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「あぁー……」

ぽかぽかと漂う春の陽気。

俺は机の上に広げられた春休みの宿題を眺めながら一息つく。
今日の分もあと英語が2ページで終わりといったところだ。おきまりの5教科ワークだがなかなか順調にすすんでいる。

よく長期の休みで宿題を最後まで溜めるやつもいるが、俺はそんなことはしない。
悪友の顔が頭に浮かぶ。
こちにのやつ、最終日になってテキスト丸写しさせろとか言ってきても無駄だからな……
前の夏休みは最悪だった。

夏休みの最終日。俺の部屋におしかけてきたこちには俺に宿題を見せてくれと頼み込んできた。自分はまったくやっていなかったらしい。
宿題未提出の奴には火焼の説教部屋行きだという恐ろしいルールは皆が知っている。
それが嫌だとこちにが騒ぐので、俺は仕方なく宿題一式置いてやったんだ。
あいつはお礼をいうと、その場で5教科ワークもプリントも俺の解いたものを丸写し始めた。これは貸しだぞ、と言って俺はボスを倒そうと携帯ゲームに集中していた。
しかし、奴から目を離したのが間違いだったんだ。

新学期が始まってすぐ、俺とこちには火焼の説教部屋に呼ばれてしまった。
俺とこちに人権作文の内容がそっくりそのまま同じだったらしい。

信じられないことに、こちには俺の見せたやった宿題の中で作文まで俺の物を丸写しにしていたそうだ。
そのおかげで俺とこちにはみっちり火焼に叱られてしまった。
でもどう考えたっておかしい。俺は真面目に自分で宿題をしたんだ。それなのにズルをしたこちにと同じ量だけ怒られたのは意味が分からないし腹が立った。
それ以来、俺はあいつには宿題をみせてやらないと決めた。

「時間がないからって作文まで丸写しとか馬鹿すぎるだろあいつ……」
そんな事思い出してたらだんだん集中力が切れてきたぞ。
俺は勉強机に向かいながら横にある窓を眺めた。気分転換でもしたいな。外ではモンシロチョウがひらひらと待っている。

そんな穏やかな景色を見ていると少しは火焼に怒られた事も忘れられそうだ。
気持ちのよい天気……平和だ、なんか眠たくなってきた。

窓から差し込む暖かい光…ちゅんちゅんとさえずる鳥の声……

そして廊下からどたどた響く騒がしい音と……


ガチャ


「ムッスカーー!!!お花見に行くわよ!!!」



騒々しく部屋に入ってくる母の声!!



「っええええええええええぇぇ!!??」




~春だよわっしょい!お花見に行こうの巻~





「何よムスカ!なんでうちが来ただけで叫ぶのよっ」
振り向くと、俺の似顔絵(80年代少女漫画風)(似てない)が大きくプリントされたピンクのワンピース、頭に咲く桜の造花。もう突っ込む気にもならないいつものスタイル。
腰に手をあててちょっと怒ったような表情を浮かべる俺の母さん。

「…別に、ただの反射条件だし」
何故叫ぶかと言われても、とくに意味はない。母さんがはりきる程に俺に災難が降り掛かるだけで。
「やだわぁムスカってば!今日も暇そうじゃないの!お花見にいきましょうよーぅ!」
俺の肩をつかんでゆさゆさと揺らしてくる母さん。こうやって息子が真面目に宿題をしてるのにおかまいなしだ!
「おいやめろよ!あのなぁ、俺今宿題してんの!英語の!」
母さんの腕をばしっとはらい、単語調を見せつけた。
「ええ〜、宿題なんてあとでいいじゃない!それよりお花見にいきましょうよ!宿題はいつでもできるけどお花見は今しかないのよ♪」
それが親のいう事かよ。母さんを無視して単語をノートに書き写す俺。

「ねぇムスカ!もう出かける準備してあるんだから!いきましょうよ!お花見!」
「えぇー…」
「ね??」
「ぇー……」
「行かないの?」
「…………」
「行きたいでしょう???」
なんか威圧的になってきた。これが母さんの恐ろしいところの一つ…!

