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#navi(IDOLA have the immortal servant) 「おおおおおおおおおっ!」  片膝を付いた巨躯に向かって、狩人は跳ぶ。  赤く輝くフォトンの大剣を振りかぶって、全身全霊、持てる全ての力を振り絞って打ち下ろした。  それは刹那の一瞬。しかし、自分の眉間に叩き込まれるであろうその一撃が、やけにゆっくりと動いて見えた。  避け切れない、と『彼』の幾多もの戦の経験が悟らせる。これは致命傷になる、とも。だが。  ―――それでいい。  『彼』は思った。諦めではない。その感情は、歓喜と言って良い。  我ヲ打チ砕キ、滅ボシ、屍ヲ踏ミ越エ、赤キ捕ラワレ子ヲ―――  それこそが唯一つの望みだった。ともすれば千切れそうになる自我を繋ぎ止める全てだった。  それにしても……と思う。  あの娘に自分が作り与えた武器が、今こうして自分を滅ぼす。何とも皮肉な話ではないか、と『彼』は今際の際、確かに笑ったのだった。    舞台は変わる。  春を迎えたトリステイン魔法学院では、伝統にして恒例である、使い魔召喚の儀式が行われていた。  二年生に進級する為のテストを兼ねたそれは、一生の供となる使い魔を召喚する大切な儀式なのである。と言っても「サモン・サーヴァント」を失敗させて進級出来なかった生徒など、聞いた事がない。  爆発が起こった。 「これで何度目かしら」 「十六回目」  赤い髪と褐色の肌を持つ女生徒のぼやきに、隣にいた青い髪の少女が、手にした本から目を離さずにぽつり、と答える。  しっかり数えてたのかい、と心の中で突っ込みつつ、赤毛の女生徒……キュルケは歯噛みした。  キュルケの視線の先には、桃色がかったブロンドの少女が肩で息をしている姿があった。  ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。二つ名は『ゼロ』。トリステイン魔法学院創立以来の問題児だ。何しろ魔法が全て原因不明の爆発になってしまう。  先程から何度も魔法の失敗による爆発を繰り返し、草原のあちこちにクレーターを作ってしまっていた。  ルイズに浴びせられる嘲笑と罵声は、爆発が十回を超えた辺りで聞こえなくなった。悲壮感すら漂わせるその姿に、さすがに気の毒になってきたのだろうか。或いは単純に、飽きてこの気まずい空間から解放されたい、という者もいるかもしれない。  キュルケも最初こそ野次を飛ばしていたのだが、今では皆と同じように静観モードに入っていた。しかし、クラスメイトのように同情しているわけでも、冷やかな視線を向けているわけでもない。  応援している、と言うのも少し違うが、事ある毎に衝突してきたライバルが、こんな事で進級出来なくなってしまうのはキュルケとしても面白くないのである。 「ちょっと、しっかりしなさいよ。どれだけ皆を待たせれば気が済むの?」  そんな言葉がキュルケの口を突く。自分がこういえば、ルイズは決まってムキになるのだ。何せ諦めるという事を彼女は知らない。系統魔法の威力は強い感情に左右される。であるなら、こうして発破をかける事は、単なる根性論以上の意味合いがある。 「うっ、うるさいわねっ! 気が散るから黙って見てなさいっ!」  彼女の予想した通り、ルイズは頬を紅潮させて怒鳴ると、目を閉じて大きく息を吸い、呪文を詠唱する。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、宇宙の何処かにいる強くて神聖で勇敢で美しい使い魔よ! 私の呼び掛けに応えなさいっ!!」  と、大仰に叫んで身振り手振りを交えて杖を振るえば、一際大きな爆発が起こった。 「十七回目……」 「違う」  視線を本から爆発地点に移した青い髪の少女……タバサが言った。 「違うって……え?」  ―――十七回目の爆発は、それまでのものとは手応えが違った。  自分は何かを喚び寄せた。それは解る。  もう、この際なんでも良かった。ドラゴンやグリフォンなら言う事は無いが、鳥でも犬でも猫でも構わない。昆虫でもいい。  ―――あ、でも蛙だけは勘弁して欲しいな、などと思いながら土煙の中を凝視する。 (何……あれ……?)  ルイズは”何か”をそこに見た。燐光に包まれて宙に浮かぶ”何か”は、子供の頭ぐらいの大きさで、球形をしていた。 「う……」  爆発で巻き上げられた土煙が風でこちらに流されてきたので、ルイズは顔を顰めて一瞬だけ目を逸らした。本当に一瞬の事だ。視線を戻せばそこには…… 「平民だ……」  誰かの漏らした言葉と共にどよめきが広がる。 「ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!!」 「え? あれ!? さ、さっきのは何よっ!?」  ルイズは、爆発で作られたクレーターの中心へ向かう。  そこには白髪頭の老人が一人、仰向けに倒れているばかりだった。さすがにオールド・オスマンには見劣りするものの、口元には立派な白髭が生えている。  とても変わった服を着ていた。少なくともメイジではありえない。  肌の露出している部分が極めて少なく、指先と顔以外は身体のラインが出るようなぴったりとした衣服が覆っていた。  厚みのある肩当や手足は明るい青と暗い青の配色だ。材質は全く見当も付かないが、肩当は金属とも違う鈍いツヤを放っていて、相当弾力性に富み、頑丈そうに見えた。  腹部は布地が薄いのか、割れた腹筋がくっきりと浮かぶ。その腹部と、前部に大きくスリットの入った腰周りの直垂は白を基調としたもので、所々に赤いラインが走っていた。   喉元に、円形の白いエンブレム。左肩には赤い、炎を模したかのような形のエンブレムが見て取れる。 「く……」  男が小さく呻いて薄く目を開いた。青い、瞳だった。   「あんた誰?」  抜けるような青い空をバックに、こちらの顔を覗き込んでいた少女が言った。  まだ年若い。子供と言っても良い。華奢な身体付きをしているから余計に子供っぽく見えるのか。  黒い布のマントの下に白い布のブラウス、グレーのスカート、という出で立ちだ。  顔の造作はまだ幼さを残しているものの、かなり整っているといって良いだろう。桃色がかったブロンドと、透き通るような白い肌。活力に満ちた鳶色の瞳。耳は……尖っていないのでニューマンではないらしい。  しかし……コーラル本星でもちょっと見た事がないようなアナクロな服装だ、と男は思った。  しかも合成ではなく、天然の繊維を使っているようだ。ますます珍しい。  自分はどうやら仰向けに寝転んでいるらしい。立ち上がって周囲を見回せば、目の前の少女と同じような出で立ちの少年や少女が、こちらを物珍しそうに伺っている。見渡す限りの草原。遠くには、石造りの建造物。  ラグオルでは絶対に有り得ない。相当な年代モノだろう。ここがコーラルならば観光地の古跡名勝、といったところか。  歴史の資料を紐解けば、中世時代にあんな建造物を見ることが出来るに違いない。いずれにせよ、本星の人間が宇宙に進出するよりも遥か以前の遺物だ。 「オレは、ヒース―――」  言いかけて、彼は気付いた。口から紡がれたのは確かに人間の言葉だったからだ。  目の前の少女が立っている。こちらが見下ろす形だが、あくまでも人間の目線の高さだ。  どうして、元に戻っているのだ?  両の手を見詰める。  武器と一体化した異形では無い。人間の掌。人間の指だ。  常に心を覗かれているような、あの不快な感覚が無い。  『アレ』から受けた傷の疼きも、意識を乗っ取ろうと送ってくる暴虐な圧力も、微塵も感じなかった。 (オレは、一体―――)  助かった、とは到底思えない。あの勇敢なハンターに頭をソードに叩き割られて、自分は確かに滅びたはずではないか。 「どこの平民? 変わった格好ね」  混乱した思考は、良く通る鈴のような声で中断させられた。 「平民だと……? ここは……?」  遠巻きに自分を見やる子供達は、皆一様にロッドやケインを手にしている。  彼らはフォースの集団だろうか、と男は思った。  そこで初めて、自分に向けられる好奇の視線の中に、異質なものが混じっているのに気がついた。悪意の類、というよりは、これは寧ろ……ラボの研究者の視線に近い気がする。実験体であった彼にとってあまり良い印象は持てない視線だ。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を喚び出してどうするのよ」  その声に釣られるように、少女を除いた彼ら全員がどっと笑った。 「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」  ルイズと呼ばれた少女は頬を紅潮させて怒鳴る。 「間違ったって、ルイズはいつもそうじゃないか!」 「ゼロのルイズは一味違うよな!」  一層、笑い声が大きくなる。  自分が笑われているわけではないようだが、男にとってもあまり気持ちのいい類の笑い声ではない。嘲笑、と分類されるものだからだ。 「ミ、ミスタ・コルベール!」  明らかに狼狽した様子のルイズが呼び掛けると、中年のフォーマー(と、男が便宜的呼ぶ事にした)が前に出てくる。 (こいつか)  先程からずっと、こちらを値踏みするように伺っていた者がいたが、どうやらこのフォーマーらしい。  フォースとしての実力も、他の者達とは一桁も二桁も違うようだ。この場では最も注意が必要な相手だろう。 「なんだね。ミス・ヴァリエール」 「や、やり直しをさせてください! 平民の使い魔なんて聞いた事がありません!」 「それはダメだ。君も知っての通り、これは神聖な儀式だからね。やり直しは認められていない。例え平民であっても、喚び出した以上は彼に使い魔になってもらうしかない」 「そ、そんな……」  ルイズは目に見えて肩を落とす。 「さあ、『コントラクト・サーヴァント』を」 「くっ」  ルイズは男に向き直り、睨みつける。 