「虚無と十七属性-07」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
虚無と十七属性-07 - (2009/06/07 (日) 23:56:22) のソース
#navi(虚無と十七属性) 「ヴェストリの広場で、ギーシュが決闘してるぞ!」食堂に、二年生の誰かが駆け込んできてそう言った。 「え、本当!? 誰と? 誰と?」 「もしかして、さっきの二股が原因?」周りの生徒が、これはいい肴を見つけた、とばかりに飛びついた。 「ああ。なんでも、原因となった小瓶を拾った、ルイズの使い魔と決闘しているらしい。逆恨みだよなー」 その言葉が食堂に響いた後、一斉に視線がこっちを向いた。思わず吹き出しそうになった口の中のものを、必死に飲み込む。 「あんの……馬鹿!」 [[虚無と十七属性]] 第七話 バラおとこのギーシュは ワルキュレをくりだした! (※ポケモンの世界に於いて、固有名詞は5文字までしか入りません) 「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。よって、君の相手は青銅のゴーレム・ワルキューレがお相手するよ」 「ならば、俺はこの青銅人形を倒せば、勝ちなんだな?」 「いや、僕に参ったと言わせるか、僕の杖を奪ったら勝ちだ。ワルキューレは、あくまで僕の攻撃の手段だ」 「そうか」 これはまた、厄介な魔法があったもんだ。勝てる気がしないな。 ――ならば。 俺は決意をし、バッグの中から『スピーダー』を取り出した。 (※スピーダー:素早さを上げるアイテム) ◇◆◇◆◇◆ キュルケは優雅に観戦していた。 「ねえ、タバサ、どっちが勝つと思う?」友人のタバサを無理矢理連れてきて、だ。 「彼がただの平民であれば、ギーシュの勝ちは決まったようなもの」 「そうよね。流石にあれは、相性が悪すぎるわ」 決闘など興味がないといった風で、タバサは本を読み始めた。 まぁ、タバサらしいと言ったらそれまでだけど。 「……は、あくまで僕の攻撃手段だ」 「そうか」 「では、行かせて貰おう!」 決闘が始まった。ギーシュが杖を一振り、錬金でできたワルキューレに力を注ぎ込んだ。ワルキューレが、命を吹き込まれたかのように動 きだし、恐らく、動作に支障が無いかを確認している。 使い魔の青年は、顔を引き攣らせるでもなく、無表情に、だが興味深げにそれを見ていた。 「あら、随分と余裕じゃないの」 キュルケのその声と同時に、青銅の戦乙女が殴りかかった。 殴るが、青年はしゃがんで避け、そこへ蹴るが、海老のように素早く地面を蹴って後退した。 あの使い魔くん、結構できるわ。 偉大な軍人を輩出する、ツェルプストー家として、彼の評価を見改めなければいけない、と思えた。 だが、青年は、避けてばかりで、ワルキューレに攻撃の一つも与えない。尤も、人間の拳ではあれが倒せない事くらい容易に分かる筈だ が、距離も、どんどんギーシュから離れていっている。 「はは、逃げてばかりじゃ、勝てないよ! 使い魔君!」 ギーシュは、逃げてばかりの使い魔に余裕だ、と言わんばかりに笑った。そして、薔薇の造花を一振りし、長い鉄の棒を錬金した。 一瞬の事だった。 使い魔の青年は、青銅人形が鉄の棒を掴む僅かな隙に、人間とは到底思えない速度でその背後に回り込むと、綺麗な回し蹴りを一発、食ら わせた。がこん、という、内部の空洞に音を鈍く響かせ、ワルキューレは前に突っ伏した。 「なっ!」ギーシュも、予想外と言わんばかりに驚愕の表情を浮かべる。 だが、驚くのはここからだった。そこから青年は、立ち上がってくるワルキューレには目もくれず、信じがたい速度でギーシュに走って迫 ったのだ。ぎゅん、と風を斬る音とともに、ギーシュと使い魔くんの距離がみるみるうちに縮まっていく。 もう目と鼻の先まで迫った青年に、やっと正気を取り戻したのか、ギーシュは間一髪、横に転がって躱した。青年の手は虚空を掴み、勢い を殺せずに4メイルほど先まで行ってしまった。 「今の、杖をねらっていた」本を読んでいたタバサも、青銅の音がしてから顔を上げ、観戦していたようだった。信じられないものを見た、 といった顔で、目を大きく見開いている。「それにしても、早すぎる」 ギーシュは、再び後ろから来る使い魔をなんとか躱すと、再び『錬金』と唱えた。 するとギーシュの下の土が盛り上がり、高さ三メイルほどの直方体の岩となり、ギーシュの巨大な踏み台になった。岩の外壁は青銅でコー ティングされているようで、魔法なしでは上れそうにない。 『フライ』と同時には魔法は使えないので、良い判断だ。一度空に飛んでしまったら、地上のワルキューレは動かせないし、降りた時を狙 われてしまうだろう。