+ | プロローグ 瞬く眼 |
プロローグ 瞬く眼
光もなく、流れも少ない。 静かな深海。
さらにその奥 地下深くに巨大な施設があった。 声を忍び、息を潜めるように存在するその施設は世界中から沢山の人々を受け入れた。 その目的は再び地上に楽園を築くために。 より良い、より効果的な方法で再活動するために。
ただ、今はひたすらに、その方法を考えるための研究施設であった。
その施設の名は「名蟻技術研究機関」 通称「NAGI(ナギ)」または「名技研」と呼ばれていた。
その中の、無機質な乳白色の色の壁に囲まれた部屋の中。
あらゆる書類と、様々な小型機械パーツ。それらが無造作に山積にされている部屋の片隅に、彼と彼が眠るベッドがあった。 そして今彼はアラームによって目を覚ました。
「うぁぁーー~~っっ...ほわぁ」
頭はツルツルのスキンヘッド しかしよく見ると毛の名残と思われる金髪がうっすらと表面を覆っていた。
よたよたと廊下へ通じる扉へむかい、来客が鳴らしているチャイムのアラーム音をOFF設定にした。
「うるせぇぞ!!寝起きで叫ばせるな!」
そんなむちゃくちゃを扉横に備えられたマイクに向かって叫ぶ。
「博士!!今まで寝ていたんですか?! 早く来てください。皆待っていますよ!」
と、外からスピーカーを通じて来る声を彼は意識の外へ飛ばしていた。
「今日は何日だっけ」
イカンイカン。 最近ぼぉっとする時が増えた。 いや、前からか・・・。
過去の自分自身と比べてすこし落ち着く彼はここの研究者であった。
彼はふと、手元の携帯式通信装置に目をやる。
うわ、また通知がたまってる・・・めんどくせぇ。
こんど気が向いたら全部読もう。 今日はええと、14日か。 あぁ~来い月末! 休みよ!
と、無言で通信機をポチポチと操作しながら出勤時間をかなりオーバーしていることに気がついた。
「あぁ、それでこの通知量とアイツか・・・ ああああ!寝ててぇ・・・。」
義務と監視に縛られた彼は届かぬ願いを自室で叫ぶ。
叫べど現状はかわらない。 彼は支度を始める。
支度を整え、扉を開けると彼の研究助手の一人であるクラウチが眉間にしわを寄せて立っていた。
「アンツ博士、おはようございます。 よく眠れたみたいですね」
文面は普通だが確実に怒っている事を伝える語気であった。
「あ、あぁ もちろんよ」
助手の静かなる剣幕に圧倒される彼の名はアンツ ”ナイム・サ・アンツ” ここ名技研では博士と呼ばれていた。
手綱を持つかのように手首をガッシリと助手に掴まれながら研究室へと向かった。
知識
名技研基地は世界各地にあり、レベル区分がされている。
レベル1~2 主に移民を受け入れと教育と一般戦闘員の訓練などを主な活動とする。
レベル3~4 主に研究を主とする。 このレベルに入るには資格が必要。 レベル5 最終レベル。殆どの情報は外に伝わっていない。 ただ、存在のみが知られている程度である。 外部との連絡も制限されており内部からの人員が外部へ出てくることは稀である。
彼、アンツが所属しているのはそのレベル5にあたる。
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+ | 第1話 新型防術機 |
第1話 新型防術機
知識
