韓国で2008年に刊行されたオリジナルミステリー27タイトル全紹介(1)

■■韓国で2008年に刊行された韓国オリジナルミステリ27タイトル全紹介(1)■■
アンソロジー編
2010年4月3日

  • 2009年11月、講談社の「アジア本格リーグ」から韓国の美術ミステリ『美術館の鼠』が刊行されました。
  • それに関連して、韓国ではどのような推理小説が刊行されているのかを調べてみる企画です。
  • 全27タイトルというのは、韓国の推理小説専門誌『季刊ミステリ』2008年冬号によるデータです。
  • 実際に作品を読んではいません。内容についてはネット書店などで情報を得ています(ハングルはまあまあ読めますが、小説を読めるほどではないので…)。

2008年に韓国で刊行された韓国オリジナルミステリ27タイトルのうち、アンソロジーは以下の4つです。

(1)韓国推理作家協会『首陽大君殺人事件 2008今年の推理小説』
한국추리작가협회『수양대군 살인사건 2008 올해의 추리소설』
  http://www.aladdin.co.kr/shop/wproduct.aspx?ISBN=8962030101
(2)『韓国推理スリラー短編選』(第1回ブロガー大賞 国内文学部門5位)
『한국 추리 스릴러 단편선』
  http://www.aladdin.co.kr/shop/wproduct.aspx?ISBN=8960171557
(3)『私の人食いルームメイト 韓国恐怖文学短編選3』
『나의 식인 룸메이트 : 한국 공포 문학 단편선 3』
  http://www.aladdin.co.kr/shop/wproduct.aspx?ISBN=8960171565
(4)『韓国スリラー文学短編選』
『한국스릴러문학 단편선』
  http://www.aladdin.co.kr/shop/wproduct.aspx?isbn=8901083027


(1)『首陽大君殺人事件 2008今年の推理小説』収録作

「首陽大君殺人事件」イ・サンウ(李祥雨、協会常任顧問)
「ヌードモデルは誰が殺したのか」チェ・ジョンチョル(崔鐘澈)
「青い鱗の上で」シン・ジェヒョン(2007年秋新人賞受賞作家)
「デスノート」ソル・イニョ(ソル・インヒョ、2007年冬新人賞受賞作家)
「趣味と職業」キム・ジュドン(2008年春新人賞受賞作家)
「誰が私のラーメンを食べたんだ?」ソン・ソニョン(2008年夏新人賞受賞作家)
「新婚旅行、今回で何度目だ?」カン・ヒョンウォン(現役弁護士、中堅作家)
「彼女のペット」バン・ジェフィ(SF作家)
「毎日死ぬ男」ジョン・ミョンソプ
「낭이전」(ナンイジョン、人名か??)イ・スグァン(李秀光、協会会長)

10作品収録。韓国推理作家協会が毎年刊行している『今年の推理小説』の2008年版。
「首陽大君殺人事件」と「낭이전」は歴史ミステリ。バン・ジェフィはSF作家で、「彼女のペット」はペットボトルをペットにするという奇想作品だとか。なんでSF作家が?という気もするが、日本推理作家協会が毎年出している『ザ・ベストミステリーズ』も、以前は巻末に1年間のSFを振り返る解説が載っていたようで、「文学」に対してミステリやSFなどのジャンル小説が連携するのはどこも同じなんでしょう。「毎日死ぬ男」は、繰り返される無残な死から脱することができない男の苦痛を描いた作品。
季刊ミステリ新人賞受賞作家も4人参加している。「誰が私のラーメンを食べたんだ?」は、2008年春の季刊ミステリ新人賞最終候補作品。選評では、「90年代に日本で生まれた日常の謎ミステリに通じる」作品だと言われており、消えたラーメンを探す1人称話し手の推理過程を見せる作品だという。ソル・イニョ(ソル・インヒョ)の「デスノート」は、最先端の殺人方法を描いた作品だというが、一体…。日本にも『絶望ノート』があるが、韓国でもオマージュだかパロディだか的な作品がすでにあったとは。
収録作家10人のうち、4人は邦訳がある。イ・サンウ(李祥雨)、チェ・ジョンチョル(崔鐘澈)、イ・スグァン(李秀光)は『コリアン・ミステリ』(98年版『今年の推理小説』の邦訳)に短編が載っており、ソル・インヒョは『季刊ミステリ』掲載の短編が『ハヤカワミステリマガジン』に掲載されている。(イ・スグァンはほかにも邦訳あり)

