「俺について言うならば、奴は俺を『思考する災害』だなんて形容してくれた、それは別に構わないんだが。
問題はその奴が俺からの反論を受け付けずにどっかに行っちまったことなんだよな。
『逝っちまった』のなら楽なんだが…奴の事だしどっかのメモリの中に入ってでも生き延びるんだろうな、俺の知ってる奴はそんな感じだが。
まるで自らが起こす行動が全て自らの保身であるかのような…『生きる』事に貪欲であったんだ。
まあ人間誰でも本能で生きようと思ってるし、そもそも死のうだなんて考えるのは、どっか歯車が狂っちまった奴ぐらいだろうけど。
それを除いたとしても、奴は生きることに執着し死ぬことには終着しようとしなさすぎだ。
ありゃあ生き物というよりは…もはや具象なんじゃないか?
話を元に戻そう、えーっと…そうそう、■■■は俺を■■■した奴の事と、俺自身の事を聞きたかったんだったな。
奴はまー今言った通りの研究者なんだが…これでどっかで死んでたらびっくりびっくりたまげるなー。
…最後に見たのは死にかけてた姿だったし案外死んでてもおかしくないかな?
んで俺なんだけど、『思考する災害』…そんな大それた物なんかじゃ決してない。
ましてや化け物ですらない。

俺はただ明示された事をこなす…人間だよ 」




 「進め進めぇ!!」

 男達の唸り声が人気も生気もない荒野に響き渡る。
 ここに在るのは彼らと、その彼らが駆る防術機だけだった。
 その彼らは今現在、殺戮という殺戮、強奪という強奪、破壊という破壊をこなしてきた所であった。
 罪の無い人間。それは彼らにとっては慈悲を与えるものではなく、単なる『面白い』要素にすぎなかった。

 「今回襲った街は上々だったな!なんたってどっかの企業の基地もあったから弾薬やらが滅茶苦茶美味しかったぜ!」

 「あぁ…全くだ!
それに逃げ惑う人間!シェルターを先に見つけて入り口を封鎖しておいたから逃げ場所、安置がなくて驚き叫び嘆き悲しみ狂うあの悲鳴!
たまらねぇなアレは!」

 「俺はそんなのよりも無謀にも向かってきたあの企業の防術機…あれが滑稽でならないぜ。
必死にこちらへ撃ち続けてるのに弾が全く当たらない…終いには恐怖で壊れてたなありゃ」

 彼らは非人道的、非道な事をしてきたばかりだ。
 彼らが襲った安全圏であった場所は、既に壊滅状態である。その安全圏を守る筈だった防術機は全滅、生き残った僅かな防術機を今捜索中であった…。
 生き残りは逃げていたのだが、それは自分が生き残る為ではなく、増援及び連絡を行う為だった。通常の連絡手段は、彼らが全て使用不可能にした…ジャマーによって、無力化されたのだ。

 彼らを、人は『違反SEITA』と呼ぶ。

 元々は単なる一企業の社員であった彼らは、ある日禁じられた研究…彼ら曰く『楽しそうな遊び』に手を出し、企業は解体させられた。
 だが彼らは死ぬことなく、生き延びた。
 生き延び、惨殺を悲劇を悲惨な現実をもたらした。



 「へーへー、これが違反SEITA様か、おっかねー。
ひーふーみー…中身がいるのは三機だけか?
残りの二機は…AI機か。
どれも正規の防術機じゃねえな…何か積んでるし、武装もおかしいわあれ…。

だけど、全員『資格なし』っと。

でもやらないといけないんだろー?
めんどくさー…居候だし依頼はこなすけどさー…」





 「…あぁ?お前ら見えるか?」

 彼らのうちの一人が声を上げる。
 彼からすると不思議なことが起きていた。
 本来、起こらないはずのことが起きていた。

 「見えるな」 「同じく」

 二人がほぼ同時に返答する。
 それを聞くと、最初の疑問の声を上げた奴が笑いだした。
 笑いたくなるのも仕方がない。

 「まさか本当に俺らに向かって一機、向かってきてるとはな!」

 「なあに…残党か気狂いか、さっさと殺してしまおう」

 「まてまて、俺はまだ遊びたりねぇ…俺にやらせろ、無人機は下がらせておけ」

 その好戦的な一人を、向ってきている防術機がいる方角の先頭に移動させた。

 「さぁて…おもちゃはおもちゃらしく俺を楽しませてくれよ?」

 『嫌ですー』

 突然、彼らの通信に回線が割り込んできた。
 その声は加工されているようで、男女判別の付かない独特の声になっていた。

 「てめぇ…俺らに向かってきてる阿呆か?」

 『ぶっぶー、違うぜお馬鹿さん!!
向かってるのは間違いじゃねえが、俺は断じて阿呆ではない!
俺の生まれを聞いたらびっくりするぜぇ…』

 「生まれなんてどうでもいいんだよ!それにどんな生まれだろうが俺らに向かう時点で阿呆なのは変わりない。
失敗作なんじゃねえのか?」

 『ぴんぽーん、失敗作です』

 その返答と同時に、彼の視界に『それ』は現れた。
 どこの防術機ともとれぬフォルム…その機体は流線型の装甲をいたる所につけており、頭部は太古の『サムライ』が装備していたと言われるカブトの様な形状をしていた。
 脚部はあろうことか足ではなく、巨大なスラスターを二基づつ装備したゲテモノだった。