防術機とは、現在地上に散布されているジャマーの環境に耐え、過酷な地形でも稼働する戦闘ロボットの事である。 また、その使用可能技術の制限もされており、強力な兵器とは言いがたい。 技術規制をするのは”アイギス”と呼ばれる巨大組織。違反者やその組織と技術を、過去の強力な兵器群を使用し取り締まる。 アイギスが認証した範囲内で、名技研などの組織、企業、私兵団は防術機を作る。 「地上に存在する過去の戦争で廃墟となった、都市群や兵器廠、戦場跡などに集中する”技術的遺物”を掘り出し、 失われた知識を取り戻す事。その活動を妨害する存在を排除する事。」 それが名技研の目的の一つとしてある。 その為に外地で活動するのに用いられる最適解が防術機という事である。
つまり外で快適に発掘するには技術規制兵器、防術機に乗り込まなければならない。
なお、ジャマーは高高度には影響を及ぼさないため、航空機による移動は可能である。
現在名技研は過去に4種の防術機を生み出し、調査戦場へ送り出した。
|地底暦■■■年 三月八日 正午|外地調査機開発部室内休憩所兼集会所|
ここの部屋は普段机が置かれており、読書、飲食ができる巨大な休憩所として使用されている。 今回は重要報告があるために机をどかさせてある。アンツが巨大な休憩所に助手達を全員呼び集めたのであった。
かなりの人数が入るこの部屋とはいえ、助手の数もかなりの数が居たため、部屋はかなり混雑していた。 そこに一段上がった台の上に立ったアンツが大量の助手達に向かって言った。
「諸君!えー 静かにしたまえ、私がしゃべるんだ。」
台に立ってもおしゃべりが止まらない助手たちに向かってマイクを使って注目を集めさせる。
「うるさいぞ!こら、そこ! 自販機で今飲み物を買うんじゃない!!」
部屋の端のほうの助手も目ざとく指摘するアンツ。 場内にはアンツのでかい声が響き渡った。
爆音で全員が静になる。
「よし、 もう皆が知っていると思うが、上から新型防術機の製作に取り掛かれとのお達しがあった。
今回も私が設計してもいいのだが、上からのお達し内容をよくよく聞くとだな」
と、背後のスクリーンに詳細な内容が映し出される。
「いろいろごちゃごちゃと書いてくれたもんだが、要約するとアイギス様が立てた戦略とやらで、今期防術機のスペックをさらに引き下げねばならないらしい。
目立ちたくない我が名技研は、おとなしくそれにビクビクとしながら従うそうだ あぁかったるいもんだな」
アンツの私情がまざる。
「そこでだ その新型防術機の開発を第一研究助手に任せ、私はその補佐に回ることにした。 おい! 上がって来い!クラウチ!!」
クラウチ研究助手が指名され、台の上に登る。
「えっ 博士・・それ今聞いたんですが。」
小声でおろおろするクラウチ。 クラウチは本当にこの事を知らなかったのだ。
「あぁ それもそうだ 今日来た知らせに、今日私が決めたんだ。 嫌なら辞退しても一向に構わん」
アンツが小声を打ち破るようにマイクで話す。
そして返事を皆に聞かせるために自分が持つマイクをクラウチに向ける。
「は、はい! わかりました! わたくしクラウチ、精一杯がんばります!」
クラウチは大人数に見られるという緊張感から大声を出しながらも受諾した。
「よろしい!! わからん事は私に聞き給え!! 皆もわかった事だろう! クラウチの指示に従うように!! 以上!解散!!
