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ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 1 - (2008/03/21 (金) 02:40:31) のソース
「その傷はどうした?半人半妖になる前に受けた傷か?」 「今から死にゆく者に、教えてやる理由はあるのか?」 周囲を山に囲まれた盆地の中の崖に立つ二つの人影がそこにあった。 「いや、両腕があればなんとか…といったところだろう。お前…それほど強くて、なぜNo5に留まっている?」 「悪いが、それに答えてやる理由も無いな」 隻眼の戦士が剣を構え、両腕を失った戦士にその切っ先を向ける。 両腕が無い戦士が目を閉じる。 剣を握れぬ以上、反撃することもできず観念したのだろうと隻眼の戦士は判断し、すれ違いざまにその剣を振り下ろした。 (全てが済んだら必ず返しにくる。だからお前も必ず生きていてくれ) (心配しなくても私はそう簡単には死なん) 微動だにしなかったが、数刻前にした会話が頭に浮かび、体が反射的に動いた。 「……どういうつもりだ?」 「すまんな、まだ死ねんようだ」 振り下ろした剣から血が落ちているが、右肩を少し切断しただけだ。 「両腕を失ったお前に何ができる?」 「出来の悪い弟子に触発されたようでな…元No2の首、そうそう簡単に取れると思うなよ」 妖力解放。瞬時にその場から離れ崖を飛び降りる。 「…チッ、隠遁したいたとはいえ、かつてNo2だっただけの事はある」 追おうとするが、スデに姿は見えない。 こうなってくると、元来の妖力の大きさは向こうが上なだけに、こちらも妖力解放せねば追いつけないが、 隻眼の戦士にはそれはできない。 「…妖気は外に漏れ出ている…ガラテアに任すか」 片目を失った日から何のために妖気を抑え続けてきたのか。 その目的を果たすためには、こんなところでそれを無に帰すわけにはいかない。 妖気を探るが、突如として気配が消えた。 「消えた…?妖気を消す薬を持っているとは思えないが…どういう事だ?」 同時刻―少し離れた森― 借りたものを借りた戦士が、森の中を歩いているが突如、右腕に違和感を感じた 「イレーネ…?何か今…右腕が…な、何だ…?何か…とんでもないものが…くる!」 何か違和感を感じたが、遠くの方から木をなぎ倒すような音と、凄まじく強大な気配が近付いてきてそれどころではなくなった。 「あら、こんにちは。奇遇ねぇ、こんなところで会うなんて」 さらに同時刻―トリステイン魔法学校― 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよ 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よ! わたしは心より求め、訴えるわ…我が導きに、答えなさい!!」 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、現在サモン・サーヴァント二回目に挑戦中。 一回目は綺麗なクレーターが地面に残るぐらいの爆発が起きた。 それはいつもの事なので、野次が飛ぼうと気にしない。 MY予想では47回は爆発する覚悟でいるのだから…ッ! だが、予想に反して変化は2回目の爆発に訪れた。 煙が収まるにつれ何かの影が見えたのである。 「…や、やった!」 そう喜ぶが、それも長くは続かない。 その影が動くと、人の形になったからである。 この場合、考えられる選択肢は亜人、ゴーレム、人間のどれかなのだが、 召喚者の実力を非常によく知っている者達からすれば人間、それも平民だという流れになるのは当然だ。 「サモン・[[サーヴァント]]で平民を呼び出すなんてさすが『ゼロ』だな!」 「~~ぅるさい!まだ分からないじゃない!!」 「魔法も使えない『ゼロ』なんだから平民しかないじゃないか!」 周りが嘲りを含む笑いに包まれるが、煙が晴れ、その姿を見てぶっちゃけ全員凍りつく事になった。 女性ながら身長180サント前後の長身。 腰にまで届くかという、色素が抜け落ちたかの様な混じりけの一切無い銀色の髪。 