「あんた、ちょっとしゃがみなさい」 「何故だ」 「いいから!」 「………」  ここは大人しく従っておくのがいいだろう、と彼は判断する。  この人数のフォースを相手に、武器も持たずに戦っても勝ち目があるとも思えない。  これを一度に敵に回すのは得策ではない。それに、自分は意識を失っていた。連中に危害を加える気があるなら、とっくにそうしているだろう。 「うう、こんな年寄りと『契約』するなんて思っても見なかったわ」 「……契約とは何だ」  その言葉を無視してルイズはルーンを唱える。  その様子から質問をしても無駄だと、彼は悟ったようだった。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」  すっと、額にケインを当ててくる。動作には敵意や殺意は感じられない。テクニックを放つわけでもないようだ。述べた口上は祝福と言っていたし、使い魔になってもらうとか何とか言っていた。  彼の尺度の中で判断するならば、これを文字通り単なる儀式、セレモニーだと理解していたのである。  なるほどこれも儀式とやらの一環か、中世の騎士受勲に似ているな、などと彼が心の内で呟いていると、ルイズがゆっくりと顔を近づけてくる。 「何だ」  不穏な気配を感じて上体を後ろへ反らそうとしたが、肩を掴まれた。 「いいから、じっとしてなさい。全くどうして私が……!」 「待て、お前は何を」 「ん……」  唇を重ねてくる。まさか初対面の相手が自分にキスをしてくるなど、考えても見なかった。  彼がどちらかというと堅物だったという事もあるが、ルイズの動きにこちらを害を及ぼそうとする気配が全くなかった。だから、不意を突かれたのだ。  触れ合っていたのはほんの一瞬だ。顔を真っ赤にしたルイズが飛び退くように離れた。 「な……何をするか! はしたない!」 「うるさいうるさいうるさいうるさいっ! わたしだって本意じゃないわよ!」  顔を真っ赤にして喚き散らすルイズ。囃し立てる周りの生徒。 「『コントラクト・サーヴァント』は一度できちんと成功したようだね。おめでとう、ミス・ヴァリエール」  中年のフォーマーが苦笑いを浮かべた。 「相手がただの平民だから『契約』出来たんだよ!」 「幻獣だったら、ゼロのルイズじゃこうはいかないよな」 「なんですって!?」  ルイズが怒鳴り返す。  どうも、周りの子供らに、ルイズという少女は馬鹿にされているようだった。  しかし、契約、とは何だ? 単なる儀式ではないのか?  と、彼が子供達の口論を横目に思案していたその時だ。 「ぐっ!?」  彼は胸を押さえて、呻き声を上げた。  『アレ』につけられた傷の疼きに酷似していた。肉体と精神を侵食される感覚。ここ暫くの間ずっと味わってきたのだ。間違えようはずもない。 「お前、オレに何を……!?」 (油断した。敵意がないから、子供だからと侮ったか!?)  テクニックを行使しようと、意識を集中させる。この状況で最適なのは、指向性を持つギゾンデだろう。 「心配しなくていいわ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」 「使い……魔だとっ?」  先程の会話が冗談や形だけの儀式でない事を、彼はここに来て悟った。  『アレ』の支配から解放されてみれば、また訳も解らずに誰かの支配を受けろというのか。お笑いだ。  絶望か、諦観か。何だか無性に馬鹿馬鹿しくなってテクニックの発動を思いとどまる。  どうせ、一度は死を覚悟し、そして実際に死んだ身なのだ。身体は人間に戻ったが立場は前と変わらない。  支配する主が『アレ』であるより、目の前の少女が主である方が、同じ人間というだけで何倍もマシだろう。  ルイズの言うとおり、彼の身体は少しの間の辛抱で、すぐに平静を取り戻した。 「ふむ。ルーンはちゃんと刻まれたようだね。ちょっと失礼。ん? この服はどういう構造をしてるんだ?」 「…………」  フロウウェンは無言で襟元を開いた。自分の身体がどうなったのか、興味があったからだ。  あの、忌まわしい傷はない。その代わりに見慣れない記号……文字が胸には刻まれていた。 「珍しいルーンだな」  そして中年フォーマーは踵を返すと、少年たちに呼びかける。 「さてと、皆教室に戻るぞ」  ふわり、とフォース達が宙に浮かぶ。 「何だ……? テクニック……ではない? マジックだとでも言うのか?」  それは男の住んでいた星、コーラル本星では既に失われた技法だ。  マジックはテクニックの前身となったものだが、両者には大きな違いがある。マジックの行使によって起きる現象を、科学技術によってそのプロセスを忠実になぞり、現象として再現したのがテクニックである。 つまり、知識と生体フォトンがあれば誰でもそれを行使する事が出来る。しかし、マジックの行使には生まれ付いての才能が必要、とされている。  そして彼が知る限り、空を自在に飛ぶテクニックなど、存在しない。彼が意識を取り戻すまでの間に、技術革新でもあったというのなら話は別だが。 「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」 「あいつ、『フライ』はおろか『レビテーション』すらまともにできないんだぜ」 「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」  口々にそう言って、少年らは飛び去って行った。どうやら向こうの石造りの建造物に向かうらしい。  ルイズは、彼に向き直って大声で怒鳴る。 「あんた、なんなのよ!」 「それはオレの科白だ。意識を取り戻せば知らない場所にいて、知らない連中に囲まれていた。説明ぐらいはしてくれても罰は当たらないと思うが」 「ったく、どこの田舎から来たか知らないけど……仕方ないわね。召喚したのは私なわけだし。いいわ。説明してあげる」 「田舎、か。本星に比べればここは未開の土地も良い所だ。大体、ここはラグオルのどの座標だ?」  空気が澄んでいる。コーラルにはこんな自然が残っている土地はもうどこを探しても存在しない。  気候からしてガル・ダ・バル島ではない、という事は想像が付くが。 「ラグオル? ほんせい? 何それ?」 「……本星といえばコーラルに決まっている」 「なにそれ。そんな国? 土地かしら? 聞いたことないわ」 「…………」  老人は言葉を失った。どうも話が噛みあわない。ラグオルもコーラルも、彼の常識の範囲内の話なのだ。相手が知らない、と言う事がまず前提として有り得ない事だった。  ジャケットに備え付けられているアイテムパックを探って見れば、軍で支給されているセンサーが出てきた。 ハンターズにも支給されているごく標準的な装備で、設定された座標を基点とした現在位置の割り出しが可能な他、動体センサーやガイガーカウンターなども内蔵している。  彼の纏っている衣服は軍に在籍している当時のものに戻っていた。ならばもしかしたらと持ち物を探って見たのだが、本当に所持しているとは思わなかった。  センサーのパネルを手馴れた様子で叩いて、渋面を浮かべる。  セントラルドームを基点とした座標、不明。周辺地形はただっ広い草原。動体センサー、ルイズと自分以外に反応無し。  他に……フォトン濃度が異常な数値を示している点が気になる。分かった事はそれだけだった。 「何よ、それ」  興味深々といった様子で、ルイズはセンサーの画面を覗き込んでくる。 「……センサーだ。パイオニア計画を知っているか?」  「知らない」 「君達はフォースではないのか?」 「わたし達はメイジよ」 「ここは、どこだ」 「トリステインよ。そしてここはかの有名なトリステイン魔法学院。知らないの?」  苛立ったようにルイズが言う。 「魔法……だと?」  聞き覚えのない単語に、彼は頭を抱えた。  彼は海千山千の政治家達とも渡り合ってきたのだ。目の前の直情的な少女が嘘を言っているかそうでないかぐらい、すぐに解る。答えは、否だ。  だとするなら、少女の頭がおかしいか自分の頭がおかしいか。それとも少女の言う事が全て真実か、しかない。  少女の正気を疑う気にはなれなかった。何しろ、空を飛んでいくフォース―――彼女の言葉を借りるならメイジ―――の集団をこの目で見てしまっているのだ。  それよりも、正気を疑うなら自分の頭だろう。  どう考えてもここでは自分の方が異邦人で、その上自分がラグオルにいた頃の末期は散々な目に遭っていた。  D型亜生命体の細胞に侵食された。訳の分からない実験の材料にされた。計画の頓挫と共に廃棄処分とされた。  最後には調査にやってきた四人のハンターズとの交戦の後に死亡した……はずだ。  そのはずなのに、気がつけばこんな訳の分からない場所にいる。  これでは、自分で自分の正気を保証する自信もない。 「わたしは二年生のルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。今日からあんたのご主人様よ。覚えておきなさい!」  と、ルイズは胸を張る。最も、ルイズに張るほどの胸は無いのだが。 「やれやれ……」  彼は溜息をついた。契約だとか使い魔という断片的な単語から予測していたが、どうやらこの少女に仕えろ、という事らしい。気が乗らないが、仕方が無い。  どうせラグオルではIDや軍籍の抹消どころか死亡扱いなのである。生きていると知れただけで軍に拘束されて実験室に送られるような身の上だ。であるのなら、ここでこの少女の使い魔とやらに身を窶している方が良いのかもしれない。  そんな風に自分を納得させると、ルイズに質問を続ける。 「ここがトリステインとやらというのはわかった。では、オレはどうしてここにいる?」 「わたしが『サモン・サーヴァント』で召喚したからに決まっているでしょう」 「召喚? どこから?」 「知らないわよ。その、ラグオルだか、コーラルだか、パイオニアとかいう所からじゃないの」 「確かに前に居た場所はラグオルだが。