なんらかの理由でボツになり、使われなかった設定・物語です
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没1-仮想世界 |
ある日、偽りの空を見た。
ある日、偽りの海を見た。
ある日、偽りの大地を見た。
それらは触れることができそうなのに手が届かず、本物のように存在するのに触れることは叶わない。……偽りでなくとも、それらは本当に手が届かないものだったのだろう。
ある日、偽りの戦いが起きた。
美しかった全てをただ無慈悲に汚すそれは「防術機」と呼ばれた。防術機とは即ち兵器、命を奪える鉄の巨人である。
今日も戦いが始まった、暗いシェルターの中で一人、膝を抱えた私は──
──ログアウトのボタンを押した。
《ゲームの中断を確認しました》
「は──ッ」
視界に入るのはさきほどのシェルターとあまり変わらない暗さの壁、月光に照らされた数々の家具はホコリをかぶっているのがよく分かる。
薄い月明かりでぼやけた部屋の輪郭は、「部屋が眠っている」という詩的な表現が最も似合っていた。
「ゲーム、ねぇ」
偽りの空、偽りの海、偽りの大地。
全て先ほどのゲーム内での話であったが、私はその景色を今後忘れることはないだろう。例えそれが上手くプログラミングされた虚像だったとしても、私にとっては本物なのだ
「仕方ないよね」
だって──
「この世界には外が無いんだから」
私は窓を開いた。
輝いているのは月、それ以外には何もない。せめて草の一本でも生えた地面がそこにあれば「なにかがある」と認識できたのかもしれない。
私の世界にはそれすらなかった、どこを見ても暗黒が広がるばかり。ゲームの中で出会うプレイヤーはこれを「虚数空間」と呼んだ、私にはそんな難しい単語は理解できないが
「……もう一回遊ぼっと」
昔、空があった。
昔、海があった。
昔、大地があった。
それは偽りではない、穢され、もはや人々に必要とされなくなった汚いものだ
昔、大きな戦いが起きた。
汚れた全てを無に帰すそれは「防術機」と呼ばれた。防術機とは即ち兵器、世界をリセットした鉄の巨人である。
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最終更新:2017年05月06日 00:47