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星界の使い魔0.5 - (2007/09/09 (日) 19:15:56) のソース
[[星界の使い魔]] 0.5 アーヴとはなにか。 機械の部品である。 彼らにとって子供とは交換用部品にすぎない。 自らが摩擦し果てる前に、 機能を引き継がせる対象だ。 では、その機械とはなにか。 『アーヴによる人類帝国』という巨大でしかも邪悪な機械である。 なおその存在を許せば、ついには人類社会がすべて呑み込まれてしまうであろう。 破壊しなければならない。 ―― 『人類統合体』のとある議員の演説より抜粋 名乗ってはみたものの、どうも重大なモノをすっぽりと忘れている様な気がする。 う~ん、もう少しで思い出せそうなのだが―― 「もう一度言うけど、ここはハルケギニア大陸のトリステイン王国のトリステイン魔法学院って所よ」 ラフィールが何か思い出そうと頭を捻っているとルイズが説明しだした。 二人はルイズの部屋へと向かっている途中である。 「トリステイン王国のほかには帝政ゲルマニア、ガリア王国、アルビオン王国、ロマリア皇国などがあるわね」 「ほう、そうなのか」 まずは世界事情をと、ルイズは語り始めた。 ときおりラフィールは魔法のトレーニング中の学生をみては、おーだとか凄いなと呟いた。 「おお!れびてーしょんとやらは何度見ても凄いな!!」 ラフィールの視線の先には、女学生が4階の部屋に文字通り飛び込んで行った。バフッて効果音がしてきそうであった。 「あれは『レビテーション』じゃなくて『フライ』よ、それにあんなの普通なんだからね!」 ルイズは心底悔しがった。自分もフライやレビテーションを使えたら、ラフィールを喜ばす事ができるのに。 それに、憧れの『あれ』、つまり窓の外から自分のベッド目掛けて思いっきりダイブする事ができるのに!! ルイズが色々と説明している内に、ルイズの部屋の前まで着いた。 「あ、言い忘れてたけど魔法を使える者は『メイジ』と呼ばれ、尚且つ『貴族』でもあるの。だからこの学院生と 教師は皆が『貴族』なの。くれぐれも粗相の無いようね?」 ルイズはそう言いながら鍵で自分の部屋の扉を開けようとした。 貴族―― 貴族―― 地上人の貴族―― ・・・・!! 「そうだ、ジント!!」 ラフィールは思い出した。ルイズのその言葉で。 なんでそんな重大な事をいきなり忘れていたのであろか―― くそっ、私としたことが!任務がいかに神聖かを!そしてこれが私の初めての任務だということを!! あの者を!ジントを!リン・スューヌ・ロク・ハイド伯爵公子を帝都に送り届けることを―― ラフィールは走り出していた。自分が目覚めた場所、あの平原へと。 何か手がかりがあるはずだ―― 「あれー?なかなか開かないわね、っと開いた!ラフィール、これが私のへ―― 」 ルイズが振り向く先にラフィールは居なかった。 「あれ、ラフィール?」 ルイズがキョロキョロしていると、モンモランシーが尋ねて来た。 「ルイズ、あ、あなたの使い魔のえ、エルフだけど、物凄い勢いで階段を下って行ったわよ?」 恐怖と不安のさなか、モンモランシーは勇敢にもルイズへ知らせに来たのだ。 「えぇ!?それってどっちの階段?」 「に、西階段の方よ」 「ありがとう、モンモランシー!」 「つ、使い魔くらいちゃんと躾ときなさいよー!!!」 ルイズはラフィールを探しに出かけた。 「はぁ、はぁ」 ラフィールは全速疾走で女子寮を飛び出し、ルイズと共に歩いてきた道を逆走する。 流石に疲れるな―― アーヴは大体において、その一生を宇宙空間で過ごすのである。 アーヴの標準重力は0,9から1『デモン<標準重力>』であり、その標準は大抵の地上世界の半分である。 つまり、今ラフィールは普段より二倍近い重力下の中全力で走っている。 しかし、もともとアーヴの体と言うのは超重力に耐えれるように構想されている。 だが、これがラフィールにとっての初の地上世界なのだ。やはり、慣れないものは疲れる。 「まさか、空気に臭いがあるなんて気づかなかった―― 」 ルイズと一緒に居た時には気づかなかったそれを今感じる。 宇宙空間で過ごすアーヴにとって、空気とは純粋な酸素であり、土や海などの臭いがついていない無臭のことを指す。 もちろん、アーヴは庭園を持つものもいれば、花園を営むものも居る。 ラフィールの住むクリューブ王宮にも立派な庭園がある。しかし、こんなに濃くは無かった。 纏わりつく風が、空気が、草木の香りが、何もかもがラフィールにとっては不快に感じる。 どうもルイズ、あの者の近くに居ると調子が狂うらしい。自分がアーヴでは無いような気がしてくる。 