「あやつを、家臣に取り立てたいと言うた日を覚えておるか、佐助」
えぇ、もちろん。意外すぎるそんな突飛な話を、忘れた事などありませんとも。
沈黙を肯定と読み取って、お館様は言葉を続けた。
「儂は…昌幸に似る幸村を取り立てる事で、"裏切らせてしまった"真田家に報いたかった。…単なる自己満足にしか過ぎぬのだがな」
その表情を見れば、どれだけお館様が真田家を重く用いていたかが容易に伺えた。
「幸村が…昌幸の子、本人でなければ、な」
「えっ!?だって…今更だけども真田家の末裔である旦那を取り立てたいっていうお話じゃないの?…っと」
興奮気味に捲くし立ててしまった声を、廊下を通る人の気配を感じて潜める。
そのまま足音が遠ざかっていくのを確認してから、今度は声を抑えてまた同じ事を繰り返し聞いた。
「どうして、本人だと駄目なんです?」
そう問えば、目を閉じたままのお館様の眉間の皺は、益々深くなった。
「真田家を処刑、追放したのが…武田家だからじゃ」
苦しげに、吐き捨てる様な言い方だった。
少し考えれば分かりそうなもんだった。
自分んとこの下っ端が、東軍裏切って西に付いちゃったのを黙って見てれば、「お前も裏切り者だろ」なんて言われ兼ねない。
それを払拭するには、率先して裏切り者を差し出すしかないよね。
忠義に厚い直情型のお館様と違って、とてもとても聡くいらっしゃるお館様のお子様は、それを実行に移したって事ね。
俺様も人の事とやかく言える性格じゃないけどさ…反吐が出そう。
「そこでお前に問う、佐助」
急にお館様が俺に目線をくれたものだから、俺もかしこまったりしてしまった。
「慶次でも少し調べれば分かったような事よ…いつ…いや、今すぐにでも真田家の末裔討ち取るべしと、武田家が乗り込んで来てもおかしくはない」
その情景が脳内を掠めて、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「見つからないであろう可能性に賭け、この廓で守り通すか、それとも、儂の目の届く内にて守り通させるか、お主が決めろ」
嫌な二択だった。
この廓で預かるとして、もし見つかってしまったら?
事情も知らないこの鷹波屋が、どれだけの被害を被るか。
ご隠居様であるとは言え、未だ根強い支持者の多く住む、お館様のお屋敷であれば、安全ではあるのだろう。
だけど…こんな事考えたくもないけど…それだって、お館様の目の黒い内だけでしょ?
それなら俺は…
「俺が守りたい」
いやそんな、慶次達首代みたいな武芸の嗜みも何もない俺様だけど、あの子の、心も、存在も、全部ひっくるめて守りたいって言うか…アレ、なんか、俺オカンみたいじゃね?
えぇ、もちろん。意外すぎるそんな突飛な話を、忘れた事などありませんとも。
沈黙を肯定と読み取って、お館様は言葉を続けた。
「儂は…昌幸に似る幸村を取り立てる事で、"裏切らせてしまった"真田家に報いたかった。…単なる自己満足にしか過ぎぬのだがな」
その表情を見れば、どれだけお館様が真田家を重く用いていたかが容易に伺えた。
「幸村が…昌幸の子、本人でなければ、な」
「えっ!?だって…今更だけども真田家の末裔である旦那を取り立てたいっていうお話じゃないの?…っと」
興奮気味に捲くし立ててしまった声を、廊下を通る人の気配を感じて潜める。
そのまま足音が遠ざかっていくのを確認してから、今度は声を抑えてまた同じ事を繰り返し聞いた。
「どうして、本人だと駄目なんです?」
そう問えば、目を閉じたままのお館様の眉間の皺は、益々深くなった。
「真田家を処刑、追放したのが…武田家だからじゃ」
苦しげに、吐き捨てる様な言い方だった。
少し考えれば分かりそうなもんだった。
自分んとこの下っ端が、東軍裏切って西に付いちゃったのを黙って見てれば、「お前も裏切り者だろ」なんて言われ兼ねない。
それを払拭するには、率先して裏切り者を差し出すしかないよね。
忠義に厚い直情型のお館様と違って、とてもとても聡くいらっしゃるお館様のお子様は、それを実行に移したって事ね。
俺様も人の事とやかく言える性格じゃないけどさ…反吐が出そう。
「そこでお前に問う、佐助」
急にお館様が俺に目線をくれたものだから、俺もかしこまったりしてしまった。
「慶次でも少し調べれば分かったような事よ…いつ…いや、今すぐにでも真田家の末裔討ち取るべしと、武田家が乗り込んで来てもおかしくはない」
その情景が脳内を掠めて、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「見つからないであろう可能性に賭け、この廓で守り通すか、それとも、儂の目の届く内にて守り通させるか、お主が決めろ」
嫌な二択だった。
この廓で預かるとして、もし見つかってしまったら?
事情も知らないこの鷹波屋が、どれだけの被害を被るか。
ご隠居様であるとは言え、未だ根強い支持者の多く住む、お館様のお屋敷であれば、安全ではあるのだろう。
だけど…こんな事考えたくもないけど…それだって、お館様の目の黒い内だけでしょ?
それなら俺は…
「俺が守りたい」
いやそんな、慶次達首代みたいな武芸の嗜みも何もない俺様だけど、あの子の、心も、存在も、全部ひっくるめて守りたいって言うか…アレ、なんか、俺オカンみたいじゃね?




