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ゼロのぽややん 10 - (2007/11/05 (月) 13:11:13) のソース
[[back>ゼロのぽややん 9]] / [[top>ゼロのぽややん]] / [[next>ゼロのぽややん 11]] 「以上! これで全部! もう何もないわ! 本当よ!」 涙目になって叫ぶフーケ。 ちょっとでも嘘や誤魔化しを入れようとすると、容赦なくナイフが飛んでくるのだ。そりゃもう必死である。 五本目のナイフを構えながら、アオは難しそうな顔をしている。 想像していたよりも、なかなか込み入った事情だった。 フーケがただの悪人なら、話は簡単だったのだが。 やり方は褒められたものではないが、彼女の根底に根ざしているものは善だ。ここで彼女を殺してしまえば、泣く者がいる。 さて、どうしようか。 「……とりあえず、盗んだ『破壊の杖』を返してもらおうかな」 「そこよ」 諦めたようにフーケが、渋々とチェストを指し示す。 アオは、デルフを引き抜くと、切っ先をフーケに突きつけながら、そのまま伴ってチェストに近づいた。 「開けて貰えますか」 「はいはい、用心深い事で」 フーケは無造作に蓋を開けた。もともと、罠も何も無かったのだ。 「はは、あんたでもそんな顔するんだね」 アオが一瞬見せた呆気にとられた表情を見逃さず、してやったりと、フーケが笑う。 だが、アオの反応が無い。 チェストの中を凝視して固まっていた。 「あは、あはは、あはははは」 そして笑いだした。おかしくて、おかしくて仕方ないと言わんばかりに。 「ちょ、ちょっと!?」 「お、おい相棒!?」 フーケとデルフが、まさか発狂したのでは? と焦るほどだった。 「あはは、そうかそうか、これが、これが、『破壊の杖』か! 僕がここにいるんだもんな、これがあってもおかしくないか・・・・・・ぷっ、くくく!! でもこれが杖って、すっごいセンスだよね!!」 アオは笑いながら、『破壊の杖』と名付けられた、彼のよく知るそれを手に取った。 「っ! 」 剣を持った時と同様にわき上がる感覚に、一瞬、顔をしかめる。 「・・・・・・かなり古いが、状態は悪くない、か」 少し考え込むように、腕を組むアオ。 「ねえ、フーケさん」 「な、なによ」 「頼みがあるんだけど」 「なんで私があんたの頼みな・・・ん・・・・・・」 アオの浮かべた極上の笑みに、フーケは猫のように総毛立つ感覚を覚えた。 断れるわけがない。 一方、外で待ちぼうけのルイズたち。 「小屋に入ってからけっこう経つけど、ダーリンたちったら何やってるのかしら。・・・・・・はっ! まさか二人っきりなのを良い事に、ミス・ロングビルがダーリンに迫っているんじゃ」 「ツェルプストーじゃないんだから、そんなわけないでしょ!」 「あら、分からないわよ? お子様なヴァリエールには理解できないだろうけど、ダーリンの魅力は相当なものよ。密室で二人っきりだなんて、間違いが起きないわけがないわ!!」 「ま、まさか~」 力強く断言するキュルケに、ルイズは笑い飛ばそうとするのだが、顔が引きつっている。 「ミス・ロングビル」 ここでタバサが口を開いた。 二人の視線が、彼女に向く。 「婚期を逃した女ざかり」 とどめだった。 ルイズとキュルケが顔を見合わせて頷くと、息もぴったりに小屋へ向かって駆け出す。 「あら?」 ものすごい形相で走っていたキュルケが、怪訝そうに首をひねった。 なぜだろう。目の前の景色に感じる、何とも言えない既視感。 とくにあの盛り上がりつつある地面は、つい最近見たような。 「って、あれは!」 あわてて急ブレーキを掛ける。 「ストーップ!!」 言って、そのまま行こうとするルイズのマントを掴み止めた。 「ぐえ」 マントで首が締めつけられ、およそ美少女らしからぬ声を上げるルイズ。 「ゴホゴホゴホ!! ・・・・・・あああんたね!? わたしを殺す気!? 下手するとマジで死ぬわよ、これは!!」 