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ゼロのぽややん 5 - (2007/11/05 (月) 13:09:24) のソース
[[back>ゼロのぽややん 4]] / [[top>ゼロのぽややん]] / [[next>ゼロのぽややん 6]] 「おーそーいー!」 ルイズは食堂で、ワイン片手に管を巻いていた。 「なによあいつ、せっかく今度はここの料理を食べさせてあげようと思ったのに、 『あ、僕、ちょっと用事を済ませてくるから先に行ってて』 て、別れてからどんくらい待たせる気よ!」 苛立たしげにフォークをつかむと、手近にあった腸詰に突き立てた。 その腸詰が、ちょっとあれなやつに似ているせいで、男子生徒の何人かが顔をしかめる。 ルイズはそれを、躊躇なく噛み千切った。 「……ッッ!!」 リアルに想像した男子が、股間を押さえてうずくまる。 面白くなさそうに音をたてて咀嚼していると、なにやら後ろが騒がしい。 ルイズは振り向くと、 「あ、いたいた。おーいルイズぅ」 大きな銀のトレイを持って、手を振りながら近づいてくるアオを見て、 「ブッ!?」 噴いた。 「ああ、あんた、なんて格好してるのよ!?」 「え、なんか変かな」 顔を真っ赤にして怒鳴るルイズの前で、アオ、その場でくるりと一回転。 それに合せてふりふりエプロンが揺れる。 似合うを軽々と通り越して、その可憐さに周囲が息を呑むほどだった。 ルイズはその姿に、女としてなんか負けた気がした。 「て、ちがーう!」 その考えを振り払うかのように、ルイズが叫ぶ。 「食堂でそんな大声だしてたら、みんなに迷惑だよ」 「あ・ん・た・ね。誰のせいだと思ってるのよ!」 アオ、首をかしげる。 その姿とあいまって、ルイズは思わずよろけた。 こいつ、わざとやってるんじゃないかしら。 なんとか体を支えながら、埒もないことを考える。 「はい、イライラしている時には甘いものが一番だよ」 アオはそう言って、持っていたトレイからパイを一切れつまみ出すと、ルイズの皿に盛った。 「なによ、これ」 「アップルパイですわ。アオさんが作ったんです。美味しいですよ」 アオが答えるよりも早く、別のテーブルで同じようにパイを配っていたメイドが答えた。 「誰よ、あんた」 何回か見たことある顔だが、名前は知らない。 「失礼しましたミス・ヴァリエール。私、ここでご奉仕させていただいているシエスタと申します」 「なに、シエスタ。これを作ったのがあいつってほんと?」 「はい、アオさんが今朝から準備していたんです」 辺りを見回すと、他のメイドたちが配っているのも同じアップルパイだ。 「まさか、今配られてるデザートって全部」 「はい、アオさんが作りました。すごいんですよ、あのコック長のマルトーさんが、アオさんの腕をべた褒めしてたんですから」 「そ、そうなんだ」 ルイズは冷や汗をかきながら、アップルパイを口に運ぶ。 「! 美味しい……」 ルイズが嬉しそうにアップルパイを食べるところを見て、優しく微笑むアオ。 「材料とかいろいろ都合をつけてもらったお礼に、配膳の手伝いをしているんだ。ほんとは、すぐに君に届けたかったんだけど、ここって広いから。じゃ、僕は、残りを配ってくるよ」 「それでは失礼します」 アオとシエスタは、再びデザートを配り始めた。 アオが通った辺りから、黄色い声が上がる。アオの姿に興奮した女生徒たちが騒ぎ出しているのだ。隠れながら窺うように見て、顔を火照らせた生徒の中に、男もいるのは気のせいだろうか。 ほんと、なんなのあいつ。 今更ながら、ルイズは思った。 さて、それからちょっと時間が経過した後。 「ギーシュさま……その香水は、もしやミス・モンモランシーの」 「ケ、ケティ!?」 気障なメイジことギーシュが、ピンチだった。まあ例によって、二股がばれたのだが。 「よかった」 ギーシュが言い訳するよりも早く、ケティが手を叩いて喜んだ。 「はい?」 「それではミス・モンモランシーとお幸せに。さよならギーシュさま」 唖然とするギーシュを尻目に、ケティは手を振りながら去っていく。彼女が向かう先には、アオのエプロン姿に沸く集団が。 ポンと、ギーシュの肩を、友人の一人が叩く。 「お前、ふられたな」 「はいいいぃぃ?」 