「幸村の人気は、飛ぶ鳥落とす勢いじゃな」
脇息にもたれて姿勢を崩しながら、お館様は楽しそうに豪快に笑った。
「えぇ、ホント。あの子にゃもったいないぐらいで…」
未だ複雑な気持ちの俺と言えば、出てくる笑顔も引きつっちゃっている。
「諦めろ佐助、あれはお前を越えるやもしれぬと言ったであろう」
俺の心中知ってか知らずしてか、お館様は目の前の杯を見つめたまま、慰めの言葉を口に出した。
「失礼します」
不意に戸口外から聞こえたのは、慶次の声だ。
なんで慶次?と怪訝に思っていると、お館様が「うむ」と承諾の声を上げる。
一息間を置いて、スッと開いた障子の先に正座してたのは、久しぶりに見る顔だった。
「お久しぶりです」
きりっとした男前の顔で、そう告げた後、隙のない動作で部屋へ入り、障子戸を閉める。
「いや信州は良いところですね。酒も女も」
このくったくのない笑顔が、敵の少ない理由だ。
「そうじゃろう、そうじゃろう」
地元を褒められて良い気分のお館様が、近くに寄れと動作で慶次を呼び寄せる。
「はっ」と短いいらえの後、慶次は頭を下げてお館様の近くに寄った。
そういや慶次は、正月からこちら、旅に出てるって、誰かが言っていたのを聞いていた。
なんでまた信州?
なんて疑問符を浮かべているうちに、頭を下げたままの姿勢で、慶次が俺に目配せを送る。
内密の話だから席を外せという顔だ。
まぁ、ここで居座るのも無粋ってなもんで。
「お酒が切れそうですね。ちょいと取ってきます」
と言って立ち上がった。
「まぁ、待て佐助。お主にも聞いてもらいたいのじゃ」
立ち去ろうとする俺を、お館様が手招きで呼び止めた。
慶次が、表情だけで「良いのですか?」とお館様に伺っている。
「あぁ、聞いた上で、どうするか決めて欲しい。佐助は幸村の姐女郎じゃからな」
不意に旦那の名を出されて、俺の動きは固まった。
旦那の、何を決めるって?
戸惑いの表情を浮かべてる俺を宥めるように、まぁ座れとお館様が手を動かす。
そしてゆっくりと杯を台の上に戻した。
大切な話をしようとしている時の、お館様の癖だ。
「順を追って話そう」
正面に座る俺達二人を見据えるお館様のその表情は、羽伸ばしに色街へ来ている顔ではなかった。
甲斐の虎、武田信玄の顔を、俺は初めて見た。
脇息にもたれて姿勢を崩しながら、お館様は楽しそうに豪快に笑った。
「えぇ、ホント。あの子にゃもったいないぐらいで…」
未だ複雑な気持ちの俺と言えば、出てくる笑顔も引きつっちゃっている。
「諦めろ佐助、あれはお前を越えるやもしれぬと言ったであろう」
俺の心中知ってか知らずしてか、お館様は目の前の杯を見つめたまま、慰めの言葉を口に出した。
「失礼します」
不意に戸口外から聞こえたのは、慶次の声だ。
なんで慶次?と怪訝に思っていると、お館様が「うむ」と承諾の声を上げる。
一息間を置いて、スッと開いた障子の先に正座してたのは、久しぶりに見る顔だった。
「お久しぶりです」
きりっとした男前の顔で、そう告げた後、隙のない動作で部屋へ入り、障子戸を閉める。
「いや信州は良いところですね。酒も女も」
このくったくのない笑顔が、敵の少ない理由だ。
「そうじゃろう、そうじゃろう」
地元を褒められて良い気分のお館様が、近くに寄れと動作で慶次を呼び寄せる。
「はっ」と短いいらえの後、慶次は頭を下げてお館様の近くに寄った。
そういや慶次は、正月からこちら、旅に出てるって、誰かが言っていたのを聞いていた。
なんでまた信州?
なんて疑問符を浮かべているうちに、頭を下げたままの姿勢で、慶次が俺に目配せを送る。
内密の話だから席を外せという顔だ。
まぁ、ここで居座るのも無粋ってなもんで。
「お酒が切れそうですね。ちょいと取ってきます」
と言って立ち上がった。
「まぁ、待て佐助。お主にも聞いてもらいたいのじゃ」
立ち去ろうとする俺を、お館様が手招きで呼び止めた。
慶次が、表情だけで「良いのですか?」とお館様に伺っている。
「あぁ、聞いた上で、どうするか決めて欲しい。佐助は幸村の姐女郎じゃからな」
不意に旦那の名を出されて、俺の動きは固まった。
旦那の、何を決めるって?
戸惑いの表情を浮かべてる俺を宥めるように、まぁ座れとお館様が手を動かす。
そしてゆっくりと杯を台の上に戻した。
大切な話をしようとしている時の、お館様の癖だ。
「順を追って話そう」
正面に座る俺達二人を見据えるお館様のその表情は、羽伸ばしに色街へ来ている顔ではなかった。
甲斐の虎、武田信玄の顔を、俺は初めて見た。