そもそも、私が任務をあんな簡単に忘れるわけがない―― 洗脳魔法の類にでも掛けられたのか?まさかあの使い魔のルーンとかいうのではなかろうな!? 左腕の裾をめくりそれを見やる。 どことなくアーヴ語に似ている文字が刻み込まれている。しかし読めない。 「くっ。まさか、奴隷の印とでも刻まれているのではなかろうな?」 そう思いながらラフィールは目的地まで駆けていく―― 「はぁ、はぁ、何か、何かあるはずだ―― 」 目的の平原についた。日は降り始めている。 「あったぞ!!」 遠くの方で横たわる何かを見つけたラフィールは駆け寄る。 「こ、これは!!はぁ、はぁ」 ラフィールがスファグノーグに着陸する前に用意しておいた緊急避難用バッグだった。 荒い息のまま中身を確認するラフィール。 多数の非常食と凝集光銃の光源弾倉、薬品とちょっとした用具が入ってあった。 「よし!」 これでしばらくは身の危険からは免れると確信したラフィールの歓声。 「とりあえず、もうすこしこの辺で探して見るか 」 黝い髪のアーヴ少女は瞳に希望を宿しながら周囲を探索し始めた―― ルイズは学院内を駆け回った。ラフィールが突然どこかへ行ってしまった所為か、普段の冷静さを失っていた。 ラフィールが行きそうな所を思い浮かべてはそこへ行く。一通り学院内を回り終えたルイズは、 ラフィールが既に部屋に戻っているのではないかと思い、寮へと一度戻った。 しかし、ラフィールはそこには居なかった。寮内にいた生徒にも聞きまわったが返事は皆、知らないの一点張り。 ただ一人、一年生の娘がずっと前に、青い髪のエルフが寮を勢い良く出て行ったのを見たと言っていただけだった。 嫌な予感がした。頭に過ぎるのは、周囲に馬鹿にされ虐げられる自分。 『ルイズ、[[ゼロのルイズ]]!!使い魔にも逃げられた、まさに使い魔『ゼロ』の[[ルイズ!]]!』 しかし、ルイズの妄想はすぐに掻き消された。ラフィールの顔が浮かんだからである。 ラフィールは、ラフィールは私から逃げる様な娘じゃない!! だって、あんなに嬉しそうに名前を教えてくれもの! ルイズはもう一度ラフィールを探しに寮を出る。 ちょうど学生寮を出てすぐ先の噴水の麓にギーシュとケティがいた。 沈み行く夕日をバックに美男子と美少女が優雅に会話を楽しんでいる。 「ギーシュ様、この前のラ・ロシェールでの散歩はとても楽しかったです」 ケティの可愛らしい微笑がギーシュを見やる。 「そうかい、ケティ。君のためなら僕はどんな所だって連れて行ってあげるよ!」 両手を広げてギーシュは叫ぶ。その仕草は正に精錬された舞台俳優の様だ。 「まぁ、ギーシュ様ったら!たとえ嘘でもそのように言ってくださってケティは幸せです♪」 「嘘なもんか!このギーシュ・ド・グラモン、ケティに頼まれれば例え火の中、水の中―― 」 ギーシュがまるでバレエを舞う様な仕草で言っていると、ケティがそっと近づきギーシュの頬に軽くキスをする。 「あ、あの。これも受け取ってもらえませんか!」 キスをした後すかさずケティは言いながらペンダントを取り出す。 「これは?」 頬を少し赤く染めたギーシュが尋ねる。 「はい、我が家に伝わるお守りのペンダントです」 ケティは頬を赤く染めながら言葉を続ける。 「その、は、初恋の相手にこのお守りのペンダントを渡すのが我が家の伝統なんです!!」 カーっと真っ赤に頬を染めるケティをそっと胸に寄せ、それを受け取るギーシュ。 「ありがとう、ケティ。そうだ、僕からも贈り物をあげよう」 そう言うとギーシュは、自分の持っていた少し小さめの造薔薇をケティの左耳付近にそっと挿す。 「とっても良く似合っているよ、ケティ。ペンダントに比べたら大した物じゃないけど、今はこれで我慢しておくれ?」 「そ、そんな!!私は大変うれしゅうございます!」 そんな甘く切ない青春の一ページを二人がしているさなか、 学院中走り回って血走った目をしたルイズが行き荒げに近づいてきた。 「ど、どうしたんだいルイズ!?」 「どうなさったんですか、ミス・ヴァリエール!?」 二人がハモった。 「ら、ラフィール知らない?私の使い魔の・・はぁ、はぁ」 「ひっ」 その血走った目のルイズの顔が恐ろしかったのか、ケティはギーシュの背に隠れてしまった。 「ぼ、僕は知らないけど。ケティは?」 ケティはギーシュの後ろで横に小さく顔を振った。 「そ、そう。あ、ありがとうね。はぁ、はぁ」 日ごろ走ったりしないルイズは、慣れないのに学院中を長時間走り回ってくたくたなのである。 「君の使い魔、え、エルフだっけ?どうしたの?」 ギーシュは、思い出したくない事実を思い出し尋ねる。 「と、突然いなくなっちゃったの。