そこの君も自販機で飲み物を買ってもよいぞ!!」
とてもあっさりとした内容だったが、アンツの演説は終わった。
ざわざわと助手たちは徐々に解散していく。残された台の上のクラウチとアンツ。 満足した様子でアンツは台を降り、自室に引きこもろうと足を向ける。 その肩をがっちりと掴み動きを止めるクラウチ。
「博士・・・ さっきは緊張して言えませんでしたが、 あなたは休みが欲しくて私に任せたのでは無いですか?」
「え?え。。え? そんなことないさ我が助手よ 決して、決して、けっっして私の私利私欲のためにお前に任せたわけではないぞ? うん。」
明らかに焦りを見せるアンツにジト目で応戦するクラウチ。 お前のことは分かっているんだぞ。と言わんばかりに。
「わ、わかったわかった! たしかに休みたい気持ちは片隅にちょこっとあった! だが実際私に休みは殆ど無い! 別件があるんだ。 しかも言えない。
それに私はお前を信用しているし、お前は十分私から知識と技術は学んだだろうし、聞かれれば私はさらに教えられる。 安心しろ そこまで自分の身が可愛いわけではない」
「そうですか・・・ 信用しますよ? 博士。」
ここまで聞いてからすこし安心したクラウチ。アンツの肩をわし掴みにしていた手を放す。
クラウチが疑うのは無理もない。実際アンツにはサボりぐせがあり、そして”上”も野放しほどではないがある程度の自由を認めていた。 つまり注意をするものがクラウチ達、助手達しか居なかったのであった。
「あぁ。 そうしてくれ。 今日は早いが、お前も休め。つまり帰っても大丈夫だ。リラックスしている時にこそ、アイディアが自ら浮かんでくるものだぞ。」
「わかりました。 それではまた、博士。 あ、あとちゃんと通知が来たら読んでくださいね 色々訪ねたいことが出てくると思いますので。」
「あぁ。もちろんだ なるべく確認するよ」
彼らの今日の仕事はこれで終わった。
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+ | 第2話 蔵内の思考 |
第2話 蔵内の思考
|同年 同日 夜|クラウチ自室|
「さぁって・・ どうしよっかな。」
椅子に腰掛けながらノートとペンを持ち、様々な資料をそばに置いた。 休め、と言われて実際に休めるほど気楽な気分にはなれなかったのである。
様々なアイディアが頭を駆け巡る。 なにしろ補佐は幾度と無くしてきたが、自らが考えるのは初めてであった。 例え原案のみであっても、責任は重大であり、 それこそ前線で働く者の命を左右するとまで言える。
「前線に何が必要・・なにが 今足りないんだ? 何を求める なにがあれば足りる 何が在れば・・・他にはない ロボット。ロボット・・・風呂」
だめだ、頭がパンクしそうだ 一旦お風呂に入ろう。
湯船に浸かりながらリラックスする。 徐々に呼吸は落ち着いていった。
手で防術機のイメージを表してみる。 こうしていると子供の遊びみたいだな、とクラウチは少し笑う。
「僕のマシン。 いいマシン。」
すこし反響する浴室で独り言を言う。
参考にするのは過去、アンツ博士が担当した通称”Nシリーズ”と呼ばれる四種の防術機達であった。 N1からN4まで、様々な姿形をしているが、基本スタイルはN1から来ていた。
「そんなシリーズに、僕のマシンがなれるかなぁ・・・」
憂鬱になりながらも、やはり希望も湧いてくる。
シリーズとなればクラウチの名前は大々的に広がり、出世も間違いない。 しかも自分のマシンによって人々が救えればなおヨシ だ。
「やっぱり人を助けたいな・・・ 事前に敵を避けられたり、崩落危険箇所なんかを調べられたりさ。 安全圏と安全圏を渡る移民もさがせれば・・・」
そこで、一つの案が出てくる。
「偵察機 偵察機か! なるほどそれならNシリーズとは被らないし、N2の地上探査では補えなかった空撮もできる! よし よし!それでまずは行ってみよう!」
風呂から上がり、ノートに様々なな機体構成を書き出してゆく。
「名技研防術機は代々多脚がメインだ 多脚と飛行 両立できないか・・・」
色々な案を出してみる。 しかしそこでまた詰まってしまう。
