『...!...っ!...悪い...け...い...な!』
声が聞こえる。
『あーあー、えっとぉ!お疲れのところ悪いんだけど、起きてくれないかな!』
眼が覚める。ここは?コックピットの中。
モニターからの景色を確認する。WDCTMのヘリポートだ。
どうやら依頼を終えた後眠ったままここまで運ばれてきたらしい。ちゃんと届けてくれて良かった。
「あー、おはよう?」
『おそようございまぁっす!申し訳ないけど、降りてくれないかな?いつまでもヘリポートに機体を置いておくのもまずいからね。』
それもそうだ。僕はシートベルトを外し、コックピットを開くスイッチを押す。
コックピット部が後退し、上部が開く。眩しくて目を細めて、立ち上がろうとして引っかかる。
ハーネスを外すのを忘れていた。外してから立ち上がり、背伸びをする。
「ぅーーんっ。」
だいぶ頭がすっきりした。縄梯子を取り出して下ろし、そこを降りていく。地上付近で男性が手を貸してくれたのでそこから飛び降りる。
「っ...と。お帰り。結構やられたようだねぇ。」
白衣を着た中年の男性。彼はレイヴンの開発チームの一人で、ナンバー2とも言える存在だ。WDCTMからの支援の対価の一つとして機体の実戦テストも請け負っている僕には馴染みの顔だ。
「うん。右腕なんて根元から飛んじゃって...修理費結構かかるんじゃないの?」
「まぁ...かかることはかかるけど、これはこれで良いデータが取れるから問題ないさ。そんなことより俺は、君をここまで追い込むような相手がなんだったのか気になるなぁ。...と、歩きながら話そうか。」
僕はうなずき、二人で本社施設に向けて歩き出す。
「で、今回はどんなだった訳?」
「あぁ、今回の依頼はテロリスト集団の殲滅でね、ここまで損傷を負ったのはそのトップとの戦闘だよ。」
「ふむふむ。そのトップはどんなんだったわけ?」
「機体?」
「うん。」
「地雨の改造機だったよ。武器やらブースターやら大量にくっつけて、相当無茶な改造だったねあれは。」
「...それで動いてたの?」
「そう。マシンガン2丁にハンドガン1つくっつけた腕なんか、最終的にはもげてたけど普通に撃ってきてたしね。マシンガン2丁だけなら普通にいけてたんじゃない?」
「へぇー...これは負けてられんな。」
「何が?」
「機体だよ。レイヴンⅣの次の機体は信頼性を高めた機体にする予定らしい。」
「あー、聞いたことあるよ。たしか...ミリタリィ?」
「TDM/FA-8 ミリタリィだな。今はTDM/YFA-8Aって試作まで出来てるらしい。」
「それそれ。普通の機体なら吹っ飛ぶぐらいにリミッター外しても持つように作るんだっけ?あいっかわらずやることが極端だよねぇ、WDCTMは。」
「それがウチのいい所だからねぇ。」
話しているうちに本社施設の前に着き、僕たちは中に入った。
いつも話し合いに使っている部屋に移動する。机が一つとソファーが二つあるだけのシンプルな構造だ。
僕と彼はソファーに向かい合って座る。相談の時のいつもの様子だ。
「さて...今回話すこととしては、レイヴンⅣ・ホーネットの性能と、次にテストしてもらう機体についてだ。」
「いつもの奴だね。」
「そういうことだ。特に変わりはない。」
<ナニ!?イカン、ソイツニハテヲダスナ!
<シュウゴゴゴゴゴゴゴー、ドッカアアアアアアン!
<アー、セッカクノシサクキガー!!
時々聞こえてくる声や兵器試験場の轟音にももう慣れたものだ。二人とも気にせずに話を続ける。
「ホーネットの性能はだね、まぁ特に大きな問題はないと思う。」
「ふむふむ。」
彼は手元の端末に何かを打ち込んでいる。メモだろうか。
「ただ、肩のシールド発生装置はちょっと取れやすいかな。今回もげたことからして、腕部の接続部も弱いかもしれない。それから、OBの...溜めは仕方ないとして、光と音がかなり大きい。レイヴンのコンセプトには少し反しているんじゃないかな?」
「ふむ、前二つの改良は難しくなさそうだな。OBについては...レイヴンⅣのものが第一号だからなぁ。次のものでは改良されてるだろう。」
「了解。ホーネットについては以上だね。」
「ふむ。では次にテストしてもらう機体についてだが...ホーネットと同じレイヴンⅣのバリエーションの一機、軽量型のレイヴンⅣ・リッパーだ。」
そう言って、彼は手元のものとは別の端末を渡してくる。いつもデータの受け渡しに使っているものだ。
それを受け取って画面を見てみると、逆脚の細い手足をしたレイヴンⅣとスペックが映っていた。腕は武器腕に見える。
「武装は腕部の武器腕ショットガンと足、特殊なアクションとしては前HBと蹴り技。蹴りについては君の操縦形式だとあまり関係ないな。OBと追尾エネルギー弾発射機については同じだ。腕、脚、HB用ブースターと組み換えた機体ってことだな。」
「ふむ...蹴りが使える機体ねぇ。武器もショットガンだし、相当な近距離で戦闘する機体なのかな?」
「その通り。OBと前HBで接近して蹴りとショットガンをぶち込みつつ張り付き続けるタイプだな。」
「なるほど...当たるとマズそうだねぇ。」
「あぁ、脚は頑丈にしてるからともかく、腕は確実に吹っ飛ぶな。」
「ピーキーだねぇ...」
「君なら使えるだろう?」
「...まぁ、できないことはないよ。相手にもよるけど。」
「それは良かった。詳しいことはその端末の中身と、明日までには君のレイヴンⅣをリッパーにしておくから、実際に乗ってみて確かめてくれ。今回の話はこれで終わりだ。」
「了解。じゃあ帰るよ。」
「あいよー」
立ち上がって部屋を出る。そのまま施設を出て、ヘリポートへ向かう。
僕の機体は回収されたのかそこにはない。代わりに一機の輸送ヘリが停まっていた。いつも移動に使われているものだ。
ヘリのパイロットが顔を出して手招きをする。
僕は小走りでヘリへと向かった。
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開示されている情報
主人公...一人称は僕。女性。外見年齢は15歳前後。操縦方式は神経接続。傭兵。支援企業はWDCTM。乗機はレイヴンⅣ。
主人公のレイヴンⅣ...標準装備の腰部追尾エネルギー弾発射機が取り外されていることと操縦方式が神経接続になっていること以外は通常のものと同じ。
彼(レイヴン開発チームのナンバー2)...WDCTM所員の一人。主人公の応対役でもある。