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ゼロの戦闘妖精-02 - (2021/10/26 (火) 00:17:10) のソース
#navi(ゼロの戦闘妖精) Misson 02 使い魔の価値を問うな 召喚場に戻ってからが大変だった。 なにせ、召喚の儀式に立ち会っていたのがよりによって 普段からワケの判らない機械を自作しては喜んでいるコルベール先生だから。 動き出すまでは「奇妙なゴーレム」程度の認識だったのだろうが、離陸するところを見て「機械」だと理解したらしい。 「一体 この使い魔は、火の魔道具なのですか?それとも風の魔道具なのですか?いずれにしても、炎の尾を曳いて空を飛ぶ機械など今まで見たことも聞いたことも無いのだが…」 そりゃそうだろう。なにせ雪風はこの世界のモノではない。 だが、教師に判らないものが生徒に判るというのだろうか。 それが、ある程度は判るはずなのだ。 メイジとその使い魔は、契約によって特異な結び付きを得ることがある。視聴覚を共有できたり、姿が見えずとも 使い魔には主人の居場所が判ったりする、そんな類の事だ。 召喚者が、自分が今迄に見たことが無い怪物を呼び寄せてしまった場合でも、契約さえ済ませてしまえば それがどのような存在なのか、大まかには掴めるようになっている。 ましてや、ルイズと雪風の間に構築されたData-Linkは、情報量その他の点で他の使い魔の絆とは比べようの無い代物だ。 ルイズが求めれば、雪風は自分のメモリだけではなく FAFの検索可能データ全ての中から回答を探してくるだろう。 その答えをルイズが理解できるかどうかは別問題だが。 さて、どうしよう。 ルイズは考える。素直に詳しいことを話せば質問攻めにあうのは必死だった。しかし無視も出来ない。この先、どうしてもコルベールの協力は必要になってくるから。 雪風は機体が大きすぎて既設の「使い魔小屋」には収まらないが、かと言って雨曝しにするのはイヤだ。燃料やメンテナンスの問題もある。 それらを解決出来る(出来そう)なのは、彼女の周囲には、とりあえずコルベールしかいない。 仕方ない。ルイズは語り始めた。 ・雪風は 異世界の技術で作られた空を飛ぶ機械「飛行機」であること。 ・空を飛ぶために風石も魔法も使っていないこと。 ・代わりに油を燃やすことで力に変えていること。 ・インテリジェンスソード等と同様に知性を備えていること。 ・音声でこそ答えないがルイズが問いかければ頭の中に回答してくること。 案の定教師は、その話の内容に異様なまでの興味を示した。 彼の趣味「機械の開発」の目的は、「破壊行為以外での 火の魔法の有効利用」。 しかしこれといった成果は未だ無い。(その意味では 彼もまた「ゼロ」の一人である。) いま目の前に、「火の力で空を飛ぶ」機械がある。彼の夢見たものが形となって存在していた。 これぞ天佑!その設計思想 原理 構造 材質その他 全てを学びたい!! 矢継ぎ早に質問の洪水は続いた。ルイズは(雪風の力を借りて)可能な限り答えた。 答えることは出来るが、ルイズ自身にも意味不明な単語や概念が頻出し問答は迷走した。 召喚場を吹きぬけた夜風にルイズがくしゃみをしたことでコルベールも我に返った。 「おおっ、少々熱が入りすぎたようです。ミス・ヴァリエール、貴女は良い使い魔を得ましたね。使い魔は、主人たるメイジにふさわしい能力を持っているものです。 強きもの、素早きもの、美しいもの。 その在り方は様々ですが、知恵ある使い魔というのは 初めて見ました。 普段から勉強熱心な貴女だからこそ、召喚することが出来たのでしょう。素晴らしい!」 ルイズは、実技試験の0点を筆記試験でカバーしなければならないため、図書館に通い詰めていた。 実際、ペーパーだけならトップクラスなのだ。 しかし、仮に筆記で満点を取ったとしても、実技と合わせて平均すれば50点以上には成り得ない。むしろ配点は実技の方が高い。 