「だめだ! 多脚の重量増加と飛行がなかなか両立しない・・・ しかも空気抵抗もおおいし、武装取り付けイメージも湧いてこない。」
時間は刻々と進んでゆく。 しばらくするとクラウチはうとうとし始め、机に頭を激突させてしまう。
「ぐあっ はっ! ・・・ふふ、ふふふ・・・」
ノートに向かって一人で笑う。 こんなに悩んで寝落ちしてしまうのも馬鹿らしいなと思ったのであった。
「寝るか。」
そう声を出し、ノートと机に別れを告げる。 目指す先はベッドだ。 この時クラウチの中ではアンツの”リラックスしている時にこそアイディアは浮かんでくるものだ。”
という言葉が響いていた。 ベッドの上で日記に今日起きたことを簡単に書記してから明かりを消し、睡魔に身を任せた。 |
+ | 第3話 巨大資料室 |
第3話 巨大資料室
知識
名技研は秘密主義の方針をとっており、研究に関わることから規模まで外部には決して明かさないのである。 内部の機関員に対しても秘密主義は徹底されており、機関員階級によって情報が閲覧可能か否かが決まる。 ただし例外はある。他企業などから技術を暴力的諜報的な活動以外で入手する場合、技術交換という名目で外部に公表することである。
”チップ”について
個人個人を管理、監視する為に体内の各部分に管理チップが埋め込まれている。 しかしその数、大きさ、埋め込み位置、形状さえもごく一部の人間にしか 知る権限が無い。そのほとんどは睡眠薬と麻酔薬等で意識外の時に埋め込まれるか、[■■情報規制■■]によって普段意識せずにチップを形成させる方法もある。 その為、一般機関員の認識としては「ただの個人証明チップ」又は「健康状態を見る為のチップ」などという簡単な認識のみである。 実際の機能の殆どを公表していない。
以下チップの機能一覧
1 健康状態の管理。名技研の重要機密などを扱う機関員にはさらに精密な、脳波脳内物質の量まで調べられるチップが使用される。
つまり考えていることが大まかに管理部に送られてしまうのである。詳細なデーターを調べる場合は直接チップを取り出し、解析しなければならない。
2 位置情報。一般機関員には規制された一部の研究室や機密保管庫、エネルギー発電などの重要インフラ設備に近寄ると管理部へ自動的に報告される。
また個人単位で位置情報調べることも可能である。 レベル5基地では全員のリアルタイム位置情報が管理部に監視されている。
3 感覚コントロール。 五感のONOFFや、四肢などの関節への電気信号の遮断などが可能である。
重要情報を外部に流出させる可能である機関員の視覚や四肢への電気信号を遮断することにより、 対象者をその場に即時とどまらせることが可能。 つまり名技研機関員達の身体の自由は制限できる。 特級管理者のみが使用可能。 また一部コントロール機能は下級管理者にも限定でその機能を預けられる。 例としては囚人や危険人物などが挙げられる。
4 身体の一部爆破。 極稀に審査をくぐり抜けていた身体強化者用の機能。 身体の関節などの部位を選択して爆破が可能。 最高管理者のみが実行可能。
5 [■■情報規制■■] |I |*********** ***** ***** ********* ************** ** *********
|同年 三月九日 午前九時二分頃| 資料室 |
基地レベル”5” その資料室には名技研の知りうる様々な情報が収められている。そのカタチもさらに様々で、紙媒体から電子データ、
よほど大事だったのか石に掘られた物もある。そしてマシンの資料として可動する実物も展示されている。まさに博物館のような様相であった。 名技研レベル5資料室という事は最重要機密が一部とは言え、収められている。それ故に室内は広く、そして階級ごとに入れる部屋が異なる。 階級が上がるほど情報がより多く閲覧できるのである。
そんな資料室にアンツ博士からの勧めもあり、自身の持ち情報の少なさもあるためにクラウチは訪れていた。
「資料集めということでこんなにゆったり探せるんだな・・・。」
追いかけまわっていた立場だったクラウチは開発主任になるという事で予想外のゆとりが生まれていた。