そ、それに誰かが、勢い良く寮を出て行ったのを見たって言ってたわ。はぁ、はぁ」 「あ、それってもしかして使い魔さん、自分が召喚された所に行ったのかも。落し物でもしたんじゃないですか?」 ギーシュの後ろでケティが人差し指を上げて言った。 「「それよ!!!はぁ、はぁ」」 「ひっっ」 ルイズの叫びにまたもやギーシュの背にしがみつくケティにギーシュはおろか、ルイズまでもが『発芽<萌え>』した―― 「そ、それじゃあ、私は行くわね。ありがとね。はぁ、はぁ」 「あ、ああ」 そう言うと、ルイズは走り去って行った。 「『ゼロ』のルイズなだけに、使い魔に逃げられたのかな?」 「もう!ギーシュ様、学友を罵ってはいけませんわ!」 ギーシュの言葉に、頬を拗ねるケティ。 「ごめん、僕の可愛いケティ」 そういうと、ギーシュは軽くケティのおでこにキスをした。 「もう、ギーシュ様ったら♪」 「はぁ、はぁ。ほかに何も見つからぬか」 ラフィールは平原一帯をくまなく探したが、バッグ以外のものは何も無かった。 となると―― ラフィールは平原の西を見やる。そこには森があった。 「いってみるか、何かあるかも知れぬであろ―― 」 ラフィールには、ルイズの元へ帰る気はさらさらなかった。 任務を盛大に妨害された上、変な洗脳じみた魔法を自分に掛けてきたのだ。次に会ったら、タダでは済まさぬ。 そう思いながらラフィールは森へと移動していた。 ラフィールは軍人である。まだ修技生<見習い>ではあるけれど。 ラフィールが所属する軍の名は『帝国星界軍<フリューバル・ラブール>』である。 『アーヴによる人類帝国』の軍事力を担うと同時に、政治、行政の大部分を動かす、帝国そのものといえる組織である。 それ故に、星界軍の任務は神聖であるとすべてのアーヴ<星たちの眷属>は心得ている。 では、アーヴ<星たちの眷属>とは何者であるか―― 『アーヴ』という言葉には社会的な意味と種族的な意味の二つの側面がある。 社会的な意味とは、皇族、貴族、士族などの総称を言う。 もう一つは『遺伝的な意味』をなす。それは、『地球人類』を遺伝子的に改良し、宇宙空間での生活に適用させた変異人類を指す。 次に種族的なアーヴの特徴について。 平均寿命は250歳。すべてのアーヴが『青系統の髪』で『美系』かつ『不老』である。 基本的に人工子宮で子供を作る。自然受胎もできるが、遺伝子が大きく改変されている為、約2%の確立で子供に障害が生まれる。 アーヴ以外の種族との間の自然受胎はほぼ不可能である。故に、シエスタ一族がいかに始祖ブリミルに愛されているのかが分かる。 では、アーヴ<星たちの眷属>とはいかにして生まれたのか―― それは、時を遥か二千年ほど遡る。 とある人種が文化の独自性を守るため、小惑星帯に軌道都市『母都市』を建設。 しかし、『母都市』に植民地を探索する必要性が生じた。 対策の一つとして、深宇宙探索が計画され、 探査船の乗員として、予測不能な事態に耐用できるよう人間の遺伝子を元にした『作業生命体』が作られた。 彼らは、人間ではないとされ人類的にはありえない青い髪を遺伝的に与えられ、 『宿命遺伝子』という強い帰属意識を本能に刻み込まれた。それは、本来『母都市』を裏切らないよう刻まれたものだった。 作業体29体を乗せた探査船は出港した。 彼らは探索先で新種の資源『ソード・レーザ』を発見。それを期に『母都市』と決別、のちに『アーヴ』と名乗る。 『宿命遺伝子』は『母都市』にではなく彼ら自身の種族<アーヴ>に見事働いたのである。 以後、宇宙を漂流する商人として、アーヴは宇宙を翔けめぐる。 「ラフィール~、どこいっちゃったのよぉ?」 ルイズはうな垂れながら平原を見回す。誰一人としていない。日ももうすぐ完全に墜ちる。 「も、もしかして森の方にいっちゃったのかな?」 トリステイン魔法学院の周りには自然が豊かであった。まさに、山あり谷あり森ありである。 そうした所には、魔物が生息している為、基本的には生徒のみでの立ち入りは禁止されている。 過去、幾度となく禁を破り単独で魔術の素材を集めに行った生徒が二度と帰ってこなくなった事は少なくは無い。 そんな危険な所に、ルイズは己の使い魔を探しに足を踏み入れる―― ペチッ!!ペチッ!!森に中で肌を叩く音が鳴り響く―― 「あぁもお、鬱陶しいわね!!虫多すぎ!!!」 季節はすっかり春なのである。活気の付いた虫たちは、次々と瑞々しい腕をたわわにしたルイズの血液を吸おうと集ってくる。 「いいかげんにしてよねっ!!!」 パチーーン!! ルイズはとうとう集ってくる虫たちに我慢が出来なくなり、思いっきり自分の腕を叩いてしまった。 「「痛っ~~~~~~~~~~!!」」 その痛みで思わず叫ぶルイズ。