諦めに近い無の灰

49話 諦めに近い無の灰

島の東の山々を貫くトンネルを潜り抜け、
殺し合いに抗う四人組――――黒竜人少年・白峰守矢、金髪ビキニアーマー少女戦士・レオノーレ
赤髪女子高生・東員祐華、狐獣人男子高生・伊神嘉晴は、民家が点在する田園地帯にやって来た。
トンネルに入る前、入口(西口)付近で人間の少女の死体、
更にトンネル内で人間の中年男性の惨殺死体を発見し、その際に嘉晴が嘔吐してしまった、
と言うトラブル以外は、危険人物と遭遇する事も襲撃される事も無く、比較的安全に田園地帯まで来る事が出来た。

「おぇっ……うぷ」
「大丈夫? 嘉晴君。まだ吐き気治らないの?」
「ごめん、祐華……」

未だ吐き気の治らぬ嘉晴を気遣う祐華。

「無理も無いよ、あんな死体見たら耐性の無い人は戻しちゃうって」
「レオノーレさん、耐性有るの?」
「冒険してると、惨い死に方した死体にも良く出くわすのよ……守矢君」
「ああ、成程……」
「それはさておき、結構歩いたね。一度どこかで休もうか」

レオノーレが提案する。
禁止エリアから退避する為、身を潜めていたB-2の医院を出てから現在まで、
かなりの時間と距離を歩いてきた四人の足には疲労が蓄積していた。
田園地帯に点在している民家のどれかを借りて休息する必要が有るだろうとレオノーレは考えた。
守矢、祐華、嘉晴はレオノーレの提案に同意する。

「それじゃあそこの家はどうかな……」

守矢が一軒の民家を指差す。
納屋と母屋で構成された民家のようだった。

「良さそうね。あそこで良い? 東員さん、伊神君」
「うん、良いわよ」
「大丈夫」

全員の意見が一致し、四人は守矢の指差したその民家に向けて歩き出した。


◆◆◆


「松林」と表札の掲げられた民家を、学ラン姿の少年・油谷眞人は調べていた。
少し休もうと思い何気無く入ったその家には、少し前まで誰かが居た形跡が有ったのだ。

「少なくとも風呂に誰か入っただろこれ……」

風呂場は僅かに熱気が有り、床も濡れている。
脱衣所には使用済みのバスタオルが脱衣篭に入っており、
居間のゴミ箱には基本支給品の食糧品の包装が捨てられていた。
確実に、眞人が来るより少し前まで、この「松林家」を誰か、他の参加者が使用していたようだ。
後少し来るのが遅かったら鉢合わせになっていただろうと眞人は思う。

「何か休む気しねぇな……他の家当たるか」

生々しい先客の痕跡を見てこの家で休む気が失せてしまった眞人は、他の民家に行こうと決める。

「……ん?」

その時、微かに外から人の声と思しき物が聞こえた。
カーテンが閉められたサッシに近付き、カーテンの隙間から外を見る眞人。

「!」

松林家の正門を潜ろうとしている四人組の姿が見えた。
小学校高学年位の金髪黒竜人の少年、やたら露出度の高い格好の金髪の少女、
自分と同世代ぐらいの赤髪の少女と狐獣人の少年。
四人組の方はどうやら自分には気付いていないようだと眞人は思った。

(このままだと間違い無くアイツ等と鉢合わせになるな。
けど、今持ってるデザートイーグルだけで四人全員仕留めるのはちとキツイ……。
裏口から逃げるか……)

現在所持しているデザートイーグル.50AEは強力だが反動も強く隙が大きい。
一人撃ったとしても残りの三人に隙を突かれる可能性は大いに有った。
その可能性を考慮して眞人は四人と直接対決するのは避け裏口から逃げる事にする。

(だが、置き土産位はしておくか)

眞人は居間に置かれていた石油ストーブを点火させる。
芯に火柱が立ったのを確認すると直ぐに台所へ向かう。
そしてガスコンロのツマミを捻り、ガスを流出させ、勝手口から外へ出た。
そして四人に気付かれぬようにして、松林家を離れた。
ストーブが点いた状態で、ガスが漏れ出している。
このままだとどうなるか。容易に予想が付いた。
あの四人組の末路もまた然り。

「じゃあな、名前も知らねぇ四人組さんよ」

不敵な笑みを浮かべながら、眞人は松林家からどんどん離れて行った。


◆◆◆


「私と嘉晴君は母屋を確認してみるわ。レオノーレさんと、守矢君は納屋を見てみて」
「分かった」
「分かりました、気を付けて下さいね二人共」
「お前もな守矢、後レオノーレさんも」
「ありがと……さ、行こうか守矢君」

民家――――松林家は遠目で見た通り、母屋と納屋に分かれている。
二手に別れ、安全である事を確認してから休む事になり、
レオノーレと守矢が納屋、祐華と嘉晴が母屋を見る事になった。

