「…まつ」
まつ、わかっているんだ。
わかっていたんだ。
まつの、それがしに対する「好き」は、
それがしのまつへの「好き」と、全然違うことを。
それがしのまつへの「好き」と、全然違うことを。
まつは、きっと、それがしのような「好き」という気持ちをまだ知らない。
まつの「好き」は、
こんぺいとうも、屋敷にやってくる野良猫も、気に入りの萌黄色の着物も、
ふわふわ散る桜の花びらも、それがしも、全部同じ。
それがしがまつに思う、大人の、もっと汚くて、悲しい、切ない「好き」ではない。
屈託のないいつものまつの笑みと、今自分に向けられている苦しげな表情を思い、
犬千代は胸が締め付けられた。
こんぺいとうも、屋敷にやってくる野良猫も、気に入りの萌黄色の着物も、
ふわふわ散る桜の花びらも、それがしも、全部同じ。
それがしがまつに思う、大人の、もっと汚くて、悲しい、切ない「好き」ではない。
屈託のないいつものまつの笑みと、今自分に向けられている苦しげな表情を思い、
犬千代は胸が締め付けられた。
それがしのために、まつは、無理をしている。
「まつ、もう、終いだ」
「な…ぜに、ござり…まするか?」
息も絶え絶えにまつが問うた。
「それがしは、まつが好きだから―…無理はさせたくない。今は、こうさせてくれ」
「な…ぜに、ござり…まするか?」
息も絶え絶えにまつが問うた。
「それがしは、まつが好きだから―…無理はさせたくない。今は、こうさせてくれ」
まつを抱きしめると、先ほどの甘い香りが汗の匂いに混じって鼻先に広がる。
ほんの数十分前の記憶だというのに、
ひどく昔の記憶のような、懐かしい気がして、涙が出そうになった。
ひと呼吸置いて、その香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
ほんの数十分前の記憶だというのに、
ひどく昔の記憶のような、懐かしい気がして、涙が出そうになった。
ひと呼吸置いて、その香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「いぬちよさま?」
「―すまなかった」
「―すまなかった」
でも、ひとつだけ、思うのだ。
無理して背伸びをしていても、まつの、それがしを好きと思う気持ちは嘘ではない。
今はまだ小さな「好き」かもしれぬが、きっといつかそれがしに追いつく。
それから、本当の夫婦になろう。
ゆっくりでいい。まつの気持ちが追いつくまで、
無理して背伸びをしていても、まつの、それがしを好きと思う気持ちは嘘ではない。
今はまだ小さな「好き」かもしれぬが、きっといつかそれがしに追いつく。
それから、本当の夫婦になろう。
ゆっくりでいい。まつの気持ちが追いつくまで、
それがしは、ずっと、待っている。




