依頼説明を終え、20代程の男が椅子から立ち上がる。
「ふむ…」
考え込むような仕草を見せるが、実際には彼の心は、依頼を受けるという方向でほぼ決まっていた。
――あいつとも相談してみるか…
まぁ、どうせあいつの事だ。マスターにお任せします。としか言わないだろう。
そんなことを考えながら、男は部屋を出てガレージへと向かった。
ガレージの中へ入り、彼はそこにある防術機を見上げる。
ほとんどのパーツを付け替えたばかりで、愛機と呼ぶにはまだ早い機体がそこにあった。
リロード壱型の胴体にブラスタの胴体の下半分を着けたような胴体に、五月雨の腕部、頭部、腰、脚部。
背部にはリロード壱型と同じものを見つけてきて取り付け直した2対のスラスターが、
右腕には平凡な防術機用アサルトライフル、左腕には作業機乗り時代からの愛用品のチェーンソーが保持されていた。
彼は脚立に登りこの防術機のコックピットに入り込むと、キーを挿してスイッチを入れる。
キィィィインという甲高い音と共に動力炉が始動。少して防術機が完全に起動した後、コックピット内の小型の画面にAS-OSの文字列が現れ、無機質な女性の声が鳴った。
『おはようございます、マスター。』
「あぁ、おはよう。」
作業機時代のDDD-OSからAS-OSへとアップグレードされて間もないAS-OSである。
機体そのものも、胴体とチェーンソー以外元のパーツは残っていない。パーツ購入費と彼女にかかった費用で、彼の懐は寒かった。
機体やOSをアップグレードしたのは、傭兵を始める為だ。作業用に転用されたリロード壱型で工事などに勤しんでいた彼だったが、より稼ぐために傭兵を始めたのだ。
「なぁ、リリィ」
『はい』
リリィとはこのAS-OSのパーソナルネームだ。ありふれた名前だが、あまり凝り過ぎても気楽に呼べないので、彼はこの名前を気に入っている。彼女は...名前の良し悪しはまだわからないだろう。
「こんな依頼を受けようと思ってるんだが...お前はどう思う?初任務だからな。お前にも相談しておきたい。」
言いながら、彼は機体にメモリースティックを差し込む。
『データをロード...完了。マスターにお任せします。』
そう言うと思った。彼は笑いながら呟く。
「あー、何だ、成功確率とか出せないのか?」
『演算開始...完了。今回の任務が予定通りに進んだ場合、任務が成功する確率は高いでしょう。』
あまりにも無機質な台詞に、彼は少し反応に困る。彼女と彼の会話はいつもそうだった。しかし今回は初の任務。相棒とぎこちないやり取りをしていては失敗してしまう。最悪死んでしまうかもしれない。
彼は何とか会話を続けようと試みる。
「成功の方が高いのか。ちなみに理由は?」
『敵対戦力は第二世代機のみであることに対し、こちらには第三世代の存在も確認されています。数的にも同等であれば、最終的にはこちらが勝利することが可能だと推測されます。』
「ふむ、俺たちの戦力は?」
『実戦データが存在しないため正確な予測は不可能。機体自体は平凡な性能であり、前述の理由の妨げになることはないでしょう。』
やはり無機質だ。ここは多少大げさでも褒めておくものだろうに。初任務で下手に褒めるのも良くないのだろうが、もう少し可愛げがあった方が良かったな。彼はそう感じた。
これからに期待するしかないか.......そう頭の中で呟く。
そういえば、とあることを思い出した彼はまた口を開く。
「この機体、まだ名前がないだろ?考えておいた方がいいんじゃないか?」
『コールサインがあれば十分だと思われます。』
彼は大きなため息をついた。
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捕捉
彼の防術機のもととなった作業機...武装やスラスターを取り外し、第三世代のようにコックピットを拡張したリロード壱型
リリィ...百合の事。百合全般の花言葉は、「純粋」「無垢」「威厳」