しかし、そのおかげで冷静さを取り戻す。 すぐに周囲の異変に気が付いた。 「・・・・?」 周囲を見渡しながら、耳を澄ますルイズ。 ところで、ルイズは魔法が使えない事以外は、まさに淑女の中の淑女である。 趣味は、鳥たちが奏でる唄と共にお茶を頂くのが近頃のお気に入りである。 学院内で他の生徒たちに虐げられ、挫けそうになったり、泣きそうになった時は必ず、学院の敷地内にある ルイズの秘密のお気に入りの場所、一本の大きな木がある丘へ行く。 その一本の大きな木には、なぜかいつも鳥たちが居て、綺麗な声で囀っているのである。 その囀りを聞きながらルイズは、心を癒していく。 お昼の後の、大好きなクックベリーパイと紅茶をその丘で頂くのがルイズにとっての幸福な時間なのであった。 しかし、そんな所にルイズが居ることを他の生徒たちにバレないはずがなかった。 ギーシュを含む、数人の男子が噂を聞きつけ、ルイズをからかいに行ったことがあるのだが、 おいしそうにパイと紅茶を頂きながら、目を閉じ、鳥たちの囀りを楽しんでいるルイズの幸せそうな姿を見た時、 彼らは思ったのである。せめて、せめてこの時間ぐらいは、この麗しい淑女をそっとしておこうと―― あるていどしてからルイズは気づいたのだが、日によって木に止まっている鳥たちの種類が異なっているのだ。 それからルイズは鳥に興味を持ち出し、鳥たちについて調べるようになったのである。 学院が長期の休みになると、かならずルイズは鳥観察の旅行に出た。もちろん、一人ではない。 貴族たちの中にも、鳥観察を趣味とした者は多い。その趣味を皆で分かち合う為の組合があり、そこでささやかな ツアーが開催されているのである。ルイズはそのツアーへ休みごとに参加するのであった。 しかし、鳥たちの観察というのは控え身に言っても子供の趣味ではない、隠居した貴族やお年寄りがもっぱら楽しむのであると―― ルイズはいつも、ツアーでは最年少であった。しかし、ルイズは孫又は娘のように、皆から親しまれた。 そして、いろいろと熱心に励むルイズに人生の先輩方は、優しくいろいろとルイズに知識を施していった。 そうこうしている内に、ルイズは鳥に関しては学院一詳しいといっても良いほどにまでなった。 その知識が告げる。何かがおかしいと―― どうやら鳥たちは威嚇をしているようだ。 ガサガサと草たちが擦れ合う音が聞こえてきた。しかも複数。 バサバサバサバサ―― 鳥たちがもうすぐ完全に日が暮れる夕日に向かって一斉に飛び出した―― そして、ルイズを取り囲むように無数の陰が現れた。 オーク鬼である。その数、3。 ルイズは驚いた。まさか本当にオーク鬼が学院の近くの森に生息していることに。 教師たちが生徒を行かせないように吐いた狂言ではなかった事に。 3匹はじりじりと前方から寄ってくる。 ルイズはギュっと自分の杖を握り締めた。 いいじゃない。やってあげるわよ。このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが!! ラフィールを、ラフィールを見つけるまでは死ねない!! ルイズはすばやくルーンを呟く―― 『ふぁいあーぼーる!!』 ちゅどーーーん!!! 中央のオークの上半身が爆発した。破片が周りの木や草の飛び散る。 「やった!成功って、してないじゃない~~~!」 一瞬、ファイアーボールを放てたと思ったルイズが叫ぶ。 まぁ、この際失敗魔法でも敵が倒せるならなんでもよかった。 残る二匹のオークは一瞬うろたえた。今までに見たことが無い魔法だったからである。 オークたちは冷静さを取り戻し、すぐさまルイズに向かって突進する。 しかし、ルイズはその時すでに次の詠唱を終えていた。 『えあ・かったー!!』 ちゅどーーーん!!! 両方のオークの下半身が吹き飛んだ。今度は密集していたせいかまとめて倒せたのである。 「も、もしかして、私って強いのかな、かな!?」 ルイズは喜んだ。自分の失敗魔法が実は結構強いのではないのかと。 そして、さすがルイズ、今の二回で自分の魔法の特徴について気づく。 『どんな魔法を唱えても同じ爆発が起こる』というのは、学院に居たうちから把握していた。 しかし、今それ以上の事にルイズは気づいたのである。 ファイアーボールとエア・カッターとでは、若干後者のほうが詠唱は短いのである。 この二つの意味するモノとは、つまり詠唱の短い魔法でお手軽殺傷魔法が使えるということなのである。 でも、やはり失敗魔法は失敗魔法である。恥ずかしい。特にラフィールには知られたくない!ルイズは思うのであった―― ガサガサガサガサ 「あ・・・・・」 今の爆音で他のオークを引き寄せてしまったようである。 しかし、ルイズはにやりと微笑む。