だから、入学以来これほど高い評価を受けたことは無かった。 「・・・あっ・・・ありがとうございます、ミスタ・コルベール!」 嬉しかった。 先ほどの評価が、彼の個人的嗜好からのものであったとしても。 ルイズからのコルベールの評価も上がった。そして決めた。 やはり彼に任せてみよう と。 「先生。お願いがあります。」 雪風の運用に関する問題点を説明したところ、コルベールは快く 「何とかしてみましょう」と、対策を考えてくれることになった。 とりあえず、今晩は雪風を先生に預け、ルイズは自分の部屋へ帰った。 雪風とルイズのData-Linkは、距離が離れたからといって切れるものではない。 互いの基礎データは既に交換済みだったが、ルイズは自分の使い魔の全てが知りたかった。 当然、雪風は主人の望みに応えようとするが、さすがに全てを送ることは出来ない。ルイズがオーバーフローする。 そこで、データを分割し、睡眠中に送信情報を脳内再生するのに留め、データ保存はしないものとした。 ルイズが関心を持った部分のみ保存すればよい。 つまり、ルイズは毎晩雪風の『夢』を見るのだ。 「お休みなさい、雪風。」 ---------------------------------------------------------- 深いグリーンの空 雪風が飛ぶ。惑星フェアリイ。 戦場。眼下の死闘。戦闘機 ファーンⅡ JAM。 エンゲージ ロックオン AAM ブレイク。絡み合う機動。 GUN 撃墜 ミサイル警告音 メーデー。回避不能 爆発。 脱出 確認できず。 戦闘終了。 未帰還機 3。 コンプリート ミッション R.T.B. ----------------------------------------------------------- 目が覚めたのは 夜明け前だった。 「あれが、雪風の……『戦争』」 ハルケギニアにも戦争はある。ルイズは戦争を知らない。 貴族の娘とはいえ、少女が戦場に出ることは無い。 だが、彼女は見た。『戦場の夢』を。極めてリアルな異世界の戦争を。 その「情報」はまだ断片に過ぎない。 世界に溢れるより多くの情報と統合された時、ルイズはどのような評価を下すのだろう。 「まずは 身体鍛えましょ。」 戦闘機動の画像を見て、もし自分が乗っていたらどれほどのGがかかっていたか想像してゾッとした。 パイロットが過重に呻く姿もあった。 (頑張れば私もアレくらいの操縦が出来るようになるのかしら) 動きやすい多少汚れてもいい服に着替えると、小さな影を引き連れて静かに部屋を出た。 彼女の世界は、未だ平和だった。 学院の敷地内を軽くジョギングする。 雪風に調べてもらったパイロット用の体操と筋トレメニューをこなす。 火照った身体に朝の空気が心地よい。 部屋に戻って汗を拭き、制服に着替える。こんなに気分のいい朝は久しぶりだ。 廊下に出ると、さっそく気分を台無しにしてくれる相手に出会ってしまった。 「昨夜はずいぶん遅かったわね。 なのにま~だ『召喚』出来ないの?」 自慢の使い魔 サラマンダーの「フレイム」を従え、自分の部屋から出てきたのは、同級生のキュルケ・ツェルプストー。 ゲルマニアからの留学生で、ルイズのヴァリエール家とはご先祖様から因縁浅からぬ家系の出身。 入学以来の犬猿の仲。というよりはルイズが一方的にオモチャにされている。 昨日までは ここで朝一番の癇癪を起こしていた。今日からは違う。 (私には、雪風がいる。) 「御生憎様。ちゃ~んと成功したわ! ほら、これを見て!」 ルイズの肩口のやや上辺りに、二重反転ローターにより飛行する30サント程の物体があった。 昨日 雪風に「何か召喚に成功した証拠として皆に見せられる様な物は無いか」と質問したら これを選んでくれたのだ。 「ふーん。 コルベール先生のオモチャを一個分けてもらったのね。 あの先生が作ったにしては、イイ出来じゃないの。」 ハナっから信じてもらえないようだ。 「違うわよ!