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0 to 2-01 - (2007/11/10 (土) 10:37:31) のソース
何が起こったのか、よく解らなかった。 いつもいつも失敗してばかりだった魔法。今日この日こそと挑んだ『サモン・[[サーヴァント]]』。 幸いにも魔法は成功し、[[ゼロのルイズ]]と呼ばれる彼女は、漸く生涯を共にする使い魔と出会えた――はずだった。 だが、しかし。 ゼロの名とは無関係に、事は起こってしまった。 爆発による砂埃が晴れると、そのクレーターの中心に、何かが蹲っているのが見えた。 痩せっぽちで、生まれて間もない赤子に見えるほどに小さい身体。 病的に白い、紫がかった肌。その中に浮いて見える、紫色の長い尾と丸い腹部。 リザードマンにも竜のようにも見える、しかしそれらの種族には生えていない、角のようなものが目立つ頭部。 筋肉がついているとは到底思えない、細い腕。それとは対照的な、ウサギのような脚。 異形。そんな言葉が、ちらと皆の頭をよぎった。 ルイズは元より、その場にいた他の生徒も、コルベールすらも見た事のない、奇異な生き物であった。否、生き物であるかすらも疑わしい。 囁き声は集まりあい、やがてざわめきとなって広場を包んだ。 何より困ったのは、召喚した張本人であるルイズだった。 とりあえず、ナニカを呼ぶ事は出来た。だがそのナニカは、ナニカ解らない。 これは果たして成功と言えるのか、それとも―― 一先ず近づかなければ話にならない。そう思い、ルイズが一歩踏み出したその瞬間。 「――げほッ」 びちゃり。草むらに、ソレの体液が毀れた。 腹に力が入らないのか、弱弱しい咳が続く。 肌は強烈な秘薬に触れたかのように赤く爛れ、尾は引き攣りびくびくと痙攣した。 足が、動かない。一歩踏み出したまま、ルイズは唯、呆然とその様を見ていることしか出来なかった。 「いけない……! 水の魔法を! それに秘薬を! 急いで!」 コルベールの声に漸く我を取り戻したルイズはソレに近づこうとした。 だがその痙攣を続ける身体はフライで運ばれ、医務室へと消えていった。 ルイズがソレと対面したのは、それから数刻が過ぎたときだった。 ソレは水で満たされた巨大な水槽の中で、静かに身体を丸め、目を閉じていた。 幸いにも、辛そうな表情はしていなかった。楽しそうでもなかったが。 「ミス・ヴァリエール……少々酷な話だが……」 コルベールは曇った眼鏡の位置を直すと、ルイズに向かい合った。 「彼はまだ、外で暮らせるまでに育っていない」 「え?」 ルイズは耳を疑った。育っていない? どういう意味だ、それは。 「……ミス・ヴァリエールは、子どもがどんな風に生まれてくるのか……その仕組みはもう、勉強済みだったかな」 基本的には、大体。だが、それとコレとの関係性が、見つからない。 「彼はいわば、まだ母親の胎内で眠っている状態に等しいんだ。しかも……その身体は、とても脆い。 だから、外気に触れようとすれば……またさっきの様な事に……」 嘘、だ。 ルイズの世界がぐるりと回った。 つまり、自分は。赤ん坊、よりもまだ幼い、胎児を―― 「今は応急処置として、魔術と秘薬で清めた水に浸している。ちょうど、母親の胎内の成分に整えてある水にね。今は安定しているけど、育つまでは外では……」 頭の奥がぐらぐらする。そんな子を、召喚してしまったなんて。 「『コントラクト・サーヴァント』は、彼の身体が成長した時で構わないよ、ミス・ヴァリエール。外に出ても平気になってからで。それに……」 そこで、コルベールは言葉を呑んだが、ルイズにはその後が嫌でも分かった。 死ねば、また再召喚すればいい、と。 ルイズは待ちます、と答えた。 この子が育つまで、元気に外で、一緒に生きることが出来るようになるまで待ちます、と。 胎から途中で取り出してしまった赤子を、見捨てるわけにはいかなかった。 コルベールが去り、医務室にはルイズと、巨大な水槽にいる彼だけが残された。 ぷかぷかと浮いている様はまるで金魚のようだったが、彼はそんなに生易しい、軽いものではない。 今もずっと目を閉じ、眠り続けている。 「……名前……決めないと」 ルイズは、そう呟いた。 いつまでも「ソレ」とか「彼」では、収まりが悪い。何より、かわいそうだ。 「よし……決めたわ、貴方の名前。貴方は――」 「彼」は、もう、起きていた。 身体は眠っていたが、心は、もう目覚めていた。 生まれた地ではエスパータイプに分類される「彼」は、その心の目で、辺りを見回していた。 冷たい水。薄ぼんやりとした視界。暗い影。ノイズ交じりの、意味不明な音。 そして――優しい、桃の花の色。 闇の中で、「彼」の心が躍った。 アレを、知っている。あの色を知っている。はやく、はやく話さないと。はやく―― 一瞬、水面が揺れた。ぽこりと小さな泡が、「彼」の口から漏れる。 「……ッ!」 ルイズは目を見開いて、水槽に近づいた。 そして――彼の囁く声を聞いた。 『ここは、どこ? ボクは、だれ? どうしてボクは、ここにいるの……?』 彼の地でツーの称号を与えられた者。この地でゼロの称号を与えられた者。 二人は、こうして出会った。