鋭さを備えた銀色の瞳。 そして、尖った耳。 以上の事から、生徒及び引率の教師が導き出した結論は唯一つ。 『どう見てもエルフです。本当にありがとうございました』 「「「「ぜぜぜ、[[ゼロのルイズ]]が…エルフを召喚したぁぁぁぁ!!!」」」 そう叫ぶと同時に、周りに居た生徒が一斉に距離を空ける。 残っているのはハゲ頭の教師と呼び出した当人だけだ。 ルイズはルイズで、動けないでいるだけなのだが。 もっとも、イレーネもイレーネで状況が掴めないでいる。 覚えている限り、自分が居た場所は周囲を山に囲まれた盆地で、こんな開けた平原ではない。 何より、周りに人なぞ居なかったはずだ。ラファエラから逃れるため妖力解放したとしても、こんな場所に瞬時に着けるはずもない。 周りが怯えた様子なのは別に気にしなかった。 銀眼と言えば半人半妖のクレイモアと呼ばれる戦士しか居ないのだから、恐れられて当然の事だ。 だが、自分の体に違和感を覚え視線を右に向けた時、思わず衝撃が顔に出そうになったものの、 辛うじて堪えた。 伊達に、片腕のみの妖力完全解放というロクでもない技を顔色一つ変えずに使うだけの強固な精神力を持ってはいない。 (クレアに与えた右腕が…あるだと!?) 己の妖力を探り、それをほとんど使い果たしている事に気付くが、正直な所納得いっていない。 (攻撃型の私が、あの短時間で…しかも意識を失っていたというのに右腕を再生したというのか…?) 崖から飛び降りた時、何か鏡のような物に当たった気はするのだが、 さすがに防御型ではないからには、理由は分からないにしろ再生できたとしても、常人と同じ程度の力しかない。 (状況が掴めんが…聞けば分かるか?) 辺りを見渡すが、周囲に居るのは距離を空けている少年少女達と、ハゲ頭が眩しい中年男、 そして呆然としている桃色の髪の少女だけだ。 この場合、状況的に見てハゲの中年がこの場の責任者だろう。 そう判断し、問いただす事にしたのだが…色々ビビッているご様子。 クレイモアが現れる場所=妖魔が潜伏している、とでも思っているのだろうと判断したが、どうも周りからエルフなどという聞きなれない言葉が聞こえる。 「悪いが訊きたい事がある」 「な、なんだね…?」 「ここはどこだ?なぜ私はここに居るんだ?」 教師は言葉に詰まった。 下手に『ここはトリステイン魔法学校で、あなたを生徒の使い魔として召喚した』などと言えば、先住魔法を喰らう恐れがあったからである。 『炎蛇』の二つ名を持つ彼でも、先住魔法を行使するエルフの相手は荷が重過ぎる。ましてや、生徒を守りながらなど…。 どう答えようかと必死こいて悩んでいたが、別方向から答えが返ってきた。 「こ、ここはト、トリステイン魔法学校よ」 「トリステイン?聞かん名だな」 聞かない地名だったが、組織と戦士の活動地域は47もの地区に分けられた大陸にあるのだ。 文明Lv的にもほとんど変わりないので、よもや別世界などとは微塵も思ってはいない。 「ミスタ・コルベール…!も、もう一回召喚させてください!!」 「…それは駄目だ、ミス・ヴァリエール。春の使い魔召喚の儀式は神聖なものだからやり直しはできないのだよ」 「で、でも…エルフを使い魔にするなんて聞いた事がありません!」 少々考え事をしている横で『使い魔』だの『エルフ』だのワケの分からない単語が飛び出ている 「話し込んでいるところ悪いが、今一状況が掴めん。説明してくれないか?」 その銀色の威圧感たっぷりの目で二人を見据える。 (うう…怖い…。でも、使い魔って事分かってないみたいだし…やるなら今しかないかしら?) 「説明したいから、ちょ、ちょっとしゃがんでくれない…?」 「いいだろう」 目線が合う高さまで頭を下げると、ルイズが杖を目の前で振り 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 等と呪文らしき言葉を唱え、目を閉じ顔を近づけてくる…。 ギン! という音がしたような気がし、目を開けるとえらいモノが飛び込んできた。 「ふぇ…?目の…色が変わってる!?」 今の今まで銀色だった瞳が金色に変わり、何だかよく分からない妙な気配が漂っている。 その瞬間、まずい!と心の底から思った。 