あんなガラクタと一緒にしないで! これは『雪風』の ほんの一部 。 『投下ポッド内蔵用小型浮遊自動カメラ・センサー複合体』、雪風の「目」の一つよ。 雪風は 機体が大きすぎて 私の部屋には入れないから 代わりに連れて来たの。」 キュルケから ニヤニヤ笑いが消えて、ムッとした顔になる。 「何よその名前、タバサの「二つ名」と同じじゃない! ダメ、却下、認められないわ。 変えなさい、今すぐ変更しなさい。」 そういえば、キュルケの友人 同級生のタバサの二つ名も「雪風」だった。でも この名前は譲れない! 「そんなの出来ないわ。 だって 雪風は、私が召喚する前から『雪風』だったんだし、第一 機体にはっきり『雪風』って書いてあるんだもの!」 「機体? 書いてある?って… ちょっとルイズ、あんた一体ナニを召喚したのよ!?」 (そう言われても、簡単に説明できるモノじゃないわよね、雪風は。) 雪風の事は秘密にしておき、品評会で初披露皆をあっと言わせる。なんてのもいいかな、と思っていたけど・・・予定変更。まずは、この色黒娘を驚かせてやろう! 「…放課後、召喚場に来て…。そうしたら 会わせてあげる。私の使い魔に。」 『投下ポッド内蔵用小型浮遊自動カメラ・センサー複合体』(長すぎるので 以降『トーカ君』:ルイズ命名)を連れて食堂へ。 大型は無理でも、小型の使い魔と一緒に食事をする生徒は結構多い。ルイズもそんな情景に憧れを持っていた。 残念ながら「トーカ君」はバッテリー駆動なので、食事はしない。 朝食を終えてゆっくりと教場へ向かう。一時間目は錬金の授業。進級したので担当教師が代わり今日が初顔合わせだ。 「おはようございます。 これから一年間錬金の授業を担当させていただきます シュヴルーズです。 皆さん召喚の儀式は、無事に終わったようですね。 ミス・ヴァリエールも。」 ルイズの眉間に浅く皺が寄った。 ミス・ヴァリエール『も』と言う部分で 自分を揶揄された様に感じたから。 もちろん考え過ぎであり、言った側にそんな意図は無い。 それでも、些細なことに傷つきそれゆえに心の壁を厚くして周囲を拒絶してしまう、負のスパイラル。 「コルベール先生が誉めてらっしゃいましたよ。大変大きく珍しい使い魔だとか。」 この人は、ごく当たり前に自分を誉めてくれている。そう気付いて、影の差していた表情がパッと明るくなった。 「はい。ありがとうございます。」 雪風の召喚を契機に、ルイズに何かの転機が訪れたのかもしれない。 さすがに、進級すると講義の内容も高度になる。まあ、それに付いて行けない様なルイズではないが。 「それでは実際にやってもらいましょう。そうですね、ではミス・ヴァリエール。」 「はい。」 ガタッ。ルイズが立ち上がると、教室中がざわめいた。 「馬鹿!行くんじゃない。」 「先生考え直してください!」 「辞退しろ『[[ゼロのルイズ]]』!」 ルイズの魔法失敗は爆発という結果を伴う。同じクラスの生徒はそれを熟知していたが、不幸にしてミセス・シュヴルーズはそれをよく知らなかった。 「うっさいわねぇ~。 私は昨日までの私にあらず!日々進化してるってのを 見せてあげるわ!」 そう言い放って教壇へ向かう。興奮しているのか、足音がドスドスと響く。 皆を背にして教卓の前に立つ。(普通は皆の方を向いてやるものだが、もしもの際に他の生徒に向かう爆風が少しでも弱くなるよう、ルイズはいつもこうする。) 教卓の上に置かれた石をにらみつける。コレを真鍮に変えるのが課題だ。 指名した生徒が緊張しているのを見て取った先生は少女の横に移動し肩に手を置いて励ました。 「大丈夫、落ち着いてやってご覧なさい。」 ルイズは戸惑っていた。試料の石がいつもよりくっきり見える。普段の何倍も深く集中できているような気がする。 ただ奇妙なモノも見えているが。 視野に浮かぶ小さな四角と丸。フラフラと動いていたマーカーが、石の上で重なった時、雪風の『声』が聞こえた。 《ターゲット ロックオン》 呪文の詠唱は完璧、よく判らないけど雪風もサポートしてくれてるみたい。