ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko4188 ストロベリー・アイスクリーム
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『ストロベリー・アイスクリーム』 23KB
制裁 日常模様 野良ゆ 都会 現代 ぬるいです
制裁 日常模様 野良ゆ 都会 現代 ぬるいです
ストロベリー・アイスクリーム
冬が溶け、気温が上がり、草木が萌えいでる。
マフラーを外しコートを脱ぎ捨てた後、私が手に持つのはアイスクリームのコーン。
冬の間はいつもコタツに入りながらカップアイスを食べていて、それはそれで風情が
あったものだけれど、やっぱり私はコーンに詰め込まれた丸いアイスが好き。
春一番に食べるコーンアイスは私にとって一等贅沢な、言うなれば春の訪れを祝う儀式だ。
「バニラを下さい」
だから私は、春一番に食べるアイスはバニラと決めている。一番プレーンな、優しい味をした
真っ白なバニラアイスは、まるで雪のように冷たい。その雪を飲み込んで、この春の訪れを祝うのだ。
ふむ、何だかさっきから文章が妙に堅苦しい。というか、妙に気取ってる感じだ。何だろう、私は
浮かれているんだろうか?
店員さんから受け取ったアイスクリームを一舐めしながら首を一つ傾げる。儀式だとかなんとか
オーゲサな事を言ってしまったけれど、結局の所私は、ただのアイスクリームが好きな女子高生だ。
学校春休みだから服とか買いに駅前に来て、ちょーしに乗って色々買っちゃって、
帰りに根性出してパンパンに膨れた紙袋の山を頑張ってうんうん言いながら運んで、途中までは
いけるかもって思ったけどやっぱ無理で、お兄ちゃんに車出してくれるようにヘルプしたら、とりあえず
駐車場が近くにある分かりやすい所って言われたから目に付いた近くのなんかおっきい公園に入って、
ヒマになったから一カ月毎日、違う美味しさを~って言う触れこみの、私が好きなアイスクリームの
ショップがやってる移動販売の車を見つけて、一番好きなバニラアイスを買ったという、
まぁ、それだけなのだ。
「ていうか、この公園初めて入ったし」
とりあえずぺろぺろとアイスクリームを舐めながら荷物を置いたベンチに戻る。座ると私と私の
買った荷物とで合わせてベンチを丸ごと一脚占領してしまい、我ながら何でこんないっぱい
買ってんのって不思議なんだけど、やっぱり春だし、色々欲しくなるし。
のんびりあたりを見渡すと、目の前のジョギングコースにはジョギングしてる定年退職したっぽい
おじいさんが一人。そして隣のベンチには、お弁当食べてるどこかのOLさんっぽい二人組。
の足元に、丸っこい変なのが一つ。
「あ、ゆっくりだ」
そう、ゆっくり。最初TVで見た時は驚いたなぁ。だってあいつら饅頭なんだもん。形が、とかじゃなくて
本当に饅頭。中身は餡子。バレーボールとバスケットボールの中間ぐらいの大きさの饅頭に
かつら被せて人間の顔描いただけみたいなヘンな形なのに、生きてるんだよ。ありえない。
しかも喋るんだよ。「ゆっくりしていってね!」って、挨拶なんだか良く分からない挨拶をしてくるんだ。
私が住んでる所ではあんまりゆっくりの姿を見ない。ていうか、居ないんだと思う。だから珍しい物を
見れたなーって感じで私はOLさんとゆっくりを見る。OLさん、何かお弁当から色々ゆっくりにあげてる
みたいだ。ニコニコしながら喋ってるし、ゆっくりもOLさんに慣れてるみたいだし、ひょっとしたら餌付け
してるのかな。
「いつもおいじいごはんざんありがとうございまずうぅぅぅ!!」
金髪で黒い帽子を被った饅頭が、お弁当を分けてあげてる方のOLさんAに向かってペコペコ
頭を下げながら涙を流してごはん食べてる。私の方が風下のせいか、ゆっくりの声が割とはっきり
聞こえてくる。
「うっわ、キモ可愛いっていうか、何とも言えないね」
ゆっくりが食べてるのをもう一人のOLさんBが興味しんしんな様子で覗いている。ていうか、
人間の声もくっきり聞こえちゃうなぁ。何か盗み聞きっぽくてヤだな。まぁ、聞くけど。
「この子ねー、最初からすごい謙虚だったんだよー」
OLさんAはゆっくりの黒帽子を撫でる。
「あったかくなってきたからね、外でごはん食べようと思って先週初めてここに来たんだ。
まだちょっと寒いけど陽射し気持ち良いなーって思いながらここのベンチでお弁当食べたのね。
それで食べ終わった後もしばらくぼーっとしてたんだけど、その時にこの子が来たんだー」
「えー何、タカられたの?」
「んー、まぁそうなんだけど、タカるって言い方何かヤだよ。おねだりされたって言ってよ。
でね、お腹が空いてるから何か食べるもの欲しいって言われて、でも私昼休みでご飯食べに来た
だけだし、お財布とかも置いてきちゃってたのね。それで仕方ないから、残ってたデザートの
苺のヘタをあげてみたの」
「苺のヘタって、それただの草じゃないの?」
「うん。私もそう思ったんだけど、このまりさ、食べた瞬間泣きだしちゃってね。『こんなおいしいもの
たべたことない』なんて言うんだよー」
「まりさはまりさだよ!ゆっくりしていってね!!」
自分の名前が聞こえたんだろうか、ゆっくりが顔を上げて、人を小馬鹿にしたような
何とも言えない半笑いっぽい表情を浮かべながら叫んだ。
「えー、ゆっくりって普段何食べてるの?ていうか何その顔」
ゆっくりの挨拶にちょっと引き気味のOLさんB。
「まりさはくささんとか、むしさんとかだいすきだよ!でもおねえさんのくれたいちごさんは、
いままでたべたことないぐらいとってもゆっくりしてたんだよ!ゆっくりしていってね!」
「ちょっとだけ果肉が残ってたんだと思うんだ。で、そんなちょっとの苺をこれまでで一番
美味しいご飯だって言っちゃうこの子が可哀相でね。それからこうやってお昼にエサあげる
事にしたって訳」
「なるほどね。まぁ、良いんじゃない?」
OLさんBはゆっくりを見下ろして、言った。ゆっくりをどう扱って良いのか良く分からないみたいだ。
自分に合わない「ある意味可愛い」系のキャラって、どうして良いか分かんないよね。相手が
それを気にいってたら特に。
「今日はまりさにプレゼントがあるんだ」
OLさんAが、小さなお弁当箱を取りだした。ちょうどデザートを入れるぐらいの大きさだ。
「ゆ?まりさになにかくれるの?」
ぱっと顔を上げたゆっくりがOLさんAを見上げて飛び跳ねる。OLさんAはちょっといじわるする
みたいにお弁当箱を上げ下げして、ゆっくりが届かないようにする。
「ゆっ!ゆっ!おねえさんちょうだいね!いじわるしないでちょうだいね!!」
舌を伸ばして飛び跳ねるたびにぐねぐね動いて、ゆっゆっと一生懸命に鳴くその姿は、
私的にはちょっと可愛い。OLさんAも多分同じ意見なんだろう。OLさんBは眉をひそめてるけど。
「いじわるしてごめんね。はい、プレゼント」
ゆっくりの飛び跳ねる姿を堪能したOLさんAがタッパーを開けて中身をゆっくりに示す。
中身はあ、やっぱり苺だ。遠目から見ても美味しそうな、大粒の苺。
「ゆ、ゆわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
それを見たゆっくりが、下の方から何かを漏らした。え、うれション?馬鹿な犬みたい。
「一杯食べてね♪」
OLさんAがお弁当箱を地面に置くと同時に、ゆっくりは苺に喰いついた。もう一心不乱に
食べて食べて食べまくってる。
