんと勉強してないのでわかりません……ごめんなさい」
「いや、ゆっくり語を覚えてない俺も悪いんだが……なんだったっけ。まぁ、なんだ」
「こーび?」
「ええと、人間でいうとセックス」
「人間さんの言葉はちゃんと勉強してないのでわかりません……ごめんなさい」
「いや、ゆっくり語を覚えてない俺も悪いんだが……なんだったっけ。まぁ、なんだ」
あまり言いたくないが、これははっきりと覚えた感情だった。俺はらんに会社の愚痴を色々零してきたし、人には言えないこともたくさん言った。らんにだけは素直でありたいと俺は思っていた。
だから、これも包み隠さず言うことにした。
だから、これも包み隠さず言うことにした。
「今日ばかりは、少しだけお前を軽蔑したよ」
らんの言う通り、確かに子供ができてからちぇんのらんに対する態度は軟化した。
そして友人の言った通り五日後、家に帰るとちぇんの頭に生えた茎が取れており、そのかわりに舌っ足らずな赤ゆが三匹ほどちょろちょろと床を這っていた。
三匹ともちぇん種。子供たちは父親であるらんには屈託なく接しており、ちぇんがいなくとも世話は任せられそうだったが、そのちぇんがらんにあまり子供の世話をさせたくないようだった。
そして、来る土曜日。俺はケージの中にちぇんと赤ゆ三匹を入れ、車に乗り込んだ。
そして友人の言った通り五日後、家に帰るとちぇんの頭に生えた茎が取れており、そのかわりに舌っ足らずな赤ゆが三匹ほどちょろちょろと床を這っていた。
三匹ともちぇん種。子供たちは父親であるらんには屈託なく接しており、ちぇんがいなくとも世話は任せられそうだったが、そのちぇんがらんにあまり子供の世話をさせたくないようだった。
そして、来る土曜日。俺はケージの中にちぇんと赤ゆ三匹を入れ、車に乗り込んだ。
「おう、久しぶり。顔を合わせるのは卒業以来だな」
「ああ、老けたな」
「ああ、老けたな」
ゆん医の駐車場で俺を待っていた友人は失礼な一言だけ吐き、俺の手にあるケージを覗き込んだ。
ちぇんは自分の後ろに隠した赤ゆたちを守るようにしている。それをつまらなさそうに見た奴は、病院を指差した。
ちぇんは自分の後ろに隠した赤ゆたちを守るようにしている。それをつまらなさそうに見た奴は、病院を指差した。
「行こうぜ。用意はもうできている」
「ああ……ちょっと不安だな」
「安全な機器だよ。問題ない」
「ああ……ちょっと不安だな」
「安全な機器だよ。問題ない」
受付を済ませて診療室に入る。白衣を着た先生はちぇんをプロの手つきでなだめすかせ、聴診器のような器具を塞がった傷口に当てた。
そうしてから先生は診療台の隣に置かれたパソコンを見るよう、俺をうながす。
そうしてから先生は診療台の隣に置かれたパソコンを見るよう、俺をうながす。
「この機械はゆっくりの声を壊れた喉の振動から逆算して音として解析し、アルファベット表記で出力するものです。翻訳ソフトはありますが、あまりあてになりませんからね。私が口で翻訳しますから、ちぇんちゃんとの会話は飼い主さんがやっていただけますか?」
「わかりました。……ちぇん、ちょっと喋ってくれないか?」
「わかりました。……ちぇん、ちょっと喋ってくれないか?」
ちぇんは俺の言葉に首を傾げたようだ。しかし、しばらくするとおずおずと口をぱくぱくさせる。
すると後ろの先生が
すると後ろの先生が
「わかるよー」
と言った。
俺は思わず先生を振り返る。ちょっと照れ臭そうな顔をしていた。
奴が俺を小突いた。
俺は思わず先生を振り返る。ちょっと照れ臭そうな顔をしていた。
奴が俺を小突いた。
「真面目なとこだ。ちゃんとやれ」
「わ、わかってる。ええと、ちぇん。お前の言葉は先生が喋ってくれるんだ。だからお前と俺はお話ができる……わかるか?」
「わかるよー」
「よし、いい子だ。じゃあさっそくだが、お前がウチに来た日……らんがお前を助けた日のことを教えてほしい」
「わ、わかってる。ええと、ちぇん。お前の言葉は先生が喋ってくれるんだ。だからお前と俺はお話ができる……わかるか?」
