第一話 おはようございます 今日も元気に げんきってなんでしょう




参照。データベース21e。

「よく聞きなさい、小鳥。
「そしてしっから覚えておきなさい。
「あなたは賢いから、分かるわね?
「よし、よし、良い子良い子。

「これからあなたは一人で生きていかないといけないわ。
私たちはあなたの飢餓実験だとかはしてない…いえ、する前にこの時が来てしまったから分からないのだけど。あなたがどれぐらい空腹に耐えられるのか、そして餓死するのか。それは分からないわ。
「だけど私たちが観察してあなたが人並みの空腹を感じることは知っている、つまりものが食べられなかったら苦しむということは分かってる。
「だから一人で、生きて、食べ物も自分で手に入れないといけないわ。
「とはいえ、あなたにはオトモダチがいるから厳密には一人じゃないのかもしれないけど。でもあの子達にはあなたと同じことはできない。
「自分でやらないといけない…その時は必ず来る。





 目が覚めました。
 おはようございます。
 何かおかしな夢を見ていた気がします。
 夢を見ていたというよりは幻覚を見ていたといいますか。
 懐かしい物だった気もしますが忘れちゃいました。
 差し込む光の角度から察するにとっくに起きる時間としては遅い時間帯のようだけど。

「ん、と」

 寝っ転がっていた手術台から起き上がります。
 こびりついた血がなかなかアクセントとしてエグミがあります。とはいえ洗うのは面倒くさいのでそのまんまです。
 昔は誰かが洗ってくれていたのでしょうけど、今はそのようなこともなく放置されています。いえ、私が寝台として利用したので放置ではないのでしょうが。
 ベッドに戻るのが面倒で最近は適当な場所で寝ているのですが、なかなか面白いです。起きた時の景色が違いますからね。
 ちなみに現在私がいるのは外です。
 外に放置されていた手術台で寝ました。
 一体何があってこんなところに手術台があるのでしょうか。
 周りを見た感じ手術台があった部屋が崩壊して屋根も壁もなくなっただけのようにも見えます。
 昔の私なら分かるのでしょうが今の私は昔を覚えていないのでわかりません。

 目が覚めたということは何かしらの活動をしなければなりません。
 いえ、別に寝っ転がったままでもいいのですが流石に暇です。
 それに私のお友達も起こしに行かないといけませんから。起こさなかったら一生起きないのでは、と思うくらいお友達は寝続けます。
 もしかしたらそれが正しい有り様なのかもしれません。

 「起きてください。エイ。ビイ。」

 私の寝台もとい手術台のある部屋の隣の部屋に向けてそう言いました。
 かすかに物音が聞こえました。

 「起きてください。これ以上の問答は私からは行いたくありません」

 ぎぎ、という音と共に隣の部屋への扉が開きました。
 それと同時に部屋からお友達が二人共出てきました。

 「起きるの、遅い」

 そう私は伝えましたがお友達は答えません。
 答えずに私の方へふよふよ近づいてきます。
 お友達は二人共私とは違う見た目をしています。
 そのせいか声を出せないので答えられないのだと思います。
 でもぶっちゃけ答えるということを学んでいるのかどうかも怪しいです。
 それでもお友達なのです。

 お友達のエイが私に腕を伸ばしてそのまま私を掴みました。
 そして私を自分の体の上に載せました。
 いつも起きた後はエイかビイの上に載って私の住んでいる家を探索します。
 既に数え切れないくらいおんなじ所を回ったように思いますがやることが無いのでだらだら引きずっています。

 最初の頃は…何をしていたのでしょうか。
 霞がかかっていてわかりません。
 いつか私は…いえ。

 そうです、倒れていた人達を除けていたのです。
 生憎私には人を治す力はありません。
 それに死んだ人を治すことはできません。
 それができたら人間はいずれ滅亡するでしょう。
 死んだ人が治ったら人は増えるのではないかって?
 増え過ぎも困りものなのです。
 とはいえ今は減りすぎ…なのかもしれません。

 しかし私のこの情報は探索で見つけた資料のもの。
 果たして『今』は『今』なのでしょうか?
 わかりません。



 玄関のあたりに来たところでエイが止まりました。
 珍しい。
 珍しいのです。
 今までの探索で止まったことはありません。
 止まった原因を探す為に私はエイから飛び降ります。

 原因はわかりました。
 足跡がありました。
 いえ、正確に言うなら最近ついたであろう足跡です。
 埃が無い場所が足跡を残していました。
 それも人の。
 人です。ヒト。

 私はエイに乗っているので埃がつくような足跡を作ることは寝台近くではありません。

 思考中。

 うーん?