いける! ルイズは杖を振り下ろした。 『ドグォォオン!!!!』 (あちゃ~ やっぱりダメだったか。) 意外とルイズはショックを受けていない。 実は夕べも自分の部屋へ戻るときに「フライ」が使えるかどうか試してみたが、それもダメだったので今回もあまり期待はしていなかったから。 すごい爆音だった。しかし、いつもと違って教室内には 大した爆風も爆煙も広がらなかった。 生徒側から見ると、教卓の上にはまだかろうじて試料の石が残っていた。反対側から見れば、ほとんどの部分は消滅していた。 そして黒板には、直径60サント程の穴が開き、外の景色が見えていた。 全方位に拡散するはずの爆発のエネルギーが、極めて狭い円錐形の空間に収束されたようだ。 いつもなら、ここでルイズに対して非難が集中するのだが、今回はそうならなかった。 ルイズの失敗魔法による爆発は、見た目は派手だが大したケガ人は出ない。かすり傷か煙による目・ノドの痛み程度だ。だから気楽に文句も言えた。 今回は違った。例えるなら、壁に向かって大砲をブッ放したようなものだ。 あれが自分たちの方を向いていたとしたら・・・ たまたま使っていた教室が、校舎の一番端だったからよかったものの、壁の向こうで他のクラスが授業をしていたら・・・ 『洒落にならん!』誰もが 自分の想像に恐怖していた。 「てへっ、ちょっと失敗しちゃった。 でも進化したのはみんな判ってもらえたわよねっ!」 ルイズがそう言って教壇を降りていっても、誰も何も答えなかった。 そんな中でシュヴルーズ先生だけが(腰を抜かしながらも) 「じゅ、授業はここまで・・・ ミス・ヴァリエールは総務課に連絡して、修理の手続きを・・・」 と言って気を失った。 次の授業まではしばらく時間があった。数名の女子が先生を医務室に運び、他の生徒はヒマつぶしに出かけていった。ルイズが総務課へ向かうと教室に残ったのは、二人だけだった。 「まったくルイズの失敗は、見てて飽きないわねぇ。ある意味凄いと思うけど。」とお気楽なキュルケ。 タバサは、残った石と壁の穴を調べている。 「…石溶けてる。壁も焼き切られてる。 ただの爆発じゃない、不明な魔法…」 その表情は普段の「何に対しても無関心」とは違っているようだ。 「親方、いる~?」 総務室に着いたルイズは、勢いよくドアを開けて言った。 「おうヴァリエールの嬢ちゃん。久しぶりだな。またやっちまったのか?」 奥にいた老人は通称『親方』。宮廷にも出入りしていた 腕のいい大工だったが、引退後は学院長に請われて校内の補修や改装を一手に引き受けている。 平民だが、窓ガラスを割ったり階段の手すりを壊したりする悪ガキ男子達は、先生に内緒で修理してもらった経験が一度は必ずあるので、頭があがらなかったりする。 当然、教室破壊の常連であるルイズは他の誰より付き合いが深い。親方も(こんな所に顔を出す女子生徒はルイズぐらいなので)、孫娘のように可愛がっている。 「へへ~。壁と黒板に大穴開けちゃった。とりあえず黒板の応急処置は自分でやるから壁石の手配お願い。」 「判った。ちょいと時間かかるかもな。」 「頼むわね。それじゃ、工具借りてく。板っきれと塗料も!あと、親方のツテで紹介してほしい人がいるんだけど。」 「なんだい?言ってみな。」 「金属加工の得意な職人さん。仕掛けモノが作れて、仕事の速い人がイイな。」 「まぁ探しといてやるが、何を作らせようってんだ?」 「うん、私の使い魔の『部品』。これからイロイロ必要になると思うから。」 倉庫から資材と工具を持って戻ると、キュルケとタバサはまだ教室にいた。 「ねぇルイズ。放課後の約束だけど、タバサにも立ち会ってもらってイイわよね。」 「そうね。なんたったって、『雪風』の名前を持ってる当人だもの。もちろん いいわよ。」 タバサ。去年から同じクラスだったのに、ルイズはほとんど話をしたことが無かった。 ルイズだけではない。タバサと1分以上連続して会話した生徒は、おそらくいない。 