しかも、これだけでは終わらない。 「ギィィィシュ!」 地の底から響くような声と共に、ドリルにも負けぬ見事な巻き毛をした女の子が近づいてくる。 「モンモランシー!?」 「やっぱりあんた、あの一年生に、手を出してたのね」 「えと、その、彼女とはもう終わったっていうか」 「二股してたのは事実でしょうが!!」 モンモランシーは、体重の乗った見事な打ち下ろしの右で、ギーシュをテーブルに沈めると、 「ふんっ」 大股で去っていった。 「その、まあ……生きろ」 本来なら「ざまあ見ろ」と言いたいところだが、あまりの痛々しさに友人たちの見る目が優しい。 ギーシュは脳震盪で揺れる頭を振りながら、薔薇を片手に言った。 「ば、薔薇とは孤高のもの。これもまた宿命さ」 ギーシュは脳内で、さながら悲劇の主人公のような自分に酔いしれる。 「ときに、君。 なんて事をしてくれたんだ」 そして始まる責任転換。 餌食になったのは、香水の壜を拾って届けたメイド、シエスタだった。 「なにやってんのよ、あいつ」 ルイズは呆れながら、メイドに八つ当たりするギーシュを見た。 このルイズ、魔法はダメでも、心は貴族。 知らぬ仲(ついさっき名前を知ったばかりだが)でもないことだしと、シエスタに助け舟をだそうと立ち上がったところで、ギーシュに近づくアオの姿を視界に捉えた。 手に持つトレイには、水がなみなみと注がれたジョッキが載せてある。 ちょっと、あいつまさか。 いやな予感がした。 「そこまでだ。少し頭を冷やそうか。その娘は困っている」 アオは後ろから、ジョッキの水をギーシュの頭からかけた。 いやな予感的中。 しんと、辺りが静まりかえる。 なにが起こったかわからずに、きょとんとしていたギーシュだったが、肩を震わせて振り返った。 「決闘だ!」 「うん、いいよ」 あっさり受けるアオ。 うおーッ! と歓声が巻き起こる。 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民の……えとお名前は」 「アオです」 マイク代わりに向けられた杖に、にこやかに答えた。 キャーっ! とさっきとは別種の歓声が巻き起こる。 「あの方、アオさんとおしゃるのね」 「ちょっとギーシュ。その方に下手なことをしたら承知しないわよ」 すっかりアオのシンパと化した女生徒たちの野次に、ギーシュがよろけた。 「こ、この僕が……こんな、こんな事があっていいわけがない……こんな、こんな」 美少年を自負してきたナルシストのギーシュには、かなりのショックだった。 親の敵を見るような目でアオを睨むと、くるりと体を翻す。 「ヴェストリの広場で待っている! さっさと来るんだな!!」 ギーシュは、そう言って友人たちを引き連れて、食堂を出て行った。 その後について行こうとしたアオの袖首を、誰かがつかみ止めた。 シエスタだ。 涙目でアオを引きとめようと訴える。 「だ、だめですアオさん。貴族と決闘だなんて、殺されてしまいます」 「そうだね。殺さないよう気をつけるよ」 二人の会話が微妙にかみ合っていない。 シエスタは、アオの笑顔を見て、自分の聞き間違えだと思うことにした。 「と、とにかく、今ならまだ謝れば、許してくれるかもしれません」 「そのメイドの言う通りよ、謝っちゃいなさいよ」 アオが振り向くと、駆け寄ってきたルイズがいた。 「やあ、ルイズ」 「やあ、じゃないわよ! メイジと平民が決闘だなんて、一体どういうつもりよ。正気とは思えないわ」 「シエスタは困っていたんだ。義を見て立たざるは猫なきなりってね……なにもしなかったら、僕は猫にも劣る事になる」 「……意味がわかんないわよ。とにかく謝りなさい。これは命令よ」 ルイズの瞳を見て、首を横に振るアオ。 「それはできない。僕が謝れば、彼女の非を認めることになる。 理不尽を見て、見ぬフリをする生き方を、もうする気はないんだ」 シエスタはアオの言葉に、両手で口元を抑えて、息を呑んだ。 ため息をつくルイズ。 「……いいわ、この決闘、許可してあげる。怪我して後悔しても知らないからね」 アオは笑った。 「それだけは、しないことを約束するよ」 [[back>ゼロのぽややん 4]] / [[top>ゼロのぽややん]] / [[next>ゼロのぽややん 6]]