己の自信がそうさせるのである。 「さぁ、狩を始めるわよ・・・!!」 「やはりというか、何も無いな―― 」 ラフィールはそろそろこの森に見切りをつける所であった。 ちゅどーん・・・ 「ん?」 遠くの方でなにやら大きな音がした。 ラフィールは凝集光銃こそ手にしなかったが、周囲を探る。 この『周囲を探る』とは、文字通り周囲一体を感知することである。 『アーヴ』には、先ほど説明したものの他に、もう一つ、地上人とは違う物を持っている。 『空識覚<フロクラジュ>』である。 それは『空間』というものを直接的に把握する。それが『空識覚<フロクラジュ>』であり、アーヴ以外の人類には無い『領野』である。 そして、『空識覚』に必要なのが『頭環<アルファ>』である。ルイズが、変わったサークレットだと思っているあれである。 『頭環』は『個人用全周囲探知機』つまり『全周囲レーダー装置』となって装着者の周囲を探るのである。 「ふむ、なにも怪しいものは無しか」 あるていどの周囲を探ると、ラフィールは止めた。 やはり一度、学院に戻るべきなのであろか?『オーニュ<バカ>』、戻ったらこんどこそ完全に洗脳されるであろ―― ラフィールは静まり返った夜の森の奥へと進んでいく。 進んでいく中、多数の爆発音が聞こえた。 ラフィールは少し恐怖に似た感情を抱いていた。 この森に入って、かれこれ数時間―― 小動物以外、何とも出会っていなかった。 そこに、急に爆発音が度々聞こえて来るのである。恐怖を抱かないほうが尋常ではない。 まさか、私を追ってメイジどもが来たのか?否、それなら爆発を起す意味が分からない。 となると、未知の生物とやらか? 「ふん。アブリアルたる者が己の想像した未知の生物に怯えるだと?馬鹿馬鹿しい」 ラフィールはそう言い切ると、のしのしと歩いていった。 ―― たす・・・・て―― 「ん?」 突然頭の中に女性の声が聞こえた。 ―― ラフィール、助けて!!―― 「ルイズ!?」 こんどははっきりと聞こえた。 自分の主だと言い張る少女、ルイズの声だ―― ラフィールは走っていた。本能に従うまま。左裾のしたのルーンが光っていることには気づいていない。 まさか私は、声の主、ルイズを助けに行こうとしているのではあるまいな? 走りつつもラフィールは思う。 馬鹿な、あの者は私の任務を遂行不可能にしてしまったのだぞ。報いを与えるのならいざ知らず、助けるなどと。 ―― 助けて、ラフィール!!!―― ああ、もうじれったい!!助ける、助けるから叫ぶでない!!! ラフィールの意思が固まった。その瞬間、いままで以上の速さで走り始めていたことにラフィールは気づかなかった―― 「ロック!」 ちゅどーーーん!! 「ロック!ロック!ロック!アン・ロック!!!」 ちゅどーーーん!!! ちゅどーーーん!!! ちゅどーーーん!!! ちゅどーーーーーーーん!!! ルイズは走りつつ、迫り来るオークの群れに魔法を放っている。 「うぅ、なんでこんなに居るのよ~~~」 ルイズは既に10体以上は倒している。しかし、次から次へとオークはやって来た。 走りつつ、ふと気づく。オークは周囲に居なかった。 「はぁ、はぁ、も、もしかして全滅させた!?やった!私って意外とやるじゃないルイズ?はぁ、はぁ」 ルイズは心身ともにくたくたである。その場にへたれ込んだ。それもそのはず、ロックを、失敗魔法をかれこれ十数発 は放ったからである。これが並の生徒なら、とっくのとうに魔力が枯渇してオークの晩餐になっていたに違いない。 ルイズは、己の失敗魔法は『ロック』で発動させるのが一番だと判断したのである。 最初は詠唱の短い『エア・カッター』を唱えていたのだが、自分がコモンマジックも使えないことを思い出し、 『ロック』で発動させるようになっていた。無詠唱のコモンマジックはまさにルイズにとってはうってつけなのである。 ルイズは完全に油断しきっていた。己がオークを全滅させたのだと。のほほん顔で座っていた。 「グギャーーーッ!!」 背後から突然雄たけびが上がる。ルイズは振り向く。 「ええ!?そんな、大きすぎ―― 」 バンっ!! ルイズは薙ぎ飛ばされた。軽く10メイルは吹き飛んだが、草木がクッションになり辛うじて立ち上がれる。 ルイズの目に映るものは、さっきまで相手をしていたオークよりも倍ぐらいあるオークだった。 「ッ、杖が・・・・!!」 飛ばされた時に手放してしまった杖は、巨大オークの後ろに落ちていた。 人語を理解できるのか、巨大オークはその凶悪な顔をニヤリと綻ばせ、ルイズを見やる。 メイジは杖が無ければどうしようもなかった。ましてやルイズは体術の心得も無くば、普段あまり運動もしない女の子である。 