キュルケと一緒にいる事が多いがその時にもタバサは本を読んでいる。キュルケとの会話も短いものばかりだ。 そのタバサが、珍しく自分からルイズに話しかけてきた。 「さっきの失敗魔法。アレは 何?」 「そんなこと聞かれたって、私にも判らないわよ! 大体魔法が失敗する元々の原因だって判ってないのに・・・」 黒板の穴を一回り程大きく切って、そこに黒板と同じ色を塗った新しい板を ぴったりとはめ込む。 釘打ちも、危なげなくこなす。同じようなことを何回もやってきたので、手馴れたものである。 D.I.Y.が得意な貴族令嬢ってのもどうかとは思うが・・・ 「そうだ、雪風なら何か判るかも。」 「はぁ?なんでそこに使い魔が出てくるのよ?!」 「雪風は特別。雪風は 生き物じゃないの。異世界で作られた飛行機、空を飛ぶ機械。機械だけど、自分でモノを考えることが出来る、人工知能。 異世界の豊富な情報を持った記憶装置。 さらに元の世界のもっと巨大なデータベースにアクセスすることも出来る。 こっちの世界の事はこれから勉強するみたいだけど、それを補っても余りある位頭がイイの。」 「・・・理解不能。」 「ほとんど何を言ってるんだか判らないけど、とにかくスゴいって事ね。で、今からその使い魔の所へ行くの?もうそんな時間無いわよ。」 「それは大丈夫。う~ん、なんて言ったらいいかな。 キュルケ、貴女はフレイムの見てるもの見える?」 「『絆』ね。ええ、見えるわよ。」 「私と雪風にも、『Data-Link』っていうのがあって、雪風の目は私の目で私の目は雪風の目なの。それに私の考えを雪風に伝えることが出来て、雪風の考えも私に伝わってくるの。だからわざわざ雪風の傍に行かなくても、雪風は答えてくれるわ。」 そう言って、目を閉じるルイズ。 (雪風、さっきの失敗魔法とそれまでの失敗魔法を比較、差異が生じた原因を検討して。) 《推論:魔法失敗の根本原因、成功時との比較データが無い為 不明。 今回及びそれ以前との比較「FCS(火器管制システム)使用の有無」 爆発状態変化の原因「FCS調整不足による過度の魔力集中と安全機構過剰発動による指向性プラズマ噴流化」 参考情報(類似検索)「HEAT弾」》 「ゴメン。一応回答は来たんだけど、簡単に説明できる内容じゃ無いわ。時間かかりそうだから、昼休みにでもゆっくり教えてあげる。」 「要するに、使い魔の手助けのおかげで集中力が付き過ぎて、石が『ぷらずま』っていう凄く熱いモノになっちゃったと。で、それが自分の方へ来ないように反対側に押し込めようとしたらそれもヤリ過ぎてああなったって事?ナニそれ、物騒ねぇ。」 ルイズの説明に判ったような判らないようなキュルケ。 「ん~。さっきのでデータは採れたっていうから、もう あんな事は無いと思うけど、それでも爆発するのは変わらないのよ。雪風には悪いけどあんまり意味無いわ、コレ。」 「・・・アレは有効。敵の鉄カブトに使うと、兜の内側に『プラズマ』が噴き出す。どんな相手でも確実に倒せる・・・」 と 提案するタバサ。 真っ昼間の食堂の片隅で女生徒が交わす会話の内容とは思えない・・・。 「タバサって、見かけによらず過激な子だったのね。ひょっとして『危険人物』?」 「あーら、どこかの『爆発娘』よりは、よっぽど人畜無害ですわよ。」 「ちょっと、ソレ誰の事よ!」 ルイズはそう言いながらも自分が本気で怒っていないことに驚いていた。 つい先日まで、キュルケも他の同級生と同じように自分を憎み、嘲り、見下していると思っていた。区別が付かなかった。 雪風を召喚出来た事で生まれたほんの少しの精神的余裕が、初めて気付かせてくれた。彼女は自分を憎んではいないと。 まあ『遊ばれてる』のは間違い無いんだけれど。 ならば自分も遊べば良い。からかわれたからといって憎しみを返す必要はない。 同級生達の中にも本当に私を嫌っている人もいればちょっとからかってみただけの人もいた筈だ。 そんな事すら判らなかったのが、今は恥ずかしい。 