 「………?あの機体は…」

 後方にいた仲間が疑問の声を出す。
 それもそのはず、この機体はどこにも存在しないはずの機体なのだから。事情を知っているのなら、在ることを疑問に思うのは必然だ。

 だが彼は悲運な事に機体自体のことは知らなかった。

 『さあ始めようぜぇ!狂って踊るのを見るのが好きならてめえが踊れ!』

 そう、似非サムライが言うと右手に装備していたライフル…電磁砲を乱射してきた。
 だが違反SEITAの…リロードは、なんでもないようにそれを避けた。
 彼らのリロードはリロードではあるのだが、武装は魔改造され、更にとある異物を内部に積んでいた。それは『Orbit file』、簡単に表すのなら未来予知装置だ。
 予測ではなく、予知。それは一文字違いで全く違うものである。
 予測は単に予想でしかなく、だが予知は必然。
 未来がわかるのだ。
 そして彼の機体の操縦は、その予測したシステムが行うのである。
 操縦者は、傍観者となる。

 「ぬるいぬるい!まだまだぬるいぜ!」

 彼のリロードが装備している機関銃が火を吹く。
 爆音が響き渡る。
 しかし、それを似非サムライは無視するかのように突っ込んできた。

 「阿呆か…」

 『いや?』

 弾が謎の防術機を覆い尽くす。
 土煙が舞い、機体は隠れていく。

 だが、彼のリロードに積まれた『Orbit file』は、予測弾道を…煙の中から示していた。

 「何!?」

 その危険から逃れる様にジャンプしたが、更なる危険を画面が表していた。
 それは徐々に画面を赤く赤く埋めていく。
 煙の中から防術機が飛び出してきた。
 左腕に装備した巨大なヒートソードを真っ赤に染めながら。
 その動きは速く、傍観者となっていた彼は一瞬しか捉えられなかった。
 否、捉えられたことは幸運だったろう。
 彼の人生はそこで終わりを告げることは変わりないのだが。

 真紅の剣がリロードを真っ二つに切り分けた。
 まるで豆腐でも切り分けるかの様に、いとも容易く簡単に。

 なぜこうも簡単に彼がやられたのか、それは至極単純である。リロードが地上よりも機動性の劣る空中に出てしまった、それが原因である。
 自動操縦で空中に出てしまったのにも原因があった。
 それは単に前後左右の動きではかわしきれない、だがジャンプすればかわしきれる弾幕を似非サムライは作ったのだった。
 必然的にシステムは空中に向かうことを選択し、次の危険を予知したが回避は不可能であった、それだけのことだ。

 だがそんなことができたのは相手が単騎だったからであり、多数であればこうはいかない。

 「うああああ!野郎ふざけやがってえ!」

 待機していた無人機を含めた五機が、一斉に謎の防術機に襲いかかる。
 各々が装備している機関銃、バズーカ、レーザーが弾幕を形成する。
 それを似非サムライは空中に飛び上がり回避する。
 前後左右、さらに上下を含めた回避行動によって、ほとんどの弾は当たることなく宙へ消えていった。

 「ちょこまかと…!!」

 「おとなしく死にやがれ!」

 『あーあー…こりゃ危ないな!
じゃあ行ってこい!』

 敵がそう言った途端、各機とも危険を察知した。
 だがその表示された危険はどれもありえないはずの方角からだった。
 目の前に似非サムライがいるはずなのに、背後からの射撃。
 同じく目の前にいるのに、右からの斬撃。

 サムライの右腕が、左腕が、そして背部に積んだ武装がパージされた。

 「一体何を…!」

 一人がそう叫んだ時、パージされた装備は『宙に留まっていた』。
 地面に落ちることを拒否していた。

 よく見ると、その腕やらから粒子のような何かが噴き出しているのが彼らにも分かったかもしれないが、彼らには捉えることができなかった。
 そして、その浮遊したパーツは急に飛び、攻撃を開始した。

 「はあああ!?」

 「何だこんなの…知らんぞ!俺は!」

 右腕のレールガン、左腕のソード、背部に積んでいたガトリングが二つ、同じく背部にあった盾が二つ。
 彼らの付近を自由自在に飛び回り様々な攻撃を加えてくる。

 「さっきの弾幕に突っ込んだ時無傷だったのは、あの盾を使いやがったか…!」

 だがシステムはそれすらも予知し、適切な回避を行う。必要最小限の動きで、最高の選択肢を選んでいく。
 流石はスーサイドif、と言ったところか。

 だがこの状態、本体は丸腰であり攻撃のチャンスでもあるのだ。それを理解している無人機の一機が攻撃の合間を縫ってブレードで斬りかかる。
 だがそのブレードは斬りかかる途中で弾かれてしまった。すぐさま盾が飛んできて、ブレードから本体を守ったのだった。
 盾はブレードを受けた衝撃で壊れたが、それは喜ぶことはできなかった。