「美味しい?これが本当の苺だよ」
「ゆっく、ゆっくり!ゆっくりしてるよおおおおぉぉぉぉ!!!うめえぇ!ぱねぇぇぇぇぇ!!!」
ゆっくりが苺を食べ尽くすまで結局大した時間はかからなかった。食べ終わった後も意地汚く
お弁当箱を舐めまわすゆっくりを、OLさんAが持ち上げた。
「満足してくれた?」
「へぶんじょうたいっ!」
「でね、まりさ。今日はまりさにお話があるんだ」
「ほぼいきかけました!」
「もしまりさが良かったら、なんだけど、私のお家に来ない?」
「まりさこわれちゃうううぅぅぅぅぅ……ゆ?」
「まりさって野良ゆっくりでしょ?やっぱり色々大変だと思うんだ。この公園、これから春
になってすごしやすい季節になるけど、もうちょっとしたら梅雨が来るんだよ。知ってる?梅雨」
「しらないよ!」
「毎日毎日雨が降るんだよ。ゆっくりって水に弱いんでしょ?そうなったらまりさ死んじゃうかも
しれないよ?」
「いやだよ!まりさしにたくないよ!!」
「じゃあ、私の家に来なよ。公園じゃ食べられない美味しいご飯食べさせてあげるからさ」
「わかったよ!まりさおねえさんのおうちにいくよ!」
脳みそつるつるなんだなぁゆっくりって。さすがは不思議なまもの。
そしてOLさんたちは、ゆっくりを連れて会社に戻って行った。なんというか、良いもの見せて
頂きました的な感じだ。ゆっくりと人間のハートフル物語、かな?うがった見方をすれば、
お菓子で子供を誘拐する様にも見えたけど、まぁ。それは私の心が汚れてるんだろう。
……目を細めてほんのりええ話の余韻に浸っていると、なんだか右手が冷たい。目を向けてみると、
手に持ったアイスが溶けかけてた。
「うわ、ちょ、えぇ!?」
しまった、食べるの忘れてた。あわててコーンから溢れたアイスを舐めとる。包み紙が濡れちゃってる。
アイスを左手に持ち替えて、右手に付いたアイスを舐めとった。お行儀悪い。
「おいばばあ!そのあまあまをれいむにゆっくりよこしてね!!」
え、何?今私忙しいんですけど!ていうかばばあだと!?
いつの間にか、私の目の前にも一匹のゆっくりがいた。さっきのOLさんのゆっくりとは違って、
黒髪に赤いリボンを付けている。そして態度がふてぶてしい。口すっごい悪い。何こいつ。
「きこえなかったのおおおぉぉぉぉ!!はやくそのあまあまよこせ!!」
地団太を踏むようにぴょんぴょんと飛び跳ねるゆっくり。私は溶けかけたアイスのコーンを齧って、
じとりとゆっくりを睨みつけた。
「たべるなあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!それはれいむのだあぁぁぁぁぁ!!!!」
ぜんっぜん可愛くない。ありえないんですけど。『ゆっくりしていってね!』とか言ってれば良いのに、
なんなのそれ。私のさっきの感動返せよ。でもなぁ、さっきのOLさんのゆっくりも、最初は
こんなだったのかもしれないし、こいつももしかしたら、お腹空いてるからこんな態度なのかも。
そう思った私はさっきのOLさんに敬意を表して、アイスから包み紙を外して、溶けたアイスの染みた
それを放ってやった。苺のヘタより100倍は上等だと思う。
「ほら、あげる」
「ゆごおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
渡そうとしたら、ゆっくりが飛び付いてきた。アイス本体の方に。
「きゃあぁ!!」
ちょっとしゃがむ感じになってたせいでゆっくりがこっちに迫ってくるみたいに見えた。びっくりした
私はアイスを落としてしまう。膝の間ど真ん中に落ちたアイスで、スカートがぐっちゃぐちゃに濡れる。
「いやぁ!もう!!!」
スカートを摘まんで立ち上がった。アイスが転げて膝から落ちて、ゆっくりが奇声を上げながら
それに飛び付いて行ったけど、そんなのどうでもいい。これ染みになっちゃうじゃん!
涙目になりながらハンカチを取り出して、あぁもうこれ気に入ってるのに!スカート拭いて取れないよこれ
べたべたしてるくそ。
「ゆっほおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!うめええぇぇぇ!!!!ゆっくりいぃぃぃぃぃ!!!」
とりあえず水、水が無いとどうしようもない。でもこいつこのままほっといたら私の荷物何されるか
分かんないし
「ぱねぇ!!!すげえぇぇぇぇぇ!!!」
とりあえず、アイスを汚らしく舐め続けるゆっくりを蹴り飛ばした。
「びぎぃ!」
ボールみたいにぐるんって縦に回転しながら飛んでいく時に、うれションが撒き散らされて服に
ちょっとかかった。こいつマジ殺す。
「お前荷物漁ったら許さないから!」
とりあえず、自販機探そう。トイレじゃ時間がかかりすぎる。
で、自販機見つけてミネラルウォーター二本買って、急いで戻った。
買ったばかりの荷物弄ってたり、誰かに盗られてたりしたらほんとに殺してやろうと思ってたけど
そんな事はなくて、ゆっくりは私が蹴り飛ばした場所で泣きながらぐねぐねしてた。
「ゆびいいぇぇぇぇぇ!!!いぢゃいいぃぃぃぃぃぃ!!おぼにおがおがいだいいぃぃ!!!」
無視してベンチに座り込んで、ハンカチ濡らしてスカートを叩くようにシミ抜きする。
あれ、そういえばミネラルウォーターって確か、硬水って言うんだっけ?何か洗濯に向かない
水だとか聞いたことある気がする。色落ちしたらどうしよ。
叩いて叩いて叩きまくってハンカチ絞ってもっかい濡らして頑張って叩いたら、とりあえず白い所は
無くなった。今日買った中に新しいタオルとかも入ってるけど流石にそれは使いたくないし、
もうこれでいいや。あ、そうだ。ゆっくりにうれションかけられてたんだった。もっかいハンカチ絞って
水多めに含ませて点々って色んな所についてるうれションをあっちこっち拭き取り終わって
はーやれやれと思いながら前を向くと、何かゆっくりが頬を膨らませてた。
「くそばばあああぁぁぁぁぁ!!!よくもれいむのたまのようなおはだをきずつけてくれたねえぇぇぇ!!」
は?何言ってんのこいつ。ありえないんですけど。
「このせかいのふぁっしょんりーだーたるれいむのおかおをきずけるなんて、ばんしにあたいするよおぉぉぉ!?
このつぐっないっはしてもらうからねええぇぇぇぇ!!!」
ファッションリーダーって。中途半端な長さのミディアムで真っ黒な黒髪とか無意味に重く見えるし。染めるか
シャギー入れろっつーの。しかもぼっさぼさで手入れ全然してない。装飾品は頭のてっぺんに漫画でしか
見ないような大きい赤いリボン付けて、もみあげもリボンと同じ布地でのり巻きみたいに留めて。
「馬鹿じゃないの?はっきり言ってあんた、ダサい」
正直に言ってやると、何となく分かってたけどゆっくりは激昂した。
「ゆぎぎいぃぃいぃぃ!!!くそにんげんのぶんっざいでれいむのふぁっしょなぶるなふぁっしょんを
りかいできるわけないでしょおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!???れいむをばかにしたくそにんげんは、
ゆっくりしねえええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
こっちに向かってぽいんぽいんって跳ねてくる。一回一回が全然進まない。亀みたい。
私は手に持ったままだった、水をたっぷり含ませたハンカチのはじっこをつまんで、ようやく私の足元まで来た
ゆっくりがこっちに向かって最後のジャンプをしようとするところに、
バチィン!!