どこから連れて来たかも分からないというのか」 「仕方ないじゃない! そういう魔法なのよ!」  召喚、という言葉に抵抗はなかった。彼の世界にはリューカーという離れた場所を繋ぐテクニックが存在しているし、ワープ航法やトランスポーターも実用化されている文明レベルなのだ。  ルイズ達の文明レベルがどの程度かは分からないが、マジックであればそういう事も可能なのだろう、と彼は思った。 「では、オレの治療をしたのは?」 「知らないってば。あんた、怪我でもしてたの?」 「まあな」  魔法であれば肉体を再構成する事も可能なのかとも思ったが、そういうわけでもないらしい。  或いはコールドスリープの類やクローン技術で時間を置いて生き返ったところを、ルイズによって召喚された、とも考えられる。  ルイズが行った事がこのトリステインに喚び出すだけならば、他にこの身体を再構成した者か、或いは現象が存在するはずだ。 「もう諦めなさい。わたしも諦めるから。ほんとはドラゴンとかグリフォンが良かったのに。何で平民なのかしら」 「オレは平民じゃない。軍属だ」  オレでなく、β630やβ772といった、オスト博士が作っていた生物兵器が召喚されていたら、この少女も満足していたのだろうな、と彼は独りごちる。 「軍属って言ったって魔法は使えないんでしょう? あんた杖持ってないし」 「魔法は、な」  フォースには及ばないまでも、テクニックは使える。だが、あれは魔法ではなく科学の範疇だと彼は定義している。ならば自分は魔法など使えない。 「じゃあ平民よ」 「なるほど」  魔法を使える者をここでは貴族、というらしい。 「さ、随分話し込んじゃったけど、そろそろ行くわよ。ええと、ヒース、だったっけ?」  ヒース、と呼ばれて彼は怪訝そうな顔を浮かべた。  ああ、そう言えば、と思い返す。さっきの自己紹介は途中で中断してしまったのだった。 「ヒースではない。オレの名前はヒースクリフ・フロウウェンだ」     「月が、二つ、か。この星は衛星が二つあるのだな」  空に浮かぶ双月を見て、フロウウェンは苦笑いを浮かべる。  自分の今いる土地がラグオルでもコーラルでもないという証拠を、これ以上ないほどの形で突きつけられてしまった。   それでだろうか。『アレ』の支配力を感じないのは。遠く離れれば精神支配は弱まるのかもしれない。  オルガ・フロウであった時も、フロウウェンはギリギリの所で自我を保っていられた。母体であるあの存在から、彼のいたガル・ダ・バル島まで、距離が離れていたからだろうと、フロウウェンは推測していた。 勿論、彼自身の強靭な意志が無ければ、それも叶わなかっただろうが。 「何の話?」 「いや、なんでもない。昼間の話の続きをさせてもらってもいいか?」 「いいけど」 「まず、オレを元いた場所に帰す魔法はあるのか?」 「無理よ。召喚する魔法はあっても送り返す魔法は存在しないもの」 「そうか」  フロウウェンは然程ショックを受けなかった。  フロウウェンの知る限り、『サモン・サーヴァント』に似たテクニックとして、リューカーというものがあるが、あれは術者がゲートを一往復すれば消滅してしまう。それと似たような理屈なのだろう。  それにラグオルに戻れば、自分はまた『アレ』に取り込まれてしまうかもしれない。それは考えうる限りで最悪の事態だ。  愛弟子のリコや養子であったアリシアの事は心残りだが、自分はあの四人のハンターズ達に全てを託した。きっと彼らはリコを救ってくれる。フロウウェンに出来るのは信じる事だけだ。 「でもおかしいのよね。『サモン・サーヴァント』は普通、幻獣や動物を喚び出すんだけれど。どうして人間が来ちゃったのかしら」  今までのルイズの口振りからすれば、召喚される生物も、この惑星……ハルケギニアの存在に限られるのだろう。別の惑星から召喚される事があると知っているのなら、相手の持つ常識や情報を頭から否定するような事はしないはずだ。  自分が召喚されたのは……D型遺伝子がルイズの魔法に反応したからかも知れない、とフロウウェンは考えていた。D型遺伝子に侵食された者を、本当に人間と言っていいのかどうかは怪しい所だ。  ただ、今現在は侵食されている感覚がない。彼が科学者で、研究設備があればもっと詳しい事もわかったのだろうが、生憎フロウウェンは愛弟子であるリコ・タイレルと違って、科学者としての才能には恵まれてはいなかった。 いずれにせよ人間の身体に戻ったからといって脅威が完全に消え去ったと考えるのは楽観が過ぎるだろう。 「その使い魔というのは、具体的に何をするものなんだ? 人間では何か不都合があるのか?」 「不都合? あるわよ。まず、使い魔は主の目や耳となる能力を与えられるわ」 「というと?」 「使い魔の見た事、聞いた事が主人にも伝わるの」 「…………」  フロウウェンはその言葉に気分を害した。それでは『アレ』に思考を監視されていた時と何ら変わらないではないか。 「でもあんたじゃ無理ね。わたしなにも見えないもの。あんたが人間だからかしら」 「それは僥倖だ」 「僥倖じゃないわよっ」  ルイズは唇を尖らせた。 「……まあ、いいわ。次に、使い魔は主人の望むものを見つけてくるの。秘薬……例えば、硫黄とかコケとかね」 「すぐには無理だな。生態系がこちらの知識とは違う。知識が必要だ」  今度はルイズがその言葉に不快そうに眉を顰めるが、文句は言わなかった。どうせ今の自分では秘薬の調合は無理なのだ。わざわざそこに突っ込まれて墓穴を掘ることはあるまい。主としての威厳を損なわない為にも必要な事だ。うん。 「それから、これが一番重要なんだけど、使い魔は主人を守る存在であるのよ。あんたは軍属って言ってたけど……強いの?」  ルイズはフロウウェンを値踏みするように眺めた。確かに体格はいい。軍属というだけあって、かなり鍛えているようだ。  だが、高齢だ。体力には難があるのではないだろうか。 「その辺の平民よりは、な」  フロウウェンは小さく笑って、そう答えるに留めておいた。  はっきり言えば相当な謙遜なのだが、ルイズの言う幻獣やメイジとの戦闘経験がフロウウェンにはない。  オルガ・フロウのままであればいざ知らず、今の自分の剣技やテクニックがどれだけこの世界で通用するのか。相対化するには情報が足らなさ過ぎた。  ハンターズの力関係に置いては、一対一の状況ではハンターよりもフォースの方が優位に立つだろう、とフロウウェンは考えている。  近接戦闘を仕掛ける場合は勿論のこと、遠距離から銃撃を加える場合でも、ハンターとレンジャーは目標を武器の攻撃範囲と視界内に捉える必要があるが、テクニックは必ずしもそのプロセスを必要としない。  発動まで若干のタイムラグはあるが、背中を取られていてもお構いなしでテクニックは命中させられるし、遮蔽物を無視して一方的な攻撃も仕掛けられる。  例えば上空から落雷を落とす雷の初級テクニック、ゾンデを例に挙げるならば、ヒューマンのハンターならば射程距離半径20メートルほどが限界だが、熟練のフォースならば約35メートル半圏以内の相手に瞬間的に効果を及ぼす事が出来る。  この距離の差で常に先に捕捉され、先手を撃たれるというのは実戦では大きなアドバンテージであろう。  ルイズの世界の魔法がどれほどのものかは解らないが、テクニックよりマジックの方が強烈であったとは聞くし、メイジが貴族という支配階級として君臨しているのが、そのまま魔法の有用性や威力を証明しているではないか。 「はぁ……やっぱり平民じゃ使い魔の意味が無いじゃない」  一方のルイズは溜息をついて肩を落とした。  その辺の平民よりは強いと言っても、幾らなんでも幻獣やメイジに勝てるとは思えない。まあ、護衛か執事でも雇ったと思えば安い買い物かも知れない。 「もう、いいわ。魔法学院は護衛なんて必要ないくらい平和だもの。だから普段は掃除、洗濯、その他雑用をやってもらう事にする。それで衣食住が保証されるなら文句はないでしょう?」 「よかろう」  雑用、と聞かされてもフロウウェンは嫌な顔一つしなかった。  軍隊ではそれらの事は自分でこなすのが当たり前だし、子供の面倒を見るというのは別段初めての経験ではない。  ルイズは養子のアリシアや弟子のリコに比べたら随分な跳ねっ返りなようだが、まあ何とかなるだろう。 「ふわぁ……しゃべってたら眠くなっちゃったわ」 「それでは、今日はもう休むとするか。オレはどこで寝ればいい?」  ルイズは床を指差した。これも使い魔の躾の内だと、ルイズはわざと不遜で尊大な態度で接しているのだが、フロウウェンは特に不平不満を漏らすでもなく、わかった、と頷く。 「意外と素直ね。特別に毛布をあげるわ」  元々渡してやるつもりだったのだが、ルイズは殊更に特別、という部分を強調した。 「それはどうも」  と、概ね波風を立てないようにルイズと接してきたフロウウェンだったが、彼女が堂々と自分の前で着替えを始めた時には流石に眉を顰めて顔を背けた。  ルイズの意図は大体想像がつく。兵士の育成に当たり、新兵の意識を変えさせる為にわざと人間扱いしない、というのと同じだ。自分が主でお前は使い魔。だから男どころか人間扱いもしない、というところだろう。  貴族としては、それは間違いではないのかも知れない。この老いぼれを男として意識して欲しいなどとも思っていない。ここまでの交わりから、ルイズがプライドの高い人間だという事も理解していた。  しかし、だ。それでも慎みが足りないと思う。アリシアやリコが同じ事をしていたら多分雷を落としていただろう。 「これ、明日になったら洗濯しといて。朝わたしを起こすのも忘れない事」  と、脱いだ衣服と下着を投げて寄越した。流石にあんまりだったので、ついつい苦言を呈してしまう。 「……行儀の悪い」 「何よ、ご主人様のする事に文句でもあるの?」 「時には諫言するのも部下の役目だと思っているだけだ。この国ではオレの以前の身分は意味がないから、使い魔扱いは多いに結構だ。