恐怖と絶望がルイズの心を支配する。 一歩ずつゆっくりと巨大オークはルイズに近づいてくる。その凶悪な歪んだ顔をニヤつかせながら。 「あ、あぁ・・・・!!」 ルイズも巨大オークの動きに合わせて、そのおどけない足取りで一歩ずつ下がる。 なんで私はこんな森へ一人で来たのだろう?後悔がルイズの頭に過ぎる。 「ら、ラフィール・・・け・・て」 そうだ、私はラフィールを、さっき召喚した使い魔のラフィールを探しにきたのよ!! 「助けて!ラフィール!!」 ルイズは叫ぶ。 そうよ、ご主人様をほったらかすなんて使い魔として最低よ、ラフィール! 使い魔たる者、主人の盾となり剣となって守り通すのが筋ってものでしょ!あとできっちりと躾けてやるんだからね! そう思っている内に、とうとう巨大オークが目の前まで詰め寄ってきた。ルイズの背に木が当たる。 あぁ、やっぱし私が不甲斐ない『ゼロ』だからラフィールは離れていっちゃったのかな。 「グギャゥオォー!!」 巨大オークの口が大きく開いた。涎が辺りを飛び散り、ルイズの顔にもついた。 あぁ、私は食べられちゃうのか。せめて最後にもう一度だけ、ブルドンネ街のパン屋のクックベリーパイが食べたかったな―― 「グギャゥォォォ」 大きな口が近づいてきた。息がルイズに降りかかる。臭い。凶悪な歯が不気味に光っていた。 「ら、ラフィール・・・・」 ルイズが覚悟を決めたさなかであった。 「ルイズ!!そなた無事か!?」 ラフィールが茂みから飛び出してきた。 「ラ、ラフィール!?」 ルイズは、自分が持てる精一杯の笑顔で答えた―― ラフィールはルイズと会った瞬間悟った。 やはり、この者の顔を見ていると心の中の怒りが消えていく―― だが、今はそんなことはどうでもいい。目の前の、ルイズが、無抵抗な者が殺されるのを黙って見ているほど私は愚かではない! 一瞬ラフィールに気をとられた巨大オークに向けて、ラフィールは素早く凝集光銃を腰から抜き取ると撃った。 『ガンダールヴ』の効果が発動する前に凝集光は放たれた。 一条の光の線が巨大オークに向かって伸びている。 巨大オークは一瞬たじろいだが、なんともなかったかの様にすぐさまルイズに向けて口を広げた。 「な、何!?」 「ええぇ!?嘘、なんとも無いの?嫌、死にたくない!!こんなの嫌!!」 続いて、『ガンダールヴ』の効果によりラフィールの頭に凝集光銃の情報が送り込まれる。 そう、凝集光銃の安全装置は『照明』モードになっていたのだ。 迂闊だった―― まさかこんなことも忘れていようとはな!クソ、間に合わない!! そう思いつつも手は『照明』モードから『射撃』モードへ切り替える―― その時、ラフィールの『空識覚』にとある影が過ぎった―― くそ、敵の増援だとでもいうのか!?ルイズ、ルイズ!!そなたを失いたくない!!! 巨大オークがまさにルイズを噛み付かんがばかりに首を振るう瞬間―― 「ギュウワァォォォォォォォォーーーっ!!!」 突然巨大オークの巨体を炎が纏う。それは、まるで炎が大蛇の如くオークの巨体をとどりき蠢いた。 ルイズは急いでその場から離れてラフィールに近づく。 間髪入れぬ間に、巨大オークの巨体は意識を失いルイズの居た場所に倒れこんだ。 「みなさん、無事のようですね!!」 コルベールがきょとんとしている二人の間に走りよってきた。 「いやぁ、間に合ってよかった!学院中を走り回るミス・ヴァリエールの話を聞いていたのですが、 夕食にも現れないあなたを気にしてかミス・ツェルプストーが私に知らせてくれたんですよ」 キュルケが?あのツェルプストーが私の心配?ルイズが疑問を抱く中、コルベールは続ける。 「それでミスタ・グラモンに聞いてみたところ、どうやら儀式をした平原に向かったらしいと聞いて、 そこに行ったのですが、案の定そこにはおらず、まさかと思い森へ探しに来たんですよ」 ルイズとコルベールが会話をしている中、ラフィールは巨大オークの燃え盛る体を見つめていた。 正確には、その燃え滾る爆炎を見つめていた。凝集光銃を持つ手のルーンは袖の下で光っていた。 ふと、ラフィールの意識が闇に墜ちる―― 『アーヴ』は、自らの青い髪を『原罪』又は『奴隷の烙印』と呼ぶ。 では、なぜアーヴはその烙印をいまの現在まで引き継いでいるのか―― それは、アーヴが『母都市』から決別した時まで遡る。 彼ら<アーヴ>は怖れたのである。『母都市』から懲罰隊が送られ、自分たちを滅ぼすのだと―― 彼らは武器を造り、人口を増大しつつ、船を改装し軍事力の向上を試みた。 独立後、数百年ほど立ったころである。彼ら<アーヴ>は決断したのである。母都市に戻ることを。 しかし、ただ戻るのではなかった。己らの不安と恐怖を取り除くために戻っていったのである。 