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ゼロの答え-04 - (2008/10/28 (火) 07:31:16) のソース
#navi(ゼロの答え) ギーシュとの決闘に決着がついた後、ルイズはデュフォーに駆け寄ろうとしたが、出来なかった。ルイズが駆け寄るよりも早く、観戦していた生徒たちがデュフォーに押し寄せたからだ。 人波によって外に追い出されて、ルイズは離れたところからデュフォーを見ていた。 自分の使い魔が浮かべている表情はメイジに勝った喜びや信じられないことが起きた驚きでもなく、いつもと変わらない表情。 それだけであの使い魔にとって、メイジに勝ったことは奇跡でもなんでもないとわかった。わかってしまった。 歓声が広場を揺らしていた。あの平民すげー!とか、平民に負けるなんてギーシュ情けねー!とか、色々な声が怒涛のように響く。 午後の授業が始まっても、そこら中でヒソヒソと決闘のことが話されていた。そしてその話題の中心になっていたのはデュフォーについてだった。 ついさっきまであの平民は魔法の使えないただの平民というだけだったのに。 だけど今は違う。魔法は使えないけどギーシュに勝った平民。それが今のあいつの評価だ。 魔法の使えないメイジと、魔法は使えないけど『ドット』メイジよりも遥かに強い使い魔。 見返そうとして失敗した自分と、自らの有能さを周囲に見せ付けたデュフォー。 どれだけ努力しても魔法を使えない自分と、魔法が使えなくてもメイジであるギーシュにあっさり勝ったデュフォー。 ……デュフォーと比べてみて、自分が勝っているところが何も見つけられなかった。 そんなことを考えていたら、ふとあることに気がついた。 (あれ?でもアンサー・トーカーってあいつが言うには『答え』を出す能力よね。もしかしてその能力なら……) 結局、その日の午後の授業は何も手につかなかった。 授業が終わるとルイズはデュフォーと一緒に自室に戻った。 今から夕食までは部屋で二人きり。聞くなら今しかない。 「ねえ、デュフォー……」 「何だ?」 深呼吸を一度する。緊張で胸が高鳴った。 本命の質問をする前に、まずはこいつの能力の確認からだ。 「昼の決闘ってアンサー・トーカーとかいう能力によるものなの?」 「お前、頭が悪いな。意味がないかどうかは見ていればわかると言っただろう」 ビキッと顔が強張るのを感じた。緊張は一瞬で消えた。沈んでいた気持ちも怒りで浮上する。 「そそそ、そうだったわね。ででででで、でもどうやったらその能力であんな芸当が出来るの?」 「お前、本当に頭が悪いな。どうすれば躱せるかの『答え』も出せるから、アンサー・トーカーだろ」 怒りが全てを凌駕した。少し前までデュフォーに対して感じていた劣等感とか色々な感情が全て頭から吹き飛ぶ。 ―――もしかして、どうすればわたしが魔法を使えるようになるのかに対しても『答え』を出せるの? そんなことをデュフォーに聞こうなんて考えていた自分を頭の中で叩きのめした。 (ぜっっっっっっっっっっっっっっっったい!こいつの力なんか借りないで魔法を使えるようになってやる!!) 同じ頃。学院長室で二人の男が頭を突き詰め合わせて悩んでいた。片方は学院長である老人、もう片方は頭がさびしいことになっている中年の男性教師である。 二人が悩んでいたのは昼に行われた決闘の件に関してであった。 昼ごろ、中年の男―――コルベールがデュフォーの左手に刻まれていた使い魔のルーンが伝説の使い魔『ガンダールヴ』のものと同じであると学院長に報告しに来たのだ。 ちなみにその時、学院長であるオスマンは秘書であるロングビルという女性にセクハラしていた。 その後、ロングビルを退室させ、オスマンとコルベールがガンダールヴのことについて話し合っていると、退室していたロングビルから、ギーシュと件の使い魔が決闘するという報告が届いた。 その報告を聞いた瞬間、オスマンとコルベールは顔を見合わせてアイコンタクトを取った。 (これは……まさにグッドタイミングじゃ) (その通りです、オールド・オスマン。彼が本当に『ガンダールヴ』なのかどうか確認する、またとない機会です) オスマンとコルベールは一瞬でお互いの意思疎通をこなすと、『眠りの鐘』の使用許可を即座に却下し、『遠見の鏡』でヴィストリの広場を映し出した。 そして彼らは見ることになる。ギーシュが呼び出したゴーレムが『ガンダールヴ』と思われる平民の使い魔に触れることすらできなかったのを。 ギーシュが降参し、決闘が終わるまで彼らはその光景から目を離せなくなっていた。 あまりにも決着までの流れが自然だった。襲い掛かる七体のゴーレムなど障害にすらなっていない。 全てが終わったところでやっと二人の硬直は解けた。 「……あの平民、勝ちましたね」 「……うむ」 そう呟いたところで、コルベールとオスマンはお互い魂を抜かれたような表情になっていることに気がついた。それくらい衝撃的な光景だった。 頭を振り、気を取り直すとコルベールはオスマンへと話しかけた。 「あれは、一体なんだったんでしょう?伝承では『ガンダールヴ』はあらゆる『武器』を使いこなし、敵と対峙したとあります。ですが彼は……」 「……素手じゃったな」 「はい。それに、あれは、あの戦い方はなんというか『ガンダールヴ』とはまったく別物のように思えて仕方がありません」 彼がただの人間であることは既に『ディテクト・マジック』で確かめてある。確かめた結果、彼は正真正銘の平民であった。 だから彼に何か特別な力があるとすれば『ガンダールヴ』であるからとしか考えられない。それでもあれが『ガンダールヴ』の力だとは思えなかった。 「そう、じゃな……あれはまるでチェックメイトまでの道筋が確定したチェスを見ているかのようじゃった」 昼の決闘を思い返してオスマンは軽く身震いをした。 確かにギーシュは一番レベルの低い『ドット』メイジである。だがあの戦いは相手が『ドット』だったこととは無関係に思えた。 単純な力の差ではない別の何か。それがあの戦いにあったように思えてならなかったのだ。 「それでオールド・オスマン。彼のことは王都に報告して指示を仰ぎますか?」 「それには及ばん」 オスマンは重々しく頷いて、そうコルベールに告げるとこう続けた。 「第一、何を報告する気かね?彼が本当に『ガンダールヴ』なのかどうかですらまだ確証を得られていないのに」 「で、ですがあれを見れば」 「―――確かに彼のやったことを考えればただの平民の使い魔とは思えん。だが現状で彼が伝承にある『ガンダールヴ』と共通しているのは左手のルーンの形だけじゃ。それだけでそう決め付けるのは早計かもしれん」 それにとオスマンは付け加えた。 「王都のボンクラどもに『ガンダールヴ』などを引き渡したらまたぞろ戦を引き起こしかねん。例え彼が本物の『ガンダールヴ』でなくとも伝説の使い魔との肩書きをつけることができれば十分じゃからの。だからこの件は私が預かっておく。他言は無用じゃ」 #navi(ゼロの答え)