「行 く わ よ ね ?」

「え、えっと」



 「 行    
      く                 
         わ            
            よ  ね? 」


「……はぃ」
この笑顔、こわい。
「そういってくれると思ったわ!ムスカ大好きよ♪」
母さんが言わせたんだろう。しかしもうこんな強制は慣れっこだ。日常の慣れっていうのは恐ろしい。
それにしても、花見か…確かに昨日の天気予報では明日には桜は満開になるでしょうとか行ってたっけ。
だが、花見に行くとしてどうしても避けたいことはある。

「それって、姉さんと父さんもくるの?」
これはかなり重要な事だ。中学2年生にもなって母さんと二人でお花見だなんて冗談じゃねぇ。それもこんな母さんと。
「それがね〜!シェリーはもう友達と遊びに行っちゃったしー、お父さんは今日も仕事でしょー?だから…」
やべぇ。二人花見確定だろ。絶対に行きたくない。
しかし今更断るのも難しい気がする。こうなったら公園の人混みに紛れてはぐれたふりをするか、でも俺を探そうと母さんに大声で名前を叫ばれたら身内として恥ずかしいし、あぁもう俺はどうすれば

「ムスカの友達を、沢山さそっておいたわよ♪」

「はっ?」
意外な答えに頭の中の作戦が途切れた。

「だから、もうムスカの友達も誘ってあるから♪皆来てくれるって!」
「いやちょっとまって!?まって!?」
「えー?どうしたの?」
「もう誘ったってどういうこと?俺の許可無しで勝手に俺の友達をさそったの!?しかも沢山!?母さんが連絡したの!?それで俺は最後に誘うの!?」

「ええ、そうね!」
すがすがしく答える母さん。
「どうなってんだよ!なんか違和感あるんだけどそれ!」
「いいじゃない!サプライズパーティみたいでしょ?」
「うっ……なんか違う気がするけど」
勝手に話を進められて頭がついていかなくなってきた。確かに春休み中ということで予定も合わせやすいのかもしれないけど…
「だってぇムスカ、うちと2人でお花見なんてきっとはずかしいと思うでしょう?だから友達もいたほうがいいと思って♪」
一応俺に気を使ったということなんだろうか。その結果、俺の友達とこの母さんでお花見に行こうって話になったと。
まぁそれなら少しは楽しそうだし、本当に誘ってあるのなら今更断ることも出来ない。

「でも母さん、中学生にまぎれて自分も遊びに行くだなんて場違いとか思わねえの?」
もうこれで母さんは引いていてくれていいよ。そしたらきっと友人との楽しく平和な花見になるはず。

「なーにいってんのよ!ムスカ達だけじゃ危ないでしょ!人も多いし酔っぱらいのおじさんにからまれちゃったらどうすんのよ!」
「いや別に大丈夫だって…」
「それに不良がかつあげしてくるかもしれないし屋台のおじさんに生焼けの焼鳥を渡されるかもしれないし目覚めた毛虫が木からムスカの頭に降り注いでくるかもしれないし朽ちた桜の木がミシミシ折れて倒れてくるかもしれないしとにかく危険がいっぱいなのよ!」
「ああもう!だから大丈夫だって!なんだよその変な妄想は!!」

「それにムスカ」
母さんは俺の机の上にある冊子、「春休み鉄の掟」を手に取って、ぱらりとページをめくる。
これは火焼先生が作成し、全校生徒に配ってあるものだ。

「祭り、イベント等人が多い場所での生徒のみの外出は禁止で保護者同権とする」
「げっ」
母さんめ、いつのまにその掟を知っていたんだ…!しかもこれには続きがある!

「発見次第その生徒は宿題2倍とする」
出た。
「…ムスカ、お花見には先生も来ている可能性、大よ…保護者がいなくていいの?」
「お願いします…」








「きゃー!ムスカ見てみて!綺麗よー!」
車に乗って20分後。俺と母さんは町内の公園に来ていた。
そこら中に咲き誇る満開の桜と、ずらりと並んだ屋台に沢山の人。今年もこの時季になると公園は完全にお祭だ。
そして俺は母さんと距離を置きつつ集合場所だという時計台前についたのだが。