例えるなら、蛇に睨まれた小動物のような絶対的捕食者に対する恐怖。 そして、まばたきをした瞬間、その姿が掻き消えていた。 「ど、どこに…!?」 周りを見回すが、どこにも姿は無い。 そうやってあたふたしていると、後ろからえらくドスの効いた…何かこう殺気混じりの声が聞こえてきた。 「…その趣味は無いんだが、何て事をしてくれるんだ?」 恐る恐る後ろを振り向くと、こちらを見下ろしている鋭い銀眼と思いっきり目が合った。 (目の色が戻ってる…というか、何時の間に!?) 瞬きはほんの一瞬。その隙に後ろに回り込むなど到底不可能だ。 「せ、せ…先住魔法だ!!」 そんな声があがると同時に、生徒達が空を飛び逃げ惑う。 残りの妖力といっても、実際は瞳の色が変わる程度しか残っていなかったのだが、 『微笑』のテレサという桁外れの存在でNo2に甘んじていたものの、歴代No1にも匹敵する力の持ち主である。 『疾風』のノエル程ではないが、一割程度の妖力解放でも瞬きの瞬間に背後を取るなど容易い事だ。 …まあ、そのありえない移動速度を目の当たりにして、生徒達はエルフの使う先住魔法と判断し逃げたのだが。 その飛んでいる姿を見て、驚いたのはイレーネも同じだ。 「飛行型…妖魔か!?」 そうは思ったが、飛行型とは言え妖力を全快にせず人間の姿のまま空を飛ぶなどありえない事だ。 妖力探知も行うが、やはり妖気なぞ微塵も感じられない。 「…そういえば、魔法とか言っていたな。しかし、そんなものが存在するとは聞いた事も無い」 「…魔法を知らない?…エルフじゃないの?」 「エルフというのがどのようなものかは知らんが、私が居た場所では我々は『クレイモア』と呼ばれている」 「き、君は一体どこから来たというのだね?」 「その前に、私が何故ここにいるかという事を説明してもらいたい」 「君は、サモン・サーヴァントによって、ここに呼び出されたのだよ」 「サモン・サーヴァントだと?」 「ゲートを通して対象を召喚する魔法なのだが…心当たりは無いかね?」 「…あの鏡のようなやつか?」 「恐らくそれだろう。それで、さっきの質問なのだが」 「私がかつて属していた組織は東の地にあるが…本当に知らないのか?『クレイモア』という存在を」 「東…君はあのロバ・アル・カイリエから来たのか!?東の地ではエルフの事を『クレイモア』と言うのか…興味深いな」 「私が居た所は47の地区に分けられた大陸で、一地区に一人戦士が担当しているのだが…トリステインなどという地名は聞いた事が無い」 「大陸…別の大陸という事か。面白い…実に面白い!」 ちょっとテンションが上がってきたコルベールと呼ばれた教師だが、ルイズは放置食らっている。 「一つ聞くが、この地に『妖魔』は居るのか?」 「『ようま』…どういったものなんだね?」 「簡単に言えば、人の臓物を好んで喰らう化物だ」 「オーク鬼みたいなものかね…?」 オーク鬼の説明を受けるが、全然妖魔とは違う。 他にもいくつか候補が挙げられるが、全て今まで相手をしてきた妖魔とは異なるものだった。 今度は妖魔の説明をしたが、そんなタイプの怪物は居ないと言われる始末。 「いや、驚いた…。そんな化物が存在するとは、君がいた場所は随分と物騒なんだね」 「驚いたのはこっちも同じだ。ドラゴンなどがいるなど到底信じられん」 覚醒者なら、そんな形をした者も居るかもしれないと思ったのだが、話を聞く限り種族として存在する以上、それは覚醒者ではない。 話を纏めると『妖魔はこの地に存在しない』『故に組織の力もこの地には及んでいない』『ただし、妖魔の代わりに妙な化物が多数存在する』 という事になったが、今のイレーネには好都合だ。 再生できた理由は分からないが、常人程度の力しか持たないこの右腕では最下位Noの戦士すら倒せない。 もちろん、再生能力や妖力解放は通常と同じよう備わっているし、脚はその力を失っていない。 まぁ、『クレイモア』と呼ばれた自分が剣を用いず足技で格闘戦をしている姿は、あまり想像できなかったが。 そこら辺の人間ならそれで十分すぎる程の戦力になるだろうが、戦士を相手にするとなるとそれだけでは無理だ。 まして、元No2である自分に差し向けられてくる者なら、上位ナンバーである事は確実なのだ。 