思い切り振りおろした。
「ゆっびゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」
当ったところがふわっとしててめこっとちょっとへこんで、うわ、こいつマジで饅頭なんだなって
手ごたえがした。
「は、はびゃあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!いぢゃいいぃぃぃぃぃ!!!ぐぞにんげんがいじべるううぅぅぅぅ!!!!」
ごろごろ。ごろごろ。泣きながらゆっくりが転がる。ちょっと止めて欲しいんですけど。泣くなよ。泣いてる
奴の隣に泣いてない奴がいたら、泣いてない方が悪者になっちゃうんだし。
「泣き止め!」
バチィン!
顔を伏せてるせいでこっちを向いたお尻?こいつら顔だけだけど何かそんな感じの所をもう一発打った。
「ひっぎゃああぁぁぁぁぁぁん!!」
「声出すな!」
後頭部を踏みつけて顔を地面に押し付けてぐりぐりした。
「おぎぃぃいぃ、びぃぃぃ!?」
声出せない?確かめるためにもう一発。濡れた布で叩かれるのって、実は相当
痛いんだよね。小学生の時に男子にやられて肌が赤く腫れた事がある。当然その後十倍返したけど。
「っ!?」
びくんとお尻を跳ねさせながら私の足を持ちあげようとする。けど無理。こいつ力めちゃくちゃ弱い。
「で、さぁ。あんたさっきから、何してくれてる訳?」
頭をぐりぐり踏みにじりながら、二、三発お尻を叩いた。叩くたびにびくんびくん跳ねるのが面白い。
「ひぎ!ゆぃぃ!!」
必死になって頭を持ちあげようとするとお尻が反動でぷりぷり揺れる。ちょっと馬鹿可愛い。
野良猫とか野良犬とかに何かされたからって叩いてやろうとは思わない。やっぱり牙とか爪とか怖いし。
でもゆっくりは言葉喋るし生意気だしその割に弱いから、なんとなく虐めてやりたくなる感じがある。
「今から足どかすけど、私が良いっていうまで喋らないでよ。叫んだりしたらもう一回踏むから」
そう言いながらそろっと足をどかしてやると、ゆっくりががばっと起きあがった。
「ゆええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええええええええええん!!!!!!!!!!!!
ぐぞにんげんがいじべげぶぅ!!!!」
本日最大級の大きな泣き声。くそこいつ私の話何一つ聞いてないよ慌ててもう一回踏みつけて
声を抑えてやる。どーしよ。ゆっくりの知能って基本幼児並みだ。それよりひどいかも。仕方が無いから
私はベンチから立ち上がってゆっくりの髪を左手で掴んで、足をどけ、振り向かせると同時にハンカチ
をゆっくりの口に突っ込んだ。
「なにをず」
思ったよりゆっくりの口は大きくてハンカチ一枚じゃ全然足りなくて仕方ないからハンカチ握ったまま
私はゆっくりの舌を掴んだ。これで流石に喋れないだろう。
「喋るなって言ってるでしょ?舌引っこ抜かれたくなかったら私が良いっていうまで黙って。良い?」
ぎりぎりと舌を握りしめて、顔を近づけて目を見ながら言ってやる。
「ぉ……ぁぇ……」
「返事は?頷くだけで良いから」
「ぃ……ぃ……」
「返事は!?」
手に上顎が当たる感触がする。多分頷いてるんだと思う。私は舌から手を離して、立ち上がった。
「じねぇ……ぐぞにんげんはじねぇ……」
ゆっぐゆっぐとか漫画みたいな泣き声をあげるゆっくりを私は見下ろす。ちょっと疲れた。これ以上
怒るのもダルいし、もうこいつどっか行ってほしい。お兄ちゃん来た時にこいつ虐めてる所とか
見られたりしたら嫌だし。これでもお兄ちゃんの前では、可愛い良い妹で通っているのだ。
ていうかお兄ちゃんいつ来るんだろ。携帯を取り出してお兄ちゃんに電話する。車の中だったりしたら
どーしようかと思ったけど、あっさりとお兄ちゃんは電話に出た。
「あ、お兄ちゃん?今大丈夫?え、そうなんだ。もう着いてるの?そうそうその公園で合ってる真ん中の
方にジョギングコースみたいなのがあってベンチも何個か置いてあって私そこに座ってるから。うん、
ありがと。待ってるー」
通話を終える。お兄ちゃんはもう公園に着いているらしい。何分もしない内に私を見つけてくれるだろう。
「もー良いよ。もうゆるしてあげる。ていうかどっか行ってよ」
だから私は、ひらひら手を振ってベンチに座り直しながらゆっくりを追い払おうとした。
「おぼえてろおおぉぉぉぉ!!」とか笑える台詞を残して逃げて行くだろうと思ってた。ら。
「がああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
なんと驚いた。ゆっくりはまたまた私に飛びかかってきた。私ベンチに座ろうとして中腰。そりゃ
びっくりするし、びっくりしたら体勢崩す。体勢を崩せば転びもする。
「がぁ!うがあああぁぁぁぁぁぁぁ!!あやまれえええぇぇぇぇ!!どげざじろおおおぉぉぉ!!!」
「いった!っ!」
転んだ拍子に足捻った。肘とわき腹打った。一瞬呼吸が止まった。
「ゆひひひひひひゃあああああっはあああぁぁぁ!!ざまぁぁぁみろ!!れいむさまのじゃまをするやつは
ゆるさないんだよおおおぉぉぉぉぉ!!!!つみのおもさをかみしめてねえぇぇぇぇ!!」
足がずきんずきんする。地面に横たわった私はゆっくりと視点が同じ高さになって、そうすると
ゆっくりの人を馬鹿にしたみたいなムカつく笑顔も剥き出しになった歯もさっき握った携帯ぐらいある
大きさの舌さえ何か怖く見えてきて、痛みと恐怖で私はちょっと涙出た。
「ゆぁーん。じゃあこれからはれいむのたーんだよ!よくもこれまでれいむをばかにしてくれたね!