「わかるよー」
「よし、いい子だ。じゃあさっそくだが、お前がウチに来た日……らんがお前を助けた日のことを教えてほしい」
ちぇんはそれを聞いたとたん、今まで不安げにしていた形相を一変させ、凶悪な顔つきで何事かをまくしたて始めた。
俺はそれに気圧され、思わず先生に視線を送ってしまう。先生も眉根を寄せ、やがて翻訳しだした。
俺はそれに気圧され、思わず先生に視線を送ってしまう。先生も眉根を寄せ、やがて翻訳しだした。
「……要約して、お伝えします。らんは助けていない。私はらんに襲われて、こんなことになってしまった。……らんを、その……」
「殺せと言ってるんですね。先生」
「殺せと言ってるんですね。先生」
奴が言いにくそうにしている先生の言葉を代役した。
俺は突然のことに困惑する。ちぇんの必死な顔を見なければ、ホラを吹かれていると思っただろう。
俺は突然のことに困惑する。ちぇんの必死な顔を見なければ、ホラを吹かれていると思っただろう。
「どういうことだ。詳しく聞かせてくれないか」
先生自身の質問も交え、ちぇんから聞き出した事の経緯は以下のようなものだった。
ちぇんとらんは確かに婚約していた仲だった。だがらんは人間さん――つまり俺にさらわれ、二度と帰ってこないだろうと両親からちぇんは聞かされたらしい。
もちろんちぇんはそんなことは信じなかった。だが月日が経ち、越冬準備をしなければいけない時期になって、番がいないことに不安を覚え始めていた。
そんな時、林の群れに一匹のみょんが訪れた。町の野良暮らしに嫌気が差したというみょんは体力こそ素晴らしかったが、野生暮らしに慣れておらずちぇんが色々と世話をしてやった。
そうするうちにちぇんとみょんは次第に仲良くなり、やがてみょんはちぇんと結婚したいと言い出した。
らんとの想いを断ち切れなかったちぇんだが、想いを受け取らなければ切腹するとまで言い出したみょんの気迫に押され、結局二匹は子供まで作ってしまった。
そうすると母性本能が勝ってしまい、ちぇんはらんのことなどすっかり忘れて幸せに暮らしていた。
そこに、らんが帰ってきた。
らんはみょんと仲睦まじく暮らし、赤ちぇんと赤みょんを甲斐甲斐しく世話するちぇんを見て、半狂乱の体になって襲い掛かってきた。
みょんはらんと戦ったが、結局傷一つ負わせられず殺された。そしてちぇんはなぜ待っていてくれなかったと泣き叫ぶらんにあんよを噛み裂かれ、そして目の前で一匹一匹我が子を殺された。
とどめとばかり、絶望するちぇんの喉を執拗に枝で潰したらんは、全てを終えてから俺を呼んできた。
そして、俺が出かけている間、らんは自分といた方がゆっくりできるだろうと何度も何度も問いかけてきた。
子供も本当は作りたくなかった。無理矢理らんに組み伏せられて、抵抗できずにできてしまった子供らしい。
何より恐ろしかったのは、ここにいる子供は本当は四匹姉妹だったのだという。一匹だけ、らん種がいたのだ。だがそいつは俺が出かけている間に、ちぇんが実ゆの間に潰して喰ったのだと。
ちぇんとらんは確かに婚約していた仲だった。だがらんは人間さん――つまり俺にさらわれ、二度と帰ってこないだろうと両親からちぇんは聞かされたらしい。
もちろんちぇんはそんなことは信じなかった。だが月日が経ち、越冬準備をしなければいけない時期になって、番がいないことに不安を覚え始めていた。
そんな時、林の群れに一匹のみょんが訪れた。町の野良暮らしに嫌気が差したというみょんは体力こそ素晴らしかったが、野生暮らしに慣れておらずちぇんが色々と世話をしてやった。
そうするうちにちぇんとみょんは次第に仲良くなり、やがてみょんはちぇんと結婚したいと言い出した。
らんとの想いを断ち切れなかったちぇんだが、想いを受け取らなければ切腹するとまで言い出したみょんの気迫に押され、結局二匹は子供まで作ってしまった。
そうすると母性本能が勝ってしまい、ちぇんはらんのことなどすっかり忘れて幸せに暮らしていた。