「そんな、些細な事どうでもいいでしょ! それより、あれを見て」 「些細じゃないわ!! ったく、なんなのよ」 キュルケの指さす方を見て、ルイズが凍りつく。 すでに形を成しつつある巨大な威容。 間違いない、あれは。 「フーケのゴーレム!!」 ゴーレムが小屋に向かって、その巨大な腕をのばす。 「いけない! あの中にはまだアオとミス・ロングビルが!!」 それを見て、ルイズが悲鳴を上げる。 ダバサが真っ先に反応し、自分の倍もある杖を振るい呪文を唱えた。 竜巻がゴーレムを襲うが、ビクともしない。 キュルケも続いて、『ファイアーボール』をぶつけるが効果が無い。 ルイズも同じく『ファイアーボール』を唱えるが、火は出ず、ゴーレムの表面が爆発で弾けるだけだ。 「どうして、どうしてこんな時にも成功してくれないのよ!!」 攻撃も、ルイズの悲痛な叫びも全く意に介さず、ゴ-レムの腕が小屋の屋根を突き破る。 ドアから飛び出す人影があった。 アオだ。 「よかった! 無事だったのね!!」 「ごめん、『破壊の杖』は取り戻したんだけど、ロングビルさんがあのゴ-レムに捕まった!」 見れば、ゴーレムの左手にはミス・ロングビルが握られている。 「そんな!」 「僕に考えがある。すまないが、ほんの少しでいい。タバサにキュルケは、あのゴーレムの足止めをしてくれ。 その間に、準備をするから」 「どうするの?」 タバサの言葉に、アオは肩から吊り下げた『破壊の杖』を見せた。 「こいつを使う」 あの奇妙な形は、確かに自分が以前、宝物庫で見たあの『破壊の杖』だ。 どうやって使うのかは、まるで理解できなかったが・・・・・・。 「わかった」 こくりと頷くタバサ。 「任せてダーリン!」 キュルケもウインクしながら返事する。 「わたしは、わたしはどうすればいいの?」 一人なんの役目も伝えられてないルイズが、不安そうにアオを見る。 「君が要なんだ」 言ってデルフを抜くと、ルイズを左脇に抱え上げた。 「えっ?」 ルイズが驚く間もなく、烈風のごとき早さでゴーレムから距離を取る。 「ここらでいいだろう」 ルイズを下ろしながら、ゴーレムを見据えるアオ。 その距離約15メイル。 近すぎれば危険だし、遠すぎれば外すおそれがある。 「お願い説明して。わたしが要っていったいどうすればいいの」 アオは微笑みながら『破壊の杖』を展開させると、ルイズに手渡した。 「君がこいつで、あのゴーレムを倒すんだ」 「わたしが!?」 「さあ、僕の言った通りに構えて。使い方を間違えるとこっちが危なくなる」 ルイズを膝立ちにさせ、『破壊の杖』を肩に担がせる。 「その立てた照準の間にゴーレムの中心をとらえて、僕が合図したらスイッチを押すんだ」 「それだけ?」 「そう。あとはタイミングの問題だけだ」 アオはデルフを振りかざし、ゴーレムに向き合った。 「僕が、ロングビルさんを助け出す」 ルイズは、巨大なゴーレムに比べてあまりにも小さなその後ろ姿に、引き止めたくなる気持ちをぐっと抑え込む。 そしてただ一言、主として、自らの使い魔に言葉をかけた。 「任せたわ」 「了解」 アオは、口だけを優しくほころばせると、ゴーレムに向かって飛び出した。 「くっ、くくく」 握られたデルフが愉快そうに笑う。 「相棒よ。てめはたいした悪党だ。 自分のご主人様までだまくらかして、自作自演のお芝居をしようてんだからな」 「いろんな事を丸く収めるためには、仕方なかったさ。でも、あのフーケさんがおとなしく助け出されると思うかい?」 「まあ、本気でこっちを潰しにかかるだろうな・・・・・・気合い入れろよ相棒!」 「ああ!」 「『ウインドブレイク』」 タバサの唱えた呪文が、ゴーレムの足へと炸裂する。 あれほどの巨体だ。末端にかかる負荷は相当なもののはず。 そうにらんだタバサは、全ての攻撃をもっとも重量のかかる場所、足へと集中させていた。 まあ、ミス・ロングビルが人質にとられているため、本体への攻撃はできない状態だったのだが。 