「話は…先の大戦へと遡る」
もう何年も前になる、東と西とに分かれた天下分目の決戦だ。
お館様のその目は、古い記憶を探るように、遠くを見つめていた。
「大戦が起こったのは、儂が隠居をし、息子に当主の座を譲り渡してすぐの頃じゃった」
その頃に、お館様は心の臓に大病を患い、仕様がなく隠居をしたという話は、以前に聞いた事があった。
「息子は、大恩ある西軍を見放して、天下取りへと勢いづいていた徳川方へと付いた…それが武田家を二分させたそもそもの原因じゃ」
武士として恩に報いるか、お家存続を重んじるか、二つに一つ。
どっちが正しいとかなんて、一介の女郎の俺には言えないけど、結果、武田家はこうして繁栄を続ける事が出来ている。
「その時、武田家から独立して西軍に付いた家の一つが…真田家じゃ」
真田家の名なら、今の世でも有名だった。
寡兵を持って徳川本陣まで攻め込み、徳川家康を後一歩のところまで追いつめたとされる西軍の英雄だ。
お陰で子孫代々に至るまで、捕まって処刑の憂き目に合ってしまった、悲劇の英雄だ。
って…まさか…
そこまで思い立って慶次の顔を振り返れば、こっちもまた見た事のない真剣な顔。
「えぇ…裏が取れました。幸村は、その真田家の末裔です」
「えぇぇっ!?」
なんつー有名人が自分の妹分になったものか。
世が世なら一国一城のお姫様を、俺達は女郎として育ててたってのか?
悪趣味すぎて、ぜんっぜん笑えない。
あんまりの悪い冗談に、俺の顔は引きつりまくり。
そんな大事のやり取りを、俺に内緒で行ってたっつーお館様と慶次に対して怪訝な顔。
「信州の山女衒は、その当時に、深い傷を負った武士から、一人の男の子…に見える女の子を預かったそうです」
慶次は、慎重に、だけど焦り気味に言葉を告げた。
「その武士が、真田家の重臣だったようです。当時"真田家の次男と共に処刑された男"と同一人物でした」
「処刑された次男は、替え玉であったか…」
深い痛みを掘り起こす様に、お館様は苦々しい顔をした。
「齢を重ねるごとに、昌幸に…あれの父親に似てくる幸村に、『よもや』とは思っていた…」
部屋に暫し重苦しい沈黙が流れた。
「まさか女児であったとは、誰も思わなかったという訳か。それを読んで、その男は敢えて女衒に幸村を託したと…」
あの子が男児の格好をして、この廓にやって来た事を、疑問に思ったあの日を思い出す。
まさかとは思うけど、旦那の親父さんは、その日を予感していたのだろうか。
どっちにしたって、真意は闇に葬られてしまったけれども、結果旦那は生き残れた訳か。
あまりにも悲愴なその人生に、不覚にも憐みさえ覚えてしまった。
同情とか、そんな感じだよ。
別に目頭が熱くなったりとかしていないよ。
それでもあの子が生きていて良かった、なんて思ってないよ。
もう何年も前になる、東と西とに分かれた天下分目の決戦だ。
お館様のその目は、古い記憶を探るように、遠くを見つめていた。
「大戦が起こったのは、儂が隠居をし、息子に当主の座を譲り渡してすぐの頃じゃった」
その頃に、お館様は心の臓に大病を患い、仕様がなく隠居をしたという話は、以前に聞いた事があった。
「息子は、大恩ある西軍を見放して、天下取りへと勢いづいていた徳川方へと付いた…それが武田家を二分させたそもそもの原因じゃ」
武士として恩に報いるか、お家存続を重んじるか、二つに一つ。
どっちが正しいとかなんて、一介の女郎の俺には言えないけど、結果、武田家はこうして繁栄を続ける事が出来ている。
「その時、武田家から独立して西軍に付いた家の一つが…真田家じゃ」
真田家の名なら、今の世でも有名だった。
寡兵を持って徳川本陣まで攻め込み、徳川家康を後一歩のところまで追いつめたとされる西軍の英雄だ。
お陰で子孫代々に至るまで、捕まって処刑の憂き目に合ってしまった、悲劇の英雄だ。
って…まさか…
そこまで思い立って慶次の顔を振り返れば、こっちもまた見た事のない真剣な顔。
「えぇ…裏が取れました。幸村は、その真田家の末裔です」
「えぇぇっ!?」
なんつー有名人が自分の妹分になったものか。
世が世なら一国一城のお姫様を、俺達は女郎として育ててたってのか?
悪趣味すぎて、ぜんっぜん笑えない。
あんまりの悪い冗談に、俺の顔は引きつりまくり。
そんな大事のやり取りを、俺に内緒で行ってたっつーお館様と慶次に対して怪訝な顔。
「信州の山女衒は、その当時に、深い傷を負った武士から、一人の男の子…に見える女の子を預かったそうです」
慶次は、慎重に、だけど焦り気味に言葉を告げた。
「その武士が、真田家の重臣だったようです。当時"真田家の次男と共に処刑された男"と同一人物でした」
「処刑された次男は、替え玉であったか…」
深い痛みを掘り起こす様に、お館様は苦々しい顔をした。
「齢を重ねるごとに、昌幸に…あれの父親に似てくる幸村に、『よもや』とは思っていた…」
部屋に暫し重苦しい沈黙が流れた。
「まさか女児であったとは、誰も思わなかったという訳か。それを読んで、その男は敢えて女衒に幸村を託したと…」
あの子が男児の格好をして、この廓にやって来た事を、疑問に思ったあの日を思い出す。
まさかとは思うけど、旦那の親父さんは、その日を予感していたのだろうか。
どっちにしたって、真意は闇に葬られてしまったけれども、結果旦那は生き残れた訳か。
あまりにも悲愴なその人生に、不覚にも憐みさえ覚えてしまった。
同情とか、そんな感じだよ。
別に目頭が熱くなったりとかしていないよ。
それでもあの子が生きていて良かった、なんて思ってないよ。