そこに、らんが帰ってきた。
らんはみょんと仲睦まじく暮らし、赤ちぇんと赤みょんを甲斐甲斐しく世話するちぇんを見て、半狂乱の体になって襲い掛かってきた。
みょんはらんと戦ったが、結局傷一つ負わせられず殺された。そしてちぇんはなぜ待っていてくれなかったと泣き叫ぶらんにあんよを噛み裂かれ、そして目の前で一匹一匹我が子を殺された。
とどめとばかり、絶望するちぇんの喉を執拗に枝で潰したらんは、全てを終えてから俺を呼んできた。
そして、俺が出かけている間、らんは自分といた方がゆっくりできるだろうと何度も何度も問いかけてきた。
子供も本当は作りたくなかった。無理矢理らんに組み伏せられて、抵抗できずにできてしまった子供らしい。
何より恐ろしかったのは、ここにいる子供は本当は四匹姉妹だったのだという。一匹だけ、らん種がいたのだ。だがそいつは俺が出かけている間に、ちぇんが実ゆの間に潰して喰ったのだと。
「……飼い主さんのくれるごはんはとてもおいしい。けど、みょんとそのあいだにできたこどもたちと食べた松ぼっくりの方が、もっともっとずっとおいしかった……と」
「……先生、わかりました。ちぇん、お話はおしまいだ。もう、いいよ」
「……先生、わかりました。ちぇん、お話はおしまいだ。もう、いいよ」
俺はちぇんの頭を撫で、大きく息をついた。
友人は組んでいた腕をほどき、先生に話しかける。
友人は組んでいた腕をほどき、先生に話しかける。
「赤ちぇんたちの健康診断、済ませしょうか」
「え……あ、ああ。そうですね」
「え……あ、ああ。そうですね」
「わきゃりゃにゃいよー? おにーしゃん、ゆっくちしちぇいっちぇね!」
俺の手の中で、赤ちぇんがにこにこと笑っていた。
病院から出た俺たちは、車の後部座席で顔をくっつけ合わせている。友人は赤ちぇん三匹をそれぞれ丹念に見ながら、俺に話しかけた。
病院から出た俺たちは、車の後部座席で顔をくっつけ合わせている。友人は赤ちぇん三匹をそれぞれ丹念に見ながら、俺に話しかけた。
「で、どうするんだ」
「……俺が聞きたい」
「このまま、らんとちぇんを飼い続けるのだけはやめたほうがいいとは思うが」
「わかってる。……らんを、手放す。でも、あいつも別に悪い奴じゃないんだ。……わかってるんだ。でも、俺はもうあいつを好きになることができない。誰か、事情の知らない人に可愛がってもらった方が、きっとあいつもゆっくりできるはずだ」
「そうか。らんのことを許せないっていうんなら、俺が引き取ってやるつもりだったが」
「どうせ母体か種ゆにするんだろう。ひでぇことしてるよお前は」
「百も承知だ。でも、俺が言い出したことだがらんとちぇんを飼い続けることはできないわけじゃないぜ。ゆっくりの記憶を操作する術はもう大分研究されている。お互いトラウマになっている記憶を除くことくらいは簡単にできるが?」
「で、あんな惨い事件を忘れて、強姦してできた子供を『ちぇぇぇん』『らんしゃまああ』とか言いながらにこにこ育てて円満家族ってか? そりゃずいぶんとゆっくりした光景だなおい」
「悪い。忘れろ」
「……俺が聞きたい」
「このまま、らんとちぇんを飼い続けるのだけはやめたほうがいいとは思うが」
「わかってる。……らんを、手放す。でも、あいつも別に悪い奴じゃないんだ。……わかってるんだ。でも、俺はもうあいつを好きになることができない。誰か、事情の知らない人に可愛がってもらった方が、きっとあいつもゆっくりできるはずだ」
「そうか。らんのことを許せないっていうんなら、俺が引き取ってやるつもりだったが」
「どうせ母体か種ゆにするんだろう。ひでぇことしてるよお前は」
「百も承知だ。でも、俺が言い出したことだがらんとちぇんを飼い続けることはできないわけじゃないぜ。ゆっくりの記憶を操作する術はもう大分研究されている。お互いトラウマになっている記憶を除くことくらいは簡単にできるが?」