攻めあぐねていたキュルケも、タバサに倣い、足へと狙いを定めて呪文を唱える。 風と炎の波状攻撃が、ゴーレムの進行を阻む。 さすがにトライアングル二人を相手にするのは少々骨だね。 ミス・ロングビルことフーケは舌打ちした。 ゴーレムに掴まれた状態だが、それは見た目だけ、実際は内側に余裕があり、杖を振るぐらいのスペースがあった。 聞き取れない程度の低い声で呪文を唱え、わずかな動作で杖を振るう。 だが、あくまで表面上は捕らわれのミス・ロングビルを演じていた。 このフーケ、なかなかの役者だ。 攻撃を食らい、もろくなった足を補修補強したと思えば、また攻撃を食らう。 さっさとあの男を追いかけたいのに、ゴーレムを一歩進ませるのにも苦労する有様だ。 タバサとキュルケは見事に、ゴーレムを足止めする事に成功していた。 「お待たせ」 戻ったアオが、タバサたちに声をかける。 「この次は?」 攻撃の手を緩めずに、タバサが指示を仰いだ。 「ありがとう、ここまでで十分だ。あとは僕がやる」 タバサが、珍しく驚いたように目を見開く。 「一人で?」 「そんな無茶よダーリン!!」 キュルケはアオにつかまった。正確には、腕にしがみついた。 その規格外ともいえる胸を、惜しげもなく押し付ける。 数多の男たちを陥落させてきた彼女の必殺技だったが、しかし、アオは眉一つ動かさなかった。 やんわりとキュルケを振りほどくと、優しく言った。 「君たちの魔法だと、威力、性質、範囲、どれ一つとってもロングビルさんを助けるには不向きだ。 でも、僕とデルフにならそれができる」 「まっ、ここは俺と相棒に任せておけって」 正論だった。 たしかに自分やキュルケの魔法では、ミス・ロングビルに影響を与えず、ゴーレムから助け出すのは難しい。 それには、ごく狭い範囲で、しかも高い威力が必要。 その点、彼の大剣での攻撃は理想的だといえる。 「なら、援護する」 「ありがとう。危なくなったら頼むよ」 「き、気をつけてね!」 キュルケの言葉にデルフを高々と上げて応えると、見上げれば小山のような巨大なゴーレムに、ただ一人堂々と向かっていく。 タバサはその風景に、いつか読んだ物語を思い出した。 彼女の大好きな勇者の物語を。 「はん、主役のご登場かい。結局、ここまではあんたの筋書き通りになっちまったね」 目の前まで来たアオに、憎憎しげに悪態をつくフーケ。 「ここまでは上出来すぎるぐらいだよ。最後までこうだと助かるんだけどね」 お互いが聞こえる程度の大きさで話しているため、ルイズたちには、会話は聞き取れない。 「どうだろうねえ。演技には・・・・・・アドリブがつきもんさ」 それが合図だった。 ゴーレムが拳を振り上げるのを見て、アオがデルフを構える。 「あ~あ、やっぱりな」 軽口を叩くデルフ。 地面を穿つ拳の連撃を、アオは死角という死角を縫うように動いてかわし、お返しとばかりに足を切りつけては離れるを繰り返す。 「ええい、ちょこまかとすばしっこい」 ダメージはたいしたこと無いのだが、アオの動きを捉えきれず、フーケは内心苛立っていた。 だが、ここまで微妙な均衡を保っていった両者の動きに、変化が現れた。 足を滑らせたのか、前のめりになる形でアオの体勢が崩れたのだ。 「もらった!」 それを見逃すフーケではない。 ゴーレムの拳がうなりをあげて飛んでくる。 迫り来る拳を目前に、アオが小さく笑う。 当たるその刹那、上半身をひねるように回転させ、手にしたデルフを振り下ろし、ゴーレムの拳を打ちつけた。 そう、斬るではなく、打ったのだ。 その反動で、アオの体が空中高く舞い上がり、彼の下を、風圧と共にゴーレムの拳が通過する。 勢い余って、今度はゴーレムの体勢が崩れた。 その腕に、アオが着地する。 「やっぱりてめは大した奴だよ相棒!」 そう、アオはわざと体勢を崩して見せたのだ。 「おおぉぉ!」 デルフの叫びと共にアオは跳躍すると、気合い一閃、ゴーレムの左手首を斬りつけた。 だが、次に笑うのはフーケの番だった。 ガギン! 