ラフィールの視界には、一人の女性と通信端末から映し出される画面上の老人が映った。 彼らが誰であるのか、ラフィールは悟った。 『ガンダールヴ』のルーンが、ラフィールの遺伝子に宿る古の記憶を映し出しているのであった。 目の前にいる、長い黝い髪に漆黒の瞳をしたどことなく自分に似た女性は『船王』である。 彼女が後のアブリアル一族であり、アーヴ帝国を束ねる皇族の先祖でもあった。 そして画面に映るのが、突如帰還した彼ら<アーヴ>に対応している『母都市』の移民局長であった。 ラフィールは二人の会話を見て思った。この二人のやり取りはまるで、父つまり『移民局長』が、娘つまりは『タマユラ』 を諭すような、親が子を思うようなやり取りであると。 船王自信も、好意と受け止めていた訳ではないが、嫌ではなさげであった。 一旦通信は打ち切られしばらくすると、『母都市』を仕切る『評議会』が通信をしてきた。 評議会は移民局長は職分を超えていると判断したのだ。 通信してきたのが移民局長でないと知るや否や、すこし寂しげな表情をした船王をラフィールは見逃さなかった。 これは母都市と彼ら<アーヴ>の外交交渉であった。 交渉とは、まず要求から始まり譲歩、つかみ合いがありつつ、妥協点へと進めるのが普通である。 しかし、彼ら<アーヴ>にはかけひきなどの懸念がなかった。 交渉は打ち切られ、彼ら<アーヴ>は母都市と戦った。 戦闘はあっという間に終わった。 母都市はほとんど無防備で、彼ら<アーヴ>はとてつもなく強力だった。 五十万の母都市に暮らす人々は、何が起こったのかも分からないまま宇宙の塵へと変わっていたった。 母都市には、抵抗できる力は無かった。彼らは、戦争をとっくに歴史上の概念にしていたのである。 無防備に爆散していく母都市を見て、彼ら<アーヴ>は初めて気づくのである。 妄想的な恐怖から、実に子供じみた短絡的な行動を取り、多くの命とそこに積み重なった歴史と文化を 一方的に葬りさってしまった罪を。そして、自分たちがいかに母都市を、『故郷』深く愛していたことに―― 彼らはその時に、『母都市』の言葉で『天<あま>』つまり宇宙を意味する言葉で呼ぶようになり、 それが何時しか、『アーヴ』と変化していった。船王には天の神、『天照<アマテラス>』の称号が贈られ、 それが訛り『アブリアル』へとなった。そして、彼女の子孫たちはアブリアルの一族と名乗る。 アーヴ<彼ら>はこの日から誓った。母都市の意志を引継ぎ、母都市の『文化の守護者』となり、 その言葉や風習を守り続けることを。そして『青い髪』を、『原罪』を持つ罪人であることの証を持ち続けることを。 船王の横でラフィールも爆散する母都市を見つめていた。 裾の下に隠れたルーンの放つ光が強くなる。 ラフィールは消えつつある意識の中、散逸していく母都市に涙した―― 『アブリアルは泣かない』 アーヴなら誰もが知っている言葉だ。 <冷酷なるアヴリアル>、<非情なるアヴリアル>、アブリアルは親しい友や恋人を死の手に攫われようとも、眉一つ動かさぬ。 アブリアルの一族が築き上げてきた悪名からそう、いつしか言われる様になっていった。 しかし、本当は違う。皇族たるもの、その涙を個人に向けてはいけないのである。 涙を向ける先は、帝国であり、そしてその帝国に住まうすべての者に向けなければならない。 しかし、ラフィールは涙した。己の故郷、帝国ではない『故郷』に―― そして、身体の奥底に刻まれている『宿命遺伝子』は、ルーンにより掻き消された―― ラフィールの意識は再び闇に墜ちた。 ・・・・ル!!ラフィ・・ル!! ハッとラフィールの意識が戻る。巨大オークは燃えカスも残っていなかった。凝集光銃は腰に収まっていた。 「ラフィール、大丈夫?さっきからぼーっとしてるけど」 今のはなんだったのだろう。なぜ私はあのようなものを見たのであろか? 父上に以前、聞かされた話であるのは確かなのだが、あんなに詳しく見るなんて、夢だったのか? そう思いながら左袖を上げる。どうやらルーンは光ってはいないようだ。 「うん、大丈夫だルイズ。心配するな」 ラフィールはルイズに返事をした。 「でも、ラフィール泣いてるわよ?」 「え?」 自分の手で確かめる。指が濡れた。確かに泣いていたようだ。 「はい、これで拭いてね」 ルイズはハンカチをラフィールに渡す。 「ありがとう」 「それからね、ラフィール」 受け取ったハンカチで涙を拭うラフィールは返事をした。 「ん、どうしたのだ?」 「助けに来てくれて、ありがとう!!!」 ガバっと抱きついてくるルイズにラフィールは困惑した。 「ル、ルイズ!離すがよい!!私はこのような趣味は無いぞ!?」 口ではこう言うものの、満更でもない微笑を浮かべるラフィール。 