「使い魔の名は」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
使い魔の名は - (2007/09/25 (火) 23:21:08) のソース
……やった! やったやったやった! で・き・た! 目の前に現れた獣を見て、ルイズは震えながら、心の中でガッツポーズを決めた。 魔法の使えないメイジ。 人呼んで[[ゼロのルイズ]]と嘲笑される存在。 それが今までの自分だった。 でも、これからは違う。 何故ならば、こんなすごそうな幻獣を召喚したのだから。 最初は大きな狐かと思ったが、ようく見るとその獣はルイズの知るいかなる獣とも似ていない。 図鑑にも、こんな幻獣は載っていなかった。 きっとすごいレアものか、遠い国に生息するものだ。 それにしても、変わっている。 全身は真っ白で、体のサイズそのものは大きな狐か犬という感じなのだが、長い尻尾が九本もはえており、それがゆらゆらと動くさまはすごく絵になっていた。 幻獣は何かひどく驚いているようで、ルイズやコルベール、それに景色を見回しながら、まごまごしている。 時間も惜しいので、早速に契約の儀式を。 ルイズは躍る胸を押さえながら、幻獣にキスをする。 幻獣の顔は、まるで鋭い杭のように前に突き出す形になっていたので、ちょっと苦労したが。 「ぐ……おおお……!!」 その直後、幻獣は身をかがめてうなり出した。 うなる? ――何か、変。 うなるというよりも、それは……。 「己は……なんだ?」 いきなり、声がした。 「へ?」 聞きなれない声に、ルイズはまわりを見回した後、ゆっくりと目の前の幻獣に眼を向ける。 「……ま、まさか」 「お前は、何だ? 何故、我はここにいる?」 とまどっているようだが、同時にひどく偉そうな声が響いた。 ルイズの幻獣の口から。 「あ、あんたがしゃべってるの?」 ルイズは震える声で、幻獣に言った。 「他に誰がいる」 白い幻獣はじれったそうに答えた。 「…………いぃ」 幻獣の言葉を聴いて、ルイズはゆっくりとうつむく。 そして、 「いぃやったぁぁぁぁぁぁっっ!!!」 歓喜の叫びを上げて、拳を天に突き上げた。 すごい。 すごい、すごい、すごい! マジですごい。 こんなにすごくていーのだろうか? 夜、ルイズはへらへら笑いながら、ベッドで上で身もだえしてた。 ベッドの下には、本日召喚した使い魔が、やや呆れた目つきでルイズを見ている。 その額には使い魔の印たるルーンが刻まれていた)コルベールは見たこともない形だとか言っていたが)。 だが、呆れらようがどうしようが、この笑みは止められない。 何しろこの使い魔、今まで例のない珍しい幻獣で、その上人の言葉まで話せるのだ。 初めて魔法が成功した上に、召喚したのがこんなすごい代物なのだから、喜ぶなというほうが無理だ。 「そーいえば……あんた、名前とかあるの?」 ルイズは床の上に寝そべっている幻獣にたずねてみた。 人の言葉を話せるものだから、名前だってあるかもしれない。 「……」 名前と問われ、幻獣は沈黙した。 「? ないの?」 続けて、たずねるルイズ。 対して幻獣は、やはり沈黙する。 「じゃあ、私がつけたげる。そうね……最初あんた見たとき狐かと思っちゃったから、フォックス。フォックスってのはどう?」 「!」 幻獣は急に顔を上げて、ルイズを見た。 そのまま、しばらくは沈黙を続けていたが、 「ああ。それでいい」 そっけなく答えた。 しかし、その奥に強い喜びの念が感じられ、ルイズはニコリと笑う。 「うんうん、これからよろしくね、フォックス」 その夜、ルイズは不思議な夢を見た。 暗く淀んだ世界の中、ルイズは一人でいた。 重くて深くて、陰気なところ。 いや、陰気そのものの世界。 ひどく気の沈む世界に、ルイズはいた。 しかし、上のほうは妙に明るい。 見上げてみると、きらきらと明るくて、綺麗なものが上のほうで形づくられている。 うっとりするほど綺麗で、素敵なものだった。 ――キレイダナア……。 それを見て、ルイズはつぶやく。 心からの言葉だった。 ここにはない、綺麗で美しいもの。 ルイズはしばらくそれを見つめていたが、やがてある事に気がつく。 できれば、意識しないほうがよかったことに。 ――ナンデ、我ハアアジャナイ……? そう考えて、自分自身を見てみる。 上にあるものとは正反対の、穢くて、厭なもの。 それが自分だった。 ――ナンデ我ハ、ニゴッテイル……? それから、ルイズは暗く濁った世界で過ごし続けた。 遠くにある、決して手の届かない、綺麗なもの――人間を見つめながら。 何十年も、何百年も、何千年も(夢の中でだが)。 気の遠くなるような時間が過ぎ行くうちに、ルイズは人間を見ることがひどく苦痛になってきた。 いや、それどころか、ある抑えようのない黒い感情が、自身から噴き出してくることに気がついた。 その感情の名は、憎しみ。 そして――夢の終わりに。 闇の中で、声がする。 ――誰か……けよ……わ……を…… その言葉を最後まで聞くことなく、ルイズは眼を覚ました。 「じゃ、いくわよ、フォックス」 着替えを終えて、ルイズは使い魔に声をかけた。 「うむ」 返事は偉そうだが、フォックスは素直にルイズに従う。 ルイズと使い魔フォックスは共に歩み始める。 さて、これから後、この一人と一匹はさまざまな事件・冒険に出会うことになるのだが……。 もしも―― 桃色の髪の少女と、それに付き従う幻獣。 このハルケギニアならば、されほどに珍しくもない光景かもしれない。 けれど、もしこの幻獣がやってきた世界――その住人たちがこれを見たならばどう思うだろうか? きっと誰も我が目を疑うに違いない。 それとも、何かの罠だと思うだろうか? それはわからない。 そして、ルイズはフォックスが召喚される前のことを、知る日がくるのだろうか? それもわからない。 ただ――フォックスと名づけられたこの獣が、以前の世界では決して感じることのできなった、幸せというものを感じるようになるのは、間違いのないことだろう。 それと引き換えに、まったく無力というわけではないが(むしろルイズたちの常識からすれば十分に強い)、かつて持っていた強大な力がほとんど失われてしまったが。 けれど、主の少女から、かつて自分が恐れ、憎み、そして憧れたものと、同じ『力』を得ることにもなる。 いずれにしろ。 ここハルケギニアにおいては、この獣は主たるメイジの少女を守る使い魔であり、それ以上の何者でもありえない。 もはや、邪悪の化身でも、陰の気のかたまりでも、大妖でもなかった。 誰か……名づけよ我が名を…… 断末魔からの叫びでも、哀惜の慟哭でもなく、静かなる声で…… 誰か、我が名を呼んでくれ…… 我が名は、白面にあらじ