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とある魔術の使い魔と主-37 - (2009/10/11 (日) 16:17:18) のソース
#navi(とある魔術の使い魔と主) 当麻はその日の夜、早速購入した水兵服をシエスタのサイズに合わせようと思ったので、彼女の部屋に訪れた。 メイド長から居場所を教えてもらい、ドアに二回ノックをする。 すると、「どうぞ~」という言葉が聞こえたので、当麻はとくに何も考えず扉を開いた。 そこには、金髪の子とオレンジ色の髪の子が、のんびりと寝転がっている。女の子として、いろいろまずいんじゃないかと思ってしまうような態勢で。 当麻は、早くここから出ろと体が訴えているのを感じた。一瞬の内に上手く回避できる言葉を吐き出す。 「あー、部屋間違いちゃいました。すみません、では……」 百八十度躊躇いもなく振り返り、全力で逃げようとしたが、 「待ちな、ここはシエスタの部屋だぞ?」 どうやら間違いではないようである。さらには、金髪の子ががっしりと腰に手を回し、オレンジ色の子が足を掴んでいる。 「……あのー、わたくしはここにいなければならないのでしょうか?」 当麻の問いに、「うん」と満面の笑みで二人は迎えてくれた。 夜はまだ始まったばかり…… 「それで! シエスタとはどういう関係になったのよ!?」 演技なのか、ドン! とちゃぶ台を叩いた。なぜだろう、当麻は全てを話さなければならないと錯覚を覚える。 二人は、シエスタから当麻について何回も聞いたのだが、その度にお茶を濁してこられたのだ。ここで本人がきたのに、なにもしないわけがない。今のうちに全て洗いざらいするつもりであった。 いやー、と本題に入ろうとしない当麻に、オレンジ色の子がボソッと呟く。 「早く言わないと生きて帰れなくなるぞこのチキン野郎」 待って、なんでそんな顔からは想像できない言葉をすらりと言っちゃうんですかー!? 当麻はただならぬ恐怖、悪寒を感じて、再び平和な廊下へと逃げ込もうとするが、 「だから逃がさないって言ったでしょ?」 瞬間移動ともいえるスピードで周りこまれた。 はやっ!? と呑気に感想を述べてる時間はない。背後からはなにやら尋常ではない殺気のオーラが漂っている。 おかしい。いつからここは国に捕まったスパイな気分を味わうアトラクションに変わったのだろうか? 早く言った方があなたのためよ そう脅されている気がした。 「すみません、あなた達は一体全体何者なんですか!?」 「ただのメイド」 ハモる二人に、嘘だろ! ってとりあえず突っ込んだ。 「断ったぁぁああああ!!?」 金髪の子が、鼓膜によろしくない甲高い高音で叫んだ為、当麻は素早く耳を塞いだ。 結局この二人に逆らえないと踏んだので、何も隠さず全て話した。 もっとも、自分が異世界の人間である事は伏せたが…… 「おのれ貴様ッ! 貴様は貧乳好きだったのか!? それとも安定した収入か!? それともロリコンかぁぁああああ!?」 「ふむ、顔からして巨乳好きだとは思ったがどうやらそれは間違いだったようね」 「なんであんたらがそんな言葉を知ってるんですか! というか待て、物凄い誤解する発言はやめい!」 当麻は、二人のおでこにR指定のスタンプを押すつもりで右拳を振るう。 しかし、幻想殺しという名を持つ少年でも、彼女らの抱く幻想は殺せない。金髪の子が正拳で迎撃し、オレンジの子が蹴りを鳩尾に追撃としてめり込んだ。 グフッ! と肺から吐き出し、体がくの字に折れ曲がる。ゴロンゴロンと転がっていく少年を見下ろして、ふん! と満足げな表情を浮かべる。 「甘いわね! わたし達に勝とうなんて百年早いのよ!」 「てかこれだけじゃ終わらない」 ずいっ、と一歩踏み込んでくるのが、まるで死へ向かう階段の一段のように感じる。 ひょっとして俺ピンチー!? と、当麻は内心悲鳴をあげるが……。 そこへ、ようやくお目当てのメイド、シエスタが部屋の中に入ってきた。 「今日も疲れたぁ……って。なんでトウマさんが倒れて二人が勝ち誇っている姿がいるんですかー!?」 いきなりの急展開にうろたえるシエスタ。