「で、あんな惨い事件を忘れて、強姦してできた子供を『ちぇぇぇん』『らんしゃまああ』とか言いながらにこにこ育てて円満家族ってか? そりゃずいぶんとゆっくりした光景だなおい」
「悪い。忘れろ」
俺は頭を抱えた。
らんとの思い出に悩まされる俺を見上げた赤ちぇんは、心配そうに俺の手の平に頬ずりした。
らんとの思い出に悩まされる俺を見上げた赤ちぇんは、心配そうに俺の手の平に頬ずりした。
「おにーしゃん、ゆっくちしちぇいっちぇね!」
「……ああ。ゆっくりしような。これからも、ゆっくりしような」
「わきゃりゅよー! おにーしゃんはやしゃしいんだねー! おとーしゃんもそーいっちぇちゃよー!」
「……ああ。ゆっくりしような。これからも、ゆっくりしような」
「わきゃりゅよー! おにーしゃんはやしゃしいんだねー! おとーしゃんもそーいっちぇちゃよー!」
胸がきりきりと痛む。そんな俺の肩を、奴は叩いた。
「らんは、俺が買い手を見つけてやる」
「すまんな……」
「血統は不明だし成体だが、金バッジのらんだ。絶対売れる。ただ、ちぇんに関して奴は暴走する恐れがあるから値段は落とすがな。……いい飼い主が見つかってくれりゃいいんだが」
「すまんな……」
「血統は不明だし成体だが、金バッジのらんだ。絶対売れる。ただ、ちぇんに関して奴は暴走する恐れがあるから値段は落とすがな。……いい飼い主が見つかってくれりゃいいんだが」
そういう奴の目は氷のように冷たかった。
ある日、らんはケージの中に一匹だけで入れられた。
「お兄さん?」
「らん、悪いが、お前とはお別れだ……達者でやれよ」
「らん、悪いが、お前とはお別れだ……達者でやれよ」
そう言って、お兄さんとは別のお兄さんがらんを連れていった。二人の間に封筒が交換され、お兄さんは最後にらんに手を振っていた。
らんは叫んだ。らんにはちぇんとの間にできたおちびちゃんがいる。ちぇんは今でこそらんを嫌っているが、いつかきっと心を開いてくれるはずだ。子供の頃はあんなに仲良しだったのだから、あんなみょんにたぶらかされたことなどすぐに忘れるに決まっている。おちびちゃんをらんと一緒に育て、さらにもっとたくさんのおちびちゃんに囲まれてゆっくりと暮らせば、ちぇんは幸せになれる。
そう思っていたのに、愛しい我が子と妻から引き剥がされ、らんは泣き叫んだ。らんを連れたお兄さんは嫌がるらんの口を無理矢理開かせてラムネを飲ませ、眠らせた。
気がつくと、らんは薄暗い見たことも無い部屋の中にいた。
嫌な匂いが部屋には充満していた。
希薄になっている。だが、らんにはこのゆっくりできない匂いがわかった。
死臭だ。
ゆっくりの死臭が、ファブリーズでは消せないくらいの濃度で部屋には満ち満ちていた。
怯えるらんに笑顔を向けたお兄さんは、ガスコンロにフライパンを置いて火を点けた。
らんは叫んだ。らんにはちぇんとの間にできたおちびちゃんがいる。ちぇんは今でこそらんを嫌っているが、いつかきっと心を開いてくれるはずだ。子供の頃はあんなに仲良しだったのだから、あんなみょんにたぶらかされたことなどすぐに忘れるに決まっている。おちびちゃんをらんと一緒に育て、さらにもっとたくさんのおちびちゃんに囲まれてゆっくりと暮らせば、ちぇんは幸せになれる。
そう思っていたのに、愛しい我が子と妻から引き剥がされ、らんは泣き叫んだ。らんを連れたお兄さんは嫌がるらんの口を無理矢理開かせてラムネを飲ませ、眠らせた。
気がつくと、らんは薄暗い見たことも無い部屋の中にいた。
嫌な匂いが部屋には充満していた。
希薄になっている。だが、らんにはこのゆっくりできない匂いがわかった。
死臭だ。
ゆっくりの死臭が、ファブリーズでは消せないくらいの濃度で部屋には満ち満ちていた。
怯えるらんに笑顔を向けたお兄さんは、ガスコンロにフライパンを置いて火を点けた。
「さあらん! お兄さんからの歓迎の印だよ! ゆっくりあんよに焼き付けてね!!!」
そう言って、煙が立つほど熱されたフライパンの上にらんを載せた。
