"江戸でのいざこざ"も、やっかいなモンだった。
江戸での滞在を始めた頃からだ。
『伊達に謀反の動き有り』
と、騒いでいるのは、徳川家の家康本人でもなければお抱えの武将共でもない。
江戸に住まう民草達が、勝手に喚き立っている状態だった。
俺が江戸入りしただけで、ある者は立て篭もり、ある者は逃げ出した。
確かに俺は天下を狙っていた時もあった。
いや、過去形じゃねぇ。今でも転がり込んで来やしねぇかと、隙を狙っている自分はいる。
だが、それとこれとは別で、今はただ、友人として家康を助けてやりたかった。
そんな事も許されない程、俺は形振り構わず戦を繰り返して来たのかと、自分自身が許せなかった。
助けにもなれねぇ、自分自身に怒りを覚えた。
幸村と出逢ったのは、そんな日の夜だったな。
あの時のあいつは、単なる小娘かと思いきや、俺の気迫を物ともせず、真正面から見据えてた。
民はみんな、俺をビビってんのかと思った矢先だったから、あれには恐れ入ったぜ。
幸村…お前となら、身分の上下も男女の仲も関係なく、対等に話が出来るんじゃねぇかと思ったんだがな…
「政宗様、また遠くを見ていらっしゃいます」
小十郎の無粋な声が思考を遮る。
「チッ…物想いに耽る暇さえありゃしねぇな」
仕様がなく、また目の前の書類に筆を走らせる。
「愚痴は政務が終わられてから、ゆっくりお聞き致します」
言いながらまた、次に目を通すべき書類の用意を始めている。
室内に再び沈黙が訪れた。
さらさらと筆の走る小気味良い音。
庭先でさえずる鶫の声。
また今日が嫌味な程天高く晴れ渡っているもんだから、desk workなんて馬鹿馬鹿しくなってくる。
「なぁ、小十郎…」
手を動かしながら、呟くように名を呼んだ。
「はい」
短くも気持ちの良いいらえが返ってくる。
目は、目前の文字を追っていた。
頭は、やっぱりどっかに行っていた。
「…やっぱり身請け金都合できねぇか?」
「仕事を終えてからお考え下され政宗様ぁ!!」
三度目はさすがに怒られた。
江戸での滞在を始めた頃からだ。
『伊達に謀反の動き有り』
と、騒いでいるのは、徳川家の家康本人でもなければお抱えの武将共でもない。
江戸に住まう民草達が、勝手に喚き立っている状態だった。
俺が江戸入りしただけで、ある者は立て篭もり、ある者は逃げ出した。
確かに俺は天下を狙っていた時もあった。
いや、過去形じゃねぇ。今でも転がり込んで来やしねぇかと、隙を狙っている自分はいる。
だが、それとこれとは別で、今はただ、友人として家康を助けてやりたかった。
そんな事も許されない程、俺は形振り構わず戦を繰り返して来たのかと、自分自身が許せなかった。
助けにもなれねぇ、自分自身に怒りを覚えた。
幸村と出逢ったのは、そんな日の夜だったな。
あの時のあいつは、単なる小娘かと思いきや、俺の気迫を物ともせず、真正面から見据えてた。
民はみんな、俺をビビってんのかと思った矢先だったから、あれには恐れ入ったぜ。
幸村…お前となら、身分の上下も男女の仲も関係なく、対等に話が出来るんじゃねぇかと思ったんだがな…
「政宗様、また遠くを見ていらっしゃいます」
小十郎の無粋な声が思考を遮る。
「チッ…物想いに耽る暇さえありゃしねぇな」
仕様がなく、また目の前の書類に筆を走らせる。
「愚痴は政務が終わられてから、ゆっくりお聞き致します」
言いながらまた、次に目を通すべき書類の用意を始めている。
室内に再び沈黙が訪れた。
さらさらと筆の走る小気味良い音。
庭先でさえずる鶫の声。
また今日が嫌味な程天高く晴れ渡っているもんだから、desk workなんて馬鹿馬鹿しくなってくる。
「なぁ、小十郎…」
手を動かしながら、呟くように名を呼んだ。
「はい」
短くも気持ちの良いいらえが返ってくる。
目は、目前の文字を追っていた。
頭は、やっぱりどっかに行っていた。
「…やっぱり身請け金都合できねぇか?」
「仕事を終えてからお考え下され政宗様ぁ!!」
三度目はさすがに怒られた。