……

……

祐華は短機関銃・H&KMP7、嘉晴は組立式十文字槍を携え、
警戒しつつ松林家母屋へと足を踏み入れる。
ごく一般的な平屋作りの和風の民家である。
玄関の靴箱の上には木彫りの熊の置物が飾られており二人を威圧するかのように口を開けていた。

「ここの家の人には悪いけど、土足で上がっちゃおう」
「ああ……」

靴を履いたまま家に上がる二人。
靴を脱いでいたらいざと言う時直ぐに行動が出来無い為だ。
それに、咎める家主も今はいない。
ゆっくりと奥へ進む祐華と嘉晴。

「ん……?」

嘉晴が妙な臭いを嗅ぎ取る。
それは、ガスの臭いだった。
程無く祐華もその臭いを嗅ぎ取る。

「何か、ガス臭くね?」
「うん、ガス臭いわね……」

異常な程、ガスの臭いが漂っている。
ガス漏れでも起こしているのだろうか。
余りの臭いの強さに眩暈が起きかけ、二人は一旦外に出ようとした。
その時、二人は見付ける。
居間のストーブが点いているのを。
芯から少し炎がはみ出ており、火力は全開まで上がっているようだった。
ガスが漏れている中で、ストーブが点火された状態になっている。
それがもたらす物、それは――――。

「嘉晴君、逃げ――――」
「やば――――」

カッ、と、閃光が二人を包み込み、次の瞬間には、二人の身体は爆風によって吹き飛ばされる。
そしてその意識も消えた。

……

……

納屋の中には農作業関連の物や、使わなくなった物が山積みになっていた。
一目見れば、身を潜め休める空間では無い事が分かる。

「誰も居なそうだね」
「まあ居心地が遥かに良さそうな母屋を差し置いて、
わざわざこんな納屋に隠れる必要は無いだろうし」
「確かに」
「何も無さそうだし、母屋の二人の所に行こ――――」


ドガァァァァアアアアン!!!!


「「!!?」」


耳を劈く凄まじい爆音が響き、納屋が激しく揺れた。
衝撃で倒れ込む二人に天井からの埃が降り掛かる。

「うう……」
「だ、大丈夫? レオノーレさん……!」
「何とか……何が、何が起きたの?」

二人は立ち上がり、納屋の外に出た。
そして二人が見た物は、全壊し、黒煙を上げて炎上する母屋の姿。
母屋の破片が辺り一面に飛散していた。
暫く呆然としていた二人だったが、守矢が我に返り、叫んだ。

「二人は? 東員さんと伊神さんは!?」
「……これじゃあ、とても……」

「二人は生きていない」と言いかけて、レオノーレは言葉を切った。
そこまで言わずとも守矢にも現実は理解出来るだろう。
母屋の惨状は、東員祐華と伊神祐華の生存を絶望視させるには余りに十分過ぎる材料だった。

「そんな……そんな」

ガクリと両膝をつき項垂れ、落胆する守矢。
どうして母屋が爆発したのか、今はそんな事はどうでも良い。
重要なのは、ついさっきまで行動を共にしていた仲間が死んだと言う事であった。
燃え盛る瓦礫の山と化した母屋の前で、レオノーレと守矢は打ちひしがれていた。


【東員祐華  死亡】
【伊神嘉晴  死亡】
【残り20人】


【午前/D-4・E-4境界線付近/松林家】

【白峰守矢】
[状態]健康、落胆、精神的ショック(大)
[装備]サバイバルナイフ
[持物]基本支給品一式、ピアノ線
[思考]1:何で、こんな事に……。
    2:レオノーレさんと行動する。死ぬ気は今の所失せた。
[備考]※樊欽の外見のみ記憶しました。
    ※油谷眞人の存在には気付いていません。

【レオノーレ】
[状態]健康、落胆、精神的ショック(大)
[装備]62式7.62mm機関銃(200/200)
[持物]基本支給品一式、7.62mm×51ベルトリンク(200)
[思考]1:何て事なの……。
    2:守矢君と行動する。
[備考]※樊欽の外見のみ記憶しました。
    ※油谷眞人の存在には気付いていません。


◆◆◆


爆発音が聞こえ、油谷眞人は音のした方向――――松林家の方を見る。
黒い煙が上がっていた。
自分の残してきた「置き土産」が上手く作動してくれたようだと、眞人はほくそ笑んだ。

「あの四人はどうなったかな? 全員死んでくれりゃ良いんだけどな」

二人生き残った事は露知らず。
眞人は南部集落方面へ足を進める。


【午前/D-4・E-4境界線付近】

【油谷眞人】
[状態]健康
[装備]デザートイーグル(6/7)
[持物]基本支給品一式、デザートイーグルの弾倉(1)
[思考]1:生き残るために殺し合いに乗る。
    2:あの四人は死んだかな?
[備考]※D-4・E-4境界線付近の松林家の爆発を確認しました。
    ※四人組(東員祐華、伊神嘉晴、レオノーレ、白峰守矢)の容姿のみ記憶、また、四人は死んだと思っています。



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最終更新:2014年03月03日 21:12