そういう事から、組織の力がこの地に及んでいないという事は、非常に有難かった。 もちろん、万が一に備えて無駄な妖力解放はしない方が良い。 組織に探知されても厄介だし、もし覚醒でもすれば、組織の力が及んでいない地域だけあって、国の一つや二つを滅ぼしかねない。 そういった観点から、妖力を使うとしても一割程度に抑えておいた方がいいと決めた。 高速剣に関しては妖力を腕のみに止める技なので、覚醒への影響は少ないだろうが どのみちこの腕では持続力はともかく、力と剣速は右腕を託す前のクレアにも及ばない使い物にならない高速剣しかできないだろうから、使う必要は無い。 場所のに関する状況は概ね理解できたので、本題の召喚された理由を問う事にする。 「それはいいとして、私をサモン・サーヴァントとやらで召喚したのは何故だ?」 「その…言いにくいのだが、君は使い魔として呼び出されたのだよ」 「使い魔だと?」 「使い魔というのは契約を行い主人に仕える存在で、 本来なら幻獣や動物を呼び出すものなのだが…エルフが召喚されたのは今回が初めてだ」 「組織に属しているという事とあまり変わらんな」 とうの昔に離反しているのだが、早い話、主従になれという事かと認識した。 一線から退き、託すものは全てクレアに託した身ではあるが、 生きていてくれと言われた手前、そう簡単に死ぬつもりは無い。 プリシラを狩るという事が、どれだけ気の遠くなるような事かは身を持って知っている。 例え順調に事が運んだとしても、1~2年では済まないはずだ。 どのみち、今の妖気が漏れ出ている状態で組織の手の届く地に戻れば、一発で捕捉されてしまうだろう。 放置されているルイズと目が合ったが、テレサと同じような事をしてみるのも悪くないと思った。 もっとも、ちびクレアとルイズとでは年齢が大分違うのだが。 「まだ名前を聞いていなかったな」 「ルイズ…ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 「私の名はイレーネ。いいだろう、ルイズ。[[お前の使い魔]]とやらになってやるよ」 声にこそ出さなかったが、ルイズは内心、天高く拳を突き上げ「キターーーーーー!!!!!!!」と叫んでいた。 何せ、エルフである。先住魔法を行使し、並のメイジ10人分の力を誇るとまで言われているあの種族が使い魔になると言ってきたのだ。 気が変わらないうちにと、早速コントラクト・サーヴァントにとりかかる。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 先程と同じ呪文を唱えるが、打って変わって声の調子はものっそい嬉しそうである。 (やれやれ…これが契約か) それが終わると、イレーネの体…特に左肩が熱くなった。 「…ッ」 普段から妖魔や覚醒者に相対している身であるから、この程度の熱さ等どうという事は無い。 「コントラクト・サーヴァントは無事にできたね。どれ、ルーンの確認をさせてもらうよ」 だが、イレーネが肩のマントを捲ると二人が固まった。 それもそのはず。左腕が存在していないのだから。 「珍しいルーンだが…その、左腕はどうしたのだね?」 そう聞かれた瞬間、イレーネの顔が曇る。 さすがに、まだあの時の圧倒的な恐怖は頭からこびりついて離れていない。 ルイズも、少しばかり契約した事を不安に思った。 腕が一つ足りない使い魔ってどうよ?と 「まあ、聞かれたくない事もあるのだろう。私は先に教室に戻っているよ。皆も既に戻っているようだしね」 そう言うと、コルベールが空を飛び学園へと帰っていく。 「見事なものだな…ところで、お前は飛ばないのか?」 仮にも契約したのにお前呼ばわりされた事に怒ろうとしたが止めた。やっぱりあの目は怖い。 「う、うるさいわよ…!ほら、早く着いて来て」 深く追求せずに後を追いつつ、テレサが連れていたちびクレアとは大分違うタイプだな… 等と思いながら空を見上げた。 何かこう、普段見ているものとは一つ余計な物が見えた。 「…ったく、また分からんものが一つ増えたな…」 まだ夜にはなっていないが、薄っすらと月が二つデカデカと浮かんでいる光景がその銀眼に映った。