だが、この方法ならば、相手に攻撃させることなく、ワルキューレを操れる。 ギーシュは額の汗を拭い、青年は顔を顰めた。 「ふぅ。今のは、中々危なかったよ。だが、反撃もここまでかな」 「……」青年は答えない。どこかで、「卑怯だぞ、ギーシュー」という声が聞こえた。 「残念だったね。いや、敵ながら、あっぱれだ」 「……」 ギーシュは杖を一振りし、新たにワルキューレを五体、生み出した。先程倒れたワルキューレも起き出して、これで合計六体となった。 「今度はこちらの番だ!」 あーあ、あの使い魔くんも、ここまでみたいね。 キュルケは些か残念な顔をした。 ◇◆◇◆◇◆ 「……ぐっ……!」ワルキューレの拳が当たった。 ―― 一発、 ―― また一発 ―― 今度は背後から蹴りを入れられた。いつの間に回られたのか、それにすら気付けていない。 六体に増えてからというもの、ちっとも優位に立てない。スピーダーの効果は尽きた。一応、まだバッグには入ってるが、今使ったところ で、一時的に相手の攻撃を避けられるだけだ。 なんとか必死に避けようとしているが、疲れを知らないワルキューレとは違い、こちらの体力は有限だ。一発一発攻撃を食らうに従って素 早さは目に見えて落ちてきて、攻撃を食らう頻度はますます早くなる。 「まだやるのかい?」 ギーシュが杖を一振りして、攻撃を止めた。自分を囲っていたワルキューレが、目の前に整列する。その言葉と態度からは、余裕が滲み出 ている。 「……ああ。貴様に下げる頭など、誰がもっていようか」 その言葉を発した直後、聞き慣れた主人の声が、増えたギャラリーを割って、聞こえてきた。 「ギーシュ、やめなさいよ! 平民相手にみっともないわよ!」人混みをかき分けて、桃色髪の少女が現れた。 「……ん、ルイズか。いやいや、こう見えて、さっきは結構追い詰められたんだよ」 「今はもう、この有様でしょ!」 「いや、僕はもうやめるように言ったんだ。『ごめんなさい』そう言えば許してやる、と言ったのに、君の使い魔くんは頑なにも言わないの でね」言って、ギーシュは造花の薔薇で使い魔を指した。 ルイズが、こちらを見据え、顔を歪めた。 「もう、いいわよ。アンタは十分頑張ったわ。だから、さっさと謝っちゃいなさい」 「……悪いが、それはできない。これは、俺の戦いだ」 「何言ってるのよ! アンタ、このままだと死ぬわよ!」ルイズが声を荒げた。 「俺は死なん」 「貴族は平民を殺すのに、躊躇したりなんてしないわ!」 「大丈夫だ」 「何がよ!」 「とにかく、引っ込んでいてくれ」ルイズがまた何か説教をしているが、無視する。 こうなっては、使いたくはなかったが、奥の手を使うしかない。 恐らく、いらぬ誤解を生む事になってしまうのだろうが、なんか、ここで負けてしまうのは癪に障る。 『スピーダー』で、あれほどの素早さが出せたのだ。キズぐすりで全回復した後、『けむりだま』をギーシュ本体に投げつけ目を眩ませ て、『プラスパワー』『ディフェンダー』『スピーダー』の三つを使い、一気にカタをつけよう。 バッグに手を入れたその時に、ふと、脳裏に、妙な、懐かしい光景が広がった。 迫り来る巨鳥の群れ。その時隣にいた、金髪の青年。綺麗で、巨大な湖と、青々とした臭いの、湿った草むら。湖岸に追い詰められ、目の 前が真っ暗になりかけた時に見つけた、茶色の鞄。その中には――紅白色の三つの球。 あの球の中に入っていたのは何だったか。 「何だ――」 球のボタンを押し、中から出たのは―― 「そうだったな」 俺は平民の使い魔ではない。貴族でも、ましてや魔法使いなんかでもない。 俺は――ポケモントレーナーだ。 「やれ、ワルキューレ!」ギーシュの命令を受けたワルキューレが6体、こちらへ歩んできた。 ゆっくり、わざわざ威圧感だけを表すために行進するそれらに、もう棒になっている足を奮い立たせて向かい合う。 「何で、立つのよ! 何で、戦うのよ!」ルイズが必死に言った。 「やはり、まだやれるみたいだね」ギーシュが目つきを鋭くさせた。 「……」沈黙を以て答える。でも、俺っていつも黙ってたから、答えた事にならないかもしれない。だが、心配する事はない。俺には、コイ ツがいる。 手を腰のボールへ持って行くと、額の文字が激しく光り、情報を読み取った。 あれ、何故か強さがバラバラなんだが。ああ、そうだ。多分、ここに来る前にボックスの整理をしていたせいだろう。 だが、先頭のポケモンだけは変わることなく、そこに、伝説の名前を刻んでいた。 バラおとこのギーシュが あらためて しょうぶをしかけてきた! バラおとこのギーシュは ワルキュレ をくりだした! いけっ! ミュウツー! ――そして、 『やっと出番か』 黒と黄色のラインの入ったハイパーボールから、白い巨人が、現れた。 #navi(虚無と十七属性)