金属同士が激しくぶつかるような音をたてて、剣が弾かれた。 手首の部分が一転、鋼鉄の固まりに変わっていた。 「しまった! こいつがあるんだった!!」 昨晩、自らを打ち付けた感触を思い出し、デルフが悲鳴をあげる。 「あははは! この騙し合い、どうやら私に軍配が上がったようだね。 魔法の使えないあんたに、空中でこれが避けられるかい!!」 フーケの言葉通り、空中に放り出される形になったアオには避ける術がない。 地を這うようなゴーレムのアッパーカットがアオに迫る。 「『エア[[ハンマー]]』」 まさに間一髪。 横合いから放たれたタバサの『エアハンマー』がアオを吹き飛ばし、ゴーレムの拳が空振りする。 「もう、あんたって子は、毎度毎度ナイスよ!!」 タバサは親指を立て見せたのだが、キュルケに抱きしめられてしまい、その胸に顔を埋めちょっと苦しそうだ。 何とか受け身を取りながら着地し、デルフを地面に突き刺してブレーキを掛ける。 かなり加減されていたのだろう、『エアハンマー』によるダメージはない。 だが。 「ツッ!」 左足に激痛が走る。 無理な体勢での受け身のせいで、痛めたのだ。 「お、おい大丈夫かよ?」 アオの異変に気がついたデルフに、焦りが走る。 「いや、ちょっとヤバイかも」 あまり距離が離れていなかったため、すぐさまゴーレムが追撃してきた。 なんとか攻撃を避けるアオだが、その動きには先程までの精鋭さが無い。 「どうやらさっきの攻撃も無駄にはならなかったようだね」 フーケが勝利を確信し、薄く笑う。 タバサにキュルケも事の事態に気づくが、ゴーレムに邪魔され近づく事ができない。 それにアオとゴーレムの距離が近すぎて魔法も使えない。 目を覆いたくなるようなその光景。 すぐにでも駆け寄りたくなる衝動を必死に押さえ込み、『破壊の杖』を構え続けるルイズ。 「アオ!!」 代わりに大声で叫ぶ。 「わたしはあんたに任せるって言ったわ!! あんたは、わたしの使い魔なんだから!! だから、だから・・・・・・」 違う、こんな事を言いたいんじゃない。 ルイズは首を振ると、支離滅裂になりそうになる自分を落ち着かせるために、大きく息を吸い込んだ。 そして、一番伝えたかった事、ただそれだけを叫ぶ。 「がんばれ!!」 それは、アオの耳に確実に届いた。 遠い昔に、どこかの誰かに言われた言葉。 アオは笑った。笑って、笑い続けた。 自分の中の摩耗した何かに、火がつく。 デルフを握る両の手に力がこもる。 痛みは、もう無い。 「お、おい相棒!」 デルフが驚きの声を上げる。 「な、なんだこりゃ!? なにかが俺の体を這い上がってきやがる!?」 無意識のうちに露出していた多目的結晶が、今までにないほどの輝きを放っていた。 そこから、まるで樹木が根を張るかのように、複雑な模様がデルフの刀身を覆っていく。 見覚えのあるものだった。 かつての自分の乗機、その腕にプリントされていたのと同じ。 「精霊回路・・・・・・そんなまさか」 やがて、小さな青い光の珠たちが、アオを、めぐりはじめる。 「こんな悪党に、こんなに醜くく汚れた僕に、君たちはまた力を貸してくれるのか?」 タバサやキュルケ、フーケにさえ見えないその光を、ルイズは見た。 あれはなに? 太陽の光に照らされ、消えてしまいそうなほどの淡い光。 その淡い光に照らされるアオ。 その姿を見た瞬間、涙がこぼれた。 「突然なんだっていうんだい!」 剣が青く輝きだしたのを見て、嫌な予感がしたフーケは、トドメを刺そうとゴーレムを動かす。 振り下ろされる拳が、アオのいた地面にめり込む。しかしアオは先程と同じ、いや、それ以上の動きで跳躍してゴーレムの拳に乗り、さらに跳ぶ。 「はっ! こりない奴だね!」 狙いのわかっているフーケは、すぐさまゴーレムの左腕部分を鋼鉄に変える。 アオは一切を意に介さず。 ただその手にした輝きを振った。 それだけで、遮る物全てが文字通り粉々になって消し飛ぶ。 「精霊手・・・・・・いやこれは剣だから、精霊剣、かな。