「……で、友達ってどこにいるの?」
「えっ?」
俺が睨むとすっとぼけた声を出す母さん。
人はいるが、知り合いの姿は全くない。というか中学生さえ全然いない。

「あらー。おかしいわね〜、集合場所も時間もここって伝えたはずなのよー」
なぜか棒読み気味になる母さん。しかもそわそわしている。どういう事だ。
「……おい……まさか…」
「い、嫌ね〜ムスカったら!誰もきてないはずないじゃないのよホホホ…!皆どうしちゃったのかしらー!!」
まさか。友達をさそったというのは口実だったのか!?
そうして俺はまんまとひっかかってこの派手な母さん(結局着替えていない)と2人で花見をする為にわざわざ来たのか!?
「おいぃぃ!!ぶざけんなよ!なにが『友達を沢山さそったわよ♪』だよ!だれもいねぇじゃねぇか嘘つきやがって!」
「違うわよー!ホントに誘ったのよ!予定を蹴ってでも何があっても絶対に来るって皆言ってくれたんだから!」
「ちょっと!?どんな誘い方したんだよ!脅したんじゃないだろうな!やめてよ俺の友達に!」
「そんなことないわよ〜!」
そういえば、誰がくるのかさえちゃんと聞けてないけどどのくらいの人数がくるんだ。まさかクラス全員?いやこの母の事だ。全校生徒もありえない話ではない!?
仮に母さんが強引に誘いをかけたのが本当なら、メンツと人数によっては俺は学校にいられなくなるかもしれない!!

「やばい、頭がいたくなってきた…」
むしろ母さんのはったりであって欲しい!全校生徒を巻き込む花見とか母さんと二人きりのがまだマシだ!!3年生の超不良とかさすがにこえーよ!!

「…あら、ムスカ。ここって南口じゃないの?」
「えっ?」
俺が頭を抱えていると、とぼけた口調でそんな事を聞いてくる母さん。一体なんだというんだ。
「……ここは北口だけど」

「やっだー!集合場所間違えてたわ☆ごめんねムスカ♪」

「はぁあああああ!?」

集合時間に15分遅れながらも俺と母は急いで南口時計台前へ走るのであった。







「おいムスカ、おっせーぞ!」

本当の集合場所につくと、見慣れた悪友達が待っていた。
少しいらついた表情で腕をくんでいるこちにと、目を閉じて棒立ちのRだ。多分また頭の中でゲームでもしてるんだろう。
「遅刻厳禁っていったくせに自分がおくれてんじゃねぇよ」
「あー!まじで来てたのかよ!わりぃなこちにR……と」

その横には見覚えのある二人の女子の姿が。
「ムスカ君!やっほぉ☆」
「ひ、ひさしぶり……ムスカ君」
「……おう」
福沢瑠璃と華神有姫奈だ。この2人も母さんに呼ばれたのだろうか。
「ごめーん、みんな!うち集合場所間違えちゃってー」
そそくさとやってきた母さんは、手を合わせて俺のクラスメイトたちに詫びている。
「大丈夫ですよ!あたしたちも今来たところなんでっ」
「喋ったりして待ってましたから、気にしないでくださいね」
「あらそう?みんなありがとうー!」
「場所間違えるなんて荒地も結構抜けてるよな」
「おいR、そんな事言ったら失礼だろ」
俺を除いてあははと笑いあうクラスメイト達。

なんだろう。俺だけ何も知らなかったので疎外感を感じてしまう。なんで母さんの方が打ち解けてるんだよ。

「なぁ、母さんが勝手に誘っちゃったみたいだけど…大丈夫だったか?予定とか脅しとか…」
Rとこちにに尋ねる。いつもの悪友とはいえ、無理やり来させてたら悪いからな
「ああ、電話かかってきたのが昨日の夕方だったからな。まぁ俺はだいじょうぶだけど。」
とR。なるほど、集合時間30分前に電話がかかってきたとかいう訳ではないようだ。それを聞いて少し安心した。
まぁこいつは休日も家にいることが多いからどっちにしろ大丈夫そうか。たまにメンテナンスとかあるみたいだけど今日は被ってなかったようだ。
しかし横のこちには少し沈んだ顔をしている。
「俺は……本当は今日エステの予約入れてたんだけど」
「げっ、こちにお前エステとか行くの!?」
男子中学生でエステにいく奴なんて滅多にいないんじゃないか。予約をキャンセルしてきてもらったのは少々悪い気もしたが、まぁ別にその程度ならいいか。
「おいムスカ、俺はなぁ、お前とは美意識がちがうんだよ!この肌のツヤみろよ!」
「あーはいはい。ツヤね…」
まったくこちにの美容オタクっぷりはどうにかならないものか。おまけに超絶ナルシストだし。
「でも荒地さん女子も誘うんだな。まぁその方が俺も嬉しいけど」
「あー…4人じゃ人数少ないとか思ったんじゃねぇの?」
少し離れたところにいる女子達を見ると、母さんと話していた。