金髪の子が髪をかき上げると、まるで大物を吊り上げたかのような口調で言った。 「おうシエスタ、あんたの純粋なる思いを踏みにじった者に罰を与えたのさ!」 ピキィ、とシエスタのこめかみから不吉な音が聞こえた。 なぜ彼女が二人に言わなかったのかというと、きっと二人は勘違いして当麻を襲うと思ったからだ。 だから今の今まで黙ってきたのに……。 しかし、現実に起きてしまった。おそらく二人は、当麻を連れ込んで全て吐かせた結果、このような状況へとしたに違いない。 そんな風に、他人の言えない事を無理矢理聞き出して、尚且つ暴力を振るう事が、シエスタは許せなかった。 「へえ……どんな罰を与えたのですかぁ?」 「え……? いやさ、あんたの告白断ってあの貴族を選んでしょ……? って待って、なんでそんなに怒っているの!?」 顔をやや伏せて、髪で目線を隠す。ユラリと、まるで何かが乗り移ったかのように緩急を入れて、シエスタは二人に近づいた。 やっぱりね、と小さく呟いたのが幽霊のような感じで怖い。 トドメとして、背後に何やらオーラが浮かび上がっている。 「いえー、別に怒っていませんよ?」 二人との距離がなくなった時、少女は顔をあげる。シエスタよ、目が笑っていないぞ。 「いやいや、あいつはあんたを捨てたんでしょ!? だったら――――」 「別に捨てられた覚えはないです! 話がややこしくなるから出てってください!!」 隣の部屋まで聞こえそうな怒号を、シエスタは珍しく叫んだ。 シエスタの剣幕に負けた二人は、はい、としょぼくれながら去って行った。 シエスタは素早く鍵をかけて、これ以上侵入させないようにする。そしてようやく、当麻に駆け寄った。 「だ、大丈夫ですか……?」 「吹寄さんのおでこクラッシュと同威力だぞありゃあ」 腹を押さえながらも、なんとか起き上がる。喧嘩慣れしている当麻にここまでのダメージを与えるのは凄いの一言に尽きた。 「す、すみません。わたしの同室の人が」 「あー気にすんな。なんというかこの類は慣れちゃってるから」 苦笑いを浮かべる当麻に、シエスタはもう一度ぺこりと頭を下げた。 「えと……お帰りになりますか?」 そうするか、と立ち上がったその時、当麻ははっとなる。まずい、まずい。危うく忘れるところだった。 「ああそうそう。頼みがあるんだ」 「頼み、ですか?」 ?マークを頭に浮かべるかのように、小首を傾げるシエスタに向かって、当麻は両手を胸の前へ合わして頭を下げる。 「一生のお願いだから測らせてシエスタ!!」 時が、止まった。 「…………………………………………………………はい?」 「いや、だから測らして欲しいんだけど……無理と言われても困るんだ。頼む!」 え……と、とシエスタは困る。 測らして欲しいという事はあれなのだろうか? いや、きっとそうだろう。そこまで頼み込むのだから。 頬が赤く染まる。測る理由はわからないが、やはりそれはちょっと恥ずかしい。 「えと……どうしてもですか?」 「ああ、シエスタの大きさがちょい気になるからどうしても測りたいのよ!」 「全くシエスタは何を考えているんだか……」 「きっとシエスタは再び当麻君をゲットしようとしているのだ」 「なるほどねえ~やはりあのお風呂の一件から積極的になってくれたからね」 二人は、シエスタが当麻と二人っきりにさせる為、ぶらぶらと廊下を歩いていた。 彼女の発言から、きっとまだ当麻は誰も選べんでいなく、これからゆっくり選ぶようである。 それならば、二人のやった事はお門違いだ。後で謝らないとなーと二人は思う。 「シエスタとトウマが何をしたんだって?」 「ん~? だから一緒にお風呂に入ったのさ、我ながらよくあそこまで育てたと思うよ」 「そう……あのメイドとトウマはお風呂に入ったのね……」 「ってあんた誰?」 二人は振り返る。 そこには、絶対に知られてはならない人間がいた。いや、人間の仮面を被った鬼がいた。 夜は、まだまだ続く。 「え……と……」 それはー、やっぱりわたしの……胸? と口ではやはり言えない。 できる事なら断りたい。断りたいのだが、当麻が頼み込んでいるのだ。 やはりここは一肌脱ぐべきなのだろう。 というか別に測るだけなのだ。別に問題はない。