だが、今は人の見ていない所ならば何をしても良いのか、という美意識の話をしている」 「そ、それは……」  美意識などと言われると、常に貴族たらんと心がけているルイズは弱かった。しかも使い魔だからこそ諌めるのだ、とまで言われている。主従関係をはっきりさせる為に、わざと理不尽な行為をしたという自覚があるルイズには反論の術が見当たらない。  目に見えてルイズの表情が暗くなるのを見て、フロウウェンも子供相手に大人気なかったか、と少なからず後悔した。  確かにルイズは自尊心が高く、素直ではないので扱いにくいところがある。  ただ、昼間の様子を見ている限りでは周囲の人間から馬鹿にされていたようだが、それでも卑屈な所を見せなかった。それは美徳だとフロウウェンは思う。だからこそ、自分が間違っていると悟った時には内罰的になってしまうのだろう。 「いや、いい。やり込めたいわけではない。オレにも娘がいたので、つい、な」  だから、フロウウェンは話を打ち切って、もう眠ようと決めると床に横になった。  ルイズは所在無さげにしていたが、やがておずおずとベッドにもぐりこむ。パチンと、指を鳴らすと照明が消えた。 「あんた、子供がいるの?」  月明かりの照らす部屋の中で、ぽつり、とルイズが言った。  冷静になってみれば、フロウウェンにも都合があるはずだ。家族がいるという。フロウウェンの年齢から考えれば、その娘にも家族がいてもおかしくはない。きっと今頃、帰らぬ父を心配しているのではないか、とルイズは思った。 「血の繋がりは無いがな。アリシアは戦争で親を失った子だ。それを引き取って育てた」 「その……あんたの家族も、トリステインに連れて来てもいいのよ。ヴァリエール家に仕えて禄を受け取るって形にすればいいじゃない。あんたにいなくなられたら困るのは、わたしや、その、アリシアって人も同じでしょ?」  言って、ルイズは失言だと思ったのか慌てて訂正する。 「こ、困るっていうのは、あ、あんたがいなくなったらわたしが進級出来なくなるから言ってるのよ! 特別な計らいなんだから感謝しなさいよね!」  部屋を暗くしていて良かった、とルイズは思う。多分顔は真っ赤になっているだろう。 「ん? ああ。勘違いしているようだな。アリシアの事なら、オレがコーラルを出る時に信頼出来る男に預けてきている。心配はいらない」  答えながらも、フロウウェンはそんなルイズの慌てた様子がおかしくて笑ってしまった。  素直ではないが、根は優しい娘だ。だから厚意を素直に受け取っても良かったのだが、それは土台無理な話だった。  説明がてらの寝物語に自分の事を話してやるのもいいだろう。信じてくれるかは解らないが。 「それに、帰れない事情もある。ルイズは、オレがあの星々のどれかから来た、と言ったら信じるか?」 「星って、あの夜空の星のこと?」 「そう。その夜空の星だ。信じてくれとは言わない。証拠があるわけでもないからな。だが、実際にそうなんだ。オレが元々住んでいた星はコーラル。母なる大地コーラルと言われていた」 「…………」  ルイズからの返答はない。信じたわけではないが、話を遮るつもりはない。そんな肯定的な沈黙だった。フロウウェンが言葉を続ける。 「オレ達の星はあちこちで戦争をやっていた。その結果、草木は枯れ、水は腐り、空気は澱み……人が暮らしていくには厳しい環境になっていた。そこで、いくつかの国が同盟を結び、新天地を別の星に求める事にした。それがパイオニア計画だ。 戦争で田畑が荒れたから、船で大海原に乗り出し別の大地を探しに行った、と言い換えればルイズには解りやすいか」  フロウウェンが語ったのは、パイオニア計画の表向きの名目だ。  実際にはある宙域からコーラルに飛来した隕石と、それに付着していた未知のフォトンからD型因子が発見され、それに基づいて行われた探査によって惑星ラグオルの存在が明らかとなる。その地下に眠る、最悪の存在と共に。  そして移住という建前の元にパイオニア計画が発表された。  詳細は出立前のフロウウェンにすら知らされていなかった。軍の内部の不穏な動きを察知してはいたから、このパイオニア計画の裏が真っ当なものではない、と薄々気付いていたのだが。  それでもパイオニア1にフロウウェンは乗り込んだ。自分がいなければ他の誰かが代役になるだけだ。問題から目を逸らして他人に委ねるのは自分の矜持に反する。  ともあれ、今その事をルイズに語るつもりはなかった。話してしまえばラグオル地下に眠る宇宙船と、そこに存在する亜生命体群の話も絡んでくる。これは、他愛の無い身の上話を寝物語にしてやろうと思っただけに過ぎないのだ。 「事前の調査を続けた結果、どうにか人の住めそうな星が見つかった。オレは軍属として移民船の第一陣に乗り込み、そのラグオルと名づけた星に向かったというわけだ。その時、オレの親友にアリシアを任せ、コーラルに残した」 「どうして? 一緒に連れて行ってあげれば良かったのに」 「人が住めるという事は解っていたが、その危険性が未知数だった。だから一部の市民に加え、オレのような軍人と研究者や技術者が先遣隊になったわけだ。未知の風土病や猛獣だとか、留意すべき事は山のようにある。それに……」 「それに?」 「一度行ったら帰る事は許されない。食い扶持を減らす意味合いもあったからな」 「なによそれ! ひどい話だわ! 体よく追い出しただけじゃない!」  我が事のように怒るルイズ。  ルイズの怒りの対象にフロウウェンは含まれてはいなかったのだが、フロウウェンは自分が責められているように感じていた。  フロウウェンはひどく後悔していたのだ。  民間人達を、外敵から守る。そんな軍人本来の使命もフロウウェンは果たす事が出来なかった。それに……リコが自分を慕って付いてきてしまった事。それについては悔やんでも悔やみきれない。  惑星ラグオルの地下深くにはフロウウェンの想像も及ばないほどの、危険な遺跡が埋まっていた。  遺跡の正体は異星人の宇宙船だ。  発見された遺跡の調査に向かった発掘部隊は、深奥から現れた亜生命体群に襲われた。  結果は全滅。生存者、無し―――。  その結果を受けて差し向けられた、フロウウェンを指揮官とする討伐部隊もまた、亜生命体群との交戦でほぼ壊滅状態となった。生き残ったフロウウェンも、高い代償をその身体で支払う事になった。  ―――D型因子。人間ともニューマンともアンドロイドとも全く異なるルーツを持った第4の因子。  遺跡内部の亜生命体群が内包するそれは、進化を求めて生物、非生物を問わず融合、侵食し、変容させる性質を持つ。フロウウェンの肉体は、深淵から現れた『アレ』との戦闘の際に、D型因子に遺伝子レベルで侵されていたのだ。  同じ轍を踏ませまいと、実験体になる事を交換条件に第二陣の移民中止を提言するよう求めた。だが、結局約束は守られなかった。  そして、A.U.W3084年。パイオニア2がラグオル軌道上に到着したその時―――あの忌まわしい大爆発が起こったのだ。  最終的な結果を見ればパイオニア1のクルーは戦闘員非戦闘員問わず全員死亡という、最悪の大惨事だ。 「……そうだな。確かにひどい話だ」  フロウウェンは不承不承とは言え、最後には覚悟を決めて移民船パイオニア1に乗ったのだ。ただ、フロウウェンの部下や、弟子のリコは何も知らなかった。それぞれに事情と不安はあっただろうが、新天地開拓という希望を抱えていたはずだ。  陸軍副司令官であったフロウウェンは、部下達よりも遥かに真実に近いところにいた。権限も持っていた。もっと上手くやれたのではないか。  そうだ。そもそも『アレ』と対峙した時、もっと自分に力があれば、あんな結果にならなかったはずだ。自分は薄々パイオニア計画の裏を感じ取っており、事態を直接打破する機会も与えられていたではないか。  必要な物は全て持っていた。だが、ただ無力だった。こんな男の、何が英雄であるものか。 「でも、移住は成功したんでしょう?」 「いや、失敗だった」 「どうしてよ?」 「惑星の……環境に馴染めずにな。大勢死んだよ。オレ自身も死に掛けて、結局何も出来やしなかった。オレの仕事は皆を守ることだっていうのにな」  フロウウェンは慎重に言葉を選んで言った。 「そんな……」 「死に掛けのオレに出来た事は、後から来る者達の可能性を信じる事ぐらいのものだ。だが、ここに来る前にそう信じるに足る、強い意志と力を持つ連中に出会った。オレは無力で何も出来なかったが、後の事は彼らに託したつもりだ。だから―――」  一旦言葉を切る。リコ・タイレル。彼女もオレと同じように、彼らの手で解放される事を祈る。彼らなら、或いは――― 「ラグオルにもコーラルにも帰るつもりは無い。少なくとも今のところは、使い魔で構わない」 「そう……」  突拍子もない話だった。  ルイズには彼の話は半分以上信じられないものだったが、頭ごなしに否定出来るほど軽い話でもないし、フロウウェンは意味もなく嘘をつくタイプにも見えない。  使い魔になる事を納得してくれているなら、それでいい。そう結論を出そうとしたが、心の隅に何かが引っかかる。  ああ。自分は移民が帰ってくる事を許さなかったコーラルの人間たちと同じ事をしてしまったのではないか―――  そう思い至った時、ルイズは胸を締め付けられるような息苦しさを感じた。望んだわけではないが、自分の都合でフロウウェンに自分の下にいる事を強制してしまっている。  故郷に帰るつもりは無い、とフロウウェンは言う。星々を行き来する魔法もルイズの知る限り存在しない。  だからフロウウェンが帰る事は叶わないし、彼自身が帰れない事を問題に思っているわけでもない。  しかしだからと言って、それをよしとするのは彼女のプライドが許さなかった。 「本当……どうして人間なんかが召喚されたりしちゃったのかしら」  昼間から何度かルイズが口にしていた言葉。けれど、その言葉に込められた意味は、今までとは少し違っていた。 #navi(IDOLA have the immortal servant)