ありがとう、わずかとはいえ、こんな僕に力を貸してくれて」 アオは、天に帰る光たちに祈るように呟いた。 支えを失ったゴーレムの左手が、形を失った土塊と化して、フーケと共に落ちていく。 フーケは呆然と、悲鳴をあげる事も、『レビテーション』を唱える事も忘れ、ただ落ちていった。 その体を、アオが抱きとめる。 見上げるフーケに、どこまでも透き通るような笑みを見せると、駆け出した。 「今だ、[[ルイズ!]]」 合図を受け、ルイズが構えた『破壊の杖』のスイッチを押した。 なんの反動もなく、栓抜きのような軽い音を立てて、何かが飛び出す。 ルイズの目には歪な矢のように見えたそれは、白い煙の尾を引き、狙い違わずゴーレムへと突き刺さる。 爆音を響かせ、ゴーレムの上半身が跡形もなく吹き飛んだ。 あとに残された下半身も力無く倒れ込み、ただの土の山となった。 「や、やったああああぁぁ!!」 『破壊の杖』を手に、ルイズが万歳した。 「やったじゃないのルイズ! あのフーケのゴーレムを倒しちゃうなんて!!」 まず、真っ先に駆け寄ったキュルケが、ルイズを抱きしめた。 「グッジョブ」 タバサもボソリと賛辞を送る。 「わ、わたしの力じゃないわ・・・・・・この『破壊の杖』のおかげよ」 キュルケの抱擁からなんとか抜け出したルイズが、照れたように言う。 「いや、紛れもなく君の戦果だし、君たちみんなの戦果だ。どうやらフーケも逃げたみたいだしね。もっと誇ってもいいと思うよ」 「ああん、それもこれもダーリンの働きがあってこそよ~」 背後からのアオの声に、キュルケが抱きつこうと振り向いて、固まった。 「って、なにをしているんですかミス・ロングビル!」 それもそのはず、ミス・ロングビルが俗に言うお姫様だっこの状態で、アオに抱きかかえられていたのだ。 「彼女、なんか腰が抜けちゃったんだって」 三人のうらやましそうな視線に、ミス・ロングビルが顔を赤くして謝る。 「す、すみません。あ、あのもう大丈夫ですから下ろしてください」 「そう? 無理はダメだよ?」 アオは言って、彼女を下ろした。 少しフラつくようだが、大丈夫なようだ。 「ねえ、ルイズ……なに怒っているのかな? えと『破壊の杖』を渡してくれるとありがたいんだけど」 「別にいぃ! お、怒ってなんかないわよ。はい、ど・う・ぞ!!」 あきらかに怒っていた。 「あ、ありがと。はい、ロングビルさん」 受け取った『破壊の杖』を、そのままミス・ロングビルに手渡す。 「え」 ミス・ロングビルは放心したようにそれを見た。 「フーケは取り逃がしたけど、『破壊の杖』を取り戻しましたよ」 「え、ええ、オールド・オスマンも喜ばれるでしょう」 しばらく『破壊の杖』を見つめていたミス・ロングビルは、さっきルイズがしたように肩にかけ、目の前のアオに狙いをつけた。 その威力を目の当たりにしていたルイズにキュルケ、それにタバサが思わず後ず去る。 アオは、笑顔のままだ。 ミス・ロングビルは一瞬険しい表情をしたあと、溜息を漏らしながら、『破壊の杖』を肩から下ろした。 「……確かにこれは『破壊の杖』ですね。 ですがわたくしが返却するよりも、あなたたちの手でオールド・オスマンにお返しするのが筋でしょう。 結局、今回なんのお役にもたてなかったのですから」 そう言って、アオに『破壊の杖』を返した。 「もう、ミス・ロングビルったら人の悪い。調べるためとはいえ、そんな危ない物をこちらに向けないでください。 肝が冷えましたわ」 キュルケが非難めいた口調で、不機嫌にミス・ロングビルを見た。 ルイズとタバサも頷く。 当のミス・ロングビルは、涼しい顔をして笑っている。 「いや、その心配はないよ」 『破壊の杖』を元の大きさに縮めながら、アオが言った。 皆が首をかしげる。 「だって、もうこれは『破壊の杖』って名前の、ただのガラクタなんだから」 [[back>ゼロのぽややん 9]] / [[top>ゼロのぽややん]] / [[next>ゼロのぽややん 11]]