やましい気持ちなど当麻にはないはずなのだ。そう言い聞かせて、自分を落ち着かせる。 「あ……はい、大丈夫ですよー」 「マジか!? んじゃあちゃちゃっと終わらせるから」 当麻はどこから出したのか、メジャーをいつの間にか手に持っていた。事細かに刻まれたテープを引っ張りながら、シエスタに近づく。 それに反応するかのように、ぴくっとシエスタの体が震える。 心臓の鼓動が激しくなる。 心なしか、体が熱くなっている。 (このままじゃはしたない子に思われちゃう……かも?) 未知なる体験に怯えながらも、目をつむる。なぜだろう、目の前の少年が急にキャラが変わったような感触を覚えた。 しかし、 「えーっと、五フィートと四インチか……。オーケー、ありがとなシエスタ!」 目的を終えた少年は颯爽と扉の鍵を開けて、部屋から出て行った。 シエスタは一人、部屋に取り残される。 「……………………………………………………………………あれ?」 もしかして大きさって身長のこと? 己が考えていた展開にならず、落ち着いてきた頭がゆっくりと状況を理解する。 ってことは、もしかしてわたしの勘違い? かぁーと、己の恥ずかしさを表すかのように赤くなっていく。別にちょっと考えればわかるのに、なぜ自分は胸の事だと思ってしまったのだろう。 (うぅ……バカバカバカバカバカバカ、わたしのバカー!) ポカポカと、自分の頭を殴りつける。羞恥心と後悔で一杯になったシエスタの思考は、しばらくの間正常には働かないようだった。 「さてと、スカートはルイズから拝借して……んでもって水兵服の丈を合わせて完成だなっ!」 当麻は、これからの予定を立てながら部屋へと戻った。 夜遅くなのだろうか、他の人とすれ違うような事はなかった。寮、といっても当麻の知る寮とはちょっと違う。基本的に、自分の部屋に閉じこもっている人が多いのか、他の貴族と会うような事はそうそうない。 あるとしても、仕事をしているメイドさん、ギーシュにキュルケと言ったごく僅かな人達だ。 それとも、夜更かしせずに早く寝る人達で一杯なのだろうか? といっても、気にした所で答えがわかるわけでもないし、わかったとしてもタメになるわけでもない。 直ぐさま頭の中で、どうでもいい事ですよシールを貼りつける。 (うう……ねむ……) 朝早くから起きた故の眠気と、戦勝祝いで賑わっていた人込みをかきわけた疲労から襲いかかる欠伸を噛み殺す。 今日は早く寝て明日作業に取りかかるかーと、眠気に耐える気力もない少年は部屋の扉を開くと……。 鬼がいた。 わかりやすく言うならば、言葉では到底あらわす事ができない程怒っているルイズが、腕を組み、仁王立ちしていたのである。 「ひめ、わたくしは何か悪いことをしたのでしょーか?」 殺される。このルイズは、なにか後一つの衝撃を与えたら確実に飛びかかってくる。 当麻の主であるルイズは、怒ると傷害事件として書類送検されてもおかしくない程の暴力を振るう。 自分が前にいた世界で味わった頭噛み付きよりかは、後遺症が残る心配はないのだが、 その分を上乗せするかのように痛みも増す。 しかし、今回は違う。 なんというか、今までとは比べられない程怒っている。そう、アンリエッタ王女と出会う日の前にあった時よりも数倍……。 ともかく、今の状況は非常にまずい。下手したら死ぬ。死ななくても半殺しには間違いなくされてしまう。 だから、ここは穏便に解決せねばならない。 できる限り丁寧に、丁寧に当麻はルイズに尋ねたのだ。 「とりあえずそのメジャーを持って何しに言ったのかを説明してくれる?」 空気が震えた。一言一句が刃と化して、当麻に襲いかかるような勢い。 これならば、問答無用で迫ってきた方がまだ怖くない。いや、だからってボコボコにされたくはない。 全身から嫌な汗が吹きでる。背中は既にびっしょりであった。 今のルイズには、嘘を言ってもすぐにばれてしまうような印象がある。残された当麻の手は、ちゃんと何をしたか話すという事だ。 「いや、えっと……シエスタの大きさを測るのに使ったんだが?」 ブチッ、と音がしたわけでもないのに、なぜか耳に入った。それはまるで、血管がちぎれたような音であった。 