#navi(IDOLA have the immortal servant) 「おおおおおおおおおっ!」  片膝を付いた巨躯に向かって、狩人は跳ぶ。  赤く輝くフォトンの大剣を振りかぶって、全身全霊、持てる全ての力を振り絞って打ち下ろした。  それは刹那の一瞬。しかし、自分の眉間に叩き込まれるであろうその一撃が、やけにゆっくりと動いて見えた。  避け切れない、と『彼』の幾多もの戦の経験が悟らせる。これは致命傷になる、とも。だが。  ―――それでいい。  『彼』は思った。諦めではない。その感情は、歓喜と言って良い。  我ヲ打チ砕キ、滅ボシ、屍ヲ踏ミ越エ、赤キ捕ラワレ子ヲ―――  それこそが唯一つの望みだった。ともすれば千切れそうになる自我を繋ぎ止める全てだった。  それにしても……と思う。  あの娘に自分が作り与えた武器が、今こうして自分を滅ぼす。何とも皮肉な話ではないか、と『彼』は今際の際、確かに笑ったのだった。    舞台は変わる。  春を迎えたトリステイン魔法学院では、伝統にして恒例である、使い魔召喚の儀式が行われていた。  二年生に進級する為のテストを兼ねたそれは、一生の供となる使い魔を召喚する大切な儀式なのである。と言っても「サモン・[[サーヴァント]]」を失敗させて進級出来なかった生徒など、聞いた事がない。  爆発が起こった。 「これで何度目かしら」 「十六回目」  赤い髪と褐色の肌を持つ女生徒のぼやきに、隣にいた青い髪の少女が、手にした本から目を離さずにぽつり、と答える。  しっかり数えてたのかい、と心の中で突っ込みつつ、赤毛の女生徒……キュルケは歯噛みした。  キュルケの視線の先には、桃色がかったブロンドの少女が肩で息をしている姿があった。  ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。二つ名は『ゼロ』。トリステイン魔法学院創立以来の問題児だ。何しろ魔法が全て原因不明の爆発になってしまう。  先程から何度も魔法の失敗による爆発を繰り返し、草原のあちこちにクレーターを作ってしまっていた。  ルイズに浴びせられる嘲笑と罵声は、爆発が十回を超えた辺りで聞こえなくなった。悲壮感すら漂わせるその姿に、さすがに気の毒になってきたのだろうか。或いは単純に、飽きてこの気まずい空間から解放されたい、という者もいるかもしれない。  キュルケも最初こそ野次を飛ばしていたのだが、今では皆と同じように静観モードに入っていた。しかし、クラスメイトのように同情しているわけでも、冷やかな視線を向けているわけでもない。  応援している、と言うのも少し違うが、事ある毎に衝突してきたライバルが、こんな事で進級出来なくなってしまうのはキュルケとしても面白くないのである。 「ちょっと、しっかりしなさいよ。どれだけ皆を待たせれば気が済むの?」  そんな言葉がキュルケの口を突く。自分がこういえば、ルイズは決まってムキになるのだ。何せ諦めるという事を彼女は知らない。系統魔法の威力は強い感情に左右される。であるなら、こうして発破をかける事は、単なる根性論以上の意味合いがある。 「うっ、うるさいわねっ! 気が散るから黙って見てなさいっ!」  彼女の予想した通り、ルイズは頬を紅潮させて怒鳴ると、目を閉じて大きく息を吸い、呪文を詠唱する。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、宇宙の何処かにいる強くて神聖で勇敢で美しい使い魔よ! 私の呼び掛けに応えなさいっ!!」  と、大仰に叫んで身振り手振りを交えて杖を振るえば、一際大きな爆発が起こった。 「十七回目……」 「違う」  視線を本から爆発地点に移した青い髪の少女……タバサが言った。 「違うって……え?」  ―――十七回目の爆発は、それまでのものとは手応えが違った。  自分は何かを喚び寄せた。それは解る。  もう、この際なんでも良かった。ドラゴンやグリフォンなら言う事は無いが、鳥でも犬でも猫でも構わない。昆虫でもいい。  ―――あ、でも蛙だけは勘弁して欲しいな、などと思いながら土煙の中を凝視する。 (何……あれ……?)  ルイズは”何か”をそこに見た。燐光に包まれて宙に浮かぶ”何か”は、子供の頭ぐらいの大きさで、球形をしていた。 「う……」  爆発で巻き上げられた土煙が風でこちらに流されてきたので、ルイズは顔を顰めて一瞬だけ目を逸らした。本当に一瞬の事だ。視線を戻せばそこには…… 「平民だ……」  誰かの漏らした言葉と共にどよめきが広がる。 「[[ゼロのルイズ]]が平民を召喚したぞ!!」 「え? あれ!? さ、さっきのは何よっ!?」  ルイズは、爆発で作られたクレーターの中心へ向かう。  そこには白髪頭の老人が一人、仰向けに倒れているばかりだった。さすがにオールド・オスマンには見劣りするものの、口元には立派な白髭が生えている。  とても変わった服を着ていた。少なくともメイジではありえない。  肌の露出している部分が極めて少なく、指先と顔以外は身体のラインが出るようなぴったりとした衣服が覆っていた。  厚みのある肩当や手足は明るい青と暗い青の配色だ。材質は全く見当も付かないが、肩当は金属とも違う鈍いツヤを放っていて、相当弾力性に富み、頑丈そうに見えた。  腹部は布地が薄いのか、割れた腹筋がくっきりと浮かぶ。その腹部と、前部に大きくスリットの入った腰周りの直垂は白を基調としたもので、所々に赤いラインが走っていた。   喉元に、円形の白いエンブレム。左肩には赤い、炎を模したかのような形のエンブレムが見て取れる。 「く……」  男が小さく呻いて薄く目を開いた。青い、瞳だった。   「あんた誰?」  抜けるような青い空をバックに、こちらの顔を覗き込んでいた少女が言った。  まだ年若い。子供と言っても良い。華奢な身体付きをしているから余計に子供っぽく見えるのか。  黒い布のマントの下に白い布のブラウス、グレーのスカート、という出で立ちだ。  顔の造作はまだ幼さを残しているものの、かなり整っているといって良いだろう。桃色がかったブロンドと、透き通るような白い肌。活力に満ちた鳶色の瞳。耳は……尖っていないのでニューマンではないらしい。  しかし……コーラル本星でもちょっと見た事がないようなアナクロな服装だ、と男は思った。  しかも合成ではなく、天然の繊維を使っているようだ。ますます珍しい。  自分はどうやら仰向けに寝転んでいるらしい。立ち上がって周囲を見回せば、目の前の少女と同じような出で立ちの少年や少女が、こちらを物珍しそうに伺っている。見渡す限りの草原。遠くには、石造りの建造物。  ラグオルでは絶対に有り得ない。相当な年代モノだろう。ここがコーラルならば観光地の古跡名勝、といったところか。  歴史の資料を紐解けば、中世時代にあんな建造物を見ることが出来るに違いない。いずれにせよ、本星の人間が宇宙に進出するよりも遥か以前の遺物だ。 「オレは、ヒース―――」  言いかけて、彼は気付いた。口から紡がれたのは確かに人間の言葉だったからだ。  目の前の少女が立っている。こちらが見下ろす形だが、あくまでも人間の目線の高さだ。  どうして、元に戻っているのだ?  両の手を見詰める。  武器と一体化した異形では無い。人間の掌。人間の指だ。  常に心を覗かれているような、あの不快な感覚が無い。  『アレ』から受けた傷の疼きも、意識を乗っ取ろうと送ってくる暴虐な圧力も、微塵も感じなかった。 (オレは、一体―――)  助かった、とは到底思えない。あの勇敢なハンターに頭をソードに叩き割られて、自分は確かに滅びたはずではないか。 「どこの平民? 変わった格好ね」  混乱した思考は、良く通る鈴のような声で中断させられた。 「平民だと……? ここは……?」  遠巻きに自分を見やる子供達は、皆一様にロッドやケインを手にしている。  彼らはフォースの集団だろうか、と男は思った。  そこで初めて、自分に向けられる好奇の視線の中に、異質なものが混じっているのに気がついた。悪意の類、というよりは、これは寧ろ……ラボの研究者の視線に近い気がする。実験体であった彼にとってあまり良い印象は持てない視線だ。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を喚び出してどうするのよ」  その声に釣られるように、少女を除いた彼ら全員がどっと笑った。 「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」  ルイズと呼ばれた少女は頬を紅潮させて怒鳴る。 「間違ったって、ルイズはいつもそうじゃないか!」 「ゼロのルイズは一味違うよな!」  一層、笑い声が大きくなる。  自分が笑われているわけではないようだが、男にとってもあまり気持ちのいい類の笑い声ではない。嘲笑、と分類されるものだからだ。 「ミ、ミスタ・コルベール!」  明らかに狼狽した様子のルイズが呼び掛けると、中年のフォーマー(と、男が便宜的呼ぶ事にした)が前に出てくる。 (こいつか)  先程からずっと、こちらを値踏みするように伺っていた者がいたが、どうやらこのフォーマーらしい。  フォースとしての実力も、他の者達とは一桁も二桁も違うようだ。この場では最も注意が必要な相手だろう。 「なんだね。ミス・ヴァリエール」 「や、やり直しをさせてください! 平民の使い魔なんて聞いた事がありません!」 「それはダメだ。君も知っての通り、これは神聖な儀式だからね。やり直しは認められていない。例え平民であっても、喚び出した以上は彼に使い魔になってもらうしかない」 「そ、そんな……」  ルイズは目に見えて肩を落とす。 「さあ、『コントラクト・サーヴァント』を」 「くっ」  ルイズは男に向き直り、睨みつける。 「あんた、ちょっとしゃがみなさい」 「何故だ」 「いいから!」 「………」  ここは大人しく従っておくのがいいだろう、と彼は判断する。  