「あ、あぎゃああああああああああああああんあああああああああ!!!?」
「お、いいねいいねぇ♪ 希少種のゆっくりらんもごみみたいなれいむやまりさも、焼かれる時の叫び声は等しく平等に下品だね♪」
「いいいいいやめでえええええええええ! おろじでぐだざいいいいいいいいいいいい!!!」
「ま、そう言わずに、お兄さんの気持ちと思ってさ! 耐久二十分弱火でじっくり行ってみよう!!」
「お、いいねいいねぇ♪ 希少種のゆっくりらんもごみみたいなれいむやまりさも、焼かれる時の叫び声は等しく平等に下品だね♪」
「いいいいいやめでえええええええええ! おろじでぐだざいいいいいいいいいいいい!!!」
「ま、そう言わずに、お兄さんの気持ちと思ってさ! 耐久二十分弱火でじっくり行ってみよう!!」
油揚げの焦げる匂いが死臭を打ち消し、らんは喉が枯れるまで叫んだ。
その間、そんならんの様子をお兄さんは嬉々として見つめていた。恐ろしいことに、それはらんがおもちゃで戯れる様子を見ていた、らんの飼い主であったお兄さんと同種の色を帯びた目だった。
このお兄さんにとって、らんと遊ぶということは、つまり、こういうことなのだ。
聡いらんは、足焼きだけでその事実に気づかされた。
火から降ろされ、自らの涙で皮膚を溶かしかけたらんは頭からぶっかけられるオレンジジュースを舐めながら、お兄さんに向かって叫んだ。
その間、そんならんの様子をお兄さんは嬉々として見つめていた。恐ろしいことに、それはらんがおもちゃで戯れる様子を見ていた、らんの飼い主であったお兄さんと同種の色を帯びた目だった。
このお兄さんにとって、らんと遊ぶということは、つまり、こういうことなのだ。
聡いらんは、足焼きだけでその事実に気づかされた。
火から降ろされ、自らの涙で皮膚を溶かしかけたらんは頭からぶっかけられるオレンジジュースを舐めながら、お兄さんに向かって叫んだ。
「お兄さん! 覚悟してね! らんは金バッジさんなんだよ! らんの飼い主のお兄さんがこんなことしたら許さないんだよ! お兄さんは器物破損の罪で、前科一犯になるんだよ! ゆっくりしないでけーむしょに入ってね!!」
「おお、さすが金バッジ。法律にも詳しいんだねー。でも残念無念また来世~♪ らんの飼い主さんはね、もうお兄さんなんだよ」
「う、嘘だよ!」
「嘘じゃないよー。らんはお兄さんが十万円で買ったんだねー。わかれよー」
「じゅ、じゅうまんえん?」
「そうさ! 金バッジのらんがたった十万円で買えるなんてちょーお買い得! しかもワケアリってんだから虐待お兄さんとしては買わないと損だよね!!」
「おお、さすが金バッジ。法律にも詳しいんだねー。でも残念無念また来世~♪ らんの飼い主さんはね、もうお兄さんなんだよ」
「う、嘘だよ!」
「嘘じゃないよー。らんはお兄さんが十万円で買ったんだねー。わかれよー」
「じゅ、じゅうまんえん?」
「そうさ! 金バッジのらんがたった十万円で買えるなんてちょーお買い得! しかもワケアリってんだから虐待お兄さんとしては買わないと損だよね!!」
らんは油揚げの頬を引きつらせた。
虐待人間。ゆっくりにとって最悪の天敵の一つ。
自らをそう名乗ったお兄さんは、隣の部屋に行ったかと思うと、水槽を抱え込んで戻ってきた。
そこには――
虐待人間。ゆっくりにとって最悪の天敵の一つ。
自らをそう名乗ったお兄さんは、隣の部屋に行ったかと思うと、水槽を抱え込んで戻ってきた。
そこには――
「「「「「らんしゃまあああああああああああ!!」」」」」
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
何匹ものちぇんが涙を流していた。らんのあんよが焼かれたことを匂いや様子から察したらしく、優しい言葉をかけてくれる。
らんは嬉しさのあまり何度もちぇんの名を呼んだ。
その様子をお兄さんも嬉しそうに眺めていた。
そして、一匹のちぇんを水槽から取り出し、らんの目の前に置くと、フライパンを振りかぶった。