アイデアを求め、展示可動マシンを歩きながら眺めるクラウチ。 そしてパソコンが並ぶ部屋へと足を向けた。 空いているパソコンを探し、椅子に座る。パソコンに自分のIDを、スキャナに手首をかざし、体内に埋め込まれたチップを読み込ませる。 パソコンがクラウチを認識する。ロックが解除され、様々な情報が映し出される。 最近のニュース、他の基地からの情報、事件。 様々な事柄がトップページに表示される。 クラウチは検索枠に様々な言葉を打ち込んでみる。 検索AIが自動的に様々な記事を選び出す。 「航空機一覧」「偵察の極意」「ロボット技術の形」「安全圏外でまたもや名技機関員襲撃」「技術流出未遂事件」・・・・ 役に立ちそうで、多々なさそうなものから様々である。 そんな中、クラウチの目に止まった記事があった。 「名技研、SEITA社の一部社員受け入れる。」
SEITA社・・・三十年前ほどまで防術機業界のトップと言っても過言ではなかった企業だ。最終的には違反技術をつくろうとしてアイギスに解体された元大企業・・・。
調べると現在はレベル4基地に収容されているそうだ。 SEITAと言うと、二足歩行ロボットをイメージする。 …新型防術機は二足偵察機でもいいな。 デザインしやすそうだ。 アンツ博士にこんど二足ロボットについて聞いてみよう。 いいノウハウが聞けるはずだ。
クラウチはいくつかの情報を調べあげ、脳内に叩き込んだ。
気がつけばもう昼時だ。なにか食べにいこう。 あ、そうだ。アンツ博士も誘って色々訪ねてみよう。
そして、クラウチはPCの電源を切り、博物館のような資料室を後にした。
…何食べようかな~。
アンツに連絡を入れつつ、どこに行こうかと迷うクラウチ。
そこにアンツから意外な返信が帰ってきた。
《なぁ、飛行機を作るんだろ? ならまず乗ってみないか》
!? 飛行機乗る?! この海底で? 頭おかしくなってしまったんじゃないだろうかこの人は・・・。
いやいや本当かもしれない。博士は特級研究員の位を持つ。色々なことが許されるのだろう。 ここはこの話に乗るしか無い。
そこでアンツに返信を送った。
《ぜひ、乗ってみたいです》
《わかった。 ただし飯を食う前がいいな 今から第二八港に集合だ。》
《わかりました。今から向かいます》
この後クラウチは簡単に引き受けたことを後悔するのであった。
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+ | 第4話 外にいこう! |
第4話 外にいこう!
|同年 三月九日 午後一二時三九分頃| 第二八港へ続く廊下 |
二八港かぁ 行ったこと無いなぁ。
と、てくてくと二八港まで歩いて行くクラウチ。
港門番にアンツから届いた通行許可証をみせ、中に入る。 港まではなぜか廊下が長く続いている。「隔壁用の空間なのかな」などと思っているクラウチ。クラウチが本当の理由を知るすべは今はまだない。
知識
名技研の唯一とされる出入口の港。そのセキュリティは名技研内でもかなり高く、様々な対策が施されている。 しかし他の情報同様に一般機関員には知らされていない。 以下港までの通路の機能一覧
である。
廊下の先に、また門番さんがいる。 先ほどの通行許可証を改めて見せる。
何重もの分厚い扉が静かに開く。精密に組み上げられていることが伺える。 そこに作業服を着た男の人が駆け寄ってきた。
「なぁ、あんたがクラウチか?」
なんだこいつは敬語もナシに言ってきたな。 どことなくアンツ博士を彷彿とさせる。
「はい そうですが。」
そっけなく返すクラウチ
「アンツ博士があんたを二番倉庫にこいって言ってるぞ。 俺はその迎えだ。」
なんと、アンツ博士が迎えを寄越してくれたようだ。早速その作業服の人について行くことにする。
普通、港内は忙しい。せわしなく動き回る人、物、荷降ろし用の重機など。 が、ここの二八港は普段使われていない港。港内は大変静かだった。
その港内の横にある格納庫へ案内された。重圧な貨物扉の横に、人用出入口が見える。 案内の男が扉をあけ、クラウチを中へと誘導する。
「さぁ、どうぞどうぞ」
…ここだけ丁寧なのか。
「どうも。」
