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ゼロのアトリエ-19 - (2010/11/24 (水) 18:14:19) のソース
#navi(ゼロのアトリエ) 裏口の方にルイズたちが向かったことを確かめると、 キュルケはヴィオラートにもらった太鼓を叩き始めた。 「これで…一体何が起こるのかしら?」 あたりに規則正しい太鼓の音が鳴り渡る。 [[ゼロのアトリエ]] ~ハルケギニアの錬金術師19~ その音を聞き流して、タバサは三叉音叉を見つめていた。 破壊の像が盗まれた時、一撃で土ゴーレムを崩壊させた道具。その使用法から推察するに、 おそらく、これであの岩ゴーレムを壊せという事なのだろうが、 これを安全に、確実にあのゴーレムに叩きつける方法が見つからない。何か簡単な方法がありそうなのだが… 答えを探しつつ風のルーンを唱え、飛来する矢を逸らし、太鼓の音を風に乗せる。 「ひえっ!」 飛来し損ねた矢と巻き上がる突風に、思わず声を上げたのはギーシュ。 デニッシュの籠を抱えつつ、自己の果たすべき役割について思いを巡らす。 ヴィオラートがギーシュに渡したデニッシュは、回復用のサポートアイテムだ。 トライアングルの二人のサポートに、一人だけドットのギーシュが回るのは理に叶っており、 そのこと自体について異論があるわけではない。ないが、しかし。 (こんなことはそのあたりの平民にだってできるじゃないか!) 何とか自分の貴族としての力を示そう。そう決意し、ない頭を回転させてみるが… タバサが不意にギーシュの腕を引っ張り、今までギーシュのいた場所に逸らし損ねた矢が一本突き刺さる。 「ひっ…」 「気をつけて」 それだけ言うと、タバサはまた風の魔法を詠唱し始めた。 ほどなくして、飛来する矢が目に見えて減り始める。 「あらら…効き目は抜群ねえ。」 キュルケが一小節をたたき終わる度、一人また一人と傭兵達の足取りが重くなり、目つきが濁り… ついには武器を投げ出し、座り込み、また大の字になって動きを止める。 「ふふ、残りはゴーレムさんとフーケさん、だけかしら?」 そう言いつつも、キュルケは演奏を止めようとは思わないようだ。 「まるで微熱に浮かされて倒れたように…何だか楽しいとは思わない?」 楽しそうに、そう囁いた。 傭兵があらかた片付いたのを見て、タバサはギーシュに顔を向ける。 「…な、なんだい?」 「ワルキューレ」 「ぼ、僕のワルキューレが?」 タバサはゴーレムを指し、音叉をギーシュに手渡すと、言った。 「七分の六を、一分の一にする」 ゴーレムの肩の上で、フーケは舌打ちをした。 今しがた突撃を命じた一隊が全滅したのだ。おそらくは風に乗って聞こえるこの音が関係しているのだろう。 歴戦の傭兵が、まるで訓練で潰れるひ弱な新兵のように疲労困憊し、動けなくなってしまう。 フーケ自身も、まるで微熱に浮かされたような倦怠感に襲われていた。 隣に立った仮面に黒マントの貴族に、フーケは呟く。 「これは…あの女ね。ねえ、どうするのさ。」 「あれでよい。」 「あれじゃあ、あいつらをやっつけるなんて無理じゃない?」 「倒さずとも、分散すればそれでよい。」 仮面の男はそう言うと、フーケに告げる。 「よし、俺はラ・ヴァリエールの娘を追う。」 「私はどうすんのよ。」 フーケはあきれた声で言った。 「好きにしろ。合流は例の酒場だ。」 男はゴーレムの肩から飛び降り、暗闇に消えた。 「ったく、勝手な男だよ。何考えてんだか教えてもくれないし…」 フーケは苦々しげに呟いた。 ゴーレムの足元では傭兵達が大の字になって転がっている。 フーケは下に向かって怒鳴った。 「ええいもう!頼りにならない連中ね!どいてなさい!」 フーケが、ゴーレムの足を一歩進ませたその時。 フーケの叫び声に反応したのか、太鼓に合わせて酒場の入り口から小さなゴーレムが六体顔を出した。 女騎士をかたどったのであろうその像は、それぞれの手に一本ずつの… 三叉の音叉を携えていた。 「あれは!!」 忘れもしない。破壊の像を手に入れ、逃げる途中に見たあの光景。遠目だったが間違いない。 あの女があの音叉を使って、一撃でゴーレムを崩壊させた。 あんなものが量産できるのか?それともフェイク?判断する間もなく、 氷嵐の竜巻がフーケに向かって駆け上る。水と風のトライアングルスペル、『アイス・ストーム』。 フーケはとっさに、ゴーレムの両腕を壁代わりにしてガードを試みる。 そして、女騎士のうちの一体を踏み潰そうとゴーレムの足を上げ、下ろす。 ゴーレムの足が下り始めた瞬間、酒場の脇の路地から勢い良く何かが飛び出す。 それは唯一本物の三叉音叉を持った、七体目のワルキューレ。 「これが僕の本命さ!」 他の六体は全て囮、他の六本は全てすかすかのフェイク。全てはこの一撃のために。 壁代わりの手は動かせない。足はまだ地面に下りきっていない。 なすすべのないゴーレムに七体目のワルキューレが踊りかかって、 三叉音叉が、ゴーレムの軸足を叩いた。 「わ、ちょっとっ、これはっ!」 軸足全体が崩壊し、バランスを崩したゴーレムは倒壊。 壁を失ったフーケはアイス・ストームの竜巻に巻き込まれ、 はるか上空、はるか遠くへと飛ばされた。 フーケがアイス・ストーム空の旅を楽しんでいる頃。 ルイズ達は桟橋へと到着していた。 「桟橋なのに、山に登るの?」 ヴィオラートは言った。ワルドは答えない。 長い長い階段を登ると、丘の上に出た。そこから見える光景に、ヴィオラートは息をのむ。 巨大な木が、四方八方に枝を伸ばしている。 そして、その巨大な枝からぶら下がっている木の実のようなものが、果たして船なのであった。 「これが『桟橋』?これが『船』?」 ヴィオラートが驚いた声で言うと、ルイズは怪訝な顔で言い返した。 「そうよ。あんたのとこじゃ違うの?」 その問いかけに答えようとしたヴィオラートは、何かに思い当たって沈黙する。 (神の…浮船…) その様子にルイズは肯定の意を感じ取ったのか、 「海に浮かぶ船もあれば、空に浮かぶ船もあるわ。」 こともなげに言い放つ。 ヴィオラートは答えず、ただじっと空に浮かぶ船を見つめていた。 #navi(ゼロのアトリエ)