三人がそんな話をしていた時、食道の中央付近で揉め事が発生していた。 「なんて事をしてくれたんだ!君の不躾な行為の為に二人の乙女が涙を流すことになってしまったじゃないか!」 「もっ、申し訳ございませんグラモン様。」 どうやら平民のメイドが、貴族である学生に粗相をしてしまったらしい。 その貴族というのがルイズ達の同級生、ギーシュ・ド・グラモンだった。 代々有能な軍人を輩出している名家の出身で、土系メイジとしての実力もあるのに、普段考えているのはどうしたら女の子と××出来るか、という典型的な色ガキ。 だから、この揉め事もメイドとギーシュ、どちらが悪いのか 判ったもんじゃない。 「ねぇ、あれシエスタじゃない。」 「キュルケ、あのメイドの事知ってるの?」 「知ってるって程じゃないけど、あの娘何故か色々とタバサの事を気遣ってくれるのよ。それで名前位は覚えてたんだけど・・・。タバサ、助けに行くとかしなくてイイの?」 「必要ない。私とあの娘は無関係。・・・でも怪我でもさせられそうだったら、止める。」 テーブルの下では既に杖を握っていた。 だが 揉め事はそれ以上発展することなく治まったようだった。 午後の授業は何も問題なく終了し、放課後。 ルイズ・キュルケ・タバサは、召喚場に集まっていた。 昨日まで何も無かった場所に、土のドームが出来ている。 コルベールが、同僚の土のメイジに協力を依頼して急遽作った雪風用の格納庫だった。 かなり大きく、奥にいる筈の使い魔の姿は見えない。 「さんざん勿体つけてくれたんだから、それなりのモノは見せてもらわなきゃ納得できないわよ。」 「ま~かせて。少なくとも、貴女の『ヒトカゲ』よりは上だから。」 「あたしの『フレイム』は『サラマンダー』よ!でも、タバサの『シルフィード』には敵わないでしょ。なんてったって、ハルケギニア最速の種『風竜』の幼生体なんだから。」 キュルケもタバサも、自分の使い魔を連れて来ていた。 サラマンダーに風竜といえば、普通なら使い魔としてはトップクラスである。 「タバサ、悪いけど『最速』の看板は、今日で下ろしてもらわなきゃね。雪風よりも速く飛ぶものはこの世界には居ないんだから。」 「・・・『看板』なんてものに意味は無い。実際に飛んで 速いか遅いかただそれだけ。」 そっけない主人に、使い魔の風竜は不満そうに「きゅいきゅい」と異議を唱えている。 (雪風、そろそろ出てらっしゃい。) 《RDY》 主人の意を受けて、スーパーフェニックス マークXIが始動する。 その音に最初に気付いたのはシルフィードだった。 抗議の鳴き声を止め、格納庫入口を凝視する。フレイムもそれに倣う。 闇の中に光が動く。それは前脚に装備された前照燈。 タバサが気付く。ジェットエンジン特有の排気音に。キュルケも気付く。この世界には存在しない筈の咆哮に。 雪風のノーズコーンがゆっくりと陽光の元に現れる。キャノピ、主翼、尾翼。全長18メイルの巨体を露にしルイズ達の前で停止する。 「どう。これが私の使い魔 『雪風』よ!」 悔しいが圧倒された。キュルケは言葉が出なかった。 大きいとは聞いていた。確かに、もっと巨大な幻獣やゴーレムも存在する。 だがコイツは、一切の無駄を削ぎ落とした様に見えるのにこのサイズだ。 一体、どれほどの力を秘めているのだろう。 (コレは、惚れちゃうわね。) タバサも思う。 (シルフィは遅くない。でも、勝てない。) 風竜は、その名の通り風の精霊を友として風を纏って空を飛ぶ。 ルイズの使い魔は、違う。 あれは剣。風を切り裂き全てを置き去りに天駆ける大剣。 その速さいかほどのものか。 「まぁ見ただけでも雪風がタダモノじゃ無いのは判るでしょうけど。」 ハッっと我に返る二人。何かを企む表情のルイズが、口元を綻ばせながら言う。 「ねぇ、乗ってみない?」 「『乗る』ってどこに乗るのよ。 シルフィみたいに背中に乗れっていうの?」 「そんな無茶な事させる訳無いでしょ。ちゃ~んとあそこに座席があるわよ。