れいむのどれいにさせてくださいっていうまでいためつけてあげるからかくごしてね!くそにんっげんっの
ぶんざいでこのえいっえんのあいどるにさからったことをこうかいしてね!かわいくてごめんねー!!!」
私の顔に向かって、ゆっくりがずんずん近づいてくる。足が痛くて動けない。肺がひゅうひゅう鳴って
痙攣してる。空気を吸いたいのに口がぱくぱくするばっかりで全然息が入って来ない。怖い。嫌だ。誰か助けて。
「じねえええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
ゆっくりが私の顔に向かって飛びかかってくる。助けてよ、お兄ちゃん。
私の顔の横を、人間の足が掠めた。
「ゆっべえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
ドップラー効果っぽい声を残して吹っ飛んでいくゆっくり。目を一回瞬かせてから顔を上げると、
蹴り足出した姿勢のまま血走った目で前を見つめる大学生ぐらいの男の人がいた。ていうか、お兄ちゃんだ。
「おい!大丈夫か!?」
しゃがみこんで私を抱き起こすお兄ちゃん。私はまだ息もおぼつかない。息苦しいのと怖かったのと
安心したのとで涙がぼろぼろぼろぼろ出てきて、私はお兄ちゃんに抱きついた。思いっきり。
背中に手を回してもう片方の手でよしよしって頭を撫でてくれるお兄ちゃんの体温が伝わってきて、ようやく
私は息が出来るようになる。出来るようになったら声が出て、当然それは泣き声で、自分の泣き声を
聞いてるとなんだかもっと泣けてきたので私は泣いた。お兄ちゃんの胸にぐりぐり頭を押し付けて。
「ひぃひぃいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!はにふうんああいああいあああああああああ!!!!!!!」
割と泣いてたと思う。5分か10分は泣いたはず。その間ずっとお兄ちゃんは私を抱きしめっぱなしで
私はお兄ちゃんに抱きつきっぱなしで泣きっぱなしで、人が見たらなんか誤解されそうな感じだった。
で、その兄妹のらぶーな時間を邪魔したのがさっきの声。深海から邪神でも呼びだすんだろうかって
感じのひらがなで母音のみな叫び声。声のする方を見ると、あ、さっきのゆっくりだ。
お兄ちゃんに蹴られたせいで、左頬にべっこり穴が開いている。もう激怒ーって感じでぴょんぴょん
飛び跳ねながらこっちに向かって来る。
「お兄ちゃん」
ぎゅっとお兄ちゃんの胸元を掴んで、私は顔を上げた。
「あのゆっくりが、いきなり私に絡んで来たの」
涙の溜まった目を見せ付けるようにして、迫真の演技でお兄ちゃんに迫る。涙とはこうやって使う物
なのだよゆっくりよ。私の涙に騙されたお兄ちゃんは何も言わずに私を姫だっこして、ベンチに座らせる。
「ちょっと待ってろよ」
そう言って私の頭を撫でて笑うと、くるりとゆっくりの方に向き直った。あ、お兄ちゃんキレてる。
後ろ姿でモロ分かるぐらいキレてる。あーあかわいそーなゆっくり。でもいい気味だ。
「いいないあいううううんあああああああ!!!!!うおいんげんはみんなしえええええ!!!!!」
べっこりへこんだ頬のせいでもう真っすぐ跳ねられもしないくせに、ゆっくりはこっちに向かって
突っ込んでくる。お兄ちゃんはそれを待つつもりもないようで、つかつかつかとゆっくりに向かっていって、
無造作に頭のリボンを掴んで頭より高く持ち上げると、これまた無造作に地面に叩きつけた。
「おほあをとんでうみいいいいいいいいいいいいいいいいいだあああああああああああああああ!!!」
ぐしゃっというかべしゃっ?というそんな音がして、ゆっくりの頬に開いた穴から餡子が滅茶苦茶
噴き出した。お兄ちゃんの手にはゆっくりの髪がごっそり残ってて、なんだか私まで自分が髪を毟られた
みたいな感じがした。一応あいつらゆっくりって女の子みたいな感じだし、髪を毟られるのは辛いだろう。
ザマミロ。
「ほっぽへぇ……ぷぇぇ……」
口からぽろぽろ白い歯の欠片を零しながらゆっくりがびくんびくん痙攣する。お兄ちゃんは、叩きつけた
ゆっくりの髪の残ってる所を掴んでまた持ち上げた。そして、何も言わずに向こうの草むらの方に
歩いて行ってしまった。多分、私に対する教育的配慮っていう奴だと思う。
お兄ちゃんやさしーい。いってらっしゃーい。
ハンカチにミネラルウォーター浸したのを足に当てて冷やしたりしてるうちに、お兄ちゃんが帰って来た。
時間的には、私の足の腫れがちょっとマシになるぐらい。その時間で何をしたのかは聞かない事にしよう。
「お兄ちゃん、アイス買って」
だから私はその代わりに、妹として当然の要求をする。
「後足痛くて歩けないから車までおんぶして。待つのやだから荷物も一緒に持って行って」
「お前なぁ……」
「だめ?」
まだ潤んでる目で上目遣いにお兄ちゃんを見ると、「仕方ないな」とか言いながらしゃがんで私に
背中を向けてくれる。やっぱりお兄ちゃんだーいすき。
マフラーを外しコートを脱ぎ捨てた後、私が手に持つのはアイスクリームのコーン。
冬の間はいつもコタツに入りながらカップアイスを食べていて、それはそれで風情が
あったものだけれど、やっぱり私はコーンに詰め込まれた丸いアイスが好き。
春一番に食べるコーンアイスは私にとって一等贅沢な、言うなれば春の訪れを祝う儀式だ。
「バニラを下さい」
だから私は、春一番に食べるアイスはバニラと決めている。一番プレーンな、優しい味をした
真っ白なバニラアイスは、まるで雪のように冷たい。その雪を飲み込んで、この春の訪れを祝うのだ。
ふむ、何だかさっきから文章が妙に堅苦しい。というか、妙に気取ってる感じだ。何だろう、私は
浮かれているんだろうか?
店員さんから受け取ったアイスクリームを一舐めしながら首を一つ傾げる。儀式だとかなんとか
オーゲサな事を言ってしまったけれど、結局の所私は、ただのアイスクリームが好きな女子高生だ。
学校春休みだから服とか買いに駅前に来て、ちょーしに乗って色々買っちゃって、
帰りに根性出してパンパンに膨れた紙袋の山を頑張ってうんうん言いながら運んで、途中までは
いけるかもって思ったけどやっぱ無理で、お兄ちゃんに車出してくれるようにヘルプしたら、とりあえず
駐車場が近くにある分かりやすい所って言われたから目に付いた近くのなんかおっきい公園に入って、
ヒマになったから一カ月毎日、違う美味しさを~って言う触れこみの、私が好きなアイスクリームの
ショップがやってる移動販売の車を見つけて、一番好きなバニラアイスを買ったという、
まぁ、それだけなのだ。
「ていうか、この公園初めて入ったし」
とりあえずぺろぺろとアイスクリームを舐めながら荷物を置いたベンチに戻る。座ると私と私の
買った荷物とで合わせてベンチを丸ごと一脚占領してしまい、我ながら何でこんないっぱい
買ってんのって不思議なんだけど、やっぱり春だし、色々欲しくなるし。
のんびりあたりを見渡すと、目の前のジョギングコースにはジョギングしてる定年退職したっぽい
おじいさんが一人。そして隣のベンチには、お弁当食べてるどこかのOLさんっぽい二人組。
の足元に、丸っこい変なのが一つ。
「あ、ゆっくりだ」
そう、ゆっくり。最初TVで見た時は驚いたなぁ。だってあいつら饅頭なんだもん。形が、とかじゃなくて
本当に饅頭。中身は餡子。バレーボールとバスケットボールの中間ぐらいの大きさの饅頭に
かつら被せて人間の顔描いただけみたいなヘンな形なのに、生きてるんだよ。ありえない。
しかも喋るんだよ。「ゆっくりしていってね!」って、挨拶なんだか良く分からない挨拶をしてくるんだ。
私が住んでる所ではあんまりゆっくりの姿を見ない。ていうか、居ないんだと思う。だから珍しい物を
見れたなーって感じで私はOLさんとゆっくりを見る。OLさん、何かお弁当から色々ゆっくりにあげてる