ルイズは、出来る限り平常心で貫き通すつもりであった。自分のためにプレゼントを買ってくれたし、自分のことを守ってくれたし、それは感謝している。 だからこそ、シエスタと一緒にお風呂を入ったと聞いても、ギリギリ耐える事ができた。もっとも、ストレス発散のために情報提供者である二人をボコボコにしてやったが。 そして、二人が部屋でなにかやっているのを聞いた時も、本当にギリギリの中のギリギリで耐える事ができた。 本来ならば虚無の魔法を使って当麻を本気で殺そうとしたが、踏み止まった。 使い魔を信頼することもまた、主の仕事の一つである。案の定当麻はすぐに戻ってきた。 そこまでは許せた。まあ土下座して何度も謝れば半殺しぐらいで済ませようとも思った。 しかし、当麻はシエスタに何をしたのか? 『いや、えっと……シエスタの大きさを測るのに使ったんだが?』 その瞬間、へーじょーしんなどどこかへ吹き飛んだ。同時に、こめかみにくっきりと浮かび上がった血管がキレそうになった。いや、もうキレている。 これはダメだ。いや、これだけだったらもしかしたら許せたかもしれない。でも、ダメだ。 この使い魔には一度死んでもらう必要がある。きっと自分の中に取り巻くもやもや感はこれで解消されるに違いない。 ルイズの中で、当麻が殺害候補に見事採用された瞬間であった。 ルイズは杖を振るい、扉にロックをかけた。ガチャリという音がして、慌てて当麻は扉に駆け寄りドアノブを回したが、開く様子はない。 (やばいやばい!) なぜかわからないが、ルイズの逆鱗に触れてしまったようだ。 恐怖が、体を支配していく。焦りが思考を妨げる。 「知ってる? 『虚無』が使えるようになってコモン・マジックは成功するようになったのよ。これも神がわたしのためにと思って授けてくれたのね」 ルイズの口調、音量は至って普通であった。普通であるからこそ、余計に怖い。 絶対怒っているのに平然とした態度をとる、というギャップによるせいだ。 「待って、待って下さい! ここまで怒っちゃう程のことをした覚えがないんですけど!?」 瞬間、ルイズの肩から立ち上るドス黒いオーラが膨れ上がった。 火に油を注ぐとはこういう事を言うのだが、当麻にはもちろん自覚などない。 「覚えがなくても大丈夫、どのみち全てを忘れることになるのだから」 会話のキャッチボールが成立しない。当麻が優しく投げても、ルイズがそれを投げ返さなければ意味がないのだ。 交渉する余地がないと判断した当麻は、再びノブを回すが、うんともすんともしない。 「無駄よ。ロックがかかっているもの。力任せで開くわけがないわ」 絶体絶命とはこの事を言うのだろう。 (まずい、まずい! このままじゃデッドエンド直行ルート……じゃなくてデッドエンド迎えてるから! なにかなにか回避する術はないの!) いっその事、ダメ元でこの魔王と戦うべきだろうか。いや無理だ。間違いなく数秒で負けてしまう。 あらゆる魔術も超能力も打ち消す事ができる右手の幻想殺しも、魔王少女ルイズに対しては何の役にも立たない。 (ん……? 幻想殺し……?) 絶望の果てに希望を見出だした瞬間であった。 「な、なあルイズ……」 「なに? 遺言なら言っても構わないわよ?」 当麻は告げる。ただし遺言ではないが。 「俺、まだ死にたくないから今回は勘弁ッ!」 そう言って、再びノブを回した。 今度は、右手で。 パキン、と何かが割れたような音がすると、ドアは普通に開いた。当麻は廊下に出ると、後ろを振り返ることなく全力で逃げ出した。 そう、幻想殺しを持つ当麻は、極力ここの物に触らぬようにと左手を使ってきたのだ。彼の右手にかかれば、このような包囲網など簡単に突破できる。 しばし呆気にとられていたルイズは、口元に笑みを浮かべた。 「うふ、うふふ。うふうふうふうふふふふふふふ!」 それ危険すぎる笑みだった。ルイズの怒りのゲージは頂点を越して、新しい境地に入ったようである。 なるほど、どうやら使い魔は主に喧嘩を売ったようだ。 「まあいいわ、あんたが逃げても……あの子はどうかしら?」 魔王は標的を変える。少年(主人公)の事を好きである少女(ヒロイン)に。 眠れない夜はまだまだ続く。 #navi(とある魔術の使い魔と主)