不意に、しん、と周囲が静まり返った。
そう、この部屋だけじゃない。
さっきまで、あちらこちらから上がっていた様々な音が、消えている。
異常を感じて俺は、窓に駆け寄り障子を開けた。
「ちっ…!」
思わず舌打ちを漏らしてしまったのは、"それ"が予想を遥かに超えた情景だったからだ。
廓の表通りに立ち並ぶ面々は、正に武田の赤備え。
あちらの楼もこちらの楼も、その異様な景色にどよめき、不安を訴えた顔をして通りを覗き込んでいる。
松明の数からしても、ざっと百…いや、二百?
そんだけ討伐に躍起になってるって事かい、ご苦労なこって!
そりゃ家康本人を窮地に立たせた、西軍の英雄様ご子息とあらば、放っておく訳にはいかないだろうさ。いや、ご息女様だけど。
「あんの…痴れ者共がっ!!!」
その立ち並ぶ隊列に激昂したお館様は、止める間もなく憤怒の形相で階下へと駆け下りていった。
一瞬の判断に迷った後、見れば慶次は既に旦那の部屋の方へと走り出している。
さっすがーこんな時こそ頼りになる!なんて思ってる場合じゃない。
旦那の方は慶次に任せ、俺はお館様の様子を見に後を追った。
そう、この部屋だけじゃない。
さっきまで、あちらこちらから上がっていた様々な音が、消えている。
異常を感じて俺は、窓に駆け寄り障子を開けた。
「ちっ…!」
思わず舌打ちを漏らしてしまったのは、"それ"が予想を遥かに超えた情景だったからだ。
廓の表通りに立ち並ぶ面々は、正に武田の赤備え。
あちらの楼もこちらの楼も、その異様な景色にどよめき、不安を訴えた顔をして通りを覗き込んでいる。
松明の数からしても、ざっと百…いや、二百?
そんだけ討伐に躍起になってるって事かい、ご苦労なこって!
そりゃ家康本人を窮地に立たせた、西軍の英雄様ご子息とあらば、放っておく訳にはいかないだろうさ。いや、ご息女様だけど。
「あんの…痴れ者共がっ!!!」
その立ち並ぶ隊列に激昂したお館様は、止める間もなく憤怒の形相で階下へと駆け下りていった。
一瞬の判断に迷った後、見れば慶次は既に旦那の部屋の方へと走り出している。
さっすがーこんな時こそ頼りになる!なんて思ってる場合じゃない。
旦那の方は慶次に任せ、俺はお館様の様子を見に後を追った。
「隠し立てすると為にならぬぞ!」
「だから、んな奴ぁ知らねぇっつってんだろうが!!」
既に玄関先では、武田衆を引き連れてきた侍大将と、うちの楼主元親様が、一触即発で睨み合っていた。
さすが元親!ヤクザなメンチは相手に決して引けを取ってないぞ!
「えぇい、埒が明かぬわ!者共!踏み込んで引き摺りだせ!!」
その侍大将の号令と共に、通りに立ち並ぶ赤備えの面々が、我先にと乗り込んでくる。
「何をやっておるかぁッッ!!」
それと同時に、ビリビリと空間を震わす程の怒号を上げたのはお館様だ。
他を圧倒する覇気が、この通り一帯の空間を支配する。
ある者は蛇に睨まれた蛙の如く立ち竦み、ある者は気圧され尻餅をついた。
「武装した多勢を連れて攻め入るとは何事じゃ!戦場ではない、ここは廓だぞ!!」
号令を出したその侍大将の胸倉締め上げて、お館様は火が付かんばかりに怒鳴り上げた。
「恐れながら…これは現当主勝頼様のご命令ですので…」
後ろ盾の付いている自信なのか、そいつは締め上げられているにも関わらず、意外と冷静に、だが冷や汗を掻きながら、下っ端らしい薄ら笑いを浮かべた。
「何をしているか!早く行け!!」
宙に浮いたままのそいつが、背後で及び腰になっている兵達を叱咤する。と、止まり掛けていた勢いが、また盛り返されてしまった。
止めるまもなく、次々と、洪水の如く足軽達が鷹波屋へと雪崩れ込んで行く。
怒声、悲鳴、破壊音。土足で踏み躙られ汚されていく廊下。逃げ惑う客と女郎。
これが、情緒と粋を重んじる、廓の姿だってのかい?
「うぐぅ…!!!」
お館様の怒りは、既に言葉に表す事のできない程に頂点に達していた。
額には血管が浮き立ち、鬼の様な形相は、真っ赤に染め上がっている。
締め上げられている侍大将は、既に粋も絶え絶え、真っ青に染め上がっている。
あーヤバい、殺っちまわないかな。こっちにもあっちにも、死人が出るのだけはゴメンだぞー
「今すぐに兵を引け!さもないと…!!」
手を上げんばかりのお館様を、俺が止めに入ろうとしたその時だった。
「え…?」
宥める為に触れようとしたその肩が、手を擦り抜けた。
何が起こったのか分からない。
ただ、お館様は、俺の目の前で、ゆっくりとゆっくりと、傾いていった。
「だから、んな奴ぁ知らねぇっつってんだろうが!!」
既に玄関先では、武田衆を引き連れてきた侍大将と、うちの楼主元親様が、一触即発で睨み合っていた。
さすが元親!ヤクザなメンチは相手に決して引けを取ってないぞ!
「えぇい、埒が明かぬわ!者共!踏み込んで引き摺りだせ!!」
その侍大将の号令と共に、通りに立ち並ぶ赤備えの面々が、我先にと乗り込んでくる。
「何をやっておるかぁッッ!!」
それと同時に、ビリビリと空間を震わす程の怒号を上げたのはお館様だ。
他を圧倒する覇気が、この通り一帯の空間を支配する。
ある者は蛇に睨まれた蛙の如く立ち竦み、ある者は気圧され尻餅をついた。
「武装した多勢を連れて攻め入るとは何事じゃ!戦場ではない、ここは廓だぞ!!」
号令を出したその侍大将の胸倉締め上げて、お館様は火が付かんばかりに怒鳴り上げた。
「恐れながら…これは現当主勝頼様のご命令ですので…」
後ろ盾の付いている自信なのか、そいつは締め上げられているにも関わらず、意外と冷静に、だが冷や汗を掻きながら、下っ端らしい薄ら笑いを浮かべた。
「何をしているか!早く行け!!」
宙に浮いたままのそいつが、背後で及び腰になっている兵達を叱咤する。と、止まり掛けていた勢いが、また盛り返されてしまった。
止めるまもなく、次々と、洪水の如く足軽達が鷹波屋へと雪崩れ込んで行く。
怒声、悲鳴、破壊音。土足で踏み躙られ汚されていく廊下。逃げ惑う客と女郎。
これが、情緒と粋を重んじる、廓の姿だってのかい?
「うぐぅ…!!!」
お館様の怒りは、既に言葉に表す事のできない程に頂点に達していた。
額には血管が浮き立ち、鬼の様な形相は、真っ赤に染め上がっている。
締め上げられている侍大将は、既に粋も絶え絶え、真っ青に染め上がっている。
あーヤバい、殺っちまわないかな。こっちにもあっちにも、死人が出るのだけはゴメンだぞー
「今すぐに兵を引け!さもないと…!!」
手を上げんばかりのお館様を、俺が止めに入ろうとしたその時だった。
「え…?」
宥める為に触れようとしたその肩が、手を擦り抜けた。
何が起こったのか分からない。
ただ、お館様は、俺の目の前で、ゆっくりとゆっくりと、傾いていった。