らんは嬉しさのあまり何度もちぇんの名を呼んだ。
その様子をお兄さんも嬉しそうに眺めていた。
そして、一匹のちぇんを水槽から取り出し、らんの目の前に置くと、フライパンを振りかぶった。
「や――」
「そぉい!!」
「そぉい!!」
ばちゃ! と音を立ててちぇんは跡形も無く潰れた。温度を持ったチョコクリームがらんの顔面にぶっかかり、カカオの香りが広がる。
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「わからないよおおおお!!」
「らんしゃまああああ!!」
「たすけてねえええええ!! いますぐでいいよおおおお!!」
「おお、ゲスいゲスい。こんなゲスいちぇんはお兄さんがせいっさいっ! してくれるよ!」
「やめてえええええええ!!」
「わからないよおおおお!!」
「らんしゃまああああ!!」
「たすけてねえええええ!! いますぐでいいよおおおお!!」
「おお、ゲスいゲスい。こんなゲスいちぇんはお兄さんがせいっさいっ! してくれるよ!」
「やめてえええええええ!!」
らんはお兄さんに向かって何度もそう叫んだ。だがお兄さんは愉悦の笑みを浮かべたまま、らんに言う。
「嫌だよー。らんしゃまは十万円分お兄さんを楽しませなきゃならないんだよー? わかってねー」
「どぼしてそんなこというのおおおお!? らんは金バッジさんなんだよおおお! 金バッジのゆっくりはゆっくりできるんだよおおおお!!」
「銅だろうが銀だろうが金だろうがプラチナだろうがバッジ無しだろうがれいむだろうがまりさだろうがありすだろうがぱちゅりーだろうがみょんだろうがちぇんだろうがらんだろうがゆうかにゃんだろうがさなえろうが胴付きだろうが胴無しだろうが善良だろうがゲスだろうが等しくみんな平等に分け隔てなくお兄さんは潰すよ! それがお兄さんのゆっくりへの愛だよ!」
「どぼしてそんなこというのおおおお!? らんは金バッジさんなんだよおおお! 金バッジのゆっくりはゆっくりできるんだよおおおお!!」
「銅だろうが銀だろうが金だろうがプラチナだろうがバッジ無しだろうがれいむだろうがまりさだろうがありすだろうがぱちゅりーだろうがみょんだろうがちぇんだろうがらんだろうがゆうかにゃんだろうがさなえろうが胴付きだろうが胴無しだろうが善良だろうがゲスだろうが等しくみんな平等に分け隔てなくお兄さんは潰すよ! それがお兄さんのゆっくりへの愛だよ!」
そしてまた一匹、ちぇんが潰される。
らんは涙を流しながら、自分のゆん生がどこで間違ったのか、思い返した。
ちぇんとおちびちゃんを勝手に作ってしまった所から?
一緒に幸せに暮らそうといったちぇんに断られ、ちぇんをさらった時から?
金バッジを取った時から?
お兄さんに拾われた時から?
金バッジのゆっくりになれたらゆっくりできると決意した時から?
それとも、産まれたこと自体が?
らんにはわからなかった。
ただ、死ぬまで続く苦痛が無限のように広がっていることだけわかった。
らんは涙を流しながら、自分のゆん生がどこで間違ったのか、思い返した。
ちぇんとおちびちゃんを勝手に作ってしまった所から?
一緒に幸せに暮らそうといったちぇんに断られ、ちぇんをさらった時から?
金バッジを取った時から?
お兄さんに拾われた時から?
金バッジのゆっくりになれたらゆっくりできると決意した時から?
それとも、産まれたこと自体が?
らんにはわからなかった。
ただ、死ぬまで続く苦痛が無限のように広がっていることだけわかった。
anko2009 anko2010 足りないらんと足りすぎるちぇん(前後)
anko2227 anko2228 保母らん(前後)
anko2295 ブリーダーお兄さんの一日
anko2356 anko2357 浮気(前後)
anko2227 anko2228 保母らん(前後)
anko2295 ブリーダーお兄さんの一日
anko2356 anko2357 浮気(前後)
挿絵:にとりあき