橋梁都市アイアントラス

アルメリア王国フェルゼン公国の陸側の国境に位置する街。
両国の境は『大断崖(グレイテスト・クリフ)』と呼ばれる巨大峡谷によって物理的に分断されており、
これを通行するために架けられた橋と、その上に築かれた街がアイアントラスである。

名前の通りトラス構造によって荷重を支える鉄の橋であり、地面の代わりに鋼鉄製の床板が敷き詰められている。
土とはまるで異なる踏み応えと鉄板の「たわみ」は、他の街にはないアイアントラス特有の感覚。
慣れない者は陸地に居るのに船酔いのような症状に襲われるという。

王国から公国へ向かう唯一の陸路であり、これ以外では紺碧湾都アズレシアを窓口とする海路か、
飛空船などの空路を用いる、あるいは大断崖を下り上りして峡谷越えをする他ない。
なお峡谷の底は岩すら砕く急流の河となっており、当然渡し舟も存在しない。
現実的な陸路は依然としてアイアントラスのみである。

こうした地理的条件から、アイアントラスは双方の入国管理を行う関所であり、
同時に両国を行き来する商人や旅人が逗留する交易地・宿場町でもある。
橋そのものが巨大な街であり、ほとんどの建物が橋梁の上に建てられている。

広々とした橋を埋めるように目抜き通りが走り、八方いずれにも建物が密集しているため、
街中に立てばここが橋であることを忘れてしまう。
至近の穀倉都市デリンドブルグから来た者は風景のギャップに驚くことだろう。

不安定な橋の上に街を築くなど命知らずにも程がある、と思われがちであるが、
緻密に計算されたトラス構造と良質な建材に支えられた橋桁は非常に頑丈であり、
また各所でひずみを吸収する仕組みとなっているため見た目以上に耐久性が高い。

事実、竣工から100年以上経過した現在でも部品の脱落ひとつなく、
峡谷が生み出す嵐にも風雪にも、なんなら飛竜の襲撃にすら幾度となく耐えてきた。
魔法機関車のレールが敷かれ、毎日重量物がガタゴト通過してなお、その威容は健在である。

フェルゼンの山岳で採れる高純度のミスリルと剛柔備える精霊樹が主な建材。
加えてアルメリアの資金で霊銀結社の技師を雇い、永続的に発動する強化魔法が重ね掛けされている。
国家間の共同作業が実った傑作であり、両国の親交の象徴、文字通りの架け橋と言えるだろう。
結社の試算では向こう千年は基本的なメンテナンスだけで安全性を維持できるとしている。

よほど破壊工作に長けた者でもない限り、橋を揺らがすことすら不可能だろう。
さらに橋のパーツ間には余裕が設けてあり、一部が崩壊しても橋全体への影響を抑制するような工夫が凝らされた設計になっている。

当地の行政はアルメリアとフェルゼンが共同で組織する独自の自治体が取り仕切っている。
法律も税制も異なる二国だが、お互いの権益を尊重しつつ上手く運営しているようだ。
自警団にもそれぞれの国軍から人員を提供しており、二種の鎧姿で街の警備にあたっている。

橋自体人工物で農地も何もないため特産物と言えるものはないが、
交易地なので王国と公国それぞれの特産品を安価に手に入れることができる。
海が遠いため海産物は干物が多いが、補って有り余るほどの肉・野菜・穀物に溢れている。

土産物として有名なのは橋梁の模型(1/1000モデル)。
これは国交の証として自治体が推しているものであり、造形がなかなかに凝っていて人気も高い。
かさばるのが難点だが長旅を経ても腐らないので、贈答品としてキングヒルあたりで喜ばれる。
隔てられた二国を繋いでいることから縁起物でもあり、結婚祝いの贈り物として買い求めに来る客も居る。

名物は「支店を板に吊るしてギリギリ太るカレー」。
交易の恩恵である多様な素材をふんだんに使ったカレーセットであり、非常に美味だが食べ過ぎ禁物。
なぜか店舗が橋桁の外にせり出した板の上にあり、体重が増えると露骨にミシミシ鳴る。
過食を抑制する店主の心遣いと好意的に解釈して、腹八分目で退店しよう。

橋梁の各所にはデリック(揚荷装置。クレーンのようなもの)が備え付けられており、
これを使ってコンテナごと吊られながら峡谷の下に降りることもできる。
谷底の希少植物を採集したり、激流に棲む魚を釣ったり、支柱のメンテをしたりと様々な用途があり、
緊急時には橋の住民たちの避難装置にもなる。

ゲーム上ではシナリオの舞台がアルメリアからフェルゼンへ移る中盤以降に訪れることとなり、
国をまたいだ文化の合流地点として様々なイベントや新たな人物・アイテムに触れる機会となる。
樹冠都市ブラウヴァルトに最も近い中継地点なので、公国内のクエストをこなすなら何度も行き来することになる。

さらに、十二階梯が一人『万物の』ロスタラガムと初めて出会う場所でもあり、
新天地にたどり着いて第一村人に話しかけた途端街中で戦闘が始まって驚いたプレイヤーも多いことだろう。
そのまま全滅してゲームオーバーの画面に唖然とするのももはや通過儀礼である。

万人を阻む大断崖であるが、欄干から見下ろす峡谷の眺めは絶景。
とくに山間から上る朝日や谷底へ沈んでいく夕日は非常に美しく、
アイアントラスをぶらついていると明け方や夕方には欄干にたむろするプレイヤーの姿をよく見かける。

ロマンチックな眺めなのでいわゆるゲーム内恋愛の告白スポットとして用いられることが多く、
男女のアバターが夕方に欄干に居たら十中八九個人チャットで愛を囁いている。
どうせ両国を繋ぐこの橋のように、とかそういうそれっぽいセリフでも垂れているのだろう。
周りをウロチョロするのは野暮もいいとこなので、カレーでも食いながら生暖かく見守ろう。

男同士で欄干に突っ立っているとあらぬ誤解を受けるかもしれない。
誤解じゃないかもしれない。

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最終更新:2020年06月24日 01:24