この人数のフォースを相手に、武器も持たずに戦っても勝ち目があるとも思えない。  これを一度に敵に回すのは得策ではない。それに、自分は意識を失っていた。連中に危害を加える気があるなら、とっくにそうしているだろう。 「うう、こんな年寄りと『契約』するなんて思っても見なかったわ」 「……契約とは何だ」  その言葉を無視してルイズはルーンを唱える。  その様子から質問をしても無駄だと、彼は悟ったようだった。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」  すっと、額にケインを当ててくる。動作には敵意や殺意は感じられない。テクニックを放つわけでもないようだ。述べた口上は祝福と言っていたし、使い魔になってもらうとか何とか言っていた。  彼の尺度の中で判断するならば、これを文字通り単なる儀式、セレモニーだと理解していたのである。  なるほどこれも儀式とやらの一環か、中世の騎士受勲に似ているな、などと彼が心の内で呟いていると、ルイズがゆっくりと顔を近づけてくる。 「何だ」  不穏な気配を感じて上体を後ろへ反らそうとしたが、肩を掴まれた。 「いいから、じっとしてなさい。全くどうして私が……!」 「待て、お前は何を」 「ん……」  唇を重ねてくる。まさか初対面の相手が自分にキスをしてくるなど、考えても見なかった。  彼がどちらかというと堅物だったという事もあるが、ルイズの動きにこちらを害を及ぼそうとする気配が全くなかった。だから、不意を突かれたのだ。  触れ合っていたのはほんの一瞬だ。顔を真っ赤にしたルイズが飛び退くように離れた。 「な……何をするか! はしたない!」 「うるさいうるさいうるさいうるさいっ! わたしだって本意じゃないわよ!」  顔を真っ赤にして喚き散らすルイズ。囃し立てる周りの生徒。 「『コントラクト・サーヴァント』は一度できちんと成功したようだね。おめでとう、ミス・ヴァリエール」  中年のフォーマーが苦笑いを浮かべた。 「相手がただの平民だから『契約』出来たんだよ!」 「幻獣だったら、ゼロのルイズじゃこうはいかないよな」 「なんですって!?」  ルイズが怒鳴り返す。  どうも、周りの子供らに、ルイズという少女は馬鹿にされているようだった。  しかし、契約、とは何だ? 単なる儀式ではないのか?  と、彼が子供達の口論を横目に思案していたその時だ。 「ぐっ!?」  彼は胸を押さえて、呻き声を上げた。  『アレ』につけられた傷の疼きに酷似していた。肉体と精神を侵食される感覚。ここ暫くの間ずっと味わってきたのだ。間違えようはずもない。 「お前、オレに何を……!?」 (油断した。敵意がないから、子供だからと侮ったか!?)  テクニックを行使しようと、意識を集中させる。この状況で最適なのは、指向性を持つギゾンデだろう。 「心配しなくていいわ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」 「使い……魔だとっ?」  先程の会話が冗談や形だけの儀式でない事を、彼はここに来て悟った。  『アレ』の支配から解放されてみれば、また訳も解らずに誰かの支配を受けろというのか。お笑いだ。  絶望か、諦観か。何だか無性に馬鹿馬鹿しくなってテクニックの発動を思いとどまる。  どうせ、一度は死を覚悟し、そして実際に死んだ身なのだ。身体は人間に戻ったが立場は前と変わらない。  支配する主が『アレ』であるより、目の前の少女が主である方が、同じ人間というだけで何倍もマシだろう。  ルイズの言うとおり、彼の身体は少しの間の辛抱で、すぐに平静を取り戻した。 「ふむ。ルーンはちゃんと刻まれたようだね。ちょっと失礼。ん? この服はどういう構造をしてるんだ?」 「…………」  フロウウェンは無言で襟元を開いた。自分の身体がどうなったのか、興味があったからだ。  あの、忌まわしい傷はない。その代わりに見慣れない記号……文字が胸には刻まれていた。 「珍しいルーンだな」  そして中年フォーマーは踵を返すと、少年たちに呼びかける。 「さてと、皆教室に戻るぞ」  ふわり、とフォース達が宙に浮かぶ。 「何だ……? テクニック……ではない? マジックだとでも言うのか?」  それは男の住んでいた星、コーラル本星では既に失われた技法だ。  マジックはテクニックの前身となったものだが、両者には大きな違いがある。マジックの行使によって起きる現象を、科学技術によってそのプロセスを忠実になぞり、現象として再現したのがテクニックである。 つまり、知識と生体フォトンがあれば誰でもそれを行使する事が出来る。しかし、マジックの行使には生まれ付いての才能が必要、とされている。  そして彼が知る限り、空を自在に飛ぶテクニックなど、存在しない。彼が意識を取り戻すまでの間に、技術革新でもあったというのなら話は別だが。 「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」 「あいつ、『フライ』はおろか『レビテーション』すらまともにできないんだぜ」 「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」  口々にそう言って、少年らは飛び去って行った。どうやら向こうの石造りの建造物に向かうらしい。  ルイズは、彼に向き直って大声で怒鳴る。 「あんた、なんなのよ!」 「それはオレの科白だ。意識を取り戻せば知らない場所にいて、知らない連中に囲まれていた。説明ぐらいはしてくれても罰は当たらないと思うが」 「ったく、どこの田舎から来たか知らないけど……仕方ないわね。召喚したのは私なわけだし。いいわ。説明してあげる」 「田舎、か。本星に比べればここは未開の土地も良い所だ。大体、ここはラグオルのどの座標だ?」  空気が澄んでいる。コーラルにはこんな自然が残っている土地はもうどこを探しても存在しない。  気候からしてガル・ダ・バル島ではない、という事は想像が付くが。 「ラグオル? ほんせい? 何それ?」 「……本星といえばコーラルに決まっている」 「なにそれ。そんな国? 土地かしら? 聞いたことないわ」 「…………」  老人は言葉を失った。どうも話が噛みあわない。ラグオルもコーラルも、彼の常識の範囲内の話なのだ。相手が知らない、と言う事がまず前提として有り得ない事だった。  ジャケットに備え付けられているアイテムパックを探って見れば、軍で支給されているセンサーが出てきた。 ハンターズにも支給されているごく標準的な装備で、設定された座標を基点とした現在位置の割り出しが可能な他、動体センサーやガイガーカウンターなども内蔵している。  彼の纏っている衣服は軍に在籍している当時のものに戻っていた。ならばもしかしたらと持ち物を探って見たのだが、本当に所持しているとは思わなかった。  センサーのパネルを手馴れた様子で叩いて、渋面を浮かべる。  セントラルドームを基点とした座標、不明。周辺地形はただっ広い草原。動体センサー、ルイズと自分以外に反応無し。  他に……フォトン濃度が異常な数値を示している点が気になる。分かった事はそれだけだった。 「何よ、それ」  興味深々といった様子で、ルイズはセンサーの画面を覗き込んでくる。 「……センサーだ。パイオニア計画を知っているか?」  「知らない」 「君達はフォースではないのか?」 「わたし達はメイジよ」 「ここは、どこだ」 「トリステインよ。そしてここはかの有名なトリステイン魔法学院。知らないの?」  苛立ったようにルイズが言う。 「魔法……だと?」  聞き覚えのない単語に、彼は頭を抱えた。  彼は海千山千の政治家達とも渡り合ってきたのだ。目の前の直情的な少女が嘘を言っているかそうでないかぐらい、すぐに解る。答えは、否だ。  だとするなら、少女の頭がおかしいか自分の頭がおかしいか。それとも少女の言う事が全て真実か、しかない。  少女の正気を疑う気にはなれなかった。何しろ、空を飛んでいくフォース―――彼女の言葉を借りるならメイジ―――の集団をこの目で見てしまっているのだ。  それよりも、正気を疑うなら自分の頭だろう。  どう考えてもここでは自分の方が異邦人で、その上自分がラグオルにいた頃の末期は散々な目に遭っていた。  D型亜生命体の細胞に侵食された。訳の分からない実験の材料にされた。計画の頓挫と共に廃棄処分とされた。  最後には調査にやってきた四人のハンターズとの交戦の後に死亡した……はずだ。  そのはずなのに、気がつけばこんな訳の分からない場所にいる。  これでは、自分で自分の正気を保証する自信もない。 「わたしは二年生のルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。今日からあんたのご主人様よ。覚えておきなさい!」  と、ルイズは胸を張る。最も、ルイズに張るほどの胸は無いのだが。 「やれやれ……」  彼は溜息をついた。契約だとか使い魔という断片的な単語から予測していたが、どうやらこの少女に仕えろ、という事らしい。気が乗らないが、仕方が無い。  どうせラグオルではIDや軍籍の抹消どころか死亡扱いなのである。生きていると知れただけで軍に拘束されて実験室に送られるような身の上だ。であるのなら、ここでこの少女の使い魔とやらに身を窶している方が良いのかもしれない。  そんな風に自分を納得させると、ルイズに質問を続ける。 「ここがトリステインとやらというのはわかった。では、オレはどうしてここにいる?」 「わたしが『サモン・サーヴァント』で召喚したからに決まっているでしょう」 「召喚? どこから?」 「知らないわよ。その、ラグオルだか、コーラルだか、パイオニアとかいう所からじゃないの」 「確かに前に居た場所はラグオルだが。どこから連れて来たかも分からないというのか」 「仕方ないじゃない! そういう魔法なのよ!」  