そこで目にしたのは、名技研という地下基地とは思えないシロモノだった。
航空機。 そう、しかもレベル5に、だ。いや、初めて見る。もちろん資料ならたくさん読んだ。 知識も知っているがやはり実機となると驚きもひとしおだ。 航空機が二機、整備を受けていた。騒音が鳴り響く中で沢山の作業着を着た人達が見える。
「さっ 博士はあそこだ。 奥の機体のところだ。」
案内の男が指をさして示した。 確かにツルツル頭が一人居ることが見えた。
「んじゃ、俺はここまでで。」
手を振りながら去ってゆく男。 すばやく作業へと戻っていってしまったために、声もかけられなかった。
クラウチは周りの光景に見とれながらもアンツへと向かう。
近づいてわかったが、アンツは誰かと話をしているみたいだ。 背の小さい、・・・女の子? 近づくとアンツがクラウチに気がついた。
「よぉ! よく来たな。」
「まるでどこぞのドージョーに来たみたいなセリフですね」
「ん?道場?」
「いえ、なんでもないです。ところで、そちらの方は?」
「ん、おおぉ そうだったな。 紹介しよう!! 我が名技研の超!エースパイロットでもあり、ここのアイドルでもある、クリューガー一等航空員だ!」
アンツは後ろに居た少女を手をひらひらさせながら、茶化しながら紹介した。
身長は約135センチメートルほど、髪は灰色に近い濃い銀髪、肌は白っぽく、しかし血色は悪くない。目はこれまた灰色という、なんとも色の薄い少女が、ごてごての分厚い航空服を来て、顔を赤らめながら出てきた。
「っちょっと!アイドルってなんだよ!!博士もう!! …おほん、私はユハナ・クリューガー一等航空機関員である。以後よろしく。」
すこし恥ずかしがりながらも、ただ、すこし偉そうに言う彼女は、なんとその見た目で一等航空員であった。 エースパイロットというのは間違いないようだ。
「クラウチ・イリノ二等研究員です。こちらこそよろしくお願いします。」
「ユハナちゃんはな、そりゃあもう操縦技術が上手くてな、そりゃもう、かわいいらしいだろう。」
「えぇ、そうですね。」
たしかにクラウチも、ユハナの外見と感情反応は可愛らしいという印象をうけていた。
「んもう!!話がずれてるって二人とも!! 今日はあんたをのせて、空に行くんだよ。博士、こいつは空飛んだ経験あるの?訓練とかは?」
「んないっ! 一切ない だがゲロしないように食べてきてないぞちゃんと。」
「へぇ。 確かに後ろで吐かれても困るからね。まあ空腹過ぎてもつらいだろうからこれくらいなら食べていいよ。」
ユハナはクラウチにパックされたゼリー状栄養食品を手渡した。
「あ、ありがとうございます。」
手にしたW.R食品印のゼリー飲料を飲むクラウチ。彼はやはりお腹が空いていたようだった。
「さて、と。ではちょいと準備運動をしてから行くか。」
「行く、というのはどこに行くんですか?」
どこか大きい訓練場かな
「はぁ?飛行機は成層圏より下、地面より上を飛ぶんだ。今から行くのは名技研の外だ。」
「ぅうえええ!?!! 名技研の、そ、外ですか?!えぇ本当に? 僕騙されてないですか?」
「騙されてなんかないよ 本当に空を飛びに行くよ。」
「安全ですよね!?」
「心配しすぎだ。問題ない。さ、この二機を積み込んで、お前を積み込めば終わりだ。行くぞ。」
クラウチは不安と期待と戸惑いをかき混ぜながら格納庫から港へ出る。
潜水艦が二隻ある。それぞれ一隻ずつ飛行機を積むためである。 名技研潜水艦は最小の大きさを求めるからだ。 潜水艦の形状は涙型で、色は濃い紺色。8本のヒレ状の推進器が艦首から艦尾にかけて取り付けられていた。 艦首上半分が大きく開いている。そこから飛行機体を積み込んでいた。
「じゃーまたあとでな~。」
「バラバラに乗るんですね。」
「ああ 片方が死んでも片方が生き残れるようにな! なんてな ハハハハ!」
「もう!こっちは緊張しているんですから茶化さないでくださいよ!」
「ハハハハハ」
「置いてくよー」
クラウチとクリューガーの二人は手前の潜水艦に、アンツは奥の潜水艦にそれぞれ乗り込んだ。
これは飛行機にのるメンバーで分かれていた。 |
戦闘関連
創作・設定
その他