 エイとビイに身振り手振りで待つように指示します。もしかしたら危険が迫っているのかもしれません。
 安寧の廃墟ライフ終了の危機です。

 足跡を忍び足でついていきます。
 草履を履いているのでわりと静かです。
 忍び足とは言いますけどなかなか早く移動しています。

 しばらくすると埃が舞い上がっている地点に着きました。
 近くにいるのでしょうか。



 「動くな」


 背後を取られてしまいました。
 首元に真っ黒の刃物がつきつけられています。
 私は別に兵士じゃないので動きが甘くてバレてしまったのでしょうけど、しかし相手さんも何かのプロなのでしょう。
 戦闘が出来るエイとビイを置いてきたことを後悔しています。

 なんで私一人で来たんでしたっけ?
 忘れました。

 「どうして人間がここにいる。ここは立入禁止区域だぞ」

 背後の誰かが私に問を行います。

 「ずっと前からいました」

 正直に答えます。

 「ずっと前からいました…だと?それは具体的に…いや、この研究所が正常に稼働していた頃からか?」

 どうやら相手は同様しています。

 「記憶が不鮮明なので確証はありませんが、そのように思います」

 「あー…マジかよ…」

 そう言ったと思うと相手は私をぺたぺた触ってきました。
 変態というものでしょうか?
 多分ボディチェックかと思います。
 そうであってください。
 しかし私を触る手はどこか小さい様な…

 すると相手は私に刃物を突きつけたまま私の前へ姿を表しました。
 その姿はなんと女性でした
 薄汚れたローブを纏っています。
 腰には大きな銃を下げていました。
 びっくりです。吃驚たまげました。
 私よりちょっと大きいぐらいです。

 冷静に考えたら声で分析できたのでは?と思いましたが。
 なにぶん自分以外の声を聞くのは久しぶりなので…。
 女性は私の顔をじっと見つめて、こう言いました。

 「……その眼帯も外すぞ」

 「ダメですよ」

 お断りです。
 しかし私のお断りにも耳を貸さずに女性は右目の眼帯を外してしまいました。
 別に何か封印してるわけでもないのですが…。

 しかし女性は眼帯の外された私を見るなりすぐさまバックステップし、私へ銃を突き付けてきました。
 酷いです。だから断ったのに。

 「……その、その目はなんだ」

 「失敗作です。と誰かは仰っていました」

 失敗作なのです。私は。

 右目がその象徴。
 赤く染まった目はたくさんに分裂しています。
 一つの目の中にたくさんのお目目が入っているのです。
 私にとってはこれが普通なのですが。

 「……あぁ、そうか。んー……」

 すると女性はスタスタと私になんてことのないように近づいてきました。
 メンタル凄いです。

 「……名前は?お前の名前」

 名前を聞かれました。

 「砂深月です。砂深月小鳥といいます」

 正直に答えますのですです。

 「へー…そうか。おねーさんはクロックさんと呼びな」

 急に馴れ馴れしくなってきたと思ったら名乗ってきました。
 何か私の目で気持ちでも変わったのでしょうか…。

 「でよ、砂深月。お前はここから出て外で生きてもらわないといけない。わかるか?」

 全くわかりません。急に何を言い始めるのですかこのおねーさんは。

 「あー…わかりやすく言うとだな?俺に依頼が来たんだよ…ここの爆破の依頼が。だから出て欲しいんだ。いや、出ないといけない」

 何急に人の住処爆破の話をし始めるんですかこのおねーさんは。

 「んー…俺はまさか生きてる奴がここにいるだなんて思ってもなかったんだよ…まさか住んでるとも…な。
知ってたら受けなかったんだが…」

 「じゃあクロックさんが依頼を失敗したと言えばいいのでは?」

 「俺の信用を失わせるつもりか…ったく…。
それに俺が降りても次の依頼を受けた奴がここを爆破しないとは限らねぇ。最悪防術機の武装でお前に気がつくこともなくドーンだ。
いや…最悪なのは気がつかれても殺されるってことかもしれんが…」

 これは私は大ピンチなのでは。

 …つまり…。

 「だからお前は外で生きてもらわないといけないってことだよ!」

 嫌です。
 と言ってもどうにもならないんですかねぇ………。

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最終更新:2017年08月12日 02:10