召喚、という言葉に抵抗はなかった。彼の世界にはリューカーという離れた場所を繋ぐテクニックが存在しているし、ワープ航法やトランスポーターも実用化されている文明レベルなのだ。  ルイズ達の文明レベルがどの程度かは分からないが、マジックであればそういう事も可能なのだろう、と彼は思った。 「では、オレの治療をしたのは?」 「知らないってば。あんた、怪我でもしてたの?」 「まあな」  魔法であれば肉体を再構成する事も可能なのかとも思ったが、そういうわけでもないらしい。  或いはコールドスリープの類やクローン技術で時間を置いて生き返ったところを、ルイズによって召喚された、とも考えられる。  ルイズが行った事がこのトリステインに喚び出すだけならば、他にこの身体を再構成した者か、或いは現象が存在するはずだ。 「もう諦めなさい。わたしも諦めるから。ほんとはドラゴンとかグリフォンが良かったのに。何で平民なのかしら」 「オレは平民じゃない。軍属だ」  オレでなく、β630やβ772といった、オスト博士が作っていた生物兵器が召喚されていたら、この少女も満足していたのだろうな、と彼は独りごちる。 「軍属って言ったって魔法は使えないんでしょう? あんた杖持ってないし」 「魔法は、な」  フォースには及ばないまでも、テクニックは使える。だが、あれは魔法ではなく科学の範疇だと彼は定義している。ならば自分は魔法など使えない。 「じゃあ平民よ」 「なるほど」  魔法を使える者をここでは貴族、というらしい。 「さ、随分話し込んじゃったけど、そろそろ行くわよ。ええと、ヒース、だったっけ?」  ヒース、と呼ばれて彼は怪訝そうな顔を浮かべた。  ああ、そう言えば、と思い返す。さっきの自己紹介は途中で中断してしまったのだった。 「ヒースではない。オレの名前はヒースクリフ・フロウウェンだ」     「月が、二つ、か。この星は衛星が二つあるのだな」  空に浮かぶ双月を見て、フロウウェンは苦笑いを浮かべる。  自分の今いる土地がラグオルでもコーラルでもないという証拠を、これ以上ないほどの形で突きつけられてしまった。   それでだろうか。『アレ』の支配力を感じないのは。遠く離れれば精神支配は弱まるのかもしれない。  オルガ・フロウであった時も、フロウウェンはギリギリの所で自我を保っていられた。母体であるあの存在から、彼のいたガル・ダ・バル島まで、距離が離れていたからだろうと、フロウウェンは推測していた。 勿論、彼自身の強靭な意志が無ければ、それも叶わなかっただろうが。 「何の話?」 「いや、なんでもない。昼間の話の続きをさせてもらってもいいか?」 「いいけど」 「まず、オレを元いた場所に帰す魔法はあるのか?」 「無理よ。召喚する魔法はあっても送り返す魔法は存在しないもの」 「そうか」  フロウウェンは然程ショックを受けなかった。  フロウウェンの知る限り、『サモン・サーヴァント』に似たテクニックとして、リューカーというものがあるが、あれは術者がゲートを一往復すれば消滅してしまう。それと似たような理屈なのだろう。  それにラグオルに戻れば、自分はまた『アレ』に取り込まれてしまうかもしれない。それは考えうる限りで最悪の事態だ。  愛弟子のリコや養子であったアリシアの事は心残りだが、自分はあの四人のハンターズ達に全てを託した。きっと彼らはリコを救ってくれる。フロウウェンに出来るのは信じる事だけだ。 「でもおかしいのよね。『サモン・サーヴァント』は普通、幻獣や動物を喚び出すんだけれど。どうして人間が来ちゃったのかしら」  今までのルイズの口振りからすれば、召喚される生物も、この惑星……ハルケギニアの存在に限られるのだろう。別の惑星から召喚される事があると知っているのなら、相手の持つ常識や情報を頭から否定するような事はしないはずだ。  自分が召喚されたのは……D型遺伝子がルイズの魔法に反応したからかも知れない、とフロウウェンは考えていた。D型遺伝子に侵食された者を、本当に人間と言っていいのかどうかは怪しい所だ。  ただ、今現在は侵食されている感覚がない。彼が科学者で、研究設備があればもっと詳しい事もわかったのだろうが、生憎フロウウェンは愛弟子であるリコ・タイレルと違って、科学者としての才能には恵まれてはいなかった。 いずれにせよ人間の身体に戻ったからといって脅威が完全に消え去ったと考えるのは楽観が過ぎるだろう。 「その使い魔というのは、具体的に何をするものなんだ? 人間では何か不都合があるのか?」 「不都合? あるわよ。まず、使い魔は主の目や耳となる能力を与えられるわ」 「というと?」 「使い魔の見た事、聞いた事が主人にも伝わるの」 「…………」  フロウウェンはその言葉に気分を害した。それでは『アレ』に思考を監視されていた時と何ら変わらないではないか。 「でもあんたじゃ無理ね。わたしなにも見えないもの。あんたが人間だからかしら」 「それは僥倖だ」 「僥倖じゃないわよっ」  ルイズは唇を尖らせた。 「……まあ、いいわ。次に、使い魔は主人の望むものを見つけてくるの。秘薬……例えば、硫黄とかコケとかね」 「すぐには無理だな。生態系がこちらの知識とは違う。知識が必要だ」  今度はルイズがその言葉に不快そうに眉を顰めるが、文句は言わなかった。どうせ今の自分では秘薬の調合は無理なのだ。わざわざそこに突っ込まれて墓穴を掘ることはあるまい。主としての威厳を損なわない為にも必要な事だ。うん。 「それから、これが一番重要なんだけど、使い魔は主人を守る存在であるのよ。あんたは軍属って言ってたけど……強いの?」  ルイズはフロウウェンを値踏みするように眺めた。確かに体格はいい。軍属というだけあって、かなり鍛えているようだ。  だが、高齢だ。体力には難があるのではないだろうか。 「その辺の平民よりは、な」  フロウウェンは小さく笑って、そう答えるに留めておいた。  はっきり言えば相当な謙遜なのだが、ルイズの言う幻獣やメイジとの戦闘経験がフロウウェンにはない。  オルガ・フロウのままであればいざ知らず、今の自分の剣技やテクニックがどれだけこの世界で通用するのか。相対化するには情報が足らなさ過ぎた。  ハンターズの力関係に置いては、一対一の状況ではハンターよりもフォースの方が優位に立つだろう、とフロウウェンは考えている。  近接戦闘を仕掛ける場合は勿論のこと、遠距離から銃撃を加える場合でも、ハンターとレンジャーは目標を武器の攻撃範囲と視界内に捉える必要があるが、テクニックは必ずしもそのプロセスを必要としない。  発動まで若干のタイムラグはあるが、背中を取られていてもお構いなしでテクニックは命中させられるし、遮蔽物を無視して一方的な攻撃も仕掛けられる。  例えば上空から落雷を落とす雷の初級テクニック、ゾンデを例に挙げるならば、ヒューマンのハンターならば射程距離半径20メートルほどが限界だが、熟練のフォースならば約35メートル半圏以内の相手に瞬間的に効果を及ぼす事が出来る。  この距離の差で常に先に捕捉され、先手を撃たれるというのは実戦では大きなアドバンテージであろう。  ルイズの世界の魔法がどれほどのものかは解らないが、テクニックよりマジックの方が強烈であったとは聞くし、メイジが貴族という支配階級として君臨しているのが、そのまま魔法の有用性や威力を証明しているではないか。 「はぁ……やっぱり平民じゃ使い魔の意味が無いじゃない」  一方のルイズは溜息をついて肩を落とした。  その辺の平民よりは強いと言っても、幾らなんでも幻獣やメイジに勝てるとは思えない。まあ、護衛か執事でも雇ったと思えば安い買い物かも知れない。 「もう、いいわ。魔法学院は護衛なんて必要ないくらい平和だもの。だから普段は掃除、洗濯、その他雑用をやってもらう事にする。それで衣食住が保証されるなら文句はないでしょう?」 「よかろう」  雑用、と聞かされてもフロウウェンは嫌な顔一つしなかった。  軍隊ではそれらの事は自分でこなすのが当たり前だし、子供の面倒を見るというのは別段初めての経験ではない。  ルイズは養子のアリシアや弟子のリコに比べたら随分な跳ねっ返りなようだが、まあ何とかなるだろう。 「ふわぁ……しゃべってたら眠くなっちゃったわ」 「それでは、今日はもう休むとするか。オレはどこで寝ればいい?」  ルイズは床を指差した。これも使い魔の躾の内だと、ルイズはわざと不遜で尊大な態度で接しているのだが、フロウウェンは特に不平不満を漏らすでもなく、わかった、と頷く。 「意外と素直ね。特別に毛布をあげるわ」  元々渡してやるつもりだったのだが、ルイズは殊更に特別、という部分を強調した。 「それはどうも」  と、概ね波風を立てないようにルイズと接してきたフロウウェンだったが、彼女が堂々と自分の前で着替えを始めた時には流石に眉を顰めて顔を背けた。  ルイズの意図は大体想像がつく。兵士の育成に当たり、新兵の意識を変えさせる為にわざと人間扱いしない、というのと同じだ。自分が主でお前は使い魔。だから男どころか人間扱いもしない、というところだろう。  貴族としては、それは間違いではないのかも知れない。この老いぼれを男として意識して欲しいなどとも思っていない。ここまでの交わりから、ルイズがプライドの高い人間だという事も理解していた。  しかし、だ。それでも慎みが足りないと思う。アリシアやリコが同じ事をしていたら多分雷を落としていただろう。 「これ、明日になったら洗濯しといて。朝わたしを起こすのも忘れない事」  と、脱いだ衣服と下着を投げて寄越した。流石にあんまりだったので、ついつい苦言を呈してしまう。 「……行儀の悪い」 「何よ、ご主人様のする事に文句でもあるの?」 「時には諫言するのも部下の役目だと思っているだけだ。この国ではオレの以前の身分は意味がないから、使い魔扱いは多いに結構だ。だが、今は人の見ていない所ならば何をしても良いのか、という美意識の話をしている」 「そ、それは……」  美意識などと言われると、常に貴族たらんと心がけているルイズは弱かった。