丁度二つ。」 ルイズは、コクピットを指す。 珍しい事にキュルケは、逡巡していた。 学院のヤワな男共よりよっぽどソソるモノはあるのだが、雪風の余りの『異質』さに即答できずにいた。 だが、彼女の友人は躊躇わなかった。 「乗る。」 「ちょっと タバサ!」 「あの使い魔の力、知っておくなら早い方がいい。」 「はい、じゃ決まりね。キュルケ貴女、怖いなら下で留守番でもしてる?それでもいいわよ。」 「私が怖がってるって?馬鹿にしないで!乗る、乗るわよ!」 (キャノピ オープン。) 《RDY》 「それじゃ上がってくれる?私はフライは出来ないから、ラダーで上がるわ。」 既にフライに対するコンプレックスからは脱却できたようだ。 「シートの上にヘルメットがあるからそれを被って。酸素マスクもね。インカムが付いてるから会話するのに問題は無い筈よ。座ったらシートベルトも忘れずにね。そうそれでいいわ。 言っとくけど、操縦桿やスロットルレバーはいじらないでね。コントロールは雪風がするから触っても問題ないけど。」 「あんたってば、急に訳わからない単語を使うようになったけど、それってやっぱり使い魔の影響?」 「うん。雪風は判らないことは全部教えてくれるけど、こっちの世界に無かった物は向こうの名前で呼ぶしか無いでしょ。」 「ふーん。それで急にアタマが良くなったワケか。」 「うっさいわね~、期末試験の筆記は、私の勝ちだったでしょ!下らない事言ってないで、空に上がったら目ぇ回さない様に頑張りなさい。」 (キャノピ、クローズ。気絶しない程度に振り回してあげて!) 《OK, アイハブ コントロール》 ルイズが機体から離れると雪風は加速を開始した。 ガラスの壁に隔てられ更に邪魔なマスクまでさせられ、風を感じることなんて全然出来ない。 なのに、何なのこの速度感! 動き出したと思ったら周りの木々があっという間に後ろへ流れていく。身体が押し潰される座席に沈む。 視界から空以外の全てが消えた。真っ直ぐに天へ駆け上る!ひゃっほうっ!! 空を飛ぶのは初めてって訳じゃない。グリフォンや火竜 タバサのシルフィにも乗せてもらった。 フライだけで何処まで行けるか」なんて馬鹿な事もしたことがある。 違う、違う、違う、違う、違ぁ~う。全っ然 違う! 空って こんなに興奮するものだったの?! 速さもそうだけど、右に 左に 宙返り。くぅぅぅ! 何より背中で響く『炎の鼓動』、これが堪らなぃぃい。 なんでコレが ルイズの使い魔なのかしら? 私の様な「火のメイジ」の方が合ってるわ。 でも『使い魔は メイジの宝』ですものね。横取りしたら可哀そうよね。 『タマには貸しなさい!』ってところで、カンベンしてあげる!(フレイム、浮気してゴメンね。) 予想は当たった。そして、外れた。 ルイズの言った「異世界の機械」は嘘じゃないかもしれない。 この速さ、とんでもない。シルフィがどんなに頑張っても、これには勝てない。思ったとおりだ。 だが、それを超えて更に凄かった。 数年に一度有るか無いかの大嵐の晩にしか聞いたことの無い『風の悲鳴』が、ひっきりなしに聞こえている。 機体後部のエンジン内からは トライアングルクラスの魔法と同等の『炎の鼓動』が響く。 信じられない。 だが、これですらまだ全力では無いようだ。 座席の横に、勝手に動くレバーがある。どうやらこれは速度と関係があるらしい。 このレバーが一杯まで上がったのは、離陸の時だけ。それ以降は中央よりやや下をわずかに上下するだけ。 全力のまま飛び続ければ何処まで速くなるのか?どれだけ高くまで昇れるのか? もし、この使い魔を敵に回した時どう戦えば… ほんの数分間の飛行を終えて、雪風が着陸した。格納庫前に停止。キャノピが開くとすぐに興奮したキュルケが飛び降りてルイズに駆け寄った。 「すごい、凄いわコレ!あんたはともかく、このコは凄い。それは認めてあげる。」 「微妙な表現だけど、とりあえず褒めてくれてアリガト。 空の上じゃノリノリだったみたいね。」 「えっ、何の事?」 