―――――今回の依頼は、テロリスト集団の殲滅です。このご時世で、くだらない理想や復讐のために犠牲を出すわけにはいきません。トップを含む彼らの勢力を殲滅、息の根を止めてください。
そんな依頼を受け、テロリスト達を撃破してきた僕は、現在テロリスト集団のトップと交戦していた。
そいつの機体はR&Gの第三世代機、地雨の改造機だった。機体やパイロットのことを考えていないかのように取り付けられた大量のブースターが、彼自身の生き方の表しているかのようだった。
地雨がマシンガンを撃ってくる。二丁のマシンガンと1丁のハンドガンを強引に連結した右腕から二条の弾丸が連射される。
僕は左右にHBをして狙いを逸らし、バラついた弾の中を潜り抜ける。
僕の機体はWDCTMの第四世代機レイヴンⅣ・ホーネット。装甲は心もとないが、回避は得意分野だ。
『クソッ...当たれ当たれ当たれぇッ!』
敵パイロットの声が入ってくる。先ほどからこのようなことを繰り返しているので、半ばヤケになっているらしい。
今度はマシンガンと同時に肩に取り付けられたロケットポッド、すねの外側に付いているミサイル、背中の榴弾砲を撃ってきた。
僕はすぐに回避するが、マシンガンと榴弾砲の破片に当たってしまった。
左腕はシールドが間に合ったが、右腕のシールド発生装置が吹き飛ぶ、脚にも被弾し装甲に穴が開いたらしい。
≪右肩部シールド発生装置破損、脚部損傷軽微。≫
脳裏に損傷を知らせるシステムメッセージが流れる。毎度こいつは少し遅い。
『やったか!?』
敵パイロットのそんな声が聞こえる。この程度で殺ったとは随分と気楽なことだ。
爆発後の煙に隠れて敵の後ろに回りこみながら右腕の銃を連射する。
『クッ...!』
声、光。大量のブースターから爆炎を吹き出しながら敵機が急加速する。あんなに光っていては位置が丸見えだ。腕を動かして追撃。
炎が一つ脱落して爆発。ブースターを一つやったらしい。
その爆発で煙が晴れる。敵機は榴弾砲一つ、ミサイルポッド一つを失い、脚部にいくつもの穴が開いていた。
敵機が再びブースターから爆炎を吹き出し急加速。左右に動きながら全武装を乱射してくる。
『死ね!...ッ』
うめき声。やはりあの加速には負荷がかかるのだろうか。
榴弾砲を回避。
敵機の榴弾砲がパージされる。
飛んでくるミサイルに向けて銃を乱射。撃ち落とせなかったものはHB、前進、逆方向にHBで振り切る。
敵機のミサイルポッドがパージされる。
マシンガン、ハンドガンとロケットをHBを繰り返して回避。
敵機の腕から火花が上がり、肩からもげる。やはりあの武装は無茶だったようだ。
敵機の武装は日本刀のような実体ブレードしか残っていない。
敵機のスラスターが黒煙を吹いてから後ろの一基を除きパージされる。燃料切れか。
衝撃。
≪右腕、破損。搭乗者への高い負荷を確認。リミッター発動。≫
じんわりとした痛み。右腕が肩から飛んでいる。どうやら大きくそれていたロケットが上から落ちてきたようだ。運が悪い。舌打ちをする。
レイヴンⅣ標準装備の腰部の追尾エネルギー弾発射機は取り外しているので、武装はブレードしかない。HBの使い過ぎで燃料も心もとない。ここで攻めるべきか。
左肩の残ったシールド発生装置をパージする。
『チッ、まだ生きているのか....!』
敵機のパイロットの悪態が聞こえてくる。あれだけの攻撃をして軽中量機のこの機体が生き残っているのは、確かに意外だろう。
HBで敵機の正面から逸れる。滑りながら方向を変えて前進し、逆方向に移動する。
『貴様に...貴様に何がわかる!』
敵機のパイロットが何かしゃべり始めた。
『偶々だったんだ...だというのに、奴らは私を監禁しようとし、私とその家族、私の企業の社員達のその後の生活に酷い条件をつけようとしてきた。挙句の果てに逃げようとした私を追い、家族を殺し、私の企業を追放した!』