みたいだ。ニコニコしながら喋ってるし、ゆっくりもOLさんに慣れてるみたいだし、ひょっとしたら餌付け
してるのかな。
「いつもおいじいごはんざんありがとうございまずうぅぅぅ!!」
金髪で黒い帽子を被った饅頭が、お弁当を分けてあげてる方のOLさんAに向かってペコペコ
頭を下げながら涙を流してごはん食べてる。私の方が風下のせいか、ゆっくりの声が割とはっきり
聞こえてくる。
「うっわ、キモ可愛いっていうか、何とも言えないね」
ゆっくりが食べてるのをもう一人のOLさんBが興味しんしんな様子で覗いている。ていうか、
人間の声もくっきり聞こえちゃうなぁ。何か盗み聞きっぽくてヤだな。まぁ、聞くけど。
「この子ねー、最初からすごい謙虚だったんだよー」
OLさんAはゆっくりの黒帽子を撫でる。
「あったかくなってきたからね、外でごはん食べようと思って先週初めてここに来たんだ。
まだちょっと寒いけど陽射し気持ち良いなーって思いながらここのベンチでお弁当食べたのね。
それで食べ終わった後もしばらくぼーっとしてたんだけど、その時にこの子が来たんだー」
「えー何、タカられたの?」
「んー、まぁそうなんだけど、タカるって言い方何かヤだよ。おねだりされたって言ってよ。
でね、お腹が空いてるから何か食べるもの欲しいって言われて、でも私昼休みでご飯食べに来た
だけだし、お財布とかも置いてきちゃってたのね。それで仕方ないから、残ってたデザートの
苺のヘタをあげてみたの」
「苺のヘタって、それただの草じゃないの?」
「うん。私もそう思ったんだけど、このまりさ、食べた瞬間泣きだしちゃってね。『こんなおいしいもの
たべたことない』なんて言うんだよー」
「まりさはまりさだよ!ゆっくりしていってね!!」
自分の名前が聞こえたんだろうか、ゆっくりが顔を上げて、人を小馬鹿にしたような
何とも言えない半笑いっぽい表情を浮かべながら叫んだ。
「えー、ゆっくりって普段何食べてるの?ていうか何その顔」
ゆっくりの挨拶にちょっと引き気味のOLさんB。
「まりさはくささんとか、むしさんとかだいすきだよ!でもおねえさんのくれたいちごさんは、
いままでたべたことないぐらいとってもゆっくりしてたんだよ!ゆっくりしていってね!」
「ちょっとだけ果肉が残ってたんだと思うんだ。で、そんなちょっとの苺をこれまでで一番
美味しいご飯だって言っちゃうこの子が可哀相でね。それからこうやってお昼にエサあげる
事にしたって訳」
「なるほどね。まぁ、良いんじゃない?」
OLさんBはゆっくりを見下ろして、言った。ゆっくりをどう扱って良いのか良く分からないみたいだ。
自分に合わない「ある意味可愛い」系のキャラって、どうして良いか分かんないよね。相手が
それを気にいってたら特に。
「今日はまりさにプレゼントがあるんだ」
OLさんAが、小さなお弁当箱を取りだした。ちょうどデザートを入れるぐらいの大きさだ。
「ゆ?まりさになにかくれるの?」
ぱっと顔を上げたゆっくりがOLさんAを見上げて飛び跳ねる。OLさんAはちょっといじわるする
みたいにお弁当箱を上げ下げして、ゆっくりが届かないようにする。
「ゆっ!ゆっ!おねえさんちょうだいね!いじわるしないでちょうだいね!!」
舌を伸ばして飛び跳ねるたびにぐねぐね動いて、ゆっゆっと一生懸命に鳴くその姿は、
私的にはちょっと可愛い。OLさんAも多分同じ意見なんだろう。OLさんBは眉をひそめてるけど。
「いじわるしてごめんね。はい、プレゼント」
ゆっくりの飛び跳ねる姿を堪能したOLさんAがタッパーを開けて中身をゆっくりに示す。
中身はあ、やっぱり苺だ。遠目から見ても美味しそうな、大粒の苺。
「ゆ、ゆわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
それを見たゆっくりが、下の方から何かを漏らした。え、うれション?馬鹿な犬みたい。
「一杯食べてね♪」
OLさんAがお弁当箱を地面に置くと同時に、ゆっくりは苺に喰いついた。もう一心不乱に
食べて食べて食べまくってる。
「美味しい?これが本当の苺だよ」
「ゆっく、ゆっくり!ゆっくりしてるよおおおおぉぉぉぉ!!!うめえぇ!ぱねぇぇぇぇぇ!!!」
ゆっくりが苺を食べ尽くすまで結局大した時間はかからなかった。食べ終わった後も意地汚く
お弁当箱を舐めまわすゆっくりを、OLさんAが持ち上げた。
「満足してくれた?」
「へぶんじょうたいっ!」
「でね、まりさ。今日はまりさにお話があるんだ」
「ほぼいきかけました!」
「もしまりさが良かったら、なんだけど、私のお家に来ない?」
「まりさこわれちゃうううぅぅぅぅぅ……ゆ?」
「まりさって野良ゆっくりでしょ?やっぱり色々大変だと思うんだ。この公園、これから春
になってすごしやすい季節になるけど、もうちょっとしたら梅雨が来るんだよ。知ってる?梅雨」
「しらないよ!」
「毎日毎日雨が降るんだよ。ゆっくりって水に弱いんでしょ?そうなったらまりさ死んじゃうかも
しれないよ?」
「いやだよ!まりさしにたくないよ!!」
「じゃあ、私の家に来なよ。公園じゃ食べられない美味しいご飯食べさせてあげるからさ」
「わかったよ!まりさおねえさんのおうちにいくよ!」
脳みそつるつるなんだなぁゆっくりって。さすがは不思議なまもの。
そしてOLさんたちは、ゆっくりを連れて会社に戻って行った。なんというか、良いもの見せて
頂きました的な感じだ。ゆっくりと人間のハートフル物語、かな?うがった見方をすれば、
お菓子で子供を誘拐する様にも見えたけど、まぁ。それは私の心が汚れてるんだろう。
……目を細めてほんのりええ話の余韻に浸っていると、なんだか右手が冷たい。目を向けてみると、
手に持ったアイスが溶けかけてた。
「うわ、ちょ、えぇ!?」
しまった、食べるの忘れてた。あわててコーンから溢れたアイスを舐めとる。包み紙が濡れちゃってる。
アイスを左手に持ち替えて、右手に付いたアイスを舐めとった。お行儀悪い。
「おいばばあ!そのあまあまをれいむにゆっくりよこしてね!!」
え、何?今私忙しいんですけど!ていうかばばあだと!?
いつの間にか、私の目の前にも一匹のゆっくりがいた。さっきのOLさんのゆっくりとは違って、
黒髪に赤いリボンを付けている。そして態度がふてぶてしい。口すっごい悪い。何こいつ。
「きこえなかったのおおおぉぉぉぉ!!はやくそのあまあまよこせ!!」
地団太を踏むようにぴょんぴょんと飛び跳ねるゆっくり。私は溶けかけたアイスのコーンを齧って、
じとりとゆっくりを睨みつけた。
「たべるなあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!それはれいむのだあぁぁぁぁぁ!!!!」
ぜんっぜん可愛くない。ありえないんですけど。『ゆっくりしていってね!』とか言ってれば良いのに、
なんなのそれ。私のさっきの感動返せよ。でもなぁ、さっきのOLさんのゆっくりも、最初は
こんなだったのかもしれないし、こいつももしかしたら、お腹空いてるからこんな態度なのかも。
そう思った私はさっきのOLさんに敬意を表して、アイスから包み紙を外して、溶けたアイスの染みた
それを放ってやった。苺のヘタより100倍は上等だと思う。
「ほら、あげる」
「ゆごおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
渡そうとしたら、ゆっくりが飛び付いてきた。アイス本体の方に。
「きゃあぁ!!」
ちょっとしゃがむ感じになってたせいでゆっくりがこっちに迫ってくるみたいに見えた。びっくりした
私はアイスを落としてしまう。膝の間ど真ん中に落ちたアイスで、スカートがぐっちゃぐちゃに濡れる。
「いやぁ!もう!!!」
スカートを摘まんで立ち上がった。アイスが転げて膝から落ちて、ゆっくりが奇声を上げながら
それに飛び付いて行ったけど、そんなのどうでもいい。これ染みになっちゃうじゃん!