「へへぇ~。インカムの通話、雪風に中継してもらって 私も聞いてたんだ~。」 キュルケの浅黒い顔が、それと判る位赤くなる。 「そそそそういえば、きっ機体のドコカに、『雪風』って書いてあるんでしょ!どど何処に あああるのよ。」 「…話逸らした。」 ゆっくりと降りてきたタバサがキュルケに突っ込んだ。 「こんな文字、見たことないわ。本当にコレ『雪風』って読むの?」 フライで浮き上がり、雪風の正面上方からノーズコーンに書かれた文字を見下ろす、キュルケとタバサ。 「……たぶんこれは表意文字。文字そのものに意味がある。上が雪、下が風、だと思う。」 「タバサ、あなたコレ読めるの!」 「読めない。そんな気がするだけ。東方の文字とも違う。でも、なんとなく解る。」 そう言ってタバサはルイズの前に降りたった。 「雪も風もただの自然現象。それを名乗る者が何人いても構わないと思う。ただ、あの文字、私にも使わせてほしい。・・・カッコイイから。」 最後の部分はちょっと照れがあったような気がする… 意外な発言に、ルイズはポカンとし、タバサを追って降りてきたキュルケは大笑いしていた。 「でも不思議な字ねぇ。さっきタバサが言ったみたいに、見てるだけでなんだか雪の冷たさや風の速さが伝わってくるような気がするわ。ねえルイズ当~然、あたしの『微熱』って字も有るわよね!」 ルイズは小枝を拾い上げて地面に書いた。 「どう?」 「タバサのより、複雑ねぇ。でも、気に入ったわ! で、あんたの『ゼロ』は、どんな字なの?」 ルイズは地面に『零』と書いた。 もうゼロと呼ばれても気にならない。何故かと言うと… 「これはね、雪風の世界で雪風に乗っている人の名前と 同じ字なの。雪風を育てたパイロット、『深井 零』中尉。」 「どんな人?ひょっとしてイイ男?」 「あったりまえでしょ、私の雪風のパイロットなんだから!スゴ腕で、割と無口。必要な事しか言わない。そのあたりタバサに似てるかも。」 「ふ~ん。一度会ってみたいわね。タバサも興味あるでしょ、その『雪風の人』に。」 「別に。」 「そうそんな感じの人。」 「それにしても、『雪風』とあんたたち二人って妙なつながりが多いわね~。ルイズの使い魔の名前がタバサの二つ名と同じ。その『ぱいろっと』てのは名前がルイズの二つ名で性格はタバサ似。」 「まだあるわよ。実は雪風って、昔シルフィードだったんだって。」 「え~と、どういう意味?それ。」 「???」 「うん。タバサのシルフィは、種族が風竜で 個体の名前がシルフィードでしょ。 雪風の方は、機種名だと『メイヴ』って言うの。雪風は、『パーソナルネーム』個体名ね。」 「それで?」 「雪風は生き物じゃなくて機械だから、魂の代わりに『プログラム』ってのがあるんだけど、プログラムは、魂と違って古い機体から新しい機体に移し替えが出来るの。 雪風の世界には、色々な種類の飛行機があって、その中に『シルフィード』って機種名の物があるのよ。 雪風も前はそのシルフィードの中にいたんだけど、新型のメイヴが出来たんで、今の機体に移ったんだって。」 「…憑依?それとも転生?」 ちょっと腰が引けるタバサ。そっち方面は苦手らしい。 「はぁ~。あんた達、なんだかもうつながりって言うより『因縁』ね。あたしは過去じゃなく、これから雪風との交流を深めていくから。て訳でルイズ、週イチ、いいえ月イチでもいいから、雪風貸して!」 惚れたモノには、どこまでも率直なのが、キュルケだった。 「あのねぇ、そりゃあ私の用事が無い時には貸してあげてもいいんだけど、そうもいかない事情があるのよ。」 ルイズは、雪風の活動には航空燃料が必要だと説明した。 当面はコルベール先生に作成を依頼しているが、おそらく少量しか入手できないだろう、と。 「そうか~。それじゃしょうがないわねぇ。……んっ!そうだ、イイ事考えた!今日 昼休みに食堂でさぁ…」 今日一日で、ずいぶんと親しくなった三人。果たして何を企むのか? 〈続く〉 #navi(ゼロの戦闘妖精)