(2)『韓国推理スリラー短編選』収録作

「フーコーの一生」チェ・ヒョッコン(1970年生、2003年『季刊ミステリ』からデビュー、韓国推協会員)
「アリババのアリバイと不可思議なヒトデ」イ・デファン(1980年生、2007年春季刊ミステリ新人賞受賞者)
「暗殺」キム・ユチョル(1971年生、『オシリスの指輪』で第1回(2002年)インターネット文学賞大賞受賞)
「シンクホール」リュ・サム(1979年生)
「こんにちは、わたしの星」ナ・ヒョクジン(1979年生)
「嘘」カン・ジヨン(1978年生)
「火の殺人」ジョン・ミョンソプ(1973年生)
「七番目の停留所」パク・ジヒョク(1978年生)
「피가 땅에서부터 호소하리니」ハン・イ
「オリエントヒット」キム・ジェフィ(『色、写楽』作者)

韓国推理小説100周年(李海朝『双玉笛』から100年)を記念して刊行された新世代作家10人のアンソロジー。2009年には第2巻が刊行されている。
密室ものや日常の謎作品もあるとのこと。コピーライター、新聞社勤務、編集者、漫画編集者、図書館司書などなど、普通に職をもっている兼業作家が多い。やはり、専業作家としていきていくのはなかなか厳しいのでしょう。

(3)『私の人食いルームメイト 韓国恐怖文学短編選3』
(4)『韓国スリラー文学短編選』

この2つは、狭義の推理小説ではなさそう。戦前の広義の「探偵小説」ではあるのかな。
「韓国恐怖文学短編選」は、韓国のホラー作家イ・ジョンホを中心とする韓国マッドクラブの作家たちによるアンソロジー。2009年の第4巻まで刊行されている。第3巻にはイ・ジョンホ「赤い雨」などを収録。イ・ジョンホは日本でも公開された映画「コックリさん」の原作者であり、『コックリさん』は角川ホラー文庫から邦訳が刊行されている。
「韓国スリラー文学短編選」は、2010年に第2巻が刊行されている。


現在までに邦訳されている韓国ミステリの短編アンソロジーとしては、『コリアン・ミステリ 韓国推理小説傑作選』(バベル・プレス、2002年5月)があります。これは韓国推理作家協会編「今年の推理小説」98年版の邦訳です。
ただ、この98年版は、読んでみるとあまり出来がいいとは思えず…。韓国のミステリ作品集が邦訳されていて日本語で読めるということ自体は非常に嬉しいことですし、ほとんど邦訳がない8年前の段階でこのような翻訳本が出ているということはなかなかの偉業だと思いますが、日本で読める韓国ミステリのアンソロジーがこの本だけというのは、結構不幸な状態のような気がします。

韓国推理作家協会のソン・ソニョン氏によれば、上で書いたこの年の韓国推理作家協会のアンソロジー『首陽大君殺人事件』は、新世代作家10人のアンソロジー『韓国推理スリラー短編選』にブログでの言及数などでぼろ負けしたそうで、韓国ミステリ短編集の新たな邦訳が出るのならぜひこの『韓国推理スリラー短編選』をお願いしたいところです。

韓国推理作家協会編のアンソロジーについて言えば、ソン・ソニョン氏は2009年版が今までで最もいいと言っていますから、ぜひ2009年版の翻訳をお願いしたいですね。



最終更新:2010年11月10日 16:07