 『はい残念、無人機さん』

 本体に攻撃をするということは、空中に出ざるを得ないということ。
 攻撃に失敗し、回避を行おうとリロードは動いていたが、機体性能が要求に応えられない。
 凄まじいシステムだが、マシンスペックが足りていないのだ。

 一瞬でサムライは詰め寄り、ゲテモノの脚部に無理矢理取り付けられたような鉤爪でリロードを蹴り上げ、切り裂いた…否、蹴り、握り潰した。

 『はいあと三機ー、もっと頑張れよ』

 「馬鹿にしやがってぇ!!」

 『馬鹿にするさ、急に力を手に入れてそれが自分のものであるかのように思い込んだ資格なし、なんだもの。
殺す価値もないけど…依頼が依頼なんでね、殺さないといけないんだ』

 しかし彼らは黙ってやられるような機体ではない。
スーサイドifがスーサイドifたる所以があるのだ。

 オールレンジ攻撃の回避を続けながら、的確に射撃を行い、そして先ほどと同じように残った無人機は本体に襲いかかり盾を更に消費、既に守る盾のない本体や武装に攻撃を当てていく。
 形勢は次第に違反SEITAへと傾いていた。

 『んー…残り二機なんだけどなー、割とキツイな』

 そう言うと、どういうわけか彼は飛ばしていた武装を本体に戻し、右腕と左腕に覆う形で装備していたレールガンとブレードをパージした。
 同時に足の鉤爪もパージしていた。

 「あぁ?何のつもりだ?」

 『いやー参ったマイッタまいっちんぐ、降参だよ、この機体をあげるから逃がしてくんないかな』

 「…どうする?」

 いきなりふざけた事を言いだした、と一方は思っていたが、もう一方の違反SEITAのメンバーはそうは思っていなかった。
 これ以上戦って、果たして二人残って帰ることはできるのか…無理に倒さず、機体をもらう方が良いと彼は判断した。
 そして、逃がす気は一切なかった。
 サムライ頭の防術機から降ろした所で撃ち抜く気マンマンであった。

 「あぁ…いいぜ」

 『んじゃーそっち向かうよ、大丈夫、武装使うと分かったら撃ち抜いていいからさ』

 そう言って彼は二機の内の了承した方へ近づいていった。


 その距離が十分に縮まった所で、急にサムライ乗りは笑いだした。

 「…何がおかしい」

 『いいや、おかしいさ!こんな申し出受ける事もだが、『私』の頭についてこれてないシステムが!!』

 そう、叫んだ時にはディスプレイに赤く警告のウィンドウが表示されていた。
 即座にシステムが射撃を行うが、サムライは攻撃を受けつつ最適な角度で弾丸を跳弾させた。
 それは最適も最適、おかしいとしか言いようのない。
 跳弾させた弾丸は、的確にリロードの右腕関節に命中し、機能を停止させるに至らせた。

 そして、右手がリロードのコックピットを掴む。

 『じゃあな、資格なしの雑魚さんよ』

 右手にしこまれていたパイルバンカーが、コックピット部を深々と貫いた。
 中の人間はたまったもんじゃない…死んでいるのだが。

 『こういう時はこの頭をくれた奴に感謝するけどよー…普段使いには全く使えねーんだよな、これ』

 「てめえ!!騙し討など」

 『卑怯だってか?どの口が言うんだよお前。
卑怯に自分の腕も使わず暴れるような奴だろうがよ。
今までしてきたことを考えても…まあどうせ俺から防術機を受け取ったあと大方俺は逃さず殺してただろうしな?
非人道的な奴には非人道的であれ、俺の知り合いがよく言ってたよ。
…命乞いとかしないの?』

 「何馬鹿な事を…!?」

 彼がそう口に出した瞬間、画面は赤で埋め尽くされた。
 全方位からの攻撃。
 逃げ場は、無い。

 いつの間に背中のガトリング、そして腕でパージした物を回収していたのか。
 彼には予想できなかった。
 システムは予知していたが。




 『まー分かってても逃れられないのってあるじゃん?予測可能回避不可能ってさ。
あれってぶっちゃけ大体のことに当てはまるよねーって…もう死んでるか』




「ねぇ■■■、依頼こなしてきたけどどうよ?
どれぐらいこれ収入あるの?
…銀の稼働コストでマイナスとかねーよな?
あ、流石に沢山出るのね…良かった。
それはそうと戦ってて思ったけどよ、アレ私より強いよ。絶対。
俺が神経接続の防術機に乗るのならまだわからないけど…あのシステムが載ってる機体が俺の機体と同じだったら確実に俺は殺されてた。
スーサイドifってのはおっそろしーねー…。
……そんなことよりタバコを吸うのをやめろ?
嫌ですー!俺は疲れたからスパスパ吸って休憩したいのー!
あっこら返しやがれ■■■!
女の子にタバコは合わないだ?知るか!返せ!」

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最終更新:2017年06月27日 23:43