『小さな企業をまとめて大きな企業に対抗するなどというから参加してみたはいいが、結局は奴らも秘密主義の企業共と同じだったというわけだ。』
『どのような経緯であっても、秘密を知った者は消される。問答無用でだ。』
それは当然ではないだろうか。問答無用で消されると言っているが、始めは殺すのではなく監禁で済ませようとしてくれただけ有情だ。逃げようとしたのは敵パイロットだ。
『私と企業の社員たちはすべての企業に復讐を誓った。』
画面に四角いウィンドウが現れ、中年の男が映る。どうやら敵パイロットのようだ。体中に縫い痕があり、右目は潰れている。
『この右目を見ろ!奴らに奪われた!家族も、居場所も!』
『そして社員達も貴様が奪った!企業の犬め、私は貴様を絶対に許さない!!』
僕は答えない。
『...なんだ、何とか言ってみろ!』
返答を求めているらしい。...まぁ、確かに悲劇的な過去だ。返答の一つぐらいはしてやってもいいかもしれない。
通信をつなぐ。
「...だから何?」
『なっ...女、それも子供か?いや、それがどうした。私の邪魔をするものは殺すだけだ!』
女で子供だからといって何だというのか。それも、返答を求めておいてコメントは無しか。
もう少ししゃべってみる。
「君の戦う動機なんてどうでもいい。」
「今関係あるのは、力だけだ。」
『...貴様!』
どうやら怒りを買ったらしい。怒るぐらいなら始めから話しかけなければいいのに。
ウィンドウが消える。
敵機が背中から爆炎を吹き出し、刀を構えて突撃してくる。
≪OVEREDBOOST READY≫
僕はOBを起動。キュオオオオという吸気音が鳴る。
≪3≫
敵機が接近。
≪2≫
敵機がブレードを振る。HBで回避。
≪1≫
そのまま敵機の後ろに回り込む。左腕を構える。
≪GO!≫
回り込んだところでOBが起動。前へと急激に加速。
「っ...」
強いGに息が出る。
敵機の背中が近づく。
敵機の頭部が回る。
振りむこうとしているらしい。
遅い。
背中が目の前に来る。
レーザーブレードを起動。
左腕を振る。
紫色の光が。
敵機の背中を切り裂いた。
HBで横に離脱。敵機を避ける。
OBをカット。滑りながら敵機の方へ振り向く。
敵機は黒煙と火花を上げていた。小さい爆発もいくつか。すぐに爆発するだろう。
『ザザッ...』
通信機が生きているようだ。パイロットも生きているかもしれない。運がいい奴だ。
『ザッ..終わり、か...ザザッ...みんな...付き合わせて悪かった、いや、ありがとう。』
最期の言葉らしい。爆発の頻度が上がる。火花も大きくなる。
『あぁ...ザッ...叶うなら、ザザザッ...ぉまえの、元に...ザッ、ザザザッザザザザザザザーーーー』
通信が途切れる。敵機は大爆発。
煙が晴れる。そこには、
破片と、
頭部と。
花のような、ボロボロのブースターしか残っていなかった。
≪戦闘終了。システム通常モードに移行します≫
脳裏に電子音声
『任務の達成を確認。帰投してください。』
少し遅れて通信。女性の声。依頼主側の人員らしい。
「ふぅ...」
随分と後味の悪い依頼だった。
敵機のパイロット、彼にもなかなか悲劇的な過去があったようだが、エルフやGAIDAと言った人外の脅威があるのだ。
依頼主も言っていた通り、復讐などで犠牲を出すわけにはいかない。
こちらも仕事だ。精々恨まれるとしよう。
...しかし、家族と仲間の敵討ちか。
――ぐっ...終わりか...だが、お前なら...
――恨みはせん。お前は、負けるなよ。
――皆、ザザッどうか、無事で...ザッザザッザザザザザーーー....
「君なら、」
言葉が自然と口から漏れていた。
「今の僕を見て、なんて言うかな...」
負けては、いないけれど。
ヘリのローター音。どうやら迎えらしい。
首の後ろから神経接続用のコードを外す。
一気に疲れがきた。今回はかなり動いたからだろうか。右腕も飛んだし。
まぶたが重くなる。
そのまま僕は眠りについた。