涙目になりながらハンカチを取り出して、あぁもうこれ気に入ってるのに!スカート拭いて取れないよこれ
べたべたしてるくそ。
「ゆっほおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!うめええぇぇぇ!!!!ゆっくりいぃぃぃぃぃ!!!」
とりあえず水、水が無いとどうしようもない。でもこいつこのままほっといたら私の荷物何されるか
分かんないし
「ぱねぇ!!!すげえぇぇぇぇぇ!!!」
とりあえず、アイスを汚らしく舐め続けるゆっくりを蹴り飛ばした。
「びぎぃ!」
ボールみたいにぐるんって縦に回転しながら飛んでいく時に、うれションが撒き散らされて服に
ちょっとかかった。こいつマジ殺す。
「お前荷物漁ったら許さないから!」
とりあえず、自販機探そう。トイレじゃ時間がかかりすぎる。
で、自販機見つけてミネラルウォーター二本買って、急いで戻った。
買ったばかりの荷物弄ってたり、誰かに盗られてたりしたらほんとに殺してやろうと思ってたけど
そんな事はなくて、ゆっくりは私が蹴り飛ばした場所で泣きながらぐねぐねしてた。
「ゆびいいぇぇぇぇぇ!!!いぢゃいいぃぃぃぃぃぃ!!おぼにおがおがいだいいぃぃ!!!」
無視してベンチに座り込んで、ハンカチ濡らしてスカートを叩くようにシミ抜きする。
あれ、そういえばミネラルウォーターって確か、硬水って言うんだっけ?何か洗濯に向かない
水だとか聞いたことある気がする。色落ちしたらどうしよ。
叩いて叩いて叩きまくってハンカチ絞ってもっかい濡らして頑張って叩いたら、とりあえず白い所は
無くなった。今日買った中に新しいタオルとかも入ってるけど流石にそれは使いたくないし、
もうこれでいいや。あ、そうだ。ゆっくりにうれションかけられてたんだった。もっかいハンカチ絞って
水多めに含ませて点々って色んな所についてるうれションをあっちこっち拭き取り終わって
はーやれやれと思いながら前を向くと、何かゆっくりが頬を膨らませてた。
「くそばばあああぁぁぁぁぁ!!!よくもれいむのたまのようなおはだをきずつけてくれたねえぇぇぇ!!」
は?何言ってんのこいつ。ありえないんですけど。
「このせかいのふぁっしょんりーだーたるれいむのおかおをきずけるなんて、ばんしにあたいするよおぉぉぉ!?
このつぐっないっはしてもらうからねええぇぇぇぇ!!!」
ファッションリーダーって。中途半端な長さのミディアムで真っ黒な黒髪とか無意味に重く見えるし。染めるか
シャギー入れろっつーの。しかもぼっさぼさで手入れ全然してない。装飾品は頭のてっぺんに漫画でしか
見ないような大きい赤いリボン付けて、もみあげもリボンと同じ布地でのり巻きみたいに留めて。
「馬鹿じゃないの?はっきり言ってあんた、ダサい」
正直に言ってやると、何となく分かってたけどゆっくりは激昂した。
「ゆぎぎいぃぃいぃぃ!!!くそにんげんのぶんっざいでれいむのふぁっしょなぶるなふぁっしょんを
りかいできるわけないでしょおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!???れいむをばかにしたくそにんげんは、
ゆっくりしねえええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
こっちに向かってぽいんぽいんって跳ねてくる。一回一回が全然進まない。亀みたい。
私は手に持ったままだった、水をたっぷり含ませたハンカチのはじっこをつまんで、ようやく私の足元まで来た
ゆっくりがこっちに向かって最後のジャンプをしようとするところに、
バチィン!!
思い切り振りおろした。
「ゆっびゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」
当ったところがふわっとしててめこっとちょっとへこんで、うわ、こいつマジで饅頭なんだなって
手ごたえがした。
「は、はびゃあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!いぢゃいいぃぃぃぃぃ!!!ぐぞにんげんがいじべるううぅぅぅぅ!!!!」
ごろごろ。ごろごろ。泣きながらゆっくりが転がる。ちょっと止めて欲しいんですけど。泣くなよ。泣いてる
奴の隣に泣いてない奴がいたら、泣いてない方が悪者になっちゃうんだし。
「泣き止め!」
バチィン!
顔を伏せてるせいでこっちを向いたお尻?こいつら顔だけだけど何かそんな感じの所をもう一発打った。
「ひっぎゃああぁぁぁぁぁぁん!!」
「声出すな!」
後頭部を踏みつけて顔を地面に押し付けてぐりぐりした。
「おぎぃぃいぃ、びぃぃぃ!?」
声出せない?確かめるためにもう一発。濡れた布で叩かれるのって、実は相当
痛いんだよね。小学生の時に男子にやられて肌が赤く腫れた事がある。当然その後十倍返したけど。
「っ!?」
びくんとお尻を跳ねさせながら私の足を持ちあげようとする。けど無理。こいつ力めちゃくちゃ弱い。
「で、さぁ。あんたさっきから、何してくれてる訳?」
頭をぐりぐり踏みにじりながら、二、三発お尻を叩いた。叩くたびにびくんびくん跳ねるのが面白い。
「ひぎ!ゆぃぃ!!」
必死になって頭を持ちあげようとするとお尻が反動でぷりぷり揺れる。ちょっと馬鹿可愛い。
野良猫とか野良犬とかに何かされたからって叩いてやろうとは思わない。やっぱり牙とか爪とか怖いし。
でもゆっくりは言葉喋るし生意気だしその割に弱いから、なんとなく虐めてやりたくなる感じがある。
「今から足どかすけど、私が良いっていうまで喋らないでよ。叫んだりしたらもう一回踏むから」
そう言いながらそろっと足をどかしてやると、ゆっくりががばっと起きあがった。
「ゆええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええええええええええん!!!!!!!!!!!!