二人の様子を見守っていたコルベールだが、この様子に彼は『発芽<萌え>』した―― 「あー・・・コホン。それでは学院に戻りましょうか、ルイズさん、それに、えーと―― 」 「ラフィールと呼ぶがよい」 「じゃあラフィールさん。では行きましょう」 歩き始めるコルベール。あれ?飛ばないのかな、と思うルイズであった。正直、すごく疲れているルイズは、 コルベールがてっきり『フライ』で部屋まで送ってくれるものなのかと思っていたのだが違った。 ま、まぁ、私が『フライ』を使えないことがバレちゃうよりは良いか! そう思うルイズは隣で歩いているラフィールに話しかけた。 「こんどの休日に武器買ってあげるわね。いくらなんでも、あの光を出す玩具じゃ敵を倒せないでしょ?」 コルベールの耳がピクっと動いた。 そう、この男コルベールは、ラフィールが持つ光の線を出す道具の事を詳しく聞きたくて、わざわざ歩きを選んだのである。 いつ、その道具の話を切り出すか様子を伺っていた。禁を破って森に来たことも咎めずに。その矢先のルイズの言動である。 「ん?これは玩具では無いぞ。れっきとした兵器だ」 そう言うと、ラフィールは瞬速の速さで凝集光銃を抜き取り、近くの岩に向かった撃った。 一条の光が走ったかと思うと、岩が小爆発し、吹き飛んだ。 「「えええええーーーーーーーーっっ!?」」 ルイズとコルベールがハモる。 ラフィールはそそくさと、凝集光銃を腰に戻す。まさに武器の情報が流れてくる瞬間である。ルーンの光は裾の下に隠れていた。 「そ、それって何!?銃なの!?」 ルイズは心底驚いた。玩具だと思っていたそれは紛れも無く凄い物だったからである。 「うん、凝集光『銃』だ」 さも当然の事かのように言うラフィール。 「ぎょうしゅうこうじゅう?」 「凝集光銃?」 ルイズとコルベールが再びハモる。 「ラフィールさん、詳しく教えてくれせんか?」 いつの間にかラフィールの真横にコルベールはいた。その顔は真剣そのものである。 なんてったって、魔法も使わずに爆発を起せたのである。彼の研究を大きく発展させるかも知れないのである。 そこから、ルイズは置いてけぼりになっていった。なんでラフィールも楽しそうに会話をするかなぁ。 『ゆうどうほうしゅつ』やら『はんてんぶんぷ』、『まいくろは』など意味不明な言葉がラフィールから放たれるごとに、 ルイズの頭の上には『?』マークが浮かび出ては、面白い呼び名だなーとか、お腹すいたなーとか思うのであった。 一方コルベールは、奇声を上げながらラフィールに詳しく説明を求めた。 ルイズにとってはとてつもなく長く感じ、コルベールにとってはまさに一瞬といって良いほど短く感じた徒歩での帰還を終えた。 学院に着いたのだ。これで、やっとこの会話が終わる!ラフィールとお喋りできる!と思っていた矢先、 なぜかコルベールが寮まで付いて来た。 ルイズが恐る恐る尋ねると、案の定。コルベールは私の部屋に今夜、泊り込みでラフィールから『かがく』について教わる気で居るらしい。 ルイズが『丁重』にお断りするも、なんとコルベールは子供の様に駄々をこね始めた。 ルイズが吹き飛ばしてやろうか、と思ったとき、ミス・ロングビルが現れた。 「ここは女性専用ですよ?ミスタ・コルベール」 そういうとコルベールの耳を引っ張りながらミス・ロングビルはどこかへ行ってしまった。 その二人を笑いながら見送るルイズとラフィール。 「ああいう教師は新鮮だな!」 ラフィールはコルベールをこう評価した。 自分の部屋にたどり着く間に、使い魔についてみっちりルイズは言うのであった。 やれ、使い魔は主人に黙ってどこかへ行かない。 やれ、使い魔は主人の傍を離れてはいけない。 やれ、使い魔は主人を一人にしてはいけない。 さっきの出来事をほじくり返すようにルイズは言う。 ルイズは、それらを言うたびに頬を膨らました。 ラフィールはそれらを言われるたびに、許すがよい、と言う。 そうこうしている内に、ルイズの部屋へと到着する。 ルイズは、ラフィールの手を繋ぎながら鍵を開ける。念のためであった。今度は逃がさないわよ!? 「ようこそ、私の部屋へ!」 「ほう、広いのだな」 ルイズの部屋は、ラフィールが過ごした修技館の部屋より大きかった。 「まあ、座ってよ」 「うん、失礼するぞ」 ラフィールを座らすと、ルイズは部屋を見渡す。 水差しとパンが置いてあった。使用人の誰かが気を使わせてくれたのであろうそれをラフィールに差し出す。 そして自分もラフィールのテーブル越しに座る。 やっとラフィールとお喋りができる―― ラフィールがパンを口に運ぶ。それを見つめるルイズ。 ―― 「それにしても、これはおいしいな」――