しかも使い魔だからこそ諌めるのだ、とまで言われている。主従関係をはっきりさせる為に、わざと理不尽な行為をしたという自覚があるルイズには反論の術が見当たらない。  目に見えてルイズの表情が暗くなるのを見て、フロウウェンも子供相手に大人気なかったか、と少なからず後悔した。  確かにルイズは自尊心が高く、素直ではないので扱いにくいところがある。  ただ、昼間の様子を見ている限りでは周囲の人間から馬鹿にされていたようだが、それでも卑屈な所を見せなかった。それは美徳だとフロウウェンは思う。だからこそ、自分が間違っていると悟った時には内罰的になってしまうのだろう。 「いや、いい。やり込めたいわけではない。オレにも娘がいたので、つい、な」  だから、フロウウェンは話を打ち切って、もう眠ようと決めると床に横になった。  ルイズは所在無さげにしていたが、やがておずおずとベッドにもぐりこむ。パチンと、指を鳴らすと照明が消えた。 「あんた、子供がいるの?」  月明かりの照らす部屋の中で、ぽつり、とルイズが言った。  冷静になってみれば、フロウウェンにも都合があるはずだ。家族がいるという。フロウウェンの年齢から考えれば、その娘にも家族がいてもおかしくはない。きっと今頃、帰らぬ父を心配しているのではないか、とルイズは思った。 「血の繋がりは無いがな。アリシアは戦争で親を失った子だ。それを引き取って育てた」 「その……あんたの家族も、トリステインに連れて来てもいいのよ。ヴァリエール家に仕えて禄を受け取るって形にすればいいじゃない。あんたにいなくなられたら困るのは、わたしや、その、アリシアって人も同じでしょ?」  言って、ルイズは失言だと思ったのか慌てて訂正する。 「こ、困るっていうのは、あ、あんたがいなくなったらわたしが進級出来なくなるから言ってるのよ! 特別な計らいなんだから感謝しなさいよね!」  部屋を暗くしていて良かった、とルイズは思う。多分顔は真っ赤になっているだろう。 「ん? ああ。勘違いしているようだな。アリシアの事なら、オレがコーラルを出る時に信頼出来る男に預けてきている。心配はいらない」  答えながらも、フロウウェンはそんなルイズの慌てた様子がおかしくて笑ってしまった。  素直ではないが、根は優しい娘だ。だから厚意を素直に受け取っても良かったのだが、それは土台無理な話だった。  説明がてらの寝物語に自分の事を話してやるのもいいだろう。信じてくれるかは解らないが。 「それに、帰れない事情もある。ルイズは、オレがあの星々のどれかから来た、と言ったら信じるか?」 「星って、あの夜空の星のこと?」 「そう。その夜空の星だ。信じてくれとは言わない。証拠があるわけでもないからな。だが、実際にそうなんだ。オレが元々住んでいた星はコーラル。母なる大地コーラルと言われていた」 「…………」  ルイズからの返答はない。信じたわけではないが、話を遮るつもりはない。そんな肯定的な沈黙だった。フロウウェンが言葉を続ける。 「オレ達の星はあちこちで戦争をやっていた。その結果、草木は枯れ、水は腐り、空気は澱み……人が暮らしていくには厳しい環境になっていた。そこで、いくつかの国が同盟を結び、新天地を別の星に求める事にした。それがパイオニア計画だ。 戦争で田畑が荒れたから、船で大海原に乗り出し別の大地を探しに行った、と言い換えればルイズには解りやすいか」  フロウウェンが語ったのは、パイオニア計画の表向きの名目だ。  実際にはある宙域からコーラルに飛来した隕石と、それに付着していた未知のフォトンからD型因子が発見され、それに基づいて行われた探査によって惑星ラグオルの存在が明らかとなる。その地下に眠る、最悪の存在と共に。  そして移住という建前の元にパイオニア計画が発表された。  詳細は出立前のフロウウェンにすら知らされていなかった。軍の内部の不穏な動きを察知してはいたから、このパイオニア計画の裏が真っ当なものではない、と薄々気付いていたのだが。  それでもパイオニア1にフロウウェンは乗り込んだ。自分がいなければ他の誰かが代役になるだけだ。問題から目を逸らして他人に委ねるのは自分の矜持に反する。  ともあれ、今その事をルイズに語るつもりはなかった。話してしまえばラグオル地下に眠る宇宙船と、そこに存在する亜生命体群の話も絡んでくる。これは、他愛の無い身の上話を寝物語にしてやろうと思っただけに過ぎないのだ。 「事前の調査を続けた結果、どうにか人の住めそうな星が見つかった。オレは軍属として移民船の第一陣に乗り込み、そのラグオルと名づけた星に向かったというわけだ。その時、オレの親友にアリシアを任せ、コーラルに残した」 「どうして? 一緒に連れて行ってあげれば良かったのに」 「人が住めるという事は解っていたが、その危険性が未知数だった。だから一部の市民に加え、オレのような軍人と研究者や技術者が先遣隊になったわけだ。未知の風土病や猛獣だとか、留意すべき事は山のようにある。それに……」 「それに?」 「一度行ったら帰る事は許されない。食い扶持を減らす意味合いもあったからな」 「なによそれ! ひどい話だわ! 体よく追い出しただけじゃない!」  我が事のように怒るルイズ。  ルイズの怒りの対象にフロウウェンは含まれてはいなかったのだが、フロウウェンは自分が責められているように感じていた。  フロウウェンはひどく後悔していたのだ。  民間人達を、外敵から守る。そんな軍人本来の使命もフロウウェンは果たす事が出来なかった。それに……リコが自分を慕って付いてきてしまった事。それについては悔やんでも悔やみきれない。  惑星ラグオルの地下深くにはフロウウェンの想像も及ばないほどの、危険な遺跡が埋まっていた。  遺跡の正体は異星人の宇宙船だ。  発見された遺跡の調査に向かった発掘部隊は、深奥から現れた亜生命体群に襲われた。  結果は全滅。生存者、無し―――。  その結果を受けて差し向けられた、フロウウェンを指揮官とする討伐部隊もまた、亜生命体群との交戦でほぼ壊滅状態となった。生き残ったフロウウェンも、高い代償をその身体で支払う事になった。  ―――D型因子。人間ともニューマンともアンドロイドとも全く異なるルーツを持った第4の因子。  遺跡内部の亜生命体群が内包するそれは、進化を求めて生物、非生物を問わず融合、侵食し、変容させる性質を持つ。フロウウェンの肉体は、深淵から現れた『アレ』との戦闘の際に、D型因子に遺伝子レベルで侵されていたのだ。  同じ轍を踏ませまいと、実験体になる事を交換条件に第二陣の移民中止を提言するよう求めた。だが、結局約束は守られなかった。  そして、A.U.W3084年。パイオニア2がラグオル軌道上に到着したその時―――あの忌まわしい大爆発が起こったのだ。  最終的な結果を見ればパイオニア1のクルーは戦闘員非戦闘員問わず全員死亡という、最悪の大惨事だ。 「……そうだな。確かにひどい話だ」  フロウウェンは不承不承とは言え、最後には覚悟を決めて移民船パイオニア1に乗ったのだ。ただ、フロウウェンの部下や、弟子のリコは何も知らなかった。それぞれに事情と不安はあっただろうが、新天地開拓という希望を抱えていたはずだ。  陸軍副司令官であったフロウウェンは、部下達よりも遥かに真実に近いところにいた。権限も持っていた。もっと上手くやれたのではないか。  そうだ。そもそも『アレ』と対峙した時、もっと自分に力があれば、あんな結果にならなかったはずだ。自分は薄々パイオニア計画の裏を感じ取っており、事態を直接打破する機会も与えられていたではないか。  必要な物は全て持っていた。だが、ただ無力だった。こんな男の、何が英雄であるものか。 「でも、移住は成功したんでしょう?」 「いや、失敗だった」 「どうしてよ?」 「惑星の……環境に馴染めずにな。大勢死んだよ。オレ自身も死に掛けて、結局何も出来やしなかった。オレの仕事は皆を守ることだっていうのにな」  フロウウェンは慎重に言葉を選んで言った。 「そんな……」 「死に掛けのオレに出来た事は、後から来る者達の可能性を信じる事ぐらいのものだ。だが、ここに来る前にそう信じるに足る、強い意志と力を持つ連中に出会った。オレは無力で何も出来なかったが、後の事は彼らに託したつもりだ。だから―――」  一旦言葉を切る。リコ・タイレル。彼女もオレと同じように、彼らの手で解放される事を祈る。彼らなら、或いは――― 「ラグオルにもコーラルにも帰るつもりは無い。少なくとも今のところは、使い魔で構わない」 「そう……」  突拍子もない話だった。  ルイズには彼の話は半分以上信じられないものだったが、頭ごなしに否定出来るほど軽い話でもないし、フロウウェンは意味もなく嘘をつくタイプにも見えない。  使い魔になる事を納得してくれているなら、それでいい。そう結論を出そうとしたが、心の隅に何かが引っかかる。  ああ。自分は移民が帰ってくる事を許さなかったコーラルの人間たちと同じ事をしてしまったのではないか―――  そう思い至った時、ルイズは胸を締め付けられるような息苦しさを感じた。望んだわけではないが、自分の都合でフロウウェンに自分の下にいる事を強制してしまっている。  故郷に帰るつもりは無い、とフロウウェンは言う。星々を行き来する魔法もルイズの知る限り存在しない。  だからフロウウェンが帰る事は叶わないし、彼自身が帰れない事を問題に思っているわけでもない。  しかしだからと言って、それをよしとするのは彼女のプライドが許さなかった。 「本当……どうして人間なんかが召喚されたりしちゃったのかしら」  昼間から何度かルイズが口にしていた言葉。けれど、その言葉に込められた意味は、今までとは少し違っていた。 #navi(IDOLA have the immortal servant)

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