お館様は、伏せた瞼をほんの少しだけ震わせて、それを承諾した。
また暫し沈黙する。
近くからか遠くからか、女郎の謡う民謡が流れてくる。
この部屋の空気からは程遠い宴もたけなわな笑い声も耳に届く。
外界の気配を覚えて、少しだけ、今、旦那がどうしているのか思いを馳せてしまった。
いつもなら、嫌でも考えないようにしてるんだけど。
とりあえず、謡ってはいないようだ。あの怒号なら一発で分かる。
あんな馬鹿正直なくらい真っ直ぐな子、なんとしても幸せになって欲しいんだよね、ひねくれまくった人生送ってる自分としては。
「一つだけ嫌な予感がするんだけど…」
沈黙を破ったのは俺だった。
慶次とお館様が、同時にゆっくりとこちらを振り向く。
「慶次はその、情報源をどうした?」
「えっ?」
自分に矛先が向くとは思っていなかった慶次が、素っ頓狂な声を上げた。
「情報源って…山女衒の事か?そいつなら、ちゃんと口止め料を握らせて、ついでに京の職を紹介して信州を追っ払ったけど…」
ちょっと脅すみたいになっちまったけどね、と慶次は最後に付け足した。
「そうか…」
沈痛な相槌を打ったのは、お館様だった。
「あれ…?なんか…駄目、だった?もしかして」
事態の重さを計ってか計らずしてか、慶次が軽快な口調で俺達の顔色を伺う。
「死人に口無しってね…俺だったら殺っちまうね、ソイツ」
表情一つ変えずにそれを口に出した俺を、軽蔑でもしたか、慶次はさっと顔色を変えて俺を見つめた。
「よせ、佐助。ただの廓の首代に、そこまでの仕事はさせられぬ」
そりゃそうでしょうけどね、お館様お抱えの忍びだったら、間違いなく口封じてただろうと思うと、ね。
「その"情報"が金になると知ったら…次にそいつはどうすると思う?」
これが只の杞憂で済めば良いのだけれども。
人間てのは欲深いもんで、ましてや山女衒なんて職を云年も続けてる様な奴は特にね。
そいつは、他の人間にも"情報"を売ろうとするだろう。
他の人間なんて、そんなにいやしない。
真っ先に思いつくのは、
「幸村を追っていた…武田軍に情報を売る…」
初めてそこまで思い立った様な慶次の顔からは、いつもの余裕の笑みも消え去っていた。
また暫し沈黙する。
近くからか遠くからか、女郎の謡う民謡が流れてくる。
この部屋の空気からは程遠い宴もたけなわな笑い声も耳に届く。
外界の気配を覚えて、少しだけ、今、旦那がどうしているのか思いを馳せてしまった。
いつもなら、嫌でも考えないようにしてるんだけど。
とりあえず、謡ってはいないようだ。あの怒号なら一発で分かる。
あんな馬鹿正直なくらい真っ直ぐな子、なんとしても幸せになって欲しいんだよね、ひねくれまくった人生送ってる自分としては。
「一つだけ嫌な予感がするんだけど…」
沈黙を破ったのは俺だった。
慶次とお館様が、同時にゆっくりとこちらを振り向く。
「慶次はその、情報源をどうした?」
「えっ?」
自分に矛先が向くとは思っていなかった慶次が、素っ頓狂な声を上げた。
「情報源って…山女衒の事か?そいつなら、ちゃんと口止め料を握らせて、ついでに京の職を紹介して信州を追っ払ったけど…」
ちょっと脅すみたいになっちまったけどね、と慶次は最後に付け足した。
「そうか…」
沈痛な相槌を打ったのは、お館様だった。
「あれ…?なんか…駄目、だった?もしかして」
事態の重さを計ってか計らずしてか、慶次が軽快な口調で俺達の顔色を伺う。
「死人に口無しってね…俺だったら殺っちまうね、ソイツ」
表情一つ変えずにそれを口に出した俺を、軽蔑でもしたか、慶次はさっと顔色を変えて俺を見つめた。
「よせ、佐助。ただの廓の首代に、そこまでの仕事はさせられぬ」
そりゃそうでしょうけどね、お館様お抱えの忍びだったら、間違いなく口封じてただろうと思うと、ね。
「その"情報"が金になると知ったら…次にそいつはどうすると思う?」
これが只の杞憂で済めば良いのだけれども。
人間てのは欲深いもんで、ましてや山女衒なんて職を云年も続けてる様な奴は特にね。
そいつは、他の人間にも"情報"を売ろうとするだろう。
他の人間なんて、そんなにいやしない。
真っ先に思いつくのは、
「幸村を追っていた…武田軍に情報を売る…」
初めてそこまで思い立った様な慶次の顔からは、いつもの余裕の笑みも消え去っていた。