ぐぞにんげんがいじべげぶぅ!!!!」
本日最大級の大きな泣き声。くそこいつ私の話何一つ聞いてないよ慌ててもう一回踏みつけて
声を抑えてやる。どーしよ。ゆっくりの知能って基本幼児並みだ。それよりひどいかも。仕方が無いから
私はベンチから立ち上がってゆっくりの髪を左手で掴んで、足をどけ、振り向かせると同時にハンカチ
をゆっくりの口に突っ込んだ。
「なにをず」
思ったよりゆっくりの口は大きくてハンカチ一枚じゃ全然足りなくて仕方ないからハンカチ握ったまま
私はゆっくりの舌を掴んだ。これで流石に喋れないだろう。
「喋るなって言ってるでしょ?舌引っこ抜かれたくなかったら私が良いっていうまで黙って。良い?」
ぎりぎりと舌を握りしめて、顔を近づけて目を見ながら言ってやる。
「ぉ……ぁぇ……」
「返事は?頷くだけで良いから」
「ぃ……ぃ……」
「返事は!?」
手に上顎が当たる感触がする。多分頷いてるんだと思う。私は舌から手を離して、立ち上がった。
「じねぇ……ぐぞにんげんはじねぇ……」
ゆっぐゆっぐとか漫画みたいな泣き声をあげるゆっくりを私は見下ろす。ちょっと疲れた。これ以上
怒るのもダルいし、もうこいつどっか行ってほしい。お兄ちゃん来た時にこいつ虐めてる所とか
見られたりしたら嫌だし。これでもお兄ちゃんの前では、可愛い良い妹で通っているのだ。
ていうかお兄ちゃんいつ来るんだろ。携帯を取り出してお兄ちゃんに電話する。車の中だったりしたら
どーしようかと思ったけど、あっさりとお兄ちゃんは電話に出た。
「あ、お兄ちゃん?今大丈夫?え、そうなんだ。もう着いてるの?そうそうその公園で合ってる真ん中の
方にジョギングコースみたいなのがあってベンチも何個か置いてあって私そこに座ってるから。うん、
ありがと。待ってるー」
通話を終える。お兄ちゃんはもう公園に着いているらしい。何分もしない内に私を見つけてくれるだろう。
「もー良いよ。もうゆるしてあげる。ていうかどっか行ってよ」
だから私は、ひらひら手を振ってベンチに座り直しながらゆっくりを追い払おうとした。
「おぼえてろおおぉぉぉぉ!!」とか笑える台詞を残して逃げて行くだろうと思ってた。ら。
「がああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
なんと驚いた。ゆっくりはまたまた私に飛びかかってきた。私ベンチに座ろうとして中腰。そりゃ
びっくりするし、びっくりしたら体勢崩す。体勢を崩せば転びもする。
「がぁ!うがあああぁぁぁぁぁぁぁ!!あやまれえええぇぇぇぇ!!どげざじろおおおぉぉぉ!!!」
「いった!っ!」
転んだ拍子に足捻った。肘とわき腹打った。一瞬呼吸が止まった。
「ゆひひひひひひゃあああああっはあああぁぁぁ!!ざまぁぁぁみろ!!れいむさまのじゃまをするやつは
ゆるさないんだよおおおぉぉぉぉぉ!!!!つみのおもさをかみしめてねえぇぇぇぇ!!」
足がずきんずきんする。地面に横たわった私はゆっくりと視点が同じ高さになって、そうすると
ゆっくりの人を馬鹿にしたみたいなムカつく笑顔も剥き出しになった歯もさっき握った携帯ぐらいある
大きさの舌さえ何か怖く見えてきて、痛みと恐怖で私はちょっと涙出た。
「ゆぁーん。じゃあこれからはれいむのたーんだよ!よくもこれまでれいむをばかにしてくれたね!
れいむのどれいにさせてくださいっていうまでいためつけてあげるからかくごしてね!くそにんっげんっの
ぶんざいでこのえいっえんのあいどるにさからったことをこうかいしてね!かわいくてごめんねー!!!」
私の顔に向かって、ゆっくりがずんずん近づいてくる。足が痛くて動けない。肺がひゅうひゅう鳴って
痙攣してる。空気を吸いたいのに口がぱくぱくするばっかりで全然息が入って来ない。怖い。嫌だ。誰か助けて。
「じねえええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
ゆっくりが私の顔に向かって飛びかかってくる。助けてよ、お兄ちゃん。
私の顔の横を、人間の足が掠めた。
「ゆっべえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
ドップラー効果っぽい声を残して吹っ飛んでいくゆっくり。目を一回瞬かせてから顔を上げると、
蹴り足出した姿勢のまま血走った目で前を見つめる大学生ぐらいの男の人がいた。ていうか、お兄ちゃんだ。
「おい!大丈夫か!?」
しゃがみこんで私を抱き起こすお兄ちゃん。私はまだ息もおぼつかない。息苦しいのと怖かったのと
安心したのとで涙がぼろぼろぼろぼろ出てきて、私はお兄ちゃんに抱きついた。思いっきり。
背中に手を回してもう片方の手でよしよしって頭を撫でてくれるお兄ちゃんの体温が伝わってきて、ようやく
私は息が出来るようになる。出来るようになったら声が出て、当然それは泣き声で、自分の泣き声を
聞いてるとなんだかもっと泣けてきたので私は泣いた。お兄ちゃんの胸にぐりぐり頭を押し付けて。
「ひぃひぃいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!はにふうんああいああいあああああああああ!!!!!!!」
割と泣いてたと思う。5分か10分は泣いたはず。その間ずっとお兄ちゃんは私を抱きしめっぱなしで
私はお兄ちゃんに抱きつきっぱなしで泣きっぱなしで、人が見たらなんか誤解されそうな感じだった。
で、その兄妹のらぶーな時間を邪魔したのがさっきの声。深海から邪神でも呼びだすんだろうかって
感じのひらがなで母音のみな叫び声。声のする方を見ると、あ、さっきのゆっくりだ。
お兄ちゃんに蹴られたせいで、左頬にべっこり穴が開いている。もう激怒ーって感じでぴょんぴょん
飛び跳ねながらこっちに向かって来る。
「お兄ちゃん」
ぎゅっとお兄ちゃんの胸元を掴んで、私は顔を上げた。
「あのゆっくりが、いきなり私に絡んで来たの」
涙の溜まった目を見せ付けるようにして、迫真の演技でお兄ちゃんに迫る。涙とはこうやって使う物
なのだよゆっくりよ。私の涙に騙されたお兄ちゃんは何も言わずに私を姫だっこして、ベンチに座らせる。
「ちょっと待ってろよ」
そう言って私の頭を撫でて笑うと、くるりとゆっくりの方に向き直った。あ、お兄ちゃんキレてる。
後ろ姿でモロ分かるぐらいキレてる。あーあかわいそーなゆっくり。でもいい気味だ。
「いいないあいううううんあああああああ!!!!!うおいんげんはみんなしえええええ!!!!!」
べっこりへこんだ頬のせいでもう真っすぐ跳ねられもしないくせに、ゆっくりはこっちに向かって
突っ込んでくる。お兄ちゃんはそれを待つつもりもないようで、つかつかつかとゆっくりに向かっていって、
無造作に頭のリボンを掴んで頭より高く持ち上げると、これまた無造作に地面に叩きつけた。
「おほあをとんでうみいいいいいいいいいいいいいいいいいだあああああああああああああああ!!!」
ぐしゃっというかべしゃっ?というそんな音がして、ゆっくりの頬に開いた穴から餡子が滅茶苦茶
噴き出した。お兄ちゃんの手にはゆっくりの髪がごっそり残ってて、なんだか私まで自分が髪を毟られた
みたいな感じがした。一応あいつらゆっくりって女の子みたいな感じだし、髪を毟られるのは辛いだろう。
ザマミロ。
「ほっぽへぇ……ぷぇぇ……」
口からぽろぽろ白い歯の欠片を零しながらゆっくりがびくんびくん痙攣する。お兄ちゃんは、叩きつけた