「荒地さん、誘って頂いて本当にありがとうございます…!」
「いーのよ瑠璃ちゃん!人数多い方が楽しいやろ?」
「あたしも荒地さんに誘われるなんてびっくりでぷー!」
さっそくきゃいきゃいはしゃぐ女子。知らないところでやけに仲良しになっているようだ。

それにしても私服だとやっぱ印象違うな。華神はヒールにリボンのついたワンピースとふわふわの白アウターでキャバ嬢みたいなギャルみたいなすげえ派手な格好だし、盛った巻髪までなんかキラキラしてる。
対して福沢はわりと落ち着いた服装で、シンプルなブラウスと花柄のスカートに、いかにもピクニックな四角い蓋つきバスケットを持っていた。まぁ隣にいる華神が派手すぎるから多少地味に見えるのも仕方がないが…
「なに見惚れてんだよムスカ」
ハッとなってこちにをみると、にたにたと笑ってやがった。
「何いってんだよ!全然そんなんじゃねぇし」
「ふーん?」
こちにを黙らせていると、福沢がこっちを見て微妙にふてくされていた表情をしたのは気のせいだろうか。





とりあえず遠足レベルの人数じゃなくて良かった。しかし、母さんの行動は予測不能だから油断は出来ない。このあとどんどん人数が増えて大名行列になる可能性だってゼロではないからな。


周りが雑談する中、そんな事を考えながら歩いていると、先頭にいた母さんが笑顔で振り向く。
「そうそう、みんな!ウチお弁当作って来たのよ!桜の下に座ったら食べましょう!」
出た。お花見恒例の弁当タイムだ。
「……母さんの作った弁当なんて嫌な予感しかしないんだけど」
「何よムスカ♪今日は来合い入れてつくったんだから!」
「いや気合いとかいれなくていいからホント…!」

「いーじゃん弁当。俺朝食べてないから腹減ったし」
Rめ。人ごとだと思ってのんきなやつだ。本当はロボのくせにちゃっかり腹空かせやがって。
「でもどこでたべるんですか?人もういっぱいですけど…」
福沢が心配そうに問いかける。確かにこんな昼から来ても、もう良い花見の席はのこってないだろう。
「そ、れ、な、ら〜♪こっちよ!」

母さんに案内された場所は、この公園で一番綺麗な広場だった。桜の木が多く恐らくこの公園での人気NO.1スポットと言える場所だろう。
当然だが既に沢山の人でにぎわっていた。
「いやいや、コレ絶対座れないじゃん…」
「ふふん、ウチを舐めてもらっちゃこまるわよ!」
母さんを先頭に俺たちは、家族づれや宴会をしてるサラリーマン、女子大生達をよそにずんずん進んでいく。
キョロキョロと当たりを見回した後、何かに気づいた様子で大きく手を振った。
「きゃー!!宗ちゃーん!!!」
そう叫びながらぶんぶんと大きな桜の木に手を振りまくる母さん。

その元には冴えない顔をした男性が一人。ブルーシートの上で寝袋に入ったまま、力なく手を振り返している。
俺たちはその男性に近づくと、母さんは寝袋から男性を起こした。
「宗ちゃん!場所取りお疲れさま!お陰で助かったわぁ〜♪」
「……荒っちゃん…やっと来た……」
やっぱりRの親父の宗一さんだ。ずいぶん疲れた顔をしている。
「母さん…ちゃっかり場所取りさせてたのかよ…」
「親父、昨日の夕方から荒地に場所取りさせられてたからな…」
隣にいたRが答える。昨日の夕方というと、たしか母さんが花見の連絡をした直後だろう。寝袋の横で空のコンビニ弁当の入ったビニール袋がそよ風に揺れ、哀愁を漂わせている。
一晩中ここにいた事を考えると、気の毒になってきた。

「すみません…うちの母さんがまた迷惑をかけて」
「いや、いいんだよムスカくん…お花見に場所取りは必須だしさ」
そういって俺に笑顔を向ける宗一さん。
Rの親父さんは物腰も柔らかくていい人オーラ満点なのだが、俺の母さんの言うことを聞きすぎだと思う。元々断れない性格なのか何か弱みでも握られてるのか……
「さぁ、みんな座って座って!!遠慮しないでね!」
母さんはそんな宗一さんをそこまで気にせず、ブルーシートに俺のクラスメイト達を座らせている。まったくのんきなものだ。
場所はというとなかなか広めにとってあり、7人座るのにも十分だった。


最終更新:2015年09月29日 11:01