ゆっくりの髪の残ってる所を掴んでまた持ち上げた。そして、何も言わずに向こうの草むらの方に
歩いて行ってしまった。多分、私に対する教育的配慮っていう奴だと思う。
お兄ちゃんやさしーい。いってらっしゃーい。
ハンカチにミネラルウォーター浸したのを足に当てて冷やしたりしてるうちに、お兄ちゃんが帰って来た。
時間的には、私の足の腫れがちょっとマシになるぐらい。その時間で何をしたのかは聞かない事にしよう。
「お兄ちゃん、アイス買って」
だから私はその代わりに、妹として当然の要求をする。
「後足痛くて歩けないから車までおんぶして。待つのやだから荷物も一緒に持って行って」
「お前なぁ……」
「だめ?」
まだ潤んでる目で上目遣いにお兄ちゃんを見ると、「仕方ないな」とか言いながらしゃがんで私に
背中を向けてくれる。やっぱりお兄ちゃんだーいすき。
「ストロベリーください」
両手と背中にいっぱい荷物と私を抱え、それでも歩調を乱さない力持ちなお兄ちゃんを
さっきの販売車までナビして、お兄ちゃんの背中から店員さんに注文する。
「バニラじゃなくて良いのか?」
私の好みを良く知ってるお兄ちゃんはそう言って、不思議そうに私を振り返る。
「今日はストロベリーな気分なの」
そう言って、お兄ちゃんがやりにくそうにお金を払ってるのを見ながら私はアイスを受け取った。
「結局、人間謙虚なのが一番だと思うんだよお兄ちゃん」
えっさほいさと駐車場まで歩き続けるお兄ちゃんの背中の上で、私は偉そうに言う。
そう、謙虚なのが一番なのだ。童話でだってなんだって、幸せになるのは欲のない人と
相場が決まっている。ファンタジー世界の住人であるゆっくりがその法則に従わないはずが無い。
だから私は、その気持ちを実感するためにストロベリーを選んでみた。正直ストロベリーのお菓子
は嫌いなのだ。香料の香りがわざとらしすぎて、何か嫌。
でも、久しぶりに食べてみたストロベリー味のアイスクリームは、私が思った以上に美味しかった。
凍った果肉がシャリっとして舌に楽しいし、適度な酸味が甘さをかえって引きたててくれている。
ふむ。私はちゃんと謙虚な気持ちを持てる人間なようだ。私すごい。
「そうだな。人間謙虚さって大事だと思うよ。なぁお兄ちゃんを荷物持ちにした上に、自分は背中で
アイス食べてる妹よ」
む、せっかくいい気分に浸っているのに空気読まないお兄ちゃんだ。私はアイスを持っている手を
お兄ちゃんの口元まで持っていって、まだ固いアイスをお兄ちゃんにも食べさせてあげる。
ついでに手が滑ったフリをしてアイスをお兄ちゃんの口になすりつけてやる。
「こら、止めなさい」
顔を振って逃げようとするけど、後ろから抱きつかれてるんだから逃げられる訳が無い。
「私はお兄ちゃんに、妹として当然のけんりをこーししてるだけだよ。そうでしょ?」
「……お前なぁ」
「それでも、なんだかんだで言う事を聞いてくれるお兄ちゃんだーいすき。いつもありがと」
そう言って私がまたアイスを食べ始めると、お兄ちゃんは黙ってしまった。
ほら、やっぱり私は謙虚な妹なのだ。きっとそうなのだ。
両手と背中にいっぱい荷物と私を抱え、それでも歩調を乱さない力持ちなお兄ちゃんを
さっきの販売車までナビして、お兄ちゃんの背中から店員さんに注文する。
「バニラじゃなくて良いのか?」
私の好みを良く知ってるお兄ちゃんはそう言って、不思議そうに私を振り返る。
「今日はストロベリーな気分なの」
そう言って、お兄ちゃんがやりにくそうにお金を払ってるのを見ながら私はアイスを受け取った。
「結局、人間謙虚なのが一番だと思うんだよお兄ちゃん」
えっさほいさと駐車場まで歩き続けるお兄ちゃんの背中の上で、私は偉そうに言う。
そう、謙虚なのが一番なのだ。童話でだってなんだって、幸せになるのは欲のない人と
相場が決まっている。ファンタジー世界の住人であるゆっくりがその法則に従わないはずが無い。
だから私は、その気持ちを実感するためにストロベリーを選んでみた。正直ストロベリーのお菓子
は嫌いなのだ。香料の香りがわざとらしすぎて、何か嫌。
でも、久しぶりに食べてみたストロベリー味のアイスクリームは、私が思った以上に美味しかった。
凍った果肉がシャリっとして舌に楽しいし、適度な酸味が甘さをかえって引きたててくれている。
ふむ。私はちゃんと謙虚な気持ちを持てる人間なようだ。私すごい。
「そうだな。人間謙虚さって大事だと思うよ。なぁお兄ちゃんを荷物持ちにした上に、自分は背中で
アイス食べてる妹よ」
む、せっかくいい気分に浸っているのに空気読まないお兄ちゃんだ。私はアイスを持っている手を
お兄ちゃんの口元まで持っていって、まだ固いアイスをお兄ちゃんにも食べさせてあげる。
ついでに手が滑ったフリをしてアイスをお兄ちゃんの口になすりつけてやる。
「こら、止めなさい」
顔を振って逃げようとするけど、後ろから抱きつかれてるんだから逃げられる訳が無い。
「私はお兄ちゃんに、妹として当然のけんりをこーししてるだけだよ。そうでしょ?」
「……お前なぁ」
「それでも、なんだかんだで言う事を聞いてくれるお兄ちゃんだーいすき。いつもありがと」
そう言って私がまたアイスを食べ始めると、お兄ちゃんは黙ってしまった。
ほら、やっぱり私は謙虚な妹なのだ。きっとそうなのだ。
END
あとがき
久しぶりに、1kb即興以外のSSです。どうでしたでしょうか。文字数制限が無いと、
叫び声を自重しなくて良いので楽しいですね。
ゆっくりの末路を決めるのはゆっくり自身の性格であるという考えから、SSを書く時は
割とゆっくりの性格を考えています。
それと同じに、人間がゆっくりに何をするのかを決めるのは人間の性格だと言う考えから、今回
人間の描写を濃くしてみました。SSとしてある程度の滑らかさを重視したかったのです。
ちなみに主人公がこけた後、最初のプロットでは靴と服が汚れた主人公がブチ切れて、れいむに
靴を舐めさせながら言葉でれいむのプライドをずたずたにする、という展開のはずでした。
でも頭踏み、鞭打ち、靴舐めだと何かSMプレイみたいだと思ったので、今の展開になったのでした。
叫び声を自重しなくて良いので楽しいですね。
ゆっくりの末路を決めるのはゆっくり自身の性格であるという考えから、SSを書く時は
割とゆっくりの性格を考えています。
それと同じに、人間がゆっくりに何をするのかを決めるのは人間の性格だと言う考えから、今回
人間の描写を濃くしてみました。SSとしてある程度の滑らかさを重視したかったのです。
ちなみに主人公がこけた後、最初のプロットでは靴と服が汚れた主人公がブチ切れて、れいむに
靴を舐めさせながら言葉でれいむのプライドをずたずたにする、という展開のはずでした。
でも頭踏み、鞭打ち、靴舐めだと何かSMプレイみたいだと思ったので、今の展開になったのでした。
それではここまで読んでくださったあなたに感謝をささげつつ、今日はさようなら。
by ゆンテリアあき
モチベーションの維持及び次作以降のクオリティアップのため、
お手間かと思いますが良かった点、悪かった点、要望、一言等何でも良いので
書きこんで頂けると嬉しいです。
お手間かと思いますが良かった点、悪かった点、要望、一言等何でも良いので
書きこんで頂けると嬉しいです。
書いたもの一欄は割愛。全てふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー様に収録されています。